(国産)木材利用ポイント制度はWTOルール違反である = そんなWTOルールなど,やめたらどうなの?
前略,田中一郎です。
別添PDFファイル(添付できませんでした)は,本日(9/27)付朝日新聞朝刊に掲載されました「国産木材使ったらポイント
日本の促進策「WTOに抵触」という記事です。一見しても,よく理解し難いような,そんなバナナ,のような記事見出しです。でも,これって,我々日本の消費者・国民が,この間約35年間にわたって,市場原理主義に頭がイカレタ連中にだまされ続けてきたことの一つを,非常に象徴的に現していることなのです。以下,簡単にご説明いたします。
<別添PDFファイル:添付できませんでした>
*国産木材使ったらポイント
日本の促進策「WTOに抵触」(2013年9月27日付朝日新聞)
http://www.asahi.com/shimen/articles/TKY201309260661.html
●記事内容の概略
「国産木材をもっと使ってもらうために農林水産省が4月から始めた「木材利用ポイント制度」について、カナダと欧州連合(EU)など5カ国が、世界貿易機関(WTO)のルールに抵触する恐れがあると主張していることがわかった。WTOでは、輸入品と国産品を平等に扱うことを定めている。農水省は近く、WTO事務局に説明書を提出する」
「同制度は,スギやヒノキなど地域でとれた木材を一定量使用する新築木造住宅や木材製品を買った場合に,最大60万円分のポイントがもらえる」(中略:商品券や農林水産品と交換可能)「2012年度補正予算で410億円が用意された」
「WTOの物品理事会で,ルールに抵触する恐れがあるとカナダとEUが共同提案した。輸入品と国産品の差別を禁じるルール(内国民待遇原則)に抵触するとの主張と見られる。これに,ニュージーランド,米国,マレーシアが口頭で賛同したという」
「農水省によると,対象となる木材は,(1)産地証明,(2)資源量が増加している,(3)有識者委員会で対象として適切と認めた,などが条件,外国産を排除する仕組みにはなっていない,という」(田中一郎が要約)
「ポイント制度には自動車や家電製品などがあるが,環境によいことが基準になっていたため,WTOの場などでの批判にはならなかったという」
●まず,記事に書かれていることで,これは変だと思われること
記事に書かれていることで,今回の問題の是非以前に,これはおかしいと思われるのは次の2点である。
第一に「対象となる木材」に,「森林認証」またはそれに準じて「持続可能で環境を破壊していないもの」という規定がない。委員会が妥当と決める,などというのは話にならない規定で,妥当と決める基準や判断根拠が明確化されていなければ,恣意的な運用になるのは決まっている。しかも,この委員会のメンバーには,大手広告代理店をはじめ,日本の企業など産業界の代表者たちが入り込んでいるのだから始末に悪い。「利益相反」委員会で,対象木材の「適正性」が決められるのか?(朝日新聞は,何故,この「有識者委員会」のメンバーについて書かないのか?)
(木材利用ポイント制度において,この「持続可能で環境を破壊していないもの」という「しばり」は非常に重要で,かつ必要不可欠である。何故なら,製紙会社や合板会社を含む日本の木材産業は,戦前・戦後一貫して,国有林(林野庁)を含む国内の多くの森林(特に山奥の天然林)のみならず,熱帯雨林をはじめ広く世界中の森林や自然環境を滅茶苦茶にして木材を利用・輸入してきたからだ。およそ「持続可能で環境を破壊していないもの」という「しばり」のない木材利用ポイント制度などは,百害あって一利なしの制度である)
第二に,「ポイント制度には自動車や家電製品などがあるが,環境によいことが基準になっていたため,WTOの場などでの批判にはならなかったという」というのは,なんのこっちゃ? でしょう。自動車や家電などよりも,地域の森林からとれる木材の方がよほど環境や健康にはいいはずだ。家電や自動車のポイント制度にはクレームがつかないが,木材にはクレームだらけ,こんな馬鹿な話があるだろうか。
(記事の書き方もおかしい。正確には,自動車や家電の場合には,海外からの輸入品にもポイントが付与されていただけの話である。しかし,自動車や家電のポイント制度など,資源の浪費や大量生産・大量消費・大量廃棄を益々促進するだけの,まったくバカバカしい,無駄の塊のような,かつ特定産業の企業や資本のボンクラ経営者にゴマをするだけの,あるいは,わざわざ海外産品にまで事実上の輸入促進ポイントを付与するという,愚策中の愚策だったということではないか。買い替えによって,電気効率は上昇しても,製品そのものは巨大化して従来以上に,より一層エネルギーや電気を消費するものがよく売れていたという。これがほんとに「エコ」なのか?
「エコ」と言えるのか?
また,そもそも買い替え需要を含む自動車や家電の購買需要をポイントをつけて「先食い」したって,その後には巨大な売り上げ減が待っていることは明白だ。こうした税金の無駄遣いは,すべて逆累進制度の消費税増税にツケ回しされている。簡単に言えば,貧乏人から税金をまき上げて,自動車や大型家電を買える裕福な層にポイント制度で税金をバラまいてやる,そういう「理不尽」込みの仕組みだったということだ。財政危機を解消・軽減するためには消費税増税はやむを得ない,などと思い込んでいる,お人よしで世の中知らずの人は,政府や自治体などの税金の使い道をよくチェックし,確かめた方がいい。何故なら,まだまだこれからも安倍晋三・自民党政権は,国土強靭化=大土建公共事業をはじめ,使い放題・無駄し放題の財政支出を,消費税増税を原資に用意しているからだ)
(しかし,それにしても朝日新聞は,「わざわざ海外産品にまで事実上の輸入促進ポイントを付与するという,愚策中の愚策だった」についても問題視していない。自動車企業・産業界や家電企業・産業界に対して媚びへつらっているのではないか)
●これが意味するもの
(1)自由貿易至上主義=「貿易歪曲型」保護政策の排除
EUやカナダ,米国などが木材利用ポイント制度に異を唱えた理由は,木材といえども国内外の貿易製品や企業は,同等に無差別に扱え,政策的に差をつけるな,という点である。しかし,内外の貿易製品・資本・企業・産業への無差別の政策対応とは,実際には,海外製品・海外資本・企業・産業を政策的に保護したり支援したりするような国(政府や自治体等)は(そんな馬鹿なことをする国は)存在しないので,事実上この主張は,国内製品・資本・企業・産業を保護するな,海外と差をつけるな,政策的に優遇するな,政策支援はするな,ということを意味している。
何故なら,海外の巨大多国籍資本が,ある国に経済進出するにあたって,競争上,その国の国内企業に対してハンディキャップとなり,自身の商売拡大に邪魔だからだ。ちょうど大型トラックが,歩行者や自転車に対して行く手を阻まれて,邪魔だからどきやがれ,もたもたしてんじゃねえぞ,いらんことをすんなよ,と怒鳴りつけているイメージに類似している。
彼らは,こうした国内保護政策や国内産業育成政策,あるいは産業を通じての環境政策・社会政策などを「貿易歪曲型」保護政策などとネーミングして,猛攻撃をしているのである。もちろん,国際取引を先導する巨大多国籍資本の代理人として,各国政府が御用学者やマスごみ,それに「市場原理主義」の呪縛にとらわれた愚かな人間達を総動員して,あらゆる価値の上に「貿易の自由化」=「巨大多国籍資本のビジネスの自由化」を置け,と絶叫しているのである。
しかし,およそ人間の経済活動や社会にとって,「貿易の自由化」=「巨大多国籍資本のビジネスの自由化」のようなものが最も最高位に置かれるべき「価値」なのか。今回の木材利用ポイントについて申し上げれば,そんなことよりも,この木材利用ポイント制度は,林業・木材産業の地産地消を促進し,地域林業活性化による森林の整備が同時で並行で進み,また,(川下)木材産業や木造住宅産業が繁盛することで,地域経済の再生や雇用拡大をも目標にし,一石何鳥もの政策効果を狙ったもの(少なくとも大義名分にしたもの)である。それの何がいかんのか。そんなものは,巨大多国籍資本のビジネスにとっては邪魔者以外の何物でもないから,WTOのルールに乗っ取って,やめてしまえ,というのが今回の5カ国の申し出なのである。余計な御世話だ。
「貿易歪曲型」保護政策などと,よくも,かような偏向イデオロギー型の造語を思いついたものである。昨今では,市場原理主義御用学者よりも,マスごみのアホダラ記者がこの言葉をよく使っている。それも言うなら,「農林水産業歪曲型」の「多国籍企業商売優先主義政策」とでも言っておけば,この悪だくみの体系=WTOルールの本質・実態をよく表していると言えるだろう。繰り返すが,貿易自由化など,人間の経済や社会にとって,最優先するような価値ではない。
(2)チョロマカシの「自由貿易による経済発展」説=市場原理主義アホダラ教条
たいていはこの辺で,大学で「机上の空論」を教える市場原理主義経済学者が現れて,自由貿易の効能や功徳を切々と述べるところである。いわゆる市場原理主義アホダラ教条である。大学生は「数珠」でも持って大学に通学しなければならない時代になったのだろうか。ともあれ,これについての反論は,かの経済産業省の頭脳明晰官僚の中野剛志氏の下記の著書にお任せして,私からは次の点だけを申し上げておく。
*新潮新書『反・自由貿易論』(中野剛志/著)
http://www.e-hon.ne.jp/bec/SA/Detail?refShinCode=0100000000000032935468&Action_id=121&Sza_id=C0
上記で「実際には,海外製品・海外資本・企業・産業を政策的に保護したり支援したりするような国(政府や自治体等)は(そんな馬鹿なことをする国は)存在しない」と申し上げたが,実はこれには特異な例外があり,それが戦後一貫して対米従属を続けてきて自立心や独立国家の気概を失い,もはや対米隷属・盲従を「喜び」と感じるまでに至っている変態国家=日本のように,「アメちゃんのためなら,えーんやこら」をやり続ける政府・政権もあるということだ。かつての植民地における傀儡政権・植民地政府と類似した「プチ帝国」である。
それは,たとえば米国だけのためにあるTPPを秘密交渉義務協定まで締結してゴリ押ししようとしていることや,沖縄を米国のなぐさみものに差し出し,かつ米軍再編という他国軍隊の整備にまで自国民の税金を献上する,集団的自衛権などと称して,米軍の引き起した戦争に,自衛隊員の命までをも投げ出して全面協力する体制をつくるなど,売国奴政府たる日本政府が今やっていることを垣間見れば明らかだろう。
また,昨日のメールでご紹介した有機農畜産物の(海外機関による)認証をはじめ,食の安全その他の経済活動の社会的規制を海外の認証機関等に無条件・ノーチェックでゆだねてしまう等(森林認証や格付機関やタクス・ヘイブンや金融商品取引法等々),内外無差別どころか,自国主権を放棄した「海外(企業・ルール)優先」のデファクト・スタンダードが,この日本という国では出来上がりつつあるのである。様々な規制は国内に対してはしやすいが,海外=非居住者に対してはしにくいという自然体に,市場原理主義的ご都合主義というイデオロギーや,国家官僚の無責任・怠慢・不作為などがかぶさり,見るに堪えないグロテスクな経済社会が広がりつつあるのである。
(3)つぶされる農林水産業の地産地消と食料主権
すでに申し上げたように,本来は地産地消が基本である農林水産業は,WTO/FTA・EPAなどの国際自由貿易協定の例外とされなければならない。また,環境や労働,あるいは食品を含む安全に関する社会的規制は,本来は自由貿易ルールの上位に置かれて,その社会的公正が確保されたルールの下で,そのルールからはみ出ない範囲内で,自由で活発な貿易が行われるべきなのである。それが今日の貿易ルールや国際取引ルールでは,貿易当事者である一握りの多国籍大資本の商売や利益が最優先されることで,出鱈目や反倫理的な,およそ許し難い様々なことが横行してしまっているのである。
一つの事例として,食料主権が自由貿易に踏みにじられていることを挙げておきたい。食料主権とは,文字通り,それぞれの国の食料に関することは,その国の主権が決めることであり,貿易自由化を名目・口実にした干渉や権利侵害は許されないという普遍的な国際的原理である。その食料主権が市場原理主義的貿易ルールで侵害されている。
(食料主権の具体的な中身は,(1)各国が自給する食料の質(食べ物としての品質や文化など)と量(自給率,何を自給するか)は各国がそれぞれ決める,(2)食の安全基準(例:残留放射能規制)は各国が決める=食の安全性は輸出側・販売側に立証責任がある,(3)食品提供は持続可能でなければならず,そうでないものは拒否する権利が各国にある(持続可能でないシステムからの産品等を輸入禁止とする権利)の3つ)
(4)TPPはだめだけど,アジアとの自由貿易やWTOはOK,の愚かさ・お人よし
論外な内容のTPPはもちろんだが,およそ現在の市場原理主義に毒された国際取引ルールは,WTOもFTA・EPAも,FTAAPも,すべてみな「同じ穴のムジナ」である。ただ,そのひどさに程度の差があるだけで,長い期間をかけてみれば,環境が破壊され,格差が極度に広がり,経済や社会がボロボロになっていくことに変わりはない。
よくTPP反対論をする際に,TPPはだめだが,アジアを相手の自由貿易圏ならOKだ,などという主張を耳にする。しかし,それは「ひどさの程度の差」をことさら強調して,物事の本質を見誤る議論と言わざるを得ない。自由貿易論など,それそもそもがダメなのであて,自由貿易の価値の上に,何が置かれなければならないかをよく考えてみる必要があるのである。こうしたご都合主義は,やがて狡猾な市場原理主義によって「食い物にされる」ことになるだろう。
(5)極論をやめて,資本取引を含む国際取引への良識的で適正な規制の導入=新しいルール作りが必要
自由貿易論はダメだ,などというと,それじゃ日本のような資源のない島国はやっていけなくなる,日本の発展のためには自由貿易は必要不可欠だ,などと,VSOPの自由貿易賛美論が,未だに返ってくることが多い。不勉強極まる,というか,もう,市場原理主義アホダラ教に洗脳されるのは,マインドコントロールされるのは,願い下げにしたらどうかと思う。極論を言って,時間かせぎしている場合ではないのだ。
誰も本来あるべき「自由貿易」体制を廃止しろと言っているわけではない。国際(資本)取引や貿易には適切な社会的あるいは経済的規制を盛り込み,経済的な行き過ぎ・偏りを廃し,環境保全や格差是正,公正な社会を守りながらやっていけばいい,と申し上げているだけである。当然,何でもありの,大きいもの勝ちの,勝手にやっとれルールではなくなる。
言い換えれば,やりたい放題資本主義・自由貿易は,我々一般の消費者・国民の生活や安全・健康を世界的規模で破壊し,一握りの金儲け天国をつくるだけの話だということだ。もうだまされるのはやめようではないか。今般の木材利用ポイント制度に対してなされたWTOルールなるものからのクレームが,現下の国際取引ルールの歪みを典型的に現わしている。WTOルール=自由貿易主義にだまされるな,これは今や,日本立て直しのキーワードの一つとなっている。
早々
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