放射線被曝の単位「シーベルト」はどのようにインチキなのか?
放射線被曝の評価単位「シーベルト」(Sv)はどのようにインチキなのかは,既に以前にもご説明したことのあるテーマですが,改めて簡単にコメントをしたいと思います。(詳しくは,以下の別添PDFファイル2つをご覧ください)
<別添PDFファイル>
(1)(放射線被曝の評価単位)「(増補版)シーベルト」への疑問(2012.12.10)
http://tyobotyobosiminn.cocolog-nifty.com/blog/2013/04/post-d2f2.html
(2)ICRP国内メンバーによる内部被曝論はいかなるものか(小論文「放射性物質による内部被曝について」を批判する)(2013年4月15日)
http://tyobotyobosiminn.cocolog-nifty.com/blog/2013/10/post-2747.html
(放射線被曝の評価単位)「シーベルト」は次の4つのステージでごまかしやインチキがあると思われます。「シーベルト」という被曝評価単位は,決してマスコミたちが報道しているような「(経験)科学的根拠」にもとづく堂々たる確立された概念や数値ではありません。むしろ,原子力を推進するためにでっちあげられた放射線被曝の過小評価のための小道具=「放射線安全神話」創設のためのジャーゴン(たわごと)と考えていいのではないかと思われます。
<「シーベルト」(Sv)が放射線被曝をごまかす4つのステージ>
別添PDFファイルの「(増補版)シーベルトへの疑問」を引用しながら簡単にご説明いたします。
(1)線量(グレイ)=人体が放射線のエネルギー(カロリー)をどれだけ吸収したか
・ベクレル
放射能(放射性物質が放射線を出す現象または性質)の量を表す単位。具体的には,1秒間に1個の原子核崩壊を起こす放射性物質の放射能を1ベクレルといい,記号はベクレル(Bq)で表す(旧単位は「キュリー」(Ci):1キュリー=3.7×10の10乗ベクレル)。物理的な絶対量の単位なので基本的に誤魔化しはない。放射能汚染や放射線被曝を考察し評価する場合には,さしあたりこのベクレルに依拠するのがよい。(「ベクレル」という名称は,ノーベル物理学賞を受賞したフランスの物理学者アンリ・ベクレルに因むもの)
・グレイ(吸収線量)
放射線の物質に与える影響を推定するために,放射線が物質中を通過する際に当該物質中で失ったエネルギーの量=当該物質が吸収したエネルギーの量を「グレイ」(Gy)で表す。物質1kgが1ジュール(0.239カロリー)のエネルギーを吸収する時の線量を1グレイという(1グレイ=1ジュール/kg)。(「グレイ」という名称は,ルイス・ハロルド・グレイという物理学者に因むもの)
「グレイ」という単位に着目ください。「グレイ」は「シーベルト」の基礎=土台のようなものと考えていいでしょう。
問題は,その「グレイ」が,放射線がもつエネルギー(よく一般に使われている「カロリー」等という単位であらわします)をどれだけ人体が「吸収」するか,という「エネルギー吸収量」で定義されているところに無理があります。
吸収線量「グレイ」の定義でわかるように,「シーベルト」では放射線内部被曝が「1kg当たりの吸収エネルギー」に単純化されている。かつ被曝が体全体で平均化・希薄化されてしまっている。その内容は体全身に一様均一に(一過性で)放射線を浴びる外部被曝の場合に当てはまる定義であり,これでは飲食や呼吸に伴い体内に入り特定部位に留まった放射線源からの恒常的な低線量内部被曝の実態とは,かけ離れたものとなってしまう。
恒常的な低線量内部被曝の実態とは,被曝は「体全体に一様均一に受ける」のではなく,①「局部的」に,②「集中的」に受けるのであり,また「一過性」ではなく③「継続的」であることだ。こうした恒常的な低線量内部被曝の決定的な特徴を,この「シーベルト」の定義は無視してしまっている(内部被曝の特徴が定義に反映されず,過小評価となってしまっている)。
「100Svという被曝の場合,人間は100%中枢神経死で即死する。しかしエネルギー値から評価すると,100J/kg(γ線の場合)であり,0.024度体温を上昇させるだけである。だがこの体温上昇で人間は死なないが,同じエネルギー量でも放射線では100%死亡する。何かおかしい?」(「J」とはジュールのことで熱量の単位:筆者注)
(2)「等価線量」(一般に臓器や体の部位ごとに評価します)
国際放射線防護委員会(ICRP)勧告によれば,放射線の違い(α線,β線,γ線,X線,中性子線,陽子線等)により人体への障害効果が異なっているため,その障害効果を,γ線を「1」とする相対的な指数で表した「放射線荷重係数」を使って修正する。上記の吸収線量(グレイ)にこの「放射線荷重係数」を掛けたものを「等価線量」(シーベルト)という。「放射線荷重係数」の数値は,α線が「20」,β線が「1」,中性子線が「5~20」などとなっている。(「シーベルト」という名称は、放射線防護研究者のロルフ・マキシミリアン・シーベルトに因むもの)
問題は「人体への障害効果が異なっている」という部分の定量化とも言える「放射線荷重係数」の大きさです(γ線が「1」に対して,α線が「20」,β線が「1」など)。本来ならば,ここに放射線被曝による様々な健康障害の度合いがカウントされ,その「経験科学的実証結果」に基づいて,この「放射線荷重係数」が決められなければなりません。もちろんここでの「人体への障害効果」には,ガン・白血病だけでなく,放射線被曝による様々な健康障害や病気(*),あるいは遺伝的障害も含まれ,それが大数法則的な大きな経験数値によって裏付けられてはじめて「実証数値によって裏付けられた(経験)科学的数値=係数」と言えるのです。
しかし,この「放射線荷重係数」は,そもそも広島・長崎の被曝者データに主として依拠し,かつ,ガン・白血病の死亡被害だけしかカウントしていないのです(正確にはガン・白血病で生き残った人の「被害」も若干カウントしているものと推定)。しかも,その依拠された広島・長崎の被曝者データは,戦後のアメリカの核兵器戦略の下で内部被曝がほとんど無視,あるいは矮小化されるなど,ガン・白血病のリスクだけをとってみても,明らかに「過小評価」されています。
そもそも,この「放射線荷重係数」ですが,放射線被曝の人体への影響度合いが外部被曝と内部被曝とで違っているのですから,私は外部被曝の場合と内部被曝の場合とで違う数字であってもおかしくないのではないか,と思います。いずれにせよ,これらのことは「理屈」だけでなく,実際の人体は放射線被曝によってどのように被害を受けていたのか・受けるのかという「実証結果」の大量のデータに依拠していなければ,決して(経験)科学的だなどとは言えないのです。
(そしてもし,(人体実験はできないわけですから)大数法則的な大量のデータが入手困難であるのなら,それに見合って「安全係数」と言われる「バッファ」を掛けておくということも必要です:飲食に係る有害化学物質や重金属の危険性評価の場合などでは,動物実験結果を1/100(100倍評価)にして「安全係数」としています)
日本では「科学信仰」があまりに度が過ぎていて,「科学」=「絶対的真理」=「真理の演繹的展開」=水戸黄門様の印籠,であるかのごとく認識されている様子がうかがえますが,そもそも「科学」とは「経験科学」であり「仮説と実証・検証」の半永久的ループなのであって,「実証」なきところに「科学」などは存在しないのです。原子力ムラの御用学者・インチキ学者達に私が申し上げたいのは,私のような者から,かく言われたくないのであれば,あなた方のその「理論」とやらを「実証」してみたらいかがですか,ということです。しかし,インチキですから,できはしないのです。
(*)放射線被曝による様々な健康障害や病気の「例」
放射線被曝は,放射線がもつ猛烈なエネルギー(あくまで人間の細胞レベルの分子の結合エネルギーと比べての話です)で,人間の細胞を構成しているタンパク質やDNAなどの様々な分子結合(あるいは分子そのもの)を滅茶苦茶にしてしまうだけでなく,人間の細胞が全体として持っている生命秩序・生理体系までをもボロボロに破壊するのです(例:エピジェネティクス秩序の破壊)。当然ながら,こうした放射線被曝を受けた体は,その「健康被害」(痛み・だるさ・つらさ・かゆみ・もじょもじょ感・その他の感覚)が人間の五感で感じ取られて表面化するかしないかの違いはありますが,何らかの形でおかしくなっている,と考えたほうがいいでしょう。その結果,放射線被曝から時間がたつにつれて,下記の例に挙げたような,ガン・白血病以外の様々な病気や健康障害がだんだんと現れてくることになるのです。(しかし,下記はあくまで「例」であって,That"s all ではありません)
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極度の慢性疲労・倦怠感(いわゆる「ぶらぶら病」),各種臓器不全,消化器系疾患,免疫力低下・ホルモン異常,病弱化・虚弱体質,循環器系疾患・心臓病と突然死,神経系疾患,呼吸器疾患・ぜんそく,皮膚炎,アレルギー,糖尿病,白内障,脳障害・知能低下,膀胱炎,生殖異常・遺伝病・奇形児,短寿命化(早期老化)他 (チェルノブイリ原発事故後の汚染地域では,何らかの健康障害のある子どもたちの割合が75%にも上るなど,若年齢を中心に様々な健康障害が広がっている)
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(3)「実効線量」(臓器ごとの等価線量を体全体に散らして薄めている)
下記の通り,「実効線量」や「組織荷重係数」は,決して自然科学的・(経験)科学的な数値ではありません。あくまでも「ためにする方法」で定義された「社会的」な数値です。こんなことをすれば,ガン・白血病以外の健康障害はオミットされてしまいますし,そもそも,そのガン・白血病のリスクでさえもが体全体に散らされて=体全体で平均化されてしまい,小さな小さな数値になってしまいます。科学的な体裁を施しながら,やっていることは,放射線被曝の深刻な危険性や害悪の過小評価=矮小化そのものです。
国際放射線防護委員会(ICRP)勧告によれば,放射線への感受性=影響度合いは,人間の各臓器によっても異なるため「組織荷重係数」(注2)を使って修正する。上記の臓器別「等価線量」(シーベルト)に,この「組織荷重係数」を掛けた数値を,全ての臓器・組織について足し合わせたものを(内部被曝に係る)「実効線量」(シーベルト)という。各組織ごとの「組織荷重係数」は合計すると「1」となるように決められている。全身への外部被曝の場合,体全体の「実効線量」は「等価線量」と同じ値になる。
一般に人間の被曝量とは,外部被曝も内部被曝もこの「実効線量」のことを言い,単位は「シーベルト」で表示される。内部被曝に係る実効線量と外部被曝に係る実効線量を合計すれば総被曝線量(シーベルト)となる。そもそも「シーベルト」概念や「実効線量」の概念は,外部被曝量と内部被曝量を合計する目的でつくられた様子がうかがえ,その際,内部被曝が過小評価されたと考えられる。
なお,実務的には「ベクレル」を「実効線量」(シーベルト)に換算する「実効線量換算係数(預託実効線量計数)」が,国際放射線防護委員会(ICRP)や欧州放射線リスク委員会(ECRR)によって開発されており,それを使うことで体内に入った放射性物質の量(ベクレル)から,その被曝量(シーベルト)を簡便法で推定している。
(以下,田島さんの著作を要約して引用)
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「組織荷重係数」は,確率的影響(がん・白血病)による放射線「損害」全体に対する個々の臓器・組織の寄与度(全体で「1」)を表している。そして,その(放射線)「損害」評価には,がん・白血病による死亡損害(死者数×寿命損失)に加え,死亡しなかった人の「重篤度加算」と「QOL加算」(Quality of life )という評価量が足し合わされ,全体として,その(放射線)「損害」が社会的・経済的に評価されている。
従って,「実効線量」の「実効」とは、「がんの罹患率」とか「がんの死亡数」とか「細胞あるいはDNAのダメージの指標」というような生物学的影響を表すものではなく、損害保険で取り扱うような「損害」の数量化である。こうすれば、費用と較べるための天秤にかけることができる。「実効線量」やその「集団線量」でがんの死者数を推計してはいけないというのは、低線量被曝での「不確からしさ」という理由もあるが、むしろこうした経済的な「損害」量であるからである。
(田島直樹氏(NPO個人「安禅不必須山水」)「ICRPというコンセプト」: 2012.5.20 第42回市民科学講座「ICRPは黄門さまの印籠か?」を筆者要約)⇒
NPO法人「市民科学研究室」HP を参照)
http://blogs.shiminkagaku.org/shiminkagaku/2012/05/5201icrp.html
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(4)「シーベルト」と健康障害の関係(「線量限度管理」や「実効線量換算係数」や「LNT仮説」など) :きわめつけは,これらインチキの集合体です。
a.「線量限度管理」というのは,放射線障害防止法や原子炉等規制法などによって定められている1mSv/年とか,放射線管理区域指定基準(1.3mSv/3か月)とか,様々な放射線被曝の限度管理の基準のことです(自然放射能に加えて追加的に被曝する人工放射能による被曝量)。福島第1原発事故後は,この危なっかしい「線量限度管理」の法律さえも守らずに,国際放射線防護委員会(ICRP)の勧告を超法規的に,言い換えれば,原子力ムラ支配の政府が勝手に=無法に,年率で20mSvだの,50mSvだの,100mSvだのと,バナナのたたき売りよろしく(経験科学的)根拠なきご都合主義の「線引き」=「限度管理基準」を決めて,強引にそれを日本社会に押し付けています。
しかし,1mSv/年の放射線被曝でさえ,危険な被曝線量であることを強調しておきます。少なくとも,福島第1原発事故の前には,1mSvなどという高線量汚染地帯は日本には存在していませんでした。この線量限度管理は,歴史的にみても,科学的にではなく「政治的」に決められて,国際放射線防護委員会(ICRP)が勧告を行ってきたもので,常に,核兵器開発や原子力推進(原発など)の妨げにならないような「手当」=つまりは「大きな数値による限度の設定」=「人間の放射線被曝による被害の無視・軽視・矮小化・歪曲・切り捨て」とセットになっておりました。
b.「実効線量換算係数」とは,いわゆる「ベクレル・シーベルト換算係数」のことです。科学的根拠レスです。私は,ベクレルをシーベルトに換算して,その数値が小さいから心配はいらない,などと報道しているマスコミ記事を見るたびに「ああ,また騙されているな」と,その原子力ムラ・放射線ムラへの無批判的な姿勢に首をかしげております。「シーベルト」という放射線被曝の単位は,意識的に数値が小さく出るように細工がしてある,と思っておいた方がいいと思います(但し,ガン・白血病に着目する限りでは,「シーベルト」にも一定の評価力はあります)。
c.「LNT仮説」とは,「リニア―・ノット・シュレッシュホウルド」(少し関西弁なまりですが)のことで,直訳しますと,被曝線量(シーベルト)と健康被害は,リニア―(直線で右肩上がりの比例関係)であり,しきい値がない(ノット・シュレッシュホウルド:threshold=玄関の敷居),ということです。
しきい値がない,ということは,一部のマスコミか,原子力ムラ・放射線ムラ御用人間達を除いて,ほぼ世界的に受け入れられている放射線被曝の危険性に関する認識です。それは上記で申し上げた放射線被曝の「分子レベル」での認識とも整合的で,容易に理解できることです。
しかし,「リニア―」の方はそうではありません。高線量域はともかく,恒常的な低線量内部被曝の場合に,はたして「リニア―」かどうかは怪しいところがあります。多くの科学者や論者が「上に凸」=つまり低線量域での内部被曝は,たとえば放射線被曝の「化学的有害性」や遺伝的障害の可能性などから,LNT仮説が説く以上に人体には有害で危険であると主張しています。いずれが正しいのかは。これも理屈ではなく「実証」によって示されるべきですが,これを真正面から動物実験等で論証しようとする文献を,私はまだ見たことがないのです。
以上のようなことから,私は放射線被曝の評価単位である「シーベルト」については次のように申し上げています。
・「シーベルト」は内部被曝の実態をあらわしていない
・「シーベルト」は放射線被曝による様々な健康被害を無視している
・「シーベルト」は放射線被曝の危険性を過小評価している
・「シーベルト」は原子力ムラがでっち上げたインチキの可能性あり
・「シーベルト」の値が小さいからといって安心などできない
草々
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