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2013年11月 6日 (水)

東京電力を法的破綻処理(会社更生法)せよ

前略,田中一郎です。

 

 新聞報道によりますと,自民党の東日本大震災復興加速化本部は,さる20131031日に総会を開催し,福島第1原発事故による除染や汚染土壌などを保管する中間貯蔵施設の建設に国費を投入することや,東京電力に対して汚染水対策や廃炉事業に集中できるよう,分社化を含む体制見直し検討を促すことを盛り込んだ提言を了承しました。また,同じく自民党の資源・エネルギー戦略調査会と経済産業部会は,同じ31日に,福島第1原発の汚染水対策を国の直轄事業とする特別措置法の骨子案を了承しました。来年の通常国会での議員立法を目指すとしています。

 

後者の特措法骨子案は,国費投入についての慎重意見を受けて,費用の一部を東京電力に請求する方向で修正するとされていますが,基本的に今の東京電力をめぐる体制を変えないまま,なし崩し的に国費を投入していくという点では前者の提言と変わるところはありません。以下,この自民党「東日本大震災復興加速化本部」がまとめた提言に着目し,日本経済新聞の記事に沿って徹底的に批判しておきましょう。

 

<自民党提言のポイント>

● 東京電力の汚染水対策や廃炉に関わる部門の社内分社化,完全分社化,独立行政法人化を検討

● 除染作業や除染による廃棄物を保管する中間貯蔵施設の建設・管理に国費を投入

● 帰還困難区域は戻れる年数を明確に示す

● 除染は早期帰還が可能な地域を優先

● 避難指示が6年を超える場合の追加賠償の方向性を年内に示す

2013111日付日本経済新聞記事より)

 

 この提言の内容は,先般のTV朝日番組「朝まで生テレビ」の討論で,自民党の塩崎恭久政調会長代行が発言していたこととほぼ似たようなもので,簡単に申し上げれば,ゾンビ状態の東京電力を救済・延命させながら,柏崎刈羽原発の再稼働を含む原発・核燃料施設再稼働と原子力ムラの完全復活をねらう,とんでもない内容が背後に隠されています。福島第1原発事故後の処理に対する「国の主導」なる大義名分は,そのための「出汁」に使われているように見えます。事実,東京電力をめぐる現体制をそのままにして,仮に東京電力の汚染水対策や除染などの負荷が国の支援や助成によって軽くなれば,東京電力は自分達の経営資源や役職員・人材を今以上に柏崎刈羽原発の再稼働へ向けて投入し,更にはまた,核燃料サイクル事業へもその関与を続けていくでしょう。また,誰も何の責任も問われぬままに巨額の国費が事故を起こした一民間企業である東京電力に投入されるとなれば,今後の電力業界や原子力業界におけるモラルハザードは今以上に一層ひどいものとなるに違いありません。更に申し上げれば,下記にご説明するように,この東京電力救済・延命スキームは,同社に対して(無担保)貸出債権をもつ銀行団の債権保全にも資するものとなっているのです。(しかし,この提言の中には,被害者の無用の放射線被曝の回避や完全救済につながるような文言は見あたりません。救済する相手を間違っているのではないでしょうか)

 

 彼ら自民党の政治家達は,こうしたことを十分に承知しているはずです。にもかかわらず,このような新たな福島原発事故対策を提言するのですから,彼らはどこまで行っても有権者・国民をだまし続け,被害者の完全救済に取り組まないまま,国のゆくべき道を誤らせる(原子力利権まみれの)デマゴーグ集団であると言わざるを得ません。福島原発事故後の全ての対策は,東京電力の法的破綻処理(会社更生法適用)から始まらなければならないはずです。それは世の中の常識から鑑みても当然のことだと思われます。およそ電力業界以外の産業では,かようなことは許されないのです。

 

大島理森自民党東日本大震災復興加速化本部長は「オールジャパンの取組を示す」などと説明しているようですが,何が「オールジャパン」でしょうか。それも言うなら「オール原子力利権」「オール原子力ムラ」とでも言うべきでしょう。現在の体制に抜本的な改革・改善のメスを入れることなく,こんな提言を実施しても,まるでかつてのアジア太平洋戦争時におけるガダルカナル島攻略作戦のように,ズルズルと国費=税金だけが投入され続け,事態は一向に良くならないばかりか,既に中越沖地震で危険な「傷もの」原発となっている柏崎刈羽原発の再稼働を促進し,あわせて危険極まりない(かつ事業として無意味な)核燃料サイクルの再推進に資するものとなるでしょう。また,現場での混乱が続く福島第1原発は,まもなく発生するかもしれない第二次東日本大地震・大津波により,第一次福島第1原発事故を上回る過酷事故=放射能の環境放出につながる危険性が高いままに放置されると思われます。

 

 それから,この件に関する日本経済新聞の記事内容のひどさも指摘しておきます,こんな記事を書いているようでは,とても「社会の公器」としての新聞とは言えないでしょう。まるで原子力ムラや原子力推進に偏る一部財界の御用広報のようです。批判力ゼロです。全く情けない話だと思います。

 

 <除染に国費,自民了承>

(1)(毎日新聞)http://www.asahi.com/articles/TKY201310310332.html

(2)(日本経済新聞)http://www.nikkei.com/article/DGXNASFS31038_R31C13A0MM8000/

(3)(FNN動画)http://www.fnn-news.com/news/headlines/articles/CONN00256983.html

1.東京電力の経営をめぐる3つの嘘八百

(1)「東京電力の20139月決算は黒字だ」の嘘八百(明明白白の粉飾決算を経済産業省主導で行っている)

 新聞報道は数日前に,東京電力の2013年上半期(9月末)の連結経常損益が1,416億円の経常黒字になったと報じました。しかし,これは次の2つの「損失」を覆い隠す露骨な粉飾決算の結果であって,実質は会社の体をなしていない「まっかっか」の倒産会社そのものです。

 

● 原子力損害賠償支援機構から交付されている国のお金は,今後,東京電力が時間をかけて国に返却することになっている無利子の貸出金です。無利子であること自体がけしからん話ですが,東京電力は,その貸出金の受け入れの会計処理を「特別利益」として計上し,自分達の収入=利益にしてしまっているのです。国から借りたものは,おれたち東京電力がもらったもの,というのがその態度です。経済産業省は,その会計処理を省令で追認しているそうです。国から借りたお金を自分達の収入=利益にして経理する,それを所管庁の経済産業省が認める,こんな出鱈目がありますか? (金額は20133月までで累計約3兆4千億円です)

 

● 更に先般,これも経済産業省が主導をして,原発廃炉に係る(巨額)費用を,その原発が廃炉になった後も相当長い期間,減価償却を続けることができるように,言い換えれば,廃炉の時点で一括して,その廃炉原発を損金処理しないで済むように(本来ならば,その時までの廃炉引当金不足額を損金処理するのがまっとうな会計処理の仕方です),経理基準を変更いたしました。また,汚染水タンクや使用済み核燃料取出しのためのクレーン設備など,廃炉のために追加的に必要となる様々な費用も同様に一括損金処理されるのではなく,償却期間を長くとって,少しずつ損金処理する会計基準に変更されました。これも経済産業省が省令で“ちょちょ”とやっただけです。巨額の粉飾会計が政府公認の下で行われるという異様な事態です。

 

 本来,東京電力のような上場企業の会計基準は,金融取引法(旧証券取引法)に準拠して,(有価証券報告書等の記載基準として)金融庁が公認会計士業界から意見を聞いて決めるのが一般的なあり方です。しかし,こと原発・核燃料施設=原子力のことについては「例外」規定があり,金融庁の所管を離れて,経済産業省に所管させるような規定があるというのです。ついこの間まで,我が国の環境保全関係の主たる法律には,原子力=放射能汚染を例外的に除外する規定がありましたが(先般,法律が改正されました),それと似たようなことが電力会社の会計基準では,まだ続いていて,原子力ムラ代理店官庁の経済産業省が,会計基準についてのイロハも理解しないままに,好き勝手なことをしているというのがこの国の実態です。

(2)持続的な収益見通しを東京電力が示せなければ,銀行団の支援の継続は見込めないという嘘八百

 現在,銀行団は,東京電力に対して持つ「無担保の」貸出債権を,私募社債という「有担保」(会社資産全体を担保に取るゼネラルモーゲージという方式)に切り替えを行っております。詳しくは,週刊エコノミスト(2013115日号)の記事「「銀行だけは守ります」=東電の担保付き私募債のカラクリ」をご覧下さい。

 

 現在,銀行団は,ゾンビ状態の東京電力の経営そのものや,福島第1原発の後始末などについては,直接,高い関心があるわけではありません。とにかく,自分達の貸出債権が無担保状態で危ないので,東京電力の法的破綻処理を可能な限り先送りさせ,その間に無担保貸出を,その期限が来る都度,有担保の私募社債に切り替えていくことに全力を集中しています。何故なら,有担保の社債であれば,倒産時にはその他の一般債権よりも優先して弁済が受けられますし,会社更生法適用の場合でも,更生担保権として,他の一般の更生債権よりも優先して扱われることになるからです。

 

東京電力の有価証券報告書を見てみますと,健全資産である「送配電設備」や「火力・水力発電設備」の簿価金額の合計は約6~7兆円あり,仮に無担保貸出を全部有担保私募社債に切り替えることができれば,その私募債を含む(有担保)社債合計の金額も約6~7兆円となり,銀行団の東京電力向け有担保債権と,東京電力の健全資産とが金額的にほぼ見合う形となります。その後は,銀行団は,東京電力に何があっても,貸倒損失を被らない安全圏に逃げ込めるのです。その分,割りを食うのがその他の一般債権者=つまり,福島第1原発事故で被害を受けた被害者の損害賠償請求債権などだ,ということになります。

 

 日経記事にある「東京電力を法的破綻処理した場合,賠償金よりも社債の償還が優先される,賠償金の支払いが滞り,被災者の生活に影響が出かねない」というのも悪質な嘘八百,というより重大な事実の捻じ曲げです。「賠償金よりも社債の償還が優先」というのは,現在の法律ではやむを得ませんが(*),しかし,東京電力を早く法的破綻処理して銀行団に無担保の貸出債権の放棄をさせなければ,上記で申し上げたように,銀行団は次々と無担保の貸出金を有担保私募社債に切り替えて,東京電力の資産を自分達の債権の担保として徴求していきますから,益々,被害者の賠償金のための資産はなくなっていきます。話はあべこべなのです。

 

(*)日本経済新聞記事には「賠償債権などを保護する特別法も不可能ではない」と書かれています。民法上の時効延長・廃止と併せて,この賠償請求債権保護の法的措置(新法制定)も早急に検討されなければならないものです。

また,被害者に支払われるべき賠償金や,除染費用・汚染水対策費用・廃炉費用などは,あまりに巨額過ぎて,東京電力の現有資産や将来の収入からでは払いきれません。国費=税金の投入はどうしても必要不可欠なのです。であれば,ゾンビ状態の東京電力に対してきちんと終止符を打ち,会社更生法という法的破綻処理にかけた上で過去の債権債務と経営責任を清算し,適正な形で国費が投入されるべきでしょう。また,銀行団や株主,あるいは新旧経営者・幹部達や政府・経済産業省・規制当局・(旧)原子力安全委員会をはじめ,福島第1原発事故を引き起こした責任者の責任もしっかりと追及されなければならないのです。

 

 つまり,この日本経済新聞記事は,被害者の賠償請求債権を押しのけて,自分達の無担保貸出債権の担保徴求=債権保全に走る,この銀行団の自分勝手な反社会的行為を覆い隠す,インチキの「大義名分」を結果として宣伝してしまう記事になってしまっているのです。東京電力の法的破綻処理は,この銀行団の有担保私募債への切り替えが進まぬうちに早急に行い,銀行団に債権放棄の責任をとらせる必要があります。しかし,20136月の段階で,既に8,000億円近い銀行団の貸出金が有担保私募債に切り替わってしまいました。いわば約8,000億円が,多くの被害者や有権者・国民が知らぬうちに銀行団にかすめとられてしまったようなものです。その結果は,その分の金額だけ,被害者への賠償・補償や除染費用の形で国が出さざるを得なくなるということです。銀行団の債権回収に国費が回りまわって投入されていく構図です。こんなものは許せません。

 

(3)柏崎刈羽原発が再稼働できるかどうかが当面の最大の焦点であるという出鱈目

 柏崎刈羽原発は,2007年夏の中越沖地震で大きな損傷を被り,二度と再稼働してはいけない危険な「傷もの」原発です。しかも,その後,同原発の敷地内外で多くの活断層や,その疑いのある断層が発見されています。また,東京電力に福島第1原発以外の原発をメンテナンスする力量も当事者能力もなく,万が一,大地震・大津波で柏崎刈羽原発が過酷事故にでもなれば,それこそどうしようもないお手上げ状態になるのは目に見えております。そんな原発の再稼働などありえない話です。そもそも,再稼働の前提となる原子力「寄生」委員会の「新規制基準」に大きな疑義がたくさんあり,およそ原発・核燃料施設の安全性を担保する基準だとはとても言えないものです。

 

 しかし,電力会社や原子力産業などの原子力ムラや,その代理店政府あるいは自民党などは,虎視眈々と,粘り強く,どこまでも,どこまでも,柏崎刈羽原発を含む原発・核燃料施設の再稼働を画策しています。先般も,青森県むつ市の使用済み核燃料中間貯蔵施設の建設が終了し,そこへ原発敷地内の貯蔵プールが満杯になってきて困った状態にある柏崎刈羽原発の使用済み核燃料を移し替える算段がなされ,今はその開始のタイミングを見計らっている状態です。馬鹿は死ななきゃ治らない,とよく言いますが,原子力ムラは,社会的に葬り去らない限り,いつまでも,どこまでも,原子力推進を求め続けるのです。

  

2.福島第1原発対応の体制立て直しは急務

ゾンビ状態の東京電力は,もはや福島第1原発の汚染水対策を含め,除染や廃炉や賠償・補償など,今後長い期間にわたって続いていく重要な事故後処理を的確・堅実に遂行していけるだけの当事者能力はありません。もうこのまま放置しておくわけにはいきません。一刻も早く,現下の危機的状況に対して有効に機能する新体制の構築が不可欠です。そして汚染水の海洋流出などを防ぎながら,福島第1原発を襲う可能性が高い次の大地震・大津波に対して万全の備えを早急にしなければならないのです。

 

 しかし,東京電力の経営者や幹部達は,そのことを自覚して自ら会社更生法の適用申請を行うことなく,ただひたすら,目先の必要経費をケチりにケチることをもって,この超長期にわたって続くであろう困難に対処しようとしているのです。その結果が,早期の遮水壁建設見送り=汚染水問題の深刻化であり,現場作業員の猛烈な被曝と多重下請け・劣悪労働条件の放置=その結果の作業員の散逸=その結果としての過酷な作業現場の更なる過酷化という悪循環,被害者への賠償・補償の切り捨て,除染費用の支払い拒否,配電盤ネズミ騒動や雑草のトゲによる汚染水ホース穴開き騒ぎ,などなどに結果しています。

 

 今般,自民党が打ち出してきた新対応方針は,このゾンビ状態の東京電力にメスを入れることなく=つまりは,業務をきちんと遂行できる体制をつくることもなければ,経営責任を含む責任者の責任を問うこともなく,モラルハザードを撒き散らしながら,ゾンビのまま東京電力を生き延びさせ,他方で,除染や汚染水処理,あるいは廃炉費用に,ズルズルと際限なく国費=税金を使おうというものに他なりません。その原資は,我々をだましてまき上げた消費税や復興所得税増税その他があてられます(日経記事には,復興予算4兆円と電源開発促進税(年間3約千億円程度)をその原資に充てる旨が書かれています)。その無責任な「ズルズル」ぶりは,まるで,かつてのバブル崩壊後の銀行等の不良債権処理のようです。

 

3.日本経済新聞記事にある「表」(別添:P11)に沿って4つの施策に対する「新対応方針」の正体を明らかにします

 

(1)除染 ⇒「公共事業的な観点から検討」(追加除染などへの国費投入)

 「公共事業的な観点」とは,よく言ったものです。まさに,不要不急の利権事業=公共土建事業のごとく,環境省が主導しながら,将来の自分達の天下りも存分に期待して(?),大手ゼネコンや原子力ムラ外郭団体などを元請けにして,「除染事業」と称する出鱈目の「公共事業」が展開されています。そしてそれらは,汚染物や放射能を右から左に動かしているだけで,ほとんど線量低減にも被曝回避にもつながらず(むしろ作業員の除染作業被曝を増やしている),ただひたすら,その事業請負利権集団のために,まるで税金をドブに捨てるかのごとく,お金が使われているのです。それを,これからもっと本格的に国が乗り出して,税金を湯水のごとく使おうというのがこの提言です。土建業界をはじめ自民党を支持する層は,この「除染公共事業」によって今まで以上に潤うため大歓迎しています。

 

 除染については,更に日経記事には次のようにも書かれております。逐条反論しておきましょう。

 

●「(自民党の提言は)年間1mSv以下にする長期目標の達成が除染だけでは難しい点も指摘した」

 ⇒(田中一郎)だったら,何故,即刻,住民を避難させないのでしょうか。除染するにしても,住民の無用の被曝回避のために,まず避難・疎開です。

 

●「地元自治体は追加除染を求めるが,環境省は線量低減効果が大きくないとして消極的だ」

 ⇒(田中一郎)だったら,法定被曝限度の年間1mSv以下の約束を守れないのですから,住民を直ちに避難・疎開させるのは当然です。

 

●「今後は配布した線量計で住民が線量を確認しながら健康を管理することが求められる」(空間線量管理から個人被曝線量管理へ)

 ⇒(田中一郎)全く驚くばかりのふざけた話です。まず,個人線量計は外部被爆のみの計測であることに加え(特に危険な呼吸内部被曝が計測できない),様々な理由から,その計測値が小さく出る傾向にあります。一時的に少人数にならばともかく,こんなもので,日常的に大規模に長期にわたり,多くの人達が個人線量管理などできるはずがありません。そもそも,除染では空間線量を下げられないので,仕方がないから各自線量計を持って被曝を自己管理してくれ,などということがめちゃくちゃです。何故,住民をただちに避難・疎開・移住させないのでしょうか。

こうしたことをやれ,と言っている人間達が福島県の深刻な汚染地域に移り住み,自分達でやってみればいいのです。首相官邸・経済産業省・環境省・自民党本部などを福島県の汚染地域へ移し,居住地を福島県民と交代しなさい。

 

●「除染費用がどこまで膨らむかは見通しが立たず・・・・(中略)除染をより効率的に実施する必要があるとの事情もある」

 ⇒(田中一郎)できもしない高濃度の汚染地域の除染など,やめればいいのです。税金の無駄使いです=2013年度まででも13千億円ものお金が用意されました。このお金は,かような除染事業にではなく,まず被害者の避難・疎開・移住と,その後の生活・経営再建のために使われるべきです。そして,除染は,まず年間1mSv未満の低線量地域のホット・スポット除染を徹底してやることから始めるべきです。福島県浜通りの福島第1原発周辺や,その北西方向,あるいは中通り地方の年間5mSvを超える地域は,一刻も早く住民避難を行わなければなりません。そして,その地域は,放射性セシウム134などの半減期の比較的短い放射性核種の自然低減を待ち,空間線量や土壌線量が十分に減少してのちに,少しずつ少しずつ,低線量地域から優先して,徹底して除染をしていく・時間をかけてやっていく,という方法以外にないだろうと思われます。

 

●「再度の除染や健康診断などの住民帰還支援策には国費を投入する」(住民帰還が目的であり,除染による住民の被曝回避は二の次でよいということか?)

 ⇒(田中一郎)何ゆえに「再度の除染や健康診断など」が「住民帰還支援策」なのですか? この記事を書いている記者自身が変だとは思わないのでしょうか? 帰還する住民にも,帰還しないで新天地で人生の再出発をする被害者の方々にも,除染や健康診断を国がきちんと対応するのは当たり前です。本来は,すべて加害者である東京電力がその費用を負担すべきものですが,東京電力の法的破綻処理を前提とするのであれば,国が出費するのはやむを得ません。

 

●「帰還困難区域は戻れる年数を明確に示す」

 ⇒(田中一郎)科学的・実証的な根拠を持って示せるわけがありません。国が「思わせぶり」のような,いい加減なことを被害者・被災者に伝えるのは,国家的な詐欺行為です。結果的に,被害者の方々の生活や経営の再建を遅らせてしまいますし,場合によっては,無用の被ばくを増やします。

 

●「除染は早期帰還が可能な地域を優先」

 ⇒(田中一郎)「早期帰還」に偏る歪んだ対応方針です。除染は「汚染度の低い地域から,ホット・スポットに着目して,徹底してやる」というのが基本です。住民の早期帰還うんぬんなど,関係ありません。そもそも住民が避難をしているような強度の汚染地域は後回しです。何故なら,そうしたところでは除染をしても,しばらくすると元の汚染状態に戻ってしまうからです。今現在,多くの人々が暮らす低濃度の汚染地域から,徐々に手を付けていくのが除染の正道です。高濃度汚染地域の方々には,一刻も早く避難・移住をしていただいて,新しい土地できちんとした賠償・補償を受けながら,人生の再出発ができるよう万全の(国及び自治体の)行政支援を受ける権利があります。

 

(2)中間貯蔵施設 ⇒ 費用の確保を含め国が検討

 これも除染の一環のようなもので,東京電力の法的破綻処理を前提とするのならば,やむを得ません。東京電力の救済・延命に結果するのであればダメです。それから,中間貯蔵施設は,さしあたり福島第2原発の敷地が使われるべきです。但し,次にやってくる大地震・大津波への対策は十分に念頭におかなくてはなりません。

 

(3)廃炉・汚染水 ⇒ 国がより前面に立つ

 日経記事には次のように書かれています。「(自民党の提言は)汚染水対策や廃炉では,「東電のみで乗り切らせることは困難」と指摘。東電に担当部門の分社化を促す一方,国費投入で汚染水対策を強化する考えを示した」

 

 ⇒(田中一郎)ゾンビ状態で,全社挙げて福島第1原発に取組んでも,人手不足・能力不足・責任感不足の東京電力に,福島第1原発担当部門を「分社化」させて,何が変わるというのでしょう。むしろ経営資源や人員が一層限定され,益々困難の度をひどくするだけではないでしょうか。現場の困難を知らない無能な政治家達が考えることは,この程度の「組織いじり」でしかありません。こんな分社化など無意味です。

 

 大事なことは,福島第1原発だけでなく,福島第2原発や柏崎刈羽原発,それにむつ市の中間貯蔵施設や青森県六ケ所村再処理工場を含む核燃料サイクル事業をまとめてひっくるめて,一つの「廃炉・廃止部門」とし,法的破綻処理(会社更生法)の中で,傷口を広げずに(第二次災害を回避しつつ),対応していくことです。具体的には,当面の汚染水処理対策を早急に行い,近未来に来るであろう第二の大地震・大津波に対して,汚染タンク群や壊れた原子炉施設,それに使用済み核燃料などの適切・早急な保全措置を行い,しかる後に,東京電力が保有する全原発の廃炉と核燃料サイクル事業を含む原子力事業からの撤退を行うことです。そのために国が前面に立つことに異議はありません。第二の過酷事故=放射能の大量環境放出事故をおこさないための,あらゆる対策がなされなければなりません。

 

(4)賠償 ⇒ 東京電力が最後の一人まで責任(国は東京電力へ融資する程度)

 ⇒(田中一郎)まったくふざけた話だと思います,自民党や政府・霞が関官僚達(この自民党提言は経済産業省や財務省との協議を経て出てきたと記事には書かれています)の正体が見えたというものです。東京電力や電力会社,原子力ムラや原子力推進政策は国が率先して守るけれども,最も肝心かなめの原発事故の被害者については,依然として国は「知らぬ存ぜぬ」で,ゾンビ状態の東京電力の「やりたい放題・蹴とばし放題」にゆだねておくというのです。被害者の賠償請求債権の民法上の時効延長・廃止問題等に対する立法措置についても何の言及もありません。信じがたい「人権侵害」であり,自民党の政治家達のゴロツキぶりです。こんな政治家に選挙で投票をしてはいけません。

 

4.最後に再度確認しておきます:国費を福島第1原発事故や東京電力に投入する際の5原則

 

(1)一刻も早く東京電力に法的破綻処理(会社更生法)を適用し,銀行団の自分勝手で反社会的な無担保貸出金の有担保私募社債化にストップをかけ,株主や銀行団等の大口債権者に応分の責任をとらせることが必要です。また,新旧経営者をはじめ,福島第1原発事故を引き起こした(深刻化させた)重大責任者達に,法令違反や善管注意義務違反等を理由とする損害賠償を請求することも必要です(福島第1原発事故の責任者の刑事責任とは別の,民事上の経営責任追及を管財人が行う)。

 

(2)福島第1原発に加え,福島第2原発,柏崎刈羽原発,及び核燃料サイクル事業関連など,すべての原子力部門を一括して一つの会社として分社化し,それらすべてを「廃炉」「廃止」とします。これを安全かつ早急に取組むべく,国が前面に出て,新しい体制を構築しますが,その際,重要なことは,コストをケチることではなく,①福島第1原発の二次災害を防ぐ万全の安全対策を優先,②現場作業員を大切にし,賃金や労働条件が良い身分の保障された正社員として手厚く処遇し,③廃炉ビジネスを一つの国策として,今後の全国の原発廃炉に備えた体制づくりにつなげていく,④国内外のすべての英知を結集する体制とする(原子力ムラだけの組織にしないこと),ことなどが重要です。また,並行して,被害者の完全救済への取組や,汚染地域を適切に順序立てて粘り強く除染していくことなども必要不可欠なことです。

 

(3)全ての核燃料サイクル事業から東京電力を全面撤退させます。また,3兆円近い金額となっている核燃料サイクル事業のための積立金を福島第1原発事故の後始末に優先的に充当します。核燃料サイクル事業積立金は,一般の消費者・国民に対してきちんとした説明もなく電力料金徴収時に併せて徴収され,また,領収書に徴収された旨が記載されることもありません。こうした「詐欺まがい」の行為はやめ,説明責任・領収書明記をきちんとした上で,法改正により,核燃料サイクル事業積立金ではなく,廃炉並びに使用済み核燃料対策積立金に切り替えます。そうした上で,今後積み立てられてくるお金も福島第1原発事故後の対策に優先的に使われて行くべきです。

(4)発送電分離を他電力に先行して行い,新しい電力供給体制のモデル構築を東京電力管内で実現します。その際,新たな体制構想についての議論を延々とし続けるわけにはいきませんので,会社更生法適用後は,今ある電力供給体制をさしあたりは損なわないようにして,とりあえず,①原子力部門(廃炉・廃止部門),及び福島第1原発事故後対策部門(除染・被害者救済他),②発電部門,③送配電部門,④電力小売部門,の4つに分社化し,その体制をスタートさせます,そして,走りながら,あるべき新体制を検討していくことが肝要です。ポイントは,電力の安定的な供給を維持しつつ,大電力会社の地域独占を廃止し,電力の総括原価方式をやめて適切な競争下に置き,消費者・国民が電力の発電源や電力小売会社を自由に選択できる制度を創り上げることです。また,ピーク電力平準化や熱源としての電力消費の抑制等の,電力需給調整体制の構築も必要かと思われます(注)。何はともあれ原発だけは不要です。

 

(注)東京電力の法的破綻処理(会社更生法)の推定される概略

 東京電力に会社更生法を適用した後の,破綻処理=更生スキームの概要は次のようなものが考えられます。この点については,金子勝慶應義塾大学教授の提言が非常に参考になります(2013116日付東京新聞「こちら特報部」の他,下記著作等)。

 100%原資(株主責任)

 銀行団の無担保貸出の債権放棄やデッド・エクイティスワップ他

 私募債を含む有担保社債は上記の分社化された健全会社に割り振って帰属させる

 廃炉並びに電力供給の堅実な遂行のために必要な一般債権の維持

 資産並びに分社の売却(但し,送配電部門は当面は「公社化」)

 政府による追加出資(事故処理費用の将来における国庫への返還原資)

 「廃炉・廃止」に特化する原子力部門,及び「除染・被害者救済」の事故後対策部門は,それぞれ国の100%出資会社(国の全面サポート)

 新旧経営責任者への民事上の経営責任追及(退職金返還,損害賠償提訴など)

 原発後始末のための何らかの電力料金付加金の徴求(新法制定)

 

 なお,原子力損害賠償法並びに原子力損害賠償支援機構法には,施行後1~2年をめどに,その内容を見直すという国会付帯決議があったはずですが,それが安倍晋三自民党政権成立以降,棚上げ状態にされています。福島第1原発事故後の適切な処理だけでなく,今後の原発廃炉の増加や,原発・原子力産業のこれ以上のモラルハザードや出鱈目の防止を念頭に,抜本的な法改正が望まれます。

 

(参考)岩波ブックレット『原発は火力より高い』(金子勝慶應義塾大学教授著)

http://www.e-hon.ne.jp/bec/SA/Detail?refShinCode=0100000000000032960557&Action_id=121&Sza_id=B0

 

(5)いわゆる「総力体制」を組むこと。そこでは,福島第1原発の汚染水対策や廃炉処理だけでなく,その他の原発の廃炉や核燃料サイクル事業からの撤退,使用済み核燃料の安全保管・処理,除染やその廃棄物貯蔵施設の建設,そして何よりも重要な原発事故の被害者の完全救済(賠償・補償・再建支援)などが,日本という国を挙げての取組として実施されるようにならなければなりません。また,現場作業員をはじめ,困難な仕事に立ち向かう人達が大切にされ,様々な形でその人達が「エンカレッジ」されるような組織・制度・雇用条件・職場環境などが創設されなければいけないのです。「総力体制」の下で,全ての当事者が創造的に活動できるようにすべきです。

 

 以上により,私は,今般の自民党による「福島原発事故対策提言」に対して断固として反対し,また,その非人間的・非人道的で不正儀・不公正・無責任・出鱈目な対応姿勢に対して,猛烈な憤りを感じます。ゾンビ状態の東京電力を救済・延命し,柏崎刈羽原発を含む原発・核燃料施設の再稼働をもくろみ,原発事故被害者の方々をないがしろにし,福島第1原発事故後においても原子力推進・原子力ムラの温存をねらいとした「嘘八百の方便」は,もういい加減にしてもらいたいと思っております。

 

(参 考)

岩波月刊誌『科学』(201310月号)に,元経済産業省官僚の古賀茂明氏の「電力システム改革と東京電力の破綻処理と倫理の問題」という論文が掲載されています。上記で私が申し上げた見解と非常によく似た議論がなされています,あわせてご参考として下さい。

 

(別添表)費用負担はこう変わる

民主党政権 ⇒  自民党政権 ⇒  今後の見通し

除染

2~3兆円

東電(まず国が立て替え)

「公共事業的観点から検討」

東電:計画済分請求

国:追加の除染分

中間貯蔵施設

1~2兆円

東電(まず国が立て替え)

「費用の確保を含めて国が検討」

国(電源開発促進税の活用も)

廃炉・汚染水

東電(国は50億円のみ)

「国がより一層前面に立つ」

東電

国(約1,400億円)

賠償

5~6兆円?

東電・他電力

(国は融資)

「東電が最後の一人まで責任

東電・他電力(国は融資)

2013111日付日本経済新聞)

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