電力システム改革の課題
前略,田中一郎です。
(別添PDFファイルは添付できませんでした)
別添PDFファイルは、先週いっぱい、日本経済新聞が「経済教室」の紙面に特集して掲載した「電力システム改革の課題」(日経 2014年6月16日~20日)というシリーズ記事です。この問題について、日経にしては珍しくコンパクトによくまとまっていますので、ご参考までにご紹介申しあげます。
ご承知の通り、我が国の電力自由化については、記事にもある通り、昨年2013年11月に第一次の改正電気事業法が、2014年6月には第二次の改正電気事業法が国会で可決成立しています。もともと我が国の電力自由化は、1990年代半ばから、大手地域独占電力会社9社の強い反対を受けて右往左往しながらも、経済産業省主導で進められてきましたが、とうとう2000年代前半の自民党政権の時代に、家庭向け及び零細企業等小口ユーザー向け電力の自由化が実現しないまま、電力自由化政策自体がとん挫してしまいました。状況を転換させたのが福島第1原発事故で、大手地域独占電力会社の筆頭格の東京電力が事実上経営破たんして発言力を失ったほか、全国の原発が運転停止を余儀なくされる中で、電力供給の不安定性や電力料金の理不尽な値上げなど、電力の地域独占市場の欠陥が露呈し、電力自由化の再着手を余儀なくされました。
しかし、ことはそう簡単にスムーズに運びそうにはありません。依然として大手地域独占電力会社9社の電力自由化に対する反対の姿勢は根強く、また、原子力発電部門への執拗なまでのしがみつきも目に余るものがあります。また、大手地域独占電力会社9社は、日本最大の「抵抗勢力」ということもあって、地域及び中央・東京での政治力や社会的影響力も大きなものがあり、今後の自由化のプロセスについては、再びの紆余曲折が予想されています。
自由化のステップは報道されている通りです。
【第1段階】広域系統運用機関(仮称)の設立
【第2段階】電気の小売業への参入の全面自由化
【第3段階】法的分離による送配電部門の中立性の一層の確保、電気の小売料金の全面自由化
(参考)電力システム改革、専門委報告書の要旨
http://www.nikkei.com/article/DGXDASFS0803D_Y3A200C1EE8000/
(参考)電力自由化の解説(経済産業省、NHK、日経)
(2)http://www.nhk.or.jp/kaisetsu-blog/100/151277.html
(3)http://www.nikkei.com/article/DGXNASDF0200R_S3A400C1MM0000/
(参考)ウィキペディア 電力自由化
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%9B%BB%E5%8A%9B%E8%87%AA%E7%94%B1%E5%8C%96
(参考)電力自由化FAQ
http://www.shikoku.meti.go.jp/soshiki/skh_d6/9_info/top/e-faq.htm
現段階でこの電力自由化に関して、ポイントとなる視点を若干申しあげておきますと
(1)大手地域独占電力9社の政治力・経済力・社会的影響力は絶大で、これを解体しないことには、電力自由化は「形だけ」のものになってしまう。そのためには、自由化の各段階に即して、適切な監視や規制・管理の仕組みを構築しておく必要がある。所管庁の経済産業省は電力会社との癒着がひどく、また、自民党や民主党などの政党・政治家達も電力会社に包摂されている様子がうかがえるため、制度や仕組みを創る側に、そもそもの問題(利益相反)があることを強く意識しておく必要がある。
(2)まず現状では、自由化がどのように進んでいくのかを監視する規制組織を立ち上げておく必要があるが、記事にもあるように、これが今般発足させられる「広域系統運用機関」と並行して設立されるはずだったのが、さっそく頓挫ないしは後回しにさせられそうになっているということに留意しなければならない。経済産業省だけに任せておいては、できることもできなくなってしまう可能性があるので、こうした監視と規制・管理の組織は必要不可欠である。
(3)実は、上記の電力自由化の3つの段階は順序がおかしく、本来はまず第3段階の送配電分離が第2段階に来て、主として発電会社が自由参入できる仕組みを定着させたのち、第2段階の電気の小売業への参入の全面自由化を図るべきである。そうしないと、新規参入会社がすべて大手地域独占電力会社9社に支配・統制されてしまう恐れが強まる。
(4)そして、その場合、送配電分離は、いわゆる「所有分離」でなければならず、送配電網所有母体の大手地域独占電力会社9社の傘下に入った子会社・グループ会社による送配電設備の所有・運営では、その独立性が全く不十分である。つまり「法的分離」では自由化は不十分であり、完全自由化は難しいということだ。しかし、自民党と癒着した大手地域独占電力会社9社は、その政治力を使って「所有分離」は行わない電力自由化の法制化をすでに達成してしまっている。2013年11月の改正電気事業法がまさにそれで、この法律の狙いは、①送配電部門の「所有分離」を退けること、②電力自由化までの時間稼ぎを行い、可能な限りスケジュールを先送りすること(情勢の変化を待って、電力自由化を骨抜きにしてしまうのが目的)、だったと言える。マスコミ報道はこれを見抜けず、無邪気にはしゃいでいた観がある。
(5)第3段階の「電気の小売料金の全面自由化」については、電力料金の値下げはともかく、その値上げについては、相当の自由化の実績が積み上がらない限りは認めてはならないと思われる。自由化が「名ばかり」で、実質的に大手地域独占電力会社9社が市場支配をしているような状態で、電力小売り料金の自由化を行うことは、不当な電力料金つり上げにつながる可能性が高い。電力料金の監視委員会を創って、その適正性について監視を続けていく必要がある。
(6)その他、電力関連の設備(例:スマートメーターとその運営)やシステム整備や人的資源の独占、あるいは電力関連事業・エネルギー関連事業の在り方や電気関連設備メーカー各社とのつながり、あるいは最も重要な顧客ユーザー関連情報の公開または平等な共有化など、電力供給業界全般にわたって大手地域独占電力会社9社の支配力はダントツに強く、これらに対しても相当の社会的規制なり、適正化規制なりを課していかないと、電力自由化の所与の目的達成は難しいものと思われる(条件不利地域への電力供給の適正化・安定化や、卸売電力市場の適正な運営などを含む)。
(7)他方、電力自由化では、これまで地域独占の時代に法律で義務付けられていた電力の安定供給義務も解除されることとなっている。しかし、それをそのまま放置していたのでは、最終的な電力供給の責任者が不在となり、ユーザーの中には電力供給が受けられなくなったり、不当な高値を吹っ掛けられたりする場合もありうることになりかねない(実際アメリカでは、2001年に経営破たんしたエンロンという巨大電力卸売会社が電力市場を操作して電力料金をつり上げたり、供給不安定化を招いたりして、不当な利益を得ていた)。電力システム改革の専門委員会では、こうした懸念を念頭において「最終保障サービス」を法的に分離された送配電会社に義務付けようとしているが、この仕組みの具体的な中身も詳細かつ厳重にチェックする必要がある。
(8)原発・原子力に対する電力市場外での政治的・政策的テコ入れや支援政策・保護政策をやめること。少なくとも、電源立地対策のみならず、廃棄物処理や廃炉など、バックエンドも含めて、すべての原発支援政策を廃止するとともに、原発の安全性確保や危機管理(過酷事故対策用の民間保険の付保など)の義務化など、原発・原子力に対する厳格な規制を導入する必要がある。本来は原発の即時廃止政策をとるべきであるが、それが(政治的な理由から)実施されないのであれば、少なくとも上記のような対応が必要と思われる。現在、関西電力を筆頭に大手地域独占電力会社9社からは、政府リードによる何らかの「国策民営の仕組み」の創設の要望が出されているが、とんでもない話である。(但し、原発・核燃料施設廃止促進のための国費投入には躊躇すべきではない。これまで国策として展開してきた原子力政策だから、政府にもその結果の責任の一端はある。それを再び国策としてスクラップするのであれば、それなりの政府支援があっていい。原子力部門からの撤退にインセンティブを付けることは、現下では焦眉の政策である)
(9)他方で、自然再生可能エネルギーへの政策的推進を強化していく必要がある、単に電源の確保というだけでなく、一方で、電力産業界の構造や地域社会をエネルギー供給面から大きく変えていく中長期的なビジョンを持ち、かつ、電力を含むエネルギーの需要サイド=消費構造の在り方にもメスを入れるべきである。従来型の大量生産・大量消費ではない、オルタナティブな経済社会実現を目指し、中長期的な経済社会改造ビジョンや改造計画が求められている。
(10)原発の輸出は現に慎むべきである。電気事業法を改正し、法律ではっきりと禁止すべきである。
(11)過酷事故を引き起こした福島第1原発の後始末と廃炉作業を含め、東京電力を(法的に破綻処理して)解体・再生する中で、電力自由化の先頭を走るモデルケースとして、発送電部門の「所有分離」による完全自由化、巨大発電部門及び小売り部門の会社分割・切り離し、新電力会社との提携・連携、自然再生可能エネルギーの飛躍的拡大、核燃料サイクル事業を含む原子力部門の完全廃止と廃止への政府の支援、などの諸課題についてチャレンジさせるべきである。
(12)申しあげるまでもないが、核燃料サイクル事業はただちに中止・設備等は廃棄処分である。運営主体の日本原燃や(独)日本原子力研究開発機構は、同時に即時解体されるべきである。
早々
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