有機農業推進法の基本方針見直しについて雑感 (日本の 「有機」 政策は輸入食品販促のためにあるのか?)
前略,田中一郎です。
このほど農林水産省は,2006年に議員立法で制定された有機農業推進法に基づく基本方針(2007年策定)を,5年ごとの見直しにかけるようである。いい加減で無責任な国会議員達が,やってまっせのPR効果だけを狙って制定した有機農業推進法だが,制定後は有機農業など全くやる気がない農林水産省の役人どもに丸投げしたままほったらかしにし,まもなく前回基本方針策定から5年がたつので,それを形式的にもっともらしく書き替えようというのが今回の話である。
案の定,有機農業は推進法制定後も拡大せず,むしろ縮小・衰退の傾向だ。その最大の原因は,東日本大震災と,とりわけ福島第1原発事故による放射能汚染である。しかし,このやる気なし有機農業推進の当事者たちは,この最も悩ましい有機農業を破壊する原発・核燃料施設の過酷事故と放射能汚染による自然の物質循環の破壊について,何の言及もしないのだ。
「やる気なし」推進体制と「書いただけ」基本方針に加え,放射能汚染による有機農業の破壊により,有機農業のシェアは現状においても0.5%あるかないかのレベル(四捨五入ゼロ)。ただでさえ日本の食料自給率は40%前後と低迷しているが,これが有機産品自給率になると更に自給率は低くなり,10%にも満たない水準になってしまっている。つまり,日本の有機農畜産品(認証)は,事実上,海外からの輸入食品の販売促進のために存在しているという,悲しいばかりに目もあてられない惨状にあることをしっかり認識しておくべきだろう。しかも,その国内有機農業衰退の傾向は,有機推進法ができてから,より一層ひどくなっているのではないか。掛け声だけの,ムードだけの,有機農業・自然農法が蔓延しているのが今の日本の姿ではないか。
以下で,本日付の業界紙の記事を見てみよう。
<『日刊アグリリサーチ』(2013.9.26)より>
有機農業のシェア現状〇・四~〇・五%を倍増,条件整備から拡大へ=次期基本方針の検討方向
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農水省は有機農業推進法に基づき「有機農業の推進に関する基本的な方針」(以下基本方針)を平成一九年四月に公表しているが、概ね五年間を対象とする現行基本方針を見直すため、食料・農業・農村政策審議会企画部会に小委員会を設けて検討を進めている。基本方針の改訂は年度内の運びだが、小委員会では「農業者等が有機農業に積極的に取組めるようにするための条件整備を進める」ことに重点を置いた、推進法制定後のスタートラインにたった現行基本方針から、「有機農業の拡大」を目標とする第二段階の基本方針とし、わが国有機農業のシェアを現状の〇・四~〇・五%の倍程度に設定すること等が検討されている。
推進・普及については、▽技術の開発・体系化を全国段階では先進的有機農業者が持つ技術をもとに栽培技術指導書を作成し体系化が一定程度進んだが、今後は地域段階において新たに有機農業を始める人のために、地域の気象条件や土壌条件に適合した技術の体系化が必要で、都道府県での技術体系確立を新たな目標として設定すべき、▽都道府県の有機農業推進体制は一定程度進んだものの、市町村における推進体制は「有機農業者がいない・少ない」等の理由により依然として推進体制整備が不十分であり引き続き体制整備が必要、▽消費者の理解も必ずしも十分ではなく、有機農業が化学肥料、農薬を使用しないことを基本とする環境と調和の取れた農業であることを知る消費者の割合を五〇%以上とすることを目指すべき、等が指摘されている。
有機農業者等の支援施策については、▽取り組みの支援として、地域における中長期計画に基づくモデル的な取り組みが必要、有機農業拡大にむけマーケットニーズに対応した一定の産地化・ロット形成・低コスト化をはかるための機械・施設への支援が重要、有機農業のための有機種苗は民間での供給が難しいため行政として何らかの支援が必要、有機農業に対する環境保全型農業直接支援対策の継続・拡充、▽新たに有機農業を行おうとする者の支援として、地方公共団体は、地域の有機農業者がどのような農業をしているのかを把握し就農希望者と先進的な有機農業者の間を取り持つことによって就農希望者の相談活動ができるようにすべきであり、国は有機農業のアドバイザーの導入を検討すべき、▽流通・販売面での支援では、有機農業の拡大に合わせて有機JAS認証の活用を促進するため取得のための手続の簡素化や支援が必要、等の議論が行われている。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・(以上,引用終わり)
これを読んで,すぐに「おかしい」と思うことは,基本方針を見直すにあたって,今までの5年間を振り返り,どういう目標を掲げて,何をやり,それがどうだったのか,また,有機農業の現場にいる生産者・農家や,有機農業の流通の現場にいる人達は,何をどう考えているのか,また,消費者・国民についても,その意識状況や有機農業・有機産品についてどういう認識なのか,といった「方針見直しのためのレビュー」=現状における問題点の適切な把握の部分が全くないことである。誰が見直し委員なのかは知らないが,農林水産省が主導してやっているのだから,どうせロクでもない大学教授や業界関係者や役人OBなどをつれてきて,ああでもない,こうでもない,と「机上の空論」を繰り返している可能性が高い。
この「机上の空論」方式は,今現在,規制改革会議や産業競争力会議で宴もたけなわの「農地制度改革論」と瓜2つである。農地という新しい土地開発のフロンティア(「農地の農地としての活用」ではなく「農地開発」=土建事業・非農業であることに留意)を「農業振興」をお題目にして手に入れ,乱開発をして甘い汁を吸い尽した後に放り出す,その頃には農地も農村もボロボロで,変質した日本農業が提供する農産物は家畜の「餌」並みの品質と価格と安全性,という,そんな近未来を切り開くために,これからの農地制度が日本農業のためにどうあるべきかを棚上げにして,あらかじめ決めてある「市場原理主義ゴール」へ向けて「机上の空論」を繰り返しているのである。簡単に言えば,大企業・大資本に農地を所有させろということだ。それさえ達成できれば,あとのお題目など,どうでもよい。
そこでは,当然のことながら,今まで約15年間の間,農地法やその関連法の規制緩和ばかりを繰り返してきて,その結果がどうだったのか,現場はどのように受け止め,どうあってほしいと考えているのか,現場の悩みとは何のなのか,等々,およそ本当の意味での日本農業の改革,あるいは農地制度のよりよき改正の取組は,全くと言っていいほどなされていないのだ。そもそも農林水産省は,この農地についてはサボリにサボリを続けており,全国で耕作放棄地が一体どれだけの面積になるのか,いや,農地と言われている土地の実際の使われ方はどうなのか,等々の,農地現状調査の基本中の基本さえ,把握しきれていないことを申し上げておく。そして,そのいい加減極まりない農地利用状況把握の上で,コメの「転作政策」が行われている(⇒「減反政策」ではありません=そんなものは既に廃止されています。今あるのは「主食用米の転作政策」です。くれぐれもお間違いなく)。ひょっとすると,とうの昔に荒れ地になったり山林に戻ってしまっている「農地」を名目に,転作奨励金が支払われている可能性はないとは言えない。全く腹立たしいかぎりである。
しかし,そんなことを何百回繰り返しても,くその役にも立たないことは,たとえば食料自給率がいつまでたっても上昇してこないこと一つとってみても,自明のことなのだ。やる気がない,無責任人間達の駄法螺話をいくら積み重ねたって,事態は改善などするはずもない。有機農業が拡大・拡充しなくったって,見直し委員たちにとっては「他人事」であり,また,農林水産省にとっても痛くも痒くもないし,有機推進法を制定した政治家達にとっては「終わった話」にすぎないからだ。この魂の入らない,形だけの「有機農業推進」「基本方針」が見直されようとしている。見直すべきは,基本方針の字句ではなく,この推進体制そのもの=簡単に言えば,やる気のない推進当事者・推進責任者達を総入れ替えすること以外にはありえないのは,誰が見てもわかることではないか。
各論で若干だけ申し上げておけば,有機農業・農畜産品を有機たらしめている「有機認証」=「有機JAS」の評判がすこぶる悪い。簡単に言えば,有機の精神を忘れて,こまごまとした,コストと手間ヒマばかりがかかるだけの形式的・無意味ルールがあまりに多く,バカバカしくてやってられない,というものだ。この際なので,この「有機JAS」の抜本的な見直しをしてみたらどうか。
それから,上記の「有機JAS」=「有機認証」に関連しての話だが,輸入食品の「有機」表示がどうもあやしい。認証機関は農林水産省が認めた所なら海外機関でもいいことになっているが,その海外有機認証機関を農林水産省は,定期的にきちんとチェックをしているのだろうか。輸入農産物や輸入食品で「有機」と表示されたもののうち,農薬や化学肥料などを使いながら,あるいは遺伝子組換え食品であるにもかかわらず,「有機」と偽装表示しているものは,本当にないのか? ちゃんとウォッチ・チェックしているのか,それを農林水産省はどのように実行しているのか,明らかにしてほしいものである。私の直感は,農林水産省は全く何もしていない=ほったらかしで,日本の輸入有機食品は出鱈目三昧の世界になっている,というものだが,はて,いかがなものか?
それからもう一つ,上記の『日刊アグリ・リサーチ』の記事の中に「有機農業拡大にむけマーケットニーズに対応した一定の産地化・ロット形成・低コスト化をはかるための機械・施設への支援が重要」と書かれた部分がある。私は,これはいかがなものか,と疑問に思っている。この考え方=つまり「産地化・ロット形成・低コスト化」という,いわゆる近代農業的な発想で,規模拡大や手間暇カットや大量生産や大量流通などが,そもそも農業のあり方を歪めてきたのではないかと思うからだ。農業とは本来,地産地消であり,少ロット多品種生産であり,旬のものを旬にいただいて,廃棄物は土に返すのが基本であり,従ってまた,手間暇がかかるものであり,自然が与える資源や気候や風土の範囲内で,自然と融合しつつ,食という人間の営みを粛々と続ける,それが「有機」の思想であり,人間が生きて行くことの基礎であるのではないのか。
この記事にある発想は,まさに「有機農業」の農場化・装置産業化・大資本農業による「有機農業」の包摂ではないのだろうか。農薬や化学肥料は使わないかもしれないが,少なくとも,石油などの化石燃料は大量に使われそうな雰囲気である。そして,その行きつく先は,私は,今の規制改革会議や産業競争力会議が提唱している市場原理主義的農業の構造と,ほとんど変わらないように思えてならない。そして,その(悲惨なと言っていいと思うが)一つのモデルが,あの貧困大国・アメリカに現れていると,堤未香氏は岩波新書の中で論じている。下記にご紹介する堤未香氏の著書をご覧あれ。
*岩波新書『(株)貧困大国アメリカ』(堤未香著)
http://www.e-hon.ne.jp/bec/SA/Detail?refShinCode=0100000000000032940429&Action_id=121&Sza_id=B0
(P89~101をご覧下さい)
それともう一つ,放射能汚染地域の有機農業をどうするのか? 放射能の汚染は,自然のものを使い自然に溶け込みながら農業を営む有機農業が,最も深刻な打撃を受けている。私は,汚染地域の有機農業は,非汚染地帯へ移転をして,そこで再出発するしかないのではないか,除染など,有機の場合は非有機よりも,より一層難しいのではないか,と思っているのだが,これについてどうなのか。記事を読む限りでは,検討課題にも乗せられていない様子である。そんなことで有機農業が推進できるはずもないではないか。
(更に,あまり申し上げたくはないが,有機農業者の一部には,汚染地域でも有機農業は可能だ,汚染された農畜産物でも,有機のものは,大人が我慢して食べればいい,有機農業をやれば汚染や放射線被曝ははねとばせる,等々の言論をふりまいている人達がいるようだ。とんでもない話である。私は,放射能汚染の中で農業をやろうとする有機農業者,汚染物を食べてもいい,少なくとも大人は食べるべきである,などとうそぶく有機農業者を信用していない。時には,彼らのあまりの無神経に,一部有機農業者を第二の「フクシマ・エートス」ではないかと思ったりもしている。本当の有機農業者なら,汚染地域から撤退をし,全国にたくさん存在している耕作放棄地など,他の汚染されていない土地へ移って有機農業を再開するのではないか。命と健康のためにこそある有機農業で,放射能汚染物を提供するなど,とてもできないと,本物の有機農業者なら考えるのではないか。従ってまた,農林水産省や自治体など,行政に対しては,有機農業の汚染地域からの移転・移住の促進・支援に対して,もっと力を入れよ,予算をつけよ,と要求すべきなのではないかと思っている)
有機農業の推進のことに限らないが,日本にはずいぶんと格好だけをつけている,口先だけ・魂入らずの「ちゃらんぽらん族」があまりにも繁殖し過ぎたのではないか。その典型は,あの「口先やるやる詐欺」集団の民主党であり,また,霞が関の農林水産省をはじめとする国家官僚たちであり,また,少なくない地方自治体の役人幹部たちであり,嘘八百宣伝部隊のマスゴミ達であるが,そんな「ちゃらんぽらん族」の支配する国になってしまったからこそ,この20年間,毎年毎年ロクでもないことが起きて,日本がどんどん奈落の底へと転落しているような気がしてならない。
有機農業推進の話から,ずいぶんと話が拡散してしまったが,およそ日本の農業政策ほど,いい加減で,出鱈目で,無責任なものはない。これを改めて,まっとう正常な姿を取り戻すには,相当の「荒治療」が必要になるだろう。有機に限らず,農業の推進体制の抜本見直し=それは簡単に言えば,農林水産省と各都道府県の役人幹部どもを「総入れ替え」せよ,ということを意味しているように思えてならない。
*有機農業推進法
http://law.e-gov.go.jp/htmldata/H18/H18HO112.html
*農林水産省「有機農業の推進に関する基本的な方針の公表について」
http://www.maff.go.jp/j/press/2007/20070427press_5.html
*ウィキペディア「アベノミクス」
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A2%E3%83%99%E3%83%8E%E3%83%9F%E3%82%AF%E3%82%B9
早々
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