核燃料サイクルの本当の話をしよう」 (澤井正子 『科学 2014.5』)より
前略,田中一郎です。
(別添PDFファイルは添付できませんでした)
別添PDFファイルは、岩波書店月刊誌『科学』(2014年5月号)に掲載された原子力資料情報室スタッフの澤井正子さんの核燃料サイクルに関するレポートです。まさに「(核燃料サイクルに関する)本当の話」が、しっかりと、かつ分かりやすく平易に書かれています。核燃料サイクルの実態をお知りになりたい方は必読です。以下、簡単にご紹介申し上げます(なお、下記では、澤井正子さんのレポートのほんの一部分の紹介しかできません。是非とも岩波書店月刊誌『科学』(2014.5)をお買い求めいただくか、図書館等で原本にあたっていただき、このレポートをお読みいただければと思います)。
「核燃料サイクル」などと、ものごとの実態をまったく表していない嘘八百のネーミングで有権者・市民を惑わし、その実は、事業としての何の成果もメリットも経済的意味も合理性もなく、ただただ危険極まりなくて、猛烈に汚くて(放射能)、費用ばかりが巨額にかかるだけの、「化け物施設」と言ってもいいのが、この「核燃料サイクル」施設なのです。しかし、何ゆえか、この日本では、この全くバカバカしい、危険と汚染の固まりのような「大人の火遊び」がやめられないまま今日に至り、今般も新エネルギー計画の中で継続が謳われています。この国には理性とか良識とかいうものはないのか、と問いたくなる事態が続いているのです。
みなさまには、ぜひともこの澤井さんのレポートをお読みいただき、「本当のこと」を知っていただくとともに、一夜にして反「核燃料サイクル」の闘志になっていただきたく、このメールで澤井さんの力作をご紹介いたします。危険極まりないと言われている原発よりも、はるかにはるかに「ヤバイ」のが、この「核燃料サイクル」施設なのです。
まず、各章の見出しを順に書き出してみます。
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●『エネルギー基本計画』が創造する新たな“神話".準国産エネルギー
● 核燃料サイクルとは
● 再処理工場の工程
● 夢のリサイクルの現実
● 再処理は廃棄物の量を減らす?
● 垂れ流しにされる気体廃棄物と液体廃棄物
● 被ばく評価:22マイクロシーベルトの迷走
● 再処理は廃棄物問題の先送り
● 補論:再処理指針
● 再処理は電力会社の義務?
● コラム1:原子炉級プルトニウムは核兵器に利用可能ー米国の核懸念
● コラム2:再処理正当化論:資源の有効利用,放射性廃棄物の量と毒性の低減
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上記全てをご紹介したいのですが、それはかなわないので、上記のうちの2つだけをピックアップしてご紹介します。まずは上から4つ目の「夢のリサイクルの現実」です。次の記述をご覧下さい。
<夢のリサイクルの現実>
(以下、引用開始)
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「「核燃料サイクル」の最大の売りは「リサイクルjだろう。使用済み燃料を再処理し,取り出したウランとプルトニウムをすべて再利用できる」という主張がなされる。六ヶ所再処理工場では,使用済み燃料が最終的にはウラン酸化物,プルトニウム・ウラン混合酸化物(MOX粉末),そしてガラス固化体という形態になる。政府や事業者の説明では,ウラン,プルトニウム(MOX粉末)はリサイクルされ,高レベル放射性廃棄物は約50年の貯蔵後,最終処分場へ搬出されることになっている。」
「当然MOX燃料に利用されるウランも再処理工場から輸送するものと思われるだろうが,実態はそうなっていない。これは日本原燃自身が作成した資料に非常に明快に示されている。」
「いわゆるプルサーマル燃料(1/3MOX燃料)は,燃料集合体平均でプルトニウムが約5%,ウランが95%の組成である。六ヶ所再処理工場のMOX粉末はプルトニウム50%,ウラン50%で、プルトニウムの濃度が高すぎるので,このMOX粉末にウランをまぜてプルトニウムの濃度をさげる必要がある。材料の搬入先として,日本原燃の資料は,プルトニウム(MOX粉末)は「再処理施設から」,ウランは「再転換施設から]としている。再処理工場からではない。」
「つまり,日本原燃自身にも,六ヶ所再処理工場の回収ウランを使用する予定はまったくない。それは再処理回収ウランが,核燃料とするにはとても扱いにくいためだ。」
「ウランは原子炉で核分裂することでアイソトープ(放射性同位体)が増える。天然に存在する同位体はウラン234. ウラン235、ウラン238であるが,原子炉での燃焼(核分裂)によってウラン232、ウラン236が生成される。」
「ウラン232は,天然ウランには含まれない核種で、半減期が短く,娘核種として高放射線核種(タリウム208. ビスマス232)を生成し強いガンマ線を放出する。そのため,再処理工場でつくられる回収ウランの放射線量が非常に高くなる。一方,ウラン236は,中性子を吸収しやすく核分裂を阻害する。また、回収ウランは再処理で分離しきれなかったプルトニウム、ウラン,核分裂生成物や超ウラン元素も含んでいる。」
「再処理回収ウランを再利用して再濃縮や成型加工を行おうとすると,労働者の被曝対策や遮蔽,閉じ込め機能の強化が必要で手間とコストがかかり,世界的にもほとんど利用されていないのが実態である。」
「では英・仏ではどうやってMOX燃料を製造しているのだろうか。扱いにくい再処理回収ウランを無理して利用しなくても,今日まで世界中の原発に燃料を供給してきたウラン濃縮施設には,処分できないほどの「劣化ウランJが存在している。こちらは放射線の問題もなく,タダ同然で利用できる。日本でもまったく同様である。「核燃料サイクルjにおける再処理回収ウランには,まったく出番はない。これが使用済み燃料中に約95%も存在するウランの実の姿だ。」
「六ヶ所再処理工場では年間処理量約800tUに対して、プルトニウムは約8t,回収ウランは約740tUである。再処理とは,ほとんどウランを回収する作業なのだ。しかし94%という膨大な量の再処理回収ウランに使途はなく,何の役にも立たない。」
「これが「使用済み燃料のリサイクル」の実像である。正確には,「1%のプルトニウム・リサイクル」であるが,それも高速増殖炉もんじゅ計画の頓挫によって,実現できないことはすでに衆知の事実である。現実を見れば, 1使用済み燃料のリサイクルjというような宣伝は,ほとんど国家的詐欺に等しいと言えるのではないだろうか。」
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(以上、引用終了)
(田中一郎)⇒ まったくの驚きである、これまでも「核燃料サイクル」は「サイクル」しない、という話は耳にしていた。サイクルの中核施設である再処理工場や高速増殖炉「もんじゅ」がまともに動かないことに加え、高速増殖炉「もんじゅ」は「(プルトニウムを)増殖しない」で、稼働前後で炉内のプルトニウムが「±ゼロ」の周辺をうろうろしていて、夢の原子炉のようには増殖しない、とか、高速増殖炉「もんじゅ」で使用済みとなった核燃料が非常に汚くて、これを再再処理するのはもはや困難だとか、いくつかの理由で「こんなものはサイクルとは言えない」ということは理解していたつもりだ。
しかし、再処理で回収したウランまでもが使えない話は初耳だ。この澤井さんのレポートを読んで、私は椅子から転げ落ちそうになるくらい驚いた。これでは、再処理工場とは、使用済み核燃料のたった1%のプルトニウムを取り出すために必死になっていて、しかもそのプルトニウムさえもが、使い道のない状態で宙ぶらりんになっているということになる、まさに澤井さんが言うように、これは「核リサイクル詐欺」「核燃料サイクル詐欺」に他ならない。
でも、何で詐欺行為までして、こんなことをしているのか? まったく理解不能である。
次に、もう一つだけご紹介する。
<コラム2:再処理正当化論:資源の有効利用,放射性廃棄物の量と毒性の低減>
(以下、引用開始)
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「経済産業省はさらに、再処理と軽水炉でのMOX燃料の使用,そして,将来のナトリウム冷却高速中性子炉(高速炉)での使用は,廃棄物管理の面で重要な利点をもつと主張している。
(1)高レベル廃棄物の量は,軽水炉および高速炉でのプルトニウム・リサイクルにより,それぞれ、4分の1か、7分の1に滅容できる。(2)高レベル廃棄物の毒性がもとの天然ウランと同じレベルにまで減衰するのにかかる期聞が,約10万年から,それぞれ8000年、300年に低減できる。」
「しかし、フランスのケースに関する計算では,再処理およびMOX燃料利用で生じる深地層処分の必要なすべての放射性廃棄物を考慮した場合,廃棄物の量はもとの使用済み燃料の量と同程度であるごとが明らかになっている。」
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(以上、引用終了)
(田中一郎)⇒ 危険極まりない使用済み核燃料の棒を細切れにせん断し、それを熱濃硝酸で溶かして化学処理する工程を経る再処理が「資源の有効利用,放射性廃棄物の量と毒性の低減」をもたらす?????? 一般の有権者・市民を馬鹿にしているのではないか? 常識があれば、こんなものは歯牙にもかける必要はないのではないか。澤井さんが説明してくれているフランスのケースでさえインチキ極まりない。しかもそれは、再処理工場が何のトラブルも事故もなく稼働した場合の話であって、まったく非現実的な想定の上での楽観論にすぎない。
(田中一郎)⇒ 再処理工場とは、当初の使用済み核燃料の何倍もの死の灰=放射性廃棄物を生みだしてしまう(しかもそれを環境に大量にばらまいてしまう)、原子力施設の中でも最悪中の最悪施設である。澤井さんのレポートの本文中「再処理は廃棄物の量を減らす?」の章には次のように書かれている。
「使用済み燃料には, 94%のウラン、1%のプルトニウム,そして5%の高レベル放射性廃棄物が含まれる。一方のガラス固化体には4%の高レベル放射性廃棄物しか含まれていない。使用済み燃料中の95%は分離されて,別の場所に貯蔵されているだけだ。たとえガラス固化体を地層処分できたとしても,地上に残された膨大な回収ウランはどうなるのだろうか。こんな不公平な比較は,子どもでもおかしいと気づくだろう。」
「むしろこの滅容化議論で問題なのは,再処理に伴って必ず発生する大量の中・低レベル廃棄物について徹底的に無視していることではないだろうか。」
(田中一郎)⇒ 「低レベル放射性廃棄物」などとよく言われるが、決して「低レベル」のものばかりではないことにも注意が必要だ。とにかく原発・原子力の世界は、人をだまくらかす話ばかりで溢れかえっている。くれぐれもご注意あれ!!
他の項目も全て必読・必知事項です。みなさま、ぜひ原本をご一読ください。
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