(報告)(院内集会)老朽化原発の審査を問う:「原子炉構造材の監視試験方法」と寿命延長の問題点(2015年7月30日)
前略,田中一郎です。
昨日(7/30)、衆議院第1議員会館において「(院内集会)老朽化原発の審査を問う:「原子炉構造材の監視試験方法」と寿命延長の問題点」が開催されました。皆様既にご承知の通り、関西電力は、危険な状態に陥っている老朽化原発である高浜1,2号機と美浜3号機について、運転寿命期間の延長審査(40年
⇒ 60年)を原子力規制委員会・規制庁に申請をしておりますし、それに呼応するかのように、政府・経済産業省・自民党は、2030年のエネルギー構成を「原発20~22%」に決めようとしています。この2030年の原発比率は、新規の原発建設がないとした場合には、全国にあるほとんどの老朽化原発の運転寿命が延長されることが暗黙の前提となっており、「原発依存からの脱却」という自民党の公約に反しているだけでなく、老朽化原発の無理な運転延長が危険極まりない状態を生み出すことになります(老朽化原発を無理に運転延長するくらいなら、新規に原発を建設した方がいいという御用学者まで現れてくる始末です)。
しかしながら、この老朽化原発の原則40年の運転期限の延長を審査する原子力規制委員会・規制庁は、たとえば再稼働されようとしている川内原発1,2号機の「高経年化技術評価にもとづく保安規定の変更許可」(30年経過原発)に関する審査一つを見ても、老朽化した危険な原発をきちんとチェックしようとするフェアで慎重な姿勢に欠けており、初めに再稼働ありき・運転期限延長ありきのような様子がうかがえます。福島第1原発事故への反省もなく、従ってまた、その教訓も、具体的な原発再稼働審査や老朽化原発運転期限延長審査の中で生かされる様子はありません。あまりにも愚かであるだけでなく、危険極まりない状態です。
今回の院内集会と、その後の原子力規制庁への申し入れは、こうした原子力規制委員会・規制庁の老朽化原発に対する歪んだ姿勢を正す目的で行われました。しかし、会場にやってきた原子力規制庁の若造3人の役人たちは、主催者側(井野博満東京大学名誉教授、小岩昌宏京都大学名誉教授)からの真摯で詳細な内容の意見や質問、申し入れに対して、何一つ真摯に答えることはありませんでした。彼らの回答の中で記録にとどめ置くようなことは皆無で、すべてを形式論的な屁理屈で肩すかしする不誠実極まりないものでした。要するに、「再稼働すると決めているから再稼働する」「老朽化原発の40年寿命なんてカンケーネー」「運転期限の40年を超えて使っていくと決めてんだ」「つべこべ言うな」という態度です。私は、この3人の若造どもをぶっとばしたくなるのをこらえるのに苦労した次第です。
以下、簡単に今回の院内集会&規制庁ヒヤリングについてご報告しておきます。なお、別添PDFファイルのほとんどは、金属材料工学がご専門の井野博満東京大学名誉教授と小岩昌宏京都大学名誉教授がお作りになったもので、その内容は、原発圧力容器の老朽化=特に中性子照射による金属脆化の問題を取り上げています。原発老朽化を考えるときには、真っ先に考慮すべき重要問題です。しかし、原発老朽化に関する安全上の問題は、この圧力容器の金属脆化の問題だけではありませんので、その点についてはご留意ください。(そのうちに、そうした老朽化に関するさまざまな問題も脱原発の市民運動・社会運動の中で取り上げられてくると思われます:例えば、配管などの応力腐食割れや減肉、古い設計思想に基づく装置類・機器類の限界、点検漏れや定期点検の形骸化、老朽化原発と過酷事故対応など)
<イベント案内サイト>
●7-30【院内集会】【規制庁ヒアリング】老朽化原発の審査を問う
「原子炉構造材の監視試験方法」と寿命延長の問題点 原子力資料情報室(CNIC)
<別添PDFファイル>
(1)(院内集会)老朽化原発の審査を問う:「原子炉構造材の監視試験方法」と寿命延長の問題点(プログラム)(2015年7月30日)
「program_roukyuuka_730.pdf」をダウンロード
(2)原子炉尽力容器の脆化予測法=JEAC4201―2007(2013年追補)の技術評価(小岩昌宏氏 2015.7.30)
「koiwa_roukyuuka_730.pdf」をダウンロード
(3)老朽化原発の安全審査はどうなる?:高浜原発1号機と川内原発1号機(井野博満氏 2015.7.30)
「ino_roukyuuka_730.pdf」をダウンロード
(4)規制庁ヒアリングプレゼン用スライド(井野博満氏 2015.7.30)
「kiseityou_ino_rejime.pdf」をダウンロード
(5)原子力規制庁への質問(小岩昌宏氏 2015.7.30)
「kiseityou_koiwa_rejime.pdf」をダウンロード
(6)(資料1)規制庁ヒヤリング(2015.7.13)
「siryou_1_roukyuuka_730.pdf」をダウンロード
(7)(資料2)JEAC4201ー2007(2013年追補版)に関する技術評価書(案)についての意見(井野博満氏・小岩昌宏氏 2015.4.28)
「siryou_2_roukyuuka_730.pdf」をダウンロード
(8)(資料3)田中俊一原子力規制委員長あて提出文書(小岩昌宏氏 2015.1.15)
「siryou_3_roukyuuka_730.pdf」をダウンロード
(9)(資料4)原子炉構造材の監視試験方法 JEAC4201―2007(2013年追補版)制定案に対する意見(井野博満氏、小岩昌宏氏 2013.8.15)
(上記資料はシロウトが見るには少し難しいかもしれませんが,少なくとも(1)~(5)までは我慢して,しっかり読み込んでみて下さい。そして,わからないところは,遠慮することなく,次回の集会やセミナーなどで,お書きになったご本人に聞いてみましょう。ご自分がお分かりになっていない場合や,わかりにくいと感じる場合には,たいていは他の人もそう感じていますから,お聞きになることは多くの方々に歓迎されると思います:田中一郎)
<関連サイト>
(1)老朽化する原発 技術を問う(原発老朽化問題研究会:原子力資料情報室)
http://www.e-hon.ne.jp/bec/SA/Detail?refShinCode=0100000000000031543947&Action_id=121&Sza_id=GG
(2)老朽化する原発 井野博満東京大学名誉教授
(3)老朽化原発の危険性
中性子による金属の劣化・・・照射脆性をご存じですか?
http://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q12145038527
(4)脆性遷移温度(ゼイセイセンイオンド)とは - コトバンク
https://kotobank.jp/word/%E8%84%86%E6%80%A7%E9%81%B7%E7%A7%BB%E6%B8%A9%E5%BA%A6-678541
(5)展延性 - Wikipedia 延性-脆性遷移温度と原子炉圧力容器の脆化
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%B1%95%E5%BB%B6%E6%80%A7
(書かれていることの雰囲気は伝わってくるが、内容についてはチンプンカンプン)
(6)(報告)(院内集会)圧力容器の老朽化を問う(高浜1・2号機稼働延長問題)
いちろうちゃんのブログ
http://tyobotyobosiminn.cocolog-nifty.com/blog/2015/04/post-580f.html
(前回、2015年4月9日開催の院内集会の報告です:内容的には今回とほぼ同じです:田中一郎)
(田中一郎コメント)
院内集会の内容は、金属材料工学に裏付けられた、かなり専門的なお話で、私のような一般のシロウトには容易には理解できない難解なものでした。しかし、事の仔細な部分はともかく、全体的・総括的に受け止めると、今回の集会の主旨はおおむね下記のようなことと考えています。
(1)小岩昌宏京都大学名誉教授のレクチャー
一言で言うと、原発圧力容器の脆性遷移温度を予測する数式(JEAC4201―2007(2013年追補))が間違っている、あるいは「後出だしじゃんけん」方式の、過去データのつじつま合わせ数式なので、少なくともこの数式は、過去のデータ検証に使うことはともかく、今後の未来予測に使ってはならない(外挿を行うべきではない)。金属材料の脆化進行の速度や度合いを甘く見積もる可能性があり危険である。予測式については、更なる詳細な検証と検討が必要だ。(上記の別添PDFファイル(5)原子力規制庁への質問(小岩昌宏氏 2015.7.30)参照)
(2)井野博満東京大学名誉教授のレクチャー
(高浜1号=40年運転基期限問題)
上記の別添PDFファイル(3)老朽化原発の安全審査はどうなる?:高浜原発1号機と川内原発1号機(井野博満氏 2015.7.30)のNO.9、NO.10のレジメをご覧ください(各レジメ右下に小さなページ番号あり)。NO.10の「PTS評価の概要」でグラフがあるが、その横軸は「温度」、縦軸は「力の強さ」である。そのグラフの下の方の「小さな山のようになっているグラフ」は、それぞれの温度環境下での、原子炉圧力容器金属の亀裂を拡大せんとする破壊力の大きさを示し、上の方の右肩上がりのグラフは、その破壊力に対して圧力容器金属がどれくらいその力に対して耐えられるかの耐性力の大きさを示すもの。両方を比べて、2つのグラフが交わることなく、後者が前者の上にあれば、破壊力に対して耐える力の方が大きいので、圧力容器金属は壊れることはない、ということを意味する。しかし、万が一交わっていると、その部分は破壊力の方が耐える力よりも大きいので、圧力容器の金属が一気にバリンと割れてしまうことを意味している。
これをPTS評価というそうだが、このPTS評価を高浜原発1号機でやってみると、上の方のグラフ=つまり金属の耐える力を表す方のグラフが、原発経年とともに、大きく弱体化する方にずれてきて、ぞのずれ具合が非常に大きい=つまり経年とともにどれくらい金属が脆化するかの予測が、誤差が大きすぎて予測しにくいので、PTS評価で見る限り圧力容器金属に安全余裕がなく、危険であることを意味している。場合によっては、上記で説明した2つのグラフが交わって、圧力容器破壊の可能性がある。
しかも、高浜1号は、脆性遷移温度が、何と99°Cと、日本国中で最も高く、その温度も水の沸点に近い。かような圧力容器の老朽化原発は再稼働すべきではないのではないか。
(川内1号の「高経年化技術評価にもとづく保安規定の変更許可」)
今回再稼働されようとしている川内原発1号機は、運転を開始して30年が経過している老朽化原発の一つだが、これまで30年経過原発に該当する全ての原発について実施されてきた「高経年化技術評価」とその審査がきちんとなされていない。原子力規制委員会・規制庁は、この「高経年化技術評価」とその審査は、原発の(再)稼働とは無関係であるというが、それでは30年経過した原発の老朽化による危険性を無視して稼働させることになるではないか。これまでと同様に、再稼働の前に、きとんと「高経年化技術評価」とその審査を行い、原発の老朽化リスクをチェックをしておくべきである。
新聞報道では、その後、原子力規制委員会・規制庁は、川内原発再稼働までに、この「高経年化技術評価」とその審査を終えるなどと伝えているが、九州電力が「補正書」の形で新規制基準に準じる内容の「高経年化技術評価」を提出してきたのは、ついこの間の7月上旬である。それをわずか1か月かそこらの短期間で、きちんと審査や検証が行えるとも思えない(現場検証さえきちんとできないだろう)。原発の老朽化チェックを手抜きしてまで、再稼働を急ぐようなことはやめてほしい。(⇒
上記の別添PDFファイル(4)規制庁ヒアリングプレゼン用スライド(井野博満氏 2015.7.30)を参照)
(田中一郎からの質問)
私からは、井野博満先生に、レジメのNO.10の「PTS評価の概要」と、脆性遷移温度とは、どういう関係にあるのかをお尋ねした。言い換えれば、脆性遷移温度、って、いったい何? どういうもの? という質問です。井野博満先生は小岩昌宏先生のレジメ(別添PDFファイル:(2)原子炉尽力容器の脆化予測法=JEAC4201―2007(2013年追補)の技術評価(小岩昌宏氏 2015.7.30))のNO.4の図を使って、極力わかりやすくご説明くださったのですが、学力低迷の私にはちょっと十分には理解できませんでした。たとえば、小岩レジメNO.4にある「シャルピー吸収エネルギー遷移曲線」とはどういうものですか? あるいは、そのグラフの中に書き込んである「41J(ジュール)」という、このエネルギーの値の意味はなんですか? なぜ41ジュールなのですか?
井野博満先生、恐れ入りますが、次回、この辺のところを、もう少し私のような低学力者にもわかるように、かみ砕いてのご説明をお願い申し上げます。
(規制庁ヒヤリング)
バカバカしい回答ばかりで腹立たしい限りでした。もはや原子力規制委員会・規制庁に幻想を抱くことは無用であるだけでなく危険です。一刻も早く、この2つの役所の設置根拠法を廃止して、両組織を解散、原子力規制委員や原子力規制庁の幹部らは原子力・原発の世界から永久追放する必要があります(原子力規制庁幹部の何人かは、福島原発告訴団が福島第1原発事故の責任を追及するため告訴中です)。また、こうした原子力規制委員会・規制庁の体たらくを見て思うことは、現安倍晋三自民党政権のひどさもしかりながら、田中俊一をはじめ原子力規制委員の過半が、あの「口先やるやる詐欺」政党=民主党の野田佳彦政権の時に選任されていること、また、原子力安全保安院がほぼそっくり丸ごと、看板の付け替えで原子力規制庁になったのも、やっぱり民主党政権=野田佳彦政権の時だったということです。
自民党とともに民主党もまた、撲滅すべき政党であることは、このことを見ただけでも、はっきりと申しあげられることです。福島第1原発事故を経験しても、まだまともに原子力規制もできないような、適正な原子力規制を実現できないような政党・政権・政治家集団など、日本の今後にとっては有害無益だからです。
草々