東京新聞・吉田調書シリーズ特集記事に見る福島第1原発事故 (その実態と事故原因をさぐる)(1) : 津波で全電源喪失、「絶望」
前略,田中一郎です。
(別添PDFファイルは添付できませんでした)
今回より数回に分けて、東京新聞が9/15よりシリーズで報道し始めた吉田調書に関する特集記事「調書は語る:吉田所長の証言」を見ながら、福島第1原発事故の実態とその原因を探ってみたいと思います。私のメールでは、このシリーズ特集記事にある主として吉田証言のあいまいさや、証言から推察される福島第1原発事故深刻化の原因となったであろうことをとりあげて、簡単にコメントいたします。第1回目は、9/15付東京新聞「津波で全電源喪失、「絶望」」です。
<別添PDFファイル>
● 調書は語る(1) 津波で全電源喪失、「絶望」(東京 2014.9.15)
http://blog.goo.ne.jp/tanutanu9887/e/8f1734ef4f219214a7217aa7b51db2aa
1.東京新聞記事
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「 ■「冷却中」と思いこみ
<十五時四十分ごろ、保安院から官邸危機管理センターに「福島第一原発全電源喪失、冷却機能停止」の連絡が入る。吉田氏らは、予想もしない事態に呆然としていた> -全交流電源喪失の報告を受けて、どういったことをしようと考えたか。
「はっきり言って、まいってしまっていたんですね。シビアアクシデント(過酷事故)になる可能性が高い。大変なことになったというのがまず第一感。DGを生かせられないかとまず考えるんです。津波によって水没したかどうか、その時点では分かりませんから。それがなくなったらどうしようと」
-次にどういう対応を取ろうと考えたか。
「絶望していました。どうやって冷却するのか検討しろという話はしていますけれども、自分で考えてもこれというのがないんですね。DD(ディーゼル駆動の消火ポンプ)を動かせば、(水が)行くというのは分かっていて、水がなさそうだという話が入り、非常に難しいかなと思っていました」
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(田中一郎コメント)
吉田(当時の東京電力福島第1原発所長の吉田昌郎氏:以下同じ)発言の「DD(ディーゼル駆動の消火ポンプ)を動かせば、(水が)行くというのは分かっていて、水がなさそうだという話が入り、非常に難しいかなと思っていました」については、理解に苦しむ。津波を受けて直後の全電源喪失時の吉田所長の話なのに、どうしてこの段階で「冷却用の水がない」などという話になるのか。ECCS(緊急炉心冷却装置:Emergency Core Cooling System)が非常時に大量の水を使うことはわかりきった話である。その水が、少なくとも数日間は原子炉炉心の冷却を維持できるくらいの量で用意されていなければ「ECCS」などとはとても言えない(機能しない)のではないか。
2.東京新聞記事
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「 <ICは、圧力容器の蒸気をタンクの水で冷やして水に戻し、その水を注水する仕組み。作動中は「豚の鼻」と呼ばれる建屋壁面の排気口から、蒸気が勢いよく噴き出し、ごう音がとどろく。しかし、現場の運転員は「作動経験がなく、訓練も受けていなかった」(事故調報告書)>」
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(田中一郎コメント)
1号機のIC(非常用復水器: Reactor Core Isolation Cooling Condenser)については、「ごう音がとどろく」はずが、そんな音を聞いた現場作業員はいない、というのが実態らしい。つまりICは、ほとんど動いていなかったということ。この非常用復水器(IC)については、原発に批判的な元日立の原子炉設計技師の田中三彦氏が、事故の早い段階から、地震の揺れによる破損の可能性を指摘しており、それには相当の説得力がある。
たとえば、この1号機ICは、事故直後から現場作業員によって「停止されたり、再び動かされたり」を繰り返している。何故、かようなことを作業員が行ったのか。東京電力の説明は、急速に原子炉を冷やすことによる炉の痛みを和らげるため、マニュアルに書かれているようにやった、などと説明しているが、不自然な辻褄合わせっぽくておかしい。原発が地震で緊急事態に入っている時に、一般的にはかようなことはしないものだ。
また、圧力容器内の圧力の推移が事故直後からおかしい。現場の運転員の「作動経験がなく、訓練も受けていなかった」発言も、ほんとうなら東京電力の管理責任が厳しく問われなければいけないし、それ以上に、吉田所長も含めて、非常用復水器(IC)のことを知らないというのは不自然である。
更にまた、非常用復水器(IC)が(大きな音が出ないので)動いている様子がないのに、現場作業員がICを停止させてしまうというのはいかにも不自然である。想像できることは、この非常用復水器の長い長い老朽化したパイプ配管に、地震の揺れによる亀裂または破損が入り、そこから水蒸気が環境に漏れ出ることによって、原子炉の周辺を放射能で汚染するとともに、まもなくの冷却材喪失事故へ至る可能性があった、そのため、現場作業員が気を利かして非常用復水器を止めてしまった、ということではないのか。このことは、事故当日3/11の夕方早い段階で、1号機付近で高濃度の放射能が観測されていたこととも平仄が合う。
3.東京新聞記事
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「SOSが来ていれば人を手配するが、1号機だけではなくて、炉の中に燃料が入っているもの、全部見ていますから、いちいちここはどうだということをこちらから指示することはなかなか難しい。炉水位があるんじゃないかという思いこみがあり、私から聞かなかったことに関して、今、猛烈に反省している」
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(田中一郎コメント)
この吉田発言もいただけない。何故なら、1号機の水器(IC)は、原子炉隔離時冷却系(RCIC)や高圧注水系(HPCI)(いずれも2号機、3号機の場合)とともに、全電源喪失時の、非常用の緊急炉心冷却装置だからだ。これらに頼らなかったら、いったい何に頼って、燃え盛る原子炉炉心を冷却するというのだろう。私は、吉田昌郎所長が、こうした緊急炉心却装置(ECCS)が十分に期待された通りに動かないことを悟り、それゆえに福島第1原発事故をめぐる証言を歪めているのではないか、と疑っている(ECCSが見かけ倒しで機能しないということになれば、全国の原発は稼働できない)。
●非常用炉心冷却装置 - Wikipedia
4.東京新聞記事
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-今にして思うと、何が誤認の原因か。
「水位計をある程度、信用していたのが間違い」
-水位計が信用できないと思い始めたのは。
「線量が上がってきて、おかしいと。放射性物質が外に出るということは、圧力容器から漏れて、その漏れたものが格納容器から漏れているようにしか考えられない。水位があって、漏れることはまずない。燃料損傷に至っている可能性はあるなと」
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(田中一郎コメント)
しかし、この原発事故に極度に弱い水位計は、同じものが全国の原発・核燃料施設で使われている。福島第1原発事故の大きな教訓の一つは、こうした原子炉内の状況を適切に把握するための計器類(水位計、温度計、圧力計)が脆弱であり、この計器類の総見直しは原発の安全確保のためには必要不可欠なものだ、という認識である。しかし、原子力「寄生」委員会・「寄生」庁は、この原子炉計器類の審査強化・性能向上について、何の対策も規制も掛けていない。計器類が危険な役立たずのまま、原発再稼働へ向かって走り出している。
5.東京新聞記事
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事故時は原発周辺にあるオフサイトセンターに政府や自治体、電力会社が集まり、対策の拠点とするはずだったが、全く機能しなかった。
池田元久経済産業副大臣は17時、原発の南西5キロのセンターに向け、専用車で東京・霞が関をたったが大渋滞。「パトカーの先導がつくというのが来ない。まずいと思い、自衛隊のヘリを手配した」
日付をまたぐころ、ようやく到着したが、センターでは停電。非常用発電機も動かなかった。
現場、東電本店、官邸の3者の連携不足について、官邸につめていた細野豪志首相補佐官は「ものすごいフラストレーション。保安院にも、東電本店にも情報が入らない。オフサイトセンターも機能しない」と吐露した。
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(田中一郎コメント)
「専用車で東京・霞が関をたったが大渋滞」「パトカーの先導がつくというのが来ない」「センターでは停電。非常用発電機も動かなかった」「現場、東電本店、官邸の3者の連携不足について、官邸につめていた細野豪志首相補佐官は「ものすごいフラストレーション」」=全くバカバカしい限りである。いちいちコメントする気にもなれない。
しかも、この記事に書かれている池田元久経済産業副大臣(民主党政治家)は、真っ先に、このオフサイトセンターから逃げ出し、その後は「病気だ」などと称して、福島第1原発事故後対応から逃げてしまった人間である。こういう危機管理能力ゼロ状態で、どうしようもない無責任人間たちが、今の日本の原発・原子力を牛耳っているのだ。この次の過酷事故と大悲劇が起きないわけがない。何を言っても聞く耳持たずの「ウマ」たちに原発の安全な管理は無理な話である。
草々
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