事故の謎に迫るNHK新刊書(『福島第一原発事故7つの謎』:講談社現代新書)は、充分な批判的視点とリテラシーを持ってご覧ください:政府事故調結果の無批判な前提化はあやうい
前略,田中一郎です。
(別添PDFファイルは添付できませんでした)
別添PDFファイルは、このたび発売となったNHK福島第1原発「メルトダウン」取材班による『福島第1原発事故7つの謎』(講談社現代新書)の目次と、そのイントロ部分です。原子力「寄生」委員会・「寄生」庁による事故実態解明のサボタージュ・事実隠蔽と、事故原因の津波被害への集約=地震の揺れによる被害の科学的根拠のないままの排除や人的・組織的欠陥の無視などの事故原因の矮小化・歪曲により、あれだけの巨大かつ深刻な原子力施設の事故であるにもかかわらず、その実態の解明と原因追及が遅々として進んでおりません。事故前も原子力ムラの挙動にはあきれるものがありましたが、事故後は、しばらくの間の謹慎期間を経て再びゾンビのように蘇ってはロクでもないことをし始め、事故前よりも一段とその行動様式が独断的でグロテスクになってきています。私はこうしたことが、次の福島第1原発事故を上回る規模と深刻さで、再びの原発・核燃料施設過酷事故を招くであろうと思っていますので、ゆゆしき事態が進行していると言っていいと思います。
●『福島第一原発事故7つの謎』(NHKスペシャル『メルトダウン』取材班/著:講談社現代新書
http://www.e-hon.ne.jp/bec/SA/Detail?refShinCode=0100000000000033203896&Action_id=121&Sza_id=G1
今回ご紹介する本書は、そうした時に絶好のタイミングで刊行されたと言っていいでしょう。日本の科学者・技術者たちの怠慢と腰抜けぶりで、福島第1原発事故後4年近くが経過しているというのに、未だにこの原発事故の全貌を一般の読者にも分かる形で、詳細に、かつ科学的実証的な立場に立って体系的批判的に解説した書物は、ただの1冊も出版されておりません。福島第1原発事故の実態やその原因がはっきりしないのはわかりますが、だからと言って、一般の有権者・国民向けに、ただの1冊の解説書も出てこないというのは、この日本の言論界が「原子力翼賛」の翼の下に入り、(戦前のように暴力的に言論・表現が抑圧されているわけでもないのに)、過去からのだらだらと続く日常性の中に埋没して惰眠をむさぼりつつ、「日の丸」ならぬ「原子力」の旗を無意識に振っている・振らされているということになるのではないかと、私は思います。そんな中での今回の新書出版ですから、まずは歓迎したい、NHK取材班にエールを送りたいと思います。(また、この本がNHK出版からではなく講談社から出版されていることには何か意味があるのでしょうか?ちょっと違和感があります)
しかしです。実はこの新書は、下記の少し前に出版された同じ主旨の本の続編と言っていい内容のように思われます(まだイントロ部分しか読んでおりませんので「思われます」と書いておきます)。そして、別添したPDFファイルの「はじめに」を読む限りでは、ああ、やっぱり変わっていない、と思った次第なのです。
●『メルトダウン連鎖の真相』(NHKスペシャル『メルトダウン』取材班/著:講談社)
http://www.e-hon.ne.jp/bec/SA/Detail?refShinCode=0100000000000032938010&Action_id=121&Sza_id=C0
それは、この本も前書も、そのベースが政府事故調の調査結果に依拠している部分が多く、しかも、そのことについての根本的な疑義なり問題意識なり批判的観点なりが乏しいということです。正直言って、前書もそうでしたが、こんな形で福島第1原発事故の実態なり真相なりを認識してしまっていいのかな、と思います。確かに前書では、多くの点で福島第1原発事故の経緯に関して豊富な情報が提供され、とても参考になりました。初めて目にするものもありましたし、そもそも3.11以降、時系列的に豊富な取材結果を使いつつ、一般の人にも分かるよう平易に解説されていますから、読みやすく記憶に残りやすいのです。しかし、逆にまた、多くの点で首をかしげたくなる箇所も多く、これはいかんなと、つまり、NHKの外の、原発・原子炉を厳しく見ている人たちのチェックや批判的視点が全体を通じて欠落しているな、という印象を強く持った次第です。ですから、今回の本書についても、また同じことが繰り返されるのではないか、という懸念は強く、別添PDFファイルの「はじめに」を読むにつれ、ああ、まただ、という印象を受けています。
1つだけ例を挙げておきます、本書が福島第1原発の事態悪化の最も根源的なことであると見ている1号機の炉心溶融(メルトダウン)と水素爆発について、そうした事態を招いた直接的な原因は非常用復水器(IC)の機能の問題でした。しかし、NHK取材班が書いた前書も本書も、非常用復水器(IC)は津波を被ると同時に即座に停止して機能せず、それを吉田昌郎所長以下,福島第1原発の東京電力現場職員らが知らないでいたことに、福島第1原発1号機の事態悪化の大きな原因があると書いていることです。しかし、この見方は政府事故調の見方そのもので、本当にそうであったかどうかは定かではありません。定かでないものを確定していることであるかのごとく書くのは、何が何でもいけないでしょう。非常用復水器(IC)は、少し前に私がメールでご紹介したとおり、佐藤暁元GEエンジニアの岩波書店月刊誌『科学』論文にもあったように、津波によるSBO(全電源喪失)によって、その自動停止機能が予定されていた通りに働いたかどうかは怪しい限りであり、A系・B系と2つある非常用復水器(IC)の配管が二つとも津波を被ってもしばらくの間は動いていたと判断できる証拠があるようだし、少なくとも、絶対に止まっていた、と断定できる証拠はない、と言えるようなのです。
それどころか、非常用復水器(IC)の配管が地震の揺れで一部破損し、そこから冷却水が漏れていた様子があると言えなくもないこと(小LOCA)、また、そもそも非常用復水器(IC)がSBOとともに自動停止する・させるという設計の仕方そのものが、原発の過酷事故時の対応を困難にさせる欠陥設計だったのではないか、という考え方も出てきていることを申し上げておかなくてはと思います。NHK取材班の福島第1原発1号機についての説明は、政府事故調の報告書をアプリオリに正しいものとの前提の上に立って非常用復水器(IC)の問題を説明しており、見方によっては、福島第1原発事故の実態や原因を歪曲するもの=今後の沸騰水型原子炉の追加安全対策に水を差すものと言えなくもないのです。元東京電力の福島第1原発現場職員だった木村俊雄氏が告発した過渡現象記録をどう見るか、という問題もあります。
●「元東京電力福島第1原発技術員木村俊雄さんの会見動画」(2013年7月10日)12月2日 - ブロマガ
http://ch.nicovideo.jp/masayukisatomura/blomaga/ar344680
このNHK取材班の説明や認識の基本となっている政府事故調ですが、以前にも申し上げたように、その調査報告書については、調査の仕方や事故調の進め方も含めて、いろいろと問題が多いものだと言えます。2,3の問題点を挙げておきますと、(1)座長の畑村洋太郎東京大学名誉教授という人間が怪しげである(しかも出身は原子力ムラ養成工場の東京大学であり、かつ彼の口から原子力ムラを厳しく批判する話はあまり聞かない、それどころか、ムラのはしくれだ、との見方もある)、(2)事務局を、なんと原子力ムラ代理店政府の霞が関官僚たち(とりわけ法務省や検察庁の官僚たち)が引き受けていた=しかも最近公開された政府事故調の証言調書を見ると、この霞が関官僚たちが、東京電力の福島第1原発事故についての説明を「正しいものである」として仕立てあげるための「誘導尋問」のようなことをしているとの評価がある(伊東良徳弁護士)、そしてその検察庁官僚たちは、ついに福島第1原発事故の事故責任第一人者の東京電力元幹部らを2度にわたり不起訴にしてしまった。(3)地震の揺れによる原発施設の損壊については、ほとんど調査することもなく、アプリオリに「関係ない」としてしまっている、(4)国会事故調よりも半年近く早くスタートしていながら、最終報告書の公表が遅れ、国会事故調の公表の後に、まるで「後出しじゃんけん」のごとく、国会事故調の内容を見てから公表された、などである。
(参考)畑村洋太郎「失敗学」の構想失敗と原発推進論 社会科学者の随想
http://blog.livedoor.jp/bbgmgt/archives/1012988293.html
というわけで、この新刊書は、信用の置けない政府事故調報告書に依拠している部分が大である、という意識を強烈にもち、従ってまた、事故の実態や原因については、まだまだ書かれていることだけではない、多くの議論や見方、検証・検討の余地があるのだということを心得ながら読み進めていくのがいいだろうと思います。そして、並行して、原子力「寄生」委員会・「寄生」庁に対しては、福島第1原発事故の実態とその原因の解明を、原子力ムラのメンバーだけでなく、多様多彩な国内外の科学者・技術者の協力も得て、精力的に実施していくべきであること、また、政府や国会に対しては、福島第1原発事故の再発を許さない原発・核燃料施設をめぐるチェック体制の確立や、何よりも福島事故原発の後始末を適切に遂行していける廃炉執行体制づくりなどを、何度も何度も働きかけていく必要があります。本書がそうしたことを実現する契機づくりの1つになっていけば幸いと思います。
これから私も読んでいきますが、その中で興味深い、みなさまに知っておいていただきたいことを発見しましたら、また簡単にまとめてメールでお送りいたします。
草々
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