「悪魔の施策:フクシマ・エートス」の教祖=ジャック・ロシャールへの「ちょうちん」インタビュー記事を掲載した日本のマスごみ
前略,田中一郎です。
(別添PDFファイルは添付できませんでした)
朝日新聞は、2014年3月21日付朝刊13面に「東日本大震災3年:福島とチェルノブイリ」と題する記事を掲載し、あの悪魔の施策「フクシマ・エートス」の教祖・ジャック・ロシャールに対して、新聞の風上にも置けぬ「ちょうちん」インタビューを行っています。
●(東日本大震災3年)福島とチェルノブイリ ジャック・ロシャールさん:朝日新聞デジタル
http://www.asahi.com/articles/DA3S11040735.html
それはまるで、福島第1原発事故は遠い過去となり、放射能汚染もそれによる被ばくも、このJ・ロシャールなる人物の言うことをよく聞いておれば、日々を健康被害の恐怖で悩まずとも心安らかに過ごすことができるし、20mSvだ、いや1mSvだと、難しい被曝線量のことも、それほど神経質に気にせずともいいのだと、読者に対して紙面から説教を垂れているかの如くです。
しかし、ちょっと思い出してみましょう。ほんの数日前には、毎日新聞の日野行介記者が「福島原発事故被ばく線量を公表せず 想定外の高い数値で」という記事を書いて、「(福島県の放射能汚染地域への)帰還」に伴う被ばくの危険性隠しの実態をすっぱ抜いています。この日野行介記者は、少し前には「福島原発事故、県民健康管理調査の闇」(岩波新書)という本を書き、3.11以降、福島県や「県民健康管理調査検討委員会」が国や原子力ムラ・放射線ムラの御用学者どもと一緒になって、子どもたちの放射線被曝の実態を隠蔽しようとしたり、県民に本当のことを知らせないために「裏委員会」をつくって発表内容の口裏合わせをするなどの画策していたこと等を告発しています。そもそも、原発事故後の地域住民の健康管理が、福島県の18歳以下にだけしか実施されていないこと自体が狂っているとしか言いようがありません。
●福島原発事故被ばく線量を公表せず 想定外の高い数値で - 毎日新聞
http://mainichi.jp/select/news/20140325k0000m040151000c.html
それだけではありません。この間は、福島県立医大の医師や医学者たちが、福島県民に対しては事故直後から「大丈夫」「大したことはない」「心配いらない」などと言いつつ、自分達はちゃっかりと甲状腺被ばく回避のための安定ヨウ素剤を家族ともども服用していたことが発覚したとか、福島県内の空間線量モニタリングは実際の空間線量の1/2以下の数値が出るように仕掛けてあるとか、あるいは、食べもの・飲み物の放射能汚染について、ろくすっぽ計測もしないで空虚な安心安全キャンペーンだけを繰り返しているとか、農地をはじめ地域の汚染マップをいつまでたっても作ろうとはせず、いたるところに予期せぬホット・スポットが点在していて危険極まりないとか、そんな中で、この4月からは、更に食べものの放射能汚染の検査対象や件数を減らすことにしたとか、学校給食については、3.11以降から、ことさらに地産地消を強調するようになって、子どもたちに安全確認が十分にできていない汚染地産の食料品を食べさせているとか、およそ、被ばくの実態やその危険性を覆い隠し、小さく見せ、評価を矮小化し、放射線被曝の健康への悪影響についての懸念や心配でさえ、口に出して言うのがはばかられるような、とんでもない「抑圧・翼賛ムード」の社会が創りあげられてしまっています。
●食品中の放射性物質に関する「検査計画、出荷制限等の品目・区域の設定・解除の考え方」の改正について
|報道発表資料|厚生労働省
http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000041107.html
そして、汚染地域で住み続ける人達にとっての命づなとでも言うべき「除染」も、ご承知の通り限界があって空間線量を十分には下げることができず、環境省が差配する除染マニュアルでは、形だけのことしかできないで、危険な放射能が消えないばかりか、居住地周辺を汚染物の仮置き場にされた結果、かえって空間線量が上昇してしまったところまで出ている始末です。そんな中で、国は犯罪的にも、いったん除染した地域の再除染は、いくら線量が高かろうが「原則やらない」という方針を建てているようです。もちろん「子ども・被災者支援法」は棚上げにされ、賠償・補償は屁理屈を理由に切り捨てられ、避難・疎開・移住の権利は踏みにじられてしまっています。
さて、書き出せば止まらなくなるくらいに、3.11以降の放射能汚染対策と被ばく防護の出鱈目が続いている中で、今回ご紹介するJ・ロシャール提唱の「フクシマ・エートス」は、このろくでもない状況を(原発事故後の)「現存被曝状況」と定義して、福島県民をはじめ汚染地域の方々に、これを「積極的に自発的に受け入れよ」と説くのです。そして「受け入れた上で」、日々の被ばく量や空間線量の多寡に一喜一憂するのではなく、被曝量や汚染の自己測定や日常生活の自己管理を基本にして、放射能汚染地域でしっかりと生活の基盤と日常性を取り戻し、精神的に自律性を確保しつつ、放射能汚染や被曝と中長期的に「共存」しながらやっていけと、説教を垂れるのです。いわば、原発過酷事故との身土一体の「共存」の教えです。(何が「現存被爆状況」でしょうか、適当な言葉を作るな、と言いたくなりますね。「現存被爆状況」ではなくて「現存不始末結果」「現存出鱈目結末」「被爆強制環境」とでもしておけばいいのです)
そして、彼らの立ち位置は「科学者としての情報伝達と被害者との対話(ダイアローグ)」「影響を最小限に抑えるためのアドバイス」「生活の質を高め無用の懸念を最小化するための精神的なサポート」「生活の質と被ばくのコントロール」などと称して、無責任にも被ばく結果に責任を持たない「(似非)生活コンサルタント」のごとくふるまい、結果的に放射能汚染や被ばくの危険性から被害者住民の目をそらせることに尽力しているのです。
しかし、はたして、こんなことで放射能汚染や被ばくが克服でき、人間は原発事故前と同様に健康で明るく何の問題もないかのように暮らしていけるものなのか。実は、このインチキ精神運動「エートス」の結果は、すでにチェルノブイリ原発事故後のベラルーシなどで明らかになっていて、多くの原発事故被害者が財産や生活や人間関係を破壊されるだけでなく、無用の被ばくをそれとは知らぬままにさせられることにより、健康被害の多発を引き起こしてしまっているのです。中でも放射線に感受性の高い妊婦や子どもたちはひどいことになっています。
そもそも、この「フクシマ・エートス」の最大のインチキは、福島第1原発事故後の放射能汚染が、あたかも自然現象であるかのごとく、被害者住民に対して、厳然として動かせぬ、避けられぬ「強制環境」として押し付けられていることです。事故が起きても住民は逃げることができず、放射能にまみれながら生活をすることはいたしかたががないのだ、一種の「宿命」のようなものだ、だから、その中で出来る限り被ばくを回避し、精神を安定させて、心豊かに生きていかなければならぬ、科学者たるものは、その被害者の厳しい現実に寄り添い、被害者の苦しみに真摯に耳を傾け、被害者に何かを押しつけるのではなく、共に悩み、対話を続けることでこそ、被害者の救済を図ることができるのだ、被害者にとっての故郷とは、原発事故いかんにかかわらず永遠で崇高なものである、・・・・・といった調子です。
しかし、それは違うでしょう。今回の福島第1原発などは人災であって自然災害ではありませんし(従って、こうしたひどい状態をもたらした責任者は必ずいます)、事故後においても、被害者に対して本来なされるべき賠償・補償や避難・疎開・移住を含む厚い支援の手が差し伸べられておれば、被害者住民が汚染地域に住み続けねばならない「環境」など、あろうはずはありません。住民が悲しくも絶望に陥ったり、汚染地域に無用に立ち入って被ばくをしてしまうのは、ひとえに、加害者・東京電力や事故責任者・国が、原発事故後の被害者住民対策をきちんとしていないからに他ならないのです。いわば、人災としての福島第1原発事故後における、第二の人災=つまり二次災害であり、二重の(国家)犯罪行為であるのです。原発などなければ原発事故はなく、事故後の救済政策があれば、住民の無用の被ばくも必要ないのです。何が「エートス」運動でしょうか。こんなもの、くそくらえですよ。
何度も申しあげておりますように、恒常的な低線量被曝(外部被曝・内部被曝)環境は、人間を含む全ての生物にとっては危険極まりないものです。放射線は、直接その害を体に感じなくても、必ず体のどこかを破壊し、近い将来、何らかの形で健康障害をもたらす危険性をはらんでいます。目に見えない、体に感じないことは、何もないことではないのです。そして、ひとたび放射能汚染が明らかになったからには、そうした汚染値からは、放射能のレベルが十分に下がってしまうまでの間は近寄らず、無用の被ばくを避けて、日々の生活を送る必要があります。放射能は拡散しないように閉じ込めて、厳重に管理しておかなければなりません。とりわけ子供や若い世代はそうです。そうしませんと、近い将来、遺伝的な障害を含む体の変調が被ばく者を襲うことになりかねないのです。線量が低いからいいでしょう、ではだめなのです。恒常的に被ばくをしてはいけません。
「エートス」運動には、他にもたくさんのインチキがあり、そして、その結果に対しては完ぺきに無責任です。放射線に被ばくすること、とりわけ内部被曝とはいかなることなのかを被害者住民に伝えず、賠償・補償はシャットアウトされ、まともな救済策もないままに「棄民」化された人たちに対して、あたかも精神的な救済の手を差し伸べるかのようにして、必要のない過剰な被ばくを被害者に甘受させ、更にはそれが、あたかも被害者自身の心の底からの選択であり、決心であるかのごとく体裁をとりつつ、音頭取りがされていきます。異議申し立てや、不安や懸念の表明は、なによりもそれを発する人間自身が傷つくのだと教えられ、悲鳴を上げることよりも、目をつむって平静を保ち、ひたすら自己管理・自律性維持・自己責任確立の鍛練を、(似非)科学者との対話の中で築き上げていくことが奨励されるのです。
原発事故後の生活苦や精神苦の中でもがく被害者に対して、悪魔の声が耳元で小さな声でささやきます。(たとえば)「もうだいじょうぶ、放射能や被ばくを悩みつづけなくてもいいのよ、こうして被ばくを自己管理して抑制し、食べ物や日常生活にはこう注意して、あとは心を平穏にして科学者を信じていれば、なにも日々心乱れることもないのです」(のごとくに)。そして、その悪魔の使者は、(似非)科学者というアカデミズムの衣装をまとい、おごそかで、いんぎんな態度で振舞いつつ、被害者を緩慢な死の世界へと導きながら、その悪魔の死者の足元にすがりつかせるのです。まさに原発事故被害者は、(似非)科学者の精神の奴隷とされるのです。
被害者は、何度も何度も逡巡した揚句、最終的には「あなたの言うがままに、原発事故後の放射能に被ばくさせられても、自分はもう心は傷つかない、健康や将来への不安を悩み続けるよりも、今ある精神の救いの方を選びたい。どうにもならない現実に悩み続けていてもしようがないのだから、もういい、この(地獄からの)使者に手を引かれながら、新しい「平安の境地」とでもうべき「フクシマ・エートス」の精神運動に参画していこう」というところへ追い込まれていくことになるのでしょう。ここまでくれば、原子力ムラ・放射線ムラの汚染加害者たちは、この被害者のあまりに悲惨な状況にカーテンを引きながら、また一つ、片付いたね、とほくそ笑み、あるいは、高笑いをしつつ、原子力推進の仕事へと戻っていくのです。
悪魔の施策「フクシマ・エートス」とは、原発事故被害者自らの自発性と意思で、福島第1原発事故後の放射能汚染と被ばくを被害者自身に前向きに受け入れさせ、それと共存させながら、被爆の真実から目をそらさせることで精神の安寧を保ち、やがて健康障害と緩慢な死の地獄へと突き落としていく、そんな「(自滅的)精神運動」のことを言うのです。そこでは、放射線被曝の実態が明らかにされることもなければ、健康被害が過重にもたらされることについての責任も吹っ飛んでいます。被ばく隠し・汚染隠しは、この「フクシマ・エートス」のためのBGMでもあります。精神的な安定のためには、被爆実態を明らかにすることよりも、わからなくすること、知ることよりも、知らないでいること、目をあけることよりも、目を閉じてしまうこと、耳を澄ますことよりも、耳をふさぐこと、が推奨されるのです。そして、全ての利益は原子力ムラ・放射線ムラに、被害と悲しみは被害者に、そしてそれは自己責任の結果として、で徹底されています、しかもそれでいて、その理不尽の究極状態を、被害者自らが求め、選び取っていく、そういう構図です。これはもはや、人間社会としての正気を失っていると言えるのではないかと思います。
さて、上記で簡単にご説明した、「原子力翼賛社会」の一形態とでもいうべき「フクシマ・エートス」運動と、その教祖=J・ロシャールへのインタビュー記事ですが、私が憤りを隠せないのは、この新聞社が行ったインタビューの中身のあまりのお粗末さに加え、この「ちょうちん」記事の見出しの下劣さです。
朝日新聞大見出しいわく「原発と共存が現実、自ら置かれた環境、どう見極めるか」「無力感漂う人々に、専門家が持つ情報、沈黙せずに伝える」
何だ、これは!! という見出しです。この朝日新聞という新聞社が、まるで放射線ムラの自発的広報機関として、自らを位置付けた瞬間とでもいうべきでしょうか。それは、アジア太平洋戦争時の大本営発表を繰り返していた、あの当時の朝日新聞社と重なり合うものがあります。被害者の立場を切り捨てて、被害者もみ消しの立場に立って記事を書く、被害者を救済する側に立つのではなく、安上がりに精神安定をでっちあげる側に立って記事見出しを書く(つまり被害者切り捨てに加担する)、原発過酷事故後の放射線被曝の危険性を警告する側に立つのではなく、被ばくを隠ぺいする側に立って掲載する記事を選択する、これが朝日新聞の編集方針であるらしいのです。
本日付(3/31)の同紙には、今度は東京電力の技術系トップの役員がインタビューされた記事が掲載されています。「今は、まだ道半ば、英知で制御できる可能性に賭けたい」などという大見出しを付けて、柏崎刈羽原発の再稼働のプレ宣伝のような雰囲気を醸し出しています。あきれるばかりとしか言いようがありません。
被ばくを隠し、被害者を切り捨てることに加担する新聞、こんなものは、こんな新聞は、我々市民こそが「切り捨てよう」ではありませんか。
●(インタビュー)原発を続ける資格 東京電力常務・原子力技術者トップ、姉川尚史さん:朝日新聞デジタル
http://www.asahi.com/articles/DA3S11055237.html
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以下、悪魔の使者ではなく、悪魔の使者と闘うエンジェル・マーカーをお一人ご紹介して、この拙文を終わります。
<参考:アナンド・グローバー氏が国連人権理事会で勧告>
http://www.asyura2.com/14/genpatu36/msg/895.html
別添PDFファイルは、福島第1原発事故後の日本政府、あるいは自治体行政当局に対して、低線量被ばくの危険性をもっと考慮した健康管理や検査・調査に切り替えるよう勧告しているアナンド・グローバー氏に関する記事です(2014年3月21日付東京新聞「こちら徳報部」)。同氏は、上記でご紹介したJ・ロシャールとは「正反対」の立場に立って=つまり、理不尽にも原発被害を受けた多くの被害者の方々の人権擁護・救済の立場から、いろいろな発言をしています。朝日新聞も、インタビューをするのなら、J・ロシャールではなく、A・グローバー氏の方でしょう。
同氏の来日時(2014年3月)の録画は下記で見ることができます。
●20140320 【恥ずかしい政府交渉】国連特別報告者アナンド・グローバー氏招聘院内勉強会 - YouTube
https://www.youtube.com/watch?v=APu1dex8-mY&list=UUhjEbWVGnGHhghoHLfaQOtA
●20140320 UPLAN 【第1部・手話付】アナンド・グローバー氏福島原発事故後の「健康の権利」の現状と課題~国連人権理事会グローバー勧告を受けて - YouTube
https://www.youtube.com/watch?v=P8oGphtJ-gI&list=UUhjEbWVGnGHhghoHLfaQOtA
●20140320 UPLAN 【第2部・手話付】アナンド・グローバー氏 福島原発事故後の「健康の権利」の現状と課題~国連人権理事会グローバー勧告を受けて - YouTube
https://www.youtube.com/watch?v=cDN7DaOOfGk&list=UUhjEbWVGnGHhghoHLfaQOtA
●「包括的な健康調査を」〜国連報告者グローバー氏 OurPlanet-TV:特定非営利活動法人
アワープラネット・ティービー
http://www.ourplanet-tv.org/?q=node/1748
●20140320 UPLAN Fukushima and Public Health Anand
Grover, The UN Special Rapporteur - YouTube
https://www.youtube.com/watch?v=83BcBQJ8dB8&list=UUhjEbWVGnGHhghoHLfaQOtA
早々