(その3:最後) 新刊書ご紹介 『被ばく列島』(小出裕章・西尾正道著:角川ONEテーマ新書):放射能と被ばくに関する基礎知識や必須情報が平易な「対談」言葉の中に満載、必見です
前略,田中一郎です。
(別添PDFファイルは添付できませんでした)
(第3回目=最終回です:昨日のメールの続きです。最初の部分は昨日のメールをコピー&ペーストしておきます。)
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「天高く馬肥ゆる秋」は「読書の秋」です。その秋にぴったりの好書が出ました。下記にご紹介する『被ばく列島』(角川ONEテーマ新書)が、まさにそれです。私たち脱原発・脱被ばく市民にとっての必読書です。放射能と被ばくに関する基礎知識や必須情報が、平易な「対談」言葉の中に満載されています。著者は、脱原発・脱被ばくの世界で著名なお二人=小出裕章京都大学原子炉実験所助教と西尾正道元(独)国立病院機構北海道がんセンター院長です。
以下、複数回に分けて、この新書から、私が特に注目すべき重要箇所と思った部分のうち、ほんの一部だけを取り出して皆様にご紹介申し上げます。このメールが、みなさまの秋の食欲とともに、この新書への読書欲をかきたてることを願っております。
<新書ご紹介>
●『被ばく列島』(小出裕章・西尾正道著:角川ONEテーマ新書)
http://www.e-hon.ne.jp/bec/SA/Detail?refShinCode=0100000000000033163383&Action_id=121&Sza_id=C0
<別添PDFファイル>
(1)NO.9 ただの民間機関にすぎないICRP
(『被ばく列島』 小出・西尾著』)
(2)NO.10 確率的影響と確定的影響
(『被ばく列島』 小出・西尾著』)
(3)NO.11 放射線防護の現状
(『被ばく列島』 小出・西尾著』)
(4)NO.12 核の無害化技術は実現性なし (『被ばく列島』 小出・西尾著』)
1.NO.9 ただの民間機関にすぎないICRP
(『被ばく列島』 小出・西尾著』)
(以下、一部引用)
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事故前、原子力発電の安全神話をばら撒いてきましたが、事故後は、安全神話が崩壊初したので、新たに安心神話を作り出しています。その根拠を与えているのがICRPです。1928年に設立された「国際X線およびラジウム防護委員会」は放射線の医学利用を考慮して作られましたが、50年に名称を変えてICRPとなり、その目的は人体への健康被害を最低限にするということよりも原子力政策をすすめることにシフトしました。
ICRPは、第一委員会が外部被ばく委員会、第二委員会が内部被ばく委員会でしたが、52年に内部被ばく委員会の審議を打ち切ってしまいました。そこから報告書が出たら原子力政策を進められない事態となり、困るからです。内部被ばくを隠蔽する歴史は52年から始まっているのです。
(中略)また、このICRPは目的に沿って物語を作り、報告書や勧告を出します。「闘値なしの直線仮説」が国際的なコンセンサスとなっていても、日本政府は100ミリシーベルト以下では放射線の健康被害は因果関係を証明できるほどの影響は見られないと主張しているのが、その典型です。多くの医学論文で、100ミリシーベルト以下でも健康被害は報告されていますが、ICRPは調査もせず、反論もしません。研究機関ではなく、ただの会議を開催して報告書を出す委員会だからです。
(中略)また、御用学者はたくさんの研究費という名目で資金援助を受け、それで飯を食っています。メディアも最大のスポンサーは電力会社、だから、きちんと真実を伝えない。こうした構造が国際的に出来上がっており、まさに原発利権に群がる国際原子力マフィアとなっているのです[図表33]。また、原発事故後の各種委員会や有識者会議の構成メンバーは基本的には御用学者といわれる人たちで占められています。
(中略)そうした専門家とか有識者という人たちは、現場感覚があるかというと、ありません。現場で放射線を扱っているわけではなく、自分が被ばくする環境下で仕事をしているわけでもありません。ただICRPの報告書に詳しいというだけなのです。日本を代表して原子力ムラから旅費も支給されて国際会議に出席しICRPの内容を大学などで講義し、それが給料になり、それで食っている人たちです。ICRPの報告書の内容に詳しいだけの机上の人が、いわゆる専門家とか有識者と称しているから国民目線を失い、ピントが狂い、政府の意向に合わせた報告を作ることになります。
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(田中一郎コメント)
国際原子力マフィアは、国際原子力機関(IAEA)、国際放射線防護委員会(ICRP)、「国連科学委員会(UNSCEAR)](アンスケア)の3つの国際組織などを中心にして集う人間達をさして言われます。国際放射線防護委員会(ICRP)は、その中でも最も「サロン的」な場だと言われており、決して研究機関でも実証・実験・観測組織でもありません。放射能と放射線被曝について、ウソばかりついてきた御用人間たちの「たまり場」です。こんなところが出す勧告を金科玉条のごとく奉って、拝み倒している馬鹿ものは、日本政府やその下請け自治体ぐらいなものです。世界の皆さんは、国際放射線防護委員会(ICRP)が、原子力推進のための宣伝組織であることを重々承知しています。
2.NO.10 確率的影響と確定的影響
(『被ばく列島』 小出・西尾著』)
(以下、一部引用)
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50から2003年まで、50余年、広島・長崎の被ばく者約12万人をフォローした追跡調査によれば、30歳で1シーベルト浴びたら、70歳の時に肺がんや胃がんなどの固形がんで死亡するリスクは、被ばくしていない人に比べて42%増加し、被ばく時の年齢が20歳だったら、リスクは54%に増えるという報告が2012年にABCC(放影研)から出ています。
前出のICRP103勧告(2007年)では過剰発がんは、1シーベルトにつき5.5%としていますが、時間が経たなければ分かりません。人聞がある程度は放射線に順応するかもしれませんが、実際にはもっと高い被害確率の可能性があります。
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また健康被害に関して、教科書的には確率的影響と確定的影響に分けて考えられていますが、これはあくまでも理解しやすいようにした便宜的なものです。すべての人に生じるような大量の被ぱくの場合は闘値があり、確定的影響とされ、4~5シーベルトでは腸管死や骨髄死が起こるとされています。しかし、これは発症したり死亡したりする闘値であり、それ以下でも確実に体には影響を与えているのです。そのため急性期の症状で死ななくても長期間の経過の中でいろいろなトラブルが生じる可能性があります。
(中略)白内障は闘値があるかどうかは医学的には明確には分かっておらず、闘値はないか、あったとしても1グレイ程度ではないかと考えられているが、確定的影響とも確率的影響とも判断できないのです。
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(田中一郎コメント)
私も西尾正道先生のおっしゃるように、放射線被曝を「確定的影響」と「確率的影響」という風に、はっきりと分けて考えることについては大きな違和感があります。何故なら、こんな言葉は他の病気や障害の場合には使わないからです。問題は「確率的影響」の方で、西尾正道先生がお書きになっているように、症状が表面に現れるかどうか、現れてもそれに気がつくかどうか、あるいは医療機器で観測できるかどうかで「確率的」などと言われているようですから、「確率」に当たらなかった場合でも、必ずや体のどこかが傷ついていると考えられます。決して「確率」にはずれたから何ともない、ということではありません。それに、本人の生存中には症状が表面化しなくても、遺伝的な影響が出てくる可能性だってあるのです。こんなものを「確率的」などということは、放射線被曝の被害・悪影響の歪曲ないし矮小化以外の何物でもないように思います。そして、この言葉が、もっぱら内部被曝に使われていることも、よく認識しておくべきでしょう。(上記で「グレイ」とあるのは「シーベルト」と読み替えて、だいたいOKです)
3.NO.11 放射線防護の現状
(『被ばく列島』 小出・西尾著』)
(以下、一部引用)
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放射線を取り扱う従事者を守る法律として、「原子炉等規制法」「放射線障害防止法」「労働安全衛生法」など、さまざまにあります。例えば、3カ月に1.3ミリシーベルトを超えて被ばくしてしまうような場所は、放射線管理区域に指定して、放射線量や空気中の濃度の測定・監視をしなければいけません。そしてその場に立ち入る労働者を「放射線業務従事者」に指定し、個人の被ばく管理もしなければいけません。その上で、5年間で100ミリシーベルト、1年にすれば20ミリシーベルト以上の被ぱくをしてはならないと決められています。
そして、放射線管理区域の中でも、労働者が容易に触れることができる壁などの表面は、1平方メートル当たり40万ベクレル以上の放射性物質で汚れていてはいけないという規定もあります。そして、管理区域から外に出る時には1平方メートル当たり4万ベクレルを超えて放射性物質で汚染されているものは持ち出しを禁止されます。そのため、放射線管理区域の出口ドアの前には汚染の検査装置が置いてあって、そこで測定した結果、1平方メートル当たり4万ベクレルを超えて私の実験着や手が汚れていれば、ドアが開かない仕組みになっています。
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(田中一郎コメント)
既に多くの方々が論じておられますが、放射線管理区域(年間5.2ミリシーベルト超)の領域に入る場合には、安全確保のために様々な規制があり、かつ服装なども厳重な装備が義務付けられています。子供など未成年は原則立ち入り禁止ですし、飲食も喫煙もダメです。しかし、今は、この放射線管理区域の指定基準を超えるような放射能汚染地帯が福島県や東日本一帯に広がっており、その地域では、なんの規制も放射線防護もないのです。ですので、たとえば福島県では、放射線管理区域内にいる方が、放射線管理区域外にいるよりも、少しは安全、という、信じがたい「転倒」「さかさま事態」が生じています。こんなところに、放射線弱者である妊婦や子どもたちを(安全だとだまくらかして)放置しておいていいのかということです。
また、一般人に対する被曝限度は法律で1ミリシーベルトとされています。こうした放射線防護に関する福島第1原発事故前における決まり・決めごとを、すべて踏み倒して、福島県をはじめ東日本の放射能汚染地帯に住む人たちに放射線被曝を押し付けているのが今の日本政府であり、その下請けとなって動いているのが福島県庁をはじめ、少なくない各地の自治体です。日本は法治国家であることを放棄してしまっています。いわば、江戸時代以前の「(やりたい放題)人治国家」に一気に戻ってしまったということです。
上記で小出裕章先生がご説明になっている3つの法律、いまや「棚上げ」にされて有名無実化していますが、一応覚えておきましょう。「原子炉等規制法」「放射線障害防止法」「労働安全衛生法」の3つです。この3つには、同じ内容の規則が書かれています。なお、あえてこれ以外に挙げれば、医療関係の法律ということになるでしょう。
しかし、私たちは、こうした原子力ムラ代理店政府の出鱈目三昧を、指をくわえて見ていることしかできないわけではありません。まずもって、選挙のある都度、投票所へ行き、この原子力翼賛体制のような状態を創り出しているロクでもない政治家ども=具体的には、自民党、公明党、民主党、及びその「補完勢力」(未来、維新、みんななど)の政治家どもが、必ず落選するように投票をしてみてください。また、選挙投票だけでなく、様々な形で脱原発や脱被ばくの市民運動・社会運動が拡大していますから、各自各様、可能な形で参加して、直接的な行動にもTRYしてみてください。
それから、原発・核燃料施設を止めるために、多くの立地自治体の住民・市民が運転差し止めの訴訟を起こしていますが、日本の裁判所は、そのほとんどを蹴飛ばしています(原告を敗訴させている)。なので、この日本の司法の体たらくにも一発ぶちかますために、衆議院選挙のたびに行われている最高裁裁判官の国民審判投票において、全員に「×」をつけて投票いたしましょう(白紙で投票すると「○」扱いされます:そういうインチキが法律で決まっています)。一種のショック療法のようなものです。事実、最近は、どうしようもなくロクでもない裁判官が増えています。
もし仮に全国でこうした動きが大きくなれば、必ずや日本は大きく変わる可能性を持ってきます。しかし、今のままではダメです。このままでは日本は、原子力ムラ・放射線ムラに滅ぼされてしまいます。このことは固くお約束しておきましょう。出鱈目な状態は誰かが変えてくれるということはありません。みなさま、一人ひとりが行動を起こして変えていくしかないのです。
4.NO.12 核の無害化技術は実現性なし
(『被ばく列島』 小出・西尾著』)
(以下、一部引用)
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ウランという元素をもってきて、それを核分裂させれば、セシウムという元素ができる、ストロンチウムという元素ができる、ヨウ素もできる、量の多寡を問わなければ、金だって銀だって白金だってできていて、錬金術はできることがすでに分かっているわけです。それであるなら、作ってしまったセシウム137、あるいはストロンチウム90に錬金術を施して、別のものに変えてしまえばいいじゃないかということは容易に分かります。
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(田中一郎コメント)
やっかいな放射性廃棄物に放射線を当てて別な物質に変えれば、放射性廃棄物でなくならせることができる、そうしたら「トイレなきマンション」と言われ続けている原発・原子力の抱える深刻極まりない放射性廃棄物問題(バックエンド問題)も容易に片づけることができるではないか、こんなことは誰だって思いつきます。だから当然ながら多くの科学者や技術者が実験を繰り返してこれにチャレンジをしてきましたが、今もって成功していません。それはなぜか。
小出裕章先生がわかりやすく丁寧に説明して下さっています。興味のある方は目を通してみてください。今、政府・文部科学省、及び原子力ムラの御用学者どもは、この陳腐化した放射性廃棄物の「錬金術」研究を口実にして、高速増殖炉「もんじゅ」の延命を図ろうと画策しています。自民党というゴロツキ政治家どもの集まりが、いかに不勉強でパー助なのかは、この「もんじゅ」延命策の「みっともなさ」によく現れています。もちろん、文部科学省の官僚どもは、そんなことが実現できるなどとは思っておりません。ただ、「もんじゅ」に絡まりついた自分達の利権=甘い汁の素を守りたいだけなのです。
5.最後に
この本の最後のところ、P189とP191に「日本の発電設備の量と実績」という表が出ています。ちょっと、その一部を書き出してみましょう。
● 2010年 福島第1原発事故前
電源設備量万KW 設備利用率%
電力会社 水力 4385 19.3
火力 13507 46.7
原子力 4896 67.2
その他 60 49.4
合計
自家発電 5384 50.6
総合計 28232 46.7
● 2012年 福島第1原発事故後
電源設備量万KW 設備利用率%
電力会社 水力 4465 17.2
火力 13980 60.0
原子力 4615 3.9
その他 62 51.5
合計
自家発電 5611 55.3
総合計 28733 43.4
この数字は日本の電力供給に関して次のようなことを示していると言えます。
(1)福島第1原発事故前は、図体がでかくて融通のきかない原発を優先して稼働させ、それを火力が調整していた。ところが福島第1原発事故後は、全ての原発が止まり、火力が主力の発電手段として前面に出てきた。火力は、福島第1原発事故後においても、マスコミがヒステリックに「電力が足りない」「電気が足りない」と騒ぐほど稼働率は高くなく、余裕含みである。
(2)自家発電が大きなウェイトを占めており、かつ福島第1原発事故後は増大傾向である。この自家発電を重要な電源と位置づければ、更に日本の電力の供給体制は余裕が出てくる。現状は、理不尽にも、地域独占の既存大手電力会社の経営と利益が優先され、こうした自家発電が広く社会的なインフラとして多くのユーザーに使われるための「仕組み」ができていない(例えば配電網整備:妨害されている)。電力の自由化が極度に遅れている。
(3)にもかかわらず、真夏に「電力危機」などと言って騒いでいるのはなぜか。それは、いわゆる「ピーク電力」の調整=夏のほんの一時的な電力利用ピーク時を平準化する仕組み・努力・政策が決定的に欠けていて、むしろ、そのピークを放置して「電力危機」を演出して、世論をあおっている様子がうかがえることだ。ねらいはもちろん原発再稼働にある。「電力危機」を煽る最大の馬鹿ものは新聞・雑誌・TVなどのマスコミである。
(4)自然再生可能エネルギーへの取り組み努力がなおざりにされている。こんな状態で、先般、九州電力他5社の地域独占大手電力会社は、法律で義務化されている自然再生可能エネルギーの買い入れを拒否し始めた。
(5)電力業界と、それにまとわりつく利権集団こそが、日本最大の「抵抗勢力」である。これを崩壊させることができるのは、みなさま一人一人、つまり有権者・国民・市民です。みなさまの清き一票を自民・民主・及びその補完勢力以外へ、そして、みなさまの浄財を、大手電力以外の電気へ。
原発を廃棄することは、単純に原発を止めることではなく、原発レジームという日本の今のありようを変えることです。誰かがやってくれることはありません。みなさまが「変わる」しかないのです。
草々