木材が危ない・林業木材産業労働者が危ない=森林の放射能汚染を軽視・無視して進められる林業・木材産業復興の危険性(その1)
前略,田中一郎です。
(別添PDFファイルは添付できませんでした)
昨今、森林の放射能汚染をめぐり看過できない動きが2つあります。1つは、政府・関係省庁が、これまでの「森林の除染は居住地域のごく近隣のみ(20m以内)に限る」としていたものを事実上撤回し、里山の除染を言い出していること、もう一つは、それに平仄を合わせるように、地元紙の福島民報では、森林の放射能汚染に関して、あたかも大きく低減が進んで、一部の地域を除けば懸念するに及ばないかの如きタチの悪い報道が相次いでいることです。以下、「木材が危ない・林業木材産業労働者が危ない=森林の放射能汚染を軽視・無視して進められる林業・木材産業復興の危険性」と題して、複数回に分けてコメントします。
<別添PDFファイル>
(1)20メートル以上 森林除染せず(福島民報 2015.12.22)
(2)里山再生を確認、復興・環境・農水相、除染など対策連携(福島民報 2016.2.6)
(3)森林線量65%減 昨年度県内 23年度比、継続調査地点(福島民報 2016.5.17)
(4)汚染された山に帰すのか、キノコや山菜
今も危険(東京 2016.5.17 夕刊)
<関連サイト>
(1)福島県森林組合連合会
http://www.fukumoriren.org/main/top3.html
(2)福島県木材協同組合連合会
1.20メートル以上 森林除染せず(福島民報 2015.12.22)
http://www.minpo.jp/pub/topics/jishin2011/2015/12/post_12859.html
(田中一郎コメント)
この記事には「環境省は民家や農地から約20メートル以上離れた森林で除染を実施しない方針を最終的に固め、21日に東京都内で開かれた有識者による環境回復検討会で示した。(中略)同省はこれまで、県内面積の約7割を占める森林のうち、生活圏から20メートル以内とキャンプ場や遊歩道、キノコ栽培で人が入る場所に限って落ち葉など堆積物を除去するとしてきた。それ以外のエリアについては方針を示していなかった。(中略)民家や農地から約20メートル以上離れ、日常的に人が立ち入らない場所での除染は見送る方針を示し、了承された。(中略)検討会終了後、井上信治環境副大臣は報道陣に「全てを面的に除染するのは物理的にも困難で、悪い影響の方が大きい」と述べた。」と書かれています。この記事が出たのが昨年の12月下旬でした。この段階では、まだ従来方針の踏襲をしていたということです。
それにしても「生活圏に影響を与える森林からの放射性物質の飛散は確認されず、線量低減のため落ち葉を除去すると土砂流出などが懸念されると判断した」(環境省)だとか、「住民にとって一番良い手法を考えた結果だ」(井上信治環境副大臣)とか、よくもかような出鱈目を言えたものです。実際に福島に住んでみろ、と言いたくなりますね、事実とは真逆のことです。
また「山の勾配が急で大雨などの際、土砂が流れ込む可能性がある住宅地などに限り、防護柵の設置など対策を講じる」(環境省)などとも言っているようです。しかし、こんなものが集中豪雨対策になるはずもありません。要するにカネがかからない程度でやってやるから、これで辛抱しておけ、ということにすぎません。それに屁理屈をつけるから、益々話がややこしくなるのです。
記事には「林業対策が課題、環境省が森林全体を除染しない方針を固めたことに、県内の林業関係団体からは伐採などに従事する作業員の被ばく対策を強化するよう求める声が上がった」とも書かれています。この問題については、次回以降にコメントします。
要するに、汚染森林の除染は「しない」のではなくて「できない」のです。無理にやろうとすれば巨額な費用が必要となり、その結果もほとんど効果がない、ということを意味しています。これはチェルノブイリ原発事故後の旧ソ連諸国で既に確認されていることです。そもそもの問題は、居住地域も含めて、放射線管理区域指定基準を上回るような放射能汚染地域やその周辺には人が住めない、森林の除染はできないし効果もない、ということを明らかにせず、放射能や被ばくについて十分な知識のない人たちをだまくらかし、あたかも除染をすれば安全・安心に居住できるかの如き嘘八百を大宣伝してきたことにあります。それが「森林の除染問題」でボロが出て、対応に苦慮している、というのが今日の実態です。
2.里山再生を確認、復興・環境・農水相、除染など対策連携(福島民報 2016.2.6)
http://www.minpo.jp/pub/topics/jishin2011/2016/02/post_13158.html
(田中一郎コメント)
ところが新年になってから、上記の「基本方針」が変わります。記事に「復興庁と環境省、農林水産省による作業チーム「福島の森林・林業の再生のための関係省庁プロジェクトチーム」は5日、東京で初会合を開き、3省庁の大臣が里山再生に向け除染を含めた対策を打ち出す方向性を確認した」とあるように、「森林除染はしない」から「里山に限り除染を試行的に実施する」に変わりました。
記事を見てみますと、丸川(環境省)、高木(復興庁)、森山(農林水産省)の3大臣が、いい加減なことを発言しています。かような人間達がリードしたところで、事態の改善は一切進まないどころか、益々おかしな状態に陥っていくことになるでしょう。
(一部抜粋)
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今後、環境省による除染と林野庁の林業再生対策を組み合わせて実施するなどの具体的な施策を取りまとめる。除染作業で落ち葉や堆積物を取り除く際に土砂が流出する恐れがあるため、効果的な技術を探る。里山の範囲は明確な定義がないため、県や市町村などの要望も踏まえ、対策を施す範囲を決める。一方、住民が日常的に立ち入らない山林は、林業再生対策の加速化や施策の追加などを検討する。
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(何が「林業再生対策の加速化」ですか。こんなことをすれば、放射能で汚染された木材が建材などとして全国に広がっていくでしょう。消費者は被ばくの危険にさらされます。また、バーク(木の皮)などの汚染木材廃棄物の量も増えて、やっかいなことになります。更に、林業や木材産業(製材業・木材流通業など)に携わる現場の労働者が深刻な被ばく被害を受けてしまいます。トラブルづくりに貢献するだけです。:田中一郎)
3.森林線量65%減 昨年度県内 23年度比、継続調査地点(福島民報 2016.5.17)
http://www.minpo.jp/news/detail/2016051730970
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20160517-00000027-fminpo-l07
(一部抜粋)
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福島県は16日、東京電力福島第一原発事故後に調査している県内の森林(民有林)の空間放射線量を公表した。362の継続調査地点で比較すると、平成27年度の平均空間線量は毎時0・32マイクロシーベルトで、事故直後の23年度の0・91マイクロシーベルトから約65%減少した。県は放射性セシウムの自然減衰に伴い、今後も線量の低下が続くとみている。
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(田中一郎コメント)
昨日(5/17)の福島民報に掲載された大問題の記事です。以下、問題点を箇条書きにします。
(1)森林の放射能汚染状況でも、その他の居住地域や農地での汚染状況でも、それを調査する場合には、空間線量(シーベルト)ではなく土壌の汚染度合い(ベクレル/kg)を調べる必要があります。また、その土壌がどういうタイプなのか、特に、土や砂ぼこりなどの舞い上がりによる呼吸内部被曝を十分に意識した調査・測定が行われる必要があるのです。更に、木材(立木)そのものの汚染状況も調査が必要ですので、標準木を1本伐採して、その汚染度合い(ベクレル/kg)を樹皮と幹内部部分に分けて計測しておくべきでしょう。しかし、この福島県庁の調査は、そうしたことに一切の配慮がなされていません。空間線量は簡単に「人をだませる」=汚染状態を実態よりも小さく見せることが可能で信用できません。非常に片手落ちの不十分な調査と言わざるを得ません。(記事によれば、土壌のベクレル調査をしたのは、たったの5か所だけのようで、その目的も、放射性セシウムの分布状態を調べることだったようです)
(2)どのような調査・測定をしたのか(調査・測定の具体的な進め方)の詳細な内容公表が必要です。最も重要なのは、測定地点(標準地)をどのように選んだのかという点です。放射能汚染が低そうなところばかり選べば、あるいは都度都度事前に除染をしておいてから測定をしに行けば、結果は「たいした汚染はなかった」ということになるのは当たり前です。また、測定器は何を使ったのか、どのような測り方をしたのか、固定設置されたモニタリングポストの数字はどれくらいあるのか、放射性セシウム以外の放射性物質は測定したのか、などなど、多くの点が明らかにならないと、この結果に対して信頼はおけません(例えば、福島県の各地に設置されているモニタリングポストの空間線量数値が実態を現さないほどに過小な数値であることは(そうなるように作為されている)、今や県民の共通認識となっています)
(3)結果公表の仕方も問題です。県全体の平均値だけを強調するのはよろしくありません。特に放射能汚染の度合いの低い会津・只見地方の調査結果数値も入れての平均値にはほとんど意味がないでしょう。平均値は、浜通り、中通り、その他の3区域区分で出すほか、各市町村別にも出しておくべきです。更に今般、里山森林の除染が問題になっていますから、居住地域、里山地域、森林地域の3つくらいに地域を区分けして、その平均値も出しておくべきです。また、大事なことは、平均値だけでなく、最大値と最小値を、その地点とともに明らかにしておく必要があります。特に最大値の方は重要です。更に、森林内での放射能汚染状況のばらつきも調べる必要があります。放射能汚染の分布は一様ではなく、いわゆるホット・スポットなどがあって、大きなバラつきを示すからです。しかし、福島民報の記事には、ここで指摘したような点についての記述は見当たりません。
(4)記事には「県森林計画課は「今後も森林の放射線量を把握し、林業の生産活動の目安としたい」としている」とあります。正直と言えば正直なのですが、あくまで森林の放射能汚染状況調査は林業再開のための調査=産業のための調査であって、住民の生活の安全=被ばく回避のためではないと、県庁の役人が発言しているようなものです。けしからん話だと私は思います。そもそも放射能で汚染された森林で林業を再開すること自体が「もっての外」と言わざるを得ないことです。
(5)今回の福島県の発表は森林の放射能汚染のことでしたが、しかし、福島第1原発事故後の日本では、森林に限らず、居住地域や農地などの放射能の汚染状況調査が非常に不十分で、遅れたままに放置されています。信じがたいことです。だから福島県内各地で、非常に汚染度が高い危険なホット・スポットが散在し、それは子どもたちが通う学校や、日々の食べものをつくる田畑などにも及んでいるのです。チェルノブイリ原発事故後の旧ソ連諸国では、居住地と農地について、定期的なインターバルをおいて土壌の汚染状態(ベクレル)が詳しく測定され、いわゆる放射能汚染地図(マップ)がつくられていたと聞いています。何故、日本ではこういうことをしないのでしょうか?(発見されたホット・スポットは退治された=除染された=除染とはホット・スポット退治のためのものです。地域全体を面的に除染するなどということは無理・無駄・無謀です。そんなことをするよりも、放射能が低減するまで避難していた方がいい)
除染などできない森林の放射能汚染調査などは後回しでいいのです。まずは居住地と農地、これを3~5年の周期で徹底的に測定する必要があります。それをせずに林業再開のためだなどとして、このような森林の放射能汚染調査をしているのですから、まさに地域住民の命と健康を二の次にした、おかしな行政だと言わざるを得ません。そして、このことは福島県以外の放射能汚染地域の各都県についても言えることです。福島県は、それでもまだ、まがりなりにも放射能汚染の調査・測定をしていますが、他の都県では、福島第1原発事故と放射能汚染は「過去のこと」として無視され放置されているのが現状です。森林・林業・木材産業では、特にその傾向が強く、非常に危険な状態にあることは強調しておきたいと思います。福島第1原発事故の放射能の環境放出は県境で止まったわけではないのです。
(6)放射能汚染状況の調査・測定や、できもしない除染よりも、住民の避難・疎開・移住を徹底すること、避難・疎開・移住された方々に対して万全の賠償・補償を行い、再建支援のための施策を十分に対応することが、最も重要なことです。福島第1原発事故後の日本の政治や行政は、その逆を行って、被害者住民をひどい状況に追い込んでいます。国家的な犯罪行為です。
4.汚染された山に帰すのか、キノコや山菜
今も危険(東京 2016.5.17 夕刊)
東京新聞(夕刊)が「私の見た福島事故」というシリーズ記事を載せています。なかなか興味深い内容の記事が多いです。昨日の夕刊は「モニタリングじいさん」でした。私は、この「モニタリングじいさん」のような方に県知事や放射線管理アドバイザーをしていただいたらいいのではないかと思います。
(関連)東京新聞 福島の放射線測定 避難区域外は縮小社会(TOKYO Web)
http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/list/201602/CK2016021102000122.html
(関連)東京新聞 寒さに震え「老老避難」 私の見た福島事故 社会(TOKYO Web)
http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/list/201602/CK2016021402000137.html
草々
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