『海をよみがえらせる(諫早湾の再生から考える)』(岩波ブックレットより)
前略,田中一郎です。
下記は、岩波書店より昨今新刊として発売された『岩波ブックレット:海をよみがえらせる(諫早湾の再生から考える)』佐藤正典著)のご紹介です。著者の佐藤正典氏は現役の鹿児島大学教授で、専門は底生生物学、環形動物多毛類(ゴカイ類)の分類や生態についての研究をされています。
●『海をよみがえらせる(諫早湾の再生から考える)』(岩波ブックレット)
http://www.7netshopping.jp/books/detail/-/accd/1106365503/
https://www.iwanami.co.jp/moreinfo/2708900/top.html
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海は広くて大きいので少々海辺を埋めたってたいしたことではないと思っている人はいないでしょうか.泥の干潟についても,誤解している人が多いかもしれません.泥は,とにかく全部「きたない」と思っていないでしょうか.
実は,海の中で一番埋め立てられやすい平坦な海辺(干潟)は,海の中で特別に豊かな場所なのです.その中でも特に,「きれいな泥」の干潟は,生きものにあふれた美しい世界です.私たちの社会は,その価値をよく知らないまま,あまりにも無頓着にそこをつぶしてしまいました.
有明海奥部に残っている広大な泥の干潟,そこにすむたくさんの生きものたち,そしてそれに支えられた人々の漁業の営み,それらは,どれも,かつては日本中にあったものです.今はもうどれもが絶滅寸前です.
有明海の諫早湾で今おこっていることは,水俣病問題と同じように,日本の社会が長く引きずっている大きな問題を映し出していると思います.本書では,その諫早湾をめぐる問題に焦点をあてます.それを通して,日本の海辺全体を見つめ直してみましょう.(本書「はじめに」より)
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すばらしい小冊子でした。是非、ご一読をお勧めします。
ご承知の通り、前世紀最大級の愚か極まる巨大公共事業である諫早湾干拓事業は、全事業が終えて後も今日に至るまで、その巨大環境破壊「異物」としての威容を誇り続け、多くの漁業者を苦しめ、また他方で、干拓地に入植した農業者を悩まし続けています。そして今現在、新聞報道の通り、潮受け堤防の2か所の水門をめぐって、水門を開けという佐賀県の漁業者などと、水門を開くなという長崎県の入植農業者などから、それぞれ裁判が提起されています。「環境復元調査」と言われる、潮受け堤防の水門を常時開いて、その閉め切り前(いわゆるギロチン前)の状態回復により、海の再生効果を確かめるべきか、そうでないかが争われているのです。この「構図」は、いわば、愚か極まる農林水産土建事業を強引に押し進めた国や長崎県というロクでもない行政の責任が問われるのではなく、被害者とも言うべき漁業者と農業者が、その後始末をめぐって相争う悲しむべき事態となっているのです。
このブックレットでは、そうした今日の事態をにらみながらも、まずは諫早湾干拓事業をめぐる情勢が述べられる前に、干潟と海、干潟と汽水域、干潟の泥とさまざまな生物などについて、基本中の基本から説明が始まり、海辺の豊かな生態系の「母なる干潟」のメカニズムが具体的に説明され、しかる後に、日本の全国の海辺が、諫早湾と同様に、次々と「絞め殺されてきた」状況が説明されています。そして、有明海の諫早湾で、この愚かなギロチン公共事業によって何が起きたのか、海のメカニズム・干潟の生きた呼吸とでも言うべき生態系の営みの破壊の仔細を科学的に解き明かし、それに続けて、それでもかすかに生きながらえている海の生命力とでも言うべきものを大切に復元させ、ギロチン堤防で葬り去られた豊かな海を一刻も早く取り戻そうと呼び掛けています。
「海はよみがえる」の章では、諫早湾以外の地域で、実際に干潟の自然再生ができた事例などを紹介しながら、海の命をつなぐ大切さが強調されています(その中の1つが、東日本大震災による東日本の太平洋側海岸域での干潟の再生があります=そしてそれが、再び愚かな巨大防潮堤建設によって破壊されようとしています)。
もちろん、潮受け堤防の2つの水門は、一刻も早く開門されなければなりません。しかし私は、それ以上に、この事業で造ったあのグロテスクな堤防自体も全て撤去し、元あった自然のままの諫早湾・有明海に戻した方がいいのではないかと思っています。もちろん、国や長崎県にだまされて干拓地に入植した農業者には、代替地への無償移転や、移転後の経営が軌道に乗るまでの経営維持補償などを用意し、丁重に移転してもらったのちに、ということになりますが。そして返す刀で、この愚かな事業を強行した農林水産省や長崎県の行政責任を徹底して問うていかなければならないのではないか、と思っています(経済産業省と同様に、この農林水産省という役所も、一度、解体した方がいいかもしれません。
諫早湾の巨大干拓事業という愚か極まる農林水産土建事業を推し進めてしまった日本の政治や行政の「構造」とでも言うべきものは、他のところでも、たとえば巨大ダム建設、たとえば都市の巨大再開発、たとえば高速道路やハコモノ施設の建設・乱造、あるいは原発・原子力への執拗きわまる固執とへばりつき、などと共通するものがあります。戦後の日本は、巨額の費用を掛けて、本来の豊かな自然に恵まれた郷土や恵みの海、河川や湖沼などを破壊し、あたり一面をコンクリートで埋め尽くし、さらにはそこへ放射能をばら撒いて、取り返しのつかない事態を招いています。この「構図」を抜本的に変えない限り、これからの日本は暗い不幸な時代を迎えてしまうことになるでしょう。
悲しい姿をさらす、本来は豊かな海だった諫早湾、これをよみがえらせることができるのかどうかが、日本の大きな分かれ目を象徴的に示していると言ってもいいでしょう。みなさま、ぜひ、この小さな名著『(岩波ブックレット)海をよみがえらせる(諫早湾の再生から考える)』をお買い求めいただき、熟読されてみてください。
早々
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