都市改革・都市計画制度等改革基本法(案)に注目しよう (画期的な都市計画制度(まちづくり)改革法案ができました)
前略,田中一郎です。
(別添PDFファイルはデータ量の関係で一部添付できませんでした)
去る11月1日に全水道会館4Fにおいて、「景住ネット」(景観と住環境を考える全国ネットワーク)主催で、1年半ぶりの「全国交流集会」が開催され、全国各地の「マンション紛争・景観紛争」の(嘆かわしくもめちゃくちゃなまちづくりの)現状報告がなされるとともに、元国立市長
上原公子(ひろこ)氏を巡る(勝訴)裁判(景観とまちづくりに関する裁判)の報告、そして、今回ご紹介する「都市改革・都市計画制度等改革基本法(案)」の説明がなされました。その内容は、今あるまちづくりや都市計画制度の根本的な「欠陥」を修正・克服するとともに、これまでには見られなかった画期的ないくつかの内容を含む、文字通り、時代を先取りした、住民参加と自治を土台とする、すばらしいものでした。以下、簡単にご紹介申し上げます(私の下手な解説をご覧になるよりも、別添PDFファイル(時間のない方は「概要説明パンフ」)を熟読されることをお勧めいたします)。
申し上げるまでもなく今日の日本は、少子・高齢化の過渡期を経て、これから本格的な超高齢化社会=「人口減少社会」に突入していきます。本来であれば、こうしたことは、それが予想されたもっと早い段階から、政治家や政府がリーダーシップをとり、有権者・市民の英知を結集して、ありうべき社会制度や国の法律的な枠組みを構築していくべきものです。しかし、この日本では、愚かにも、政治家や政府が過去の高度経済成長の「夢」から覚めぬまま、旧態依然の利権政治・土建政治に立脚して「人よりもコンクリート」の政策を変えようとせず、また、加えて周期遅れの舶来品イデオロギーである市場原理主義にかぶれてしまったことから、日本社会全体が無秩序と荒廃の中で格差を拡大させ疲弊してしまっております。年金・医療・介護・交通・教育・保育・労働などに加え、このまちづくり・都市計画もまた、その中の重要なファクターであるのです。そしてそれは、今鳴り物入りで進められようとしているニセモノ地域活性化政策である安倍晋三・自民党政権の「地方創生」とも大きく関係しオーバーラップする、国づくり・社会再建の礎となるものと言えます。
<別添PDFファイル>
(1)都市計画制度等改革基本法案(概要説明パンフレット)(2014年11月)
「toshikeikakuhoubapponkaiseiann_gaiyou.pdf」をダウンロード
(2)都市改革・都市計画制度等改革基本法(詳細説明:五十嵐敬喜・野口和雄著 2014年11月)
(3)都市改革・都市計画制度等改革基本法(Q&A:五十嵐敬喜・野口和雄著 2014年11月)
(4)都市改革・都市計画制度等改革基本法(逐条解説:五十嵐敬喜・野口和雄著 2014年11月)
なお、上記((2)~(4)は1冊の冊子を分割してPDFファイル化したものです)
<関連サイト>
(1)「景観と住環境を考える全国ネットワーク」HP
(2)『都市計画法改正「土地総有」の提言』(第一法規:五十嵐敬喜・野口和雄・萩原淳司著)
http://www.e-hon.ne.jp/bec/SA/Detail?refShinCode=0100000000000032293803&Action_id=121&Sza_id=C0
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この法案の特徴は、私が見たところ、次のような点にあると思われます。
(1)法案自体が「基本法」的な性格を持ち、これからのまちづくり・都市計画関連法約500本(うち密接に関係するものは都市計画法と建築基準法の2つの法律を2大柱にして約60本)を改正していく際の「枠組み」「推進体制」「期限」「根本的な考え方」などを示すものであること=単なる基本法ではなく、改正のあり方や方向性をはっきりと示している点で、「改革工程表促進法」のようなものであること。制定後、2年以内に関連法の抜本改正と、それを実現するための体制づくり、期限などを定めている。
(2)現在のまちづくり・都市計画法制の最大の矛盾=欠陥を、「(基本的に国が定めた基準に基づく)建築確認制度」に見て(⇒ 形だけの「自治事務」としての建築確認制度を濫用し、自治体を国が定める基準にただ準則して、建築物にゴーサインを出すためだけの下請け機関と化し、ディベロッパーや建築業者の利益を優先した「なんでもあり」の乱開発促進型の法律に変質させてしまっていること、その基底にこの建築基準法に基づく「建築確認制度」があるということ。いわば、都市計画法の裏側からの実質的形骸化ないしは解体=都市計画法の総論的定めを建築基準法が各法的に骨抜きにしていく仕組み、と言っていいのではないか)、それを抜本改正しようとしている。
(3)徹底した地方分権・地域主権と住民参加・自治に基づいた考え方で法律・法制度が組み立てられている(ということは、言い換えれば、使い方によっては「薬にもなり、毒にもなりうる」ということ)。
(4)既に、衆議院法制局と幾度にもわたり「法案」として徹底した議論と検討を繰り返してきており、基本的に法制局承認法案として策定されている。従って、これをこのまま議員立法として国会に直ちに上程することが可能な、まさにリアリスティックな「法案」そのもの、であること。また、この法律が具体化した暁には、今現在ある国・国土交通省の都市計画関係の各部署や都道府県の関係部署も、抜本的な解体・再編が必要となる意味も含めて、その内容が画期的である。
(5)大都市圏での再開発や巨大公共事業・都市計画事業をはじめ、都市におけるまちづくりにとどまらず、その都市の近郊である農村地域や農地の開発・宅地化及び農地のあり方、更には、その周辺部にある林地や山林の開発なども視野に入れた、総合的国づくり法改正を展望するものであること。更には、土地関連法や国土開発関連法など、総合的なまちづくり・くにづくりと、その土台・基礎となる所有・利用・開発・公共事業・行政などのあり方にも、当然ながら「深く考慮(改革発想)」していること。
(6)住民参加・自治のありよう、いわゆる事業法と土地法との関係、建築不自由の原則と土地所有・土地利用、地方創生や地域活性化のこれから、超高齢化社会におけるまちづくりと都市計画、規制緩和の行きすぎと都市計画法・建築基準法などなど、仮にこの法案が現実化しても、まだまだ、この課題に関する諸問題は山積しており、考え抜かねばならぬ諸問題は多い。
(詳細は別添PDFファイルの法案解説をご覧下さい)
集会当日、私からは次の3点を「質問」いたしました。
(1)1990年代初頭以降、市場原理主義と規制緩和の風潮に乗って無原則・やりたい放題・野放図に進められてきたまちづくりや都市再開発などの乱開発が、この法律によって止めることができるのか。「首長選挙や地方議会選挙で市民派を勝利させよ」ということはその通りだが、それがなくても、法律の中で、(たとえば「(乱開発)絶対的禁止条項」のようなものを入れるなどの方法により)、この25年以上も続く(市場原理主義の)「流れ」(住民や生活や地域や景観よりもコンクリートと業者の利益を優先する政策)を抜本的に変えることはできないものか
(2)各法・技術立法である建築基準法の「総論的部分」をすべて都市計画法に移行させ、建築確認を建築基準法に基づく「純粋技術的チェック制度」として残しつつ、改正都市計画法で新たに「建築許可制度」(「確認」ではない!)を基礎自治体の権限としていること(完全な「自治事務」化)には大賛成だが(「開発許可」も同様に基礎自治体の権限となる)、その際、建築基準法に残される「純粋技術的な建築確認」の「適正化」はどうなるのか。今現在のように、建築をする当事者である建築業者やディベロッパーが出資をする会社が建築確認を行えるような「利益相反」状態で、はたして「姉歯事件(構造計算書偽造事件)」のようなことが防げるのか。建物・住宅の安全確保は確実に確保される法制度になるのか(現状はなっていないので、耐震偽装は再発の可能性大)。
(参考)ウィキペディア 構造計算書偽造問題
(3)まちづくり・都市開発がこの法律で抜本改革され、都市域での乱開発が防止できたとした場合、今度は、ディベロッパーや建築業界は、その食指を都市郊外の農村地域や山林などに向かわせる可能性がある。特に、今現在は、農地を資本や大企業の「金儲けの手段」とすべく、耕作者農民から農地が引きはがされようとしており、危機的状況下にある。いわゆる農地法や森林法などの都市計画周辺法を視野に入れた取組は考えなくていいか。
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今後のこの法案の行方に注目するとともに、私たちのまちづくりを私たちの手に取り戻すため、いや、もっと切実に、私たちの住居の近所に異様な化け物建築物の出現を許さず、美しく住みよい住環境と景観を守る、そういう法制度と住民参加・自治、地域主権の確立に向け、政治的な取組も含めて、努力邁進してまいりましょう。
なお、私が参加しております「市民参加への模索連絡会」では、近々、五十嵐敬喜先生を囲んでの「まちづくり・都市計画・地方創生・地域づくり」の連続セミナーを計画中です。ご期待ください。
草々
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