木材が危ない・林業木材産業労働者が危ない=森林の放射能汚染を軽視・無視して進められる林業・木材産業復興の危険性(その2)
前略,田中一郎です。
(別添PDFファイルは添付できませんでした)
前回に引き続いて「木材が危ない・林業木材産業労働者が危ない=森林の放射能汚染を軽視・無視して進められる林業・木材産業復興の危険性」の(その2)をお送りします。以下、別添PDFファイルの記事に沿って、極力簡単にコメントします。
何度も申し上げて恐縮ですが、今の福島県庁、及び福島県内のほとんどの市町村の放射能汚染管理や被ばく防護の姿勢は出鱈目そのもので、あまりにもその危険性を軽視・無視しすぎています。科学的で実証的な証拠がないにもかかわらず、子どもたちまでもを「ダシ」に使って安全・安心をPRし、福島県の原発震災からの復興を「演出」しています。人間の五感では感じないから「直ちに健康に影響はない」などと適当なことを言ってごまかしていると、やがて恒常的な低線量被曝(外部被曝・内部被曝)によって人間の体はボロボロになってしまいかねません。危険極まりない行為なのです。更に、福島県以外の宮城・栃木・茨城(及び岩手南部、群馬、千葉北西部、埼玉や東京の西部山林地帯なども)などの各県では、県庁も各市町村も森林や木材の放射能汚染については、ほとんど何も手を打たずに林業・木材産業界にその対応を丸投げをしたままです。しかし、福島第1原発事故による放射能は県境で止まったわけではなく、こうした各都県の森林は場所によっては福島県並みか、あるいはそれ以上の汚染に見舞われてしまったところもあるのです。
また、こうした行為は、他方では福島第1原発事故の加害者・東京電力や事故責任者・国の責任と賠償義務をゴマカシ、棚上げにして、その負担を軽くしてしまう結果にもなります。原発事故を引き起こした東京電力や原子力ムラやその代理店政府などは、これこそを最優先にして事に臨んでいるのであり、決して福島の復興や被害者県民の命・健康・生活・仕事などを最優先で考えているわけではありません。放射線安全神話・放射能安心神話にだまされてはいけないのです。
現在、放射能汚染の問題では、政府・環境省による放射能汚染廃棄物の「再利用」(リユース・リサイクル)のことが大問題になっています。具体的には、これまでは放射能汚染物の再利用などは絶対に認めない(単純に捨てる場合でさえ100ベクレル/kg以下が基準)という方針だったものが、福島第1原発事故直後から8000ベクレル/kgまでなら一般ゴミと同様に捨てていいことにされ、更に今度は、その捨てていい8000ベクレル/kg以下の放射能汚染ゴミを「再利用」(リユース・リサイクル)してもいいことにする「案」が政府・環境省より提案されているのです。とんでもないことです。
しかし、その8000ベクレル/kgの基準は(放射能汚染ゴミの「足切基準」という)、実は森林・林業・木材産業の世界では、既に事故後まもなくの頃から、まるでデファクト・スタンダードであるかのごとく、かつ、あまり人に知られることもなく、大手を振ってまかり通っていたのです。おかげで福島県及びその周辺の放射能汚染地帯から出荷されてくる木材類には常に放射能の汚染の可能性が付きまとうものになってしまいました。しかもこの地域は、関東や東北でも有数の木材産地なので、その影響は軽視できません。放射能汚染木材が流通している可能性が否定できないのです。みなさま、これからは木材製品を使ったもの=例えば、住宅・建造物、木製車両、家具、木製加工品、木製食器、箸、木炭、マキ、家畜の下敷きおが粉、線香、角松などは放射能の汚染の可能性がありますので、少なくともお求めになる際には線量計を必ず持参して、少なくとも周辺の空間線量くらいは試に計測するクセをつけておきましょう(新しい木造の建物の中に入る時もそうした方がいいでしょう)。それが一種の自分の体を木材の放射能汚染から守る有力な手段となるでしょう。いやはや、全くいやな世の中になったものです。
<別添PDFファイル>
(1)山菜から高放射能、栃木県の直売所
自主回収(東京 2016.5.7 夕刊)
(2)シイタケ原木どうする、長期的視点さえなく、山の除染放置に憤り(日本農業 2016.2.2)
(3)避難解除の田村、楢葉、川内、伐採可能地点57.6%、27年空間線量 県木連分析(福島民報 2016.5.2)
(4)除染範囲を里山に拡大、モデル地区設定、3省庁のPJチームが新方針(『林政ニュース 2016.3.23』)
(5)「競技場 被災地産木材使いたい」新国立設計の隈氏(東京 2016.2.24 夕刊)
<関連サイト>
(1)林野庁-東日本大震災に関する情報
http://www.rinya.maff.go.jp/j/kouhou/jisin/index.html
(2)林野庁-木材製品の取扱いに係る留意事項等(Q&A)について
http://www.rinya.maff.go.jp/j/mokusan/sinsai/mokuzai.html
(3)林野庁-きのこ・山菜等の放射性物質の検査結果について
http://www.rinya.maff.go.jp/j/tokuyou/kinoko/kensakekka.html
(4)福島県木材協同組合連合会(県木連)
(5)福島県木材協同組合連合会:安全・安心な木材
http://www.fmokuren.jp/publics/index/24/
(6)福島県森林組合連合会(県森連)
http://www.fukumoriren.org/main/top3.html
1.山菜から高放射能、栃木県の直売所
自主回収(東京 2016.5.7 夕刊)
http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/list/201605/CK2016050702000255.html
(一部抜粋)
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栃木県は六日、先月二十五日に同県栃木市の道の駅「にしかた」の農産物直売所で販売された山菜のコシアブラ2パックから、基準値を超える放射性物質が検出されたと発表した。県は食べても健康への影響はないとしているが、直売所が自主回収している。
厚生労働省の買い取り調査で、基準値(一キログラム当たり一〇〇ベクレル)をそれぞれ一五〇〇ベクレル、二一〇〇ベクレル上回っていることが判明。これまでに八十四パックが販売された。県によると、出荷制限区域の山で採れたものを、県内の個人二人が制限区域外産と表示して販売していた。県は二人について、食品表示法違反などの疑いで調査している。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
(田中一郎コメント)
最初はキノコ・山菜の話をしておきましょう。キノコ・山菜が川魚やジビエ(野生動物の肉)、家畜内臓肉、乾燥食品・乾燥飼料、魚介類、牛乳・乳製品などと並んで放射能を蓄積しやすく、福島第1原発事故による放射能汚染に見舞われてしまった中部地方東部や関東、東北地方で獲れるキノコ・山菜類は、まずもって危険であることは、みなさまもよくご存じでしょう。山菜・キノコの中でも、より放射能をたくさん蓄積する傾向にあるものとそうでないものがあり、上記に出ているコシアブラやタラの芽、あるいはシイタケやマイタケなどは放射能を大量に蓄積している可能性のある「危険種」です。
天然モノと(人工)栽培モノとを比較すると、断然天然モノの方が危険ですが、しかし、(人工)栽培モノも安心できません。何故なら、福島第1原発事故後まもなく、林野庁が放射能で汚染された「シイタケ原木」やキノコ栽培用の「栽培土」に関して厳重な放射能汚染管理基準や実効性のある管理体制をとらなかったために、放射能で汚染された原木やキノコ栽培土、あるいは腐敗土などの肥料が全国に出回ってしまったからです。愚かな国・林野庁の政策のために、今やキノコは、♪♪「日本のどこでもキノコは危ない」♪♪、状態になってしまっています。いわば食べものの隠れホット・スポットが全国に散在してしまい、もはや安心してキノコは食べることができません。
産地が西日本とか北海道とか、間違いなくそうだと確認できる場合(たとえば自分で採取した場合)であれば天然モノのキノコや山菜は大丈夫ですが、食品流通に乗って売られているものは表示が信用できませんし(上記の記事でも虚偽表示だったことが伝えられています)、栽培物については、上記で申し上げたように汚染した原木や栽培土が全国に流通してしまったために、全国どこでも危険な状態になっています(この栽培用キノコで起きてしまった放射能の全国拡散を、今度は8000ベクレル/kgの放射能汚染ゴミの「再利用」(リユース・リサイクル)でもっと大規模にやってしまおうというのが政府・環境省の今般打ち出されてきた方針です。愚か極まることというほかありません)。
ということで、私はキノコ・山菜は一切食べないことにしています。また私は、天然キノコ・山菜を自然が私たちに与えてくれた最も信頼のおける「放射能環境モニター」だと受け止めています。天然キノコの放射性セシウムが検査測定されて規制値の100ベクレル/kgを超えると厚生労働省が週に1度程度の頻度で公表している飲食物の検査結果で明らかになります(下記サイト参照)。それを見ることで、どこが「放射能汚染地区」なのかがよくわかります。放射能汚染の実態を現さず、より小さな値が出るように細工・仕掛けされた自治体や行政のインチキ放射能モニター装置などよりも、よほど信頼が置けます。
ちなみに、どの地域で規制値を超える天然の汚染キノコ・山菜がみられるかというと、北限は青森市、南限は静岡市、西側は、富士山の西側地域、山梨県の北斗市や清里、長野県は南牧村・佐久市・軽井沢・小諸市から千曲川沿いを経て中野市までのラインより以東ということになります。新潟県の南部=魚沼群はグレイゾーン、山形県・秋田県の南部もグレイゾーン、群馬県は尾瀬も含めて汚染地帯と見ておいていいでしょう。要するに、危険な放射能汚染地帯は北海道を除く東日本一帯に広がっているということであり、これが解消していくには数百年の時間がかかるということです。
それから、これまでの繰り返しで恐縮ですが、キノコ・山菜も含めて飲食品すべてについて言えますが、①放射性セシウム以外の放射性核種が無視されていて危険であること(放射性ストロンチウムやトリチウムなどのベータ核種やプルトニウムやウランなどのアルファ核種の危険性はガンマ核種の比ではありません)。しかし、ベータ核種もアルファ核種も無視されて、放射能と言えば短い半減期の放射性ヨウ素131(8日)と、比較的半減期が長い放射性セシウム134(2年)、放射性セシウム137(30年)しか存在しないような対応のなされ方がされています。とんでもない非科学的態度です。②厚生労働省が定める一般食品(キノコ・山菜を含む)などの飲食品残留規制値=100ベクレル/kgはとんでもない数値で、これはついこの間までは厳重保管すべき放射能汚染ゴミかどうかを識別する基準でした。こんな規制値を下回ったからと言って、飲食品としての安全性など全くありません。要注意です。大人の場合でも、飲食品の規制値は全ての放射性核種合計で数ベクレル/kg(それでも大きい)、子ども・妊婦の場合はゼロベクレルでなければいけません。
(参考)食品中の放射性物質の検査結果について(第979報)
|報道発表資料|厚生労働省
http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000123455.html
なお、キノコ・山菜に関する林野庁からの諸通知は、上記<関連サイト>の「(1)林野庁-東日本大震災に関する情報」のページにある「東京電力福島第一原子力発電所事故による影響等」(ページの中ほど)のところに並べて掲示されています。ご参考になさってください。
(関連)給食のタケノコご飯から基準超のセシウム 宇都宮の小学校
(産経新聞) - Yahoo!ニュース
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20160511-00000569-san-soci
(ひどい話です、いやしくも学校給食ですよ。それもロクすっぽ調べもせずに子供たちに食べさせておいて、あとから実は・・・・などという。しかし、キノコ・山菜に加えて、タケノコやレンコン、イモ類や乾燥食品などは、既にずっと前から危険なので要注意だということはわかっていたことです。すみませんではすみません、のです。私は関係者を処分すべきであり、汚染物を供給した関係業者を食品衛生法上の業務停止処分にすべきだと思います。それくらい厳しくやらないと、現状の放射能汚染管理・被ばく回避の対応の出鱈目は改められる様子は全くと言っていいほどありません。このままでは子どもたちが大人の出鱈目の犠牲になっていきます。私が栃木県に住む子どもの親なら、学校給食は食べさせないと思います。こういう人たちが供給する学校給食などは、放射能のみならず、それ以外の点でも危険である可能性が高いと言えるでしょう。:田中一郎)
2.シイタケ原木どうする、長期的視点さえなく、山の除染放置に憤り(日本農業 2016.2.2)
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20160202-00010000-agrinews-soci
(田中一郎コメント)
日本農業新聞は農協系統の新聞ですが、放射能汚染による被害に関しての報道の仕方は、事故後まもなく以降、一貫してこうです。本来なされなくてはいけないことは、森林の除染などはできないことを明確にして、少なくとも年1mSv=約8000ベクレル/m2(/kgではありません ⇒ /kg換算すると÷65で、125ベクレル/kgです)を超える地域での居住は危険なので避難・疎開・移転の権利、「放射線管理区域指定基準」を超える地区ではすべての産業の停止と強制退去、そうしたことに伴う全損害の賠償と、生活や仕事や教育など事故前状態の再生・再建のための万全の支援対策、などが打ち出されるよう、農協系統挙げて運動を起こし、取り組みを強めなくてはいけません。それを何をトチ狂ったのか、放射能汚染地帯を除染して農林水産業を復興させろ、放射能汚染は規制値以下なら安全・安心だと国は率先してPRしろ、放射能の危険性を主張する人間たちは風評被害を振りまく神経質なトンデモ人間たちだ、国としてそういう人たちに放射能の危険性を振りまくような活動をやめさせろ、などなどの乱暴な主張に転換してしまっているのです。これまで農協系統は政府・自民党の御用団体として、戦後長きにわたり活動してきました。しかし、その政府・自民党が放射能や被ばくに関して出鱈目・いい加減なことをしている時に、それに追随してそれを応援するようなことをしていてどうするのかと思います。早く目を覚まして、飲食品の供給業者としての使命と責任を自覚してほしいものです。もちろん加害者・東京電力や事故責任者・国に対しては万全の賠償・補償をさせなければならないことは言うまでもありません。農協やその組合員もまた原発事故の被害者ですから。
3.避難解除の田村、楢葉、川内、伐採可能地点57.6%、27年空間線量 県木連分析(福島民報 2016.5.2)
http://www.minpo.jp/news/detail/2016050230693
(田中一郎コメント)
この記事が今回のメールのメインのテーマです。ここに書かれている福島県木連(福島県木材協同組合連合会:製材業・製材品販売業者の団体)のふるまいのどこが問題なのか、以下、箇条書きにして簡単に申し述べます。
(1)航空機によるモニタリング結果であること(原子力規制委員会のデータ)
航空機によるモニタリング結果を使ってこうした結論を導くのはあまりに乱暴である。航空機モニタリングは事故直後において、東日本=特に福島県とその周辺の各県の汚染状況を一刻も早く概略的に知るために緊急対応として行われたものであり、具体的には地上から放射してくるガンマ線をとらまえて、一定のアルゴリズム(計算法)で地上の汚染状況を推定するものでしかない。実際の汚染状況は航空機で捕まえたものよりはもっとまだら模様でムラがあり、ある場所ではもっと高く、また逆にある場所ではもっと低かったりする。航空機モニタリングの結果よりも高い場所=つまりホット・スポットが存在することは明らかであって、それに対する万全の警戒がないままに、かような軽率な結論を導くことは全くいただけない。
既に前回でも申し上げたが、事故から既に5年以上が経過した今日の段階では、地上でのきめ細かな測定をベースにした放射能汚染マップが存在してしかるべきであるが、日本では政府も自治体も、そして加害者の東京電力も、この放射能汚染マップをつくろうとしない。そして、放射能汚染マップ作成の優先順位は、森林ではなくて、人々の居住地や農地などが先である。政府や自治体に正常な感覚があるのであれば、まずは航空機モニタリングの結果をもとに放射線管理区域指定基準(5mSv/年、4万ベクレル/m2)を上回る地域の全住民は避難をさせ、次に1mSv~5mSv/年(8000~4万ベクレル/m2)の地域の住民には「避難の権利」が明確にされた上で、もしその5mSv以下の地域で居住を続ける住民がいた場合には、まずは居住地、そして次に農地の順番で、地上での放射能汚染状況を小さなメッシュ状に切った各区画の中できめ細かく測定をして放射能汚染マップをつくり、それによって発見されたホット・スポットを除染していく、という手順でことが進められるだろう。そして、そのマップも定期的に再測定されて、アップデートされる形でつくりかえられていくのである。チェルノブイリ原発事故の後の旧ソ連諸国では、紆余曲折はあったものの、基本的にはこの形で事が進められ、そして森林の除染は放棄された。いくら除染しようとしてもしきれないからである。
しかし、日本では福島第1原発事故後の推移はこうはならなかった。放射能の汚染状況はきちんと調べられず(調べようと思えば調べられたにもかかわらず)、放射能汚染マップはいつまでたっても策定されず、ホット・スポットは各地に存在したまま放置され、住民の避難や被ばく防止は二の次のまま損害賠償も切り捨てられて、被害者が文字通りどん底の生活状態に追い込まれていく。被害を受けた地域では、こうした人権蹂躙の国家的犯罪行為を覆い隠すために、放射線安全神話・放射能安心神話が大宣伝され、地域全体が原子力翼賛の被ばく押付け社会へと変質していく、そうした憂うべき経過をたどった。この次に住民を襲うのは、健康被害や遺伝的障害の多発であり、それは既に小児甲状腺ガンの多発となって先行的に現れてきているのである。この国家的犯罪行為はすみやかに停止され、この原子力翼賛の被ばく押付け政策は直ちに転換されなければならないことは申し上げるまでもない。
(2)「伐採可能」の定義は木材の安全を考えてのものではない。
この記事の最重要部分は下記の「注」の欄に書かれていた「県の民有林伐採・搬出指針」である。下記に引用する。
(一部抜粋)
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指定廃棄物となる1キロ当たり800Oベクレルを超える樹皮の発生を抑制するため、県が平成26年12月に木材業者らに通達した。県の調査で空間放射線量が毎時0.50マイクロシーベルト以下の森林では8000ベクレルを超える樹皮が確認されなかったため、伐採地が毎時0.50マイクロシーベルト以下であれば伐採・搬出を認めた。0.50マイクロシーベルトを超えた場所でも、樹皮が1キロ当たり6400ベクレルを下回った場合に限り伐採・搬出を可能とした。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
一読して明らかなように、この「(福島)県の民有林伐採・搬出指針」は、「8000ベクレル/kg」という環境省の「放射能汚染ゴミの一般ゴミとしての処分可能の基準」にリンクさせたものであり、そこでは伐採・搬出される木材(素材丸太)が利用者にもたらす放射線被曝が危険なモノではないレベルなのかどうかは全く考慮外に置かれているということである。つまり、伐り出された木材の安全基準がないまま、素材丸太の樹皮(バーク)を一般ゴミとして処分できるかどうかが基準となって、放射能汚染森林の伐採・搬出の是非の基準が決められているということだ。狂気の沙汰という他ない。これでは危険な汚染木材とその加工品が東日本を中心に全国に出回ってしまうだろう。
しかも、①空間線量と樹皮のベクレルベースの汚染との結び付け方がいい加減であり、0.50マイクロシーベルトと8000ベクレル/kgや6400ベクレル/kgとの関連性は希薄であること、②樹皮の8000ベクレル/kgを計測する場合のやり方もいい加減である可能性が高いこと(全体の汚染状況のばらつきを確認しないまま、ごく少量のサンプル計測で全体の汚染状態が代表されるなど)、③素材丸太を伐採・搬出する素材生産業者や森林組合は零細な事業体や1人親方が大半で、こうした放射能汚染状況をきちんと調べる体制もなければ知識もないのが現状で、書かれているような計測や判断が定められたとおりにきちんとなされる保障はどこにもない、という状態である。こんな状態で放射能汚染森林での木材(立木)の伐採・搬出や造林作業を行うというのは論外とでもいうべき危険な行為である。
それからもう一つ、木材=立木の汚染は、事故直後は樹皮にへばりついた放射性セシウムだけに注目をしていればよかったが、事故後5年も経過した今日では、立木が根から吸い上げる放射性物質の行方にももっと注力をしなければいけないはずである。一般に、樹木が根から吸い上げた栄養分は、樹皮のすぐ裏側の「形成層」とよばれる部分を伝って枝葉に運ばれていき、そこで光合成されたものが樹木の幹に蓄えられていくという経過をたどる。森林総合研究所などのレポートその他を見ると、放射性セシウムの場合には、枝葉の付け根や葉っぱの軸の部分に蓄積しやすい傾向があるようだが、その数量的な把握は十分ではない。また、その他の放射性核種についてはどうなのかは全く分からないままである。こんな状態で放射能汚染地帯の森林の立木を木材利用のために伐り出すというのは危険極まりない。(林業労働及び木材取扱現場での被ばくについては次回以降コメントする)
(3)上記の基準は「ガイドライン」であって強制力・罰則・監視なし
そもそも上記の基準はあくまで県庁が定めた「ガイドライン(指針)」であって、事業者に対する強制力もなければ、違反した業者への罰則もなく、もちろんモニタリングや監視もなされていない。
実は放射能汚染地帯での林業・木材利用に関しては、下記の2つの基準も存在している。しかし、これもまた「ガイドライン(指針)」であって、強制力や罰則・監視などはないので、これが実際に実施されているかどうかも、上記で申し上げた林業事業体の零細性を鑑みた場合、非常に怪しいものである。また、申し上げるまでもないが、(林野庁の基準はともかくとして)木材業界(福島県木材協同組合連合会:県木連)の自主基準もまた、その安全性に関して科学的実証的な根拠はない。何ゆえに1000CPM(カウント・パー・ミニッツ)なのか、その理由や根拠が全く不明であり、しかもベクレルベースではなくCPMを使っている点についても胡散臭さを感じさせる。
●林野庁の基準:林野庁-木材製品の取扱いに係る留意事項等(Q&A)について
http://www.rinya.maff.go.jp/j/mokusan/sinsai/mokuzai.html
(要するに(一部引用)「警戒区域及び計画的避難区域や、新たに指定された帰還困難区域及び居住制限区域は、被ばく線量を低減する観点から長時間の立入り等が制限されていることから、除染等業務や公益を目的とした一時的な立入りなど、特別の場合を除き、森林内の作業についても行わないよう指導しているところであり、木材製品の出荷についても行わないようにしてください」ということであり、林野庁からの業界への「お願い」である。強制力のある規制基準ではない)
●県木連の基準:福島県木材協同組合連合会:「安全・安心な木材」(のところをクリック)
http://www.fmokuren.jp/publics/index/24/
(福島県木連のHPには、まだこうした放射能汚染木材の取扱に関する記載があるが、福島県森林組合連合会(県森連)のHPには放射能の「放」の字も見あたらない。これもまた信じがたい無神経である:田中一郎)
(4)福島県庁以外は業界丸投げ、林野庁は無視
私が1年以上も前に福島県庁と、その周辺の3県の県庁の林政課に電話で確認したところでは、当時において既に県庁が曲がりなりにも森林の放射能汚染とそこでの林業=木材の伐採・搬出について基準をつくり、業界を指導している様子がうかがえたのは福島県庁だけだった。その他の県庁=宮城、栃木、茨城の各県は、いずれも業界へ丸投げ状態で、無責任極まる発言だった。また林野庁も、既に通知は出したので(木材については上記1本のみ)、あとは各県の自治体や業界の問題だという態度で、森林や木材の放射能汚染について責任ある態度は微塵も感じられなかった。いずれも私には信じがたいことであり、かつ、許しがたいと感じた次第である。このままでは、東日本の木材という放射能汚染物が全国に出回ることになるだろう。まさに放射能汚染ゴミの「再利用」(リサイクル・リユース)と同じようなことが、この林業・木材業界では先行して行われていると言っても過言ではないかもしれない。
(5)最重要の山火事対策が手薄
先般、郡山市にある指定廃棄物の保管倉庫が火事となった。既に私のメール(転送)で皆様にもお知らせいたしましたが、その際の住民の被ばく防護への対応は全くの出鱈目だったことが明らかになっている。危険極まりないことである。しかし、その放射能汚染物の火事を、もっとスケールを大きくして実現するのが「山火事」である。放射能汚染森林が火事になれば、放射能が拡散していわゆる二次被害が出ることは説明するまでもない。チェルノブイリ原発事故後の旧ソ連諸国では、この山火事防止対策が最重要事項として対応された経緯がある。地域住民が呼吸被ばくをさせられ、かつ実施された除染作業が無駄になるからだ。
しかし、これも私が林野庁と福島県をはじめ隣接県の県庁にヒヤリングした限りでは、毎年春(春は山火事の多い季節=山菜取りなどが主な原因)に全国で実施される恒例の形だけの「山火事防止キャンペーン」程度の域を出るものではなく、具体的な山火事防止対策や体制づくりはなされていないことが明確だった。日本の林業政策・木材政策は、放射能汚染に対しては全く有効に機能していないし、機能させようという姿勢も感じられない。信じがたい話である。
(6)木材製品を買うときは線量計を携帯
(最後にみなさまへのお勧めとして)上記のような次第ですので、みなさまが木造住宅をはじめ、木材製品をお求めになる場合には、必ず線量計を持ち、空間線量を計測する習慣を持たれるのがいいと思います(個人住宅のみならず公共施設等の新築の木造建築物の中に入る場合も同様)。特に木造住宅購入時には、使われた木材の出所を確認すること、各室内の空間線量に異常がないかを確認すること、などが必要不可欠かと思われます。可能ならば、西日本産か北海道産の木材を使わせることが無難かと思われます。大型の家具や木製の車両などにもお気を付けください。
4.除染範囲を里山に拡大、モデル地区設定、3省庁のPJチームが新方針(『林政ニュース 2016.3.23』)
http://www.j-fic.com/rinseibn/rn529.html
(一部抜粋)
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大臣レベルに「格上げ」して対応策を検討してきた3省庁のプロジェクトチームは、3つのエリア区分(下記に注:田中一郎)にとらわれず、「里山」と「奥山」という大括りした視点から対策を整理し、被災自治体からの要望が強い「里山の再生」で新規事業を立ち上げることにした。
新たに着手する「里山再生モデル事業」では、10か所程度のモデル地区を指定し、①放射線量マップの作成、個人線量の測定、②放射性物質汚染対処特別措置法に基づく徐染等の実施、①広葉樹林や竹林等の整備、④木質バイオマスの活用、などを総合的に実施する。これまでA・Bエリアは環境省、Cエリアは林野庁という担当分けがあったが、モデル地区では3省庁がそれぞれ手がけている事業をメニュー化して使い勝手をよくするとともに、事業の効果を検証して対象地の拡大を検討する。事業期間は3年程度としているが、必要に応じて延長できる。3省庁と内閣府及び福島県で連絡会議を設置して来年度(平成28年度)にモデル地区を選定する。
(注)3つのエリア
Aエリア=住居等近隣の森林、Bエリア=日常的に立ち入る森林、Cエリア=A、B以外の森林、に分けて対策が講じられてきた。Aエリアについては、林縁から20mまでの範囲の落葉等の除去などを行い、Bエリアでは、ほだ場や村キャンプ場などで落葉等を取り除くという基準があるが、Cエリアに関しては具体的な手法が決まっていなかった。
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(除染をするというA,Bエリアでさえ「落葉等の除去」にすぎない。何が「対策」か、何が「森林の除染」か!!
バカバカしいという他ないではないか:田中一郎)
(田中一郎コメント)
前回の(その1)メールでも取り上げて福島民報記事をご紹介したかと思いますが、この『林政ニュース』はそれよりもより詳しく政府・関係省庁の対応方針を伝えています。文章を読むともっともらしく見えますが、基本は政府は森林の除染はやるつもりはありません。里山とて同様です。恐らくこの対応は、当面する衆参両院の国政選挙をにらんでの選挙対策・福島住民への特別政治対策として展開されていると思っておいていいのではないかと思われます。モデル地区などと言っているということは、試験的に森林除染をやってみます、ということにすぎませんから、やがて、やってみましたが駄目でしたとか、これ以上の除染は無理です、のような格好で「幕引き」となるでしょう。
(5)「競技場 被災地産木材使いたい」新国立設計の隈氏(東京 2016.2.24 夕刊)
http://www.tokyo-np.co.jp/article/culture/new_stadium/list/CK2016022402000249.html
http://mainichi.jp/sportsspecial/articles/20160115/ddm/001/050/149000c
(田中一郎コメント)
新国立設計の隈氏に、悪意や原子力ムラへの媚びへつらいがあるとは思えません。おそらくは善意での発言でしょう。しかし、善意だからといって、それでこうした発言がノーチェックで許されるということではありません。同氏の言う「被災地」に福島県をはじめとする放射能汚染地帯を含めて考えているのであれば、まずはその原発事故被災地の林業や木材産業が放射能をどうマネジメントしているか・管理しているかをしっかり確認してからにしていただきたいものです(実態は実にいい加減)。
同氏の提言のようなことがリップサービスではなくて、本当に大々的に実施された場合には、場合によっては東京中の新築スポーツ施設は、放射能で汚染された木材だらけということにもなりかねません。よく「ファシズムは善意に担がれてやってくる」と言われますが、それはそのままこの隅氏の発言にも当てはまるように思います。「原子力翼賛と被ばく押し付けの社会は善意に担がれてやってくる」ということです。
草々
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