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2013年11月 6日 (水)

「天皇を政治利用したのはけしからん」というのは自民党のことではないのでしょうか,自民党は自分の責任を棚上げにしてはいけません

山本太郎氏の天皇への手紙の手交が話題になっているようです。
私見を簡単に申し述べます。

(1)天皇は日本国憲法上は「象徴」存在であり,内閣の助言と承認を経て国事行為ができるのみです。国政に関する権限はなく,関与することもできません。従って,天皇の国政に対する「口出し」はまかりなりません。いかなる意見や見解の表明も許されません。天皇の発言は,それだけで大きな政治的効果を持つからです(このこと自体が悲しい政治状況だと,私は考えています)。昭和天皇はともかく,現平成天皇は,そのことをよく心得ていらっしゃるように見受けられます。

 

(2)田中正造の天皇直訴と同一視されるような議論もありますが,それはあくまで「レトリック」であって,アジア太平洋戦争前の大日本帝国憲法下の天皇と日本国憲法下の天皇では,その意味や役割・機能は天と地ほどの差があります(それがまた,両憲法の違いでもあります=蛇足的に申し上げれば,自民党は,日本国憲法を大日本帝国憲法のようなものに戻そうとしています。とんでもない話です)。「直訴」などという言葉が,今回の山本太郎氏の行為にはふさわしくありません(あくまでも「レトリック」として使われるべきです)。

 

(3)この憲法上の規定は,アジア太平洋戦争後の政治情勢の中で,いわば政治的妥協ないしは政治支配の一環としてなされたものであり,成熟した真の民主国家にはふさわしくない「遅れた」規定です。従って,日本の民主主義の成熟・成長に伴い廃止されるべき条文です。およそ,成熟した民主主義社会=国民主権社会では,特別な人を「世襲」や「交代不可能」な形で特別な職位につけることはありえませんし,「誰からも批評・批判されることはない」という「タブー化」などもありえません。あらゆる公的役職は,民主的にフィードバックされ,任期に期限があり,原則としてその行為は公開され,日常的に批判・批評され,交代可能なものでなければならないのです。従ってまた,天皇は,憲法の天皇条項が廃止されたのちは,日本の通常の一市民として,ごく普通の生活ができるよう保障される権利があります。

 

(4)自民党あたりから噴き出ている「天皇を政治利用するのはけしからん」という山本太郎氏への批判は,自民党自らの「天皇の政治利用を棚上げ」にし,何かと自分達にとって目障りな山本太郎氏を追い払いたい自民党がとびついた「天に唾する自爆的批判」だと言えるでしょう。とりわけ自民党の憲法改悪案をはじめ,安倍晋三一派の第一次内閣時からの目に余る「天皇の政治利用」は,看過できない日本国憲法違反として厳しく批判されなければならないでしょう。それは,一国会議員の山本太郎氏の今回の行動などとは比べ物にならない,国家権力を私物化し濫用する,巨大で極めて悪質な反民主主義的「政治行為」と言えるものです。

 

(5)従って,自民党が山本太郎氏を「天皇の政治利用」批判でごリ押しして国会議員辞職を迫るというのであれば,まずは自民党の国会議員(のみならず天皇の政治利用に加担してきた地方議員も含めて)全員が辞任をしてから言うべきことであり,また,山本太郎氏の行動云々の前に,自民党自身が「天皇の政治利用」の「清算」をしなければなりません。ものごとの重大さの大小を「すりかえ」てはいけないのです。

 

(6)山本太郎氏が天皇に手紙を手交したこと,それ自体は,大騒ぎをするような話ではありません。天皇といえども,国事行為において,あるいはそれ以外の天皇の日常行動の中で,多くの国民と接することが多いわけですから,山本太郎氏が,いま福島第1原発事故後に日本でおきていることは,こんなにひどいことです,と,その真相を天皇にお知らせしたことに,何ら不思議はありません。まして,山本太郎氏を批判している自民党こそが,政権を牛耳る政党として,いつまでたっても「東京電力(福島第1原発)放射能放出事件」の後始末・事後処理と被害者の救済をきちんとしようとしないまま,たくさんの被害者を悲惨な状況に追い込んでいるわけですから,こうした状況を見るに堪えず,何とかしなければという思いを天皇にも聞いてほしかったとする山本太郎氏の行為は,責められるべきものではないでしょう。

 

(7)つまり,厳しく申し上げれば,そうした福島の事故後の状態や被害者の悲惨さについて,あるいは現状の放射線防護のずさんさからくる恒常的な低線量内部被曝の危険性への重大な懸念から,山本太郎氏の行為までが出てくる,この原発事故とその後の事態について,その責任は,山本太郎氏ではなく,安倍晋三・自民党政権と,その前の民主党政権にあるということです。そして,あろうことか,後始末もままならないままに,原発・核燃料施設の再稼働や原発輸出にまで手を出す始末です。政権与党として「原発事故の結果責任」を負う立場の自民党や同党政治家が,それをも棚に上げて,山本太郎氏の行為のみをあげつらっている恥知らずの態度に対しては,猛烈な嫌悪感を感じざるを得ません。お前達はほんとうに「政治の世界のゴロツキか」と。責任感のかけらも持ちあわしておらぬのかと。

 

(8)天皇の「お気持ち」をはじめ,天皇個人のことに言及するコメントが散見されていますが,私は,天皇について論じる際には,あくまで「職位」としての天皇の範囲内で論じるべきだと考えています。何故なら,天皇を含む皇室のプライベートへの「興味」の喚起もまた,「天皇の政治利用」の一環として行われているからです。「彼ら」の政治的細工に乗るわけにはいきません。

(9)最後に,この(大したことのない)問題の簡単な結論は,小出裕章京都大学原子炉実験所助教の発言に尽きると思います。

 「被ばくしている子どもをあらゆる手段で助けなければという思いだ。やむにやまれぬ気持は理解できる。田中正造の直訴に近い。被ばく支援をきちんとやっていない自民こそが批判されるべきだ。自民は彼を抑え込もうとしているが,ひるまないでほしい」

 

 そうです。太郎君,ひるまないでください。あらゆる手を尽くして,過酷事故を起こした福島第1原発の後処理を早期に適正化し,何よりも「東京電力(福島第1原発)放射能放出事件」の被害者の方々や,恒常的な低線量内部被曝に晒されている妊婦・胎児や子ども達,あるいは過酷な福島第1原発現場で理不尽な形で働かされている作業員の方々を守ってください,それが太郎君の国会議員としての「使命」だと信じています。

早々

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コメント

田中様、いつも貴重な情報をありがとうございます。内部被曝研のメーリスがあのような状況で、誹謗中傷に腹を立てながらも、田中様の貴重な情報だけは拝見させていただき、すべて消去せず保存させていただいております。山本太郎氏の直訴の件については、本当になぜ辞職勧告決議までされそうな事態になるのかが理解できなかったのですが、ここに来て宮内庁が、「手紙は天皇陛下には渡さず、宮内庁事務局が保管している」というコメントを発表し、山本太郎氏の苦労はなんだったのか。山本太郎氏はなんのために処分されようとしているのか、全くわからなくなりました。本当に酷い話だと思います。とにかく、ジャーナリスト福島菊次郎が言うように、今の日本はうそだらけ。欺瞞だらけ。ということだけは身に滲みて感じております。今後ともご活躍を期待いたしております。よろしくお願いいたします。

メーリスからきました。
一郎さんの文章にいつも励まされています。ありがとうございます。

今の日本は嘘だらけ。欺瞞だらけ。

鮮やかなあなたの言葉でこれからも暴いて私たちに伝えてください。
感謝します。

山本太郎さんが天皇に過酷な被爆労働者のことを知っていただきたいとお手紙を渡し、また内閣委員会でも中間搾取されている原発労働者の状況を訴えた後、ケチな東電が労働者が集まらないので1万円アップすると言い出しました。オリンピックの箱モノ作りの方に労働者も資材も集中し、宮城、岩手の復興にますます手がまわらなくなるのは自明の理。ましてや、福島第一原発で働く労働者がよほど足りないのでしょう。太郎さんは非常識だとか無知だとか非難をあびせられ、右翼に狙われたり、週刊新潮、文春にデタラメなことを書かれているけど、そこまでしても太郎さんが声をあげたから、ケチな東電も1万円アップすることにしたのではないかと私は思いますよ。デタラメでケチな企業だけど、それでも東電のトップを動かしたんですよ。それはすごいことです。太郎さんあっぱれです。それでも下請け、孫請け、そのまた下請け等々の会社がどれだけその1万円をピンハネして労働者の手元に入っていくかのはわからないですけどね。政府自ら、そこまで立ち入れないと言い切って、しらんぷりですから。少なくとも嘘つきで傲慢な政府は私たちのためには1ミリも動かないどころか、ますます国民を締め付ける一方だし、山本太郎さんが間違い、変人、と責任転嫁して逆に政治利用しようとして失敗しましたけどね。

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