食品の放射能汚染近況報告 (厚生労働省発表の検査結果などから)
前略,田中一郎です。
食品の放射能汚染(放射性セシウム汚染)の近況と,若干のマスコミ情報からのコメントです。
<別添PDFファイル:添付できませんでした,代替のネット上のURLをご紹介しています>
(1)被災漁船,気仙沼,沖縄,尖閣を経て福井沖で回収(河北 2013.8.31)
(2)被ばく不安,果樹農家(東京新聞 2013.7.30)
(3)食卓の魚は大丈夫か(毎日新聞夕刊 2013.9.3)
1.厚生労働省HP「食品中の放射性物質の検査結果について」から(放射性セシウムのみの検査)
(1)2013年9月4日 食品中の放射性物質の検査結果について(第720報)
http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000021665.html
宮城県栗原市 ツキノワグマ肉 野生鳥獣肉(非流通品) 240ベクレル/kg
宮城県七が宿町 イノシシ肉 同 上 290ベクレル/kg
栃木県那珂川町 イノシシ肉 同 上 140ベクレル/kg
山形県小国町 エゾハリタケ 野生キノコ(非流通品) 10ベクレル/kg
福島県福島市 イワナ (横川:阿武隈川) 140ベクレル/kg
福島県白河市 梅漬(小梅) 製造・加工場所 14ベクレル/kg
福島県福島市 ドライフルーツ(桃) 製造・加工場所 11ベクレル/kg
<コメント>
クマやイノシシなど,野生の動物は,放射能汚染や放射線被曝の影響を検証するための貴重なサンプルです。未だに政府・霞が関各省・自治体にその意識が乏しいのは嘆かわしい限りです。汚染・被ばくの隠蔽体質を告発されてもいたしかたないでしょう。また,天然キノコは,政府や自治体などが設置しているモニタリングポストなどよりも,よほど信頼性が高い放射能汚染状況のモニターです。山形県小国町といえば,福島県からはかなり離れた山形県と新潟県との県境の町ですが,こんなところのキノコからも無視できない放射性セシウムが検出されるのはショックです。山形県=安全安心ではないのです。
イワナをはじめ淡水魚は絶対に口にしてはいけません。キノコ・山菜,ベリー・かんきつ類,乾燥食品,魚介類,内臓肉などと並んで,放射能が蓄積しやすい食品です。また,梅加工品やドライフルーツなど,放射能がたまりやすい素材を使った加工品・乾燥品についても注意が必要であることが上記で分かります。それから上記には書きませんでしたが,福島県産の多くの海産物からは放射性セシウムが検出されておりますし,宮城県産の海産物についても放射性セシウム検出が散見されます。
数字の値が小さいのは,さしあたりホッとさせられますが,安心はできません。たまたま測った数少ないサンプルの値が小さかったにすぎない可能性があるからです。安全性の証明など,全くできておりません。
(2)2013年9月3日 食品中の放射性物質の検査結果について(第719報)
http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000021134.html
北海道札幌市 桃 流通品(福島県産) 8.5ベクレル/kg
北海道札幌市 梨 流通品(福島県産) 1.7ベクレル/kg
北海道札幌市 ナメコ 流通品(山形県産) 1.6ベクレル/kg
岩手県軽米町 牛肉
15ベクレル/kg
岩手県滝沢村 牛肉 12ベクレル/kg
岩手県奥州市 牛肉 16ベクレル/kg
茨城県 牛肉 栃木県産
15ベクレル/kg
福島県南相馬市 小麦
46ベクレル/kg
<コメント>
牛肉については,常々申し上げているように,検査されている食品の大半を占めています。単純にウェイトだけを見た場合,異常と言えるでしょう(牛肉の検査件数が多すぎて異常なのではなく,牛肉以外の検査品目が極端に少なすぎて異常=つまり少ない検査品目が牛肉に偏り過ぎているのです)。ところで,その牛肉についてですが,①岩手県産の牛肉からは,時折,上記のように無視できない放射性セシウムが検出されます。飼料に問題があるのかもしれません,②牛肉の検査機器は検出限界値が10~15ベクレル/kgのものが多いようなので,きめ細かな検出ができていない様子です,③上記のように,放射性セシウムが検出された牛肉ですが,同じ牛の内臓肉はもっと多くの放射性セシウムを含んでいる可能性があります。しかし,内臓肉は検査されたためしがなく(少なくとも検査結果は公表されたためしがない),牛肉トレーサビリティ制度の対象外にされ,まるで闇から闇へ消えていくように流通しているようです。内臓肉=いわゆるホルモン焼き等はお勧めできません。
一方,南相馬市の小麦の放射性セシウムは非常に気になります。これはもう安全とは言えない数値でしょう。何故,南相馬のようなところで麦などを作っているのでしょうか。放射性セシウム以外の放射性物質についても気になります。農林水産省は,農作物に放射性セシウムが滞留するのはコメが最も高く,移行係数(土壌汚染からどの程度作物へ汚染が移行するかの割合)が最高で0.1=10%と見ておけばいいようなことを言っております。しかし,私がここ2年間くらい汚染状況を見ている限りでは,コメだけでなく,ムギ,ソバ,大豆,いも類などが放射性物質をため込みやすい性質があるようで要注意かと思われます。移行係数が最大で「0.1」というのも信用できません。ひょっとすると,わずかばかりの実験・実証試験で強弁している可能性があります。コメよりも,麦や大豆やソバやイモの方がより危険かもしれません。また,麦についてはビール麦=二条大麦はどうなっているのでしょう。福島県は本宮市にアサヒビール工場があります。ここの工場のビールの原料の大麦や水などの放射能汚染はどのようにチェックされているのでしょうか? アサヒビール本宮工場のHPを概観するだけでは分かりません。
*福島工場 行こう!工場見学!! アサヒビール
http://www.asahibeer.co.jp/brewery/fukushima/
一方,札幌市の検査結果は,いわゆる流通過程にある商品の抜き取り検査結果です。札幌市がそのような検査を行っていることは高く評価されていいでしょう。何故なら,他でやっている自治体が極度に少ないからです(東京都くらい?)。結果は,値は小さいですが福島県産の果実と山形県産のキノコから放射性セシウムが検出されました。イエローカードだと言っていいと思います。
(3)2013年9月2日 食品中の放射性物質の検査結果について(第718報)
http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000021134.html
青森県八戸市 マダラ 三沢市沖 4.2ベクレル/kg
茨城県 ウナギ 涸沼 11ベクレル/kg
茨城県 シラウオ 霞ヶ浦(西浦) 17ベクレル/kg
茨城県 ワカサギ 同 上 16ベクレル/kg
<コメント>
青森県産のマダラが放射性セシウムで汚染されていることは,既にだいぶ前に報道されています。ちなみに,海産魚の中で放射性セシウムがよく検出されるのは,マダラの他に,スズキ,カレイ・ヒラメ,カスベ(えい),海底魚(アイナメやメバルなど)などが挙げられます。これらの海産魚の放射性セシウム汚染は,福島・宮城・茨城沖合で獲れるものに限らず,広く東日本の太平洋域に広がっています。それから,茨城県産の魚介類についても,福島県産ほどではありませんが,多くの魚介類に放射性セシウムが検出されています。私は,茨城県沖や宮城県沖についても,福島県沖と同様に,当分の間は漁業をやめるべきであると考えております(当然,加害者・東京電力や事故責任者・国が漁業者に万全の賠償・補償をし,移転・移住の支援を行うべきです)。
それから,淡水魚については,上記の通り危険信号が出ています。ウナギはいけません。資源の面から見てもウナギは絶滅の危機にあり,当分の間,食するのをやめましょう。
(4)2013年8月29日 食品中の放射性物質の検査結果について(第716報)
http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000019311.html
神奈川県 牛肉 北海道川上郡標茶町産 56ベクレル/kg
福島県南相馬市 かぼちゃ 16ベクレル/kg
同 上 オクラ 9.4ベクレル/kg
同 上 ニガウリ 11ベクレル/kg
福島県南相馬市 カボス 65ベクレル/kg
<コメント>
神奈川県の,おそらくは流通過程での抜き取り検査で発覚したのであろうこの牛肉の放射性セシウム汚染はいったいどうしたことでしょうか。規制値を下回っているとはいえ,これは危険物です。しかし,我々が分かるのはこれだけのことで,何故,神奈川県はこれについて詳細を発表しないのでしょう? 検査したのは「県衛生研究所」とあります。そもそもどこの市町村で抜き取ったのかもわからないし,それ以上に,産地が北海道の川上郡標茶町(釧路市の北,丹頂ヅルの飛来地)だというのですから,何故? と聞きたくなります。北海道の牛の肉が何故こんなに汚染しているの? 何故? 何故? これははっきりさせないといけないことではないですか? だって汚染している牛は,この発見されたものだけではないかもしれませんから。
それから南相馬市の野菜類の汚染ですが,やはり上記の小麦の汚染と同様に,南相馬市での農業には無理があるように思えます。カボスなどは危険ゾーンの汚染度です。これだけの汚染が検出されると,作付をしている生産者・農家の放射線被曝が非常に心配になります。「食べて応援,買って支援」することは,生産者・農家を恒常的な低線量被曝(外部被曝・内部被曝=特に呼吸被ばく)の状況下に縛り付けることを意味するのです。何の「支援・応援」なのか,わかりません。
2.昨今の新聞情報から
(1)被災漁船,気仙沼,沖縄,尖閣を経て福井沖で回収(河北 2013.8.31)
http://news.goo.ne.jp/article/mainichi/nation/incident/20130829k0000e040263000c.html
ネット上の記事は毎日新聞の同主旨のものです。驚くべきか,東日本大震災により気仙沼沖で行方不明になった漁船が,太平洋をぐるっと回って,沖縄
⇒ 尖閣諸島沖 ⇒ 経由で日本海の福井県沖にたどりつき,ようやく回収されて気仙沼に帰ってきたという話です。美談として記事を読むのはいいのですが,漁船がそうなら,汚染水も,魚類も,プランクトンやその他の海洋生物も,同じように海を広い範囲で動きまわっていておかしくないでしょう。少し前には,福島県沖のヒラメが,北海道の東・太平洋沿岸で発見されたとの業界記事を見たことがあります。海に「境界」はありません。このままでは,日本の海は東京電力に殺されます。
(2)被ばく不安,果樹農家(東京新聞 2013.7.30)
http://www.tokyo-np.co.jp/article/feature/tohokujisin/fukushima_report/list/CK2013073002000171.html
「除染作業が進む中で、年間一ミリシーベルト以下の環境に戻すのは難しいことがわかってきた。ゼネコン頼みの除染は、技術と費用の両面で行き詰まったのだ。別の方策を探るときだろう」との記載があります。
全くその通りです。マスコミの記事が,生産者・農家の農作業に伴う放射線被曝への懸念を取り上げるのは珍しいと言えます。東京新聞らしいと言っていいでしょうか。(この記事は東京新聞の福島特別支局の記事のようです。ようやく東京新聞も福島に出先をつくったようです)
(3)食卓の魚は大丈夫か(毎日新聞夕刊 2013.9.3)
http://mainichi.jp/feature/news/20130903dde012040014000c.html
記事に出てくる2人の学者=神田穣太東京海洋大学教授と水口憲哉東京海洋大学名誉教授の話には耳を傾けてもいいかもしれません。デモ,私には,素直に「はいそうですね」とはとても言えない不信感がある。そもそも,魚介類・水産物の汚染検査や生態系調査が全く不十分なのではないですか? そんな中で,あまりにはっきりと安全を言う人,信用し難いですね。少なくとも,私が下記に書いているような飲食にかかる放射能検査・汚染対策についての抜本改善を,大学教授の皆さんにも提言していただきたいものです。
(神田穣太東京海洋大学教授の発言を抜粋)
「警戒すべきはセシウムだけではない。骨への蓄積が懸念されるストロンチウム90が港湾内で検出されている。神田教授によると、減少ペースはセシウムよりストロンチウムの方が遅い。「港湾内に流れ込むセシウムの量が1日30億ベクレルとすれば、最低でもその3倍のストロンチウムが流れ込んでいる。セシウムより土に吸着されにくいので、湾内に流出しやすいからかもしれません」。原発敷地内の地上タンクに保管中の汚染水には特に高濃度のストロンチウム90が含まれる。地上タンクについては8月20日、300トンもの汚染水漏れが発覚した。「まだ魚への影響が出ていないとしても、ストロンチウムのモニタリングを強化すべきだ」と神田教授は強調する。」
(水口憲哉東京海洋大学名誉教授の発言を抜粋)
「「小さな子どもには国の基準値の10分の1、1キロ当たり10ベクレル以下の魚を食べさせた方がいい」と言い、現在は流通していない福島県を除いて、主に隣県の宮城、茨城の底魚の数値に注意すべきだと説く。」
<少なくとも現段階で取られるべき行政的措置>
現状でのいい加減極まる食品の残留放射能検査体制を抜本的に改め,消費者・国民の命と健康をしっかり守るため,少なくとも下記のような行政的対応が必要不可欠かと思われる。科学的な実証的根拠もなく飲食の安全・安心キャンペーンが繰り返され,かつ加害者・東京電力や事故責任者・国の賠償・補償負担を軽減するためという,本当の目的を隠蔽したまま「食べて応援,買って支援」などのインチキ宣伝がなされている今の異常な事態は早期に解消し,事故後2年半経過した今を持ってしても,依然として無用の被曝の危険にさらされている消費者・国民に,「本当のこと」を伝えていく必要がある。
(1)検査数や検査品目を抜本的に増やすこと(現状は検査対象が牛肉やコメや特定の水産物などの特定品目に極度に偏っていて,かつ検査件数が少なすぎるため,食品の汚染状況の全体像は分からない:少なくとも全流通品の半数以上のロット検査を行うこと,生産者段階だけでなく流通過程での抜き取り検査も抜本的に拡大すること,加工食品や外食の検査を業者任せにせず行政が主体的に計画的に実施すること)
(2)放射性セシウム以外の放射性物質についても綿密な検査を行うこと(特にベータ核種=放射性ストロンチウム等やアルファ核種=プルトニウム等)。政府は福島第1原発事故により環境に放出された全ての放射性核種を,娘核種や孫核種なども含めて明らかにし,その放出推定量,並びに各核種ごとの物理学的(半減期や崩壊系列等),化学的(類似元素等),生物学的(生物体内での挙動等)特性を消費者・国民に対して説明し,放射線被曝防止の観点より留意すべきことを明らかにすること
(3)検査状況の第三者による抜き打ち検査,検査に関連した利益相反の排除,検査サンプルの抽出の適正性確認など,検査の適正化をはかる仕組みを導入するとともに,検査結果を含め,全ての事項を公開すること(検査結果は原則表示する)。
(4)学校給食は,すべての放射性物質について,いわゆる「ゼロベクレル」とすること。放射性セシウムだけではありません。
(5)検査体制(人員・検査機器・予算等)の抜本的な拡充を図ること
(6)飲食のみならず,その周辺(食器,肥料,飼料,木材・燃料,医薬品,皮革,調味料,化粧品,食料助材(ぬか等)等)も検査すること
(7)飲食にかかる規制値をさらに引き下げるとともに,子どもなどの放射線感受性の高い世代へのより厳しい規制値を定め,それにより被害を受ける生産者や流通業者・加工業者などの関係者に対して万全の賠償・補償を行うこと(国が立て替えよ)
(8)食品偽装や規制値を超える汚染食品を意図的に流通させたものに対する厳しい罰則(経済的制裁)
早々
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