食べものの放射能汚染(2) 韓国の日本産水産物輸入禁止・試験操業再開
前略,田中一郎です。
Ⅰ 韓国の日本産水産物の輸入禁止について
別添PDFファイル(添付できませんでした)は,先般の韓国による関東・東北8県からの水産物の全面輸入禁止と,それに関連した日本国内の動き(漁業団体,政府など)を巡る報道を集めたものです。これに関して,今回の漁業団体や日本政府の韓国に対する対応は,筋違い,かつ,まことに横柄な態度であり,およそ福島第1原発事故で迷惑をかけた隣国への対応としては,よろしからぬ姿勢ではないかと思われます。以下,簡単にコメントいたします。
*東京新聞 韓国,8県の水産物 全面禁輸国際(TOKYO Web)
http://www.tokyo-np.co.jp/article/world/news/CK2013090602000233.html
(東京電力福島第一原発の汚染水漏れ問題で、韓国政府は六日、福島など八県の水産物輸入を全面禁止すると発表した。これまでは禁止対象が計五十種類に限られていたが拡大することになる。昨年は八県から約五千トンが輸入されていた。
全面禁輸となるのは青森、岩手、宮城、福島、茨城、栃木、群馬、千葉の八県。従来の禁止対象は、福島産四十九種、宮城産九種、千葉産二種など県別で違ったが、除外されていたホタテやサバなども含めて八県産の輸入すべてを禁止する。韓国政府は「汚染水が毎日流出していることに国民の不安が非常に大きい。日本政府が提出した資料だけでは今後の状況を予測しづらいための判断」と説明した。)
*福島第1原発汚染水問題 8県水産物「禁輸解除」、韓国に要請 水産庁、安全訴え-毎日jp(毎日新聞)
http://mainichi.jp/feature/20110311/news/20130917ddm008040032000c.html
*FNNニュース 原発汚染水問題 全漁連、水産庁に韓国禁輸が解除されるよう要請
http://www.fnn-news.com/news/headlines/articles/CONN00253553.html
<別添PDFファイル:添付できませんでした>
(1)韓国輸入規制と福島沖漁業:直近の動き(水産経済 2013.9.19他)
(2)韓国禁輸に対する漁業団体の動き(水産経済 2013.9.17)
(3)水産物全面禁輸 韓国に要請(東京 2013.9.17他)
(4)韓国禁輸 正確な情報発信を 東北知事,政府に求める(東京 2013.9.11)
*(参考)福島原発「トリチウム薄め海に流す」案の危険性を専門家指摘 (NEWS ポストセブン) - Yahoo!ニュース
http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20130913-00000017-pseven-soci
*(参考)技術,国際公募へ,政府がトリチウム除去で有効策なし県内ニュース 福島民報
http://www.minpo.jp/news/detail/2013091410876
1.韓国輸入規制と福島沖漁業:直近の動き(水産経済 2013.9.19他)
まず,業界紙「日刊水産経済新聞」その他で,直近の動きを簡単に見ておく。
(水産庁:香川謙二増殖推進部長=韓国に直談判に行った日本政府の役人)
「日本側は輸入規制の撤回を強く要請したものの,具体的な対応や措置の期限を明言しなかった」「今後は専門家による協議を継続する」
「(輸入禁止とした8県以外の)その他の県においても、セシウムが微量でも検出された場合は,ストロンチウムの検査証明書を提出するよう求めている。日本側はこうした規制強化が科学的に根拠が乏しく過剰な措置であるとして直ちに撤回を申し入れた」
「協議では、原発港湾内と港湾付近の海水の放射能データや,魚種別のモニタリング調査結果,ストロンチウムの検査結果等も詳細に提供,水産物の安全管理対策や汚染水対策を説明した」
「韓国側はこれに対して,日本産水産物には放射能汚染の可能性があり,今回の臨時特別措置は正当だ,と述べた」「規制撤廃の条件を問うても「まずはデータの分析が必要」との回答にとどまり,具体的な対応や措置の期限は明言しなかった」
「一部で報じられているWTOの提訴に関しては,今回の協議はWTOの手続きで定められたものではない。現時点で提訴の方針が決定した事実はなく,今後の対応について予断を持って申し上げることは差し控る」
(地元漁協)
JFいわき市漁協,及びJF相馬双葉漁協は,ともに9月26日より「試験操業」を再開の予定。JFいわき市漁協の対象魚種は,スルメイカやメヒカリなど16魚種。JF相馬双葉漁協は,ミズダコ,ヤリイカ,シラスなど16魚種が対象。
*「試験操業」9月下旬にも再開へ 相双、いわき市漁協(福島民友ニュース)
http://www.minyu-net.com/news/news/0907/news1.html
*東京新聞福島沖の試験操業再開 相馬 20隻出港「やる気示す」福島原発事故(TOKYO Web)
http://www.tokyo-np.co.jp/article/feature/nucerror/list/CK2013092502100079.html
2.(日本政府並びに漁業団体の)態度が悪い(水産経済新聞 2013.9.17 より)
下記の新聞情報をご覧いただきたい。漁業団体も日本政府も,これが商品を販売する=買っていただく「お客さま」に対して,販売する側が言う言葉なのか,態度なのか,と思わざるを得ないような言動ぶりである。水産物の輸入を禁止したとはいえ,福島第1原発事故による海洋汚染と,その後の日本側のいい加減でずさん極まる対応措置が事態を悪化させたことで迷惑をかけている隣国であるところの韓国に対する,この横柄極まる態度や無礼千万の言動はいったい何なのだろうか。常識があるのなら,まずは韓国に対する心からの謝罪から始まるはずである。
*全漁連は李・韓国特命全権大使に対し輸入規制強化の撤回を要請 - 政治行政団体 日刊水産経済新聞
(JF全漁連:岸宏会長・長屋信博専務)
「われわれ漁業者が,国産水産物の流通について設けられた国の厳しい基準を順守し,風評被害の拡大防止に最大の努力をしているにもかかわらず,明確な科学的根拠のないままに行われた韓国政府の措置は,わが国漁業者としても極めて遺憾である」
「国は,今回のこの韓国政府の措置に対し,毅然としてわが国水産物の安全性にかかる信頼回復を図り,一刻も早く禁止措置が解除されるように取組むとともに,諸外国に対しても強力な外交努力により,風評被害対策に万全を期すよう要請する」
(田中一郎) ⇒ 上記の発言は看過できないほどによろしくない。生産者団体としては発言してはならない一線を超えているように思える。食べものの供給事業者・生産者は,その安全性については徹底して厳格でなければならない。そうでなければ,やがて消費者から見放され,買ってもらえなくなるだろう。
また,「国の厳しい基準」というのはウソだし,「風評被害」などという言葉は消費者を馬鹿にした言葉だし(消費者が汚染地産の食品を避けることには合理性がある,この言葉はそれを「馬鹿な行為」とみなしている),「毅然として信頼回復」などというのは,独りよがりの何物でもないし,「外交努力」では食の安全と信頼性の回復はできない。安全と信頼性の回復のためには,文字通り,安全を証明できるものをきちんと提供することである。
従ってまた,漁業団体の中央本部としてなすべきは,かような発言をして韓国に八つ当たりすることではなく,福島県の試験操業をやめさせ(実際,福島第1原発からの放射能流出と海洋汚染は今も続いており,その近海で獲れる水産物は潜在的に危険である),それに伴う損害を韓国への輸出の激減による損害と併せて,加害者・東京電力や事故責任者・国に対して賠償・補償させることである。(更には,汚染地域の漁業者の移転・移住と,他の地での漁業再開促進と経営再建の支援を行うことである)
(鈴木俊一農林水産副大臣)
「汚染水問題で,日本はこれまで韓国の要請に対し,ことのほか丁寧に説明し,データを開示してきた。それなのにいきなりこういう態度で水産物の輸入禁止をしてくることは大変遺憾である。しかも科学的根拠の乏しい判断なので,一日も早く撤回すべきだ」
(水産庁::香川謙二増殖推進部長)
「日本側は,こうした規制強化が科学的に根拠が乏しく過剰な措置であるとして,直ちに撤回を申し入れた」
(村井嘉浩・宮城県知事)(東京 2013.9.11)
「(韓国政府の対応を批判し)(日本の)国民感情として納得できるものではない」と語気を強めた。
(田中一郎) ⇒ この村井嘉治という政治家も,3.11福島第1原発事故のその日から,(食の)放射能汚染や放射線被曝に対しての認識や態度がよろしくない(2年半前の新聞をご覧あれ)。県知事がいつまでもかような態度を続けていると,やがて宮城県産食品が全国の消費者・国民から避けられてしまう時が来るかもしれない。生産者にとっても迷惑な話である。(厳密に調べたわけではないが,毎日発表されている厚生労働省の食品検査結果を見ていると,宮城県の農林水産物の残留放射性セシウム検査の件数が,茨城県や岩手県と比較すると,やや少ないように感じられた:これも村井嘉浩・宮城県知事の「食の安全」に対する基本姿勢が影響しているのかもしれない)
3.科学的根拠がないのは韓国ではなくて日本だ:科学が証明すべきは「危険」ではなく「安全」だ
上記で見た通り,水産庁の役人達は「韓国の輸入禁止には科学的根拠がない」と主張している(それを,わけのわからぬ政治家が「オームのものまね」をし,また,生産者団体がそれをはやしたてている)。しかし,それは全く逆の話で,科学的根拠がないのは韓国の方ではなくて日本の方である。
そもそも,食品を輸入するか否かの判断の基準は,その食品が「科学的に危険であると証明されているから輸入を禁止する」のではなく,(放射能汚染という危険である蓋然性がある中で)「科学的にその食品が安全であると証明されているから輸入を許可する」ということである。食品を輸出する側が「食の安全」の証明責任を買い手側に逆転・転嫁することは許されない。そして日本側は,輸入禁止された8県の海域で獲れる水産物の安全性を科学的に立証できているのかというと,答えはノーだ。
(1)水揚される水産物の放射能検査体制が貧弱極まりなく,そのほとんどが未検査状態で出荷されている。水産物は個別個別の個性が強くロット検査にはなじみにくい。もっと数多くの水産物を検査しなければ,汚染の実態や全容はとうてい掴みきれない。
(2)放射性セシウムだけが検査され,格段に危険な放射性ストロンチウムなど,他の放射性核種は未検査のままである。しかも,それらの核種には規制値さえなく,事実上,わずかの水産物に対して放射性セシウムだけが調べられているにすぎない。調査・検査が貧弱で規制値がないような状態で,どうして安全の「科学的根拠」があると言えるのか。
(3)厚生労働省が2012年4月から実施している水産物への残留放射能規制値の数値=100ベクレル/kgは値が大きすぎる。特に放射線感受性の高い子どもや若者にとっては,かような値の汚染物は安全などとはとても言えない。日本は外国と比べて水産物の消費が多いことも考慮されていない。
(4)海の汚染状況はほとんど調査されておらず,今後の見込みも不明のままである(原子力「寄生」委員会がまもなく着手しそうであることが報道されている)。
*汚染水データ集約 規制委、海洋調査を強化 :日本経済新聞
http://www.nikkei.com/article/DGXNASFS1303H_T10C13A9EA2000/
従って,韓国が,日本産の水産物の汚染状況を見極めるまで,輸入を禁止するのは当然のことであり,また,放射性セシウム以外の放射性ストロンチウムなどの検査を要求することも,また,当然のことである。
そもそも,水産庁のいい加減な話を政治家や漁業団体が「オームのものまね」するのではなく,(日本産水産物が安全であることの)「科学的根拠」は,本来は日本側が韓国に対して示すべきものである。海を汚し,水産物を汚し,しかも,その汚れたものを韓国に対して買ってくれ,と言っているのは日本である。売る側が,その売り物が安全であることを示すのは,当たり前のことである。
4.輸入食品の安全性をどの水準にするかは各国の主権の問題であり,各国がそれぞれに決めることである
上記で見たように,日本側がやっていることは,(似非)科学主義の名のもとに,立証責任を買い手側・輸入側に転嫁して,安全とは言えないものであっても買って食え,と韓国に対して強要をしているということである。しかも,食品の放射能と,それを食べることによる放射線内部被曝については,ここまでなら「安全」という閾値は存在しない。従って,どの程度の水準で「我慢するか」を決めるのは,それは輸入するそれぞれの国の「国家主権」事項であって,輸出する側が,似非科学や屁理屈で,それをねじ伏せるような話ではない。韓国に輸入を拒否をされたら,それは致し方のないことである。
5.この日本側の韓国に対する傲慢な態度こそが,TPPやWTOなどの国際市場原理主義の正体である。
実は,今回のこの日本側の韓国への傲慢な態度こそが,TPPやWTOにおける貿易のやり方や「食の安全」の確保の「ルール」そのものである。簡単に言えば,国際間で非常に低いレベルで,さしたる「科学的根拠」もなく,取引される商品の安全性に関して「規制値」や「禁止事項」「遵守事項」などを決めておき,それを超えたら(超えるような厳しい措置をとる場合には),輸入規制措置をする側・輸入を拒否する側がその根拠を科学的に示せ,という,「証明責任の逆転」が巧みに「ルール化」されているのである。食べ物は売る側が安全であることを立証しなければならない,立証できなければ買わない(輸入しない)自由がある,こんなことは当たり前のことだが,それがWTOやTPPなどの国際市場原理主義の下ではひっくり返されて,買う側・輸入する側が「危険であること」を科学的に立証させられる仕組みになっている。
国際市場原理主義にとっては,「食の安全性」などは国際取引の「非関税障壁」そのものであって,百害あって一利なし,WTOやTPPなどの国際協定,あるいはコーデックス委員会などの国際機関で決めた以上のことは,国際取引の邪魔だから一切認めるな,というのが本音である。つまり,企業が儲けるためには,毒まみれだろうが,危なかろうが,文句を言わずに買って食え,というのが,国際市場原理主義の考え方だということである。(実際,途上国など,世界の多くの国では,食の安全性や危険性についての分析や調査や立証をする体制は存在していない)
そして,上記で申し上げたように,守られるべきとされる「食の安全」に関する国際間ルールは,各国の食の事情その他を無視して,供給する多国籍大企業や食糧輸出国などの利益を損ねないように,非常に低い水準で決められている。それがいやだったら,危険であるということを,いやなお前が証明しろ,これが「ルール」である。しかし,冗談ではない,食べものの安全性は,売る側・供給する側が証明しなければならないものである。何が国際ルールなのか!! こんなものは「インチキ科学主義」にすぎないのだ。
6.水産庁は,福島・宮城・茨城の各県沿岸・沖合で獲れる水産物の汚染状況と安全管理について消費者・国民に説明せよ
上記で見たように,水産庁の香川謙二増殖推進部長は次のように語っているという(水産経済 2013.9.19)。「協議では、原発港湾内と港湾付近の海水の放射能データや,魚種別のモニタリング調査結果,ストロンチウムの検査結果等も詳細に提供,水産物の安全管理対策や汚染水対策を説明した」
何故,輸出先の韓国にはこのように説明して,日本の消費者・国民にはきちんと説明しないのか。つまらぬ「安全・安心キャンペーン」などをやっているヒマがあったら,水産物の安全性について,肝心なことを消費者・国民に対してきちんと説明せよ。
7.政府・水産庁,県知事,漁業団体らの発言の矛先は,実は韓国ではなくて日本の消費者・国民だ
さて,最後にもう一つ,この一連の関係者の言動についてポイントを指摘しておきたい。それは,輸入禁止の「科学的根拠」がない,毅然とやれ,日本は「食の安全」に対して厳しい対応をしているのに韓国の態度は何だ,云々は,実は,韓国に対しては,というよりも,そもそも国際的には通用する話ではなく,関係者たちはそれを重々承知の上で,実は日本国内の消費者・国民に向かって,「韓国の今回の輸入禁止措置はとても変で極端なことだから,惑わされないでください,我々は頑張っていますから,引き続き8県沖で獲れる水産物を買って下さい」と言っているのである。
彼らのやりたいこと,やろうとしたことは,日本の消費者・国民に「(韓国に)右にならえ」をしてもらいたくない,という,その一点に尽きると言ってもいいかもしれない。だから,少なくとも日本国内では,なりふり構わず韓国を悪者にして,その衝撃的な輸入禁止措置=汚染海域からの水産物を当面は一切買わない,が国内に波及しないよう予防線を張っていると考えていいだろう。まさに,この日本側関係組織の態度の悪さと強引さは国内向けの(安全・安心)パフォーマンスなのだ。
この問題に関する正解はただ一つ,放射能汚染物は買ってはいけない,食べてはいけない,である。少なくとも,福島・宮城・茨城の三県の沿岸・沖合で獲れる水産物は潜在的に危険である。特に水産物は,放射性セシウムだけに注目していても,安全性などおぼつかない。日本の今の食品の貧弱な検査体制では,この危険性を排除することは到底できないし,政治も行政も,水産食品流通業者も,そして場合によっては漁業者も,食の安全に対して無責任である。
安心できない時は買わない方が無難である。無用の放射線内部被曝は避けなければならない。恒常的な低線量内部被曝を続けることは非常に危険なことである。悲しいかな,東日本の太平洋で獲れる水産物は,もはや安全とは言えなくなってしまっているのである。怒りは韓国に向けるのではなく,東京電力や原子力産業や御用学者をはじめとする原子力ムラと,その代理店政府に対して向けられるべきである。
Ⅱ 福島県の漁業団体が試験操業を再開
福島県の2つの漁協と所属する漁業者が,福島県沖合での試験操業を再開いたしました。下記はそれに関することです。
<ご紹介する新聞・雑誌記事等:添付できませんでした>
(1)福島の2漁協,試験操業再開(東京 2013,9,25他)
http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/news/CK2013092402000234.html
http://www.tokyo-np.co.jp/s/article/2013092501000842.html
(2)海の魚,放射能は今(朝日 2013.9.25)
http://www.asahi.com/shimen/articles/TKY201309240622.html
(3)「魚」は本当に安全なのか(『アエラ 2013.9.30)』
(4)福島後をどう生きるか(藤田祐幸 『世界 2013.10』)
<関連サイト>
*全漁連ホームページ/週間ニュース/JF全漁連情報:「鈴木外務副大臣へ水産物禁輸措置解除を要請」他
http://www.zengyoren.or.jp/news/news.html
*JF福島漁連ホームページ
http://www.jf-net.ne.jp/fsgyoren/
*河北新報 内外のニュース/福島・相馬の漁協、試験操業再開 タコやイカ、26日から店頭へ
http://www.kahoku.co.jp/news/2013/09/2013092501001872.htm
*試験操業 いわき市漁協、来月3日 相馬双葉はきょう再開 (河北新報) - Yahoo!ニュース
1.福島県の漁業者は,試験操業を中止し,万全の賠償・補償と,移転・移住・漁業経営再建,並びに生活再建のための政策支援実現へ向け,多くの消費者・国民と協力して政府を動かしましょう
既にマスコミ報道されておりますが,福島第1原発からの放射能汚染水の海への流出が続く中,福島県の2漁協が福島第1原発沖合の海域での試験操業の再開を決め,うち相馬双葉漁協の漁業者が9月26日に出漁したようです(一方,いわき市漁協の漁業者は10/3出漁を予定:河北新報)。しかし,この行為は,海と海産物への放射能汚染の危険性を軽視しており,およそ食べものを生産・出荷・取扱う者として「やってはいけない」一線を踏み越えた,消費者・国民の信頼に背を向ける行為だと言えるでしょう。漁業者の方々の苦境・窮状については痛いほどよく分かりますが,それでも放射能汚染の危険性の高い海産物は漁獲・出荷などしてはいけないのです。
水産物流通は食品流通の中でも産地偽装などの表示偽装の多いのが実態であり,場合によっては,この福島県沖の海産物についても,産地表示が偽装されて流通する可能性があります(売れ残った場合などに,第三者に転売されて流通していくと,産地偽装等の可能性が高くなる)。また,何度も申し上げていることですが,獲れた海産物については放射性セシウムのみが検査されているだけで,放射性ストロンチウムをはじめ,懸念されるその他の放射性物質の検査はなされておりません。かような危険な水産物は食用とするわけにはいかないのです。そもそも漁業をしてはいけません。漁業者自身も漁業労働に伴う被曝の可能性があります(外部被曝よりも漁をしている間の呼吸被曝が心配です)。
消費者・国民の自己防衛としては,福島県産のみならず,福島県の2漁協が水揚して出荷してくる16種の魚種について,当分の間は産地如何にかかわらず買わない・食べない,の我慢をする方法があります(産地偽装表示に対する防衛)。特に外食や加工食品は,汚染魚が買いたたかれて原材料として使われやすい環境にありますので要注意だと言えるでしょう(例えば,安い居酒屋の魚介類)。
それから,これも何度も申し上げてきましたが,被害を受け続けている漁業者への賠償・補償や,移転・移住と,その新天地での漁業経営や生活の再建支援について,万全の政策的対応がなされなければならないことは言うまでもありません。そもそも生産者・漁業者や消費者・国民を,ともに福島第1原発事故による放射能汚染の被害に曝して,その償いをきちんとしようとしない加害者・東京電力や事故責任者・国にこそ,諸悪の根源があることを,再度強調しておきます。
2.海を汚染させる放射能の原発からの流出の3つの経路
以下の3つは,福島第1原発から海への放射能汚染水流出が表面化した今年7月から始まった話ではなく,2011年3月の福島第1原発事故以来,ずっと続いている,おぞましい巨大な海洋の放射能汚染・環境破壊なのです。
しかし,マスコミ達は,海や海産物の放射能汚染の深刻さや危険性について,非常に軽率かつ愚かな報道を続けており,それはまるで原子力ムラ代理店業務の一環であるかのごとき様相です。下記の3つに関して申し上げれば,(3)が失念されている様子がうかがえます。しかし,それは大きな認識不足です。以下,岩波月刊誌『世界』(2013.10)に掲載されました藤田祐幸氏の論文から関連箇所を引用しておきます。
● 福島第1原発からの汚染水の海への3つの流出ルート
(1)原発敷地と海が接する海岸壁の海水面下の壁面から,放射能汚染地下水が海へ滲み出ていく
(2)タンクから漏れた超高濃度汚染水や,地面に落ちた雨水が敷地内の放射能を含み込んで,あるいは原発港湾内から取り込まれた海水が,原発の排水路などを経由してストレートに港湾外の海へ流れ込む
(3)汚染された地下水が,原発沖合の海底まで地下水脈を経由して流れ出て行き,そこで泉のように湧水する(海底の湧水)
●「福島後をどう生きるか(藤田祐幸 『世界 2013.10』)」より
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「私は三十年ほど昔の体験を思い出していた。当時、石垣島の白保という小さな集落の地先の珊瑚礁を埋め立てて空港を建設するという話が進んでいた。私は何度か現場に赴き、地元の漁師や沖縄の研究者たちと日夜を問わず語り尽くした。そこで学んだことは、珊瑚礁のあの豊穣の海の源は、島を覆う熱帯雨林に降り注いだ雨水が、地下水として海中に湧出し、そごに海草が繁茂し、豊かな生態系を支えているということであった。この海岸線に空港のような巨大土木工事がなされれば、地下水脈が遮断され、美しい珊瑚礁が壊滅するととが懸念された。ウミンチユたちの生活をかけた抵抗の結果、この地区での空港建設は断念され、新石垣空港は別の場所に建設された。」
「今も白保の美しい豊穣の海は守られている。当時、私は三浦半島の先端部に暮らしていた。沖縄の海で学んだことが、本土の海にも存在するのかを確かめるため、春の大潮の干潮の時、半島先端部の岩礁地帯を歩いてみた。すると、干上がった岩場のあちこちに,こんもりと海草が茂っている場所があることに気づいた。その海草の根元をかき分けると、岩の割れ目から水が湧いていて、なめてみるとそれは真水であった。森に降り注いだ雨水は、森の豊かな土壌の栄養分を溶かし込んで、地下にしみ込み、地下水となって流れ下り、海中の岩の割れ目から湧出し、そごに海草が繁茂し、魚たちはこの藻場に産卵し、稚魚たちは藻に守られながら成長していくことが、どこでも確かめることができた。江戸時代から沿岸の森林が「魚付き林」として保護されてきたのには意味があったのだ。昔の人たちは「自然の摂理」をわきまえていた。」
「わずか一キロにも満たない福島第1原発の敷地から、毎日三百トンもの地下水が湧き出していることが、はしなくも原発事故により明らかになった。三陸から福島の浜通りに至る豊かな海は、背後に連なる山岳地帯から流れ込む栄養分に支えられていたのだ。」
「海の豊かな命の連鎖を根幹で支える栄養分を運び続けてきた地下水が、本来厳重に環境から隔離しなければならない原子炉に流れ込み、おびただしい放射能(核分裂生成物)に接触し、その放射能を海に流し続けてきた。事故発生直後から二年半に及ぶ現在までそれは続いてきた。」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・(以上,引用終わり)
(参考)韓国の新聞報道(日本産海産物の輸入禁止)
最後に,日本ではあまり報じられない韓国のマスメディアのこの問題に関する報道を見ておくことにいたします。下記のネット上で検索してご覧下さい。
(1)2012-9-21 日本 "セシウム基準以下" 主張するが…他の放射性物質さらに危険
http://japan.hani.co.kr/arti/politics/15644.html
(水産物輸入禁止’抗議は自己矛盾,食品医薬品安全処 "自国民の安全のための措置,国際法・国内法上 規制妥当)
(2)2013-8-1 "日本産食品輸入中断を"
http://japan.hani.co.kr/arti/politics/15301.html
(市民団体、政府に対策要求)
(3)2013-9-01 ”国民の97% "日本産輸入食品放射能汚染に安全とは言えない"
http://japan.hani.co.kr/arti/politics/15517.html
(93% "政府の日本産輸入食品対策は適切でない)
(4)2013-9-15 日本 放射能‘居直り ?
http://japan.hani.co.kr/arti/politics/15620.html
(日本 水産庁幹部 16日食薬処訪問,‘8県水産物 輸入禁止’抗議 予定,"返答を受けられなければWTOに提訴",中国は10県輸入禁止中)
(5)2013-9-17 日本政府、韓国が甘く見えるか ?
http://japan.hani.co.kr/arti/politics/15633.html
(水産物輸入禁止国家中、唯一韓国にのみ強く反発,チョン・ハナ議員、49ヶ国対象調査…"政府が顔色を伺うため)
(6)「韓国水産相「日本は非道徳的」 対応を猛批判」(2013年9月30日 共同通信)
http://sankei.jp.msn.com/world/news/130930/kor13093019510002-n1.htm
*(参考)大韓民国が日本の魚介類を輸入禁止にする理由 茨城沖の魚介類 - YouTube
http://www.youtube.com/watch?v=7omEo6p5RIY&feature=youtu.be
*韓国大使、汚染水の共同調査提案 規制撤回は拒否 - 47NEWS(よんななニュース)
http://www.47news.jp/CN/201310/CN2013100101002663.html
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
【ソウル共同】東京電力福島第1原発の汚染水漏れを理由に韓国が日本の水産物の輸入規制を強化した問題で、李丙ギ駐日韓国大使は1日、東京の韓国大使館を訪れて規制撤回を求めた全国漁業協同組合連合会(全漁連)の岸宏会長らに対し、汚染水漏れの状況や水産物の汚染状況を日韓が共同で調査することを提案した。同大使館の説明として聯合ニュースが伝えた。
全漁連側が求めた福島県など8県の水産物に関する輸入規制の撤回については、汚染水問題への韓国国民の懸念が強まり、水産物の消費減少が深刻になったための避けられない措置だとして、応じられないとの考えを示したという。(共同通信)
・・・・・・・・・・・・・・・・(以上,引用終わり)
Ⅲ NHK―ETV特集「海の放射能に立ち向かった日本人:ビキニ事件と俊鶻丸」
NHK教育TVのETV特集で,久しぶりに素晴らしいドキュメンタリーが放送されました。2013年9月28日(土)午後10時からの「海の放射能に立ち向かった日本人~ビキニ事件と俊鶻丸(しゅんこつまる)~」です。
1954年3月のビキニ水爆実験と,第五福竜丸をはじめ,多くの日本のカツオマグロ漁船が放射線被曝させられた直後の同年5月,気象研究所の三宅泰雄氏他,日本の若き科学者達が俊鶻丸(しゅんこつまる)という調査船に乗り,放射線被曝や米軍による内密の撃沈の危険性を覚悟の上で,海と海産物の放射能汚染の実態調査に命がけで乗り出し,すぐれた報告書をまとめました。私は今の今までこの話を知らないままでしたので,まことに自分の無知を恥じずにはおれません。
ところで,そこには,1950年代の半ばにおいて,早くも,核実験に伴う海の放射能汚染の広がりや,魚(この場合はマグロを中心に,その餌となる海洋生物)の放射能汚染の状況が明らかにされていたのでした。マグロの放射能汚染は,その部位や内臓によって大きく汚染の状況が違っていた他,いわゆる食物連鎖によって,プランクトンの汚染がだんだんとマグロに至るにつれて濃縮・滞留して高くなっていくことも明らかにされました。
また,三宅泰雄氏は,その後日本において原発が増えて行く中で海洋の放射能汚染の可能性を危惧し,多くの分野の専門家や科学者が総合的に放射能汚染の実態とその影響を研究・実証できる「環境放射能研究所」の設立を提言されていました。
私は,当時の少なくない科学者や研究者達が,科学という営みにおいて真実を真摯に求め,核兵器や放射能汚染に対して断固として立ち向かう気概と誇りを持った,立派な人間の集団であったことを,このフィルムは証しているのだと強く感じます。そしてそれは,今日のように,科学も科学者も,大資本を含む支配権力に完全包摂され,恥ずかしくもみすぼらしくも,完璧なニセモノ=似非科学と化してしまった時代とは決定的に違うのだな,ということを,同時に残念に思う次第です。
番組の最後の方で,福島第1原発沖合で海や海産物の汚染状況を調べる岡野真治氏は,今と昔の汚染調査の違いに言及し,「今と昔を比べると,各分野の科学者・研究者が協力して,継続的かつ本格的・総合的に海洋汚染を調査をする組織や体制が今はない,つくれていないという点が大きく違う」と指摘されていました。海洋環境の放射能汚染と食品の放射能汚染について,やる気さえあればできる総合的で本格的な調査研究体制が,福島第1原発事故後,いつまでたっても創られる様子はありません。この事態を,自らの恥であると受け止めている科学者は,いかほど,この日本に存在しているのでしょう。
それどころか,水産庁を筆頭に,多くの似非科学者達は,魚は放射性セシウムを体内にため込まないだの,福島第1原発沖を含む日本の太平洋近海の海産物は心配無用・危険性はない,などと,ろくすっぽ海産物検査をしなければ,海洋汚染の調査もしないで,日々「安全・安心キャンペーン」の無内容の宣伝PRを繰り返しているのです。例えば俊鶻丸が当時やったような,マグロなど大型の魚の内臓や部位の違いによる放射能汚染の状態の違い,あるいは放射性核種による汚染状況の違い,あるいは食物連鎖の状況などなど,調べるべきことは山のようにあるはずですが,およそ科学者と名刺に書かれている人間達が,これについて多くを語ることは,まずありません。
こうした日本と科学の危機の中で,大学や研究所において御用学をいそしむ腐った自称「科学者」たちに,私は「恥を知れ」と申し上げたい。ビキニ事件後に俊鶻丸(しゅんこつまる)が残した偉業は,逆に,福島第1原発事故後の今の日本のあまりのみじめさと,悲しさと,情けなさを浮き彫りにしているような気がしてならないのです。
*NHK【ETV特集】海の放射能に立ち向かった日本人 ~ビキニ事件と俊鶻丸~ 2013年9-28(土)夜11時、再放送:2013年10-5(土)午前0時45分(金曜深夜)
http://www.nhk.or.jp/etv21c/file/2013/0928.html
(以下,上記サイトから引用)
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
1954年3月1日、アメリカが太平洋ビキニ環礁で行った水爆実験で、日本のマグロはえ縄漁船・第五福竜丸が被ばくしました。被害は水産物にも及び、日本各地の港では放射性物質に汚染されたマグロが相次いで水揚げされます。しかし、核実験を行ったアメリカは、放射性物質は海水で薄まるためすぐに無害になる、と主張しました。
このとき、日本独自に海の放射能汚染の実態を解明しようという一大プロジェクトが始動します。水産庁が呼びかけて、海洋や大気、放射線の分野で活躍する第一線の専門家が結集、「顧問団」と呼ばれる科学者たちのチームが作られました。そして水爆実験から2か月後、顧問団が選んだ若き科学者22人を乗せた調査船・俊鶻丸がビキニの実験場に向けて出発します。2か月に渡る調査の結果、海の放射能汚染はそう簡単には薄まらないこと、放射性物質が食物連鎖を通じてマグロの体内に蓄積されることが世界で初めて明らかになりました。
俊鶻丸「顧問団」の中心的な存在だった気象研究所の三宅泰雄さんは、その後も大気や海洋の放射能汚染の調査・研究を続けます。原子力発電所が次々と作られていく中で、三宅さんをはじめとする科学者たちは、大きな原発事故にも対応できる環境放射能の横断的な研究体制を作るべきだと声を上げます。しかし、それは実現しないまま、2011年3月11日福島第一原発の事故により、再び放射性物質で海が汚染されました。
ビキニ事件当時、日本の科学者たちが行った調査から、今私たちは何を学ぶことができるのでしょうか。俊鶻丸に乗り込んだ科学者の証言や、調査を記録した映像などから描きます。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(以上,引用終わり)
<参考サイト>
*岩波新書(青版)『死の灰と闘う科学者』三宅泰雄/著 http://www.e-hon.ne.jp/bec/SA/Detail?refShinCode=0100000000000000694191&Action_id=121&Sza_id=E1
*NHK【ETV特集】海の放射能に立ち向かった日本人 ~ビキニ事件と俊鶻丸~:ロボット人間の散歩道:So-netブログ
http://robotic-person.blog.so-net.ne.jp/2013-09-29
(別添は厚生労働省がHPに毎日発表している食品の残留放射性セシウム検査の結果です。福島・茨城・宮城3県の水産物を中心に若干をピックアップいたしました)
以 上
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