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2018年9月22日 (土)

政権交代実現と、そのあとに何を目指すのかの議論に最適=『終わらない「失われた20年」:嗤う日本の「ナショナリズム」・その後』(北田暁大著:筑摩選書)

前略,田中一郎です。

(別添PDFファイルは一部添付できませんでした)

 

(最初に若干のことです)

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1.(別添PDFファイル)木村さんちのくらのすけ君(『あとかたの街』おざわゆき著)

「kuranosuke_niwatori.pdf」をダウンロード

(関連)あとかたの街 1-おざわゆき/著(講談社)

 http://ur0.work/M5Y0

 

(とてもいいマンガ本でした。上記は「第1巻」ですが、全部で「第1巻」~「第5巻」まで市販されているようです。名古屋に住む木村さん一家がアジア太平洋戦争の末期に襲われる悲劇を描いたストリーですが、登場する子どもたちや動物たちがとてもかわいくて印象に残ります。別添PDFファイルにご紹介する「くらのすけ君」は飼われていた雄のニワトリですが、はたして無事でいられるでしょうか? おざわゆき著『あとかたの街』、みなさまも是非ご覧になってみてください。:田中一郎)

 

2.イベント情報

(1)「福島原発告訴団」:(9.30)福島原発事故刑事裁判中間報告&後半の予定

 https://shien-dan.org/

(2)(10.3)南相馬・避難20ミリシーベルト基準撤回訴訟支援の会 第13回口頭弁論-103日は東京地裁へ!

 http://minamisouma.blogspot.com/2018/08/13103.html

(3)(10.6)ジャーナリスト高野孟さんとともに 反戦反安保討論会 東アジアの大変動と日米安保体制(文京シビックセンター)

 http://www.labornetjp.org/EventItem/1535987876699matuzawa

(4)公開座談会「不思議な紳士が語る 日本が目ざす不思議な未来」(東京・西早稲田)

 http://www.labornetjp.org/EventItem/1536296614589staff01

 

3.(新刊書)脱原発弁護団全国連絡会 新刊:原発地震動に対する安全性の視点

 http://www.datsugenpatsu.org/bengodan/news/18-08-21/

 

4.キャンペーン · 川崎市長 川崎市に人種差別撤廃条例の早期制定を求めています · Change.org

 http://ur0.work/M5TY

 

5.沖縄県知事選挙関連

(1)沖縄・辺野古2018 辺野古の海への土砂投入計画並びに新基地建設計画の白紙撤回を求める声明

 http://unite-for-henoko.strikingly.com/

(2)佐喜真氏はなぜ沖縄県知事選で日本会議との関係を隠すのか|日刊ゲンダイDIGITAL

 https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/news/237838

(3)玉城デニー「私を守り育ててくれた権利を、未来の子どもたちのために、今度は私が守る番が来た」 伊達直人

 https://ameblo.jp/tiger-mask-fighter/entry-12406449321.html?frm_src=favoritemail

(4)(別添PDFファイル)「創価学会公開質問状」回答に対する声明

「soukagakkai_koukaisitumon.pdf」をダウンロード

6.日本国憲法改悪関連

(1)(教えて!憲法 9条と安全保障:1)自民総裁選でも焦点:朝日新聞デジタル(=只今連載中)

 https://www.asahi.com/articles/DA3S13674283.html

(2)改憲の是非、CM量自主規制せず 国民投票運動で民放連 共同通信 - This kiji is

 https://this.kiji.is/415440201898148961

(3)最大産別のUAゼンセン、改憲論議推進を表明 9条念頭:朝日新聞デジタル

 https://www.asahi.com/articles/ASL9N4SDYL9NULFA01T.html

 

(民放連やUAゼンセン労組、こんなのはみな、ロクでもない組織である。安倍晋三三選後に及んで日本破壊へ更に邁進と言ったところ。しかし、日本の有権者・国民も、野党各党も、その危機意識は高くない。2019年参議院選挙はこのままでは敗北必至、その情勢次第では参議院選前にも国民投票か? 一つの国が堕ちてゆき、やがて滅びる時にはこういうものか、ということを実感させられている思いがする。もちろん怒りとともにだ。腰抜け・中途半端・日和見、かような連中に危機を突破していくだけのパワーも力量もない。情勢を転換したければ、その「主体」を形成する他ない。:田中一郎)

 

(関連)(別添PDFファイル)暴走する権力に抵抗をあきらめてはならない(イントロ部分)(中野晃一『週刊金曜日 2018.9.21』)

「teikou_akirameruna_nakano_kinn.pdf」をダウンロード
 http://www.kinyobi.co.jp/

 

7.(メール転送です)MXテレビのデマ放送関連

(1)(別添PDFファイル)東京MX テレビ抗議行動の終結について:(声明)MX「ニュース女子」の「反省・お詫び」を歓迎、DHC テレビは番組制作の中止を!(2018910日)

「seimei_mx_tv.pdf」をダウンロード

(関連)番組「ニュース女子」の「沖縄基地反対運動特集」に関する当社見解(2018810日)

 https://s.mxtv.jp/company/press/pdf/press2018_440001.pdf

(関連)「ニュース女子」問題のいま - nonewsjoshi ページ!

 https://goo.gl/teM3R7

 

(2)アクション・その1

「ニュース女子」の制作を続けるDHCテレビと、放送継続中の全国のテレビ局に放送見直しを求める行動に集中します。「DHCわたしは買わない」タグや放送中止を求めるアクションハガキを作って配っています。「ニュース女子」やDHCの問題点は、まだまだ理解されていません。一緒に働きかけていただけるとありがたいです

→ ニュース女子 放送局一覧 要請はがき

 https://drive.google.com/file/d/1pQiHozDo-BcEL3Bjyoj6VdG08ZeI8J-c/view

 http://ur0.work/M6k0

→放送継続局の一つ、石川テレビが面談に応じてくれました(★報告を添付3します)

(関連)(別添PDFファイル)石川テレビ要請報告(2018827日)

「isikawa_tv_yousei.pdf」をダウンロード

(3)アクション・その2

辛淑玉さんが「ニュース女子」で名誉毀損があったとして、DHCテレビと司会を務めた長谷川幸洋氏を提訴しました。激しいバッシングを受けながらも勇気を持って立ち上がった辛さんを「のりこえねっと」と歩調を合わせて支え、共にたたかいます

→9月23日(日)14〜17時 のりこえ祭り 裁判決起集会

 http://www.labornetjp.org/EventItem/1536459669177matuzawa

 弁護団の報告、沖縄から泰真実さんも参加

→9月26日(水)10時半 第1回口頭弁論 

 おおぜいで裁判所につめかけて、注目されている裁判だと裁判官に伝えることが大切だそうです

 http://www.labornetjp.org/EventItem/1536459968856matuzawa

 

8.(メール転送です)『留守名簿 関東軍防疫給水部』出版のお知らせ

 https://war-medicine.jimdo.com/留守名簿/

 

皆様、「軍学共同反対連絡会」共同代表の西山先生が中心とな731部隊の幻の名簿を復刻出版されました。国立公文書館にあったものを、数年かけて交渉し、公開・出版にこぎつけたのです。日本軍の戦争犯罪を解明する重要な資料です。2冊で各18000円と高額ですが、大学や地域の図書館に購入を働きかけていただければと思います。

 

なお、情報提供・問い合せ・ご意見などは同サイト(上記URL)の「問合せ・情報提供」のメニューをご利用ください。また、著者割引(送料込み8掛け: 「留守名簿 関東軍防疫給水部」第1冊単価16000円)がありますので、ご希望の方は、「問合せ・情報提供」のメニューからお申し込みくだされば、著者紹介の手続きが出版社に対してなされます。振替用紙入の書籍が出版社より直送されます。連絡会事務局

 

(関連)軍学共同反対連絡会 – Japanese Coalition Against Military Research in Academia

 http://no-military-research.jp/

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今回は、政権交代実現と、そのあとに何を目指すのかの議論に最適と思われる『終わらない「失われた20年」:嗤う日本の「ナショナリズム」・その後』(北田暁大(あきひろ)著:筑摩選書)をご紹介申し上げます。下記は私の読後感想文のようなものです。何かのご参考になれば幸いです。

 

 <別添PDFファイル>

(1)目次(『終わらない「失われた20年」』北田暁大著、筑摩選書)

「mokuji_owaranai_usinawareta20year_kitada.pdf」をダウンロード
(2)Save the 中年:雨宮処凛 VS 北田暁大(イントロ部分)(『終わらない「失われた20年」』北田暁大著、筑摩選書)

「save_the_tyuunen_amakiya_kitada.pdf」をダウンロード
(3)若者の保守化? 日本型リベラルの位置(一部抜粋)(『終わらない「失われた20年」』北田暁大著、筑摩選書)

(4)おわりに(一部抜粋)(『終わらない「失われた20年」』北田暁大著、筑摩選書)

「owarini_kitada.pdf」をダウンロード
(5)日本の左派がとるべき道:欧米反緊縮左翼台頭の背景とその政策(一部抜粋)(松尾匡『週刊金曜日 2018.5.18』)

「saha_skeizeisseisaku_matuo_kinn_into.pdf」をダウンロード

(関連)そろそろ左派は〈経済〉を語ろう レフト3.0の政治経済学-ブレイディみかこ/著 松尾匡/著 北田暁大/著(亜紀書房)

 http://ur0.work/M5C2

(関連)安倍政治を止めたい野党の「大きな勘違い」(松尾匡)DOL特別REPORT DIAMOND ONLINE

 https://diamond.jp/articles/-/180120

 https://web.smartnews.com/articles/fePGkzByzBb

 

(関連)リベラル懇話会 政策提言集:総論(201673日)

 http://ur0.work/M5Cu

(関連)リベラル懇話会 HP

 https://libekon.wordpress.com/

 

北田暁大氏(東京大学所属の社会学者)の上記新著は、政権交代実現と、そのあとに何を目指すのかの議論に最適と思われます。上記はその関連資料です。北田暁大氏には申し訳ないですが、添付した同書の目次(別添PDFファイル)に「〇」「×」をつけて、その内容を私が評価しています。さしあたり「〇」のついた章や節あたりからご覧になると、てっとり早いと思います。別添PDFファイルは、その「〇」部分の一部抜粋です。一番いいのは「おわりに」をお読みになると著者の北田暁大氏の著作意図がよくわかります。

 

なお、上記の「関連」のうち、松尾匡立命館大学教授との共著は昨今注目されている図書で、野党に経済政策をちゃんとしろと意見しているものです。その提言の主旨には大いに賛同できますが、しかし、私と松尾匡立命館大学教授との議論にありますように(下記参照)、いくつかの点において、その政策内容に問題なしとしない経済政策提言です。なお、松尾匡立命館大学教授の主張のもっともわかりやすい論文は「日本の左派がとるべき道:欧米反緊縮左翼台頭の背景とその政策(松尾匡『週刊金曜日 2018.5.18』)」です。別添PDFファイルに、その「イントロ部分」を添付しました。

 

上記「関連」のもう一つは、北田暁大氏らが集う「リベラル懇話会」の政策提言集サイトです。名前を連ねている人たち全てについては私は存じ上げませんが、若手の社会学者らが中心ではないかと思われます。

 

*「いちろうちゃんのブログ」より

(参考)松尾匡立命館大学経済学部教授の「レフト3.0の政治経済学」(新刊書)や「反緊縮政策論」(『週刊金曜日』)のどこに問題があるのか いちろうちゃんのブログ

 http://tyobotyobosiminn.cocolog-nifty.com/blog/2018/05/post-7f22.html

 

(参考)(他のMLでの議論です)(1)強きを助け弱きをくじく「税金徴収」行政(2)「市民と野党の共闘」が政権交代へ向けてなすべきこと(3)松尾匡立命館大学教授との経済政策を巡る議論 他(ゲノム編集無政府状態へ) いちろうちゃんのブログ (松尾匡立命館大学教授との経済政策を巡る議論(その1))

 http://tyobotyobosiminn.cocolog-nifty.com/blog/2018/08/post-ef6e.html

 

(参考)松尾匡立命館大学教授との経済政策を巡る議論(その2):問題は「反緊縮」政策の中身です いちろうちゃんのブログ

 http://tyobotyobosiminn.cocolog-nifty.com/blog/2018/08/post-54aa.html

 

(参考)(松尾匡立命館大学教授からのコメントをお送りいたします)Re:松尾匡立命館大学教授との経済政策を巡る議論(その2):問題は「反緊縮」政策の中身です いちろうちゃんのブログ

 http://tyobotyobosiminn.cocolog-nifty.com/blog/2018/08/re-fed4.html

 

(参考)(他のMLでの議論です)松尾匡立命館大学教授との経済政策を巡る議論(その3):Let’s Reject All for All Except1%」=日本経済再生への道は、まだいろいろある いちろうちゃんのブログ

 http://tyobotyobosiminn.cocolog-nifty.com/blog/2018/09/lets-reject-all.html

 

(参考)(他のMLでの議論です:この加藤出さんの議論は正論です)日銀の資産規模がGDPに迫る異常な膨張、海外からは「無謀」の声 いちろうちゃんのブログ

 http://tyobotyobosiminn.cocolog-nifty.com/blog/2018/08/fwgdp-8a93.html

 

(はじめに)

 常々、私から申し上げておりましたように、アベ自公政権に対抗して、世直しを目的としたホンモノの政権交代を実現するためには、「改革主体の形成」をはじめ、それなりの体制づくりなり、恒常的で粘り強い運動展開なり、多くの有権者・国民の関心と期待を引き付けるだけの魅力ある政策プログラムなりを用意して、周到に準備され、精力的に継続して、一致結束して展開されていく国民運動的なムーブメントを創り上げなければなりません。私から見ますと、今日の市民運動・社会運動や「市民と野党の共闘」は、未だこれまでの失敗を教訓とせず、覚悟も決まらないままに情緒的に、従来型の運動の「型枠」にはまったまま、やや絶望感を漂わせつつ、他方では、強い使命感に突き動かされながら、日々のイベントや企画をスケジュール的にこなしているように見えてならないのです。

 

従ってまた、この先このまま続けていても政権交代を勝ち取れるような気があまりいたしませんし、仮に奇跡的に選挙で勝利したとしても、その政権交代は長続きせずに崩壊してしまいそうで、やっていて空しいものも感じてしまうこの頃です(しかも、中途半端な改革政権の失敗は、その後にひどい「反動」政権を生み出しかねません、たとえば民主党政権の後のアベ政権のようにです)。そもそも、運動の先頭に立っている人間たちに覚悟が感じられない=社会的自己保身が優先している、そんな気がしているのです。私は「世直し」提唱市民間での議論や検討が不足しているのではないか(少なくとも私の若い頃に比べて)、もっと真剣に政権交代と世直しのプログラムについて、議論や検討が必要ではないか、そう思われて仕方ありません。きれいごとばかり言っていてもダメなのです。

 

そんな思いでいた時に、ふと発見したのがこの本でした。北田暁大氏のことは、この本に出合うまで全く無知でした。正直申し上げて、最初にこの本を見た時には、買って読んでみようかどうか少し悩みました。何故なら(北田暁大氏には失礼ながら)、著者の北田氏が東京大学に籍を置く社会学者のようであったからです。申し上げるまでもなく東京大学は今日の腐敗堕落した日本の大学の象徴的筆頭格ですし、そんな日本の大学にいる教授どもが吐き出す「御用言論」には、もうこれまで辟易とするくらいに付き合わされ、常々ぶっ飛ばしてやりたいと思っていたからです。また更に、そうした大学教授言論の中でも特にひどいのが、(私がいつも申し上げている市場原理主義アホダラ教に染め上げられた)経済学と並んで(現代)社会学であり、特に若手50歳未満世代が展開している社会学系の言論や研究のたぐいはひどいものが多く(その典型が福島第1原発事故後の福島を論じて厳しい批判を受けている若手社会学者の開沼博たちです)、よくぞここまで学者もひどくなるものだと、強く憤りを感じてきたからでもあります。最初にこの本を見た時の印象も似たようなものだったことは隠すことのできない事実です。

 

しかし他方で私は、一つには、表紙の裏にあったこの本の簡単な紹介解説の言葉「人びとの切実なニーズをすくい取り、「日本型ニューディール」を立ち上げること。ソーシャル・リベラリズムを起動し、ネトウヨ化した政治と決別するための、渾身の書」と書かれた文章に引き付けられたこと、また、本書の目次に書かれているコンテンツに興味深いものを感じたこと、そして、最初の3章が上野千鶴子氏批判を展開していること、などに引き付けられ、結局、読んでみることにいたしました。特に「人びとの切実なニーズをすくい取り」「日本型ニューディール」「ネトウヨ化した政治と決別」などは、私の「世直し感覚」とぴったり一致するものであったことが、この本を読む大きな契機になりました。

 

次の言葉は、この本に出てくる北田暁大氏が社会学的な観点より日本の現在の社会情勢・政治情勢を分析するにあたり使っていた言葉、ないしは関連する言葉(ボキャブラリー)です。みなさまは、それぞれのボキャブラリーについて、どれくらいの知識や問題意識や議論の広がりを認識しておられますか? これが全部ではありませんが、私が本書を読み進むにつれて着目したボキャブラリーであり、これらそれぞれについて、きちんとした知識なり認識なりを持っておかなければいけないなと、北田氏の議論を読むにつれて強く思うようになりました。

 

「(路上での抗議行動など直接民主主義的な有権者の意識の高まりを)議会制民主主義に回収する」「近代の超克」「リベラルの疲れ」「構造主義とポストモダン」「ミュールダール(スウェーデンのノーベル賞受賞経済学者)」「標準世帯モデル」「ロスジェネとその中年化」「反貧困」「昭和天皇玉音放送」「平成天皇のお言葉」「護憲的改憲論」「ニューアカデミズム」「カルチュラルスタディーズ」「ポストコロニアリズム」「脱成長論」「リベラル」「フェミニズム」

 

ともあれ、北田氏がこの著書を書いた動機というか、主旨というか、訴えたかったことは、上記でも申し上げましたように、別添PDFファイルにある「おわりに」というところに書かれている文章を見るとよくわかります。以下、それを一部抜粋しておきます。私もこの文章には共感するものがあり、従ってまた、この本を読んでおいてよかったなと思っているところです。そして、私がいろいろと考えさせられながらこの本を読んだ経験から申し上げて、この北田暁大氏の著書は「政権交代実現と、そのあとに何を目指すのかの議論に最適」ではないかと思いましたので、今回皆さまにもご紹介申し上げた次第です。以下、私が注目をした章ごとに若干のご紹介と私のミニ・コメントをお送り申し上げます。

 

(「おわりに」から一部抜粋)

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(中略)この盤石さ(自民党アベ政権の支持基盤:田中一郎)の要因にはいろいろなものがあろうが、「受け皿としての野党がない」ということ、そして自民政権下で一定程度経済状況が改善されていると思われていることも一因としてある。「受け皿としての野党がない」という議論に対しては、左派のなかにも、「とにかく自民と維新じゃなければいい」という志向が強いあまりか、小池都議選のさいの自民の敗北に喜々としているひとがいた。もうだめだ、この人、と思った。またちょっと前の話になるが、宇都宮健児氏を担いで臨んだポスト舛添の都知事選でも、なにを思ったか、宇都宮氏を掲げた梯子を外して、おおよそ政治家としての器があるとも思えず、また女性蔑視的な醜聞も流されたジャーナリストを推す学者たちもいた。自民を批判したいのはわかるし、その点ほとんど私も異論はないのだが、「受け皿」を用意することもなく、醜聞や失言を心待ちにし、政治に意識をもった若者を誉めそやし、政策協議もままならない野党連携を錦の御旗のように掲げ、ひたすら安倍氏を悪魔化していく左派のあり方はどうみてもNO FUTUREに映った。

 

(中略)学者、知識人というのは、世論が硬直化して動きようがないこういうときこそ、「なぜこうなっているのか」を分析し、「他の選択肢を示す」作業に、つまりは机上へ戻らねばならないのではないか。少なくとも「受け皿がない」というひとたちに「シニシズムだ」と冷や水をかけることは回避すべきであろう。それは「大衆は馬鹿だから仕方がない」という愚民論とその機能において差を持たない敗北宣言である。

 

(中略)野党そのものが受け皿として信頼にたるものとなるよう、不整合ではない政策的バルーンを用意する責務が、安倍氏に違和感を持つ研究者の役割であると考えたのだ。そんなこんなで当時の民主党の岡田代表になんとかたどり着き、四〇代〜五〇代の中堅研究者に集まってもらい、勉強会のようなものをさせてもらったのだが、民主党は実に頑強であり、私たちひよっこのいうことなど、意に介さず、市民連合の偉い先生たちの方向性は揺らぐことなく、成熟社会論、若者の政治運動、「下からの」社会運動の充実を寿ぐ言説がメディアを賑わせ、緊縮財政批判などまるで新自由主義の手先のように言われる始末だ

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

1.移民否定論と脱成長論を批判、政権交代のカギは経済政策だ

 東京大学名誉教授で社会学者の上野千鶴子氏が、本書著者の北田暁大氏から厳しく批判されている。下記はその書き出し部分の一部抜粋である。

 

(一部抜粋)

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

(中略)私自身は、上野氏に学問的にも人間的にも大きな恩義を感じているし、日本のフェミニズムを切り開いた上野氏の業績に畏敬の念を抱いている。しかしここ数年、しばしば見かける上野氏の、ぉそらくは無自覚の「新自由主義」的な議論に危うさを感じ、学恩を受けた一人として、その議論の問題について対談やSNSなどさまざまな場で、同時代の社会学者として疑問を投げかけてきた。それは、上野氏を思想的な文化遺産として捉えること、過去の偉人として批判を回避することほど、上野氏に対して失礼をことはないという信念にもとづいてのことであった。

 

その多くは私の非力ゆえにかわされてしまい、上野節の健在ぶりを証左することになっていたのだが、今回の「移民論」は、完全に一線を越えたものであり、影響力のある社会学者・フェミニストの発言として、とうてい看過しがたいものであった。上野氏に尊敬の念を持つ社会学者の一人として、読後の深い絶望感のなかで誰を宛て名とすることもなく「批判」を書きださずにはいられなかった。もっと抽象化し、無難に書くことも不可能ではなかっただろう。しかし、私は心より尊敬してやまない上野氏に、最大限の敬意をもって「お手紙」を書かせていただくことにした。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 北田氏には悪いが、私はどちらかというと、移民政策と経済成長に関しては、上野千鶴子氏に近い。理由は下記の通り、簡単なものである。

 

(1)移民受入論について=私は消極的

 外国人を移民として=つまりは労働力として「居住者」として受け入れるというのなら、まずは、いま日本にいる外国人に対して、きちんとした対応をとれるようにしてから検討をしていただきたい。第一に、大日本帝国の植民地政策の犠牲となり、戦後においてもなお、犠牲となり続けている在日朝鮮・アジア人とその子孫、次に1990年当時に法制化して受け入れた日系ブラジル人やその子孫、更に外国人研修制度や留学生として受け入れた主としてアジアの人々、これら日本に永住ないしは長期滞在する外国人合計で200万人を超えている。この人たちに対して、日本人と同様の市民権・基本的人権を保障せよ、ということ(参政権など一部には制約が付けられることはありうるが)。それができぬままに、更に移民の受け入れなど、私は許されないと思う。そして、過去の日本人のあり様から考えて、移民の受け入れは容易ではない。理想を掲げて安易に背伸びをすれば、大変な失敗を招き、無用の社会的混乱を招くだろう。そもそも、受け入れる移民を「どこで線引きするのか?」

 

(関連)外国人最多の249万人、東京は20代の1割 人口動態調査(日経 2018.7.11

 https://www.nikkei.com/article/DGXMZO32872510R10C18A7EA2000/

(関連)在日外国人 法の壁、心の溝-田中宏/著(岩波新書)

 http://ur0.work/M7hC

 

(移民受入論を肯定的に展開する人は、せめてこの本くらいは読んでおいていただきたいですね。私は、この在日の人たちに対する戦後70年以上にわたる理不尽をどうするのですか? どう償うのですか? と移民受入論者にはお聞きしたい。今も続いているどころか、この国はヘイトまでやっていて、その根絶ですらできていません。:田中一郎)

 

(2)脱成長論=私は人間的経済成長論を是とする

 私は、経済成長が成熟社会となった今日の日本では、もはや無用のものとなったとは考えていない。可能ならば、経済成長はあったほうがいいし、人間の営みの蓄積として、経済的な豊かさが求められて当然だろうとも思っている。その意味では北田暁大氏と同じである。しかし、他方で私は、経済成長を経済の営みの最高価値に置くべきではないとも考えている。かつてローマクラブが著した「成長の限界」の議論にもみられたように、大量生産大量消費のような産業スタイル・ライフスタイルからの脱却(資源制約)や、環境保全を経済成長よりも上位に置き持続可能性を必要不可欠とする、あるいは経済成長の基本にある人間労働の在り方をきちんとさせる、富や労働成果の分配を社会的に公正なものにする、働く者も産業や企業の活動の意思決定に参加していく仕組みを確保する、などなど、場合によっては経済成長と対立的、ないしは抑制的に働く要因のことも十分に考慮して、総合的な経済福祉(ウェルフェア)を志向すべきであると考えているので、いわゆる「経済成長至上主義」はよろしくないと思っている。ポジティブな人間生存の在り方と調和的であるかぎりにおいて、経済成長はあってしかるべきであるということ、従ってまた、今日のアベ政権が強引に進めている「アベノミクス」という「アホノミクス」による経済成長戦略については、断固として拒否すべきであると考えている。それは巨大多国籍企業などの一部の特権的企業のなりふり構わぬ営利行為を最優先する「(オレサマだけ)成長戦略」であるからであり、圧倒的多数の有権者・国民に経済福祉や幸せをもたらすものではないからである。

 

2.上野千鶴子氏批判と市場原理主義

 この本の1章から3章までは、上野千鶴子氏批判の章になっている。2章と3章は対談なので、あまりガチンコ論争にはなっていないけれど、底流には北田氏の遠慮がちな上野氏批判が流れている。具体的には本書をお読みいただきたいが、私は北田氏が、上野千鶴子氏の立論に新自由主義(市場原理主義)を感じるというのは鋭いなと思う次第である。私の上野千鶴子氏を見る目は厳しい。特に、シンポジウムなどで時折見せる、その独善的言論と態度の悪さは、議論そのものを壊してしまい不愉快であるだけでなく、東京大学教授という地位にあるにもかかわらず「けしからぬ」態度だとも思っている。

 

(関連)世代間連帯-上野千鶴子/著 辻元清美/著(岩波新書)

 http://ur0.work/M7i6

 

 私は上野千鶴子氏の書物をそれほど読んでいるわけではなく、時折見かける時には、つんつんしていてとんがっている怖いおば様、くらいのイメージしかなかったのだけれど、たまたま上記の岩波新書を読んで、上野千鶴子氏のイメージがダウンしてしまったというのが正直なところである。最初この岩波新書を手に取った時には、辻元氏があいまいでいい加減なことを言い、それを上野氏が厳しく突っ込んで諸問題についての議論に磨きをかけていく、そんなイメージを持って読み始めたのだが、しかし驚いたことに、その役回りは「まったく逆」だった。辻元氏の方が、いろいろな問題について、バランス感覚があり、まともで、上野氏の方がどこかおかしく、妙に情緒的に偏っている感じ、そして、その底流に市場原理主義があるように感じられた、そんな記憶が残っている。東京大学教授などという「勝ち組アカデミズム」にどっぷりとつかってしまったためなのかどうか、上野千鶴子氏については、その生きざまについて全く無知ながら、この岩波新書を契機に、上野氏への見方が「マイナス方向に厳しく」、逆に辻元氏に対する見方が「フレンドリー」に転換した。北田暁大氏の上野氏の議論に市場原理主義を感じるというのは、私は当たっていると思う次第である。下記サイトにあるように、開沼博氏と上野千鶴子氏が「師弟のような関係」にあるというのも故なきことではないかもしれない。

 

(関連)上野千鶴子 - Wikipedia

 http://ur0.work/M7ij

(関連)容赦なき師弟対談―上野千鶴子×開沼博|cakes(ケイクス)

 https://cakes.mu/series/3385

 

3.シニシズムからロマン主義へ

 北田暁大氏が展開しているネトウヨその他の「不生産的言論」の分析がコレなのだが、なかなか理解が難しい。シニシズムはわかる。政治や経済や社会のことを、真面目に真剣に、こうあるべきだと考えたり述べたりする人に対して、世界観や倫理観を押し付けるな、などと「価値相対主義」を振り回し、あらゆる改善論議を水疱に帰してしまおうとする乱暴な態度、しかもそこには、どうせできっこない、大した博識もないくせに、大風呂敷を広げやがって、政治なんてくだらない、云々の、価値を語る人に対して斜めに構えてバカにする態度を示すシニシズムが混在している、その延長で、街宣やチラシ配布の人をバカにしたり、妨害したり、悪態をついてみたり、いやがらせをしたりしている、そういう政治的立ち位置のことだ。しかし、これがどうして「ロマン主義」へ転化していくのか。

 

 私が解釈するところ、感覚的に申し上げれば、そういうシニシズムを死ぬまで続けていくことは、人間の精神状態としては極めて不自然・不健全で、やがて自分の周りに価値を語る人がいなくなるとシニシズムの相手がいなくなって虚無感が広がり、そこから一気に、さまざまな「念仏的教義」に突き動かされるようにして没入して、非現実的なロマンの世界を夢見る「極度価値没入型」に転落していくということではないか。ちょうど、20年ほど前にオカルトや新興宗教が流行したように、である。北田氏の意図するところとは違うかもしれない。本書を読んでみていただきたい。 

 

4.若者の保守化

 北田暁大氏の議論には大いに共感する。ある意味で保守化しているようだが、それは若者に特有ということではない、全年齢層に似たような傾向が見られる、ということのようだ。そして、保守化はしているかもしれないが、右翼化はしていない、という点も強調されている。その通りではないか。

 

しかし私は、今の若い世代については、保守化や右翼化よりも、何事に対しても「リアリティが欠如」しており、加えて「ハングリー精神がない」ために、何事に対しても努力不足でいい加減・中途半端で無責任なところが大問題だと見ている(一部の若い女性を除き)。その割には、言い訳は上手で、逃げることなら3人前みたいなインテリ若人も少なくない。これは私が前にいた会社で中間管理職として若い世代を部下として使った経験からも来ているし、今もいろいろな場面で強く印象付けられている。こうした若い世代は、判断のベースに置くべき・なるべき「リアリティ」が欠如しているため、たとえばフェイクニュースにたぶらかされやすく、また努力を嫌うので物事を単純化しやすく、往々にして情緒的に動いて、ことを大きく間違ってしまう、そういう破滅的危険性を潜在的に抱え込んでいるような気がするのである。私は、戦後教育の失敗に大きな原因があるのではないかと思っている。

 

5.革新から日本型リベラルへ

 北田暁大氏は本書の中で、戦後日本の政治的対立軸が、冷戦時代の「保守 vs 革新」から、ポスト冷戦期の「保守 vs リベラル」に転換したと論じ、しかし、日本の「リベラル」には一種の思想的混乱があるとして、「アメリカ系リベラル」(大きな政府・多元的価値受入)( 小さな政府・新自由主義)と「ヨーロッパ系リベラル」(政府介入の拒否・新自由主義)( 社会民主主義)の2つを挙げて、それぞれの「リベラル」の違いを簡単に説明している。そして、日本の「リベラル」は、かつての「革新」の改革的寛容文化に「アメリカ型リベラル」が加わった形が原型ながら、そこから社会民主主義的な要素や大きな政府による人的投資の概念が抜け落ちてしまった、と論じている。

 

私の「リベラル」の定義は、もっとシンプルで、良識的、良心的、進歩的(何が進歩か=個人の権利と尊厳、環境保全、社会正義や公正などを拡充する方向)であること、というもの。ポスト冷戦期の政治的対立軸が「保守 vs リベラル」に変わったという点については異議はないが、しかし、その場合の「日本型リベラル」については北田氏よりももっと厳しい見方をしていて、日本型リベラル=かつての「革新」の日和見部分+市場原理主義アホダラ教、というのが私の見方である。それは1990年代初頭の政治改革の失敗(似非改革=小選挙区制と政党制への歪曲)の結果生まれたニセモノ改革勢力だ、ということだ。そのナレの果てが民主・民進党ということになる。

 

それともう一つ申し上げておくべきは、「リベラル」概念を問い直すのであれば、同時並行で「保守」概念もまた問い直しておくべきである。中島岳志氏によれば「保守主義とは、人間の不完全性を直視し、その能力の限界を謙虚に受け止める。したがって、過去の制度は不完全と考えるので『復古主義』は取らない。当然、現在の社会も不完全なので、『反動主義』でもない。保守は社会変化に応じた漸進的改革を目指す。」とのことらしいが、もしそうなら、そんな「保守」など、この日本において存在したためしがない。少なくともこれまでの政治対立軸としての「保守」はそんなものではなかったのだ。日本の「保守」をウソまでついて美化してはいけない。議論に混乱を招く。

 

(参考)リベラル保守とは何か

 http://blogos.com/article/67849/

 

私が、これまでの日本の「保守」と言われた勢力を総括的に定義するとすれば、それは、常々申し上げている日本社会の悪しき伝統である「3つの傾向」に執着し、常に支配権力を持ち続けんがために(正確には支配権力の側に自分を置かなければ不安でたまらないので)何でもする、「堕落した人間の集団」のことである。そしてその「3つの伝統的傾向」とは、上に向かっての頂点盲従主義、横に向かっての強い同調圧力、下に向かっての無限の責任転嫁と無責任、である。つまり、日本において、かような「保守」と「革新」ないしは、「(中途半端な似非)リベラル」が対峙しているという、この政治情勢こそが、日本社会が未だきちんとした市民革命(民主主義革命)を達成し得ていないということの証左であり、従ってまた、日本は先進国などではとうていなく、東アジアの片隅にある「経済的成り上がり」が支配する、野蛮で下劣な国=発展拒否国である、ということを意味している。

 

6.最終章の各論座談から:ロスジェネと40歳代これから論

 北田暁大氏と反貧困の雨宮処凛氏の短い対談だが、非常に興味深かった。そしてその1つの政策的結論である「ロスジェネと40歳代これから論」には大いに賛成である。私は「地域振興公社」(仮称)創設により、数十万人~100万人余の正規公務員の採用を経済政策として採用すべきであると考えていて、採用した公務員は、地域定住を前提に地方に派遣され、各地方の実情に合致した地域振興・地域経済活性化の仕事をしてもらう、というプランを提唱している。お二人にも是非ご賛同願いたいものである。

 

7.日本型ニューディール

 最後に、北田暁大氏に期待していた「日本型ニューディール」政策だが、本書には、そもそも経済政策論がないのである。上記でご紹介した松尾匡立命館大学教授との共著の別書を見よということかもしれないし、また、リベラル懇話会の政策提言を見てくれということなのかもしれないが、具体的な政策提言とその詳細な説明などを期待していただけに、少し残念であった。北田氏の次の著作に期待したい。

草々

 

 

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