(政権交代後の)脱原発のための具体的施策=段取りを議論・検討する必要があります : 電力自由化論の陥穽
前略,田中一郎です。
かねてより私は、2016年に大きな国政選挙があるので(おそらくは夏の参議院選挙と冬の衆議院選挙が夏に同日実施となる可能性大)、この政治決戦に向け、今度こそ「脱原発候補」の統一を実現させるとともに、国政選挙の最大争点を「脱原発」として世論を盛り上げ、この選挙で圧倒的多数により勝利して政権交代を実現させ、原発・核燃料施設と原子力ムラを永久に葬り去る準備をすべきであると申し上げて来ました。
そのためには、脱原発を最大の争点とするにはフライイング(東京都知事選挙に勝利しても脱原発は実現しませんから)だった都知事選挙でのいやな思い出は早く捨て去り、どこどこ候補を応援していた人も、だれそれ候補を応援していた人も、ともに力を併せて、今度こそ「脱原発」の立候補者を統一して、全力投球で選挙戦に臨むべきであると申し上げています。何故なら、脱原発を実現するためには、国政選挙こそが本命の選挙であり、これに勝利しなければなりませんから、国政選挙こそが「統一」の最重要最重点選挙であり、従ってまた、都知事選挙で「燃え尽き症候群」を呈していてはならぬからです。
この点については、つまり「2016年国政選挙での脱原発統一候補をどう実現するか」というテーマについては、私が参加しております「都民参加への模索連絡会」において、今年夏、初めての「徹底討論、夏季合宿」を行って、脱原発統一候補問題を含む、いろいろな問題を検討しようと企画しています(日程は7月12日13日、場所は湯河原を予定)。追って詳細が決まりましたら、みなさまにお知らせ申し上げます。
ところで、今日、下記に書きますことは、その「統一候補問題」ではありません。下記に書きますことは、脱原発の統一候補が選挙で勝利して国会で多数を占めた時に、さて、その後、どのような手順・施策・段取りで脱原発を実現していけばいいのかという問題です。その際に、いわゆる市場原理主義的な電力市場整備による発電会社の競争と、その自然淘汰論をどう見るか、という問題です。
最初に私の立場をはっきりさせておきます、私は、(1)脱原発とは、全ての原発・核燃料施設の即時廃棄でなければならず(大地震・大津波・火山噴火・原発事故は、我々人間の都合を優先してくれないからです。廃棄されるまで、いつ巨大な災難が原発・核燃料施設を襲ったとしても何の不思議もありません。何年か後までに、などと悠長なことは言っておれないのです)、(2)原子炉のみならず使用済み核燃料を含むすべての核燃料が安全管理されなければならず、(3)従ってまた、ただ市場競争による電力会社の自然淘汰を待つというものではなく、はっきりとした意識的で強力な原発・核燃料施設廃棄の人為的施策・処断が必要であること、(4)更に、脱原発は同時に脱被曝、被害者完全救済の三位一体でなければならない、という考え方です。特に、脱原発=原発・核燃料施設の即時廃棄を強調しておきたいと思います。何だかんだと理由を付けての原発・核燃料施設廃棄の先送りは、それは脱原発とは言えない、と考えています。
それで、いわゆる電力自由化による脱原発論ですが、確かに原発ゼロへの道筋として、今日でも依然として市場原理主義者たちを中心に「電力市場整備による(発電会社の)自然淘汰論」があることは事実です。しかし、電力業界や原発・原子力の世界を少しでも知っている人間で、こんなことを本気で信じているものはほぼ皆無でしょう。ほとんどの関係当事者は、理屈の上だけで存在する机上の空論だと思っています。大学にいる世間知らずのお気楽学者や一部の政治家達(みんなの党や維新の会、民主党や結いなどの一部若手議員達など)が、それぞれの思惑を秘めながら、かようなことを言っているに過ぎません。電力市場を整備するだけで原発が消えてくれるのなら、おそらく、日本の原発はとうの昔に消えて無くなっていたでしょう。言いかえれば、そんな程度のことでへたばるような原子力ムラ・放射線ムラではない、ということを意味しているのです。
「脱原発」への政権交代後に、脱原発派が原発市場淘汰論者と意識的な原発スクラップ論者の2つに割れてしまって思うように脱原発が進まない、市場淘汰論者は、電力会社の原発を(廃炉にするために)国が有償で買い取るなどは「無駄の権化」のようなことなので、税金の無駄遣いになるのだから、そんなことはしないで、巨大電力会社の地域独占を排除して電力市場に競争状態を作れば、やがて自然淘汰されていくのだから、余計なスクラップ政策はとらなくていい、まさに市場原理主義的な政策論がでてきてまとまらない、そういう見方・予測もあるでしょう。が、しかしです。
実は私は、そのようには見ておりません。仮に脱原発派が政権を握ったところで、脱原発がスムーズに進まないのは、そうした市場原理主義者達がいるからではなく、まさに原子力ムラ・放射線ムラの政治的な力がまだまだ巨大だからです。必ず様々な形で巻き返しをしてくること必定です。たとえばアメリカ政府を使う、たとえば地方自治体を使う、たとえば電力労組を使う、たとえばマスごみや大学腐れ教授達を使う、いろいろです。つまり、脱原発派の国政選挙での勝利の後も、脱原発戦争は続くということです。そこが主戦場です。決して、選挙に負けたので、原子力ムラ・放射線ムラが、はいそうですか、それでは原発を廃棄いたしましょう、ということにはならない、ということです。つまり、脱原発のやり方をめぐって、市場原理主義的な机上の空論論者を相手にケンカをしている余裕はないということです。
しかし、問題は、これで終わるわけではありません。実は、この市場原理主義的な机上の空論が、原発の延命対策として政治利用される可能性があるということです。電力市場を整備して原発を自然淘汰に任せるというのですから、市場整備には時間がかかり、これを先送りしながらぐずぐずとやれば時間稼ぎができます。また、市場が整備された後も、原発が自然淘汰されるのを待つのですから、淘汰されるまでは原発を続けていいわけです。つまり、時間稼ぎと延命の窮余の策とでも言えましょうか。
しかし、原子力ムラや原発保有電力会社は、そう簡単には淘汰されません。その政治力は、電力市場の外側で、いわゆる国策民営として、身を切られながらもじりじりと、様々な大義名分や口実を見つけながら続けられていく可能性があります。それは脱原発派が選挙で勝利しようがしまいが、それにかかわりなく、国の原発・原子力へのテコ入れが続けられていく可能性が高いのです。延命・先送りされている間に、情勢の変化や世論動向の転換を待てばいいのですし、原発・原子力の効用を、政治力・経済力に任せて、従来にも増して大宣伝していけばいいのです。
そして、もし、電力市場整備の名目で原発が延命でき、かつ、国策民営方式の原発テコ入れが市場の外で続けられることとなれば、脱原発や原発廃棄など、夢のまた夢となることは必定です。選挙で敗北した原子力ムラは、新政権に即時脱原発だけはさせまいと必死になるでしょうし、その際に、この机上の空論とも言うべき市場原理主義的な電力市場整備論は、その格好の「口実」となる可能性があるのです。
市場原理主義者と呼ばれる連中が、実は全然市場主義に対して原理的でないこともしっかり見ておく必要があります。国会議員などの政治家も含めて、彼ら「市場原理主義者」たちは、立場の弱い人達に対しては原理主義を振り回して過酷極まることを言い放っておりますが、他方、自分達の利害に絡むことになれば、典型的な「癒着・腐敗・なれあい・コネコネ優先主義」であり、従ってまた、そのご都合主義的な本質をさらけ出すのです。こういう連中が唱える電力市場改革ですから、原子力ムラ・放射線ムラにとっては、これを利用しながら原発レジームの温存や脱原発の排除など、そう難しいことではないのではないかと、推測可能です。
日本の有権者・国民の世論があやふやで、こころもとない状態にあることも、原発延命に利用される可能性があります。正反対の物事を足して2で割るような中途半端や、ものごとをきちんとけじめをつけて決着させずに、あいまいにしてずるずる引きずるような優柔不断が、結局は原発延命の土壌となり、それに上記で申し上げた電力市場整備による原発自然淘汰論が乗せられてしまうということです。
今現在、自民党・安倍晋三政権が進めている電力改革などは、恐らくそのたぐいです。昨年、その推進法案が可決成立したこともあり、日経や読売などの新聞を使って、しきりに電力自由化が宣伝されておりますが、実態はまるで逆です。簡単に言えば、今すぐにでもできるようなことをさしあたり3年くらい先延ばし・時間かせぎをした「原発・九電力体制温存・改革先送り法案」であって、その3年が経過しても、送配電部門が電力会社からは独立せず(所有分離は絶対にしないと法律で謳ったようなもの)、少々の「自由化もどき」のようなことが入ってきても、市場外での国の原発テコ入れを受けられれば何とでもなる、そういう内容です。例えば電力会社が各家庭にこれから取り付けていくという「スマートメーター」の情報提供をめぐって、早くも火花が散り始めていますが、圧倒的に電力会社優位にことは進んでいます。事態は、こんな風に、アンシャンレジーム温存のままに、進んで行くとみておいていいと思います。本当に電力改革をするのなら、もう一段の突っ込んだ法律改正が必要です。しかし、それを実現する政治勢力は、今のところ存在しておりません。
今現在、地域独占の9電力全てが、兆円単位の巨額の追加投資をしてまでも、既存原発にしがみつき、何とか再稼働させようと画策していることを見ても、上記の自民党電力改革なるものが似非であることが間接証明されます。もし、今進められている電力改革が本物であるならば、電力会社の少なくともいくつかは、原発から抜け出ていくであろうと思いますが(原発の実態的な採算やコスト・パフォーマンスは極めて悪く、国がテコ入れしなければ原発などやってられないのです)、そうはなっていません。つまり、9電力全てが、原発を抱えていてもやっていけると踏んでいるということです。
議論をもとに戻しますと、従って、脱原発派が政権獲得後にその脱原発を確実なものにするためには、いくつかの必ずしなければならない対策のようなものがあり、それは簡単にいえば、原発・核燃料施設再稼働を許さない「即時にとどめを刺す」政策でなければならないのです。決して市場原理主義的な電力市場整備などではありません。そしてそれは、脱原発派の大半の人間は理解していることです(電力市場の整備は、一旦脱原発で原発が消えてのちに、しばらくして原発が復活するのを止める仕組みとしては有効といえるでしょう。ただし、単純な市場原理主義的市場改造はいけませんが
⇒ この辺は、脱原発論者の間でも議論不十分です)
では、とどめを刺す政策とは何か
まず、原発永久停止命令を出したうえで(従わなければ電気事業法上の電力免許取り消し)、脱原発法を制定した方がいいでしょう。簡単にいえば、原発・核燃料施設の禁止法です。
次に、次のような手を並行して至急打っていく必要があります(この辺も、脱原発派の間では議論が十分ではありません)。
<「脱原発法」制定と並行して打つべき対策>
(1)国策民営で原発テコ入れとしてどのようなことがなされてきたのかを全て情報公開
(2)それに関連する予算は全て永久にカットする旨の宣言
(3)核燃料サイクル事業撤退を宣言、日本原燃清算・日本原子力研究開発機構解体他
(4)電力会社から原発部門を全部切り離し、「廃炉機構」(仮称)の所管とする(この時に有償売却か無償切り離しかの話が出るが、有償=つまり電力会社と痛み分けでかまわない)
(5)原子力「寄生」委員会の解散と「廃炉規制委員会」(仮称:3条委員会)への改組
(6)経済産業省・文部科学省から原子力関連の権限を全て取り上げて上記の廃炉委へ移譲(経済産業省は一旦解体するのが望ましい)
(7)大学から原子力推進型の講座を一掃(予算カット)
(8)電源3法は廃止して、「廃炉地域振興法」(仮称)に衣替え
(9)外国との原子力協定を全て破棄(原発や核燃料は輸出も輸入もしない)
(10)原発輸出禁止法の制定
また、昨年度可決成立した電気事業法改正法などの電力自由化法は、その予定スケジュールをもっと早めて前倒し実施とし、かつ、送配電会社を巨大電力会社から完全に切り離す形で(所有分離)、もっと徹底した完全な形での電力市場自由化を実施すべきでしょう。それが、上記で申し上げた国策民営による市場外での国の原発へのテコ入れ排除とともに、原発・原子力のゾンビ型復活を防ぐ有力な制度的保障になるものと思われます。
結論は、市場原理主義型の電力市場改革では脱原発はできず、しかもそのことは一部の事情を知らない人たちを除き、原発推進派も脱原発派も両方心得ていることです。従って、脱原発派の選挙勝利後の主要争点は、電力市場の競争条件整備にあるのではなく、いかに原発・原子力への政治力を使った経済的テコ入れを排除するか、政治力を使った原発・原子力の延命にとどめを刺すか、という点にあります。
他方で、市場原理主義的な電力市場改革と競争環境の整備という政策は、油断すると政治的に利用される可能性は否定できません(そんなことだけでは脱原発などできるわけはないのを重々承知の上で、市場整備が脱原発への最も効率的でスムーズな道筋だとか何とか、虚飾空論を弁じたてて、その実、原発・原子力の延命に使われるということです)。
これを防ぐためには、脱原発派は、政権獲得後に、どのような手続き・プロセスを経て原発・核燃料施設を破棄していくのか、その設計図を持っていなければならないと言えるでしょう。しかし、これまでの議論は、脱原発の政治的実現のための統一をどうするか、政治的な合従連衡をどうやるか、あんな奴・こんな奴と組んでいいのかどうか、相手の過去はどうだったこうだった、レベルの、非常に悲しい段階で足踏みをしている状態に見えます。
脱原発のためには、脱原発派の政治的覚醒が必要であるように思われます。
早々
(重要情報:その1)
●中日新聞大飯差し止め訴え却下 大阪高裁「規制委で審査中」福井発日刊県民福井から(CHUNICHI Web)
http://www.chunichi.co.jp/kenmin-fukui/article/kenmin-news/CK2014051002000214.html
上記に関して、下記サイトをご覧下さい。
●美浜の会HP 不当判決糾弾!安全性判断を放棄して逃亡した司法
大飯原発運転差し止め仮処分裁判 大阪高裁決定(判決)を受けて
原告団声明 (5月9日)
http://www.jca.apc.org/mihama/
(一番上です)
(重要情報:その2)
●[広瀬隆さんより]NHKスペシャル「廃 炉」 (動画あり) 日々雑感
http://hibi-zakkan.net/archives/37880897.html
(ここに書かれている広瀬隆さんの4つのコメントも非常に重要です。ぜひご覧ください)
(参考)「いちろうちゃんのブログ」より
●森林・木材の放射能汚染 :木材汚染の拡散を防ごうとしない国・東京電力、これは氷山の一角だ
いちろうちゃんのブログ
http://tyobotyobosiminn.cocolog-nifty.com/blog/2014/05/post-3766.html
●核燃料サイクルの本当の話をしよう」 (澤井正子
『科学 2014.5』)より いちろうちゃんのブログ
http://tyobotyobosiminn.cocolog-nifty.com/blog/2014/05/20145-632c.html
●政治参加のための市民ネットワークを始めます:みなさま、ぜひ。ご参加ください
いちろうちゃんのブログ
http://tyobotyobosiminn.cocolog-nifty.com/blog/2014/03/post-c5b2.html
●これまでの脱原発市民運動・社会運動と) 小泉・細川グループとの「脱原発」連携について
いちろうちゃんのブログ
http://tyobotyobosiminn.cocolog-nifty.com/blog/2014/04/post-0261.html
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