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2022年5月 8日 (日)

左派リフレ派(松尾匡立命館大学教授)の「円安日本経済論・円安対策経済政策論」批判=「市場原理主義アホダラ教」政策と、対症療法的な一過性バラマキ政策はやめて、充実した内容の個別政策を集大成した経済体制変革論へ

前略,田中一郎です。
(別添PDFファイルは一部添付できませんでした)


(最初に若干のことです)
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1.(お詫び)昨日のメールに一部サイトを追加しました。
 下記のサイト2つを、昨日お送りした私のメール・ブログに追加いたしました。漏れておりましたことを伏してお詫び申し上げます。

◆(メール転送です)「原子力災害対策指針」(防災業務関係者の放射線防護対策等)パブコメ提出意見(元原子力規制庁技術参与・松田文夫さん)と私の補足見解 & 福島原発刑事訴訟支援団からのお願い- いちろうちゃんのブログ
 http://tyobotyobosiminn.cocolog-nifty.com/blog/2022/05/post-48a1ea.html

(松田文夫さまの転送メールのすぐ後のところに下記の2つのサイトを入れました:ブログは修正後)

(関連)第1回原子力規制委員会|原子力規制委員会(上記は下記の資料1の中にあります=松田文夫氏の意見は、その中の「5.」です)
 https://www.nsr.go.jp/disclosure/committee/kisei/010000722.html

(関連)原子力規制委員会|原子力規制委員会
 https://www.nsr.go.jp/disclosure/committee/kisei/index.html


2.(バイオテクノロジー連続講座:その3)(予約必要)(5.21)オルタナティブな日本をめざして(第75回):「化学物質とエピジェネティクス」(渋谷徹さん:新ちょぼゼミ)(2022年5月21日)- いちろうちゃんのブログ(最初の1時間で主催者よりプレゼンを予定しています:テーマは「放射線被曝の基本的な解説(その3)」)
 http://tyobotyobosiminn.cocolog-nifty.com/blog/2022/03/post-2318ba.html

(予約の受付窓口)
*たんぽぽ舎(水道橋):TEL 03-3238-9035 FAX 03-3238-0797
 https://www.tanpoposya.com/%E3%82%A2%E3%82%AF%E3%82%BB%E3%82%B9/
(上記にお電話していただき「受付番号」をもらってください)

(エピジェネティクスは現代の生物学では最先端の研究分野の1つです。生命の基本的メカニズムや有害物質についての理解、あるいはガン研究などの医学・医療の分野や放射線被曝の健康影響などについての研究を深めるためには、必要不可欠な基礎知識となっています。放射線ムラの被ばく論では、DNAの放射線による切断で、DNAには2本鎖と修復機能があるから大丈夫、などという今から何十年も前の、レベルの低い素人だましのような議論がなされていますが、今日の生物学の研究水準から見ると、そんなレベルの話ではまともに相手にされません。放射線被曝がエピジェネティクスにどういう影響を与えているか、これが大きなポイントの一つです。また、遺伝子操作技術を使うゲノム編集(CRISPR-Cas9)やコロナワクチン開発でも、エピジェネティクスへの影響が懸念されています。

ことほどさように、今回の講演会のテーマであるエピジェネティクスは、様々な生命の営みの基礎にある重要な生理学的な現象ですが、一般には講演などでそのメカニズムが紹介・説明されることは少なく、私たち一般市民は、とっつきにくい分野として日常的に接することも少ない現状にあります。今回は、この分子生物学の最先端分野であるエピジェネティクスの専門家=澁谷徹さんに、もっぱら化学物質との関係から、一般市民にもわかりやすくご説明いただける講演会を企画しました。わざわざ遠方より、ご厚意で来ていただけることになりましたので、この機会を逃さず、みなさまのふるってのご参加をお待ちしています。:田中一郎)


3.イベント情報
(1)(チラシ)(明日5.9)政治家をSNSで揶揄したら逮捕される?! 知っていますか?「侮辱罪の法定刑引き上げ」法案(山下幸夫弁護士)
 https://drive.google.com/file/d/1n0lEKUfGnSnSD4tecgIrrwF9kmjkVhxn/view?usp=sharing

(2)(チラシ)(5.11)函館市大間原発建設差止裁判 第27回公判(東京地裁)
 https://drive.google.com/file/d/1s1ezRpMoPornuvVliYWNOz6CFKS0Riqn/view?usp=sharing

(3)(6.27)砂川事件裁判国家賠償請求訴訟 第8回公判(伊達判決を活かす会 NEWS)
 https://drive.google.com/file/d/1fHuf6CXht8bRRJMvZi09uzgw5RdEsaac/view?usp=sharing

(関連)(社説)侮辱罪厳罰化 慎重な審議を求める:朝日新聞デジタル
 https://www.asahi.com/articles/DA3S15287982.html?ref=mor_mail_editorial


4.新刊書紹介
(1)財政赤字の神話 MMT入門-ステファニー・ケルトン/著 土方奈美/訳(ハヤカワ文庫)
https://www.e-hon.ne.jp/bec/SA/Detail?refShinCode=0100000000000034324023&Action_id=121&Sza_id=B0

(2)緑風出版│リベラリズムはどこへ行ったか(纐纈厚[著])
 http://www.ryokufu.com/isbn978-4-8461-2204-1n.html


5.くだらな~い政治の話、されど政治(おなじアホなら変えなきゃ損損)
(1)核報復手順、米と協議を 安倍氏(時事通信) - Yahoo!ニュース( ただいま頭が腐ってる最中:田中一郎)
 https://news.yahoo.co.jp/articles/be0e762d0be442aed5f908573dc02b5b90fdbe94
(2)安倍氏元秘書「違法寄付」との指摘恐れる 特捜部への供述が明らかに(朝日新聞デジタル) - Yahoo!ニュース( 根性も腐ってます:田中一郎)
 https://news.yahoo.co.jp/articles/1c636706440751100ee2f2abfe0d486a560ca47d
(3)岸田内閣の支持率は2ヶ月連続で上昇、立憲・維新は支持率低下 2022年4月世論調査まとめ | 日本最大の選挙・政治情報サイトの選挙ドットコム
 https://go2senkyo.com/articles/2022/05/04/67852.html
(4)「熟慮の末出馬しないことを決定」4月に参院選(福島選挙区)出馬を表明していた増子輝彦氏(テレビユー福島) - Yahoo!ニュース
 https://news.yahoo.co.jp/articles/220292fc4b670e7820186044717ddfb69015dcee
(5)「最低でも県外」撤回、「鳩山さん責める話ではない」元名護市長が嘆く構図<沖縄は復帰したのか~50年の現在地>:東京新聞 TOKYO Web
 https://www.tokyo-np.co.jp/article/175823
(6)岸田首相「資産所得倍増計画」は“空振り”確定 個人金融資産2000兆円狙う魂胆にも批判殺到|日刊ゲンダイDIGITAL
 https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/money/304840


6.その他
(1)カジノ含むIR 国内客頼みの日本 先進地シンガポールは自国民3割:朝日新聞デジタル
 https://www.asahi.com/articles/ASQ556R5BQ4WULFA015.html?ref=keizai_mail_top
(2)ダイオキシン含む除草剤、全国の山林46か所に埋設のまま…水源近くの例も(読売新聞オンライン) - Yahoo!ニュース
 https://news.yahoo.co.jp/articles/e872cc6601a36e2410a29bcf9800e24e651fedd0
(3)ロシアショックで「木材が届かない…」 福岡の木材事情に異変 輸入から国産へ 日本の林業復活に期待も(TNCテレビ西日本) - Yahoo!ニュース
 https://news.yahoo.co.jp/articles/720b465f93c0d82e1f3aeea400a88231ee445593
(4)知床・沈没事故は他でも起き得る…検査態勢ユルユルなのに“激怒”した斉藤国交相の赤っ恥|日刊ゲンダイDIGITAL
 https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/life/304798
(5)日大事件で注目…田中前理事長の妻経営「ちゃんこ料理 たなか」で堪能できるイカリングの味|日刊ゲンダイDIGITAL
 https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/life/304716

◆日刊IWJガイド・日曜版「西側メディアはロシアが宇軍の犯罪を示した『アリア式非公式会合』触れず。『IWJだけが頼りです』岩上安身が会員様のお声に返信を書きました」2022.5.8号~No.3524 - What's New お知らせ
 https://iwj.co.jp/info/whatsnew/guide/50745

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左派リフレ派のリーダー格の論客=松尾匡立命館大学教授(以下、失礼して松尾さん)から、あるMLに下記のレポートが送られてきました。下記はこれを巡っての議論です。ご多忙中にもかかわらず、私の提起した議論にコメントをくださった松尾匡立命館大学教授には改めて感謝申し上げます。以下、辛口ですが、やりとりを転記します。なお、最近の経済報道については若干のものを選んで列記しておきますので、適宜ご参照いただければ幸いです( たいしたことのない記事ばかりですのであしからず)。

 

◆円高政策は解決ではない|松尾 匡|note
 https://note.com/matsuo_tadasu/n/n68e059fbf2a6
 https://note.com/matsuo_tadasu/n/n68e059fbf2a6

 

 <最近の経済関連サイト>
(1)円安加速、1ドル131円台 日銀は2022年度の物価見通しを大幅引き上げも、低金利の方針を明確化:東京新聞 TOKYO Web
 https://tinyurl.com/3t95psj6 
(2)「日経平均は見た目以上に下落している」円安もインフレも放置し続ける-岸田政権の大失策-(プレジデントオンライン) - Yahoo!ニュース
 https://news.yahoo.co.jp/articles/f3291a95fff54978f870e5fe6a782368edb6bb20
(3)20年ぶり円安「悪循環」の危険、日銀はいますぐ長期金利上昇を容認すべきだ - 野口悠紀雄 新しい経済成長の経路を探る - ダイヤモンド・オンライン
 https://diamond.jp/articles/-/302438
(4)「円安はマイナス」発言も下落が止まらない円相場。その理由は、日銀の矛盾した円安誘導政策にある。続けば国力は一層低下し、取り返しのつかないことに|「勝者のゲーム」と資産運用入門|ザイ・オンライン
 https://diamond.jp/zai/articles/-/1000857
(5)FRB、22年ぶり0.5%利上げ「量的引き締め」も決定- 日本経済新聞 https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGN033UA0T00C22A5000000/?n_cid=NMAIL007_20220505_A
(6)米長期金利上昇、3年半ぶり3%台 FRBの引き締め警戒- 日本経済新聞 https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGN02ATP0S2A500C2000000/?n_cid=NMAIL007_20220503_A
(7)NYダウ一時1300ドル安 金融引き締め「軟着陸」に不安- 日本経済新聞 https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGN053ZL0V00C22A5000000/?n_cid=NMAIL007_20220506_A
(8)日本の経常収支「赤字定着」の危機、円安スパイラル阻止は政治の最重要課題 - 野口悠紀雄 新しい経済成長の経路を探る - ダイヤモンド・オンライン https://diamond.jp/articles/-/302587?utm_source=daily_dol&utm_medium=email&utm_campaign=2022gw
(9)「2人の食費が1日300円…人生で一番苦しい」コロナ第6波がひとり親世帯を直撃 平均月収13万円余に:東京新聞 TOKYO Web
 https://www.tokyo-np.co.jp/article/175643
(10)インフレのしわ寄せは弱者に 社会保障増やせず進退きわまる日本:朝日新聞デジタル
 https://www.asahi.com/articles/ASQ4X6HNNQ4XUTFL01T.html?ref=mor_mail_topix3_6


Ⅰ.最初に(グーグルの言論妨害)

 松尾匡立命館大学教授の上記サイト「円高政策は解決ではない|松尾 匡|note」の一番最初のページの一番最初(上段)に下記の記載があります。
 https://note.com/matsuo_tadasu/n/n68e059fbf2a6

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「ロシア」「ウクライナ」に関係する内容の可能性がある記事です。極端な内容・真偽不明の情報でないかご注意ください。ひとつの情報だけで判断せずに、さまざまな媒体のさまざまな情報とあわせて総合的に判断することをおすすめします。また、この危機に直面した人々をサポートするために、支援団体へのリンクを以下に設置します。※非常時のため、すべての関連記事に注意書きを一時的に表示しています。
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明らかに言論妨害行為です。こんな注書きを勝手に著者に断りもなく入れるのだったら、他の全てのサイト=特にアメリカ大本営発表と自公政権忖度報道を繰り返す日本のマスごみサイトにも入れるべきでしょう。グーグル(及びユーチューブなど)やFACEBOOK、あるいはツウィッターなどのGAFAM(巨大プラットフォーマー)たちは、すでにウクライナ戦争のみならず、「新型コロナ」やコロナワクチン、あるいは人工排出二酸化炭素による地球温暖化論などなど、多くの現代世界の焦眉の問題について、言論統制を図るべく、さまざまなかたちの言論・表現の妨害活動を強めています。中には言論・表現を勝手にネット上のサイトから削除したり、発信者のアカウントを簡単にクローズしたりもしています。これではそのうちに言論・表現の自由や社会運動・政治運動の自由はつぶされてしまいます。ロシアや中共中国の言論・表現の自由の弾圧と同じ結果になってしまいます。

日本のネットユーザーや市民運動・社会運動は、この問題についての関心が低すぎます。GAFAM(巨大プラットフォーマー)たちに「言論・表現の取捨選択」をさせてはいけません。彼らがユーザーに対して抑制を呼び掛けるべきものは「極端な差別・ヘイト」「暴力の肯定や予告など」「児童ポルノ」くらいに限定し、法律で縛って勝手なことはできないようにすること、そして、決して彼らに言論・表現の自由自在な検閲を任せるようなことはしてはいけないのです。

 

Ⅱ.最初の「円高政策は解決ではない|松尾 匡」レポートに対して私が発信したメール

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(相変わらず見方が甘い:田中一郎)

 

下記をざっと拝見しました。
社会主義論録画とbizSPA!の3つのインタビュー記事については、後日拝見して追加コメントをすることにして、さしあたり、それ以外の部分についてコメントいたします。その前に、松尾さんのガンのこと、初めてお聞きして驚きました。数年前のものも含めて、さしあたりの手術は2回とも大事はなかったようですが、今後のこともありますので、お大事になさってください。いつまでもお元気で頑張っていただきたいと願っています。

 

また、そんな中、京都府知事選挙や京都府議会補欠選挙での取組、ご苦労様でした。大学という白亜の殿堂にこもって理屈ばかりこねくり回している学者・教授が多い中で、松尾さんのように実践活動にも積極的に取り組まれる先生方は今日的には貴重な存在です。今回の京都の地方選挙は、国民民主党・立憲民主党の背信行為により、争点が明確にならないまま選挙が盛り上がらずに終わってしまった感じがします。また、「れいわ新選組」も、ちゃんと現職京都府知事を拒否する態度を明確に示して選挙戦に臨むべきでした。野党各党のウロチョロ「千鳥足」が現代日本の「世直し」を大きく遅らせています。事態は悪化するばかりです。

 

さて、肝心のコメントですが、ここから厳しい口調に変わります。結論はメール表題の通り「相変わらず見方が甘い」です。箇条書きにします。

 

1.円ドル相場を含む為替相場は金利差では合理的な説明がつかない。逆に言えば、金利差で説明がつく程度の為替相場変動なら、たいした心配はいらないということです。問題は、為替相場が「地滑り的に動く」ときです。日本経済や日本の財政金融当局に対する国際的な信頼が崩れた時、円安は際限なく続いていく可能性があります。貿易収支の赤字が恒常化し、放漫財政さながらのバラマキ政策が繰り返され、日本企業が国際競争力を失い、日本国内が経済的に疲弊をしている今日の日本経済は、格好の円安スペキュレーション(投機)の的になりやすい。日本の財政・金融当局がアホノミクスや黒田日銀に代表されるように無能の塊のようであることもこれに拍車を掛けます。要するに、為替相場が大きく動くときは、金利差などカンケーネーということです。

 

2.黒田日銀が長短金利を引き上げられないのは、景気がどうこうという話ではありません。これまで、政府の放漫財政を支えるため国債の事実上の日銀引き受けを繰り返し、中央銀行を政府の財政ファイナンスの手段として使ってきたことによるツケが原因です。もはや1千兆円を超える国債発行残高があり、金利を引き上げると政府の資金調達コストが急激に上がっていくため、手が出せなくなっているということです。(但し、国債と日銀預り金を両建てで「不胎化する」ことにより、ある程度のリスク回避は覚悟さえあれば可能です)

 

3.円安の生計費上昇への影響は、せいぜいのところ14%程度だろうという、産業連関表などを使った予測については、私はこういう経済プラモデルの試算結果を全く信用していません。たとえば、円相場が大きく動くときは、当該産業連関表の「産業連関」もまた大きく動くでしょうし、また、生計費についても、その構成品目は変わってくる可能性もあります。まあ、そんな計算もあるのね、くらいで見ておけばいいでしょう。しかし、14%程度だからたいしたことはありませんよ、という含意が強く印象付けられますから、それはわかりませんね??? という風に受取って、仮に事後的に14%を超えるようなことがあれば、怒りを爆発させましょう。

 

4.輸入インフレは、①消費税減税と輸入品への減税、②輸出品への課税、で対応せよという(コストプッシュ対策)、信じがたい処方箋については全くの誤りです。消費税減税・廃止はいいとしても、それに伴う税収減に対する対応・対策はちゃんと考えておく必要があります(5%減税なら13兆円、廃止なら25兆円)。また、輸入品の減税の方はまさに愚かなバラマキそのもの。しかも相当巨額なものになるという致命的な欠陥がある。化石資源についての減税は「脱炭素」と逆行しており、日本の産業や経済の構造転換を遅らせるばかりの対症療法にすぎません。同じ財源を使うのなら、かような方法ではない別の方法を使えばいい。つまり、輸入品価格上昇で、ものすごく困る企業・産業・自然人に直接支援すればいいということです。また、輸入品の節約に加えて、輸入を国産に切り替えることも考えればいい(例:食品:コメや牛乳については「余っている」などと生産者・農家に対して無礼千万なことを報道しているマスごみもありますが、コメや牛乳を捨てるなどということをせず、政府が買い上げて貧困対策など有効に使えばいいのです)。

 

輸出品課税については猛反発をくらうでしょう。政治的に可能かどうか疑問ですし、政策としてもピンボケです。円安になったからといって輸出は大きく増えるとは限らない。生産拠点が海外にシフトしているからです。松尾氏の言う、円安 輸出増 法人利益増 法人税収入増 円を買う動きが強まる、という因果関係は、いたって怪しい「取らぬ狸の皮算用」に近い。そしてそれ以上にこの政策提言が危険なのは、輸入減税(輸入奨励金)と輸出税(輸出抑制税)という税制・政策は、ただでさえ赤字構造の日本の貿易収支をさらにひどくしていくからです。それはそのまま「際限のない円安」への土壌を醸成していくことになります。

 

恒常的な貿易収支・経常収支の赤字、それに放漫財政による巨額バラマキの財政赤字の無反省な累積は、際限のない円安と結びつきやすいという認識が薄いように思われます。加えて今回の円安は、①ウクライナ戦争、②国際商品価格の上昇、③金融恐慌の可能性(株価暴落など)を伴って出現しており、円安だけ見ていればいいというものでもありません。それらが団子状態となって日本経済を襲ってくる可能性があります。そんな中、日本国憲法をぶっ潰せというチンピラ戦争屋が騒ぎはじめ、それに愚かな一部有権者が乗せられている様子もあります。これらは全て円安要因です。過去、日本経済が強かったときは有事は円高、でしたが、今やその逆で、有事は円安です。

 

5.一番最後の「帝国主義化を逆転させることが根本解決」はその通りです。この論文で唯一評価できる記述です。松尾氏も、愚かな「左派リフレ」派やMMTなどとは決別して、この問題をもっと追及していただければと思います。要するに、どうすればこれが可能になるかを、もっと詳細に論じていただきたいということです。私がこの間申し上げてきたことは、「必要な人に必要な公共サービスや現金支援などが行きわたる」ように、法制度化や仕組みづくりを伴いつつ、慎重に積極財政を展開する(一過性の巨額現金バラマキはやめる:当面の最重要政策は「権利性の明確な生活保障制度」と労働法制改正・失業保険制度の拡充です)、②生活関連投資への注力と、イノベーション(Aプラン)よりもリノベーション(Bプラン)、税制の抜本改正(税金を払わない大企業、富裕層、外国法人・非居住者、タックスヘイブンの撲滅)、社会保障・福祉行政や教育・保育・介護・病院など、公共サービス提供体制の抜本的拡充、地方経済へのテコ入れ・農林水産業や地場産業の再建、老朽化インフラの更新、国際経済協定を含む「市場原理主義アホダラ教」政策との決別、などです。詳しくは、下記の「新ちょぼゼミ」報告をご覧ください。

 

(1)(報告)(2.22)日本経済が直面するリスクと政権交代:「際限のない円安」と「スタグフレーション」(第1回目)(田中一郎:新ちょぼゼミ)- いちろうちゃんのブログ
 http://tyobotyobosiminn.cocolog-nifty.com/blog/2022/02/post-6cbab0.html

(2)(報告)(3.26)日本経済が直面するリスクと政権交代:「際限のない円安」と「スタグフレーション」(第2回目)(田中一郎:新ちょぼゼミ)- いちろうちゃんのブログ
 http://tyobotyobosiminn.cocolog-nifty.com/blog/2022/03/post-efe8e6.html

(3)(報告)(4.27)日本経済が直面するリスクと政権交代:「際限のない円安」と「スタグフレーション」(第3回目)(田中一郎:新ちょぼゼミ)- いちろうちゃんのブログ
 http://tyobotyobosiminn.cocolog-nifty.com/blog/2022/04/post-852665.html


◆みなさま、お世話になっています。noteにエッセー書きました(松尾匡)。
 https://note.com/matsuo_tadasu/n/n68e059fbf2a6
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Ⅲ.松尾匡立命館大学教授よりいただいたコメントのメール

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田中さま、ご丁寧なコメントいただき、ありがとうございます。

最後の件、日本の支配層の「輸出で稼ぐ国」から「海外で稼ぐ国」への転換のスローガンのもと、国内産業淘汰と生産拠点の海外移転を進めてきている帝国主義化政策に反対いただける点は、たいへん心強く思います。

ただ、そういたしますと、このヴィジョンは、円高で海外進出企業から大衆生活物資を激安で輸入して、国内の非正規低賃金労働者を食べさせていくことが不可欠のセットになっていることを重視されるべきだと思います。

つまり、このヴィジョンは、円高を志向する政策をセットで拒否しなければ拒否できないということです。これまでも円高は、国内産業淘汰と海外移転促進の最も強い武器になってきました。

円高はこの帝国主義体制を持続可能にさせる鍵であり、逆に言えばアキレス腱と言えると思います。

 

1については、「金利差で説明がつく程度の為替相場変動なら、たいした心配はいらない」のではなくて、大いに心配すべきだと思います。

というのは、将来的にディマンドプル・インフレを抑制すべきフェーズに入ったとき、現在よりも比較的に高い金利になることで、円高が持続し、国内産業空洞化が進行して、帝国主義体制が確立することが懸念されます。

 

1でのご心配は、固定為替相場制的なケースで起こる通貨危機を念頭におかれたお考え違いだと思います。

現在はコロナの影響で障害がありますが、まだ今のところはGDPの二割が製造業と農林水産業である中では、通貨価値の暴落には、輸出増と観光と輸入代替品生産でどこかで歯止めがかかります。世界第二位の巨額の外貨準備に勝てるヘッジファンドはないので、いざというときには、その効果が間に合うように、下落のスピードを調整することは可能です。

将来、国内産業空洞化が十分に進行したあと、通貨が下落しても何も生産できなくなると、たしかに円暴落の危険がでてきます。これを防ぐには、とりわけ普通のなんでもない大衆生活物資の生産について、国内産業の空洞化をさせないことが重要だと思います。

2については、

・国債金利は固定金利であり、既発の国債については金利が上がっても利払いは増えません。

・既発の国債が借り換えられるときには、市場金利に合わせて金利が上がりますが、既発の国債の大半は日銀が持っていますので、それが償還期限がきて借り換えられても、日銀に払う利息は国庫納付金として政府に戻ります。財政負担が実質増えるわけではありません。

・民間保有の既発の国債は、期限が長いものに偏っているので、昔の金利がずっと高かったときの国債が多いです。なので、借り換え後は、市場金利が上がっても当分の間、今の利払いよりも、利払いがかえって減ります。

なので、金利が上がることによる資金調達コストの増大は、もっぱら新発債について言えることで、「急激に上がっていく」ということはありません。

新発債については話を逆に考えて、政府がコストなく資金調達できたらそれにこしたことはないのに、なぜ状況によっては金利を上げる必要があるかと言えば、ディマンドプル・インフレを抑えるために、政府需要が増えた分は民間需要を抑える必要があるからで、結局、ディマンドプル・インフレでもない状況のもとでは、金利を上げると抑えるべからざる民間需要を抑えてしまうのでできないという話に帰着します。

3については、今回やったシミュレーションは、文中にありますとおり、コストの転嫁100%の最大限の話ですから、現実にはもっと低くなります。また投入係数や、民間消費支出の構成は、もし変化するとしたら、比較的価格の上がったものの購入を減らして価格の上がり方が少ないものに代替する方向に変化するので、やはりそれがあればもっと低くなります。

4については、文中ありますとおり、二酸化炭素削減や国産品保護の効果をもつに足る価格以上に上がらないように、間接税を減らしていくという話です。

文中では長期的な政策の話を端折っていますので述べていませんが、これまで何度か書いてきたのは、筋がいい政策は、穀物などは国内業者に備蓄生産をしてもらって買い取るということです。その買い取り価格より国際価格が高くなったら、買い取り価格よりも(大きく)上がらないように売る。そうすれば備蓄生産者が一般向けにも生産することになるわけです。

なお、輸出への課税については、文中で試算している話は、輸出量は一切増えない想定です。ただ為替が変わって円で表した価格が上がって濡れ手に粟でもうかる分を計算していて、それだけでもすごい額になるという話です。生産が増える必要は全くありません。

もちろん、これに加えて輸出向け生産が増えたら、さらに課税ベースは上がるでしょう。

ここで言っている話は、輸出についても輸入についても、為替の急激な変動によるプラスとマイナスを相殺しあう話であって、為替変動前と比べたら、輸出にペナルティが加わるわけでも、輸入に奨励金が出るわけでもありません。

しかも、急な円安による輸入の損と輸出の益のすべてに課税するわけではないので、これによって円安で輸出が得をして輸入が損をするという効果自体はなくなるわけではありません。

なお、輸入品価格上昇で困るところへの直接支援は文中の「コストアップを公金で補償する政策」に含まれているつもりでいます。

松尾匡
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Ⅳ.上記3.メール(松尾匡立命館大学教授)に対して私から追加のコメント(一部加筆修正)

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(お礼と追加のコメント:田中一郎)

ご多忙の松尾匡立命館大学教授(以下、失礼して松尾さん)から丁寧なご説明をいただけるとは思ってもいませんでしたので、ますは拙文をご覧いただいたこと、そして追加的にコメントをお送りいただいたことに感謝申し上げます。それで、心を鬼にして、更に下記のいただいたご説明について、激辛のコメントをさせていただきます。

 

1.(松尾さん)「このヴィジョンは、円高で海外進出企業から大衆生活物資を激安で輸入して、国内の非正規低賃金労働者を食べさせていくことが不可欠のセットになっていることを重視されるべきだ」

 <田中一郎コメント>
 悩ましいところですが、円高=日帝海外進出・国内空洞化・低価格輸入品による労働力価値の低減、という図式は、「避けられない法則的なもの」「一体的なもの」ととらえるのは避けた方がいいでしょう。私は、日本の財界や、その代理店政府が、円高をそのように利用している=「市場原理主義アホダラ教」政策に没頭している、その結果、輸出型企業は生産拠点を海外に移して採算制約負担を軽減している、と見ています。同じことかもしれませんが、これからどういう日本経済や産業構造を目指すのかを考えた場合、この「等式」が必然なのか、それとも選択の結果なのかは重要な認識の違いだと思われます。

 

一般論的で恐縮ながら、化石資源や鉱物資源をはじめ、日本国民の生活水準を維持・向上させるための天然資源は日本国内では調達しにくいもの・できないものがたくさんあり、従ってまた、今後も日本は天然資源の輸入を相当規模で継続しなければなりません。これからの日本は、省エネ・資源節約の技術向上の下で人口減少社会を迎えるので、今世紀末には調達する天然資源の量は減少するとは思いますが、しかし、海外からの調達はなくていいということにはなりません。従って、この決定的に重要なことを念頭に置くと、私は円安よりも円高の状態の方が日本の国民にとってはいい状態だろう、と考えています。自国の通貨が高い価値を持つと国際的にも認められることが円高ですから、抽象的に考えてみても円高の方が円安よりもベターであると見ておくべきです。

 

問題は、どの程度の水準の円高なのか=正確には円相場なのか、です。市場原理主義は、それについて「市場に任せろ」というのが結論です。私は違う、と思っています。ここで為替相場論と国民経済論との関連を詳細に展開するのは避けますが、現実のリアリティの中で考えると、これまで21世紀に入って日本の円ドル相場は、おおよそ1ドル=100円プラスマイナス20円前後の相場領域を行ったり来たりしていたように思いますので、まずはこの水準が物事を考える出発点としていいのではないかと考えます。すると今現在は130円台に入りつつある円安傾向ですので、まずは円ドル相場が円安へ触れ始めているということを強く認識する必要があるでしょう。さしあたりは、この円安の速度が問題です。あまり急速に円安が進むと、実体経済の方がそれに対応するのに四苦八苦します。そして、さらに重要なことは、どこまで円安が進んでいくのかです。130円台くらいのところで止まるのか、それとももっと円安になって、1ドル=200円を超えて下に行くような円安なのかが問題になります。私が懸念しているのは、この「円安速度」と「円安水準」の2つです。

 

松尾さんのメールからは、円相場は円安の方がいい、円高は日本の帝国主義的海外進出と一体だ、と書かれているように読めますが、私は円相場と日本の帝国主義的海外進出とは別物と考えていて、円高を維持しながら日本の帝国主義的海外進出はさせない、という選択肢があると思っているのです。

 

若干の具体例で申し上げましょう。日本の海外進出(国内産業空洞化)をどうするか、ですが、1つは、私が申し上げている「リノベーション経済」(クォリティオブライフ=QOL向上を目指す不断の技術革新)によるサービス産業へのシフトを政策的に支援する(国内にいなければできない産業に産業構造を変えていく)、2つは、農林水産業、及びその関連産業をグローバリズムから切り離し自給経済化する(FEC自給圏=故内橋克人氏)、3つ目は、輸入産品に対する厳しい安全性やコンプライアンスのチェックを入れ、安かろう・悪かろう・危なかろう商品の輸入を止める、4つ目は、国及び自治体の公共サービスの抜本的拡充(体制を含む)、5つ目は、海外進出企業に対して、日本国内と同じレベルの様々な社会的規制をかける(例:賃金や社会保険、環境規制、贈収賄禁止など)、6つ目は、経済外的な方法で海外進出はほどほどにしておけ、という説得を企業に対して行う(例:「愛国心」に訴える)、などです。人はパンのみにて生きるにあらず、を企業人たちに対して説け、ということです。言うことを聞かなければ、なりふりかまわず金儲け優先で走る売国奴企業の商品に特別関税を課すなどという強引なやり方もあるでしょうが、あまりやりたくないですね。

 

いずれにしても、TPPや日米FTA,日欧EPA、あるいはRCEPのような国際市場原理主義経済協定からは抜け出なければなりませんし(グローバリズムと日本経済との絶縁)、また、WTO体制に関しても、途上国などと連携して、その行き過ぎた市場原理主義を改める方向で、改正を提起していく必要があります。場合によってはWTOルールを拒否することもありうる、と考えておき、その場合はアメリカや欧州などから報復措置を受ける可能性もありますので、それぞれ、欧米の経済に日本経済があまり過度に依存しない状態を創っておくことも大事なことです。

 

ともあれ、円高・円相場(国際通貨がドルしかないので仕方がない面もありますが、本来は円ドル相場だけが注目されるというのも問題です=他の通貨との為替相場も重要)と日本企業の海外進出のあり方がセットだという考えは、私はやめた方がいいと思います。既存の経済体制や経済構造、あるいは政府・政策当局の考え方・在り方を、今のまま前提にしているからセットだと見てしまうのだと思います。将来を展望して、私は円安よりも円高の方がいい、と考えています。

 

2.(松尾さん)「1でのご心配は、固定為替相場制的なケースで起こる通貨危機を念頭におかれたお考え違いだと思います。」

 <田中一郎コメント>
 これは松尾さんの方が「お考え違い」です。私の懸念は、完全変動相場制度下の円ドル為替市場における急速な大幅円安を懸念しています。昨今は下記のような記事を見つけました。理由として書かれていることの是非は別にして、結果論的に、こういうこともありうる、ということを懸念しているのです。また、為替相場は金利差では合理的な説明はできません。金利差で説明がつく、ということの意味は、金利差を口実にして=後付け理屈にして為替相場が動いているうちは、為替相場は大して動かない、という意味です。そして、為替相場が大きく動くときは、金利差などカンケーネーという状態になります。金利差で合理的な説明がつくのは「直先スプレッド」です。「新ちょぼゼミ」をご覧ください。

 

それから付け加えて申し上げますと、固定為替相場制の下では金利差は資本の移動へ大きな影響をもたらします。為替リスクがないのですから、金利差を利益として取りに行く動きは、金利差が一定幅以上になると顕在化します。だから、固定為替相場制では、外為規制・資本規制が厳しくないと維持できないのです(あるいは経済に元気がある場合)。

 

(関連)【岸田政権】1ドル=500円の声も これで参院選に突入とはいい度胸|日刊ゲンダイDIGITAL
 https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/news/304674

 

3.(松尾さん)「まだ今のところはGDPの二割が製造業と農林水産業である中では、通貨価値の暴落には、輸出増と観光と輸入代替品生産でどこかで歯止めがかかります」

 <田中一郎コメント>
 だったらいいのですが、そこがあやしい。私は見方が甘いと思います。日本の国内製造業企業は、もはや労働力を非正規化して買いたたき、下請け零細を自己都合でこき使った上で切り捨て、ドアホの自公政権をそそのかして我田引水型の企業保護政策を受け(縁故資本主義)、ついて行けない技術水準分野で「やっているふりをする」ため検査合格などでインチキを繰り返す、などなど、いわゆる「焼き畑工業」時代に突入しており、まもなく消えていく運命にあると見ています。そもそも、その大半が20世紀型産業です(逆に新時代を切り開く新産業=例えば再生可能エネルギービジネスなど、は財界有力企業の既得権益優先政策でつぶされるという愚昧が横行している)。また、農林水産業は文字通りの崩壊中で、残っているのはコメだけといってもいい状態。担い手はほぼ全員が高齢化して後継者なく、まもなく耕作放棄地が全国に猛烈に増えていくでしょう。観光業は「新型コロナ」で吹き飛びました。また、歴史歪曲主義と対欧米劣等感が外国人の日本への侮蔑を巻き起こし、早晩、日本なんぞに誰が行くか、と世界中から叱られる時代が来るような気もします。円相場暴落の舞台は出来上がりつつあります。

 

4.(松尾さん)「世界第二位の巨額の外貨準備に勝てるヘッジファンドはないので、いざというときには、その効果が間に合うように、下落のスピードを調整することは可能です。」

 <田中一郎コメント>
 これも甘いと思います。外貨準備はいかに巨額であっても「限度金額」付きです。他方で、ヘッジファンドを先頭に立てる「国際投機筋」の資金は事実上無限大です。何故なら、確実にもうかると思われる場合には、投機のために信用創造が行われ(要するにカネを借りて投機するということ)、次から次へと巨額な資金で様々な方向から仕掛けてきますから(これを「車掛かり」(上杉謙信の川中島合戦時の戦法)という)、外貨準備をバックに、外為市場で次々と売られる円を買い支えることには限界があるのです。円安防止の為替介入は、円安の速度を少し落とす、くらいの効果しかありません。断固として円安阻止をするためには、かつてアジア危機の際にマレーシアがやったような「外為・資本の厳格・強力な規制」をするしかありません。しかし、これは他方で自由経済を大きく傷付ける副作用がありますから、具体的にどのような規制をどのように入れるかは、慎重に見極めなければなりませんし、最終的には外貨を手に入れるための円相場は、やはり円安となり、避けることはできません。日本経済のあり方や外為市場・資本市場をどういうものにするのかという経済体制哲学についての見識も求められます。簡単なものではありません。

 

5.(松尾さん)「普通のなんでもない大衆生活物資の生産について、国内産業の空洞化をさせないことが重要だと思います」

 <田中一郎コメント>
 これはその通りですが、問題は「方法論」です。どうやって実現するかです。農林水産業と、生活用品製造業(軽工業)や住宅産業などで、それぞれ違うでしょうし、密接に関連もします。半導体などはどう考えるかという問題もあります。

 

6.(松尾さん)「もっぱら新発債について言えることで、「急激に上がっていく」ということはありません。」

 <田中一郎コメント>
 長期金利が上がると国債の金利=財政資金の調達コストが上がる、というのは、国債借換や新発国債の発行の際に上がる=つまり限界部分での金利上昇が積み重なることで起きます。この辺の認識は私も松尾さんも同じです。しかし、この財政資金の全体の調達コストがどういう速度で上がるかは、新規に発行される国債(毎年の財政赤字額+建設国債の新規発行額)の金額の大きさ如何によりますので、現在のように、放漫財政で、不公正税制に手をつけぬまま、巨額現金のバラマキのようなことが繰り返されれば、赤字国債の増発と金利高により財政資金の調達コストが「急激に上がっていく」こともあり得ない話ではありません。また、いったん上がってしまった国債の金利は、容易なことでは下がらない、ということにも留意が必要です。

 

それから(松尾さん)「結局、ディマンドプル・インフレでもない状況のもとでは、金利を上げると抑えるべからざる民間需要を抑えてしまうのでできないという話に帰着します。」という点ですが、これも、黒田日銀がやってきたような異次元の量的金融緩和(巨額の国債買いオペ)を続けて長期金利を押さえるということを意味するのであれば(つまり金融政策の現状維持)、ますます、放漫財政に対して甘くなり(そうでないと政権が持たない)、また、じりじりとした円安に歯止めをかけることができず、従って、やがて円相場の暴落へとつながっていきます。金子勝立教大学教授が言うところの「ねずみ講」状態(抜け出せない)です。

 

私はこれを避けるためには、日銀の保有国債と、それの相手勘定である大手銀行の日銀預け金(いずれもそれぞれ5百数十兆円)をタイミングを見て「不胎化」(凍結)し、かつ、国債の買いオペの量を正常化する=一定水準の長期金利上昇も追認する(超長期国債(20~30年)については公的年金基金などに直接売り、転売を禁止する)、短期金利はゼロ金利のような極端はやめるが、かなり低い水準に政策誘導する、といった対応が必要ではないかと考えています。DEBT・金利に係る金融政策の出口戦略です(新国債管理政策)。どうしようもないのは、日銀保有のETFと公的年金基金(GPIF)保有の国内外株式・リスク資産です。

 

7.(松尾さん)「今回やったシミュレーションは、文中にありますとおり、コストの転嫁100%の最大限の話ですから、現実にはもっと低くなります」

 <田中一郎コメント>
 申し訳ありませんが、経済プラモデルに基づく試算結果については、そのプロセスも含めて、既に申し上げましたように、全く信用しておりません。ただ、その結果=結論のところについては、しっかりと責任を取っていただく所存です。

 

8.(松尾さん)「二酸化炭素削減や国産品保護の効果をもつに足る価格以上に上がらないように、間接税を減らしていくという話です。」

 <田中一郎コメント>
 これも見方が甘いですね。「二酸化炭素削減」に関連した税制で言えば、日本の地球温暖化税をはじめ、石油石炭にかけられる税金は、欧州諸国に比べるとお話にならないくらい低税率です。確かに自動車関連の石油製品にかかる税金は、道路財源にするために高めに設定されていますが、それはそれで意味があることで、既に特定財源化も解除されています。ナフサなどは石油化学工業企業のために大幅に税金が押さえられているとも聞いていて、日本は松尾さんのおっしゃる事とは逆に、化石資源の輸入に対する課税が国際的に見ても低く、脱炭素政策として不十分だというのが一般的な認識だと思います。従って、化石燃料減税に使う財源は、省エネや再生エネへの転換(いずれも化石燃料利用の削減へ)への奨励金や、日本の経済社会構造の転換(例:一極集中の解消、公共交通の再生と積極活用、プラゴミ環境規制など)によるエネルギーを大量消費・大量廃棄しない社会実現へ向けて使うべきです。化石資源が高くなった(発熱した)から、それを冷やすために財源を使う(解熱薬投与)、というのは、まさにヤブ医者がやる対症療法そのもので、今の日本はこんなことをしている時ではありません。

 

「国産品保護」も同様で、農林水産物を筆頭に、関税は既に低い状態ですし、自給率も低迷していて、大幅な円安が来ると、食品や生活用品が大きく値上がりして、厄介なことになりそうな雰囲気です。おそらく餓死者がたくさん出るでしょう。それでいて、コメは余っていて邪魔だ、牛乳は作りすぎで捨てるしかない、などという、全くのドアホ言論がマスごみ界で流布されています。政府は「市場原理主義アホダラ教」に頭がイカレて無為無策を続けています。いつまでも、あると思うな、親と円高、です。

 

9.(松尾さん)「筋がいい政策は、穀物などは国内業者に備蓄生産をしてもらって買い取るということです。その買い取り価格より国際価格が高くなったら、買い取り価格よりも(大きく)上がらないように売る。そうすれば備蓄生産者が一般向けにも生産することになるわけです。」

 <田中一郎コメント>
 ちょっとわかりにくい文章ですが、要するに、国内の穀物の生産者・農家には自由に生産をしてもらって、国内需要を上回るようだったら政府がそれを買い取って備蓄をし、国際価格が高騰して国内価格を上回ったときにそれを国内市場に放出して値段を冷やせ、そんな意味でしょうね。これも甘い考えです。政府ができてしまった農産物に事後的に介入するよりも、生産調整でまずは対応し、生産者・農家にその調整のための負担を掛けない、ということに主眼を置く政策を本格的に展開するべきです。詳しくは農業政策論でやる話ですので、これくらいにしておきます。他にもいろいろあります。

 

基本知識として、日本の農林水産物の価格は国際価格に比べると格段に高いこと(円高も影響)、日本政府の農林水産業政策の予算は本当にしょぼいことに加えて、日本政府は国内の農林水産業を素っ裸で国際市場原理主義下の価格競争にさらすという愚を繰り返しています。それやこれや、農林水産業政策を論じるには、現状認識の基礎知識が相当程度必要です。

 

10.(松尾さん)「ここで言っている話は、輸出についても輸入についても、為替の急激な変動によるプラスとマイナスを相殺しあう話であって、為替変動前と比べたら、輸出にペナルティが加わるわけでも、輸入に奨励金が出るわけでもありません。」

 <田中一郎コメント>
 この部分はよくわかりませんでした。魔法にかけられたような気分です。

 

11.(松尾さん)「輸入品価格上昇で困るところへの直接支援は文中の「コストアップを公金で補償する政策」に含まれているつもりでいます」

 <田中一郎コメント>
「コストアップを公金で補償する政策」が、のべつくまなく、誰でもが受益者になる典型的なバラマキ政策だから、そんなのはやめて、困っている人に=つまり「必要な人に必要なだけの支援」が行き届くような政策にすべきだと申し上げています。たとえば、石油関連であれば、農林水産業や病院・学校・介護施設・保育所・保健所などの公共施設で使われるものには政府が補助金を出して調達コストを下げて差し上げればいい(場合によっては量的制限付き)。「含まれている」ではなく「これだけでやる」でなければいけません。そのココロは、バラマキヤメロ、です。

 

まだ論点はあると思いますが、疲れてきましたから、これで一旦止めます。改めて簡単に結論を申し上げますと、やはり「相変わらず見方が甘い」です。
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Ⅴ.松尾匡立命館大学教授から再度のコメント・メール

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田中さま、こちらこそお忙しい中ご丁寧な検討をいただき、ありがとうございます。

水掛論になりそうな論点も多いですし、余裕もなくなってきましたので、とりあえず、一番根本的な最初の論点についてご説明させてください。

 

はばかりながら私は田中さんよりも、「市場原理主義アホダラ教」の経済学については、大学院教育レベルから長く文献に慣れ親しんでいると思いますので、政府側ブレーンの先生方がこのかん、何人も異口同音に、海外移転と国内産業淘汰、高付加価値産業への転換を言い続けてきたことが、司令塔や口裏合わせの結果ではなくて、体系的な経済学理論から帰結するものであることを感じております。円高政策はこの理論から整合的に導かれるものとご理解いただければと思います。

もちろん、どんな立場であれ、円高も円安も行き過ぎはよくないというのは当然です。

ただ、彼らは総需要不足による失業の発生を重視しないし、産業構造転換(必要な場合であれ避ける道がある場合であれ)にともなって職を失う人の尊厳に考慮することを軽視するし、なるべく高い資本蓄積を志向して賃金分配が比較的低いことを好むし、ましてや、少ない労働の産物の見返りにより多い労働の産物を輸入することを、外国の労働の搾取であって望ましくないとする価値観も持っていません。そうすると、そういう立場の人たちが正常と考える為替相場水準が、その逆の立場の者が正常と考える為替相場水準よりも円高になるのは至極当然のことと思っています。

 

さすがに私も130円は安すぎと思いますが(利上げによる対処には反対しますが)、菅さんやアトキンソンさんや他のブレーンのみなさんは、当時進行していた円高傾向に対して危機感ゼロでしたので、彼らは当時の円相場よりも円高のものを正常と思っていたと思います。それは上記の、新古典派が軽視するものを重視する立場からすれば、高すぎると思います。

 

松尾匡
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Ⅵ.私から最後のメール

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(多くの点で同感です)

松尾様へ、下記の記載に関しては多くの点で同感です。

「ただ、彼らは総需要不足による失業の発生を重視しないし、産業構造転換(必要な場合であれ避ける道がある場合であれ)にともなって職を失う人の尊厳に考慮することを軽視するし、なるべく高い資本蓄積を志向して賃金分配が比較的低いことを好むし、ましてや、少ない労働の産物の見返りにより多い労働の産物を輸入することを、外国の労働の搾取であって望ましくないとする価値観も持っていません。そうすると、そういう立場の人たちが正常と考える為替相場水準が、その逆の立場の者が正常と考える為替相場水準よりも円高になるのは至極当然のことと思っています。」

 

そうだと思います。

そして、円高によるメリットは、広く日本に住む消費者・国民に対して配分されるべきところが、彼らで当然のごとき顔をして独り占めしてしまう、それが許しがたいと思っております。せめてステイクホルダー資本主義くらいでやってくれれば、まだ、息もつけるのですが、それもバブル崩壊以降は消えてしまいました。

 

私は有権者・国民がもっと自己利害に賢明になり、彼らにやられたら、必ずやり返す、ずるがしこくやり返す、そんな「意地張り」のホモ・エコノミクスになってもらえればと密かに願っております。

 

松尾様、また、よろしくお願い申し上げます。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
草々

 

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