(政府の「放射線安全神話」広報を批判します) 中川恵一(東大准教授)さん、「放射線についての正しい知識を」とは、あなたに向けられるべき言葉です
前略,田中一郎です。
8月17日の全国紙5紙と福島民報・福島民友に掲載されました「放射線についての正しい知識を」という政府広報(復興庁、内閣官房、外務省、環境省)に対して、逐条的に反論・批判いたします。今回は、新聞掲載の2人の論者のうち、中川恵一東京大学医学部付属病院
放射線科准教授の言論について批判いたします。
● 放射線についての正しい知識を・薬物対策:政府広報オンライン
http://www.gov-online.go.jp/pr/media/paper/kijishita/624.html
(参考)2014年8月17日付政府広報「放射線についての正しい知識を。」に抗議する 原子力資料情報室(CNIC)
1.表題「放射線について慎重になりすぎることで、生活習慣を悪化させ、発ガンリスクを高めている」
(田中一郎コメント)
福島県をはじめ、放射能汚染地域に住む住民の方々だけでなく、広く全国の有権者・国民が「放射線について慎重になりすぎること」となってしまった理由は、どこにあると思っているのですか。福島第1原発事故後の放射能汚染と放射線被曝に関する様々な隠蔽・事実歪曲・ごまかし・嘘八百が原因で多くの人々が慎重になりましたが、その出鱈目な行為を繰り返していたのが、原子力ムラ・放射線ムラの御用学者達であり、また、その代理店政府ないしは、その下請け自治体です。いわばあなたの言うようなことが招いた結果なのです。
そして、そもそも、放射線に対して感受性の高い子ども・妊婦を含む被害者・住民の方々に対する原発事故後の対応・対策が出鱈目で、避難・疎開・保養、あるいは除染や放射線防護対策、そのための原発事故賠償・補償さえ、事故後3年半が経過しているというのに、一向にまともな形にならず、一昨年制定された「子ども被災者支援法」でさえ、その主旨が踏みにじられているのですから、悪化しているのは被害者の方々の「生活習慣」ではなくて「生活そのもの」です。それもまた、政府・自治体や、原子力ムラ・放射線ムラの責任でもあるのです。
つまり、被害者住民の方々の深刻な放射能汚染環境は一向に変わらず、また、生活そのものも悪化して、発ガンリスクのみならず、様々な健康障害の可能性が高まっているのです。あなたはつまらぬ「放射線安全神話」のための政府広報文書などを書いているのではなく、被害者・住民の方々の被ばく回避と完全救済、仕事や生活や居住の再建のために力を尽くしたらどうですか。
2.(中川恵一氏)「全身に2000ミリシーベルトの放射線を浴びた方も多かった広島や長崎でさえ、遺伝的影響はなかったと考えられています。」
(田中一郎コメント)
まったくの嘘八百です。「遺伝的影響はなかったと考えられています」のではなく、「遺伝的影響はなかった」ことにされてしまった、つまり、原爆被ばく被害者は、戦後の冷戦体制下でのアメリカ主導の核(兵器)戦略・その支配下にあった日本政府の被ばく者対応方針のために、切り捨てられ、もみ消されてしまったということです。それでも、戦後数十年の原爆被ばく関連資料発掘の努力により、次第に遺伝的被害の確認もされるようになってきています。しかし、この人物が、このように発言するということは、福島県民を始め東日本一帯に広がる福島第1原発事故の放射能被害者を、意図的にもみ消してしまおうという魂胆があることは明らかであるような気がします。
3.(中川恵一氏)「鼻血が出るということにも疑問があります。上咽頭ガンの放射線治療では鼻の粘膜も7万ミリシーベルト近く被ばくしますが、放射線科医を30年間してきた中で治療後に鼻血が出た方を1人も見たことがありません。」
(田中一郎コメント)
(上記で)あなたが見たことがあるかどうかなど、今回の件での判断根拠になるわけがありません。放射線治療と鼻血の関係は、その放射線治療がどのようなものかが具体的に明らかにならないと、何とも言えません。ともあれ「鼻血問題」については既に論じていますので、下記をご参照ください。簡単に言えば、鼻血は出たのだから、第三者が、出ていないだろうなどというのはナンセンスな話です。放射能の影響も否定はできません。
●「美味しんぼ」の鼻血問題 いちろうちゃんのブログ
http://tyobotyobosiminn.cocolog-nifty.com/blog/2014/05/post-4fa0.html
●「美味しんぼ」の「鼻血問題」に関する3人の有識者の表明
(西尾正道氏、広河隆一氏、松井英介氏) いちろうちゃんのブログ
http://tyobotyobosiminn.cocolog-nifty.com/blog/2014/05/post-2375.html
● 原発・被ばく、こんなのおかしいのとちがう?(1):原発取材後の鼻血の描写、「美味しんぼ」物議(2014.4.29付毎日新聞他各紙) いちろうちゃんのブログ
http://tyobotyobosiminn.cocolog-nifty.com/blog/2014/05/2014429-53cc.html
4.(中川恵一氏)「チェルノブイリの周りでは心臓病が多いという話もありました。もちろん東京と同じようにチェルノブイリにも心臓病の方はいますが、福島やチェルノブイリだと放射線によるものだと誤解されてしまうのです」
(田中一郎コメント)
何の根拠があってかようなことが言えるのですか。心臓病と放射性セシウムとは一切関係がないという証拠を見せて下さい。筋肉に蓄積しやすい放射性セシウムが心臓の筋肉に、より多く集まりやすいこと、その放射性セシウムが心筋梗塞などによる心臓ショック死を引き起こす可能性があること、そのメカニズムは、カリウム・チャネルと言われる細胞のカリウム取り込み口に、カリウムよりも、より大きい分子の放射性セシウムがへばりついて放射線を放つことによる機能障害ではないかという説もあり、様々な観点より、放射性セシウムの心臓に対する危険性が多くの医学者や医師から提言されています。あなたも医学者・医師なら、何故、この点について、公開された形で徹底検証しようとしないのですか。あなたは、何故、かような根拠レスなことを「政府広報」として発言しているのですか。
5.(中川恵一氏)「国際的にも100ミリシーベルト以下の被ばく量では、ガンの増加は確認されていませんが、増加しないことを証明するのは困難です。ただし、この「困難」というのは福島にパンダはいないことを証明するのが困・・・・・・・・」
(田中一郎コメント)
これもまったくの嘘八百です。世界中、多くのところで、100ミリシーベルトどころか、もっと低い被曝線量、たとえば10ミリシーベルトであっても、健康被害が出ているという報告やレポートはたくさんあります。あなたが見ようとしていないだけの話です。あなたが見ないことと、ないことは、別のことです。また、あなたが言うように、100ミリシーベルトでの健康被害に関して、ガンだけに注目しているのも問題ですし、また、100ミリシーベルト以下の被ばくで健康被害が出るかどうかは、たとえば猿などの動物実験でもある程度確かめられるでしょうし、世界的にも、多くの疫学的調査結果が存在しています。あなたが不勉強なだけの話です。「パンダがどうした、こうした」のお粗末極まりない「たとえ話」は、あなたの不勉強と「幼児性」が出ているものと解釈させていただきます。
6.(中川恵一氏)「100~200ミリシーベルトでも、発ガンリスクは野菜不足と同じぐらいです」
(田中一郎コメント)
これもまったくの嘘八百です。また、上記で申し上げたように、被ばくによる健康被害をガンリスクだけに見ていることもいけません。
7.(中川恵一氏)「福島県の調査によると、原発事故後4か月間の外部被ばく量は99.97%の方が10ミリシーベルト以下でした」
(田中一郎コメント)
原発事故後の初期被ばくの状況については、当の福島県や「福島県民健康管理調査検討委員会」にいた御用学者たちによって、その検査・測定が妨害され、あるいは、国や原子力ムラ・放射線ムラの人間達の意図的な不作為(未必の故意)によって、結果的に分からなくされてしまいました。更には、放射線被曝の検査どころか、環境放射能モニターの観測結果がごまかされ(汚染実態を現わさないような観測・計測など)、安定ヨウ素剤の服用もなされず(服用しようとした自治体は福島県に妨害され)、SPEEDIのデータまでが隠されて、被曝状況がわからないまま、大量の無用の初期被ばくをさせられてしまっています。しかし、あなたはそのことについて、何の言及もしようとはしませんね。おかしいではないですか。
8.(中川恵一氏)「国際放射線防護委員会(ICRP)は「10ミリシーベルト以下では、大きな被ばく集団でさえ、ガン罹患率の増加は見られない」と発表していることからも、福島では被ばくによるガンは増えないと考えられます。」
(田中一郎コメント)
国際放射線防護委員会(ICRP)は、原子力を推進し、政治的に放射線被曝を矮小化・歪曲するためにあるような「偏った」海外の一民間組織にすぎません。日本からもこの国際放射線防護委員会(ICRP)に原子力ムラ・放射線ムラの御用科学者達が出向いているようですが、その場合、電力業界団体のようなところから、旅費をはじめ金品・便宜を享受しているようなことも伝えられており、とてもじゃないですが、国際放射線防護委員会(ICRP)の言うことをまともに信じるわけにはいきません。
また、この国際放射線防護委員会(ICRP)でさえ、「100ミリシーベルト以下」ではなくて「10ミリシーベルト以下」で議論をしているというのに、あなたは、これを10倍の「100ミリシーベルト以下」に引き上げて、健康被害はない・発見されないと強弁しています。つまり、国際放射線防護委員会(ICRP)と比べて、あなたは10倍もおかしい、ということになりますね。
9.(中川恵一氏)「また、外部被ばくよりも内部被ばくの方が怖いと思われがちですが、セシウムの放射線は体を突き抜けて全身同じように被ばくしますから外部でも内部でも変わりませんし、福島では内部被ばくの量はとても低いものでした。」
(田中一郎コメント)
とても科学者・医学者・医師の発言とは思えません。外部被曝と内部被曝との違いも理解できていないのですか? 内部被曝は外部被曝とは違い、局所的、集中的、継続的に、放射線源の超至近距離から、人間の特定部位や臓器が猛烈に被ばくします。全身まんべんなく被ばくする傾向が強い外部被曝とは、決定的にその危険性は違います。内部被曝は外部被曝に比較して、はるかに危険ですが、それをごっちゃにして、外部被曝の考え方や物差しを使って内部被曝をもっともらしく評価して、その危険性をごまかしているのが、上記の国際放射線防護委員会(ICRP)なのです(下記参照)。(たとえば、アルファ線、ベータ線、ガンマ線のそれぞれの内部被曝に関して、その違いを理解しているのですか)
それに、計測してもいないのに、検証もしていないのに、あなたにどうして「福島では内部被ばくの量はとても低いものでした」などということが、かくも確定的に言えるのですか。科学者・医学者の発言として、適切性を欠いていませんか?
● 放射線被曝の単位「シーベルト」はどのようにインチキなのか?
いちろうちゃんのブログ
http://tyobotyobosiminn.cocolog-nifty.com/blog/2013/11/post-1ba9.html
● (増補版)シーベルトへの疑問 いちろうちゃんのブログ
http://tyobotyobosiminn.cocolog-nifty.com/blog/2013/04/post-d2f2.html
10.(中川恵一氏)「チェルノブイリでは5歳以下の子どもの4.8%が5,000ミリシーベルトという被ばく量だったのです。一方、福島では、最大でも約35ミリシーベルト未満といわれており、はるかに少ない被ばく量だったのです。」
(田中一郎コメント)
上記で申し上げたように、福島第1原発事故で環境に放出された放射能による初期被ばくの量については、原子力ムラ・放射線ムラの様々な妨害と不作為により、分からない状態にされてしまいました。それをいいことに、あなたは原子力ムラ・放射線ムラの御用学者たちと歩調を合わせて、福島第1原発事故による被ばくは、たいしたことはなかったと、根拠なく言い張っているだけです。何のために、そのようなことをしているのですか?
11.(中川恵一氏)「福島では小児甲状腺ガン患者が80名ほど出ているという報道がありますが、大規模な検査をすることで発見が増えるのは当然です」
(田中一郎コメント)
子ども甲状腺ガン患者数は、直近の「福島県民健康調査検討委員会」で、ほぼ確実な疑いまで入れて103名となったことがわかりました。それを、あなたが言うような「大規模な検査をすることで発見が増えるのは当然です」=「大規模スクリーニングの結果だ」というためには、放射能で汚染されていない西日本での大規模な疫学的調査が必要なはずです、その実現を強く主張しないで、ここでもまた、根拠の乏しい「スクリーニング」説で、子ども甲状腺ガンの多数発見をごまかそうというのですか。
はっきりしない、よくわからないのなら、未来を担う子ども達の命のことでもありますし、また多くの人々の命と健康にも関わりますから、放射能の影響による子ども甲状腺ガンの多発だと仮説的に判断し、相応の対策が実施されるべきです(福島県の子どもたちの集団疎開、福島県以外の放射能汚染地域での甲状腺検査の悉皆的実施、子どもだけでなく大人の甲状腺検査、ガンだけでなく、その他の甲状腺機能障害も検査、スクリーニング検査ではなく本格検査とする、甲状腺検査以外の、心電図、尿検査、WBC、血液検査、染色体検査、DNA・遺伝子検査、エピジェネ検査など、総合的な検査の実施と、それぞれの被害者に沿った治療や対策、など)。
今、何もしないでおいて、あとから放射線被曝が原因だったとわかっても、もう手遅れで、どうすることもできません。それに、そもそも放射線被曝には、安全性を担保する「閾値」(シーベルト)などはないというのが国際的な定説ですから、無用の被ばくを避けるためにも、早急にこれ以上の被ばくを回避する取組を本格化させるべきでしょう。何故それを、あなたは医学者・医者として言えないのですか。
12.(中川恵一氏)「被ばくを恐れることで、運動不足などにより、生活習慣が悪化し、かえって発ガンリスクが高まるようなことは避けなければなりません」
(田中一郎コメント)
放射線管理区域指定基準を超えるホット・スポットが散在しているような地域で、子どもを野外で自由に遊ばせることなど、狂気の沙汰です。あなたも医者・医学者なら、あまり恥ずかしいことは口外しないことです。子どもたちの運動不足を解消するには、子どもたちを一刻も早く、放射能のない土地へ、親子ともども・家族ともども、疎開・避難させ、そこでの生活や仕事や勉強を、加害者・東京電力や事故責任者・国がしっかりと支えて差し上げることです。そもそも、加害者・東京電力や事故責任者・国は、被害者の方々に対して、物損的な損害の賠償・補償もきちんとしようとはしていません。
そんな状態の下で、子どもたちやその家族を、猛烈な放射能汚染地域に縛り付けて、その命と健康までもを奪おうというのですか。許されないことです。あなたは、もういい加減に嘘八百や、根拠の乏しい言論はおやめになることです。
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