« 東京新聞・吉田調書シリーズ特集記事に見る福島第1原発事故(その実態と事故原因をさぐる):(2)苦悩のベント、水素爆発、「早くやれ」一点張り | トップページ | 福島県知事選挙について + もう読まれましたか? 必読 『福島原発事故 被災者支援政策の欺瞞』 (日野行介毎日新聞記者著 岩波新書) »

2014年9月27日 (土)

東京新聞・吉田調書シリーズ特集記事に見る福島第1原発事故(その実態と事故原因をさぐる):(3)海水注入ためらったか、堀に水「これしかない」

前略,田中一郎です。

(別添PDFファイルは添付できませんでした)

 

東京新聞が9/15よりシリーズで報道し始めた吉田調書(政府事故調による吉田昌郎福島第1原発所長(当時)証言記録)に関する特集記事「調書は語る:吉田昌郎所長の証言」を見ながら、福島第1原発事故の実態とその原因を探ってみたいと思います。第3回目の今日は下記の東京新聞記事です。なお、私のメールでは、このシリーズ特集記事にある、主として吉田昌郎所長証言のあいまいさや、証言から推察される福島第1原発事故深刻化の原因となったであろうことがらを取り上げて、簡単にコメントいたします。

 

 <別添PDFファイル>

● 調書は語る(3):海水注入ためらったか、堀に水「これしかない」(東京 2014.9.18

ココログhttp://blog.goo.ne.jp/tanutanu9887/e/323d3c76f0fdec24a5eb091edb33e1e1

 

1.東京新聞記事

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「吉田昌郎(まさお)所長が最も心配していたのが水の確保だ。過熱した炉心を冷やすには、大量の水が必要となる。十二日早朝から消防車による淡水注入が始まったが、水源は建屋周りの防火水槽。一つの水槽には四十トンほどしかなく、使い果たすのは時間の問題だった。」

 

「淡水はどこかで尽きるのは決まっていますから、もう海水を入れるしかない。私がこのとき考えたのは『格納容器の圧力を何とかして下げたい』『原子炉に水を入れ続けないといけない』。この二点だけなんですよ」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

(田中一郎コメント)

 福島第1原発事故では、原発停止の3原則=「止める」「冷やす」「閉じ込める」のうち、「止める」についてはかろうじて成功した(実は、沸騰水型原子炉は、重力に逆らって制御棒を原子炉の下から炉心に「水圧」を使って挿入していくので、下手をすると地震の揺れのために制御棒が炉心に入らず、核分裂反応を止められないという事態もあり得た)。

 

 しかし、その次の「冷やす」に失敗し、その結果「閉じ込める」もできなくなってしまった。上記で吉田昌郎所長が「原子炉に水を入れ続けないといけない」と念じ続けたのは当然のことだったと言えるだろう。では、何故、この当たり前の「冷やす」ということが福島第1原発事故時には困難だったのか。

 

 釈迦に説法のような気がするが、ここで「原発とはどういうものか」のプリミティブな話を簡単にしておきたい。

 

 <原発の基本的特徴>

(1)人間が完全には制御できない原子核核分裂反応によるエネルギーを熱エネルギーの形で水を媒介にして取り出し(つまり湯を沸かし)、それでタービンを回して電気をつくる。簡単に言えば、原発とは、核分裂を利用して湯を沸かしてタービンを回して電気をつくっているだけの、単純でつまらない、レベルの低い技術・設備にすぎない。エネルギー効率は極めて悪く、原子炉が生み出すエネルギーの3割が電気となり、残り7割は温排水などとして海に捨てられている。その3割相当の電気も、原発が消費地の都会から遠い過疎地につくられるため、送電の間に、これまた大きなロスが発生し、実際のエネルギー効率は20%台になってしまう。

 

(2)原子力発電の結果、死の灰と呼ばれる厄介で危険で始末に負えない放射性廃棄物や、それ以上に危険な使用済み核燃料が大量に発生する。この原発の排出物の後始末については、全く対処のしようがないままに放置され、それでもどんどん原発が進められていく。従って原発は、「トイレなきマンション」と言われている。

 

(3)原発は単純でレベルの低い技術で出来ているが、それを経済的に他の方法による発電施設並以上のものとするために(発電コストをドラスティックに引き下げるために)、無理に無理を重ねて、a.超巨大化、b.核燃料の濃縮、c.高温高圧状態、という、一歩間違えば取り返しがつかないような巨大な怪物のような発電設備にしてある。その結果、その無理を制御するための装置類が複雑かつ巨大化し、設備全体の危険性が破滅的に巨大化してしまった。

 

(4)結局、原発は、ローテク・ハイリスク・重厚長大・複雑・低採算低エネルギー効率・持続不可能性の「無理」の固まりのような設備となり、それをさまざまな嘘八百や政治的テコ入れでやりくりして今日に至っている。そしてこれに対して、いい加減・ズサン・無責任な管理がなされて原発が運転されているのである。

 

 スクラム(原子炉の緊急停止)後の原子炉(核燃料)冷却が必要であるにもかかわらず、それができなかったのは、上記の(1)~(4)がその原因と考えてよい。すなわち、東日本大震災の大きな揺れにより、複雑で巨大な原発施設のうち、冷却系の配管や制御系のパイプなど、どこかがおかしくなり、ついで津波に襲われて全電源を喪失後は、まったく原子炉・原発施設を制御できなくなっただけでなく、原子炉内の状況さえつかめなくなって、にっちもさっちもいかなくなってしまった。原子炉圧力容器の内部は、制御できなくなった核燃料が熱を出し続けるために(制御を超えて際限なく)高温高圧となり、ここに冷却水を注入しようとすれば、原子炉内圧力に負けないくらいの相当の高圧のポンプやコンプレッサーが必要となるが、それが手配できなかった。

 

 また逆に、原子炉圧力容器内の高圧状態を下げるという方法もありうるが、そうしようと思えば、原子炉につながれた冷却系その他の配管についている「弁」を開けて炉内の水蒸気等の気体を炉外に排出(ベントという)して圧力を下げてやる必要があるが、これも、電気がない、放射能が強くて弁に近づけない(手動操作できない)、空気圧で動く制御系が地震で壊れた、などの理由から、結局、タイミングよく実施することができなかった。

 

 そして、注水するにしろ、ベントするにしろ、原発施設のどこがどのようにおかしくて、それができないでいるのかもわからないままに、いたずらに時間が過ぎて、原子炉の状態がどんどん危機的状況に陥っていくという事態になったのである。こういう状態の中で、吉田昌郎所長は、①原子炉(核燃料)冷却用の水を炉心に注入すること、②冷却できない核燃料の出す熱による高圧・高熱状態が原因で圧力容器から漏れ出てくる気体によって格納容器内の圧力も上がってきているので、格納容器がそれによって壊れてしまわないように、何とか格納容器内の圧力を下げようとしていた。

 

2.東京新聞記事

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「海水注入の準備など、そういうやりとりをしていることについて、本店などは把握していたか。

「準備しているだとか、細かい状況については報告していなかったんですね。別に情報を知らせたくないということではなくて。」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

(田中一郎コメント)

 ここでも福島第1原発サイドから東京電力本社への情報提供がきちんとなされていなかった様子がうかがえる。東京電力本社の現場支援の対応はまことによろしくないが、かといって、現場の方も、適切な対処ができていたかどうかは疑問である。危機管理体制が東京電力は、上から下まで、本部から現場末端まで、全然ダメという状態だったことがこういう証言から見えてくる。(昨日(9/26)にポレポレ東中野で開催された「福島映像祭2014」にゲストとして招かれて話をした元東京電力職員の井戸川りょうた氏(事故当時1,2号機の中央操作室内にいた)は、現場に対する福島第1原発内での指示もあいまいなものが多く、現場をいたずらに混乱させていたと発言していた)

 

3.東京新聞記事

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「十九時四分に海水を注入した直後、官邸にいる武黒から電話がありまして『官邸ではまだ海水注入は了解していない、と。だから停止しろ』との指示でした」

 

「(私は)『できませんよ、そんなこと、注水をやっと開始したばかりじゃないですか』と。はっきり言うと、(武黒氏から)『四の五の言わずに止めろ』と言われた」

 

「何だこれはと思って取りあえず切って、(テレビ会議で)本店に『(武黒氏が)こういうことを言ってくるけれどもどうなんだ。そっち側に指示がいっているのか』と聞いた。指示がいっていたような、いないような、あいまいなことを言っていました」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

(田中一郎コメント)

 今ではすっかり有名になったシーンだが(結局、吉田昌郎所長が「二枚舌」を使って官邸側にウソを言い、現場では独断で海水注入を続けさせた)、この海水注入を止めろという指示は、誰がどのように行ったのか、そろそろ明らかにすればどうかと思う。状況証拠からは、武黒一郎フェローの単独判断のような印象を受ける。しかも、その後3月13日には3号機でも同じようなことが起きるが、その時は吉田昌郎所長は、海水ではなく真水を探し出して入れる方針を取り、1号機とは違った判断をすることになる。

 

 いずれにせよ、炉心溶融を起こして危機的状況になっている原子炉・原発を目の前に置いて、廃炉にしたくないから(もったいないから)海水ではなく真水にしろ、というその精神状態というか、認識状況には、あきれ返るばかりである。

 

4.東京新聞記事

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「水素爆発後、やっと1号機の海水による冷却が再開されたのに、官邸に詰めていた東電の武黒氏が、吉田氏に海水注入を止めるよう指示した背景には、官邸で1時間も続いた「(連続的に核分裂が起きる)再臨界論争」があった。」

 

「破損したホースをつなぎ直し、注入準備が整ったところで海江田経産相が報告のため、官邸に行った時のこと。菅直人首相が「海水を注入した場合、再臨界の危険はないのか」と質問し、班目春樹・原子力安全委員長が「可能性はゼロではない」との趣旨の答えをした。その場にいた人は「え?」と思ったが、班目氏の答えを聞いて危険があるのかどうかの議論が始まってしまった。」

 

「議論の末、「危険なし」でまとまったが、結論が出る前に、武黒氏が「官邸の了承が得られていない。現場先行が将来の妨げになっては困る」と判断。命令もないのに吉田氏に中止を指示した。」

 

「通常なら、班目氏も「なし」と明言したかったはずだが、「なし」と明言したのに1号機で水素爆発が起きた。「その辺の負い目みたいなものがあったと思うんですよ。確信を持って言うのはまずい、という」。細野豪志首相補佐官や海江田氏は調書で、班目氏の心境を推測している。」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

(田中一郎コメント)

 上記を読んで、再びあきれてしまった。斑目春樹氏(=頭狂(東京)大学教授、「でたらめ春樹」と言われている)は原子力安全委員会委員長である。本来であれば、原発過酷事故時には首相のそばにいて、事実上、過酷事故対策の総指揮者とならねばならないはずである。それがこんな調子で、結局、福島第1原発事故直後の最も深刻な数週間を通じて、まったくクソの役にも立たなかったのである。何のための原子力安全委員会なのか。

 

 この斑目春樹委員長は、菅直人(当時)首相に「水素爆発はない」と言ったにもかかわらず1号機が爆発した際、「あああああ・・・」などと呟きながら、頭を抱えてうずくまってしまったそうである。こんな人間達が、原発の安全を差配し、原発を推進していたのである、このこと1つを取ってみても、原発の再稼働など、絶対にあり得ない話である。福島第1原発事故につながるすべての原子力ムラ御用学者どもを「公職追放」しなければいけない。平成の世において、戦後のGHQの役回りをするのは、我々有権者・国民である。

 

 それからもう一つ、1号機の水素爆発の直後にTV番組に解説者として現れた御用学者は、その水素爆発を「爆破弁」による作業であって、意図しない爆発などではないのではないか、とうそぶいていた(下記参照)。かような人間が、まだ東京工業大学の教授様だそうである。日本の大学も立派なものだ。ちなみに、この有冨正憲の名前でネット検索をしてご覧になるとよい。ロクでもない話がわんさとヒットするではないか。今後も忘れないで覚えておきたい名前だ。

 

●御用学者の正体 (東工大 有冨正憲教授) 院長の独り言

 http://onodekita.sblo.jp/article/45297988.html

 http://keibadameningen.cocolog-nifty.com/blog/2011/04/post-a735.html

 

5.最後にもう一言

 いろいろ工夫をして、福島第1原発の各号機の原子炉圧力容器内には「消火系」と呼ばれる本来は原子炉内を冷却する目的でつくられたものではない注水系を使って、真水や海水が大量に注水された。しかし、後からわかったことは、その水の大半が炉心にはいかずに、海水へ原子炉の熱を捨てるための「復水器」と呼ばれる装置の方に行ってしまい、実際には原子炉内の冷却には、ほとんど役に立っていなかったということである。

 

 この「消火系」と呼ばれる注水系も、ベント装置などと同様、1990年代に、米スリーマイル島原発事故の教訓を受けてアメリカで原子炉の追加安全対策が義務化された時に、日本でも同じような対応を、ということで追加装着されたものである。しかし、以前にも申し上げたように、この日本での「追加安全対策」は「義務」ではなく「(電力会社の)任意対応」として位置づけられたため、ただ「あればいい」式の、いい加減なものだった可能性が高い。今回の福島第1原発事故直後の対応・対策は、こんな「危うい」安全装置の上で展開されていたわけで、これでは物事がうまく行く方が不思議というものである。

草々

 

« 東京新聞・吉田調書シリーズ特集記事に見る福島第1原発事故(その実態と事故原因をさぐる):(2)苦悩のベント、水素爆発、「早くやれ」一点張り | トップページ | 福島県知事選挙について + もう読まれましたか? 必読 『福島原発事故 被災者支援政策の欺瞞』 (日野行介毎日新聞記者著 岩波新書) »

福島原発事故」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く

(ウェブ上には掲載しません)

« 東京新聞・吉田調書シリーズ特集記事に見る福島第1原発事故(その実態と事故原因をさぐる):(2)苦悩のベント、水素爆発、「早くやれ」一点張り | トップページ | 福島県知事選挙について + もう読まれましたか? 必読 『福島原発事故 被災者支援政策の欺瞞』 (日野行介毎日新聞記者著 岩波新書) »

最近の記事

無料ブログはココログ