「吉田調書」と福島第1原発事故 (NPO法人「APAST」の後藤正志氏、筒井哲郎氏の講演から)
前略,田中一郎です。
別添PDFファイルは、先般(2014年10月18日(土))、神田神保町において開催されました「緊急講演会:福島原発・吉田昌郎元所長の行動を解析する」で講演されましたNPO法人「APAST」の後藤正志氏(元東芝・原子炉格納容器設計技師)、及び筒井哲郎氏(プラント技術者)のレジメです。以下、簡単にその内容をご紹介し、私のコメントを付します。当日は、両氏以外にも2名の人が講演を行いましたが、それについては省略いたします。なお、この講演会の主催団体は首をかしげたくなるような名前を付けた団体ですが、下記の2人の講演内容とは無関係ですので、ノーコメントといたします。
注:下記はあくまで、原子炉工学の知識に乏しいド素人の私が、お二人の講演を聞いて認識したものをそのまま書いております。従って、当日のお二人の講演の主旨や講演内容とズレや食い違いがあるかもしれません。その場合には、慎んでお詫び申し上げます。
<別添PDFファイル>
(1)緊急講演会「福島原発・吉田昌郎元所長の行動を解析するJ(次第)(2014年10月18日)
「puroguramu_1018.pdf」をダウンロード
(2)福島第一原発事故と吉田調書(後藤正志 2014.10.18)
「rejime_gotou.pdf」をダウンロード
(3)組織と人間:定常時と非常時(筒井哲郎 2014.10.18)
「rejime_tutui.pdf」をダウンロード
(私の当日の書き込みメモは無視してください)
<参考サイト>
● APAST NPO the Union for
Alternative Pathways in Science & Technology
●後藤政志が語る、福島原発事故と安全性
http://gotomasashi.blogspot.jp/
http://gotomasashi.blogspot.jp/p/blog-page.html
(ここに講演会の案内があります)
(田中一郎コメント)
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<福島第一原発事故と吉田調書:死を覚悟した過酷事故対応とその教訓(後藤正志 2014.10.18)>
まず、後藤正志氏のレジメについてだが、講演の最初に同氏は、このレジメは自分の備忘録とおっしゃっていた。講演でおっしゃりたいことが、そのまま図と活字とで書かれているので、このままご覧になるといい。講演は「福島第1原発事故について、いろいろあるが、特に問題は「(スクラム後の)原子炉を冷却することができなかったこと」と、(ご自分が格納容器の設計技師だったこともあって)「格納容器の設計圧力の2倍になってしまったこと」(更に圧力が高まると格納容器が破壊され放射能が全部環境に出てしまう文字通りの破局となる)の2点を挙げておられた。格納容器は、そもそも原子炉内の危険な放射能を環境に出さないで閉じ込めておくための最後の砦だ。チェルノブイリ原発事故の際には、日本の原発ではソ連の原発とは違い、格納容器があるからチェルノブイリ原発事故のようなことにはならない、と言われたものだ、とのことである。その格納容器が福島第1原発事故では破壊寸前まで行っていたということを意味している。
さて、話は時間切れで、非常に惜しいことに途中で終わってしまったのだが、それでもいくつかの点について傾聴に値する重大な指摘があった。以下、それを箇条書きにしてみよう。
(1)非常用復水器(IC)の問題
政府事故調や柳田邦男氏らは、福島第1原発1号機の非常用復水器(IC)は、3/11の全電源喪失時に「フェール・セーフ」機能が働き、自動的に停止してしまったとし、そのことについて吉田昌郎所長以下、福島第1原発現場の幹部責任者たちが認識するのがかなり遅れてしまったことを問題視している。他方、国会事故調や田中三彦氏らは、非常用復水器(IC)を含む福島第1原発の冷却系配管類のどこかに地震の揺れによる亀裂、または破損が生じ、そこから小規模のLOCA(冷却水漏れ事故)を起こしていた可能性が高いこと、特に非常用復水器(IC)にその疑いがあり、その結果、建屋4階にその亀裂・破損個所から漏れ出た水素がたまり、それが爆発することにより大惨事にいたったのではないかと推測している。その場合、非常用復水器(IC)の「フェール・セーフ」機能は、電源喪失のため正常には働かず、従って、自動的に非常用復水器(IC)が停止したとはいえないと考えている。
後藤氏の場合は、非常用復水器(IC)の「フェール・セーフ」機能の稼働の有無の問題には立ち入らず(私が講演後質問した際には、後藤氏も非常用復水器(IC)は停止していなかった可能性があると回答)、その一歩手前で、「はたして、緊急炉心冷却装置(ECCS)である非常用復水器(IC)が、電源を喪失したらその働きを停止してしまうような設計で本当にいいのか」と問題提起されていた。全くその通りである。何故なら、電源を喪失して原子炉が冷やせなくなったその時に、非常用冷却装置として用意された非常用復水器(IC)が自動的に停止して動かなくなり、機能しないようにあらかじめセットされているというのは、どう考えてもおかしいからである。
原子炉の基本的な設計にまで立ち入って、このECCSとしての非常用復水器(IC)の付与された機能の妥当性と「フェール・セーフ」などの機能の過酷事故時における有効性を徹底して問わずして、福島第1原発事故の教訓は得られないとの議論だった。非常用復水器(IC)がセットされた原子炉は、今や福島第1原発以外には日本原電の敦賀1号機しかないが、問題の本質はそのようなところにあるのではない。
(2)水位計の問題
1号機の原子炉水位計は、3月11日夜の21時30分にはTAF+450mm(核燃料の上端(TAF)よりも45センチ上にある)であり、22時にはTAF+550mmを示していた(なんと水位が上昇している!!)。しかし、その後、原子炉内(圧力容器内)の圧力が、翌日12日の午前2時45分には、それまでの6.9MPa(メガパスカル=10気圧)だったものが、一気に0.8MPaまで低下してしまった。圧力容器内の圧力を逃がすSRV(逃し安全弁)は動いた気配がないため、これはどこかが破損して圧力が漏れているのではないか、そうだとすると、これまで圧力容器内には冷却水がまだ存在していて、比較的高い水位を示している、それは非常用復水器(IC)が動いているからだと思っていたのが、実はそうではなく、水位計が示す水位だって怪しいではないか、そもそも水位が上がるのはどうも変だ、ということになり、何が何だか分からなくなってしまった。
実は、福島第1原発に取り付けてある水位計は、別添PDFファイルの図にある通り、ストレートに圧力容器内水位を計るものではなく、圧力容器とは別建てのもう一つの「基準計」としての「基準面器」を用意し、その中にも水を入れて、原子炉の方の水の圧力と基準面器の方の水の圧力を比較計算することで、原子炉内の水位を推測する設計になっていた。しかし、この基準面器の方に入れてあった水が原子炉過酷事故によって格納容器が加熱され、その熱で蒸発してしまって、その圧力が低下し、すなわち基準となる方のものが「低い値」となったため、計測される側の圧力容器の水位は、実際は低かったにもかかわらず、基準面器対比で「高い」値を示していたにすぎなかった。つまり、この水位計は、過酷事故に伴い、実際の圧力容器内の水位を示さない、誤った数字を(事故を軽く見せる数字を)表示させる水位計になってしまっていた。このことは、過酷事故がありうる原発の水位計としては、設計がダメ=使ってはいけない水位計であることを意味している。
しかし、日本全国の原発に使われている水位計は、この誤表示をしてしまう水位計と同じものであるという。後藤氏は、この水位計が新規制基準上で問題にならないまま原発が再稼働されることについて、強い異議を訴えておられた。
(3)逃し安全弁(SRV)の問題
逃し安全弁(SRV)についても、上記の水位計と同様の問題があるようだ。逃し安全弁(SRV)は空気圧で動かそうとしたようだが、格納容器内圧力が設計上の上限圧力(4気圧)を超えると、SRVの周りの空気圧上昇の影響を受け、所要の圧力容器内圧力がSRVにかかっても、弁が開かないというのだ。このため、ベントが成功する前の1号機では、SRVが作動した様子がなく、いたずらに圧力容器内の圧力を上げる方向に動いていたものと推定される。それが、配管類等の破損による圧力漏れで、12日に入るとSRVが動かないまま圧力容器内圧力の低下が起きることになる。
後藤氏は、こうした水位計やSRVの原子炉の重要機器類が、所定の格納容器内圧力の範囲内でなければ正常には稼働しないという話を別の技術者より伝え聞き、そういう設計というのは根本からおかしい=過酷事故になって格納容器に異変が起きれば、たちまち重要機器類が正常には作動しなくなる、ということでは、もしもの時に大変なことになる、原発・原子炉の根本設計のところに立ち返って、その安全装置類の抜本見直しをすべきであると主張した。私はこの後藤氏の話を聞いて、恐ろしくて震え上がってしまった。
(4)ベントの問題
後藤氏の指摘では、成功したと言われている1号機や3号機のベントでも、実は格納容器内の圧力はそれほど下がっているわけではなく、本当に成功したのかどうかは怪しい限りであること、ベントは水素ガスの大量発生がある場合には、水素ガスの危険性を十分に考慮せねばならず、できるだけ冷却等でがんばって圧力上昇を抑え、ベントはその実施を遅らせるのがよいとされていることについても(ベント=環境汚染なので、できるだけしない方がいい)、水素は早く原子炉から漏れて行くので、ベントも早く実施する方がいいかもしれない、いずれにせよ発生する水素ガス対策が不可欠である旨の説明があった。
後藤氏の話はここで切れてしまったが、別添PDFファイルのレジメには、それ以外にもいろいろと興味深いことが書かれているので、ぜひご覧になってみていただきたい。
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<組織と人間:定常時と非常時(筒井哲郎 2014.10.18)>
筒井氏の講演内容は、一言で言えば原発過酷事故時のクライシス・マネジメントを「吉田調書」によって簡単に検証しようとしたものと言える。あまりテクニカルな話や技術的な説明はなく、平易に聞きとれるものだった。別添PDFファイルのレジメをご覧になれば、概ね、講演内容の主旨は見てとれると思う次第。
この問題を考えるにあたって、筒井氏は最初に次のようなことを注意喚起している。
1 .事故時の作業環境 『吉田調書』から~
・関係者すべてが初めて経験する事態であった(海水注入についても、現場開本庖・官邸連絡者の聞で意思が違っていた)。
・現場発生事態を確かめようにも、放射線が高くて、吉田所長自身は免震重要等から出ることができなかった。
・吉田所長と当直長の聞にすら認識のギャップがあった(ベント弁操作の困難性)。
そして、東京電力本社や首相官邸にいた政治家・官僚については、次のようにコメントされている。
(東京電力本社)
-企豊風土
装置産業特有の定型的・反復作業
発注先・協力企業への依存
・事故への備え
過酷事故は起こらない、ICを動かしたことがない~
事故対応組織なし 吉田所長が連続徹夜。交代要員なし~
食事差し入れ無し
非常時体制が欠落
連絡言葉の不明瞭
(政治家・官僚たち)
・オフサイトセンターが使えない
・SPEEDIを隠す
・メルトダウンを隠す
政府側の管掌・責任主体が曖昧
保安院責任者が素人
非常時体制が欠落
原子力安全委員長に情報なし
政治家が政争に明け暮れる
上記について、私のコメントは次の2点です。
(1)福島第1原発の現場作業員たちは、吉田所長以下、命がけで非常に頑張っていた。しかしながら、残念なことに、その頑張りも事故原発の事態悪化に対しては、ほとんど効果的なことができていなかった・できなかった。事態悪化についての、人の手による「+アルファ」は、ほとんどないに等しかった。最悪の事態となって、首都東京を含めて東日本が壊滅的な放射能汚染に見舞われなかったのは、ただただ偶然のなせる技で、単に幸運であったということにすぎない。
特に3/15の午前9時ごろに、猛烈な放射能汚染を観測して以降、お昼を過ぎて、福島第1原発の事態悪化のピークが過ぎて行ったのは何故なのか、その科学技術的根拠は定かではない。福島第1原発過酷事故は、現場の努力によって克服されたのでもなければ、人為的な対策によって、規模や深刻度の小さなものに押しとどめられていたわけでもない。原発過酷事故時に人間ができることは、ほんのわずかなことであり、基本的には取り返しのつかない破局が待っているのだ、ということを、今回の福島第1原発事故は教えているのだと思われる。神様は、愚かな日本人に対して、一度だけ、その「天罰実行」を猶予したと言い換えてもいいように思う。
(2)吉田昌郎所長と東京電力本社とのやりとりと、それについての現場の吉田昌郎所長のいらだちから私たちが受ける印象は、この東京電力という会社が、原発という超危険施設を扱っているにもかかわらず、それが危機的状況に陥った際の対応体制=クライシス・マネジメントが全然ダメだということである。それは「吉田調書」だけでなく、東京電力TV会議の録画を併せてみてみれば、より一層鮮明にわかる。
「吉田調書」にしても、東京電力TV会議にしても、これらは緊急事態において、現場と本部がどのように行動しなければならないか、具体的には、事故の実態をどのように把握し、その情報をどう関係者で共有化し、そして、本部から現場へのサポート、物資補給、人員補充、アドバイスなどなどの必要不可欠の実務をどうこなしていけばいいのか、それらがスムーズに進められるには、どのような準備と役割分担などが必要なのかを、根本から考え直す材料を与えているように思う。
現下、乱暴に進められている原発再稼働は、こうした必須の福島第1原発事故への反省や教訓を活かす努力をすることなく、表面的なつじつま合わせと屁理屈による合理化でごまかされ、多くの都合の悪いことを隠蔽したり無視したりしながら進められており、このままでは再び同じようなお粗末な危機対応がなされることになるに違いない。
草々
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