地震も火山も手抜き評価、過酷事故対策設計も手抜き、こんなことで原発再稼働していいのか、原子力「寄生」委員会よ(岩波書店月刊誌『科学』 より)
前略,田中一郎です。
(別添PDFファイルは添付できませんでした)
このほど岩波書店月刊誌『科学』(2014年9月号)は、焦眉の問題である原発再稼働について特集を組み、科学者や専門家から政治家まで、多彩な執筆者による原発再稼働の「無謀」について、ポイントとなる議論を掲載している。他方で、みなさまご承知の通り、マスコミ報道では、明日9月10日の原子力「寄生」委員会において、川内原発の再稼働へ向けた設置変更許可申請の審査書にOKが出される見込みであるという。
しかし、この岩波書店月刊誌『科学』に掲載された各論文を見る限り、とてもではないが、川内原発の再稼働など危険過ぎて、考えること自体がどうかしているように思われてならない。福島第1原発事故までがそうであったように、日本の原子力ムラどもは、再びかつての出鱈目・ずさん管理とインチキ・ゴマカシ・隠ぺいと根拠レス楽観論で、大多数の有権者・国民・市民の願いを踏みにじりながら、原発再稼働とその推進に邁進しようとしている。
以下、この『科学』論文のうち、代表的なもの3つを選んで、そのエッセンスをご紹介したい。みなさまには、ぜひとも原本を入手され、ご購読されることを願うばかりである。
<別添PDFファイル>
(1)川内原発の審査書案は規則第5号に違反して違法だ(石橋克彦)、巨大噴火は予知できるか(高橋正樹)(『科学
2014.9』)
(2)過酷事故のナイトメア・シナリオ(佐藤暁
『科学 2014.9』)
1.川内原発の審査書案は規則第5号に違反して違法だ(石橋克彦神戸大学教授:地震学)
この論文の中でも述べておられるように、歴史地震や活断層偏重の古めかしい旧「耐震設計審査指針」を、現代地震学の地震発生論に基づく「新指針」(2006年改訂)に刷新させた論客が、この小論文の著者・石橋克彦神戸大学教授である。その同氏は、この小論の中で、原子力規制委員会規則(及びその「規則の解釈」(別紙2))に、基準地震動は「過去に起きた地震だけに囚われるのではなくて,地震発生の場で将来起こりうる最大の地震を設定し,「想定外」を残さないように地震動を策定するよう求めている」にもかかわらず、その規則に違反して、下記のような手抜き・ゴマカシをしていると指摘した。
(以下、一部抜粋)
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「基準地震動に関しては,別記2が,「敷地ごとに震源を特定して策定する地震動」および「震源を特定せず策定する地震動」について,敷地の解放基盤表面(基盤に仮想した自由表面)において策定することを要求している。そして,「震源を特定して策定する地震動」は,内陸地殻内地震,プレート間地震および海洋プレート内地震について,敷地に大きな影響を与えると予想される地震(検討用地震)を複数選定し選定した検討用地震ごとに策定することを求めている。」
「ところが九州電力は,内陸地殻内地震に関しては検討用地震を選定しているが,プレート間地震および海洋プレート内地震については,それぞれの最大規模のものの発生位置が敷地から十分に離れており,敷地に大きな影響を与える地震ではないと考えられるとして,検討用地震を選定しなかった。」
「こうして九州電力は,施設の耐震設計に用いる基準地震動として,「震源を特定して策定する地震動」による基準地震動Ss-1(最大加速度540Gal,Galは加速度の単位)と「震源を特定せず策定する地震動」による基準地震動Ss-2(最大加速度620Gal)だけを策定した。」
(中略)
「だが,プレート間地震と海洋プレート内地震について検討用地震を選定せず,基準地震動を策定しなかったのは,手続きとして明白な過失であり,基準地震動が過小評価された恐れもある。」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
石橋氏は上記のように述べ、従って「審査書案は,地震国日本にとっていちばん重要な耐震設計の根底に関して,改正原子炉等規制法にもとづく原子力規制委員会規則第5号(「実用発電用原子炉及びその附属施設の位置,構造及び設備の基準に関する規則」,という法令に違反している」「本稿で指摘したことは,現行の新規制基準が定める手続きに明白に違反しているという単純な話であって,議論の余地はない。」と指摘している。
基準地震動の査定プロセスにおいて、信じがたい手抜き・ゴマカシが行われていることが同氏の小論で明らかとなった。過小評価された基準地震動に対応した設備や設計しか備えていない原発は、再稼働などされることがあってはならないのは「当たり前」のことである。
2.巨大噴火は予知できるか(高橋正樹:日本大学文理学部)
この小論文の主旨は、一般人が読んでも、そう難しくはない。簡単に箇条書きすると下記の2点となる。
(1)「原子力規制委員会による川内原発の安全評価では,モニタリングによる超巨大噴火の噴火予知があたかも可能であるかのような扱いがされているが,以上述べたように,モニタリングによる超巨大噴火の噴火予知はきわめて困難である。このことは、大多数の火山研究者の間での共通見解であろう。超巨大噴火の正確な噴火予知は,
いかなる方法によっても、現時点では困難といわざるを得ないのである。」
(2)「噴火間隔や超巨大噴火後の火山活動のいずれからみても,川内原発に隣接する姶良カルデラにおける超巨大噴火あるいは大規模噴火の可能性を完全に否定することは困難ということになる。」
しかし、田中俊一以下、原子力「寄生」委員会・「寄生」庁は、上記の火山学者の支配的な見方を退けて、火山噴火は予知可能、川内原発の周辺の当面する火山噴火のリスクは無視できるほど小さい、と、何の科学的実証的根拠もないまま強弁しているのだ。そして、田中俊一をはじめ、原子力「寄生」委員会・「寄生」庁には、火山学の専門家は一人もいない。ただのおっさん、おばはんが、原発を動かしたいばかりに「権力の濫用」をしているという事態となっている。
火山が爆発した場合にどうなるかは、たとえば下記サイトの広瀬隆氏の説明をご覧あれ。
●【広瀬隆】広瀬隆・山本太郎 北海道講演資料 日々雑感
http://hibi-zakkan.net/archives/40009151.html
(上記の説明は、北海道・泊原発、青森・大間原発についての火山リスクの説明だが、その内容はそっくりそのまま川内原発にも言えること)
3.過酷事故のナイトメア・シナリオ(佐藤暁
『科学 2014.9』)
佐藤暁(さとし)氏は、今ではすっかり著名人となった元GEの技術者で、現在は原子力関連ビジネスのコンサルタント業務を手掛ける。アメリカの原子力規制に詳しい。佐藤氏は、前月号の『科学』以降、何度か同誌に連載して、日本の原子力規制がアメリカと比較していかにレベルが低いか、言い換えれば、いかに規制が効果を発揮せず、危ないままの原子炉がまかり通っているかを説明していくとしている。同氏の論文については、今月号の『科学』に限らず、当分の間、注目し続ける価値があるように思われる。
さて、この佐藤氏の小論文は、なかなか面白い次のような文章で始まっている。まさに、原子力「寄生」委員会・「寄生」庁は、「ガマの油」を売る香具師のごとくであり、その大将・親分格の田中俊一こそ、筑波山ろくの「ガマ」顔負けの「厚顔・ハッタリイボのガマ」に例えて、ちっとも違和感のない、ウソつき男である。しかし、「タラ、タラ、タラ」と脂汗を流すのは、原発再稼働の場合には、「ガマ」ではなくて、我々一般の有権者・国民・市民である。いつ何時、再稼働原発・核燃料施設が、手の施しようのない過酷事故に陥ってしまうか、わからないからである。そんな危険な原発・核燃料施設が、今、全力疾走で再稼働に向かっている。
「「さあさあ,お立会い。御用とお急ぎでない方は,ゆっくりと聞いておいで,見ておいで」の口上で始まる「がまの油売り」。香具師は、陳列した軟膏を,かゆみ,ひび・あかぎれ、しもやけ,さらに,梅毒,痔,虫歯にさえも効く万能薬で,特に切り傷には格段の効能を発揮し,名刀の切れ味を一時的に止めてしまう効果もあると言います。そして、大勢の観衆の前で,すっぱすっぱと紙を切り,その切れ味を示した上で「がまの油」を塗って切れなくなることを実証し,次に,それを拭き取ると切れ昧が復活し,実際に自分の二の腕を切って出血させ,そこに「がまの油」を塗ると傷さえ残さず癒えるのを見せて納得させ,最後に,「今日はふだんの50%オフjと叫び,一気に売り捌きます。」
「日本の原子力発電所も,「がまの油」を塗ったかのように,それほど変わったことをしたわけでもないのに、たちまち「世界最高水準Jになりました。その口上を信ずる限り,最新鋭の第三世代の原子炉をも凌ぐ安全性を達成したかのようです。冷却材喪失事故、電源喪失,緊急炉心冷却系喪失,等々に効く万能薬。しかし,もしそれを携えて世界に出て行き,「さあさあ,お立会い」とやったとしたら,それは売れるようなものなのでしょうか? 福島事故後,今日までに欧米で発行された事故の原因と対策を述べているレポー卜は数多くありますが、日本から優れた対策技術の示唆を得たとは,どれにも一行も書いてはありません。」
以下、アメリカの原子力規制の過去の発展段階を記載した興味深い論考など、一読に値する佐藤氏のハイレベルな文章が続きます。そうしたことは、原本を見ていただくことにして、下記では、この小論文のポイントを2つだけ記載しておきます。一言で言えば、
(1)「元国会事故調査委員会の委員長だった黒川博士が語った「(問題は,稀少な事象をどう推定するかではなく,むしろ稀少でもないのに見落とされている事象をどのように拾い上げるかである」に沿って、2つの過酷事故シナリオを提示する。
(2)それは、沸騰水型原子炉(BWR)の場合には、次の2つである。
●HPMEによる絡納容器破損(原子炉容器底部の配管の腐食が進み、これが地震動で破断、かつ全電源喪失とECCS機能不全の常態となった場合)
●水素爆発とジルコニウム火災によるダブル・ナイトメア(地震のよる電源喪失とRCIC系蒸気配管の破損
⇒ 炉心溶融を経て水素爆発で使用済み核燃料プールの水が抜けてしまうようなプール破損 ⇒ 核燃料棒のジルコニウム火災:手がつけられなくなる)
(3)加圧水型原子炉(PWR)の場合
●原子炉容器内での水素爆発(格納容器内で局所的な水素高濃度部分が爆発)
●不用意な海水注入によるTI-SGTRの促進と悪化(蒸気発生器の細管破断と主蒸気逃し安全弁の開固着による放射能の環境放出)
(3)原子力「寄生」委員会・「寄生」庁は、上記のような「ナイトメア・シナリオ」に対する対策を用意して、事態進展をシミュレーションしている様子はなく、また、そうした過酷事故時での原子炉施設周辺住民の避難について、その避難計画に反映させている様子もない、ということ
(田中一郎結論)
つまり、このまま川内原発を再稼働すれば、上記で佐藤氏が述べた「ナイトメア・シナリオ」が「悪夢」という「夢」ではなく「現実」となるということである。夏の夜の「怪談」にしては、恐ろしすぎる話である。
草々
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投稿: 小山啓天 | 2015年8月21日 (金) 20時29分