前略,田中一郎です。
(別添PDFファイルは添付できませんでした)
さる6月6日、大洗・原研核燃料サイクル施設で起きたプルトニウム等アルファ核種による内部被曝事故について、その後、いろいろな情報が出てきましたので、ここで再度、それをとりまとめ、私たちの頭の中の整理をしておきたいと思います。
この事故では、日本で放射性物質の取扱に関しては、最も模範的・合理的・適切でなければならないはずの(独)日本原子力研究開発機構が、実はずさん極まりない、まるでドシロウトさながらの取扱や管理を繰り返していたこと、そして、被ばく事故などのトラブルが発生した場合の対応でも、全くお粗末なことしかできずに、無用に作業員の内部被曝をひどくしてしまっていたことなどが明らかになっています。(独)日本原子力研究開発機構と、その前身である動力炉・核燃料開発事業団は、今回の事故に限らず、これまでも様々な事故やトラブルや不始末を繰り返し、その都度、多方面から厳しく批判され、真摯な反省と再発防止を誓うようなポーズを取りながらも、やはりその後も、レベルの低い事故やトラブルを防げないまま、今日に至っているのです。
問題は、かような組織が、いまだに高速増殖炉「もんじゅ」の廃炉を担い、あるいは、旧型高速増殖炉である「常陽」の再稼働を計画し(出力を抑えるという口実をつけて、避難計画その他の周辺自治体への説明等の対応をサボタージュしようとしたため、再稼働申請が規制委より突き返されています)、更には、次世代高速炉研究と称してフランス・ASTRID計画への参加にまで乗り出そうとしていることです。この(独)日本原子力研究開発機構のような出鱈目な組織にこうしたことを認めれば、近い将来、取り返しのつかない人為的な大事故を引き起こすことは目に見えています。かような組織は、一刻も早く解体・廃止し、彼らが推し進めてきた核燃料サイクル事業そのものについても完全撤退して、核の巨大事故の懸念と恐怖から日本全体が解放されるべきです。
以下、簡単にご報告・取りまとめをいたします。
1.これまでのご報告
この大洗・原研核燃料サイクル施設での被ばく事故については、これまで3回にわたり、みなさまにご報告申し上げてまいりました。以下にレビューしておきます。
(第1報)3つあります:(1)「TPP締結差止・違憲確認訴訟」 東京地裁判決(「うんこ判決」) (2)大洗・原研核燃料サイクル施設で放射能事故 (3)ますます狂暴・「共謀罪」
いちろうちゃんのブログ
http://tyobotyobosiminn.cocolog-nifty.com/blog/2017/06/tpp-5ea0.html
(第2報)「原発・原子力の出鱈目てんこ盛り」シリーズ再開(59):大洗・原研核燃料サイクル施設での被ばく事故・続報、未知の放射性粒子に迫る -
NHK クローズアップ現代+、渡辺悦司さん講演会報告 他 いちろうちゃんのブログ
http://tyobotyobosiminn.cocolog-nifty.com/blog/2017/06/post-cc7b.html
(第3報)(メール転送です)(特別報告)プルトニウム被ばく事故(神戸大学山内知也氏の問題提起)+
イベント情報など(2017年6月20日))
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山内さんによるスライドの補足
体内のPu-239等を計測する場合、特性X線を測ることになります。そのエネルギーはかなり低いので(UからのLX線、13.6 KeV)人体で遮蔽されます。この効果は大きいのですが、あえて触れておりません(JAEAや放医研が説明すべきことだからです)。また、JAEAのA, B, C, D, Eという呼び方と、放医研の1, 2, 3, 4, 5の対応は並びからそう仮定したにすぎません。水素の発生については、多くの方に関心を持ってもらいたいと思います。
画像
http://urx.red/Ef2y
音声
http://urx.red/Ef2D
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2.今回の事故が示した(独)日本原子力研究開発機構のデタラメ3側面
(1)放射性物質や放射能汚染物・放射性廃棄物の保管・管理の仕方が全くのデタラメ
(今回の事故は、約1年前に原子力規制委員会の指摘を受けて、ずさんなままに放置されていた放射性物質の管理方法の見直し作業に着手した段階で起きた事故だった。しかし、(独)日本原子力研究開発機構には、他にも数十万個にもおよぶ放射性物質や汚染物がずさんなままに放置されているという。同機構は1997年に放射性廃棄物のアスファルト固化施設の爆発事故を起こした際も、放射性廃棄物の保管状況がずさん極まりないということが発覚して大問題となり、その時はわざわざ予算まで付けて、それらの後片付けをさせた経緯がある。
しかし、同機構は、下記の朝日新聞記事にあるように、昨年末にも東海村の再処理工場で、ずさんな放射性廃棄物の管理放棄状態が明らかになっている。要するに、この組織は、危険な放射性物質やその廃棄物を扱っているにもかかわらず、それらを安全に管理・保管する能力も意思も責任感もないということを示している。「仏の顔も3度まで」とよく言われるように、ここまでずさんな管理を繰り返し見せつけられた以上は、もはや、この組織を存続させておく必要はない。いや、必要がないどころか、事業を今後も継続させれば、近未来に必ず核大惨事を引き起こすこと必定と言える)
(関連)放射性廃棄物の缶は腐食?プールに雑然 東海再処理施設:朝日新聞デジタル
http://www.asahi.com/articles/ASJD45RHQJD4ULBJ005.html
(2)放射線被曝事故という深刻な事態が起きても、その被害を最小限に食い止める対応能力も知識もない
(3)作業員の深刻な被ばくに対して、(独)日本原子力研究開発機構と放射線医学総合研究所という2つの「ムラ組織」が、その被ばく被害の深刻さを相対化し、あたかもたいしたことがなかったかのような演出をやり始め、今回の事故の被ばく実態を隠蔽し始めている。
3.クローズアップ現代+「プルトニウム被ばく事故
ずさんな管理はなぜ?」 06.20 - YouTube
https://www.youtube.com/watch?v=xdo4i4jRQyY
http://u0u0.net/Ej1C
(関連)プルトニウム被ばく事故 ~ずさんな管理はなぜ?~ - NHK クローズアップ現代+
http://www.nhk.or.jp/gendai/articles/3994/index.html
(関連)発表・お知らせ|プレス発表、事故・トラブル関連(2017年度)|国立研究開発法人日本原子力研究開発機構
https://www.jaea.go.jp/news/incident/
4.(別添PDFファイル)絶句、大参事「水素爆発」の可能性があった!
プルトニウム被曝事故、「原子力機構」のズサン体質(青沼陽一郎 『サンデー毎日 2017.7.2』)
http://www.zasshi-online.com/magazine/ProductDetail/?page=1&dcode=sunday_mainichi1170620&dpage=1
(『サンデー毎日』に掲載されたこのレポートが、危険な事故の実態に迫るいい報告をしてくれています:田中一郎)
■.最悪の場合「部屋を吹き飛ばしてプルトニウムを近隣にまき散らす」ような大惨事の危険があった
| 被ばく事故の記事『サンデー毎日』今週号に
└──── 渡辺悦司(市民と科学者の内部被曝問題研究会)
『サンデー毎日』今週号(7月2日号)を紹介いたします。同誌には、青沼陽一郎氏の「プルトニウム被ばく事故」の記事が掲載されていますので、皆さまも、ぜひお求めください。そのなかでは、この前に私が紹介した神戸大学の山内知也教授が、
(1)ビニール袋を破裂させたのは「ヘリウムではなく水素」であって、
(2)空気中の酸素と反応して「水素爆発の危険」があり、
(3)最悪の場合「部屋を吹き飛ばして、プルトニウムを近隣にまき散らす」ような大惨事の危険があった、と発言しています。
同教授の発言は鋭く、原子力機構は「バカですよ」「ド素人にもほどがある」と切り捨てられていますが、まったく、そのとおりです。
<別添PDFファイル:その他>
(1)「人命軽視 甚だしい」、原子力機構への不安増殖(東京 2017.6.23)
「jinmeikeisi_tokyo.pdf」をダウンロード
http://www.tokyo-np.co.jp/article/tokuho/list/CK2017062302000140.html
(2)原子力機構大洗センターで作業員5人が被曝、ずさんな管理と隠蔽体質またも(『週刊金曜日 2017.6.16』)
「genken_hibaku_kin.pdf」をダウンロード
http://www.kinyobi.co.jp/tokushu/002324.php
(3)大洗被ばく、規制委が立ち入り検査、安全確保の資質疑問視(東京 2017.6.22)
http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/list/201706/CK2017062202000117.html
(4)尿からプルトニウム、大洗5人全員内部被ばく(東京 2017.6.20)
http://www.jiji.com/jc/article?k=2017061900772&g=eqa
(5)無点検容器 100個超す、放射性物質、50年以上放置、原子力機構(日経 2017.6.15)
http://www.nikkei.com/article/DGXLASDG14HAD_14062017CR8000/
(6)大洗事故作業員、肺からアメリシウム検出、プルトニウム変化の物質(東京 2017.6.13)
http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/list/201706/CK2017061302000112.html
(7)作業員の肺、一転不検出、プルトニウム 体外に付着、計測か(朝日 2017.6.10)
http://www.asahi.com/articles/DA3S12981358.html
(8)大洗被ばく、汚染室内に3時間待機、放射性物質吸引続けた恐れ(東京 2017.6.9 夕刊)
http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/list/201706/CK2017060902000251.html
(9)原子力機構、放射性物質 管理ずさん、規制委
12施設に改善要求(毎日 2017.6.9)
https://mainichi.jp/articles/20170609/ddm/041/040/064000c
<関連サイト>
(1)【茨城新聞】大洗研被ばく、ガス発生で圧力上昇か 核物質容器内で26年保管
http://ibarakinews.jp/news/newsdetail.php?f_jun=14969286334843
(2)原子力機構:放射性物質、管理ずさん 35年以上も放置も - 毎日新聞
https://mainichi.jp/articles/20170609/k00/00m/040/124000c
(3)尿からプルトニウム 被ばく作業員再入院(フジテレビ系(FNN)) -
Yahoo!ニュース
https://headlines.yahoo.co.jp/videonews/fnn?a=20170619-00000786-fnn-soci
(4)原子力機構 13年前も袋膨らむ現象|日テレNEWS24
http://www.news24.jp/articles/2017/06/14/07364169.html
(5)茨城被ばく:「危険への感度や予知能力に問題」理事長陳謝 - 毎日新聞
https://mainichi.jp/articles/20170620/k00/00m/040/049000c?fm=mnm
(6)5人、汚染室内に3時間 事故後、除染準備待つ 原子力機構:朝日新聞デジタル
http://www.asahi.com/articles/DA3S12979452.html?ref=nmail_20170609mo
(7)2万2千ベクレルの衝撃。国内最悪の内部被爆を各紙はどう報じたか - まぐまぐニュース!
http://www.mag2.com/p/news/252388
(8)原子力機構施設の被曝事故に関するトピックス:朝日新聞デジタル
http://u0u0.net/Ej20
5.たんぽぽ舎:山崎久隆さん コメント
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■1.旧動燃大洗の「常陽」放射性物質の拡散被曝事故
| 原研機構に違法取扱の疑惑浮上
| プルトニウム取り扱いのイロハである
| 「グローブボックスで扱う」原則を無視した
| 原研機構にプルトニウムを扱う資格なし
└──── 山崎久隆(たんぽぽ舎)
6月6日に発生した旧動燃の高速増殖実験炉「常陽」に併設された「燃料試験棟」でのプルトニウム拡散被曝事故は、プルトニウム取り扱いのイロハである「グローブボックスで扱う」原則を無視して行った結果、過去に例のない「拡散被曝事故」になった。
1.事故の経緯
グローブボックスではなく開放型の作業台で行ったことは放射線防護の規定に反している。拡散したプルトニウムは、少なくても1991年頃に容器に詰められたという。その後は一度も開放点検はされておらず、今回、施設の廃止に伴う保存放射性物質の確認作業を規制委員会に指示されて、調査の一環として六角ボルト締めされていた容器を開放したところ、内部のポリエチレン容器を包んでいたビニールバッグが内圧により破裂し、勢いで粉末状プルトニウムが拡散したとされる。内蔵されていたのはプルトニウムとウランの混合酸化物で、使用済核燃料の再処理により生成されたものとされるので、アメリシウムなど超ウラン元素を含む危険な物質だ。
これをグローブボックスではなく開放型の作業台で行ったことは、放射線防護の規定に反している。バッグが破裂し拡散することを予想していなかったと原研機構はいうが、それこそが安全に対する取り組みがなっていない証拠でしかない。容器を開ける以上、内容物の拡散を想定することは当然だ。ましてや、1991年に詰めて以来、一度も内容物を確認していないのだというから、「不測の事態」を前提とするのは当然だ。これもまた、旧動燃から続く原研機構の安全軽視の姿勢が反映した結果だ。
2.ガス発生の原因
プルトニウムを詰めた容器は、ポリエチレン製とされる。さらにそれをビニールバッグに入れたという。ウランもプルトニウムも強力なアルファ、ガンマ線を発する。アメリシウムは中性子線も発する。アルファ線にさらされるとポリエチレンは劣化する。その際に水素が発生する。さらにアルファ線はヘリウムの原子核だからヘリウムガスも発生する。逃げ場のない密封空間で26年も密封すれば数百立方センチの気体発生で高い圧力になることは常識的に分かるはずだ。
ガスでバッグが膨張したことは、過去にも似た例であったというから、ここからも経験的にわかっていなければならない。その時ガスの成分調査などをしたのか、水素ならば爆発の危険も高い。しかし事故は起きた。核燃料物質を扱う経験も知識も失われたところに大量の核燃料物質と高レベル放射性廃棄物を持たせることは、私たちに対してもとんでもない脅威を与えることになる。
茨城県は、東海再処理工場に貯蔵されている液体の高レベル放射性廃棄物を、早く、より安全なガラス固化体に加工するよう求めているが、動いては止まりを繰り返す再処理工場のラインでは、一体何時終わるかさえ見通せない。さらに、危険極まりない廃液やガラス固化体を扱う事業者に、核物質を扱うイロハさえ無理解なのでは、大事故を準備しているようなものである。
動燃から原研機構に組織の看板が変わっても、実態が何ら変わっていない。さらに別の事業体を作ったとしても本質は変わらないのでは意味がない。「動燃を解体して出直せ」とは1997年の橋本政権下で起きた放射性廃棄物のアスファルト固化施設爆発火災事故の際の度重なる動燃不祥事を受けてのことだった。「もんじゅ」を巡り原研機構では「不適格」と規制委が指摘したのは2015年11月である。この間で一貫しているのは放射性物質を扱うには不適格な組織だということだけだ。
【高分子系材料(ポリエチレンもその一種)と放射線の関係については「高分子系材料の耐放射線特性とデータ集」に詳しい。これを作成したのは原研機構である】
http://jolissrch-inter.tokai-sc.jaea.go.jp/pdfdata/JAERI-Data-Code-2003-015.pdf
3.プルトニウムの出所
「使うあてのないプルトニウム」を相当量保有していれば、核不拡散の国際公約違反である。このプルトニウムは、何の目的で貯蔵されていたのか明らかにされていない。 日本は「使う目的のないプルトニウムは持たない政策」と、ことあるごとに説明してきたが、今回のプルトニウムは明らかに「使うあてのない」プルトニウムだった。
ウラン、プルトニウムに加えアメリシウムも含まれていたようで、使用済燃料の再処理により抽出されたものだと考えられるが、1991年に現在の貯蔵容器に詰められたと説明されているだけで、出所つまり何処の燃料の再処理プルトニウムなのかや、どこで抽出されたものかを一切明らかにしていない。
「使うあてのないプルトニウム」を相当量保有していれば、核不拡散の国際公約違反であるし、今回の作業がIAEAの査察対象だったかどうかなど、直ちに明確にしなければならない問題がたくさんある。しかし未だに何の発表もない。プルトニウムを「増殖」するために1977年に運転を開始した「常陽」は、炉心燃料とは別に増殖用炉心、ブランケット燃料を取り付けていた。核兵器にも転用可能な高純度プルトニウムを作る炉心を持つ原子炉は核武装に最も近いから、その運転記録も保有する核燃料物質も極めて厳格な査察の対象だ。透明性しか核兵器開発を防止する方法はない。
しかし、その同じ空間に「使うあてのない」粉末の「ウラン・プルトニウム混合酸化物の粉」が存在していた。核武装監視をしている中枢部に出所不明のプルトニウムが隠匿されていたとすれば国際的な大事件だ。
4.核兵器に転用可能な物質ではプルトニウムとウランが最も重要なのはいうまでもない。少量でも監視体制の網から抜いていけば、時間が経てば核兵器に化けてしまう可能性があるとしてIAEAの厳しい監視対象になっている。もともと旧動燃はプルトニウムを独占的に扱う目的で作られた事業団体であり、ここは秘密主義に凝り固まっている。
動燃時代の事件事故では、必ず秘密主義により真相が覆い隠されていた。プルトニウムが大量に「常陽」の施設に保管されていたことは、国際機関にも秘密だった可能性がある。その場合、最も重大な「保障措置協定違反」であり、国連安保理などでの議論で、制裁の対象となる可能性もある。
5.原研機構は6月15日のプレスリリースで、プルトニウムとウランの割合を「26.9%、73.1%」としただけで、組成や成分の詳細は分析中で分からないとしつつ、将来の広報について「核不拡散上の理由」で、核物質の総量を明らかにすることを拒否している。
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6.渡辺悦司さん コメント
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■1.読売新聞が被曝事故原因は予算不足、
| 不安を煽ったのは規制委と非難。的外れ・不当な主張「社説」では作業員の内部被曝はいつの間にか
| 「なかったこと」にされている。間違った主張だ。安倍政権と原子力マフィアが放射能で日本を滅ぼすのが先か
| 安倍と原子力マフィアを国民が除去するのが先かという選択に
└──── 渡辺悦司(市民と科学者の内部被曝問題研究会)
1.安倍首相が国会で公然と「読売新聞を熟読せよ」と発言したことは有名です。
このことからも明らかなように、読売新聞は、公に、安倍政権と原子力マフィアの「御用新聞」と認められています。つまり、読売新聞を読めば、彼らが何を目論んで「共謀」しているかがはっきり読み取れるというわけです。読売新聞2017年6月14日付社説「原子力機構にたるみはないか」も、その典型的な一例でしょう。
http://www.yomiuri.co.jp/editorial/20170613-OYT1T50167.html
その表題から見ても、また文頭の「危険な核物質を扱っている、との自覚が足りないのではないか」との表現を見ても、この社説は、事故を起こした原子力研究開発機構を、その組織に蔓延している安全管理の杜撰さやたるみを、真正面から批判しているように、思われるかもしれません。
だが、そうではありません。
2.読売の社説は、原子力機構に「たるみがある」「自覚が足りない」と述べた後、その原因の検討に移ります。
同社説は、それが、原子力機構の組織や安全管理体制ではなく、予算や人材の不足にあると断じ、原子力機構を批判する人々の側に矛先を転じます。こう言うのです。「もんじゅで1995年に発生したナトリウム漏れ事故の後、政策の見直しが相次ぎ、機構は、事業の縮小・再編を余儀なくされた。予算や人員が不足して、核物質や放射性廃棄物の管理が行き届かなくなったことは否めまい」と。
もし、この主張の通りだとするなら、事故の原因は、原子力機構の側、すなわちその安全無視の組織的体質にあるというよりは、同機構の予算や人材を削減したことに、削減を主張し実行した人々の側に(も)あるということなのです。
また、事故をなくすためには、さらに多くの予算と人材を原子力機構に投入するべきだ、そうでないと事故はなくならない、という主張にも読めます。事故を起こした原子力機構は、このように、安倍政権の御用新聞によって言い訳してもらい、事故の責任から免責されるだけでなく、事故を理由として予算増と人材補充を主張してもらえるわけです。
「(同機構の)予算や人員が不足して、核物質や放射性廃棄物の管理が行き届かなくなった」という読売新聞の主張は、結局、今回の事故により、原子力機構の予算不足・人員不足を世の人々はもっと理解し、もっと予算や人材を配分するようにしなければならないという「火事場泥棒的」論理で書かれていると言っても過言ではありません。典型的な「モラルハザード」です。
3.さらに、同社説では、作業員の内部被曝は、いつの間にか「なかったこと」にされています。
「千葉県にある放射線医学総合研究所が全員を再計測した結果、プルトニウムは検出されなかった。一部の人からアメリシウムという放射性物質が検出されたが、微量だ。放医研によると、健康への大きな影響はないという。」前回指摘しましたように、肺モニターのプルトニウム肺内被曝の検出限界は5千~1万ベクレルです。
このことは、全く忘れられて、いつの間にか被曝はアメリシウムで「微量」にされ、プルトニウムでは「不検出」すなわち「ない」とされています。 さらに、将来についてまで、「大きな健康影響はない」と断定されてしまっています。もちろん「大きな」という限定詞が何を意味するかは不明ですが、「がんなどの」と読むのが普通でしょう。
プルトニウムの被曝量は、原子力機構の評価では、アメリシウム被曝量の100倍程度です。同社説の「微量」とされる数字でも、実際には、その100倍です。放医研は、そのことを知っているので、アメリシウムの内部被曝量は「個人情報」を口実に公表していません。つまり、アメリシウムで数10ベクレルでも、プルトニウムでは数1,000ベクレル
です。いま、この「微量」を食品基準の100ベクレルでとれば、プルトニウムでは1万ベクレルです。何度も言うようですが、7400ベクレルが肺内にあれば、ビーグル犬にがんを引き起こすのですから、決して「微量」ではありません。
4.読売新聞の言い訳はこうです。
「当初、高い数値が出たのは、皮膚の皺(しわ)などに付着した微量のプルトニウムが原因だとみられる。これによる放射線を、内部被曝と誤認した。わずか100分の1ミリ・グラムのプルトニウムでも、今回の最大値が計測されてしまう。」 この具体的数値100分の1ミリ・グラム(10マイクログラム)のプルトニウムの被曝量は、およそ2万5000ベクレルに相当しますので、この評価だと、当初観測された2万2000ベクレルのプルトニウムは、全て皮膚に付着していたもので、プルトニウムの内部被曝は「ゼロ」となります。
ところが、放医研は、プルトニウムの体外排出を促進するキレート剤DTPAを処方した事実を認めており、ここからは、明らかにプルトニウムの内部被曝が現実にあったことが示唆されます。放医研自身が編さんした『人体内放射能の除去技術』にもその説明があります(49~55頁)。
このように、読売新聞は、プルトニウムによる内部被曝を全否定した後、今回の「教訓」を導き出します。「危機管理上、機構の対応には、やむを得ない面はあるものの、内部被曝の不確かな計測値が独り歩きして、混乱を助長したことは間違いない。今後の教訓だ」と。それは、被曝事故があっても、今後は被曝量を「混乱を避けるために」「公表
しないようにせよ」と、間接的に要求するものです。
5.最後に、同社説の矛先は、「常陽」の再稼働に消極的とされる原子力規制委員会へと向けられています。
「原子力規制委は、当初の計測値を『半端な状況ではない』と判断した。無用に不安を煽あおったと言わざるを得ない。」 こうして、今回の被曝事故の責任は、予算・人材を「削減した」財務省と被曝事故で「無用に不安を煽った」原子力規制委員会に転嫁されています。
福島第一原発事故の健康被害をめぐって、政府・政府側専門家・研究所・マスコミに見られている「共謀」が、今回の被曝事故でも同じように見られています。読売新聞は、あたかも事故が起きても予算・人材不足のためなのだから、事故は「起きてもかまわない」と示唆しているようなものですが、このことは、今回の事故だけにとどまりません。 安倍政権と原発推進勢力の御用新聞のそのような姿勢は、同機構の同じ大洗事業所にある高速炉「常陽」の再稼働の場合に起こるかもしれない事故の言い訳を今からしているようなものなのです。
6.われわれは、福島第一原発事故でも、原発再稼働でも、六ヶ所再処理工場稼働でも、すべてそうですが、安倍政権・原子力マフィアの御用新聞が、このように、被曝事故を起こした張本人、今回は原子力機構を言い訳して正当化し、それによって次の事故が「起きてもかまわない」「不安を煽る方が悪い」「混乱を避けるために情報は非公開に」と社説で主張するような、本当に恐ろしい危機的事態に直面しているというほかありません。
7.安倍政権と原子力マフィアが放射能で日本を滅ぼすのが先か、安倍と原子力マフィアを国民が除去するのが先か、という選択になっているのです。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
草々