ICRP国内メンバーによる内部被曝論はいかなるものか
前略,田中一郎です。
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前略,田中一郎です。
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前略,田中一郎です。
下記は大山敏郎(おそらく医師か医学者)という人が書いた,人体内への微量の放射性セシウムの蓄積の危険性=放射性セシウム心筋症(心疾患による突然死の原因)のメカニズム等を解説するものです。この中で,大山氏は飲食による放射性セシウムの体内取り込みと,その体内蓄積を懸念し,主食のコメは10ベクレル/kg以下を死守すること,を提言しています(本音は,10ベクレルどころか,もっともっと少なく,とも書いています)。また,御用学者などから放射性セシウムの危険性を誤魔化すために持ち出されるカリウム40と放射性セシウムとの,人体内での違いなども論じられているようです。
原子力ムラ御用学者やその代理店政府の口車に乗り,厚生労働省が定める,いい加減で危険な飲食物への残留放射性セシウムの規制値さえ守っておれば(あるいはその規制値の1/2に自主規制すれば)「安全で安心だ」などと,軽率極まりないことをしていると,近い将来,とんでもない事態に陥ってしまう可能性があることを暗示していると言えるでしょう。とにかく,放射線被曝(特に恒常的な低線量内部被曝)を甘く見るなということです。ご一読されることをお勧めいたします。
ちなみに,科学者でもない私は,放射性セシウムとカリウム40の違いについては,後者(カリウム40)が分子のレベルに近いくらいの超微小=ミクロのミクロの大きさで,生物の体の中にまんべんなく全体的に広がって存在し(分布し),特定の部位や臓器に集中することも偏ることもなく,出たり入ったりを繰り返しているのに対し,放射性セシウムの方は,他の放射性物質とともに,ある程度の固まり(団子状態)になって体内をうろつき,一部は大山氏の言うようなイオン状態にまで微小化するものもあれば,そうではなく,団子のままで体内のどこかにとどまったりしているものもあったりと,その挙動がバラバラではないか,と想像しています。そして,放射性セシウムは,一定程度,特定臓器にその分布が偏る傾向もあるのではないかと思います(例:心臓,甲状腺)。
いずれにせよ,カリウム40の方は,放射線を出しているので,全く安全とは言えないまでも,その健康への影響は無視できるくらいに小さいものだと思われますが(だからこそ,大昔からカリウム40が存在していても,人類を含む生物は生存を続けてきた),放射性セシウムの方は,人体を含む生物体内での挙動や,その健康への影響,あるいは遺伝的障害度合いについて,経験科学的(実証科学的)に,ほとんど何も分かっていないのが現状です。従ってまた,自然放射能のカリウムを持ちだして放射性セシウムと単純比較をし,両者は同じだとか,量はカリウム40の方が多いからカリウムの方がより危険だとか,根拠の乏しい非科学的な屁理屈は相手にしないことだと思います。
この放射性セシウムとカリウム40の話に限らず,およそ原子力ムラが説明するところの内部被曝論は,DNAの損傷程度のことしか念頭にない,1960年頃のレベルの生物学的知識水準にあります。それから約50年,生物学,特に分子生物学や細胞生理学などはめまぐるしい進歩・発展を遂げており,原子力ムラが主導する放射線生物学や放射線被曝学は,そうした生物学の発展について行けない,素人だましの似非科学に転落していることも付記しておきます。
くれぐれも,新聞や雑誌などのもっともらしい,放射線被曝心配いらない似非理論に惑わされないように,注意いたしましょう。原子力ムラのこの放射線被曝研究の致命的な遅れは,彼らの頭が悪いからそうなったのではなく,原子力推進のためには放射線被曝の実態が明らかになっては困るので,終始一貫して,放射線被曝(特に内部被曝)の科学的・実証的研究を,政治の力で押しつぶし排除してきた結果です。その意味で,彼らは,頭が悪いのではなく,逆に頭が(短視眼的にですが)良かったということです(言い換えれば,悪知恵が良く働いたということです)。
*大山敏郎著(2012年1月4日)
早々
<追:おまけです>
*2013.10.13 No Nukes Day 国会正門前ファミリーエリア (脱原発)釣竿隊さんのスピーチ - YouTube
http://www.youtube.com/watch?v=4U2SRpe7WE0&feature=youtu.be
(短いVTRです)
今般,福島第1原発の(再)視察に訪れたIAEAの専門家チームが,「東京電力(福島第1原発)放射能放出事件」後の除染に関する暫定版の報告書をまとめたようです(子の人達はいったい何の「専門家」なのでしょうね?)。
(1)福島第1原発 除染目標「1ミリシーベルトこだわらず」 IAEA、政府に提言
(産経新聞) - Yahoo!ニュース
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20131022-00000107-san-soci
(2)除染「1ミリシーベルトこだわらず」 IAEA調査団
(福島民報) - Yahoo!ニュース
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20131022-00000001-fminpo-l07
国際原子力マフィア=IAEAのチーム団長(レンティッホIAEA核燃料サイクル・廃棄物技術部長)は,「1mSvにこだわらず」とか「1mSvは必ずしも達成する必要はない」とか,ろくでもないことを,(放射線被曝への批判力ゼロの)「マスごみ」の前で話しているようです。それはまるで,「子ども被災者支援法」で1mSv以上の地域を対象地域にしてしてほしいという放射能汚染地域の大半の被害者の願いを踏みにじるかのごとき言動です。(おそらくは,それを「箔付け」「合理化」するためにやってきたのでしょう)
日本経済新聞記事によれば,IAEAの除染に関する8項目の助言とは次のようなことです。
●原子力規制委員会が積極的に関与して評価すべき
●年間の追加被曝線量が1ミリシーベルトという政府目標は,除染だけで短期間で達成は不可能。利益とリスクを住民に詳しく説明すべき
●環境回復と復興などとの関係を住民に伝えるべき
●個人が携帯する線量計の積極活用
●安全な食品生産と環境回復手段の最適化
●住宅周辺などの森林の環境回復の最適化の継続
●淡水や海洋環境のモニタリングの継続
●汚染物管理施設の安全性の実証と独立した評価をすべき
KEYワードは,まず「最適化」です。簡単に言えば,(被曝者・被害者救済のために)金のかかることはしない=原子力推進に最適な状態にする=「住民の命や健康よりも,原子力ムラや代理店政府・自治体の金の方が大事」ということです。
もう一つのキーワードは「個人携帯の線量計」です。除染しても空間線量は容易には下がらず,除染の効果もほとんど無きに等しいので,これからは,空間線量管理ではなく,(高い空間線量下で居住する住民の)個人(外部被曝)線量管理でやっていく,ということです。恒常的な低線量内部被曝を無視し,様々な理由から,被曝量が低く出やすい個人線量計で,個別に個人個人を線量管理し,その数字を見て「安心」してもらう,という算段のようです。放射線被曝のなまなましい実態とはちがう「ニセモノ被曝量」を住民に見てもらって,安心して被曝してもらおう,ということのようです。
さて,こうしたことの狙いは次の4つであると思われます。
(1)「東京電力(福島第1原発)放射能放出事件」による放射能汚染と放射線被曝(とりわけ恒常的な低線量内部被曝・外部被曝)の人間の健康や環境に及ぼす未来永劫に近い悪影響を極端にまで過小評価すること。福島第1原発過酷事故後における(「原子力安全神話」に代えて)「放射線安全神話」を確立し,「原発・核燃料施設との共存」から,「原発・核燃料施設過酷事故との共存」に切り替えること
(2)その結果,除染にしても,放射線被曝回避にしても,避難や疎開にしても,出来る限り安上がりに,金のかからないようコストを抑えて適当に終えてしまうこと(「子ども・被災者支援法」や,その基本方針などは見直さない),また,被害者への賠償・補償も,屁理屈をつけて可能な限り極小化して踏み倒すこと
(3)他方で,原子力の効用や核燃料サイクルの「必要性」を嘘八百を並べ立てて宣伝し,これまで通りに,コストを抑えた安定した原子力推進の軌道を回復させること(そのためにも,「東京電力(福島第1原発)放射能放出事件」について,深刻な影響があると厳しく評価をする人達を,非科学的であると貶めること)
(4)日本の深刻な「東京電力(福島第1原発)放射能放出事件」が,海外の原子力推進・原発新増設の妨げとならないよう,徹底した思想統制と,被曝管理政治と,嘘八百で塗りあげた「原発(似非)科学」を大宣伝すること
そもそも国際原子力機関(IAEA)とは,国際原子力マフィア達が巣食う原子力推進の総本山のようなところです。そんな組織を,全ての県内原発を撤去し脱原発を誓う,という福島県(庁)が,何ゆえにその視察や調査を受入れるのでしょうか。「東京電力(福島第1原発)放射能放出事件」の深刻な影響が全く解消されそうにない中で,未だにこの反県民的な県庁は「二枚舌」を使っているという他ありません。
今回の国際原子力機関(IAEA)の再びの福島第1原発視察は,政府と福島県とIAEAとの「闇談合」による「仕組まれた茶番劇」以外の何物でもなく,また,国際的な原子力マフィア・原子力ムラ連合による,我々脱原発・脱被曝を願う一般有権者・国民に対する「最終戦争」の「宣戦布告」だと考えた方がいいでしょう。彼らは,チェルノブイリ原発事故後の旧ソ連諸国で行った被害と被曝のもみ消し・矮小化を,断固として,この日本でも貫徹する決意で,日本を訪れているのです。歴史は繰り返す,一度目は悲劇として,二度目は「茶番」として,・・・・まさにこの通りです。
私のひとりごと:「負けられません,勝つまでは」
国際原子力マフィア・原子力ムラとの「最終戦争」に妥協などはなく,彼らを社会的に完全に葬り去るまでは,彼らはゾンビのごとく何度でも「原子力推進」(=放射線被曝押し付け)の「悪魔の杖」を持ち,我々を襲ってくるでしょう。また,それに敗北することは,我々の子々孫々までもを含む放射線被曝「死」=滅亡を意味するのです。
<追:参考情報>
(1)10-22 CNIC-Ustream 国際原子力ロビーとエートスプロジェクトの実相 原子力資料情報室(CNIC) http://www.cnic.jp/5411
(放射線被曝生活への自主的参加を促す「悪魔の施策:エートスPJ」についての話です。講師は来日中のコリン・コバヤシさんです)
(2)大山敏郎ブログ(2012.1.4):放射性セシウムによる内部被曝について
(ある方にご紹介していただきました)
(3)図解 よくわかる非常用炉心冷却系(ECCS)
http://tokyo80.com/energy/P4.html
(「東京電力(福島第1原発)放射能放出事件」の原因究明の際に,地震の揺れで破損したかもしれない「非常用炉心冷却系(ECCS)」についての簡単な解説です。「○○系」がいろいろあるのでややこしいですが,これを見ますと,アバウトでぱっとわかります)
前略,田中一郎です。
<別添PDFファイル:添付できませんでした>
(1)秘密保護法案決定へ
知る権利・取材の自由「配慮」努力規定どまり(2013年10月18日付東京新聞)
http://www.tokyo-np.co.jp/article/politics/news/CK2013101702000244.html
(2)スパイぬれぎぬ 宮沢・レーン事件(2013年10月14日付東京新聞)
http://ameblo.jp/heiwabokenosanbutsu/entry-11637001765.html
(3)特定秘密保護 この法案には反対だ(2013年10月21日付毎日新聞)
http://mainichi.jp/opinion/news/20131021k0000m070104000c.html
(4)防衛秘密 公開ゼロ
省判断,廃棄3万件(2013年10月14日付毎日新聞)
http://blog.goo.ne.jp/harumi-s_2005/e/3519d089b2febccc54b71ed249bf3ae3
別添PDFファイルの2つは,このほど安倍晋三・自民党政権が国会に提出しようとしている秘密保護法(案)に関する東京新聞記事です。ご承知の通り,この法案に慎重な姿勢を示していた公明党ですが,懸念された通りというか,案の定というか,政府・自民党に対して,抽象的な「取材の自由」や「知る権利」に対する「尊重」・「配慮」・「努力」の規定を盛り込ませただけで,あっさりと妥協をしてしまいました。
行政府が誰のチェックを受けることもなく自己都合で勝手に決めた「特定秘密」を,国会議員がチェックすることも,アクセスすることもできない,それどころか,場合によっては,特定秘密情報に接触した国会議員にまで罰則をかけるような法律です。これでは憲法が定める三権分立が守れるはずもありません。公明党は,よくもかような法律に妥協をして合意したものです(同党の母体である創価学会の創始者達は,戦前の治安維持法によって弾圧され牢獄の身となった歴史があります。にもかかわらず,同党の,この現代版治安維持法とも言うべき法律に対する警戒心のなさはいかがなものでしょうか。公明党は,目先の政治的駆け引きに没頭するあまり,政党としての,政治主体としての,本来の目標や理想を忘却してしまったのではないのでしょうか)。
しかし,東京新聞の記事にもある通り,こんな抽象規定を入れただけでは,この法律の危険な本質は何も変わりません。このままこの法案が国会に提出され,多数議席で押し切られて可決成立した場合,日本の民主主義は「政府のご都合による秘密まみれ」となり,根底から瓦解していくことになるでしょう。何故なら,民主主義とは,政府や時の支配権力による政治や政策等の(プロセスを含む)詳細について,広く情報公開の上に有権者・国民がその決定に参加し,様々な観点からの批判や検討や要望・要請などが加えられることによって成立が可能となる,きわめてナーバスで慎重でフレクシブルなシステムだからです。およそ秘密主義の上での民主主義などはありえません。
また,この法律は,単に情報を発信する側の政府役人や政治家らを「厳罰で縛る」(最高で懲役10年)のみならず,支配権力が「特定秘密情報」を取り扱う役人を,その各々の個人情報や思想・信条にまで立ち入って「人間の品定め」を行う(支配権力に都合のいい人間だけを抽出する)という「思想・信条並びに挙動調査」までもが予定され,更には,政府の情報にアクセスせんとする我々一般の有権者・国民をも「特定有害行為」として「秘密漏えいほう助」の罪に問い,徹底して時の支配権力=政府に都合の悪い情報から有権者・国民を遠ざけんとする悪法です。
安全保障や防衛がらみの情報を常日頃アメリカから入手しているため,そのアメリカから「こうしろ」=「厳罰付きの秘密保護法で情報を隠せ」と言われたからと言って,かくも無批判に,かくも拙速に無検討に,その多大なる害悪や弊害をも是正する措置もなく法律制定に走るとは,情けないにもほどがあるというものです。
別添PDFファイルの東京新聞記事「秘密保護法案決定へ
知る権利・取材の自由「配慮」努力規定どまり(2013年10月18日付東京新聞)」には,公明党の修正を経てもなお,この法律の本質が如何に変わっていないかが適切に解説されています。是非,ご一読ください。
しかし,問題はこの記事に書かれていることだけではありません。いやむしろ,それ以上に重要なことは,私が上記で申し上げた「政府の情報にアクセスせんとする我々一般の有権者・国民をも「特定有害行為」として「秘密漏えいほう助」の罪に問い,徹底して時の支配権力=政府に都合の悪い情報を有権者・国民から遠ざけんとする悪法」という点です。
日本の大手マスコミは,読売を除けば,日本経済新聞まで含めて,今回の秘密保護法に反対をしていますが,その反対の根拠は,もっぱら取材活動への悪影響を理由にしているものが多いように見受けられます(「知る権利」の侵害も,このマスコミ取材の不自由化の延長上にあるような印象です)。しかし,この法律の根本問題は,単にマスコミやジャーナリストらの取材を妨げることだけにあるのではなく,我々一般の有権者・国民をも,特定秘密情報へのアクセスを厳罰をもって追い払う点にもあるのです。この点を決して軽視してはなりません。
下記のネット上の記事をご覧ください。
*FmA [自由メディア]
http://www.freemedia.co.jp/Thema/t_5.html
(上から3つ目の記事です)
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「2013年2月13日 「Stop!秘密保全法共同行動」院内集会 [76:49]
現在、政府が制定をもくろんでいる秘密保全法は、「特別秘密」として秘匿することができる情報の分野が「国の安全」にとどまらず、「外交」さらには「公共の安全と秩序の維持」までと極めて広範にわたります。私たちの生活を左右するTPP問題、原発問題といった情報までもが国民の目から秘匿され、いっそうの悪政が強行されようとしています。
その上、重罰規定(最高刑懲役10年)が準備され、「漏洩」はもとより「特別秘密」へアクセスすることも処罰の対象とされます。「共謀」(情報取得の相談)「教唆」(そそのかし)「扇動」まで独立した犯罪とされ、報道機関の取材活動や一般市民の広範な活動が犯罪とされます。加えて、「適正評価制度」という制度を導入し、「特別秘匿」を取り扱うことになる当事者、さらにはその家族、親戚、恋人、友人など周辺の人々までプライバシーを丸裸にして管理しようとしています。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
(引用終わり)
「共謀」(情報取得の相談)
政府などが,どうも隠しごとをしている様子なので,どうしたら政府の担当省庁に情報を公開させられか,友人らと相談をしたら,「お前達は共謀だ」と言われて監獄へぶち込まれる。
「教唆」(そそのかし)
政府の当該情報の担当省庁に知人が在籍しているので,その知人に「その情報を教えてもらえないものか」と声をかけたところ,それが警察に漏れて「そそのかし」たとばかりに,監獄へぶち込まれる。
「扇動」(煽りたてる)
市民団体主催の集会やセミナーで,「○○に関する情報が政府によって秘密にされ,不適切な政治や行政がまかり通っているようなので,みんなで情報公開を働きかけましょう」と発言したところ,覆面私服刑事が突然立ち上がり,「扇動罪」と叫ばれて逮捕され,監獄にぶち込まれる。
お分かりでしょうか?
まるで,戦前の天皇制軍国主義時代の特高警察(思想警察)が支配していた時代の「暗黒体制」そのものです。法律の運用は,警察や司法権力にゆだねられてしまいますから,あの「自白強要」や「証拠改ざん」を得意中の得意とする警察や検察によって,この法律は「やりたい放題」の弾圧法として機能し始めることになるに違いありません(*)。時の支配権力や政府は,自分達の都合の悪い情報にアクセスしてくる有権者・国民を,「不逞の輩」(吉田茂元総理大臣)などと(陰に隠れて)馬鹿にし,この秘密保護法を盾にして徹底して排除することが可能となるでしょう。
(*)そもそも警察や検察で「自白強要」や「証拠改ざん」が常態化している異常を抜本的に反省し,悔い改めるべく発足した法務省主催の「捜査のあり方検討」審議会が,検討の結果出してきたのが,「盗聴法」の強化であり,「のぞき見法」(秘密検閲・情報無断収集の合法化」であったというのは,驚きを超えて,あきれるばかりです。こういう連中が警察や司法を牛耳っているのが今の日本です。どっちがスパイなのか,と言いたくなります(警察・検察を「日本最大の暴力団」と厳しく批判する人もいます)。
しかも,アクセスしてくる有権者・国民を全員逮捕する必要はありません。時の支配権力が,自分達にとって最も「手ごわそうな」,言い換えれば,鋭く批判的な人士を数名逮捕して「見せしめ」にしておけば,その「萎縮効果」は十分に働き,情報にアクセスしてくる有権者・国民はほとんどいなくなり,また,情報を提供しようとする役人や政治家も,逮捕を恐れていなくなってしまうでしょう。
こうなれば,時の支配権力や政府を牛耳るものにとっては笑いが止まらないでしょう。もう,どんな出鱈目や不正をやっても,それを「特定秘密」にするだけで徹底して隠し通し,しらを切り通し,嘘八百で言い逃れをし,それで何のとがめも問題も発生しなくなるのですから。
原子力ムラの連中が,今,やっていること,やってきたことを思い出して下さい。秘密保護法がない,今でさえ,あんな調子で,嘘八百・隠蔽・歪曲・出鱈目を,毎日のように繰り返して平然としているのです。多くの批判など,どこ吹く風の「馬耳東風」=つまり,何度も言うように,彼らは「ウマ」のたぐいなのです。それが,今般のような秘密保護法ができたらどうなりますか? 考えただけでも,ぞっとします。
繰り返します。「政府の情報にアクセスせんとする我々一般の有権者・国民をも「特定有害行為」として「秘密漏えいほう助」の罪に問い,徹底して時の支配権力=政府に都合の悪い情報を有権者・国民から遠ざけんとする悪法」こそが秘密保護法であり,その内容は,まさに「現代版治安維持法」に他なりません。
過去の「治安維持法」体制下での「情報統制」の一例は,別添PDFファイルの(2)の東京新聞記事「スパイぬれぎぬ 宮沢・レーン事件(2013年10月14日付東京新聞)」です。ご覧になっておかれるといいと思います。このまま法案が成立すれば,再び第二の「宮沢・レーン事件」が起きること必定です。そして,若くて優秀だった宮沢さんが,その後どうなったかも見ておいてください。
そしてそして,今から25年ほど前に,同じく自民党から国会に提出された,似たような法案「スパイ防止法」では,最高刑が「懲役10年」ではなく「死刑」だったことを忘れてはなりません。この法律=特定秘密保護法は,まるで消費税が3%からはじまって,やがて30%となっていくように,懲役10年からはじまって,やがて「死刑」へとエスカレートしていく運命にあります。絶対に許してはならない法律なのです。
あなたは政府の情報にアクセスして,監獄にほうり込まれたいですか? いや近い将来,死刑になりたいですか?
早々
前略,田中一郎です。
去る2013年10月17日(木)に「ダイオキシン・環境ホルモン対策国民会議」主催の院内集会(参議院議員会館B103)「化学物質の有害影響を最小化する2020年目標は本当に達成できるか? 担当省庁に聞く(2020年はオリンピックだけじゃない)」が開催されました。以下,簡単にご報告いたします。
<別添PDFファイル:一部添付できませんでした>
(1)院内集会案内(化学物質2020年目標)(2013年10月17日:ダイオキシン・環境ホルモン対策国民会議)「syuukai_annnai.pdf」をダウンロード
(2)SAICMに係る国内外の動向について(環境省:2013年10月17日)「saicm_kankyousyou.pdf」をダウンロード
(3)化学物質審査規制法(化審法)における優先評価化学物質のリスク評価について(2013年10月:厚生労働省,経済産業省,環境省)
<ダイオキシン・環境ホルモン対策国民会議HP>
http://kokumin-kaigi.org/?p=1722
(まもなく,ここに別添PDFファイルがアップされる可能性があります)
集会案内の記載にもありますが,化学物質管理に関する2020年目標は,2002年のヨハネスブルグ・サミットで決議され,続く2006年のSAICM(サイカム:国際的な化学物質管理のための戦略的アプローチ)の世界行動計画が進められる中で,日本も昨年国内実施計画を策定しています。今回は,この化学物質管理の見直しの現状を,担当する霞が関各省から説明を受ける形で,質疑応答を交えて開催されました。
集会では,上記の資料を使いながら,まず,環境省から,SAICM(サイカム:国際的な化学物質管理のための戦略的アプローチ)をめぐる動きに関して,国際動向や国内での対応についての説明がありました。次に,経済産業省から,化学物質審査規制法(化審法)における化学物質のリスク評価の現状と課題について説明がありました。それらの内容は,概ね別添PDFファイルの資料に書かれている通りです。
1.まず,化学部室の管理の仕組みについて,ネット情報から若干のことを下記にご紹介しておきます。
(1)化学物質審査規制法(化審法)
簡単に言えば,化学物質が安全かどうかを審査する「入口規制」の法律です。
「(目的)
第一条 この法律は、人の健康を損なうおそれ又は動植物の生息若しくは生育に支障を及ぼすおそれがある化学物質による環境の汚染を防止するため、新規の化学物質の製造又は輸入に際し事前にその化学物質の性状に関して審査する制度を設けるとともに、その有する性状等に応じ、化学物質の製造、輸入、使用等について必要な規制を行うことを目的とする。」
なお,この法律は2009年に改正され,新規に開発された化学物質のみならず,既存の全ての化学物質についても,一定量以上に製造・輸入されるものについて,優先度を付けながらですが,管理が導入されました。
経済産業省:改正化審法について(2010年4月)
http://www.meti.go.jp/policy/chemical_management/kasinhou/h21kaisei/setumeishiryou-1.pdf
(参考:経済産業省の化審法HP)http://www.meti.go.jp/policy/chemical_management/kasinhou/about.html
(参考:環境省の化審法HP)
http://www.env.go.jp/chemi/kagaku/
(2)化学物質排出把握管理促進法(化管法)
簡単に言えば,化学物質の環境排出や移動を管理し,環境を保全するための法律です(出口規制)。
「(目的)
第一条 この法律は、環境の保全に係る化学物質の管理に関する国際的協調の動向に配慮しつつ、化学物質に関する科学的知見及び化学物質の製造、使用その他の取扱いに関する状況を踏まえ、事業者及び国民の理解の下に、特定の化学物質の環境への排出量等の把握に関する措置並びに事業者による特定の化学物質の性状及び取扱いに関する情報の提供に関する措置等を講ずることにより、事業者による化学物質の自主的な管理の改善を促進し、環境の保全上の支障を未然に防止することを目的とする。」
経済産業省:化学物質排出把握管理促進法:化学物質管理課
http://www.meti.go.jp/policy/chemical_management/law/
この法律の柱は下記の2つです。
●PRTR制度
PRTR制度とは、人の健康や生態系に有害なおそれのある化学物質について、事業所からの環境(大気、水、土壌)への排出量及び廃棄物に含まれての事業所外
への移動量を、事業者が自ら把握し国に対して届け出るとともに、国は届出データや推計に基づき、排出量・移動量を集計し、公表する制度です。平成13年4月から実施されています。
●(M)SDS制度
SDS制度とは、事業者による化学物質の適切な管理の改善を促進するため、化管法で指定された「化学物質又はそれを含有する製品」(以下、「化学品」)を他の事業者に譲渡又は提供する際に、SDS(安全データシート)により、その化学品の特性及び取扱いに関する情報を事前に提供することを義務づけるとともに、ラベルによる表示に努めていただく制度です。取引先の事業者からSDSの提供を受けることにより、事業者は自らが使用する化学品について必要な情報を入手し、化学品の適切な管理に役立てることをねらいとしています。
(参考:PRTRインフォメーション広場 PRTRとは 化管法の内容)
http://www.env.go.jp/chemi/prtr/about/about-6.html
(参考:環境省「化学物質政策における化管法)
(3)REACH(リーチ)規制:EU
「欧州(EU)では欧州の新しい化学品規制(REACH規則:Registration, Evaluation, Authorisation and Restriction of Chemicals)が2008年6月1日から運用が開始されました。本規則では、EUで物質(調剤中の物質も該当)を年間1トン以上製造又は輸入する事業者に対し、登録手続が義務付けられました(部品や最終製品でも、匂い付き消しゴムの匂い成分など意図的に放出される物質が含まれる場合は登録が必要)。」
*経済産業省「国際協調と調和の促進 REACH(欧州化学品規制)について」
http://www.meti.go.jp/policy/chemical_management/int/reach.html
注:既にEUへの輸出や現地生産など,EUでの化学物質を使ったビジネスを展開する日本の企業群は,EU当局へ使用する化学物質の安全性を含む特性等のレポートを提出しています,しかし,そのレポートを日本の霞が関の化学物質管理担当各省は現段階では入手をしていないようです(入手した方がいいという問題意識はあるようです)。また,各省は,縦割り状態の行政で化学物質管理を実施している様子がうかがわれ,情報の集約や意思決定の整合性などは,各担当役人の個人裁量にゆだねられている様子もうかがえました。まことにおかしな話ではないかと思います。
2.化学物質管理の重要性
化学物質管理の重要性については,高度経済成長期に水俣病やイタイイタイ病などの深刻な公害被害や,農薬あるいは食品添加物などの化学物質による健康被害,あるいは環境破壊を経験してきた日本では,改めてご説明するまでもないでしょう。毎年,毎年,多品種大量の様々な化学物質が国内で製造され,あるいは海外から大量に輸入され,消費されています。これにともない,ここ20年くらいの間に,従来ではあまり見られなかった新たな健康被害や環境破壊が現れるようになってきています,その広がりと深さ・深刻さは看過できないまでに至っているのです(別添PDFファイルの環境省資料の最後の空白に,私が化学物質によるどのようなネガティブな現象が顕在化しているか,思いつくものを列記しておきました,ご参照ください)。
しかし,日本の化学物質管理のあり方はまことにお粗末な限りで,数の限られた明らかに毒性のある物質を若干数だけ「アリバイ的に管理」(やってまっせの見世物管理)しているだけで,あとは基本的には「野放し」ないしは「手抜き管理」状態を続け,被害が出ていることが明らかになってきても,なかなかその管理や利用制限には踏み出さないのが現状です(例:ネオニコチノイド系農薬,塩化ビニル等の塩素使用化学物質,プラスチック,PM2.5と排ガス,アスベスト,ナノテクノロジー,環境ホルモン等)
また,危険な化学物質に指定されても,その管理状況がいい加減で甘いために,意図せずして環境に大量放出してしまう例まで出ている始末です(東日本大震災時に,関東から東北地方の沿岸部に保管されていたPCB・ダイオキシン類が,津波に飲み込まれて大量に海に流出してしまったようです)。今般,国際条約が結ばれて管理が厳格化していく水銀についても,このままだと,ずさんな水銀管理が新たな悲劇を生まないとも限らない状態です(事実,水俣湾に今から数十年前に「暫定方式」だとして埋め立てられた湾内の有害な水銀化合物が,埋め立て後の長い年月を経て,再び海中ににじみ出てきそうになってきている,と伝えられています。水俣の水銀についても危機が迫ってきているのです)。
更には,こうしたずさんで手抜きの化学物質管理の結果,様々な形で健康被害を受ける人達が出ているのですが,その被害者に対する救済さえもが何年もの歳月を経ても一向に進まない=救済されない状態が続いています(例:水俣病,カネミ油症被害者,アスベスト被害者等)。まさに,化学物質のずさん管理・手抜き管理の日本は,他方で,化学物質被害者を切り捨てる「棄民王国」でもあるのです。
こうしたおかしな社会的状況の背後には,化学工業をはじめとする化学物質生産・利用に携わる産業界・財界の意向や利害が色濃く反映されており(産業優先=消費者・国民後回し),それが1970年頃の「公害裁判」「公害国会」を経て何十年もたった今日でも克服されることなく今日に至っているのです。この状況は,原子力ムラによる原子力産業界や放射能管理・放射線被曝管理の世界と非常によく似ておりますし,「ムラ」と呼ばれる特権的で,政治に癒着をし,消費者・国民に嘘八百と隠蔽工作で化学物質をやりたい放題している社会集団が形成されています(農薬ムラ,化学肥料ムラ,ナノテクムラ,バイオムラ,プラスチックムラ,エンビムラ,食品添加物=食品産業ムラ等)。
しかし,もう,化学物質のいい加減でずさんな管理は限界に来ています,EUでは2008年から「REACH規制」という厳しい化学物質管理の制度が導入されました。また,それに先駆けてRoHS規制(特定有害物質使用制限)という重金属等の規制も導入されています。また,EU以外の諸外国でも化学物質の管理規制は年々厳しさを増してきております。これまで事実上「やりたい放題化学物質」だった日本も,しぶしぶ海外の動きに引きづられ,化学物質管理の法規制を形だけでも作らなければならない情勢になってきていると言えるでしょう。
*RoHS規制(特定有害物質使用制限)指令の概要:EU - 日本からの輸出に関する相手国の制度など - 貿易・投資相談Q&A - EU - 欧州 - 国・地域別情報 - ジェトロ
http://www.jetro.go.jp/world/europe/eu/qa/01/04J-100602
しかし,しかしです。同じく環境省の別添PDFファイルの最後の空欄に書いた私のメモ書きをご覧いただきたいのですが,おそよ日本の化学物質管理の現状は,すさまじいばかりに出鱈目,いい加減,不十分,非民主的である可能性が高いようです(私も詳しくありません:そもそも化学物質管理の現状と問題点に関する一般市民・国民向けの解説書が未だ1冊も存在しないというお粗末状況が続いております:岩波書店などは何をしているのかと思います=ひとえに危機意識の乏しさと私は考えています)。
メモ書きには,たとえば「利益相反排除」「情報公開」「汚染者負担原則」「評価と管理の体制」「被害者救済と対策」「濃度規制と総量規制」などなど,山のような諸問題が,手もつけられずに放置され,問題化すらしないように世論誘導・情報歪曲隠ぺいがなされ,制度や仕組みが歪められているであろうことが推測されるのです。日本は,こと化学物質に関する限り,産業界の「やりたい放題天国」の様相が見てとれます。
たとえば,ミツバチにあれだけの被害を与えているネオニコチノイド系農薬に対する規制が,(海外では日本の百倍以上の厳しい濃度規制・使用規制が入れられている上に,更に使用禁止措置までが導入され始めているというのに)未だ日本では導入される気配も,規制改善される気配もなく,住友化学に代表される農薬ムラ企業が,「ネオニコチノイド系農薬は心配ない」などと居直り,その代理人的な下っ端役人を務める霞が関の「南町奉行所」=農林水産省は,ネオニコチノイド系農薬の規制は必要ない,と開き直っているのですから。それはまるで,少なくとも,いま農薬メーカーの倉庫にあるネオニコチノイド系農薬の製品や原材料の在庫が全部なくなるまでは,このままでいこう,と示し合わせているようにも思えてきます。
みなさま,どうぞ,化学物質の管理について,関心と監視を高めていただければと思います。化学物質の管理は,今後ドラスティックに厳格化しなければ,大変なことになってきそうな勢いです。思いつく人間の健康障害だけでも,花粉症,シックハウス,アトピー性皮膚炎・ぜんそく(アレルギー),ADHD/LD等(発達障害・多動性障害など),化学物質過敏症,環境ホルモンによる生殖不能,食品添加物による発がん・慢性被害,薬害,農薬被害,などがあげられます。
そして,こうした化学物質のずさんな管理から発生したであろう健康障害が,「東京電力(福島第1原発)放射能放出事件」によって環境に放出された様々な放射性物質との「相乗効果」によって,被害を一層深刻なものとしていく可能性も伝えられています。更に忘れてはいけないことは,化学物質や放射性物質の害悪は,人間だけでなく,環境=生態系を形づくる,ありとあらゆる生物(微生物を含む)に悪影響を与えているのです(環境破壊では,たとえば酸性雨などというものもあります。森林がメチャクチャになってしまうのです)。持続可能な世界をつくるためには,化学物質の適正な管理と使用制限は避けては通れないことなのです。
今般,経済産業省から説明を受けた資料の内容についても,山のように問題点・疑問点があります(たとえば,経済産業省が数年前から入れている「生産・輸入数量が少なければ管理は甘くていい仕組み」などは,大問題である,あるいは,生物を使わない化学物質の毒性試験なども,その有効性に大きな疑問がある,等々)。今回は詳述いたしませんが,今後,このメールを契機に,化学物質管理と,それをウォッチし続ける市民団体「ダイオキシン・環境ホルモン対策国民会議」の取組にご注目いただきますよう,お願い申し上げます。
早々
前略,田中一郎です。
昨日(2013.10.18)の全国紙朝刊各紙に,民主党が国や電力会社が出資して廃炉を専門的に担う認可法人「廃炉機構(仮称)」を新設する組織改革案をまとめたという記事が掲載されました。今から約2年半前の3.11「東京電力(福島第1原発)放射能放出事件」以降,政権の座にありながら,この「事件」への適切な対応も,被害者の被曝回避や被害からの救済も,事故後処理も,何もまともにできなかった(ロクなことをしなかった)「口先やるやる詐欺」の無能政党=民主党が,またぞろ,東京電力ならびに関係する政府機関その他の責任を棚上げにした,「東京電力救済優先スキーム」を考案して,党の方針としたようです。(下記,毎日新聞記事参照) あんたたちは,もう政治の場には出てこなくていいのよ,ほんとに,と申し上げたいですね。以下,簡単にコメント申し上げます。
*民主党「廃炉専門機構」新設案 国や電力会社が出資-
毎日jp(毎日新聞)
http://mainichi.jp/select/news/20131018k0000m010094000c.html
(上記から引用)
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民主党は17日、原発の廃炉を円滑に進めるため、国や電力会社が出資して廃炉を専門的に担う認可法人「廃炉機構(仮称)」を新設する組織改革案をまとめた。東京電力福島第1原発の廃炉作業に当たる東電に加え研究機関からも人材と技術を集め、国費を投入して国の責任を明確化する。細野豪志元原発事故担当相の私案をもとに党福島第1原発対策本部で検討していたもので、同日の会議で大筋で了承された。今後法案化し、臨時国会での提出を目指す。
廃炉機構は、東電や日本原子力発電などの電力会社や日本原子力研究開発機構(JAEA)などから人材を結集。廃炉や汚染水対策のノウハウを蓄積し、国内外の原発廃炉に対応する。福島第1原発1〜4号機の廃炉の費用は東電が負担し、各電力会社が原発廃炉のために積み立てている引当金を機構に移転する。国と東電の出資割合や廃炉部門分離後の東電の経営形態は引き続き検討する。
一方、福島第1原発の遮水壁設置の経緯を巡り、当時の馬淵澄夫首相補佐官と東電の主張が食い違っている問題について、大畠章宏幹事長は17日の記者会見で「両者の主張は平行線でしかない」と述べ、同本部が近く公表する調査結果に双方の主張を併記する見通しを示した。【光田宗義】
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(以上,引用終わり)
こんな「モラルハザード」(無責任)を「認可」する特殊法人ができてしまえば,加害者・東京電力は「東京電力(福島第1原発)放射能放出事件」の後始末という重責から解放され,一気に「らくちん」状態となり,再び傲慢な原子力ムラ路線を突進し始めることになるでしょう。おそらくは,自社の経営維持と収支の改善を最優先し,被害者に対する賠償・補償や除染などの対策,あるいは汚染水問題を後回し,あるいは棚上げにして,全社を挙げて柏崎刈羽原発の再稼働に突き進んで行くに違いありません。原子力ムラ委員会の原子力「寄生」委員会も,これを契機に「体制が変わった」と従来の慎重スタンスを翻し,再稼働審査パスへの道を大手を振って突き進むことになると思われます。
また,過酷事故後の電力会社に対する「処分」の方法として,かような政府による「無責任蔓延型の丸抱え方式」を採用することは,現状の電力会社における原発(安全)管理の「モラルハザード」を,益々より一層ひどくし,再びの過酷事故につながっていく許しがたい愚策であると言えるでしょう。
いわば,この福島第1原発だけを切りだして「廃炉機構」を新設するなどというプランは,東京電力と原子力ムラ・原子力産業救済のためのものでしかなく,全く話にならない「出鱈目追認」と「無責任の体系」としての原子力推進を復活させる「悪だくみ」以外の何物でもないのです。だからこそ,自民党の塩崎恭久政調会長代理らが,(自身の選挙区の愛媛県の危険極まりない伊方原発の再稼働を止めることもできぬままに),この民主党案と同様の東京電力・福島第1原発廃炉部門の分離独立と,政府による丸抱えを提唱しているのです。
*福島第1を東電から分社化、「機構」創設を提案-自民・塩崎氏 - Bloomberg
http://www.bloomberg.co.jp/news/123-MU8ECQ6TTDS001.html
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では,当事者能力を喪失している東京電力に,このまま放射能汚染水処理を含め,福島第1原発の事故後処理と廃炉を委ねておいていいのか,と言えば,決してそうではありません。この問題に対する「あるべき体制づくり」は,たとえば下記のようなものでなくてはならないと思われます。ポイントは,「事故責任の明確化」と「再発防止」,そして「脱原発」と「福島第1原発処理と廃炉作業の適正化」です。
(1)東京電力を法的整理にかけ,会社を分割しつつ,福島第1原発事故後処理に対する「挙国」的で責任と実効性のある取組体制を構築するとともに,来るべき適正な電力供給体制と脱原発のスキームを構築すること
(2)具体的には,まず,東京電力に会社更生法を適用し法的整理プロセスを開始する。つまり古い東京電力は解体する。東京電力の既存の株主や金融機関等の大口債権者には応分の負担(減資や債権放棄)をさせ,併せて東京電力幹部の経営責任・これまでの対応に対する刑事責任等を追及する(刑事告発等の法的な対応や処分を含む)。
(3)茂木敏充経済産業相や安倍晋三首相が「東京電力を法的に処理すると,一般担保付社債権が被害者の賠償請求債権よりも優先され,賠償・補償に支障が出るとか,除染や廃炉プロセスに支障が出る」などと説明していることは,全くの嘘八百である。東京電力を会社更生法適用としても,東京電力の現場機能はそのまま継続され,また,賠償・補償や除染などに係る費用の大半の原資は政府が負担しているので,事実上,変わるところはなく,また,一般担保付社債権も,分社化した東京電力の健全部門の負債とすることで,なんらトラブルなく償還をすることができ,被害者の賠償・補償に支障が出ることもありません。
むしろ現状のように,東京電力をゾンビ状態で活かしながら,借り換え時機到来の都度,金融機関の無担保債権を一般担保付私募債に切り替えていく方が,大口債権者に東京電力の現有資産を支配させるようなもので,被害者の賠償・補償を危うくするものと言えるでしょう。茂木敏充や安倍晋三の嘘八百は,そもそも大口の株主や大口の債権者である金融機関に損をさせないための「方便」,あるいは「時間かせぎ」(金融機関の無担保債権を有担保債権に変えるための時間かせぎ)と見ておいて間違いありません。
(4)次に,東京電力を,まず発送電部門と発電部門に分離します。更に,発電部門を,「スクラップ・撤退部門」である原発・核燃料施設部門と,それ以外の「健全発電部門」に分離します。そして,原発・核燃料施設部門には,福島第1原発のみならず,福島第2原発や柏崎刈羽原発と,むつ市の使用済み核燃料中間貯蔵施設や核燃料サイクル関連の関連会社等を含めます。すべての原子力部門をスクラップし,そこから撤退させる必要があるのです。
(5)原発・核燃料施設に属する施設や関連会社については「全面撤退」=廃炉を,使用済み核燃料の処理処分も含めて,国策として遂行していきます。福島第1原発の廃炉だけを行うのではなく,東京電力という会社の原子力部門すべてを廃止していくのです。もちろん柏崎刈羽原発の再稼働申請などは撤回です。ここでの費用は,東京電力の廃炉積立金はもちろん,核燃料サイクル関連の兆円単位の積立金や,毎年政府が予算計上している原子力関連の予算(原発・核燃料施設地元対策費を含む)などが,この「廃炉」「撤退」に優先して使用されることになります。
(6)上記の「廃炉・撤退」部門の人材を貴重な国家的人材として位置づけ,担当する方々が,現場作業員まで含めてエンカレッジされる体制を創り上げます。当然ながら,正職員としての雇用や身分の保障,被曝回避のための体制づくりや医療体制等のアフターフォローなど,万全の人事管理体制で臨む必要があります。現状のような,原発・核燃料施設現場における暴力団がらみの多重下請け構造などは法律で禁止すべきです。
また,最高の英知が,この廃炉・スクラップ部門に結集できるような仕組みや,取組が変な方向にとん挫してしまわないための監視システムなどなど,これらの取組の適正化のための仕組みづくりが求められます。
(7)一方,健全部門の送配電部門や原子力関連以外の発電部門は,それぞれ分社化し,前者は「公社」として,今後,電力供給自由化の中核的な組織として,そのあり方を検討します,後者については,複数に分社化して,その自由化競争のあり方を「電力小売り」のあり方と併せて検討します,上記で申し上げた一般担保付社債は,この健全部門の負債として割り付け継承することで,デフォルトを回避し,償還がスムーズに行われるのです。
(8)また,健全部門の分社については,政府も応分の出資を行い,将来,電力会社として収益があげられる自律会社となった時にそれを売却して,一連の「東京電力(福島第1原発)放射能放出事件」に対する政府支出=国民負担の解消の原資とするのがいいと思われます。
(9)こうした「過去の清算」の上に立って,最重要の取組である「被害者に対する万全の賠償・補償と再建支援」,それに「除染」が国の責任として実施されなければなりません。常々申し上げているように,「東京電力(福島第1原発)放射能放出事件」の加害者は東京電力ですが,政府はその「事故責任者」「事件責任者」でもあるのです。政府が愚かにも認めてきたずさんな東京電力の原発管理が原因で「東京電力(福島第1原発)放射能放出事件」が起きているわけですから,少なくとも被害者に対しては,東京電力と政府が連帯して,その賠償・補償・再建支援の責任を背負うべきなのです。必要となった費用負担の分担は,被害者救済とは切り離して,東京電力と政府との間で決めていけばいいことです。東京電力だけを悪者にして,政府は費用負担を負わない=被害者救済に責任を負わない,ということは許されないのです。
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上記は,あるべき「東京電力解体」のスキームのごく概略をスケッチ的に書いたものにすぎません,実際には,もっと緻密な組織や制度の設計が必要でしょう。しかし,いずれにせよ,今般,民主党が打ち出してきた「東京電力救済優先のモラルハザード奨励スキーム」としての「廃炉機構」案とは,雲泥の差があることはご理解いただけるのではないかと思います。
政権の座にある時もひどかった「口先やるやる詐欺」集団=民主党ですが,政権を去ってからは更にひどくなっている,というのがもっぱらの有権者・国民の,このろくでもない政党への評価です,それが,今回の「廃炉機構」案にもにじみ出ているのだと思われます。未だ,原子力ムラからの影響を排除しえない,この政党の体質にはあきれるばかりです。
もはや,民主党は「やめて,染めて,薄めて消えて」(大阪下町じゃりんこ談話)の存在でしかありません。もし,現民主党に少しでも心ある政治家が残存しているのであれば,その政治家は,一刻も早く,ろくでもないことをしてきた同党幹部を追い払うか,それがかなわないのなら,脱党して新たな政党を作るか,2つの一つの決断をすべき時が来ていると思われます。決断力がない政治家や,責任を行動で示さない・示せない政治家など,早く我々有権者・国民の眼前より消えていただきたいものだと,強く思います。
ともあれ,東京電力を延命させての福島第1原発だけのための「廃炉機構」ないしは「廃炉専門組織」の新設など,百害あって一利なしです。
早々
<追>
上記でご紹介した記事の最後の部分の次の記述にある民主党内の動きも「笑止千万」です。そもそも事故直後に,放射能汚染水遮断の恒久対策を馬淵澄夫首相補佐官が打ち出していたにもかかわらず,それを原子力ムラにつらなる党内勢力がそれをつぶし,当時の経済産業相で現民主党党首=平成の泣きべそ男=海江田万里が,東京電力の(経営優先・汚染水処理後回し,1千億円の費用負担かんべんしてくれ)要請を受け入れて,その対策をやめてしまったことが,今日の深刻な汚染水事態の大きな原因の一つだと伝えられています。そんなことさえ「総括」できず,この期に及んで「両論併記」など,バカバカしいにもほどがあるというものです。「やめて,染めて,薄めて消えて」
「福島第1原発の遮水壁設置の経緯を巡り、当時の馬淵澄夫首相補佐官と東電の主張が食い違っている問題について、大畠章宏幹事長は17日の記者会見で「両者の主張は平行線でしかない」と述べ、同本部が近く公表する調査結果に双方の主張を併記する見通しを示した。」
前略,田中一郎です。
昨日,2013年10月18日付東京新聞朝刊の2面に「福島第一,排水溝で2300ベクレル検出,濃度上昇,台風影響か」という記事が掲載されました。
*東京新聞第1原発排水溝で濃度上昇 台風で放射性物質流入か社会(TOKYO Web)
http://www.tokyo-np.co.jp/s/article/2013101701000877.html
東京電力は17日、福島第1原発の港湾外の外洋に直接つながる排水溝の水から、ストロンチウム90などのベータ線を出す放射性物質が1リットル当たり最大2300ベクレルの濃度で検出されたと発表した。水は台風26号で大雨が降った16日に採取した。15日に採取した水に比べ濃度が急上昇した。
ベータ線を出す放射性物質の半分を占めるストロンチウム90の法定基準は30ベクレル。排水溝を通じ外洋に流出したとみられるが、政府・東電は海水で希釈され環境への影響はないとしている。 東電は「原発事故で地表面に降下した放射性物質が雨水で排水溝に流入したことが原因とみられる」と説明。
*(同内容)濃度上昇最大2300ベクレル 台風で汚染土壌流入 第一原発の排水溝
(福島民報) - Yahoo!ニュース
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20131018-00000016-fminpo-l07
この記事は,きわめて重要な内容の記事で,検出されたベータ核種の値は放射性ストロンチウムの排出基準(*)である30ベクレル/リットルをはるかに超えています。放射性ストロンチウム以外にも,トリチウムなども含まれていたことが推測されます。そもそも放射性ストロンチウムについて,30ベクレルなどという排出の濃度基準が高すぎることにも留意する必要があります。そして,この記事から,オリンピック招致時やその後の国会等での安倍晋三首相の「近海の放射性物質の影響は、発電所の港湾内の0.3平方キロメートル内にブロックされている。全体として状況はコントロールされている」との発言が,嘘八百であることもはっきりしたわけです。
東京新聞記事によれば,東京電力は「地上タンク群の堰から排出した雨水は濃度が低いため影響していない」としているとのことですが,いい加減なものです(下記のおしどりマコさんのサイトをご覧下さい)。東京電力のずさんな放射能汚染水の管理状態が,次々と海と環境の汚染をもたらしております。もう取り返しがつかなくなってしまいました。万死に値します。
また,東京新聞記事によれば,「政府・東電は海水で希釈され環境への影響はないとしている」そうですが,影響がないわけがないだろう,この大馬鹿もの!! ですよ。
(*)放射性物質排出基準(例)
放射性ストロンチウム 30ベクレル/リットル
放射性セシウム134 60ベクレル/リットル
放射性セシウム137 90ベクレル/リットル
水になっているトリチウム 60,000ベクレル/リットル
一般化合物になっているトリチウム 40,000ベクレル/リットル
有機化合物になっているトリチウム 20,000ベクレル/リットル
<留意しておくべきこと:けしからん話です>
(1)トリチウムの排出基準が異常に大きいこと=危険極まりなし,(2)放射性ストロンチウムや放射性セシウムはそれに比べれば小さいですが,生体濃縮や食物連鎖などを考慮した場合,この30~90ベクレル/リットルでも大きすぎます。(3)濃度規制があるだけで,総量規制がないので,薄めればいくらでも放射能を環境に放出していいような「尻抜け」規制となっており,この点をおしどりマコさんに追及された東京電力は「今の規制はそうなっている(だから何が悪いんだ)」と居直ったそうです,(4)規制値をはるかに超える放射性物質が福島第1原発から海へ流出を続けていること(ベータ核種だけではありません),
(5)依然として東京電力も政府も日本の学者どもも,福島第1原発からどのような放射性核種が流出しているか,その物理学的・化学的・生物学的特性や流出推定量などを一般国民に対して説明しようとはしておりません,(6)きわめつけは,上記のような放射能の排出基準は,青森県六ケ所村再処理工場に全く存在せず,事業者である日本原燃が「出したい放題・放出したいだけ出していい」ことになっています(原子力ムラ無法地帯としての青森県)。
大事なことは,こうした記事や報道に対して「慣れっこ」になっていはいけないことです。これは「とんでもないこと」が起きているのであり,「東京電力(福島第1原発)放射能放出事件」が今も継続しているということであり,依然として加害者・東京電力や事故責任者・国が,事故の深刻な実態を一般国民や地域住民に対して隠し続けていることを意味しています。
加害者・東京電力や事故責任者・国を今後も徹底して追求し,糾弾し続けなければなりません。そして,一刻も早く,福島第1原発からの放射能の放出を止め,近々起きるであろう大地震・大津波で福島第1原発が二次災害とならぬよう,万全の対処をしなくてはなりません。日本は東日本滅亡の可能性という「薄氷」の上を,気楽でアホウな安倍晋三首相とともに無邪気に歩いているという現状を深刻に考える必要があると思います。
<下記も併せてご参考にして下さい>
*放射性物質トリチウムと青森県六ケ所村再処理工場(
東北地方が今度は北から原子力ムラによって「毒殺」されようとしている) 原発ゼロ・脱被曝 どうしたらできる?
http://onndannka.cocolog-nifty.com/blog/2013/07/post-5590.html
*TEPCO「豪雨で希釈された溜まり水を測定し排水‼」(おしどりマコ) DAILY NOBORDER
http://no-border.asia/archives/15033
<追>(必見)おしどりマコさんの直近版です
*原発事故後3週間以内のWBC測定値が存在、35%が汚染(おしどりマコ) DAILY NOBORDER
http://no-border.asia/archives/15531
早々
「原発事故の賠償を何故きちんとしないのか(その1):原子力損害賠償紛争審査会の新たな方針でも賠償金額が全然足りない」に続いて,「東京電力(福島第1原発)放射能放出事件」に関する損害賠償・補償の問題について,別添PDFファイル(一部添付できませんでした)に若干の新聞記事を集めました。以下,ごく簡単にご紹介いたします。
これらの記事が伝えることに共通していることは,東京電力の姿勢が「記者会見など,公の場では平身低頭の口先謝罪一色でその場を取り繕い,実際の賠償・補償については様々な屁理屈をつけて徹底して踏み倒すし謝罪もしない,仮に支払わざるを得なくなっても支払は可能な限り先延ばしする,被害者を経済的な苦境に追い込めば追い込むほど東京電力自身の負担が結果として軽くなる(被害者側の)「譲歩」「妥結」に持ち込める」ではないかと疑われることです。
そして許し難いことに,こうした最優先されるべき被害者への賠償・補償その他の対策を事実上「踏み倒し」ておきながらも,他方では,東京電力柏崎刈羽原発の再稼働のために,当面,3,200億円もの資金を投入して,フィルター付きベントだの,津波対策としての防潮堤だの,過酷事故時の追加対策だのを,新たに出費して自己資金を浪費しつつ,福島第1原発の汚染水対策に回すべき資金をケチっているのです。その結果は,じゃじゃ漏れの放射能汚染水による海洋汚染と現場作業員の大量被曝です。
一方,もう一人の当事者・責任者の日本政府は,事実上,東京電力の経営を采配できる大株主であり,資金提供者でもあり,かつ最終的な経営責任者・「東京電力(福島第1原発)放射能放出事件」の総括責任者ですから,本来であれば,(1)こうした態度を続ける東京電力の現経営陣に対して,厳しくその経営態度・姿勢・方針の変更を迫り,(2)従わなければ,幹部役職員を更迭し,かつその刑事責任を問い,(3)被害者に対しては,直ちに賠償・補償金の「立て替え払い」を行って,被害者の一刻も早い生活や仕事あるいは経営の再建のスタート台に立っていただくよう全力で支援する,というのが,なすべきことだろうと思われます。
また,大変な被害を受けた汚染地域の各自治体も,東京電力や政府などに遠慮などすることなく,自身が受けた全ての被害の全額賠償を請求すべきであり,また,自治体住民に対しては,浪江町が実施したように,集団提訴を含め東京電力並びに政府への住民の損害賠償・補償の代理又は支援を行い,2014年3月には到来するという時効による請求権消滅がないように,(自治体住民へ,賠償請求と時効の中断手続きの呼び掛け,並びに提訴参加への呼びかけなどとともに)被害者の方々が不安定な状態から早く抜け出せるよう尽力すべきなのです。住民に放射線被曝と分断,賠償切り捨てを押し付ける避難指示区域の再編などをやっている場合ではありません。
しかし現実は,上記で書いたこととはまるで正反対の方向へ,つまり,東京電力の「損害賠償は謝罪も含めて踏み倒せ!! 会社存続が最優先だ」の犯罪的とも言える「本音方針」を,まずは政府が陰に隠れて全面的にバックアップし(賠償額を少なくするのが財務省の仕事・政府の仕事と勘違いをしている),住民に対しては「被害の受入れ・許容」「わずかばかりの代償による請求権の事実上の放棄(要するに,運命だと思ってあきらめろ,ということ:あきらめなければ権力でねじ伏せる)」「これから半永久的に続く恒常的な低線量被曝の押しつけ」を強要する,こんなことはおかしいと思う人に対しては「精神的なカウンセラーをつける」(完璧に人を馬鹿にしている),そして,被害地域の自治体が,それに尻尾を振って,加害者・東京電力や事故責任者・国の立場と同じようなところから被害者住民を慰める,という事態となっています。
そして,こうした「骨太(棄民)方針」を美辞麗句や「安全安心キャンペーン」で「花飾り」し,国を挙げての「原子力翼賛」のレジームづくりに邁進する算段が着々と進められています。福島県の汚染地で開催される各種のお祭り騒ぎや東京オリンピック開催なども,そうした「フクシマもみ消し」の道具とされていくのでしょう。その中核には,原発安全神話にとって代わった「放射線安全神話」が御用学者達の神輿の乗せられて,被害者住民や将来の被害者であろう我々の頭上に君臨するのです。原子力ムラ一族にとっては「東京電力(福島第1原発)放射能放出事件」は「なかったこと」(少なくとも「放射能汚染の影響はない」こと)にしてしまいたいのです。
虐げられたるものは,多くの人達と手を携えて,自らが異議を申したて,反対・反抗・反逆・抵抗する他に,この「原子力翼賛」から逃れる道はありません。深刻な被害者も,被害を受けたけれども幸いにして深刻ではなかった被害者も,そして今回の「東京電力(福島第1原発)放射能放出事件」では被害を受けなかった一般有権者・国民も,全て力を合わせて,この東京電力・政府・自治体・御用学者(及びその広報担当のマスごみ)の創りあげる被害者切捨ての「棄民レジーム」を打ち破る以外に,この事態を打破する方法はありません。
不正と出鱈目と超危険の限りを尽くしている原子力ムラ権力に対して,逃げ回ったり,妥協をしてみたり,愚かな期待を持ってみたり,あるいは,彼らのインチキを受入れて「原子力翼賛」の旗を振ってみたりしても,それが行き着くであろう近未来は「日本国並びに自分自身の放射能汚染地獄と,家族や子々孫々を含む被曝滅亡」でしかありません。原子力翼賛との最終戦争に「逃げ場所」などはないのです。覚悟を決めるのは今です。
繰り返します。原子力ムラに帰属するファシスト・犯罪者集団を除く全ての日本の有権者・国民は,「東京電力(福島第1原発)放射能放出事件」による被害者の賠償・補償をコアとする完全救済へ向けて力を合わせましょう。いい加減な原発管理を繰り返して大事故を引き起こし,地域住民を中心に多くの人達に大損害や大被害を与えた加害者・東京電力や事故責任者・国が,その被害者に対してきちんと償いをする=賠償・補償と再建支援をする,という「当たり前」の「当たり前」をきちんとやらせましょう。それがこれからの日本の出発点だと思います。脱原発=脱被曝は,被害者の完全救済を実現してこそ達成できることです。
<別添PDFファイル:一部添付できませんでした>
(1)横浜・前橋でも東電提訴,原発避難者138人21億円求め(東京 2013.9.12)
(2)東京電力,損害賠償は踏み倒せ(1):対役所(東京 2013.6.2他)
(3)東京電力,損害賠償は踏み倒せ(2):対個人(東京 2013.6.6他)
(4)宮城,遅れる畜産の賠償(朝日 2013.9.30)
1.横浜・前橋でも東電提訴,原発避難者138人 21億円求め(東京 2013.9.12)
http://www.47news.jp/CN/201309/CN2013091101001742.html
・・・・・・・・・・・・・・・(上記より引用)
東京電力福島第1原発事故による福島県から神奈川県と群馬県などへの避難者ら計48世帯138人が事故発生から2年半の11日、国と東電に計約21億円の損害賠償を求める集団訴訟を、横浜、前橋両地裁に起こした。訴状では、東電は地震と津波で事故が想定できたのに対策を取らず、国は東電への規制を怠ったと主張。避難生活を余儀なくされた慰謝料などを求めている。
神奈川県では、17世帯44人が福島での生活を失った慰謝料として1人当たり2千万円など計11億円を請求。群馬県では31世帯94人が1人当たり1100万円、計約10億円を請求。
・・・・・・・・・・・・・・・(以上,引用終わり)
● 田中一郎コメント
1人あたり2千万円なんて少なすぎます。原発事故によって,全てを一瞬にして奪われた方々に対しては,この数倍の金額が支払われて当然です。裁判での注目点は,支払の有無だけでなく,支払金額ももう一つのポイントです,日本の裁判システムが機能しているのかどうかが問われているのです。これまでの公害事件等での判決の大半は,損害賠償を請求した被害者が,勝訴とはなっても,意味のある十分な損害賠償金額を手にすることができなかった=つまりは,日本の裁判システムが「正義」の立場に立たない,権力擁護のためのインチキシステムである,ことを立証してきた歴史です。ここでも,日本の司法の正体が問われているのです。
2,東京電力,損害賠償は踏み倒せ(1):対役所(東京 2013.6.2他)
(1)環境省,東電提訴を検討,特措法請求:除染費165億円(東京 2013.6.2)
http://ameblo.jp/heiwabokenosanbutsu/entry-11543151930.html
・・・・・・・・・・・・・・・(上記より引用)
福島第1原発事故に伴う除染をめぐり、東京電力が負担するべき費用のうち約165億円の支払いに応じる姿勢を見せていないことから、環境省が支払いを求めて提訴を検討していることが1日、分かった。既に法務省と詰めの協議に入っており、方針が固まれば提訴する。
未払いとなっているのは、環境省が放射性物質汚染対処特別措置法に基づいて請求した原発周辺の国直轄除染費や、自治体が実施した除染への補助金など。特措法に基づく除染費用は国がいったん支出した後、東電に請求する仕組み。ただ将来にわたる除染規模や総額が明確になっておらず、東京電力としては膨大な費用を負担し続けるのが困難として、一部の支払いに応じないことで負担枠組みの再考を政府に促したいとの思惑があるようだ。
このまま未払いが続けば、国が肩代わりし続けることになる。環境省は、裁判で支払いが確定し金利が発生することで、東京電力が支払わざるを得ない状況を作り出したい考え。これまで環境省は、事業が終了して金額が確定したものから三カ月ごとに東京電力に請求してきた。請求総額約二百十一億円のうち、東京電力が支払いに応じたのは国直轄除染費の四十四億円で、近く約二億五千万円を追加で支払う予定だが、残り約百六十五億円は「資料の確認に時間が掛かる」などとして応じていない。
特措法に基づく除染費用は二〇一三年度までに約一兆三千億円が計上されている。環境省がこれまでに請求した費用は二〇一一年度に実施された除染事業の一部で、各自治体の二〇一二年度の決算が確定すると、請求額は一千億円を超えるとみられる。東京電力は「特措法に基づき適切に対応している。支払いの状況については当事者間の問題なので答えられない」としている。
・・・・・・・・・・・・・・・(以上,引用終わり)
● 田中一郎コメント
この環境省の態度,どうも「芝居くさい」ですね。本当は,たとえば,環境省が東京電力に電話をして「除染費用を請求いたしますが,よろしいでしょうか?」と言い,それに対して東京電力が「今は金がない,除染費用など後回しだ,払ってられねえぞ,東京電力をつぶすつもりか」と答え,環境省が「それは失礼をいたしました」と言って引き下がる,てな具合ではないのでしょうか。なにせ,あの石原慎太郎の息子の石原伸晃が環境大臣をやってますからね。そもそも請求した除染費用が165億円って,何コレ!?。除染費用はとうの昔に1兆円を超えていますよ。有権者・国民の血税を何だと心得ているのでしょう?。
(2)福島原発事故,自治体賠償請求466億円,東電支払済み52億円(読売 2013.6.17)
http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20130617-OYT1T00146.htm
● 田中一郎コメント
現段階とは言え,全ての自治体の賠償請求金額が合計で466億円というのは少なすぎるよね。何を何に対して遠慮しているのかな? どうも「東京電力(福島第1原発)放射能放出事件」で被害を受けた多くの自治体の動きがおかしい。
3.東京電力,損害賠償は踏み倒せ(2):対個人(東京 2013.6.6他)
(1)福島原発賠償,東電,和解後も謝罪拒む,自殺男性の次男「心晴れない」(東京 2013.6.6)
http://www.47news.jp/CN/201306/CN2013060501001866.html
● 田中一郎コメント
この東京電力の露骨な「本音態度」,許せん!! 手をついて謝れ!!
(2)不明者捜索遅れ,和解,東電,遺族374人に慰謝料支払い(読売 2013.7.24)
http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20130724-OYT1T00007.htm
● 田中一郎コメント
記事によれば「遺族側弁護士によると、和解案は、犠牲者1人当たり300万円の上限を設けたうえで、東電側が遺族の続柄に応じて60万~20万円を支払う内容。総額は約2億8000万円となる。遺族と東電は国の原子力損害賠償紛争解決センターが示した和解案で合意した」そうです。
これも金額があまりに小さすぎます。人の命を何だと思っているのでしょうか。この記事に出てくる「原子力損害賠償紛争解決センター」とは,別名「紛争もみ消しセンター」あるいは「紛争そらしセンター」とでも言っていいような,そもそも被害者の控え目でつつましい賠償・補償請求に,何だかんだといちゃもんをつけては東京電力へ請求が行く前に金額をすり減らすためにある,政府おかかえの「御用組織」のように思えてなりません。
悪名高き「原子力損害賠償紛争審査会」と並び,この「センター」は,いずれ歴史に「人権侵害加担組織」として,その名を刻むことになるでしょう。人員を入れ替えて,「原子力損害賠償紛争審査会」から独立させ,解決方針を抜本的に切り替えるべきです(「原子力損害賠償紛争審査会」が言うように,賠償指針を「最低限」のものとして東京電力に認識させるように動けばいいのです)。東京電力の体制一新・人事更迭(会社更生法適用後)とともに,この「センター」をきちんとしたものにすれば,多くの被害者が完全救済される可能性が出てきます。
(3)福島原発事故賠償,個人情報保護法が壁,東電「応じられない」:迫る時効,12市町村,未請求者情報提供要請」(河北新報 2013.9.2)
・・・・・・・・・・・・・・・(上記より引用)
福島県浪江町など避難区域の12市町村が,東京電力への損害賠償請求を促す目的で,同社の持つ未請求者の情報の提供を求めたのに対し,同社が個人情報保護法を根拠に応じていないことが分かった。未請求者は現時点で約1万人。市町村は未請求者を特定して請求を働き掛けたい考えだが、同社の協力なしでは難しく、請求権を行使せずに埋もれる避難者が続出する可能性がある。
・・・・・・・・・・・・・・・(以上,引用終わり)
● 田中一郎コメント
政府が乗り出して対処すれば,すぐにでも解決できる問題です。また,損害賠償請求権の時効の問題は避難区域の12市町村だけの問題ではなく,福島県のその他の地域を含む,すべての「東京電力(福島第1原発)放射能放出事件」による被害を受けた汚染地域の住民にとっても重要な問題です。これもまた,政府が「時効期限の延長」(あるいは廃止)や「賠償請求手続きの促進」の対策をとれば,事態は大きく改善するでしょう。いったい,復興庁をはじめ,日本政府は何をしているのでしょうか?
(4)東電賠償1万人未請求,来秋以降,時効の恐れ(朝日 2013.6.6)
http://www.asahi.com/national/update/0606/TKY201306050567.html
● 田中一郎コメント
朝日新聞の体質を現す,ずいぶんミスリーディングな記事です。上記でも申し上げたように,損害賠償請求権の時効の問題は避難区域の12市町村だけの問題ではありません。1万人などという人数をことさら見出しで強調することは,避難指示区域以外の被害者に対して,お前達は関係がない,と言っているようなものです。また,時効が到来するのは,来秋ではなく来春(2013年3月)でしょう?(東京電力が「自己裁量」で「9月」と言っているだけではないのですか? 経営陣などが変われば撤回されかねません)。しっかりしてちょうだいよ,朝日新聞さん。
4.(見つめる)宮城、遅れる畜産の賠償 除染や飼料代、基準定まらず 東日本大震災3年目(朝日新聞デジタル) - Yahoo!ニュース
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20130930-00000001-asahik-soci
・・・・・・・・・・・・・・・(上記より引用)
東京電力福島第一原発事故に伴う農家への損害賠償をめぐり、請求額に対する支払額の割合が宮城県で6割にとどまり、全国平均の8割を大きく下回っている。畜産関係の請求が多い宮城県。牧草地の除染や代替飼料への補償について基準が定まっていないことが影響している。
「牧草地の除染で昨年1年が終わってしまった」。宮城県栗原市で酪農を営む男性(63)は、自宅近くに積み上げられた牧草のロールを見つめ、嘆いた。100頭の乳牛を飼い、30ヘクタールの牧草地で収穫した牧草を与えてきた。しかし、原発事故を受けて県は、県内のほぼ全域で2011年産と12年産の牧草の使用を自粛するよう農家に求め、牧草地の除染も促した。……
・・・・・・・・・・・・・・・(以上,引用終わり)
● 田中一郎コメント
「牧草地の除染や代替飼料への補償について基準が定まっていないこと」=こんなことは,賠償・補償を滞らせている東京電力の「口実」にすぎません。それをあたかもデファクトであるかのごとく,まともな批判もしないで,記事になどしないでいただきたい。物事を難しくこねまわして複雑にする必要などないのです。
「東京電力(福島第1原発)放射能放出事件」の損害賠償・補償の原則は,全ての被害者に対して,全ての損害の賠償・補償をし,かつ再建費用と,再建までの生活及び経営の維持費用を補償せよ,ということですから,それに沿って,東京電力は粛々と支払えばよろしいのです。
因果関係や必要性などは,一定程度の蓋然性があれば十分であり,それ以上のことは,無関係性(因果関係なし)や不必要性を東京電力に立証させればよいのです(立証できなければ支払う)。被害者への賠償・補償の支払いに,無用の条件をごちゃごちゃくっつけて,それを合理化しないでいただきたい,ということです。どうも朝日新聞を含むマスごみの報道姿勢がよろしくありません。(判例として,1970年前後の公害裁判での被害者の立証責任に関する裁判所の判断があります:イタイイタイ病など)
(補足)
上記をご覧になれば,素朴に「そんなバナナ」「何でそんなバナナなことをするのでしょうか」と思われることでしょうが,しかし,これは「バナナ」ではなくて,原子力ムラ一族にとっては,その翼賛的支配継続のためには必要不可欠な合理性を持った対応・対策なのです。
<何故,加害者・東京電力や事故責任者・国は原発事故の賠償・補償をきちんと行わないのか>
(1)一つは簡単なことで,もし,きちんと支払うことにすると,賠償・補償金額が天文学的な数字になるのは自明のことで(おそらく数百兆円),それを何とか極限にまで小さくしたいからである。
(2)被害者住民を汚染地域に定住させ,あるいは帰還させ,縛り付けて動かさないためである(封建時代の農奴と同じ)。賠償・補償をきちんとすると,大半の被害者住民は,汚染されていない土地で新たな生活や仕事を始めるであろうことが予想される。それでは,放射能が危険であることを多くの被害者が態度をもって示したことになり,原子力ムラ一族としては大変困る。これからの原子力推進に大きな支障が出る。
(3)(2)の原子力推進の危機を逆手に取り,(賠償・補償切り捨てと,汚染地域への帰還・定住促進施策により)住民の汚染地域への縛り付け政策と,「放射線安全神話」や「みんなでふるさと復興」の大宣伝(「安全・安心キャンペーン」「放射能は大したことはない」「気のせいだ・気にする方が体に悪い」「ふるさと復興協力・協賛」「再生キャンペーン」「きずな」「支え合い」「除染と個人線量管理」「放射能との向き合いキャンペーン」「イベント・お祭・国際会議・公共事業・スポーツ大会」等々)をセットで展開し,放射能や被曝の危険性を社会的に消滅させる(見えなくする,もみ消す,ないことにする)。
(4)近い将来,再び起きるであろう放射能の大規模環境放出事故時に備え,放射能は環境に出たとしても過度な心配はいらない,放射能や被曝はそれほど危険ではない,という虚偽の認識を日本国内に蔓延させる(有権者・国民を放射線被曝に慣れさせる)。そうすることで,原発・核燃料施設の過酷事故との「共存」が可能となり,もはや今後の「東京電力(福島第1原発)放射能放出事件」のような大トラブルが起きても,社会的に乗り越えられる「耐力」をつけることができる。原子力推進の「安定成長軌道」が出来上がる。
(5)放射線被曝が原因の健康被害については,財産的被害や精神的被害以上に,断固として賠償・補償を拒否し続ける(これは今も,原発・核燃料施設の現場労働者の放射線被曝健康被害に対して,労災事件その他で電力会社や政府など,原子力ムラ一族がやっていること)。これを認めれば,放射線被曝の危険性を事実上認めることになるので,被害者を全力でねじ伏せる・切り捨てる。
<そして,ここで最も大事なことは次のようなことである:上記(5)と同じ>
放射能や放射線被曝の危険性は大したことはない,というのは嘘八百なので,やがて被害者住民の中から健康被害者や遺伝的障害者が多く出てくることになるが,その方々は,今度は,放射能や放射線被曝との因果関係を加害者・東京電力や事故責任者・国によって否定され,あるいは因果関係を被害者の方で立証せよと突き放され,再び健康被害についても賠償・補償が受けられず,闇から闇へと葬り去られていく,ということになるでしょう。そして,まもなく,次の過酷事故と放射能汚染,大量の人々の放射線被曝が起きるのです。
つまり,第一次の「賠償・補償踏み倒し」は財産的被害と精神的被害,第二次の「賠償・補償踏み倒し」は健康被害,第三次以降の「賠償・補償踏み倒し」は(子々孫々の)遺伝的被害,ということです。この最悪状態へのスパイラルを止めるには,全ての原発・核燃料施設の即時廃棄=脱原発,全ての放射線被曝の阻止と加害者責任の明確化・放射線被曝の危険性の徹底周知=脱被曝,そして(原子力推進の)被害者の完全救済,の3つを同時並行して実現する以外に,つまりは原子力ムラ一族の社会からの永久追放以外には方法はありません。
以 上
<追>
● 東京新聞 原発事故賠償 備え不足 政府 法律見直し放置社会(TOKYO Web)
http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/news/CK2013100702000124.html
・・・・・・・・・・・・・・・(上記より引用)
東京電力福島第一原発事故を受け、二〇一一年八月に国会で原子力損害賠償法(原賠法)を「一年をめどに見直す」と決議したのに、期限を一年以上過ぎても、ほとんど検討が進んでいないことが分かった。重大事故が起きれば賠償額は兆円単位。これに対して、備えはわずか千二百億円の保険のみ。電力各社からは再稼働申請が相次いでいるが、住民への賠償面で大穴があいたままだ。 (岸本拓也)
現行の原賠法では、事故の責任は基本的には電力会社にあるが、巨大な天災などが原因の場合はあいまいになっている。福島の事故では、賠償や除染の事業費で少なくとも五兆円はかかることが確実だが、電力会社が備えているのは一原発当たり上限千二百億円の保険だけだ。
福島の事故を受け、国は急きょ原子力損害賠償支援機構法を成立させ、国が支援機構を通じて東電に賠償資金を支援し、各電力会社が数十年かけて国に返済していく仕組みをつくった。
この仕組みは形式的にはどの原発にも適用できるが、実質的には福島の事故のための暫定的なもの。各社が機構に納めている積立金(負担金)も国への返済に消え、次の事故に備えた積み立てではない。
国会は機構法を成立させる際、国の賠償責任を含め、原賠法を「一年をめど」に抜本的に見直すと付帯決議した。だが、国は原子力政策がまだ決まっていないことなどを理由に具体的な見直しを先送りしている。
一方、東電を含め、五つの電力会社が七原発の再稼働を原子力規制委員会に申請。新しい規制基準に基づく審査は淡々と進んでおり、今冬にも再稼働する原発が出てきそうだ。安倍政権は「規制委が安全と判断した原発は活用する」と再稼働を推進するが、国の賠償責任のあり方を放置したままでは無責任との批判は免れない。
<原子力損害賠償法> 日本で原発が商業運転を始める前の1961年に制定。原発事故などで周辺に損害が出た際の賠償制度を定めている。「被害者の保護」とともに、加害者となる「原子力事業の健全な発達」も目的に掲げ、法律の専門家から批判の声がある。福島第一原発事故では東電の能力を超える賠償金が発生、政府は暫定的に原子力損害賠償支援機構を設立し、東電に資金援助しながら賠償している。
・・・・・・・・・・・・・・・(以上,引用終わり)
● 田中一郎コメント
「原子力損害賠償法」は1961年(昭和36年)に制定された古い法律で,当時は日本に原発関連の技術がなかったため,海外から(特にアメリカから)その技術を急いで導入しようとしていた時期だった。そのため,その技術導入をスムーズに進行させるため,当時から予想されていた原発・核燃料施設の過酷事故に伴う原発メーカーの損害賠償・補償の責任を免責させるため,原発を導入する電力会社にその責任を一元的に負わせることとなった。他方,損害金額は原発・核燃料施設の過酷事故の場合には天文学的な数字の金額になることも,その当時から自明であったため,当時の大蔵省がこの原子力損害賠償のスキームに日本政府が無制限に関与することを拒否し,結局,電力会社に「責任の集中」(原子力産業や政府を免責)と「無過失責任」「無限責任」を負わせた上で,日本政府は政令で定める一定金額まで(現在は1,200億円)の「原子力損害賠償補償契約」を引き受けるに留まった。そして,国内的には,原発・核燃料施設は過酷事故を引き起こすことはあり得ないので懸念するには及ばない,と強弁したのである。
この法律は,本来であれば,日本への原子力技術導入がほぼ終わった1980年頃には全面的に見直され,電力会社のみならず原子力産業も含めた事故責任の自己責任を明確にさせた形で改正されるべきであったが(具体的には,原子力損害の具体的な金額査定(付保されるべき保険金額)や原子力損害賠償保険の民営化と,政府の役割の明確化),原子力産業にとっての都合のよさと(損害賠償責任の免責),電力会社にとっても,さしたる保険料を必要としない手ごろさ(あるいは保険金額が巨額になることが公になることの政治的影響の回避)が重宝され,原子力安全神話の上で「そのまんま」にされて,今日に至っている。いわば,原子力関係者一同,原発・核燃料施設の過酷事故は起きないという「えそらごと」の上に胡坐をかいて,それぞれの「賠償・補償」の責任を法律で免責させ,そ知らぬ顔をしてしまったということである。ここに原子力推進の正体が赤裸々に現れていると言えるだろう。
なお,この法律及び原子力損害賠償については,次の2点についても留意されるべきである。第一に,「原子力損害賠償法」の第3条には,「その損害が異常に巨大な天災地変又は社会的動乱によって生じたものであるときは、この限りでない(損害賠償しなくてよい)」という条文があり,政府はもちろん,「責任の集中」をさせたはずの電力会社までを含む全ての加害者側の関係当事者が賠償・補償責任を免責される規定がある。つまり,「想定外」の大地震・大津波だと言い張れば,原子力推進関係者一同は何の責任も取らなくていいよ,というのがこの法律の規定である(*)(なお,今般の「東京電力(福島第1原発)放射能放出事件」の場合には適用されず)。
(*)正確には,政府は「必要な援助」を行う旨の規定がある(第16条第1項,第2項)
「政府は、原子力損害が生じた場合において、原子力事業者(外国原子力船に係る原子力事業者を除く)が第三条の規定により損害を賠償する責めに任ずべき額が賠償措置額をこえ、かつ、この法律の目的を達成するため必要があると認めるときは、原子力事業者に対し原子力事業者が損害を賠償するために必要な援助を行なうものとする」
「2.前項の援助は、国会の議決により政府に属させられた権限の範囲内において行なうものとする」
まことにふざけた話であるが,自民党や民主党の原子力ムラ代表議員達は,この規定をもっと幅広く適用し,「巨大な天災地変又は社会的動乱」による原発・核燃料施設の過酷事故の場合には,原子力産業や電力会社を免責した上で,政府が賠償・補償や廃炉,除染その他の事故後対処・対策をすべて背負うべきであると主張している。つまり,原子力を国家丸抱えの「親方日の丸」でやれと主張しているのである。とんでもない話である。(モラルハザードやずさんな原発管理は今よりも一層ひどくなる)
第二は,政府が限度金額を1,200億円と定めて引き受けている「原子力損害賠償補償契約」の保険金勘定(保険掛け金の受入れ・保険金の支払いを行う特別会計)が「大赤字」状態であることだ。これまで,この「原子力損害賠償補償契約」で政府がまとまった金額の保険金を支払ったことがないにもかかわらず,従ってまた,原発が建設され始めて以降,何十年にわたってこの特別会計に保険掛け金が流入するだけで,積立金が積み上がっていたはずであるにもかかわらず,今般の「東京電力(福島第1原発)放射能放出事件」に伴う1,200億円の東京電力への支払については,これまでの掛け金積立額では全然足りなかったということを意味している。つまり,政府は電力会社から,これまで一貫して,まともな保険掛け金を徴収していなかったということだ。日本という国は,原発・核燃料施設の過酷事故の賠償・補償の法的責任をうやむやにしただけでなく,形だけ創っておいた「賠償保険」の掛け金納入責任すらも事実上「免責」していたのである。(しかも,民主党政権下で,この「真っ赤か」の特別会計の保険掛け金料率の引き下げまでが行われている。全くふざけた話である)
以 上
<賠償・補償・再建支援:5原則+α(同時代に生きる人間としての使命・倫理)>
最後に,私の考え方を下記に箇条書きにしておきます。賠償・補償・再建支援が,この原則に従ってきちんとなされないと,被害者はいつまでたっても救われないことになります。政府は,この問題を加害者・東京電力に丸投げするのではなく,政府自身が「東京電力(福島第1原発)放射能放出事件」の発生責任者として,「立て替え払い」を含む様々な政策的手段で,被害者の完全救済に向けて取り組みを強める必要があります。一刻も早く,被害者に対する万全の賠償・補償及び再建支援が実施されることを願っています(賠償請求権の時効延長または廃止も含めて特別立法が必要)。
(1)全ての被害者の全ての被害・損害が何の留保条件を付けられることなく全額賠償または原状復帰されること(逸失利益含む)
(2)全ての被害者の生活及び経営が再建されること(費用,段取り,その他の負担のすべてを加害者が負うこと)
(3)上記(2)の再建が確認できるまでの間,全ての被害者の生活及び経営を補償すること
(4)2011年3月11日以降,上記の賠償・補償・再建費用が実払いされるまでの間,電気料金遅延にかかる遅延損害金と同利率の遅延損害金が被害者に支払われること
(5)悪質な交通事故被害の場合以上の慰謝料(迷惑料)が被害者に支払われること
(6)(+α)被害者の被害は「お金」に変えられないものも多い。その部分を加害者・事故責任者が万全にフォローすること
以 上
前略,田中一郎です。
Ⅰ 韓国の日本産水産物の輸入禁止について
別添PDFファイル(添付できませんでした)は,先般の韓国による関東・東北8県からの水産物の全面輸入禁止と,それに関連した日本国内の動き(漁業団体,政府など)を巡る報道を集めたものです。これに関して,今回の漁業団体や日本政府の韓国に対する対応は,筋違い,かつ,まことに横柄な態度であり,およそ福島第1原発事故で迷惑をかけた隣国への対応としては,よろしからぬ姿勢ではないかと思われます。以下,簡単にコメントいたします。
*東京新聞 韓国,8県の水産物 全面禁輸国際(TOKYO Web)
http://www.tokyo-np.co.jp/article/world/news/CK2013090602000233.html
(東京電力福島第一原発の汚染水漏れ問題で、韓国政府は六日、福島など八県の水産物輸入を全面禁止すると発表した。これまでは禁止対象が計五十種類に限られていたが拡大することになる。昨年は八県から約五千トンが輸入されていた。
全面禁輸となるのは青森、岩手、宮城、福島、茨城、栃木、群馬、千葉の八県。従来の禁止対象は、福島産四十九種、宮城産九種、千葉産二種など県別で違ったが、除外されていたホタテやサバなども含めて八県産の輸入すべてを禁止する。韓国政府は「汚染水が毎日流出していることに国民の不安が非常に大きい。日本政府が提出した資料だけでは今後の状況を予測しづらいための判断」と説明した。)
*福島第1原発汚染水問題 8県水産物「禁輸解除」、韓国に要請 水産庁、安全訴え-毎日jp(毎日新聞)
http://mainichi.jp/feature/20110311/news/20130917ddm008040032000c.html
*FNNニュース 原発汚染水問題 全漁連、水産庁に韓国禁輸が解除されるよう要請
http://www.fnn-news.com/news/headlines/articles/CONN00253553.html
<別添PDFファイル:添付できませんでした>
(1)韓国輸入規制と福島沖漁業:直近の動き(水産経済 2013.9.19他)
(2)韓国禁輸に対する漁業団体の動き(水産経済 2013.9.17)
(3)水産物全面禁輸 韓国に要請(東京 2013.9.17他)
(4)韓国禁輸 正確な情報発信を 東北知事,政府に求める(東京 2013.9.11)
*(参考)福島原発「トリチウム薄め海に流す」案の危険性を専門家指摘 (NEWS ポストセブン) - Yahoo!ニュース
http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20130913-00000017-pseven-soci
*(参考)技術,国際公募へ,政府がトリチウム除去で有効策なし県内ニュース 福島民報
http://www.minpo.jp/news/detail/2013091410876
1.韓国輸入規制と福島沖漁業:直近の動き(水産経済 2013.9.19他)
まず,業界紙「日刊水産経済新聞」その他で,直近の動きを簡単に見ておく。
(水産庁:香川謙二増殖推進部長=韓国に直談判に行った日本政府の役人)
「日本側は輸入規制の撤回を強く要請したものの,具体的な対応や措置の期限を明言しなかった」「今後は専門家による協議を継続する」
「(輸入禁止とした8県以外の)その他の県においても、セシウムが微量でも検出された場合は,ストロンチウムの検査証明書を提出するよう求めている。日本側はこうした規制強化が科学的に根拠が乏しく過剰な措置であるとして直ちに撤回を申し入れた」
「協議では、原発港湾内と港湾付近の海水の放射能データや,魚種別のモニタリング調査結果,ストロンチウムの検査結果等も詳細に提供,水産物の安全管理対策や汚染水対策を説明した」
「韓国側はこれに対して,日本産水産物には放射能汚染の可能性があり,今回の臨時特別措置は正当だ,と述べた」「規制撤廃の条件を問うても「まずはデータの分析が必要」との回答にとどまり,具体的な対応や措置の期限は明言しなかった」
「一部で報じられているWTOの提訴に関しては,今回の協議はWTOの手続きで定められたものではない。現時点で提訴の方針が決定した事実はなく,今後の対応について予断を持って申し上げることは差し控る」
(地元漁協)
JFいわき市漁協,及びJF相馬双葉漁協は,ともに9月26日より「試験操業」を再開の予定。JFいわき市漁協の対象魚種は,スルメイカやメヒカリなど16魚種。JF相馬双葉漁協は,ミズダコ,ヤリイカ,シラスなど16魚種が対象。
*「試験操業」9月下旬にも再開へ 相双、いわき市漁協(福島民友ニュース)
http://www.minyu-net.com/news/news/0907/news1.html
*東京新聞福島沖の試験操業再開 相馬 20隻出港「やる気示す」福島原発事故(TOKYO Web)
http://www.tokyo-np.co.jp/article/feature/nucerror/list/CK2013092502100079.html
2.(日本政府並びに漁業団体の)態度が悪い(水産経済新聞 2013.9.17 より)
下記の新聞情報をご覧いただきたい。漁業団体も日本政府も,これが商品を販売する=買っていただく「お客さま」に対して,販売する側が言う言葉なのか,態度なのか,と思わざるを得ないような言動ぶりである。水産物の輸入を禁止したとはいえ,福島第1原発事故による海洋汚染と,その後の日本側のいい加減でずさん極まる対応措置が事態を悪化させたことで迷惑をかけている隣国であるところの韓国に対する,この横柄極まる態度や無礼千万の言動はいったい何なのだろうか。常識があるのなら,まずは韓国に対する心からの謝罪から始まるはずである。
*全漁連は李・韓国特命全権大使に対し輸入規制強化の撤回を要請 - 政治行政団体 日刊水産経済新聞
(JF全漁連:岸宏会長・長屋信博専務)
「われわれ漁業者が,国産水産物の流通について設けられた国の厳しい基準を順守し,風評被害の拡大防止に最大の努力をしているにもかかわらず,明確な科学的根拠のないままに行われた韓国政府の措置は,わが国漁業者としても極めて遺憾である」
「国は,今回のこの韓国政府の措置に対し,毅然としてわが国水産物の安全性にかかる信頼回復を図り,一刻も早く禁止措置が解除されるように取組むとともに,諸外国に対しても強力な外交努力により,風評被害対策に万全を期すよう要請する」
(田中一郎) ⇒ 上記の発言は看過できないほどによろしくない。生産者団体としては発言してはならない一線を超えているように思える。食べものの供給事業者・生産者は,その安全性については徹底して厳格でなければならない。そうでなければ,やがて消費者から見放され,買ってもらえなくなるだろう。
また,「国の厳しい基準」というのはウソだし,「風評被害」などという言葉は消費者を馬鹿にした言葉だし(消費者が汚染地産の食品を避けることには合理性がある,この言葉はそれを「馬鹿な行為」とみなしている),「毅然として信頼回復」などというのは,独りよがりの何物でもないし,「外交努力」では食の安全と信頼性の回復はできない。安全と信頼性の回復のためには,文字通り,安全を証明できるものをきちんと提供することである。
従ってまた,漁業団体の中央本部としてなすべきは,かような発言をして韓国に八つ当たりすることではなく,福島県の試験操業をやめさせ(実際,福島第1原発からの放射能流出と海洋汚染は今も続いており,その近海で獲れる水産物は潜在的に危険である),それに伴う損害を韓国への輸出の激減による損害と併せて,加害者・東京電力や事故責任者・国に対して賠償・補償させることである。(更には,汚染地域の漁業者の移転・移住と,他の地での漁業再開促進と経営再建の支援を行うことである)
(鈴木俊一農林水産副大臣)
「汚染水問題で,日本はこれまで韓国の要請に対し,ことのほか丁寧に説明し,データを開示してきた。それなのにいきなりこういう態度で水産物の輸入禁止をしてくることは大変遺憾である。しかも科学的根拠の乏しい判断なので,一日も早く撤回すべきだ」
(水産庁::香川謙二増殖推進部長)
「日本側は,こうした規制強化が科学的に根拠が乏しく過剰な措置であるとして,直ちに撤回を申し入れた」
(村井嘉浩・宮城県知事)(東京 2013.9.11)
「(韓国政府の対応を批判し)(日本の)国民感情として納得できるものではない」と語気を強めた。
(田中一郎) ⇒ この村井嘉治という政治家も,3.11福島第1原発事故のその日から,(食の)放射能汚染や放射線被曝に対しての認識や態度がよろしくない(2年半前の新聞をご覧あれ)。県知事がいつまでもかような態度を続けていると,やがて宮城県産食品が全国の消費者・国民から避けられてしまう時が来るかもしれない。生産者にとっても迷惑な話である。(厳密に調べたわけではないが,毎日発表されている厚生労働省の食品検査結果を見ていると,宮城県の農林水産物の残留放射性セシウム検査の件数が,茨城県や岩手県と比較すると,やや少ないように感じられた:これも村井嘉浩・宮城県知事の「食の安全」に対する基本姿勢が影響しているのかもしれない)
3.科学的根拠がないのは韓国ではなくて日本だ:科学が証明すべきは「危険」ではなく「安全」だ
上記で見た通り,水産庁の役人達は「韓国の輸入禁止には科学的根拠がない」と主張している(それを,わけのわからぬ政治家が「オームのものまね」をし,また,生産者団体がそれをはやしたてている)。しかし,それは全く逆の話で,科学的根拠がないのは韓国の方ではなくて日本の方である。
そもそも,食品を輸入するか否かの判断の基準は,その食品が「科学的に危険であると証明されているから輸入を禁止する」のではなく,(放射能汚染という危険である蓋然性がある中で)「科学的にその食品が安全であると証明されているから輸入を許可する」ということである。食品を輸出する側が「食の安全」の証明責任を買い手側に逆転・転嫁することは許されない。そして日本側は,輸入禁止された8県の海域で獲れる水産物の安全性を科学的に立証できているのかというと,答えはノーだ。
(1)水揚される水産物の放射能検査体制が貧弱極まりなく,そのほとんどが未検査状態で出荷されている。水産物は個別個別の個性が強くロット検査にはなじみにくい。もっと数多くの水産物を検査しなければ,汚染の実態や全容はとうてい掴みきれない。
(2)放射性セシウムだけが検査され,格段に危険な放射性ストロンチウムなど,他の放射性核種は未検査のままである。しかも,それらの核種には規制値さえなく,事実上,わずかの水産物に対して放射性セシウムだけが調べられているにすぎない。調査・検査が貧弱で規制値がないような状態で,どうして安全の「科学的根拠」があると言えるのか。
(3)厚生労働省が2012年4月から実施している水産物への残留放射能規制値の数値=100ベクレル/kgは値が大きすぎる。特に放射線感受性の高い子どもや若者にとっては,かような値の汚染物は安全などとはとても言えない。日本は外国と比べて水産物の消費が多いことも考慮されていない。
(4)海の汚染状況はほとんど調査されておらず,今後の見込みも不明のままである(原子力「寄生」委員会がまもなく着手しそうであることが報道されている)。
*汚染水データ集約 規制委、海洋調査を強化 :日本経済新聞
http://www.nikkei.com/article/DGXNASFS1303H_T10C13A9EA2000/
従って,韓国が,日本産の水産物の汚染状況を見極めるまで,輸入を禁止するのは当然のことであり,また,放射性セシウム以外の放射性ストロンチウムなどの検査を要求することも,また,当然のことである。
そもそも,水産庁のいい加減な話を政治家や漁業団体が「オームのものまね」するのではなく,(日本産水産物が安全であることの)「科学的根拠」は,本来は日本側が韓国に対して示すべきものである。海を汚し,水産物を汚し,しかも,その汚れたものを韓国に対して買ってくれ,と言っているのは日本である。売る側が,その売り物が安全であることを示すのは,当たり前のことである。
4.輸入食品の安全性をどの水準にするかは各国の主権の問題であり,各国がそれぞれに決めることである
上記で見たように,日本側がやっていることは,(似非)科学主義の名のもとに,立証責任を買い手側・輸入側に転嫁して,安全とは言えないものであっても買って食え,と韓国に対して強要をしているということである。しかも,食品の放射能と,それを食べることによる放射線内部被曝については,ここまでなら「安全」という閾値は存在しない。従って,どの程度の水準で「我慢するか」を決めるのは,それは輸入するそれぞれの国の「国家主権」事項であって,輸出する側が,似非科学や屁理屈で,それをねじ伏せるような話ではない。韓国に輸入を拒否をされたら,それは致し方のないことである。
5.この日本側の韓国に対する傲慢な態度こそが,TPPやWTOなどの国際市場原理主義の正体である。
実は,今回のこの日本側の韓国への傲慢な態度こそが,TPPやWTOにおける貿易のやり方や「食の安全」の確保の「ルール」そのものである。簡単に言えば,国際間で非常に低いレベルで,さしたる「科学的根拠」もなく,取引される商品の安全性に関して「規制値」や「禁止事項」「遵守事項」などを決めておき,それを超えたら(超えるような厳しい措置をとる場合には),輸入規制措置をする側・輸入を拒否する側がその根拠を科学的に示せ,という,「証明責任の逆転」が巧みに「ルール化」されているのである。食べ物は売る側が安全であることを立証しなければならない,立証できなければ買わない(輸入しない)自由がある,こんなことは当たり前のことだが,それがWTOやTPPなどの国際市場原理主義の下ではひっくり返されて,買う側・輸入する側が「危険であること」を科学的に立証させられる仕組みになっている。
国際市場原理主義にとっては,「食の安全性」などは国際取引の「非関税障壁」そのものであって,百害あって一利なし,WTOやTPPなどの国際協定,あるいはコーデックス委員会などの国際機関で決めた以上のことは,国際取引の邪魔だから一切認めるな,というのが本音である。つまり,企業が儲けるためには,毒まみれだろうが,危なかろうが,文句を言わずに買って食え,というのが,国際市場原理主義の考え方だということである。(実際,途上国など,世界の多くの国では,食の安全性や危険性についての分析や調査や立証をする体制は存在していない)
そして,上記で申し上げたように,守られるべきとされる「食の安全」に関する国際間ルールは,各国の食の事情その他を無視して,供給する多国籍大企業や食糧輸出国などの利益を損ねないように,非常に低い水準で決められている。それがいやだったら,危険であるということを,いやなお前が証明しろ,これが「ルール」である。しかし,冗談ではない,食べものの安全性は,売る側・供給する側が証明しなければならないものである。何が国際ルールなのか!! こんなものは「インチキ科学主義」にすぎないのだ。
6.水産庁は,福島・宮城・茨城の各県沿岸・沖合で獲れる水産物の汚染状況と安全管理について消費者・国民に説明せよ
上記で見たように,水産庁の香川謙二増殖推進部長は次のように語っているという(水産経済 2013.9.19)。「協議では、原発港湾内と港湾付近の海水の放射能データや,魚種別のモニタリング調査結果,ストロンチウムの検査結果等も詳細に提供,水産物の安全管理対策や汚染水対策を説明した」
何故,輸出先の韓国にはこのように説明して,日本の消費者・国民にはきちんと説明しないのか。つまらぬ「安全・安心キャンペーン」などをやっているヒマがあったら,水産物の安全性について,肝心なことを消費者・国民に対してきちんと説明せよ。
7.政府・水産庁,県知事,漁業団体らの発言の矛先は,実は韓国ではなくて日本の消費者・国民だ
さて,最後にもう一つ,この一連の関係者の言動についてポイントを指摘しておきたい。それは,輸入禁止の「科学的根拠」がない,毅然とやれ,日本は「食の安全」に対して厳しい対応をしているのに韓国の態度は何だ,云々は,実は,韓国に対しては,というよりも,そもそも国際的には通用する話ではなく,関係者たちはそれを重々承知の上で,実は日本国内の消費者・国民に向かって,「韓国の今回の輸入禁止措置はとても変で極端なことだから,惑わされないでください,我々は頑張っていますから,引き続き8県沖で獲れる水産物を買って下さい」と言っているのである。
彼らのやりたいこと,やろうとしたことは,日本の消費者・国民に「(韓国に)右にならえ」をしてもらいたくない,という,その一点に尽きると言ってもいいかもしれない。だから,少なくとも日本国内では,なりふり構わず韓国を悪者にして,その衝撃的な輸入禁止措置=汚染海域からの水産物を当面は一切買わない,が国内に波及しないよう予防線を張っていると考えていいだろう。まさに,この日本側関係組織の態度の悪さと強引さは国内向けの(安全・安心)パフォーマンスなのだ。
この問題に関する正解はただ一つ,放射能汚染物は買ってはいけない,食べてはいけない,である。少なくとも,福島・宮城・茨城の三県の沿岸・沖合で獲れる水産物は潜在的に危険である。特に水産物は,放射性セシウムだけに注目していても,安全性などおぼつかない。日本の今の食品の貧弱な検査体制では,この危険性を排除することは到底できないし,政治も行政も,水産食品流通業者も,そして場合によっては漁業者も,食の安全に対して無責任である。
安心できない時は買わない方が無難である。無用の放射線内部被曝は避けなければならない。恒常的な低線量内部被曝を続けることは非常に危険なことである。悲しいかな,東日本の太平洋で獲れる水産物は,もはや安全とは言えなくなってしまっているのである。怒りは韓国に向けるのではなく,東京電力や原子力産業や御用学者をはじめとする原子力ムラと,その代理店政府に対して向けられるべきである。
Ⅱ 福島県の漁業団体が試験操業を再開
福島県の2つの漁協と所属する漁業者が,福島県沖合での試験操業を再開いたしました。下記はそれに関することです。
<ご紹介する新聞・雑誌記事等:添付できませんでした>
(1)福島の2漁協,試験操業再開(東京 2013,9,25他)
http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/news/CK2013092402000234.html
http://www.tokyo-np.co.jp/s/article/2013092501000842.html
(2)海の魚,放射能は今(朝日 2013.9.25)
http://www.asahi.com/shimen/articles/TKY201309240622.html
(3)「魚」は本当に安全なのか(『アエラ 2013.9.30)』
(4)福島後をどう生きるか(藤田祐幸 『世界 2013.10』)
<関連サイト>
*全漁連ホームページ/週間ニュース/JF全漁連情報:「鈴木外務副大臣へ水産物禁輸措置解除を要請」他
http://www.zengyoren.or.jp/news/news.html
*JF福島漁連ホームページ
http://www.jf-net.ne.jp/fsgyoren/
*河北新報 内外のニュース/福島・相馬の漁協、試験操業再開 タコやイカ、26日から店頭へ
http://www.kahoku.co.jp/news/2013/09/2013092501001872.htm
*試験操業 いわき市漁協、来月3日 相馬双葉はきょう再開 (河北新報) - Yahoo!ニュース
1.福島県の漁業者は,試験操業を中止し,万全の賠償・補償と,移転・移住・漁業経営再建,並びに生活再建のための政策支援実現へ向け,多くの消費者・国民と協力して政府を動かしましょう
既にマスコミ報道されておりますが,福島第1原発からの放射能汚染水の海への流出が続く中,福島県の2漁協が福島第1原発沖合の海域での試験操業の再開を決め,うち相馬双葉漁協の漁業者が9月26日に出漁したようです(一方,いわき市漁協の漁業者は10/3出漁を予定:河北新報)。しかし,この行為は,海と海産物への放射能汚染の危険性を軽視しており,およそ食べものを生産・出荷・取扱う者として「やってはいけない」一線を踏み越えた,消費者・国民の信頼に背を向ける行為だと言えるでしょう。漁業者の方々の苦境・窮状については痛いほどよく分かりますが,それでも放射能汚染の危険性の高い海産物は漁獲・出荷などしてはいけないのです。
水産物流通は食品流通の中でも産地偽装などの表示偽装の多いのが実態であり,場合によっては,この福島県沖の海産物についても,産地表示が偽装されて流通する可能性があります(売れ残った場合などに,第三者に転売されて流通していくと,産地偽装等の可能性が高くなる)。また,何度も申し上げていることですが,獲れた海産物については放射性セシウムのみが検査されているだけで,放射性ストロンチウムをはじめ,懸念されるその他の放射性物質の検査はなされておりません。かような危険な水産物は食用とするわけにはいかないのです。そもそも漁業をしてはいけません。漁業者自身も漁業労働に伴う被曝の可能性があります(外部被曝よりも漁をしている間の呼吸被曝が心配です)。
消費者・国民の自己防衛としては,福島県産のみならず,福島県の2漁協が水揚して出荷してくる16種の魚種について,当分の間は産地如何にかかわらず買わない・食べない,の我慢をする方法があります(産地偽装表示に対する防衛)。特に外食や加工食品は,汚染魚が買いたたかれて原材料として使われやすい環境にありますので要注意だと言えるでしょう(例えば,安い居酒屋の魚介類)。
それから,これも何度も申し上げてきましたが,被害を受け続けている漁業者への賠償・補償や,移転・移住と,その新天地での漁業経営や生活の再建支援について,万全の政策的対応がなされなければならないことは言うまでもありません。そもそも生産者・漁業者や消費者・国民を,ともに福島第1原発事故による放射能汚染の被害に曝して,その償いをきちんとしようとしない加害者・東京電力や事故責任者・国にこそ,諸悪の根源があることを,再度強調しておきます。
2.海を汚染させる放射能の原発からの流出の3つの経路
以下の3つは,福島第1原発から海への放射能汚染水流出が表面化した今年7月から始まった話ではなく,2011年3月の福島第1原発事故以来,ずっと続いている,おぞましい巨大な海洋の放射能汚染・環境破壊なのです。
しかし,マスコミ達は,海や海産物の放射能汚染の深刻さや危険性について,非常に軽率かつ愚かな報道を続けており,それはまるで原子力ムラ代理店業務の一環であるかのごとき様相です。下記の3つに関して申し上げれば,(3)が失念されている様子がうかがえます。しかし,それは大きな認識不足です。以下,岩波月刊誌『世界』(2013.10)に掲載されました藤田祐幸氏の論文から関連箇所を引用しておきます。
● 福島第1原発からの汚染水の海への3つの流出ルート
(1)原発敷地と海が接する海岸壁の海水面下の壁面から,放射能汚染地下水が海へ滲み出ていく
(2)タンクから漏れた超高濃度汚染水や,地面に落ちた雨水が敷地内の放射能を含み込んで,あるいは原発港湾内から取り込まれた海水が,原発の排水路などを経由してストレートに港湾外の海へ流れ込む
(3)汚染された地下水が,原発沖合の海底まで地下水脈を経由して流れ出て行き,そこで泉のように湧水する(海底の湧水)
●「福島後をどう生きるか(藤田祐幸 『世界 2013.10』)」より
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「私は三十年ほど昔の体験を思い出していた。当時、石垣島の白保という小さな集落の地先の珊瑚礁を埋め立てて空港を建設するという話が進んでいた。私は何度か現場に赴き、地元の漁師や沖縄の研究者たちと日夜を問わず語り尽くした。そこで学んだことは、珊瑚礁のあの豊穣の海の源は、島を覆う熱帯雨林に降り注いだ雨水が、地下水として海中に湧出し、そごに海草が繁茂し、豊かな生態系を支えているということであった。この海岸線に空港のような巨大土木工事がなされれば、地下水脈が遮断され、美しい珊瑚礁が壊滅するととが懸念された。ウミンチユたちの生活をかけた抵抗の結果、この地区での空港建設は断念され、新石垣空港は別の場所に建設された。」
「今も白保の美しい豊穣の海は守られている。当時、私は三浦半島の先端部に暮らしていた。沖縄の海で学んだことが、本土の海にも存在するのかを確かめるため、春の大潮の干潮の時、半島先端部の岩礁地帯を歩いてみた。すると、干上がった岩場のあちこちに,こんもりと海草が茂っている場所があることに気づいた。その海草の根元をかき分けると、岩の割れ目から水が湧いていて、なめてみるとそれは真水であった。森に降り注いだ雨水は、森の豊かな土壌の栄養分を溶かし込んで、地下にしみ込み、地下水となって流れ下り、海中の岩の割れ目から湧出し、そごに海草が繁茂し、魚たちはこの藻場に産卵し、稚魚たちは藻に守られながら成長していくことが、どこでも確かめることができた。江戸時代から沿岸の森林が「魚付き林」として保護されてきたのには意味があったのだ。昔の人たちは「自然の摂理」をわきまえていた。」
「わずか一キロにも満たない福島第1原発の敷地から、毎日三百トンもの地下水が湧き出していることが、はしなくも原発事故により明らかになった。三陸から福島の浜通りに至る豊かな海は、背後に連なる山岳地帯から流れ込む栄養分に支えられていたのだ。」
「海の豊かな命の連鎖を根幹で支える栄養分を運び続けてきた地下水が、本来厳重に環境から隔離しなければならない原子炉に流れ込み、おびただしい放射能(核分裂生成物)に接触し、その放射能を海に流し続けてきた。事故発生直後から二年半に及ぶ現在までそれは続いてきた。」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・(以上,引用終わり)
(参考)韓国の新聞報道(日本産海産物の輸入禁止)
最後に,日本ではあまり報じられない韓国のマスメディアのこの問題に関する報道を見ておくことにいたします。下記のネット上で検索してご覧下さい。
(1)2012-9-21 日本 "セシウム基準以下" 主張するが…他の放射性物質さらに危険
http://japan.hani.co.kr/arti/politics/15644.html
(水産物輸入禁止’抗議は自己矛盾,食品医薬品安全処 "自国民の安全のための措置,国際法・国内法上 規制妥当)
(2)2013-8-1 "日本産食品輸入中断を"
http://japan.hani.co.kr/arti/politics/15301.html
(市民団体、政府に対策要求)
(3)2013-9-01 ”国民の97% "日本産輸入食品放射能汚染に安全とは言えない"
http://japan.hani.co.kr/arti/politics/15517.html
(93% "政府の日本産輸入食品対策は適切でない)
(4)2013-9-15 日本 放射能‘居直り ?
http://japan.hani.co.kr/arti/politics/15620.html
(日本 水産庁幹部 16日食薬処訪問,‘8県水産物 輸入禁止’抗議 予定,"返答を受けられなければWTOに提訴",中国は10県輸入禁止中)
(5)2013-9-17 日本政府、韓国が甘く見えるか ?
http://japan.hani.co.kr/arti/politics/15633.html
(水産物輸入禁止国家中、唯一韓国にのみ強く反発,チョン・ハナ議員、49ヶ国対象調査…"政府が顔色を伺うため)
(6)「韓国水産相「日本は非道徳的」 対応を猛批判」(2013年9月30日 共同通信)
http://sankei.jp.msn.com/world/news/130930/kor13093019510002-n1.htm
*(参考)大韓民国が日本の魚介類を輸入禁止にする理由 茨城沖の魚介類 - YouTube
http://www.youtube.com/watch?v=7omEo6p5RIY&feature=youtu.be
*韓国大使、汚染水の共同調査提案 規制撤回は拒否 - 47NEWS(よんななニュース)
http://www.47news.jp/CN/201310/CN2013100101002663.html
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【ソウル共同】東京電力福島第1原発の汚染水漏れを理由に韓国が日本の水産物の輸入規制を強化した問題で、李丙ギ駐日韓国大使は1日、東京の韓国大使館を訪れて規制撤回を求めた全国漁業協同組合連合会(全漁連)の岸宏会長らに対し、汚染水漏れの状況や水産物の汚染状況を日韓が共同で調査することを提案した。同大使館の説明として聯合ニュースが伝えた。
全漁連側が求めた福島県など8県の水産物に関する輸入規制の撤回については、汚染水問題への韓国国民の懸念が強まり、水産物の消費減少が深刻になったための避けられない措置だとして、応じられないとの考えを示したという。(共同通信)
・・・・・・・・・・・・・・・・(以上,引用終わり)
Ⅲ NHK―ETV特集「海の放射能に立ち向かった日本人:ビキニ事件と俊鶻丸」
NHK教育TVのETV特集で,久しぶりに素晴らしいドキュメンタリーが放送されました。2013年9月28日(土)午後10時からの「海の放射能に立ち向かった日本人~ビキニ事件と俊鶻丸(しゅんこつまる)~」です。
1954年3月のビキニ水爆実験と,第五福竜丸をはじめ,多くの日本のカツオマグロ漁船が放射線被曝させられた直後の同年5月,気象研究所の三宅泰雄氏他,日本の若き科学者達が俊鶻丸(しゅんこつまる)という調査船に乗り,放射線被曝や米軍による内密の撃沈の危険性を覚悟の上で,海と海産物の放射能汚染の実態調査に命がけで乗り出し,すぐれた報告書をまとめました。私は今の今までこの話を知らないままでしたので,まことに自分の無知を恥じずにはおれません。
ところで,そこには,1950年代の半ばにおいて,早くも,核実験に伴う海の放射能汚染の広がりや,魚(この場合はマグロを中心に,その餌となる海洋生物)の放射能汚染の状況が明らかにされていたのでした。マグロの放射能汚染は,その部位や内臓によって大きく汚染の状況が違っていた他,いわゆる食物連鎖によって,プランクトンの汚染がだんだんとマグロに至るにつれて濃縮・滞留して高くなっていくことも明らかにされました。
また,三宅泰雄氏は,その後日本において原発が増えて行く中で海洋の放射能汚染の可能性を危惧し,多くの分野の専門家や科学者が総合的に放射能汚染の実態とその影響を研究・実証できる「環境放射能研究所」の設立を提言されていました。
私は,当時の少なくない科学者や研究者達が,科学という営みにおいて真実を真摯に求め,核兵器や放射能汚染に対して断固として立ち向かう気概と誇りを持った,立派な人間の集団であったことを,このフィルムは証しているのだと強く感じます。そしてそれは,今日のように,科学も科学者も,大資本を含む支配権力に完全包摂され,恥ずかしくもみすぼらしくも,完璧なニセモノ=似非科学と化してしまった時代とは決定的に違うのだな,ということを,同時に残念に思う次第です。
番組の最後の方で,福島第1原発沖合で海や海産物の汚染状況を調べる岡野真治氏は,今と昔の汚染調査の違いに言及し,「今と昔を比べると,各分野の科学者・研究者が協力して,継続的かつ本格的・総合的に海洋汚染を調査をする組織や体制が今はない,つくれていないという点が大きく違う」と指摘されていました。海洋環境の放射能汚染と食品の放射能汚染について,やる気さえあればできる総合的で本格的な調査研究体制が,福島第1原発事故後,いつまでたっても創られる様子はありません。この事態を,自らの恥であると受け止めている科学者は,いかほど,この日本に存在しているのでしょう。
それどころか,水産庁を筆頭に,多くの似非科学者達は,魚は放射性セシウムを体内にため込まないだの,福島第1原発沖を含む日本の太平洋近海の海産物は心配無用・危険性はない,などと,ろくすっぽ海産物検査をしなければ,海洋汚染の調査もしないで,日々「安全・安心キャンペーン」の無内容の宣伝PRを繰り返しているのです。例えば俊鶻丸が当時やったような,マグロなど大型の魚の内臓や部位の違いによる放射能汚染の状態の違い,あるいは放射性核種による汚染状況の違い,あるいは食物連鎖の状況などなど,調べるべきことは山のようにあるはずですが,およそ科学者と名刺に書かれている人間達が,これについて多くを語ることは,まずありません。
こうした日本と科学の危機の中で,大学や研究所において御用学をいそしむ腐った自称「科学者」たちに,私は「恥を知れ」と申し上げたい。ビキニ事件後に俊鶻丸(しゅんこつまる)が残した偉業は,逆に,福島第1原発事故後の今の日本のあまりのみじめさと,悲しさと,情けなさを浮き彫りにしているような気がしてならないのです。
*NHK【ETV特集】海の放射能に立ち向かった日本人 ~ビキニ事件と俊鶻丸~ 2013年9-28(土)夜11時、再放送:2013年10-5(土)午前0時45分(金曜深夜)
http://www.nhk.or.jp/etv21c/file/2013/0928.html
(以下,上記サイトから引用)
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
1954年3月1日、アメリカが太平洋ビキニ環礁で行った水爆実験で、日本のマグロはえ縄漁船・第五福竜丸が被ばくしました。被害は水産物にも及び、日本各地の港では放射性物質に汚染されたマグロが相次いで水揚げされます。しかし、核実験を行ったアメリカは、放射性物質は海水で薄まるためすぐに無害になる、と主張しました。
このとき、日本独自に海の放射能汚染の実態を解明しようという一大プロジェクトが始動します。水産庁が呼びかけて、海洋や大気、放射線の分野で活躍する第一線の専門家が結集、「顧問団」と呼ばれる科学者たちのチームが作られました。そして水爆実験から2か月後、顧問団が選んだ若き科学者22人を乗せた調査船・俊鶻丸がビキニの実験場に向けて出発します。2か月に渡る調査の結果、海の放射能汚染はそう簡単には薄まらないこと、放射性物質が食物連鎖を通じてマグロの体内に蓄積されることが世界で初めて明らかになりました。
俊鶻丸「顧問団」の中心的な存在だった気象研究所の三宅泰雄さんは、その後も大気や海洋の放射能汚染の調査・研究を続けます。原子力発電所が次々と作られていく中で、三宅さんをはじめとする科学者たちは、大きな原発事故にも対応できる環境放射能の横断的な研究体制を作るべきだと声を上げます。しかし、それは実現しないまま、2011年3月11日福島第一原発の事故により、再び放射性物質で海が汚染されました。
ビキニ事件当時、日本の科学者たちが行った調査から、今私たちは何を学ぶことができるのでしょうか。俊鶻丸に乗り込んだ科学者の証言や、調査を記録した映像などから描きます。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(以上,引用終わり)
<参考サイト>
*岩波新書(青版)『死の灰と闘う科学者』三宅泰雄/著 http://www.e-hon.ne.jp/bec/SA/Detail?refShinCode=0100000000000000694191&Action_id=121&Sza_id=E1
*NHK【ETV特集】海の放射能に立ち向かった日本人 ~ビキニ事件と俊鶻丸~:ロボット人間の散歩道:So-netブログ
http://robotic-person.blog.so-net.ne.jp/2013-09-29
(別添は厚生労働省がHPに毎日発表している食品の残留放射性セシウム検査の結果です。福島・茨城・宮城3県の水産物を中心に若干をピックアップいたしました)
以 上
別添PDFファイルの2つの新聞記事は,今般,審議が進められている原子力損害賠償紛争審査会での賠償・補償指針の見直しの動向に関する報道である。ご承知の通り,我が国では,「東京電力(福島第1原発)放射能放出事件」から2年半以上が経過しているというのに,原発事故で被害を受けた大半の方々が,未だ生活や人生の再建・再スタートに着手できないどころか,今日明日の行方も定まらない不安定な境遇に縛り付けられ,かつ放射線被曝の危険性におびえながら,経済的に困窮した,つらい,悲しい,厳しい,苦しい生活を余儀なくされている。しかもそれは,何も福島県の避難指示区域の方々だけでなく,放射能で汚染されてしまった福島県各地や,広く関東・東北の各都県の人々にも広がりを見せているのであり,今や看過できない重大な問題=人権侵害問題となってきているのである。
こうした情勢下,これまで被害者切捨てのために発足したのではないかと疑わせるような仕事ぶりを発揮してきた原子力損害賠償紛争審査会が,このたび,ようやくその重い,かつ歪んだ「腰」をあげ,従来の原発被害に対する賠償・補償の指針見直しに着手し始めた。下記に紹介する記事は,その賠償指針再検討の最終局面を伝える報道だが,それを見る限り,事態の改善にはあまり結びつかない,依然として不十分極まる内容となっている。以下,記事内容を簡単にご紹介するとともに,その問題点を具体的に浮き彫りにしておきたい。
<別添PDFファイル>
(1)福島帰宅困難者,家屋の賠償上乗せ(毎日 2013.9.30 夕刊)
(2)原発事故慰謝料 避難解除1年後まで 原賠審方針(朝日 2013.10.1)
1.福島帰宅困難者,家屋の賠償上乗せ(毎日 2013.9.30 夕刊)
[その1]http://mainichi.jp/feature/20110311/news/20130930dde001040004000c.html
[その2]http://mainichi.jp/select/news/20130930dde007040046000c.html
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(上記より引用:その1)
「東日本大震災:福島第1原発事故 帰宅困難者、家屋の賠償上乗せ 木造築48年超で2.5倍 毎日新聞 2013年09月30日 東京夕刊
文部科学省の原子力損害賠償紛争審査会は、東京電力福島第1原発事故による帰宅困難者らの家屋の賠償額を上乗せする方針を固めた。築年数に応じ増額され、補償の最低基準は従来の最大2・5倍程度になる。避難先での住宅取得を支援するのが狙い。10月1日の審査会で審議し、損害賠償指針に盛り込む。
不動産の賠償は2012年3月の審査会指針に沿い経済産業省が同7月に基準を決定。東電が事故前の固定資産税評価額などにより賠償額を算定し、支払いを始めている。家屋の賠償額は、減価償却の考え方に基づき、築年数が長いほど低く算定される。現行の算定方法は、家屋補償の最低基準を新築時の2割と規定。木造家屋では、築48年超の場合に最低基準が当てはめられる。
しかし、避難者の多くは都市部に避難しており、不動産価格の格差から避難先での住宅取得が難しく、生活再建に支障があると不満の声が出ていた。このため、審査会は不動産価値の損害について「移住せざるを得ないことによる損害」の概念を新たに導入。ダムや道路工事に伴う住宅移転の補償制度を参考に、最低基準を新築時の最大5割程度に引き上げることにした。
例えば、2000万円で建てた築48年超の木造家屋の場合、補償額は従来の400万円から1000万円に増額される。木造以外でも同等の上乗せとなる。帰還困難区域に加え、居住制限区域や避難指示解除準備区域でも、避難年数に応じて減額した上で、リフォームなどの費用を考慮して補償する。対象は3万戸前後の見込み。
原発事故の賠償問題に詳しい大阪市立大の除本理史(よけもとまさふみ)教授は「避難者の被害実態を踏まえて審査会が指針を見直すことは高く評価できる」と話している。【奥山智己】」
(上記より引用:その2)
「解説:東日本大震災 福島第1原発事故 帰宅困難者、家屋賠償上乗せ 住宅再取得に配慮 毎日新聞 2013年09月30日 東京夕刊
原子力損害賠償紛争審査会が家屋の賠償額の上乗せ方針を固めた背景には、事故のためわが家を追われ、避難先で住宅を買わざるを得ない避難者の実情を、今の賠償指針が十分に反映できていない現実がある。
審査会が2012年3月にまとめた不動産の賠償指針では、地元の要望を受け「同等の建物を取得できるような価格とすることに配慮する」ことを求めた。この「同等」の取り扱いについて、避難者は「事故前と同じ家が買える」ことを期待したが、東京電力は「築年数に応じて減価償却した、事故時点の資産価値」と解釈。さらに償却による価値の目減り分を大きく見積もるなどして、賠償額を低く算定しようとした。そのため、経済産業省が同7月、目減り分を抑えるため基準を策定。しかし、買い替えを迫られた避難者の実態にはなお追い付いていなかった。審査会は今回、「移住せざるを得ないことによる損害」の概念を導入した。従来の賠償額に上乗せすることで、減価償却による目減り分を一部補う。
新たな方針について原発被災者弁護団の丸山輝久弁護団長は「上乗せ自体は評価できるが、本当に再取得が進むのか、慎重に見守る必要がある」と指摘。古くても問題なく住めたわが家の資産価値が低く見積もられ、移住後の生活再建に支障となることに、避難者は納得できない。土地の価格差などの課題も残っており、避難者が住宅取得に一歩を踏み出せるよう、実態に沿った賠償指針づくりが求められる。【奥山智己】」
・・・・・・・・・・・・・・・・(以上,引用終わり)
現在の「東京電力(福島第1原発)放射能放出事件」に係る損害賠償・補償の進め方については山のように問題がある。もはや「山のような問題」というよりは,原発被害を小さく見せ,加害者・東京電力や事故責任者・国の賠償・補償負担を極端に小さくするために,政治的にあらゆる手段が使われていると言ってよく,従ってまた,それは「問題」ではなく,賠償・補償責任の政治的なゴマカシや歪曲・放棄,あるいは重大な人権侵害,ないしは,今世紀における最も悪質な国家犯罪・権力犯罪となりつつあることを認識すべきである。
原子力損害賠償紛争審査会(原賠審)とは,そうした人権侵害・国家犯罪を覆い隠すため,あるいは政治的に乗り切るための(虚偽の)正当性・妥当性を糊塗するためにつくられた一種のインチキ組織であり,従ってまた,彼ら原賠審委員たちは,被害実態に合わない,被害者の安全救済からは程遠い「(賠償免責のための)屁理屈の体系」=「被害者への泣き寝入り強要スキーム」を練り上げては,原発事故で苦しむ被害者の方々にそれを押しつけ,現場での悲惨な状況に対して,ずっとこの間,見て見ぬふりをしてきたのである。
(原賠審はこの背信的態度の「言い訳」として「賠償指針は最低限の基準だ」とリップサービスするが,当事者の東京電力は原賠審の指針をそのようには運用せず,逆に「最大限の基準」として使い,支払拒否の口実にしているのである。それに対して原賠審が抜本的な対応の転換を東京電力に求めたなどという話は寡聞にして聞かない)
このほど,さすがに「インチキ組織」とはいえ,現場のあまりの悲惨さに,従来の姿勢や方針の見直しをせざるを得ない状況となり,ようやく重い腰をあげたが,見直し案の中身は依然として被害者完全救済からは程遠い,お粗末な内容のままである。
<原発事故賠償・補償の至らなさ>
これまでの賠償・補償を巡っては,下記のような許し難い欠陥や歪みがあり,被害者の方々は賠償・補償が充分になされないまま,生活や仕事の再建ができず,人生の再出発のスタートラインにいつまでたっても立てない状態が続いている。
(1)(賠償・補償対象範囲が)狭い
下記で申し上げる「賠償・補償・再建支援」の「5原則+α」で書いたように,原発事故にかかる損害賠償・補償は,当然ながら「全ての被害者の全ての被害・損害が,何の留保条件を付けられることなく,すみやかに全額賠償または原状復帰されること(逸失利益含む)」でなければならない。そして,その場合のいわゆる(損害発生の)「因果関係」の立証も,各具体的な損害について,一定程度の蓋然性があればそれでよく,それ以上のことは,加害者・東京電力や事故責任者・国の方で「因果関係がない」「賠償する必要がない」ことを立証した場合にのみ,賠償・補償の責任が免除されるような仕組みでなければならない。
しかし,現実はそれとは全く逆で,まず,損害賠償・補償の対象が地域・地点で絞り込まれ,福島県の浜通り地方の避難指示区域以外の地域では,事実上,賠償・補償のほとんどが東京電力によって拒否されてしまっている。今でも福島県内の避難指示区域以外の方々や,福島県外の汚染地域やホット・スポットの方々には,自主避難者も含めて,賠償・補償はほとんどなされる気配がないのである。おまけに昨今では,避難指示区域再編などと称して,強引に,高いレベルの放射能汚染を前提に地域が3つに区分され(*),それぞれに賠償・補償で差がつけられるという,地域・人心の分断政策までもが導入されている。それはまるで,多くの被害者を賠償・補償切り捨ての兵糧攻めにしながらも,他方では,札束で被害者の顔を叩いて,さっさと汚染地域に戻れ,戻ればそれなりのことはしてやると,恫喝的に汚染地域への帰還を催促するような卑劣なやり方である。
(*)政府は,避難指示区域を20mSv/年,50mSv/年で3つに区切り名前をつけた(帰還困難区域,居住制限区域,避難指示解除準備区域)。もちろん20mSv/年や50mSv/年に科学的な根拠などない,放射線被曝線量としては非常に高い危険な値である:住めと言われても,とても住めるものではない)
更に,どんな損害に対して支払うのかという対象事物についても,あれだめ・これだめの許し難い対応が続けられており,ただでさえ経済的・精神的に困難な状況下に追い込まれている被害者の方々を,更に苦境に陥れる理不尽極まりない状況がつくられているのである。
簡単に言えば,20mSvまでの放射能汚染については,つべこべ言わずに元の所に戻って住め,また,50mSvくらいなら数年したら線量も下がって来るから,これもつべこべ言わずに少し待っておれ,移住や移転などもってのほかで,そんなことする奴らは,福島県その他の被害地域の再建に参加・協力せずに,それを妨げる「非国民」だから,賠償も・補償もしてやる必要などない(形だけのわずかなものでいい),ということだ。こんな理不尽極まる卑劣な人権侵害行為は断じて許されないことである。
日本には,一般人の放射線被曝限度線量が年間1mSvであるという法律が「東京電力(福島第1原発)放射能放出事件」前から既に存在している。当然ながら,賠償・補償の対象も,この年間1mSvが一つの区切りの基準にならねばならないはずである(但し,1mSv以下は賠償・補償が不要と申し上げているのではない。そもそも事故前には,年間1mSvを超えるような被ばくをする汚染地域は存在していなかった。それを汚してしまったことの償いは,たとえ1mSv未満であっても,してもらわなければならない)。
(2)(賠償・補償金額が)足りない
記事では住宅などの土地・建物=不動産が事例に挙げられているが,加えて,金額の大きな動産類(車両,農機具,営業用資産等)も同様である。これらは中古品として時価評価された上に,減価償却費をみなし金額で差し引かれてしまうため,賠償額としては非常に小額の金額になってしまう(記事によれば,築48年以上の家屋の補償が最低基準となり,新築の場合のわずか2割しか支払われないという)。
そのため,生活や家業を放射能汚染されていない新天地で再建・再スタートしようとしても,お金が足りなくて住宅が入手できない,元手がなくて家業が開始できない,など,経済的に苦境に陥り,結局は汚染された従来の土地・家屋に帰還しなければならなくなってしまう(それ以外に生活していけない)。これでは加害者側の「坊主丸もうけ」ならぬ「加害者丸逃げ」の理不尽を追認しているようなものである。
記事には「審査会は不動産価値の損害について「移住せざるを得ないことによる損害」の概念を新たに導入。ダムや道路工事に伴う住宅移転の補償制度を参考に、最低基準を新築時の最大5割程度に引き上げることにした」と書かれているが,「公共工事の立ち退き補償」を「参考にする」ではだめで,「最低限とする」,でなくてはならないし,「最低基準を新築時の最大5割程度」では話にならないではないか。「10割」まで引き上げた上で,中古住宅と比較しての割り増し分は,「本人の意思に反して強制的に移住させられるようなもの」という被害実態に対する「損害賠償」と考えるべきである。決して「移住せざるを得ないことによる損害」などというスマートで生易しいものではないことを,金額によって「表面化」させる必要があるだろう。
(3)(賠償・補償が実際に支払われるのが)遅い
書いた通り,支払が遅い。東京電力は自分自身の組織体制のことを言い訳にしているが,そんなの「カンケーネー」である。さっさと払え。そして,さっさと払わなければ,3.11に遡ってきちんと遅延損害金を支払わせなければならない。賠償・補償の決定までに時間がかかる,手続きに時間がかかるなどという言い訳は通用しない。
しかし,原子力損害賠償紛争審査会も,弁護士・法曹界も,この支払遅延で困る被害者の救済のことは,ほとんど何も言わない状態が続いている。まことにおかしな話である。少し前に,正当な理由がないなど,あまりに支払遅延がひどい場合には,遅延損害金を5%の率で計算して加算しろという話が出たことがある。しかし,これには納得がいかない。正当な理由があろうとなかろうと,常識的な事務手続き期間(1か月程度)が過ぎたら,一律に遅延損害金を計算して支払わせるべきである。概算金を仮払いをさせるという方法もある。(更には,政府が立て替え払いをするという方法もある。本来は政府が立て替え払いをすべきなのだ=後に東京電力に請求)
また,利率についても,加害者・東京電力の電気料金の納付遅延損害金利率は10%,金融機関の元利金返済遅延損害金利率は14.5%。消費者金融なら貸出利率は15~20%程度である。それなのに,経済的に深刻な状態にある原発事故被害者の当然の受取賠償金の遅延損害金利率は5%,こんなことは許されないだろう。
(東京電力が消費者金融とつるんで,賠償金の支払いを遅らせ,被害者がやむにやまれず消費者金融に走ることを余儀なくさせておいて,その東京電力が他方で消費者金融に融資すれば利ザヤを稼げることになる。そんなことでいいのだろうか。ともかく,被害者に対して「兵糧攻め」のような状態になっている現状を抜本的に改めよ)
(4)手続きその他が不親切・煩雑
東京電力は,賠償・補償を請求する被害者に対して,山のような証拠書類を要求してくる。そんなもの,お前が取りに行って来い,と言いたくなるようなものではないか。帳票類や証拠書類は最低限にせよ。一定の妥当性があればそれで十分である。懸念されることだとされる,(失念ではなく)悪質な虚偽の請求については,その抑止を目的に少しペナルティを課しておけば十分だろう。
また,東京電力の賠償・補償相談窓口の職員で,応対の態度が悪い人間や,何を言っても賠償・補償の対象外だと請求者を追い払う「瀬戸際対策マン」がいるような話も聞く。時折,覆面の代理人請求を行い(賠償・補償事務取扱の覆面オンブズマン),そんな不心得者を見つけたら厳しく対処すべきである(金額を倍にして支払わせよ)。
(5)賠償ルールの決め方が決定的におかしい
金額の張る不動産などの賠償基準については,何と加害者・東京電力や事故責任者・国=経済産業省が,原子力損害賠償紛争審査会の頭越しに密室談合をして決めている。何故,かようなものがまかり通っているのか。原子力損害賠償紛争審査会は,何故,その適用を否定ないし拒否しないのか。事故損害の賠償を決めるのに,加害者が被害者に対して,お前の損害はこんなもんだ,と一方的に決めるような,そんなことが許されていいのか。「利益相反行為」などという生易しいレベルを超えているではないか。非常識も甚だしい。
また,賠償・補償金の支払の遅延損害金の決め方が(加害者)自己中心的である(上記参照)。更に,原子力損害賠償紛争審査会には,被害者の代表がいない・被害者の声を聞かない・被害の実態を見ない。まるで他人事のようである。加えて,「原子力損害賠償紛争解決センター」(原発ADR)も,新聞等に載る仲裁裁定を見ていると,被害者の賠償請求の「値切り屋」稼業に徹しているようである。期待されている仕事がなされているようには,とても見受けられない。これらの組織は,いったいどっちを向いて仕事をしているのだろうか。やるべきことはその逆だ(しかし,そんな「解決センター」の仲裁裁定ですら,東京電力は従おうとはしないことが多い:被害者を完全になめてかかっている)。
(6)再建・再出発が軌道に乗るまでの政策的サポート,ないしは賠償・補償の「上乗せ」(増額部分)がない
「東京電力(福島第1原発)放射能放出事件」によって被害を受けられた方々が,放射線被曝の懸念のないところで人生の再出発をされる場合,それが軌道に乗るまでの数年間は,当然ながら政策的なサポートが必要だし(就職先のあっせん,就学支援等),自力でやっていただく部分もあるだろうから,賠償・補償の金額上乗せも当然必要だ。しかし,実際は,新聞記事にあったように,失ったものの再取得に必要な金額を割り引いて,低評価して,減額して支払うという,犯罪的とも言えるようなことをしているのが今の状態である。
また,2012年6月に国会が全会一致で制定した「子ども・被災者支援法」についても,政府・復興庁は基本方針を策定しないまま1年以上を無為に過ごし,今般,ようやくパブコメに掛けられた基本方針(案)も,事実上,「子ども・被災者支援法」の条文に違反するような,お粗末極まりないものであったことは既知の通りである。
更に関連して申し上げると,兵庫県を筆頭に,「東京電力(福島第1原発)放射能放出事件」の被害者が避難をしてきて,一時的に他県に住む場合に,公立の小中高の学校に入学することを拒否している自治体があるようである。信じがたいことではないか。住民票を移せ,などと避難者に対して強要しているようである。それができないから(してしまったら,被災県のサポートを受けられない),被害者の方々が困っているのにである。もちろん,お金がなければ,私立学校にも行くことはできない。東京都は猪瀬直樹知事の「鶴の一声」で,遅ればせながらも改められた。
かような理不尽なことをしている自治体は,兵庫県庁以外にどこがあるのだろうか。私はこういうことを見聞きすると,耐えがたいほどの憤りを感じてしまう。(そのような冷血な)自治体の役人達は,いちいち外部から言われなければ物事がきちんとできないのだろうか。およそ人間の血が通っているようにはとても思えないのだ。
(7)賠償請求時効の期限を延長せよ(または時効の廃止)
申し上げるまでもない。2014年3月から到来し始める賠償・補償請求の時効を特別法で延長(または廃止)する必要がある。新聞情報によれば,与党自民党内で,一律に10年に延長する法案が検討されているようだ。一刻も早い成立が待たれている。被害者に一般的な時効成立によって賠償・補償請求を放棄させることは許されない。
2.原発事故慰謝料 避難解除1年後まで 原賠審方針(朝日 2013.10.1)
http://twinavi.jp/topics/news/5249f27e-8470-4ecd-b1cc-1ddd5546ec81
(上記より引用)
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「避難者への慰謝料、避難解除1年後まで 福島原発事故で原賠審方針
東京電力福島第一原発事故で国の避難指示が出た区域の住民に対する月10万円の精神的苦痛に対する賠償(慰謝料)について、文部科学省の原子力損害賠償紛争審査会は、避難指示の解除後1年間は支払いを続けることを指針に盛り込む方針を固めた。1日の審査会で合意する見通し。国の避難指示区域で、慰謝料の支払い期限が示されるのは初めて。審査会は、避難指示の解除に合わせて慰謝料を打ち切らないことで、生活再建が進むと期待している。
一方、慰謝料は「ほとんどが生活費に使われてきた」(審査会関係者)ことから原発事故で所得が低くなった住民からは「避難者切り捨て」との批判が起きる可能性もある。 避難指示区域では、水道や電気などのインフラ復旧や除染が終了して国が指示を解除しても、仕事や商店がないなど帰還後の生活に支障が出る可能性が高い。また、国の調査では、小さい子どもがいる世帯などは放射能の不安などから避難生活を続ける意向が強い。
このため審査会は「解除後も生活は困難で、相当期間は賠償の対象になる」との認識で一致。避難指示の解除後、帰還するしないにかかわらず1年間は慰謝料の支払いを続ける。また、家族離散などの精神的苦痛が続く場合は1年を超える賠償も認める。避難指示は福島県の11市町村の区域に出され、放射線量に応じて3区分されている。実際に解除時期が決まった場所はないが、早期の解除が見込まれる福島県田村市の都路(みやこじ)地区が最初の適用になりそうだ。
慰謝料は、この3区域から避難している計約8万4千人が受け取っている。このうち比較的放射線量が低い避難指示解除準備区域の避難者は約3万4千人で、次に線量が低い居住制限区域は約2万5千人。この2区域で、避難指示を受けた住民の約7割を占める。審査会は居住制限区域も線量が下がれば解除準備区域とし、解除後にこの期限を当てはめる。(大月規義)
■慰謝料、避難生活の柱
東電が支払った避難者への賠償額は1兆円規模に達している。賠償には、仕事を失った避難者の所得に対する賠償や、カビだらけになったりした住宅に対する賠償などがある。その中でも慰謝料は、所得や資産の有無にかかわらず無条件で支給され、税金もかからないため、避難生活を支える大きな柱だ。避難者は仮設住宅で暮らす生活費や、生活再建のための預貯金などに回している。原発から20~30キロ圏内の旧緊急時避難準備区域の住民も、2011年9月末の解除から11カ月間は慰謝料を受け取っていた。一方、約6万人とされる自主避難者への賠償は極めて限定的だ。審査会は精神的苦痛などへの賠償として、18歳未満と妊婦には1人40万円、それ以外は1人8万円などの一時金を認めた。▼37面=旧避難準備区域、帰還6割
◆キーワード
<原子力損害賠償紛争審査会>原発事故で生じた損害について賠償のあり方を決めるため、大学教授や弁護士らでつくる政府の組織。原子力損害賠償法に基づいて文部科学省に設置された。東京電力は審査会の指針に基づいて具体的な賠償基準を決めている。下部組織の原子力損害賠償紛争解決センターが東電と被害者の和解を仲介している。
・・・・・・・・・・・・・・・・(以上,引用終わり)
まず,この朝日新聞の1面トップ記事は,記事の大見出しがよろしくない。記事を読み進めてみると「(慰謝料は)避難解除1年後まで」とは限らず,家族離散など精神的苦痛が続く場合は1年を超える賠償も認める,ということなので,この記事の大見出しは「(慰謝料は)最低でも避難解除後1年後まで,苦痛続けば賠償継続」とでもすべきところだ。
それはともかく,記事によれば,精神的苦痛に対する慰謝料は,そのほとんどが生活費として使われているとのことである。ならばまず,精神的慰謝料とは別に,被害者の方々の当面の生活を支えるための費用の補償を,国が立て替え払いをしてでも用意すべきである。特に,自主避難をしている方々の場合は,1人8万円,または40万円(子どもと妊婦)だという,被害者を馬鹿にしたような金額で誤魔化されているのだから,過去に遡り,きちんと被害生活・避難生活の費用は支払われなければいけないはずである。
それに加えて,自主避難者を含む避難者への「慰謝料」はどうあるべきなのかが,根本的に見直されなければならない。具体的には,上記で申し上げた「当面する生活費・あるいは家業経営維持費」に加えて「突然職を奪われるショック=失業=再就職できない苦痛」「ある日突然,ソフト・ハードの全ての「財産」を奪われる精神的被害」「地域コミュニティを含む従来の人間関係が壊される苦痛」「故郷を剥奪される悲しみ・苦しみ」「慣れない環境下での生活の健康への悪影響と苦痛・医療費増など」「離散家族の再会費」などなど,償われるべき慰謝料事項はたくさんある。
何故,これらをすべて切り捨てるのか。一つ一つ丁寧に拾って行けば,少なくとも,慰謝料を含む賠償額は,資産の再取得を前提とした物損賠償や,悪質交通事故時の精神的賠償額(慰謝料)に加えて,更に多く加算されること,少なくとも,常識的なレベルの1.5~2倍以上に増額されることは当然ではないか。原発事故による賠償・補償は,被害者の数や賠償事項が膨大で加害者側の支払負担も大きいため,1件1件の賠償額は小さくていいなどということには絶対にならない。賠償・補償問題におけるこの精神的苦痛に対する慰謝料の金額の問題は,再建までの生活費や家業経営の維持費支給の問題と併せて,被害者の立場にたって抜本的に見直されなければならない。
それと最後に一つだけ申し上げておけば,被害者に対する損害賠償や除染や廃炉などの「事故の後始末」を加害者・東京電力や事故責任者・国に対してきちんとさせることは,その経済的な「しんどさ」故に,今後の原発・核燃料施設における(いい加減な管理からくる大事故の)再発防止への大きなインセンティブを伴う「出鱈目人間達につけるいい薬」となるだろう。それは言い換えれば,こうした厳しい事故後処理の義務付けや賠償・補償責任がない限りは,原子力ムラの連中は,これからも従来のまんまの「モラルハザード」の「ぬるま湯」につかりながら,再び大事故・過酷事故をもたらすに違いないであろう,ということである。二度と大事故を起こさないためにも,彼らに対して,頭から「事故責任」という「熱湯」をかけてやろうではないか。
<被害者に対する賠償・補償の実現は,最も重要な政治や市民運動の課題の一つです>
脱原発のためには脱被曝が必要不可欠であり,脱被曝を実現するためには,被害者が完全救済されなければならない。そのためには,原発事故で被害を受けた方々への万全の賠償・補償の実現が最優先の事項である。今現在,多くの政治家や市民団体,あるいは法曹界などが熱心に取組んでいる「子ども・被災者支援法」拡充・早期実施の運動とともに,被害者への万全の賠償・補償の実現も,それと並ぶ,いやそれ以上に重要な政治や市民運動の課題であることを認識していただきたいと思う。
何故なら,賠償・補償がきちんとなされなければ,被害者の方々は,いつまでも中途半端で不安定な状態を余儀なくされるからであり,更に現状の補償の水準では,時間がたつにつれて経済状態の悪化と生活苦が深刻化してくるのは明々白々であるからだ。このままでは,被害者の方々は,いつまでたっても生活や人生の再スタートが切れず,家業の再建や新しい仕事を見つけることもままならず,子どもたちの就学などについても支障が出てしまうことになる。文字通り,原発事故による「被害者の人生の完全破壊」が起きてしまう。こんなことは許されない・起きてはならないことだ。我々同時代に生きるものは,これを何としても防ぐ倫理上・道徳上の使命があるのではないか。
先般8月末に,多くの団体や有志を集めて「原発事故被害者の救済を求める全国運動」がようやく立ち上がりました。ご尽力いただいた海渡雄一弁護士,河崎健一郎弁護士,FOEジャパンの満田夏花さん他,「全国運動」を支えて下さっている多くの皆様に心から感謝申し上げるとともに,今後,被害者の完全救済へ向けて,精力的な活動を展開して下さることを願っています。
*FoE Japan 「原発被害者の救済を求める全国運動」キックオフ(2013年8月26日)
http://www.foejapan.org/energy/action/130816.html
<賠償・補償・再建支援:5原則+α(同時代に生きる人間としての使命・倫理)>
最後に,私の考え方を下記に箇条書きにしておきます。賠償・補償・再建支援が,この原則に従ってきちんとなされないと,被害者はいつまでたっても救われないことになります。政府は,この問題を加害者・東京電力に丸投げするのではなく,政府自身が「東京電力(福島第1原発)放射能放出事件」の発生責任者として,「立て替え払い」を含む様々な政策的手段で,被害者の完全救済に向けて取り組みを強める必要があります。一刻も早く,被害者に対する万全の賠償・補償及び再建支援が実施されることを願っています(賠償請求権の時効延長または廃止も含めて特別立法が必要)。
(1)全ての被害者の全ての被害・損害が何の留保条件を付けられることなく全額賠償または原状復帰されること(逸失利益含む)
(2)全ての被害者の生活及び経営が再建されること(費用,段取り,その他の負担のすべてを加害者が負うこと)
(3)上記(2)の再建が確認できるまでの間,全ての被害者の生活及び経営を補償すること
(4)2011年3月11日以降,上記の賠償・補償・再建費用が実払いされるまでの間,電気料金遅延にかかる遅延損害金と同利率の遅延損害金が被害者に支払われること
(5)悪質な交通事故被害の場合以上の慰謝料(迷惑料)が被害者に支払われること
(6)(+α)被害者の被害は「お金」に変えられないものも多い。その部分を加害者・事故責任者が万全にフォローすること
以 上
前略,田中一郎です。
2013年10月3日付の東京新聞「こちら特報部:本音のコラム欄」に,竹田茂夫法政大学教授がお書きになった ”金融危機の教訓”が載りました。以下,拝読しての私の所感をごく簡単に申し上げます。詳しく書いておりますと「大論文」になりますので,ごくごく簡単に,感覚的に書き落しておきます。詳しくはお会いした時にでも議論いたしましょう。
竹田氏がこのコラム記事で述べられている教訓は次の2つです。
(1)かつての5大投資銀行に象徴される米国型直接金融の効率性幻想が払拭された
(2)もう一つの教訓は,自立する市場経済という虚構が赤裸々になった
1.米国型直接金融の効率性について
貨幣(マネー)の動きであり,貨幣のビジネスである金融は,本来は実体経済(財サービス経済)を円滑に発展させるためのもの,つまり「実物経済のための金融」だったはず。それがいつの間にやら「金融ビジネスのための金融」「金融のための金融」となり,かつ,その金融が実物経済を支配しはじめる。不特定多数の出資者から資金を集めて有限責任で会社を運営していく株式会社制度が確立され,金融グループを中心とした持ち株会社制度やコンツェルン形成などの金融資本主義が台頭してくるのである。そして更に,1980年頃からは(米レーガン・英サッチャーの時代),「投機=金融バクチのための金融」となり,金融本来が持つ機能が金融規制緩和などの進捗にしたがい次第に歪められ,麻痺させられてしまった(金融技術革命とカジノ資本主義)。その際の,この実物経済への破壊的君臨と,金融機能歪曲化の「合理化」イデオロギーとなったのが,市場原理主義=米国型金融の「効率性」なる神話である。(ちなみに「投資銀行」という用語は米国特有です,証券会社とでも読み替えておけばいいと思います)
この「神話」が嘘八百であったことは,竹田氏がこのコラムで書いておられる通りで,簡単に言えば,金融市場の「相場」=金融商品や金融取引の「価格」(金利の逆数)を一方向へ中期的なタームで際限なく上昇させていき,ある時,それが一気に崩壊・暴落するという,非常に不健全で不効率な「市況サイクル」を生みだしてしまうことが「実際の経験」として「実証的」に明らかとなった,ということである。17世紀オランダのチューリップ恐慌以来,投機の無際限の繁殖とバブル相場の崩壊という「やりたい放題市場」のドラマは,根拠に乏しい,まことしやかな屁理屈や分析なるものにバックアップされ,アカデミズムや政府・大企業などの権力組織による無責任な言説に刺激されながら,相場上昇の中で踊りに踊って,最後は泣き崩れ滅び去る,という,愚かものの典型のような巨大な不効率を繰り返してきているのである。
もはやアメリカには不況というものはなくなった(ニューエコノミー論),グリーンスパンFRB議長の金融調節は「神の手になる采配である」などと,今となってはアホウにもほどがある,とでもいうようなことを,多くの金融ビジネスマンや企業経営者達,あるいは大学教授と言われる(実際の経済や金融を知らない)「おっちょこちょい」の机上空論学者達が真顔で騒がしいほどに論じていたのです。それは,本当についこの間のことだったことを思い出さねばなりません。
目先のことだけを見て,市場に全てを委ねておくことが=言い換えれば,強きも弱きも「勝手にしやがれ」で,知らぬものが馬鹿を見る弱肉強食の風土の中で,実物経済を踏みつぶして金融が大手を振り,その金融を押しのけて,悪性の投機マネーが金融を含むすべての経済活動を食い物にし,破壊していく。およそ投機マネー=そのもっとも典型的な形が「私募形式の投資FUND」(ヘッジファンドもその一つ)である,にとって,食いものにできるものであれば何でもよく,モラルも,国家による規制も,インサイダーであろうが無かろうが,実体経済の良しあしも,金融の効率性なるものも,すべて「どうでもいい」。とにかく,価格変動の合間をぬって駆け回り,その差額を自らの利益として無限に増殖する・膨張する,それが投機マネーの「無政府的哲学」であり「生まれ持ったる宿命的性質」なのである。
しかし,勘違いしてはいけないのは,この投機マネーは,我々の預かり知らぬところから湧き出てくる「サタンの使徒」ではない。投機マネーの中核的原資は,その大半が,欧米やロシア,アラブ,そして昨今では中国などを中心とする,ほんの一握りの大富裕層のプライベートマネーであり(私物化された国家財政を含む),そして,2008年のリーマンショックに至った約20年間においては,先進各国の年金マネーや投資信託,あるいは下記で申し上げる「シャドウ・バンキング」など,我々の零細預貯金が非民主的に「転換」されたものであることを忘れてはならない。いわば,私募投資ファンドは,まっとうな金融のための原資を,「高利回り」というエサで釣り上げて「投機化」する,一種のマネーロンダリングだとみなしてもいいのではないか。ちなみに「私募ファンド」は,原則として,一切の国家規制からフリーであり,また,情報公開(ディスクローズ)の法的規制もない,いわば「無法の世界」の巨大マネーである。(こんなものを放置しておいて,何が「市場の効率性」か!)
2.自立する市場経済という虚構について
竹田氏がお書きになっているように,「やりたい放題市場経済・金融」は,調子がいい時には「自立」「自己責任」「自律」「神の見えざる手」などと,うぬぼれた「祭りの経典」をひも解いておりますが,さて,バブルが一気に崩壊して,ほんとうに自己責任が問われる段になると,その責任者達は一気に舞台から姿を消してしまう。投機マネーとは逃げ足が速い,というが,およそ市場原理主義を礼賛する似非論者達も逃げ足は速く,過去の自分達の言動に責任などとろうとはしない。都合の悪いことは,見ざる,聞かざる,言わざる,である。そして,市場原理主義者達と相性がいいのは(彼らにとっての大好きな友人は),物忘れのひどい間抜け人間達である。
結局は,国家による財政や金融の出動=つまりは諸国民の血税とシステム維持努力のよって「穴埋め」がなされることになる,そして,けしからんことには,この国家そのものが民主的でないために,投機マネーとその「同族ムジナ」達によって国家機構や規制当局が占拠され牛耳られており,およそこうした血税による補てんをはじめ,国民への「巨額なつけ回し」という犯罪的な結末に対しては,その「バブル崩壊」に至るプロセスでの「罪」や「責任」を問われる者は皆無となってしまうだ。
1991年の日本のバブル崩壊,そして2008年のリーマンショックという米国のバブル崩壊,そしてギリシャ危機・イタスぺポル危機というヨーロッパのバブル崩壊,などなど,およそバブル崩壊後において,カジノ資本主義の責任を取らされた人間がどれほどいるだろうか? せめて,粉飾決算や放漫経営を続けた投資銀行・商業銀行・保険会社等の経営者達ぐらいは処罰されてもいいように思われるが(特別背任・善管注意義務違反・違法行為等),それは,この市場原理主義金融投機体制(カジノ資本主義体制)とでも言うべきものを根本的に改革しなければ,ありえない話なのである。
3.金融市場原理主義というものの「インチキ」システムの実際
思い出していただきたい。以下,全部出鱈目でインチキだったことを記憶しておくべきである。下記には,そのほんの一例を列記しておく。
●サブ・プライムローン(返済不能がわかりきっている貸出,それを「証券化」して,いろいろな物と混ぜくって分からなくして売り飛ばす)
●格付会社(証券化を商売にしている会社などと結託して,事実上,虚偽のような高格付を乱発,雰囲気だけで投資していた投資家が大損)
●商業銀行(BIS規制という自己資本比率を中心にした厳しい規制で安全経営が担保されていたと思っていたら,シャドウバンキングという手法で陰に隠れて投機)
●投資銀行(商業銀行に比べて規模が小さいのに,商業銀行をはるかに上回る巨額の「投機」に走り自滅:BIS規制の対象外どころか,国家規制もゆるゆるだった)
●保険会社・ノンバンク(ソルベンシー・マージン率などという,ややこしいだけで役に立たない規制の下,これもまた,投資銀行以上の巨額投機で崩壊)
●デリバティブやSPV(非公開店頭取引のデリバティブを膨らませ,規制や情報公開がうるさい金融機関本体の外側にSPVやFUNDを創って,そこで博打うち)
●ディスクロ(都合の悪いことは情報公開されないように仕組まれていることに加え,金融市場の「速さ」にはついていけず後手に回る=バブル阻止の決め手にはならず)
●投資という投機=インチキバクチ(特定のプロの詐欺師達がインチキルールに精通し,ルールを知らない単純素朴な市場参加者を食い物にする,当局は知らぬ顔)
●バブル崩壊後は,自己責任原則は雲散霧消し,投機のリーダー達は物陰に隠れ,巨大金融機関は国民の血税で救済される。刑事責任ゼロの「モラル・ハザード」蔓延
<店頭取引(OTC:オーバーザカウンター)と取引所取引との違いにも注目しておいてください>
店頭取引とは,言い換えれば「相対取引」のことで,取引当事者でなければ,その内容は一切分からない。本来は資本主義市場では,この相対取引が基本であるが,金融という特殊な取引=特にメガバンクなどの「倒産させると破壊的な影響を経済・社会に及ぼす金融機関」が行う「相対取引」=「店頭取引」に対しては,厳しい規制や情報公開が義務付けられていなければならない,これがおろそかにされたのが,リーマンショックの一つの大きな原因である。
取引所取引は,万全ではないが,店頭取引が持つ危険性が相当程度緩和されている。がしかし,昨今の取引所は「株式会社化」され,経済の「公器」としての意識を取引所運営者達が喪失しており,危険な規制緩和の兆候がみられることに留意しておかなければならない。「何のために,あんたら取引してんのよ?」,この問いを,絶え間なく取引所に対して投げかける必要があるだろう。
4.市場原理主義とはご都合主義であり,「現代アホダラ教」である
市場原理主義は,時の支配権力=大資本や国家権力,政治勢力と癒着しながら増殖することを再優先している,一種のご都合主義であることが最大の特徴,従って,たとえばハイエクなどの新自由主義的な経済理論とは似て非なるものである。彼らは,単純な低モラルの貪欲なだけの「金もうけ主義」者であり,頭の中はいたって単純な「単細胞」でできており(但し,悪徳金儲けには複雑細胞機能を併せ持つ変種の生物群),言動することは,経済情勢・金融情勢が如何に変化しようとも千年一日のごとく,規制緩和(やりたい放題),民営化(=私物化),小さな政府(税金払わない),経済成長拡大万歳(自分達だけが肥え太る),財政政策無効(貧乏人は放っておけ他)・金融政策のみ有効(マネタリズム),などなどをくりかえしている。一種のジコチュー型「現代アホダラ教」だ。
5.金融市場原理主義バブルは繰り返す
カジノ資本主義の基本的な構造を変えない限り,バブル経済は「くりかえし」となる。その点で,数年前にボルガー元FRB議長が提唱して制定された「米国金融改革法」の内容は,まだまだ生ぬるい内容となっていて,これでは「バブル循環」は回避できない。そして,米国では,その「金融改革法」ですらが,まだ具体的な実施に至らず,さまざまな妨害活動・骨抜き工作が跋扈している状態である。もちろん,第3次BIS規制や,マクロ・プルーデンス政策なども,その効果は限定的で,およそ「バブル経済」=「カジノ資本主義」を終焉させることはできない。
6.近未来の金融激震は「商品インフレ」に対するコントロール不能:「インフレターゲット論の愚かさ」
そうした中で,私は近い将来,日本を襲ってきそうな「猛烈な円安」と「商品(&サービス)インフレ」,そして,それに預貯金金利や国債金利が追いつかないことによる,国民(金融)資産の大暴落(貨幣価値の消滅)の危機を申し上げておきたいと思う。原発・核燃料施設の再稼働と原子力推進に固執し,旧態依然の抵抗勢力・利権集団を温存させ,市場原理主義アホダラ教から抜けきれない日本という国の末路は様々に考えられるが,その一つとして,円という貨幣への信頼の喪失=貨幣資産の崩壊を挙げておきたい。
(「資産バブル」とは,言い換えれば「資産のインフレ」のこと,ここで言う「商品(サービス)インフレ」とは,文字通りの従来型インフレで,貧乏人の我々には関係があまりない資産バブルとは違い,この「商品インフレ」は,零細預貯金の目減りとともに,我々の生活や生存を直撃する)
おそらく,その時になって,現在大流行のバカバカしい「金融政策論」である「インフレ・ターゲット」論が,正真正銘の「大嘘」であったことが実証されるだろう。賢明な人間は,大嘘に早く気が付き,愚かものは,その大嘘がとんでもない事態や悲劇を生みだしてから気がつく,ただそれだけの差にすぎないように思う。そもそも「インフレ・ターゲット」は○○%にする,と金融当局(日銀など)が打ち出して,その通りに行ったためしがあるのか,よく過去を振り返ってみることだ。かつての日本帝国陸軍は,鬼畜米英を撲滅せよ,と唱えれば戦争に勝てると思いこんでいたようだが,その精神構造が「インフレ・ターゲット」論とよく似ている。
早々