虚構の「アベノミクス」:「何のための「負担増」か?」(アベノミクスの1年とこれから)(岩波月刊誌『世界 2014.3』の山家悠紀夫氏論文より)
前略,田中一郎です。
別添PDFファイルは,岩波月刊誌『世界』の今月号(2014年3月)に掲載されました山家悠紀夫氏の論文です。かねてより私が「ミカケダオシノミクス」だと申し上げている「アベノミクス」について,政権発足以降1年間を振り返っての,その政策の実態と政策効果について論じられています。
山家悠紀夫氏がこの小論文の中で展開されているように,「アベノミクス」と,その実態を,具体的な政策内容や経済統計数値などをきちんとつかまえることによって評価すれば,何のことはない,この政策が,今まで失敗に失敗を重ねてきた金融・財政政策の上に,若い世代を中心に日本の勤労者を無権利状態に陥れて,一握りの大資本や大企業・外国資本の利益のために酷使しようとする,とんでもない反有権者・国民的政策=ブラック企業ご優待政策であることがわかります。
情緒的に,○○ミクス,とネーミングすれば,汚染物でもきれいになるかのごとき「言葉遊び」で虚飾し,実際にやっていることは,政策の中身のことなどそっちのけで,安倍晋三・自民党政権という時の権力に尻尾を振っているだけの,ほんとうに情けない,ちょこざいな人間達が増えてきました。とりわけ,読売新聞とNHKを筆頭格とする「巨大粗大ごみ」と化したマスごみ諸君たちには,しかと眼を開けて,この山家悠紀夫氏の小論文を読んでみろ,と申し上げたい次第です。まさに,「アベノミクス」ならぬ「アホノミクス」ではないでしょうか。
以下,山家悠紀夫氏のきらりと光る小論文を,エッセンス部分を抜き書きしつつ,私のコメントも付しながらご紹介いたします。
<別添PDFファイル:添付できませんでした>
●アベノミクスの1年とこれから:何のための負担増か (山家悠紀夫 『世界 2014.3』)
http://www.iwanami.co.jp/sekai/2014/03/directory.html
(1)本稿の課題
一つは「アベノミクス」を始めとする安倍政権の経済政策の下で日本経済がどう変わったか、これからどうなるかということである。二つは、この1年の実績を見、先行きを予想したうえで「アベノミクス」をどう評価するかということである。三つは、安倍政権の下で人々の暮らしはどうなっているか、これからどうなっていくかということである。
(2)三本の矢=これまでの政策の二番煎じ・三番煎じにすぎず
「アベノミクス」は,大胆な金融政策、機動的な財政政策、そして民間投資を喚起する成長戦略という「三本の矢」で構成されているという。しかし,
経済再生とは何を指すのか、デフレと円高から抜け出すことなのか、なぜ「三本の矢」で経済再生が可能なのか、そもそも「三本の矢」自体がこれまでの政策の延長線上にある政策ではないか、例えば、金融政策について言えば、すでに長年にわたり日本では超緩和政策(先進国中最低の金利、GDP比で見て最大規模の量的緩和)が実施されているではないか、また,財政政策について言えば、大規模な公共投資(小渕内閣時、またリーマンショック時)が行われていたではないか、さらに成長戦略について言えば、小泉内閣以来の「構造改革」がそうではなかったか。
(3)内容不明の「成長戦略」
もっとも、そのうち「第三の矢」(成長戦略)については、2014年1月現在、未だ構想が発表されただけの段階にあり、実際に放たれたのは「第一の矢」(大胆な金融政策)と「第二の矢」(機動的な財政政策)の二つである。
(4)「大胆な金融政策」とその帰結
まずは「第一の矢」についてである。日本銀行は、2013年4月に『量的・質的金融緩和』の導入について」と題する文書を公表した。その要点は、①消費者物価の上昇率2%という目標を掲げる、②その実現のために民間銀行に年間60~70兆円の資金を供給する、③資金供給の主たる手段は民間銀行の保有する国債を買い上げることである、というものであった。(そして,それはその通りに実施された)
この間の民間銀行の貸出金の残高は434兆円から441兆円へ、7兆円の増加に止まっている。同期間に、民間銀行の預金残高は613兆円から630兆円に、17兆円増加している。貸出金の増加を上回る預金の増加があったということである。
つまり、こういうことである。「大胆な金融政策」のもと、日本銀行が民間銀行への資金供給を増やせば,それによって民間銀行は貸出を増やす、結果として民間企業や個人の保有する資金が増え、その資金が投資や消費に向けられ民間需要が増える、すなわち景気が良くなる、デフレが解消に向かう。これが「大胆な金融政策」の論理であった。しかし、そうしたことは少しも起こらず、日本銀行が供給した資金は,ただ民間銀行の余剰資金となり、空しく民間銀行の手元に止まっている。したがって、日本経済の再生、もしくはデフレからの脱却には全く役に立っていない、ということである。
(こんなことは,1990年代の終わりころからはじまった超金融緩和政策が,何の経済回復効果を持たなかったことから,既に明確・明白なことである。愚かな俗物経済学者達は,いわゆるマネタリズムの誤謬が明らかとなるのを恐れ,金融政策の失敗を認めたくないがために,様々なナングセを金融政策以外の財政政策その他の経済政策に付けて物事をかく乱・複雑化させ,他方では,効果がない超金融緩和政策を,まだたりない,まだたりない,とわめき続けている。
この愚かさにようやく気がつき始めたのがアメリカの金融当局だが(金融政策の方向転換のタイミングと,そのさじ加減を見計らっているところ),しかし,市中からの巨額の資産購入による中央銀行のバランスシート膨張の解消と,超低金利の正常化へ向けたアクションは,なかなか容易には取りにくく,金融市場の混乱を回避しながら,少しずつ資産処分を進めて,金融政策のアンワインドをしていかなくてはならない。政策効果がないだけでなく,様々な弊害をもたらした超金融緩和・量的金融緩和を,元へ戻すことさえ大きな負担・負荷となるという,バカバカしくも困難な政策コントロールが,これから政策当局を悩まし続けることになる。しかし,日本では,この「アホノミクス」を,まだこれからもやり続けようとしているのだから,呆れる限りである)
(5)副次的な効果としての株高・円安
ただし「大胆な金融政策」は、想定されたルートではなく、別のルートで日本経済に影響を及ぼすことになった。著しい株高・円安をもたらしたことがそれである。
日経平均株価 10,000円 ⇒ 15,000円
円相場 1ドル=84円 ⇒ 105円
こうした株高・円安については、「大胆な金融政策」の発動前から始まっていたこと、また株高について見れば、市場の買い手がもっぱら外国人投資家であることからも分かるように、「大胆な金融政策」の結果というよりも、むしろ、その政策により株高・円安が進むであろうとの市場の「期待」によるものと言える(=「アベノミクス」宣伝を利用した投機筋の「仕掛け」によるもの=だから長続きはしない)。
大手金融機関、大企業などは巨額の評価益,また、富裕層にあっては、評価益や売買益の発生があり、高額商品の購買が増えるということもあった。円安によっては、輸出企業(自動車など)がその恩恵を受けた。
他面で、円安は、中小企業にあっては輸入原材料価格の上昇を販売価格に転嫁しづらく経営が厳しくなっている、暮らしの立場からは物価上昇が生じて生活が厳しくなっている、等といった問題を引き起こしている。これらについては政策面での対応が必要なところだが,目下のところ、安倍政権にその意図はなさそうである。
一部「アベノミクス」によると思われる株高・円安は2013年の前半でほぼ終了,2013年11月以降の株高・円安は,上記で申し上げたアメリカの脱超金融緩和政策を受けたもの。但し,株高については雲行きが怪しくなってきている。
(6)止められなくなってきた「第二の矢」(公共事業の拡大)
「国土強靭化政策」等と称して,安倍晋三政権及びそれにからみつく自民党・公明党のゴロツキ政治家達は,再び利権・土建の甘い汁を吸わんがため,経済効果が乏しくなって久しい公共事業に大盤振る舞いをし始めた。2020年オリンピックや東日本大震災復興,あるいは沖縄振興対策などはその典型である。まるでシロアリがたかるがごとしである。
我々有権者・国民の日常生活に直結する公共事業ならばともかく,そうした地道なインフラ整備や修繕・修復はそっちのけで,ゼネコンが泣いて喜ぶような不要不急の施設建設や道路整備,あるいは巨大プロジェクト,こりないダム建設や港湾整備・埋め立て・防潮堤建設などに邁進している。その財政資金の使い方たるや,目も当てられない。2009年民主党政権成立直前よりも,さらに出鱈目な財政の使い方が目に余る。
公共事業による財政支出の問題点は,今さら申し上げるまでもないところだが,一つは、その波及効果が小さく、公共事業を行ったその期はいいが、効果がその期だけに止まる、このため、景気を持続させていくためにはたえず相応の増加予算を組んでいかねばならない。二つは、財源の問題である。公共事業を増やせば増やすほど財政赤字は膨らむという問題がある。そのツケをどうするか。三つに、環境破壊の問題もある。そして,安倍政権は、これらの問題をとりあえずは無視すると決めたようである。
(7)景気はどうだったか。どうなっているか
要するに、基調にあるのは通常の景気循環である。株高、円安という「第一の矢」の副次的効果による消費の増加、「第二の矢」による公的需要の増加など、政策が寄与しているということはあるとしても、殊更にアベノミクスの功績というほどのことではない。しかも、回復後の動きについては、すでに足元で弱くなっているという現実がある。
景気が回復している、そのことに力があったかどうかという視点からしても、また安倍政権の本来の狙い(長期不況からの脱出)という視点からしても、アベノミクスが成功しているとはいい難い状況である。
(8)「成長戦略」は「構造改革」政策の継続、焼き直し
安倍政権は、内閣発足直後「日本を『世界で一番企業が活動しやすい国』にする」との目標を掲げた。そのために「財政、税制、規制改革、金融政策などのツールを駆使」する、という。何のことはない,下記に見るように,竹中・小泉市場原理主義「構造改革」の焼き直し,いや,更にグロテスクで露骨な「1%のための99%切捨て政策」こそが,安倍晋三政権が打ち出している「成長戦略」に他ならない。「成長」するのは1%の大資本・外国資本・投資ファンド・富裕層などであり,そのためにむしり取られるのが99%の有権者・国民・消費者という構図だ。
その政策は、すでに大企業の経営者を多数参加させた「産業競争力会議」の討議、報告を基にとりまとめた「日本再興戦略」(2013年6月閣議決定)に大枠が示されている。
規制緩和、政府による企業活動支援を柱にすえたこの「成長戦略」は、かつての橋本内閣の「六大改革」、その後の小泉内閣の「構造改革」の流れを受けた、いわば「構造改革」政策の継続、焼き直しの政策だ。「構造改革」政策の下で生じたことが、これから再び生じるだろう、ということである。
国内総生産(GDP)、国内民間需要、雇用者報酬がいずれも1997年がピークになっている。この三つの指標を関連づけて読むとすれば、「改革」の名の下で規制緩和(とくに労働基準法の改定や雇用者派遣法の規制緩和といった雇用規則の緩和)が行われて雇用者報酬が減少に転じた、その結果、民間消費支出が減少して、消費が過半を占める国内民間需要が減少し始めた、その結果としてGDPが減少し、日本経済は長期停滞に陥ることになった。
そして、今また、「成長戦略」は、雇用制度改革(抽象的には「行き過ぎた雇用維持型から労働移動支援型への政策転換」、具体的には「派遣労働の規制緩和」「ジョブ型正社員制度の整備」等)をその柱に据えている。「成長戦略」が具体化され、実施に移されたら、その時確実に起こることは、前例に学んで言えば、停滞からの脱出ではなく、さらなる停滞へと日本経済が落ち込むことである。
「構造改革」の時代にあっては、企業収益は向上しても賃金は下がり、非正規雇用が著しく増えるなど、暮らしは悪化したのである。
(9)消費税増税で暮らしはどうなる
山家悠紀夫氏が例示した経済指標や経済実態例は以下のようなものである。
●サラリーマン世帯の実質可処分所得は,2013年8月から4か月連続してマイナス
●正社員は前年同期比約30万人の減少,非正規社員は約80万人の増加,非正社員比率は37%に迫る
●年金給付額の引き下げ開始
●消費税増税(2014年4月に8%へ,2015年10月に10%へ)
●社会保障制度における自己負担額の増加(医療費,介護費,サービス低下)
●法人税減税(1990年代の後半から法人税負担の軽減は,一般有権者・国民の負担増と並行して進展,2/3まで↓)
●企業と家計の税負担割合
1996年度が,37:63,2014年度が,25:75
●民間法人企業所得
1996年= 41.3兆円 ⇒ 2012年= 45.9兆円(+11%)
●家計所得
1996年=307.9兆円 ⇒ 2012年=267.5兆円(▲13%)
そしてことは、税の世界に止まらない。アベノミクスの下では、これまでにも増して、政策の恩恵は企業に、その負担は国民にという動きが進行していくことになろう。
<注>
雇用制度改悪に関しては,同じく岩波月刊誌『世界 2014.3』に掲載された論文「人口減少下の経済:安倍首相の現状認識は誤っている」に,経済学者の伊東光晴氏が適切にまとめておられるので,それを引用しておく。
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第一は、「雇用特区」と名付けられた地区に立地する企業は従業員を解雇し易いことにする。第二は業務や勤務地などが限定される代わりに解雇しやすい「限定社員」制度をつくるというものである。そして第三は、不当解雇と認定された時でも、職場での復帰ではなく、金銭を支払い解決できるという「金銭解決制度」を創設し、第四は、小泉政権が進めた規制緩和で社会問題化し、民主党内閣で原則禁止した「日雇い派遣」をもとに戻す「日雇い派遣の再回帰」である。そして第五は、現在26業務に限り許されている無期限派遣を全業種に拡大し、第六が、残業代を固定給の中に一定額入れ込んだとして、残業代を支払わなくてもよいとする労働時間規制除外法、これはホワイトカラーに大きく影響するので、ホワイトカラー・エグゼンプションといわれ、2005年に経団連が提言したものである。
従業員を必要とあればいつでも解雇でき、安い賃金の従業員を派遣社員として雇うことができ、労働時間が長くなっても残業手当を支払わなくてもよい労働市場を目指す、これが「第三の矢」の「日本産業再興プラン」において、明確な内容を持つ唯一の項目である。このプランが、「世界で一番企業が活動しやすい環境の整備」と銘打っているところの「第三の矢」の具体的中心であることが推定できる。
これは戦後の安定した労働市場、労働慣行を覆すものである。これが成長政策になるのか。これに対する反対は当然のことながら強く、「解雇特区」を政府は断念し、解雇ルールも修正し、「国家戦略特区法案」は2013年12月7日、国会で成立した。
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(10)結論
「アベノミクス」なるものの正体は,山家悠紀夫氏がこの小論文で明らかにしたように,大資本・富裕層のための,ドラスティックで,グロテスクで,セルフィッシュで,無責任な,ゴロツキ政策の塊であるということだ。まさに安倍晋三・自民党政権ならではの政策と言えるだろう。
問題は,これを正確に実態事実に着目して評価し,こうした政策を厚顔にも持ち出して来ては,有権者・国民にインチキ説明をしている,安倍晋三・自民党の政治家どもを,政治の世界から一掃できるかどうかである。政治が,文字通りの,有権者・国民一人一人の「利益」「利害」の反映として展開された時,安倍晋三・自民党は,悪の華のごとき「虚飾の泡」となって,歴史の舞台から消えて行くに違いない。
多くの有権者・国民諸君,早く目を覚ませ!!! 目を大きく見開いて安倍晋三がやっていることをよく見てみよ。
早々
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コメント
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「1%のための99%切捨て政策」多くの有権者・国民諸君,早く目を覚ませ!!!
との結論にいたる緻密な分析・指摘大変参考になりました。毎回勉強させていただいています。
一方で、安部政権も巧みに世論操作(「行きすぎた円高の是正・株高などにより企業業績が上向き、賃金が上がり、アベノミクスの恩恵が皆にいきわたる、という分かりやすい論理で) しており、小生も含めた一般大衆としては「とりあえず民主党政権よりはまともにやってくれていそうだ。もう少し様子をみてみよう。」
というところではないでしょうか。それが依然50%を超える支持率となっているのでは。
専門知識のない小生のような一般市民むけに、最初に短文で分かりやすく結論を記入して戴けると
もっとありがたいです。
草々
投稿: 田辺久人 | 2014年2月25日 (火) 21時59分