自民党の新農業政策(続報:耕種農業)(3)=米や畑作物の価格暴落への備えがない・まだまだ反省と検討が不足している
前略,田中一郎です。
下記は,2013年11月8日付『日刊アグリ・リサーチ』に掲載された自民党の新農業政策に関する続報記事である。先般,主食用米の生産調整廃止についてコメントしたが,この記事はそれに関する続報と見ていただいてよい。以下,簡単にコメント申し上げたい。
● 2013年11月8日付『日刊アグリ・リサーチ』(P3~4)
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<自民党が水田農業政策等改革の中間とりまとめ了承:米の直接支払交付金は三〇年産からの廃止へ>
自民党は六日、農林水産戦略調査会・農林部会・農業基本政策検討PT合同会議を開き、「米の行政による生産数量目標の配分に頼らず生産者・団体が中心となって需要に応じた生産が出来る状況の実現」(既報)、「多面的機能支払制度の創設」「米の直接支払交付金の三〇年産からの廃止」等を盛り込んだ米政策・経営所得安定対策等改革の中間とりまとめを了承した〈図参照〉。「米の直接支払交付金」については経過措置として二六年産米から現行一〇a
当たり一・五万円の単価を削減した上で、二九年産までの時限措置を行い三〇年産から廃止をするとした。主な事項の要点は以下の通り( 米政策= 生産数量目標等については既報)。
〈日本型直接支払制度(多面的機能支払))
▽地域内の農業者が共同で取り組む地域活動のコストに着目して支援を行う新たな制度を二六年度から導入する。二六年度は予算措置として実施、二七年度から法律に基づく措置として実施する。多面的機能の維持・管理となる農地、水路、農道等の基礎的保全活動など地域活動を支援する「農地維持支払(仮称)」を新設し、現行の農地・水保全管理支払を農業生産資源や農村環境の質的向上を図る活動等を支援する「資源向上支払(
仮称)」に組替え・名称変更する。また、中山間地域等直接支払、環境保全型農業直接支払は基本的枠組みを維持しつつ継続。
〈米の直接支払交付金〉
経過措置として二六年産米から単価を削減した上で、二九年産までの時限措置(三〇年産から廃止)とする。
〈米価変動補填交付金〉
平成二六年産米から廃止。収入減少影響緩和対策(ナラシ)で対応。
〈畑作物の直接支払交付金(ゲタ)〉
諸外国との生産条件格差から生ずる不利があることから引き続き実施する。生産拡大のインセンティブがつくよう、支払方法は数量払を基本とし、面積払は内金とする。対象農業者は産業政策の観点から担い手経営安定法に基づくゲタ対策の対象である認定農業者、集落営農に認定就農者を加える。いずれも規模要件は課さない。
〈米・畑作物の収入減少影響緩和対策(ナラシ)
農産物価格下落の影響が担い手の経営に及ぼす影響を緩和し、安定的な農業経営ができるよう農業者拠出に基づくセーフティネットとして、引き続き実施する。対象農業者について、畑作物の直接支払交付金(
ゲタ)と同様とし、認定農業者、集落営農に、認定就農者を加えて対象とし、いずれも規模要件は課さない。また、中期的には、全ての作目を対象とした収入保険の導入について調査・検討を進め、道筋をつける。
〈水田活用の直接支払交付金〉
二六年産から見直しを行う。具体的には
▽多収量専用品種の導入等飼料用米の単収を上げる取組へ誘導するため、飼料用米等については栽培面積に応じて支払う面払いに加え、生産数量に応じて交付金を支払う数量払いを導入するなど、非主食用米等についてインセンティブを高める、
▽そば・なたねについては全国一律での戦略作物としての助成を改め、「産地交付金(仮称)」に移行する、
▽「産地交付金(仮称)
」については、地域における作物振興の設計図となる「水田フル活用ビジョン」( 策定が交付金活用の要件)に基づく取組を推進するとともに、飼料用
米等について多収性の専用品種に取り組む場合に追加配分する仕組みの導入など、産地づくりに向けた助成の充実。
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1.(記事の見方:予備知識)
●農業政策には,大きく分けて,(1)耕種農業政策(米,麦,大豆,飼料作物,その他穀物等),(2)野菜・果樹政策,(3)畜産・酪農政策,(4)農業・農地制度,(5)農業公共土建事業,(6)農産物の安全と表示,(7)その他(例:地域特産物(甘味,北海道耕種など),有機農業,貿易政策),などがある。今回の新農業政策は,この中の(1)耕種農業政策(米,麦,大豆,飼料作物,その他穀物等)についてである。
●更に,その「耕種農業」についての政策には次のようなものがある
上記の『日刊アグリ・リサーチ』の記事にある各政策が,下記のどれかに該当している。
(1)主食用米(水田農業)に対する政策
固定払い,自民党は「何もなし」,民主党は戸別所得補償(固定払い)=固定金額の補助金
変動払い 自民党は「ナラシ」, 民主党は戸別所得補償(変動払い)⇒「ポイント1」参照
(2)畑作物(畑作農業)に対する政策
固定払い,自民党は「ゲタ」, 民主党は戸別所得補償(固定払い)=固定金額の補助金
変動払い 自民党は「ナラシ」,民主党は戸別所得補償(出来高収量払い)⇒「ポイント2」参照
(3)主食用米の転作奨励金(飼料用米や加工原料用米に切り替える場合を含む)(「ポイント3」参照)
全国一律の奨励金
「産地交付金」=各地域(都道府県単位)で何への転作にどれだけ補助するかを決めることができる(一種の一括交付金)
(4)その他補助的政策
中山間地域等直接支払制度(条件不利地支払)
農地・水保全管理支払(農地メンテナンスの共同作業への支払)
環境保全型農業直接支払(環境支払)
(5)農業共済
本来的には,気候や自然環境の変動に伴う農作物の豊作・凶作の平準化効果を政策的な狙いとするが,農業経営安定化のために,共済掛け金助成など,何らかの政策的な支援も付加される。なお,農業共済は,市場価格の変動に対する「収入保険」や「所得保険」とは性格が異なるので要注意である。農業共済の現状以上の拡充は必要不可欠であるが,他方で,農業政策を「共済制度」に集約化してしまうやり方は,WTO優先型の乱暴な単細胞型農業政策であるので肯定できない。「農業収入保険」のようなものを自民党と農林水産省が中期的スタンスで検討をする旨を表明しているので要注意である。
●農業政策ではWTOルールの「緑の政策」化「黄色の政策」かが強く意識されている
「黄色の政策」=農業生産を刺激して増産に導く政策(価格差補給金や出来高収量払いの生産補助金等)
「緑の政策」 =農業生産を刺激しないもの(環境支払,条件不利地支払,研究・開発,農地保全,農業共済等)
(上記の(1)~(5)の内,「ゲタ」や「転作奨励金」は「黄色の政策,「ナラシ」や「(4)その他」は「緑の政策」である。しかし,日本のように食料自給率が低迷している国では,自給率向上のためには「黄色の政策」を取らざるを得ず,それを否定的にとらえているWTO体制の考え方とはあい入れない。WTO体制は,簡単に言えば,輸出する側にとって都合がいいようにできている体制であり,輸入する側の国内事情や国内農業など,どうでもいい,という考え方で出来上がっている。言い換えれば,国内農業保護政策の行き過ぎで過剰生産(自給率100%を超える)を続ける欧米各国の農産物輸出に都合がいいようにルールが組み立てられている=それがWTOの農業貿易ルールだということである。
その意味でWTOの貿易ルールは「農業歪曲的ルール」である:市場原理主義にイカレタ頭の連中は,農産物を増産へ導くまっとうな農業政策を「貿易歪曲的」などと悪口を言っては,国内農業のバッシングを繰り返している。半ば頭のおかしい,売国奴のような連中である。かつてJWブッシュ米大統領は,ある演説で「食料を自給できない国の独立や防衛など,想像できるか」と話したことがある。おそらく日本や韓国のことを念頭に置いていたに違いない)
●ここ数日,一般全国紙(朝日,毎日,日経,読売),および東京の各新聞が報道している自民党の新農業政策についての記事は,その内容が間違っていたり,歪んでいたり,過剰な憶測で書いていたりしているので,あまり信用しない方がいい。餅屋は餅屋で,日本農業新聞をはじめ,農業業界紙誌の方がより正確で詳細で適切ある。(信じがたいことに,このマスごみ達は,生半可な農業や農業政策の知識と,目先のことだけにとらわれて,不正確な農業政策報道を繰り返しながらも,わが国農業を国際市場原理主義の価格競争に放り込めばいい,というような乱暴な見解を,何度も何度も紙面上で繰り返している。
曰く「日本の農業は過保護である」「農業政策がばらまきだ」「日本の農業に国際競争力をつけよ」「大規模生産者・農家に農地を集約しつつ,零細小規模経営を淘汰・廃業に追い込め」「グローバリズムは避けられない」云々である。まず,はっきり言って,余計なお世話であり,また,農業とはどういうものか,よく勉強してからものを言え,ということだ。そもそも,自分達「新聞」こそ,再販制度という「大きな保護」の下にあって,何故に,一国の基礎産業である農業の保護のバッシングなど,できる資格があるのだろうか。あらゆる「保護」が気にくわないのなら,まずは自分の「保護」を返上してからもの申せばよかろう。新聞の再販制度にせよ,国内農業にせよ,価格競争にさらして淘汰させてはならないものがあることを,このマスごみどもはどうして理解できないのだろうか。そもそもお前たち自身がそうではないか。
2.各政策について
(1)「日本型直接支払制度(多面的機能支払)」
これは,民主党の米の「民戸別所得補償(固定払い)」=固定金額の補助金(15,000円/反=60a),を変形したもので,民主党の場合には主食用米だけだったものが,自民党新農政では,それ以外のすべての田畑農業も対象にするという。自民党は民主党の戸別所得補償制度を「バラマキ」などと批判していたが,自分達がやっていることは,それを上回る究極のバラマキ=つまり田畑があれば補助金出します,である。政策の形としては,WTOの「緑の政策」になっていて,貿易交渉の足手まといにはならないが,こんな政策は,日本の農業のためには全くならない,選挙目当ての農業・農村買収交付金のようなものである。まさに,空から農村に金をバラまくようなものだ。
しかも,この「日本型直接支払制度(多面的機能支払)」 は,既にある「農地・水保全管理支払(農地メンテナンスの共同作業への支払)」と内容が同じなため,これから農林水産省の役人達が,両政策の「棲み分け」のための屁理屈を考えなければならなくなっている。ちなみに,この「農地・水保全管理支払(農地メンテナンスの共同作業への支払)」は,本来であれば,農業基盤(再)整備事業として,きちんとした予算配分の下で計画的になされなければならないものを,その予算をケチって,削って,事実上,老朽化し破損し始めている農業基盤を,田舎の高齢者達をタダ同然の時給労賃で「集落の共同作業」に駆り出し,超安上りに「施設維持・メンテナンス」のための作業をさせるための仕組みである。こんなものが「緑の政策」などと呼ばれてWTOルールの中ではもてはやされている。バカバカしいったら,ありゃしない。
(2)(ポイント1)「米価変動補填交付金」(民主)が「経営所得安定対策(ナラシ)」(自民)に変わる
「米価変動補填交付金」(民主)は,あらかじめ計算してある主食用米の平均生産費を「岩盤部分」(実際には家族労働費を8割でしか見ていないのだが)と称し,毎年毎年の主食用米の値段の変動と,その「岩盤部分」との差額分を補助金で穴埋めすることにより,生産者・農家がコスト割れにならないようにするための制度である。「岩盤部分」の金額は変えずに毎年据え置くので,コメ生産のコストは,最低限「岩盤部分」だけは保障される。主食用米の生産調整に参加していれば,誰でもこの制度に加入できる。なお,生産調整参加者には,加えて15,000円/反=60aの「固定払い」も支払われる。
一方,自民党の「経営所得安定対策(ナラシ)」は,各年の主食用米の値段と,その年直前までの何年間かの平均価格とを比較して,その差額を補助金で補てんするもの。米価が下がり続けた場合には,過去何年間かの平均価格=基準価格も下がり続け,いずれは各年の主食用米の価格と同じになってしまう。つまり,米価暴落が続く場合や,一旦暴落して回復しない場合には,生産者・農家の経営を安定させることはできなくなる。「ナラシ」とは,いわば(農産物)価格暴落の速度を遅くして,生産者・農家に痛みがゆっくりくるようにしてある一種の「モルヒネ」政策のようなものだ。また,この制度では,対象となる生産者・農家が政策的に選別されていることも問題である。
(3)(ポイント2)
畑作物については,民主党の戸別所得補償も価格下落に対しては備えがない欠陥品だった(米ほど大きな影響がなかったのは,既に畑作物は国際価格並の水準まで価格が暴落して久しく,価格変動しても,低価格が新たな低価格になるだけの話で,大勢にあまり影響がない,という悲しい事情がある)。
自民党の場合は,2009年政権交代前の「ゲタ」と「ナラシ」の政策に戻ることになる。「ゲタ」とは,生産者・農家がいくら努力しても,諸外国との生産条件格差が縮まらず,いかんともし難いので,その格差分を「ゲタ」ということで政府が補助金を支給,ということである。「ゲタをはかす」の「ゲタ」である。「ゲタ」については,補助金を全て「収量払い」にして,増産を刺激する形をとったことは少しばかりプラス評価できる(従来は収量に関係なく支払われる固定払いがあった)。しかし,自民党の場合には,この畑作物の「ゲタ」と「ナラシ」を合計したものが生産者・農家に支給されても,主食用米の収益性を大きく下回っている可能性が高いので,それでは,畑作物の生産奨励=増産はできないことになる。補助の水準をしっかりと引き上げることが必要だ。マヤ,この政策についても(規模要件は外したというが),上記(2)と同様に,対象となる生産者・農家が政策的に選別されていることが問題である。
はるか昔に,向う見ずにも,日本の畑作物はそのほとんどが関税を撤廃されて国際的な価格競争にさらされ,もはや日本国内では「裸で(政策支援なしで)作付」しても,全く採算が取れない状態にまで価格が下落してしまっている。自国の食料をよく考えずに国際市場競争にさらせば,農業はやがて消えてなくなることは,わが国の畑作物や林業のこれまでの去就ではっきりしている。零細農家を淘汰して,農地集約による大規模化でコストダウン,などという「絵に描いた餅」=「机上の空論」は,これまで実現などしたことがない。まさに,農業政策の世界の「大規模化神話」ないしは「大規模化アホダラ教」である。経験から学ばないものは,昔から「ド阿呆」と言われてきた。
(4)(ポイント3)
主食用米の転作奨励金については,飼料用米への転作奨励金アップや「産地交付金」という地域裁量の大きい制度拡充が言われている点は評価できる。しかし,畑作物への転作を中心に,まだまだ転作奨励金の水準が低いため,生産者・農家が主食用米を他の作物へと転換するインセンティブに欠けている=転作作物ではコスト割れする可能性がある(生産者・農家にとっては,慣れない作物への転換には,生産資材や農器具,種苗確保や栽培方法や土づくりへの不安や,様々な転作する上での困難や難儀が待ち構えている,それを乗り越えてもらうには,一定の政策誘導が必要不可欠である)。愚かな過去の農業自由化政策を反省しつつ,この転作奨励金を大きく引き上げないと,日本の耕種農業は先行き明るくなってこない。まだまだ検討不十分である。
わが国の国産畑作物への潜在的需要は大きく,かつ今後の日本農業発展のためにも,多様な転作作物の奨励は大事な政策である。主食用米を値段を低くして今以上に大量生産することでは,日本農業の発展には結びつかないだけでなく,食料自給率の向上にも,農村生活の拡充や日本の食生活の向上にも役に立たない。大規模経営化・低価格の主食用米や農産物をどこまでも追い求めるような愚かな政策はやめ,多様性や環境性に富む,安全で豊かな農業・農村・農産物を求めて,農業政策を切り替えるべき時が来ているのだ。
早々
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