海と魚が放射能で汚染されていく : 昨今の都道県別放射性セシウム汚染状況
前略,田中一郎です。
今回より複数回に分けて,海と魚介類・水産物の汚染状況について,昨今の情報をお伝えしたいと思います。1回目の今日は,水産庁が毎日のようにとりまとめて発表をしている,各自治体による水産物の放射性セシウム検査の結果です。別添は,業界新聞に掲載されている一覧表を都道府県別にわけてPDFファイルにしてあります(全部で5つのファイル)。以下,ごく簡単に箇条書きでコメントいたします。
なお,水産物の放射性セシウム汚染状況調査結果のとりまとめは,下記の水産庁HPに掲載されて日々更新されています。今回ご紹介する新聞記事は水産経済新聞ですが,この新聞に掲載された後,数日すると,水産庁のHPに掲載されてきますので,時折,このHPをご覧になるといいと思います。
*水産物の放射性物質調査の結果について~6月18日更新~
http://www.jfa.maff.go.jp/j/housyanou/kekka.html
*(参考)グリーンピース
放射能測定室 シルベク
http://www.greenpeace.org/japan/ja/campaign/monitoring/
<別添PDFファイル:添付できませんでした>
(1)水産物の放射性セシウム汚染(北海道)(水産経済新聞 2013.6.5他)
(2)水産物の放射性セシウム汚染(岩手県・宮城県)(水産経済新聞 2013.6.18他)
(3)水産物の放射性セシウム汚染(茨城・千葉・東京)(水産経済新聞 2013.6.10他)
(4)水産物の放射性セシウム汚染(福島県)(水産経済新聞 2013.5.31)
(5)魚の放射能汚染記事(河北新報:2013.6.6他)
1.全体概要:結論は「北海道を含む東日本産の水産物は危険である」ということです
(1)福島第1原発から海への放射能放出は,海岸壁の水面下などから滲み出る形で,3.11以降,ずっと続いていて,その量もはっきりしない。事態の悪化・深刻化は,ひとえに海洋汚染に対する政府や東京電力の汚染認識の乏しさや危機意識の欠如に起因している。海洋汚染を食い止める対策をほとんど何もしないどころか,福島第1原発敷地に累積していく汚染水タンクに閉口して,汚染水を海へぶん投げる算段を始めている始末である。この発狂者集団を何とかしないと,やがて東日本の太平洋周辺の海は「死の海」と化してしまうだろう。
(2)検査機器類や検査要員が決定的に不足しており,しかもそれが3.11事故以降,抜本的に補充強化された様子もない。水産物についても膨大な食品流通数量の中の,ほんのごく一部が検査されているだけであり,食品としての安全性は全く担保されていない。加えて,水産物には次のような懸念があり,事実上,東日本の太平洋産の水産物については極力近寄らない方がいい状態となっている。
a.放射性セシウム以外は全く検査されていない。特に水産物の場合には,放射性セシウム以外の放射性ストロンチウムやプルトニウム・ウラン・放射性銀・テルル・コバルト60など,危険な放射性核種の検査は必要不可欠であるが,それらは汚染状況を覆い隠すがごとく,全く検査・調査されていない。また,ベータ核種のトリチウム汚染についても気になるところである。
b.検査する対象の水産物が偏っている。北は北海道から南は神奈川県までの沿岸・沖合が放射能汚染の懸念される水域であるが,それぞれの水域での漁業形態は様々で,従ってまた,水揚される水産物も多種多様である。福島県や茨城県は底引網漁業が盛んだし,青森県であればイカ釣り,北海道や岩手県ならサケマスやホタテ・アワビ等々,といった具合だ。(一般的に日本海側は心配いらないような印象があるが,しかし,奥羽山脈や関東北部の山岳地帯に降下した放射性物質が,徐々に徐々に河川を通じて日本海側にも流れ出しており,北部日本海域での漁獲物についても安心はできない。しかし,危機意識の欠如から,新潟県・山形県・秋田県・青森県の日本海側水揚げ水産物の放射能検査は,太平洋側以上に,ほとんどなされていないのが実態である)
しかし,検査された結果の一覧表を見ると,極端に魚種が偏っているように見え,とても多種多様の水産物が漏れなく検査・調査されているようには見えない。検査数が多い魚種は,タラ,ヒラメ・カレイ,スズキ,底魚類などだ。この意味するところは,汚染された水産物の摂取により消費者が被曝することを何としても防ぐ目的で検査が行われているのではなく,一旦規制値(100ベクレル/kg)を超える汚染が発見された魚種については,一刻も早く,それによる出荷制限を解除すべく,ひっきりなしに測って,100ベクレル/kg未満の検査実績を積み上げるために検査されているためと推定される,ということではないか。検査数が少なく,放射性セシウムしか調べず,しかも規制値を超えたら一刻も早くその解除のために検査をその魚種に集中する,いったい何を馬鹿なことをやっているのだろうか。
c.猛烈な汚染海域での漁業が屁理屈付きで再開され,その漁獲物が水産物流通に乗り始めている。常識的には福島県,及び隣接する宮城県・茨城県の沿岸・沖合での漁業は停止され,その海域での徹底した生態系調査・海洋生物汚染状況調査が実施されてしかるべきである。しかし,実際に行われているのは,まず被害を受け続ける漁業者への賠償・補償を切捨てて,生活苦に追いやられる漁業者が,漁業に伴う放射線被曝を覚悟して漁業を再開せざるを得ない状況を作り出し,他方で,被災地復興復旧キャンペーンを展開して,水産物の安全キャンペーンと,馬鹿な消費者が買い控えをしているという「風評被害」キャンペーンをセットで大宣伝することで,この出鱈目行為を覆い隠している。そして上記で申し上げた通り,水揚された水産物をロクすっぽ検査もせずに市場に出荷し,安全だ,安全だを繰り返しているのである。
d.水産物流通は,産地偽装・虚偽表示の宝庫である。一般的に流通している水産物の表示は全く信用できない。業界として,食品表示にほとんど節操がなく,かつ,水産庁や厚生労働省・消費者庁をはじめ,各自治体も,食品表示の適正化をはかろうという姿勢に乏しく,特に出荷サイドにある自治体は,消費者の危険性のことなどほとんど念頭に置いていない(生産者の方だけを向いている)と言っていいだろう。(その典型が,狭山茶に放射性セシウムが検出された際の,上田清司埼玉県知事の態度である)
(3)流通過程=特に小売り店舗における「抜き打ち検査」が行政の手で全くと言っていいほど実施されていない。汚染魚が流通している可能性は高く,実際,環境団体のグリーンピースが行った「抜き打ち検査」では,時折,汚染魚が発見されている。(放射性セシウムのみだが)
(4)検査によって発見された規制値超過の放射性セシウム汚染水産物が,食品流通から除去された後,どこへ行くのかが定かでない。福島県だけは,県庁がそれを引き受けて廃棄処分にしていることが少し前に確認されているが(その後は???),その他の県ではいったいどうなっているのか(闇を通じて再び食品流通に乗ってこない,あるいは家畜や養殖魚の餌やペットフード,あるいは肥料などの原料として「横流し」されることはない,という担保はできているのか?)。また,廃棄処分されるにしても,一般ゴミと同様な扱いを受け,処分地での汚染を広げる形になっている可能性も高い。要するに,放射能汚染への警戒が甘くゆるく,汚染物の扱いがいい加減なのは,水産物に限らない。
(5)およそ食品検査の主体が「利益相反」の状態で,汚染物隠しなど,検査上のインチキが排除される仕組みができていない。信用しきれない。出荷サイドの自治体などは,典型的な「利益相反団体」である。
2.北海道地区(別添PDFファイル「水産物の放射性セシウム汚染(北海道)(水産経済新聞 2013.6.5他)」)
6月5日付水産経済新聞:北海道・青森県沖合で獲れたカラフトマスの放射性セシウム汚染 0.383ベクレル/kg
6月17日付水産経済新聞:北見市沖で獲れたホタテガイの放射性セシウム汚染 0.392ベクレル/kg
いずれもベクレル値は小さいが,これでもおそらく3.11事故前の10倍以上の数値である。カラフトマスに放射性セシウム汚染が出ていることもショックなら,特に北見市沖のホタテガイの汚染は更にショッキングで,福島第1原発事故による放射能汚染は,太平洋だけでなく,オホーツク海へと広がっていることを意味しているからである。水産物の検査結果については,私は次のように見ていて,ベクレル値が小さいことに楽観していない。
a.たまたま見つかった1匹のベクレル値が小さいだけで,この海域の同魚種の値が小さいとは限らない。汚染されていることは分かったということにすぎず,場合によっては,もっとひどい汚染状態の水産物が生息している可能性がある。
b.福島第1原発から放射能の放出が続いている以上,発見された魚種の放射能汚染は,半減期の長い放射性セシウム137やストロンチウム90などを中心に,これからさらに増えることはあっても,減ることは考えにくい。食物連鎖などを通じ,水産物体内での濃縮・滞留も気になるところである。
c.海洋の汚染は,海水が汚染することもさることながら,海底土・泥の汚染やその中に生息する海底生物類(底魚の餌),海中をさまようプランクトン類(浮魚の餌),あるいはウニなどの水産物の餌となる海藻の汚染も重要で,こうした海洋汚染の実態把握が必要不可欠なのだが,それについての本格調査はいつまでたっても始まりそうにない。
(6月15日付の水産経済新聞には「東電に被害請求,放射能検査で出漁減,遠洋カツオ釣の船主,東電「因果関係認めぬ」」という記事も掲載されている。当然なされるべき被害を受けた漁業者への損害賠償・補償が,いとも簡単に加害者である東京電力により蹴飛ばされ,また,これに対して,原子力損害賠償紛争審査会も政府も漁業者のために動こうとする様子は全くない。いい加減なことをして原発事故を起こして海を放射能だらけにし,漁業者を苦境に追いやっても,賠償・補償が欲しけりゃ,損害の因果関係を厳密に立証しろ,でなきゃ,びた一文払わねえ,これが東京電力の態度である。これを救済・是正しようとする公権力の動きも出てこない。これが今日の日本という「国のかたち」である。明日は我々の番だ,と考えておいていい)
3.岩手県・宮城県(水産物の放射性セシウム汚染(岩手県・宮城県)(水産経済新聞 2013.6.18他))
6月4日付と6月18日付の水産経済新聞掲載の検査結果一覧表から,下記の2点を指摘しておく
(1)岩手県沿岸・沖合は,放射性セシウムが検出される魚種は少ないが,たとえば釜石市沖合で獲れた(天然)ブリ(6/4は0.713ベクレル/kg,6/18は0.773ベクレル/kg)などは気になるところ
(2)宮城県沿岸・沖合になると,放射性セシウムが検出される魚種が一気に増え,海域の放射能汚染が深刻であることが見て取れる。中にはクロダイやクロソイなどで数千~数万ベクレル/kgのものも発見されている。こういう海域での漁業はやめるべきである。
4.福島県(水産物の放射性セシウム汚染(福島県)(水産経済新聞 2013.5.31))
放射性セシウムが検出される状態が宮城県よりも一層拡大していることが見て取れる。もちろんこうした汚染海域では漁業はしてはいけないが,上記で申し上げたように「試験操業」などと称して,事実上,沿岸・沖合漁業が再開され始めている。放射性セシウムだけを見て「安全だ,安全だ」などと騒いでいるが,そんなものだけを見ていても,水揚された水産物の安全性は,全く担保されていない。福島第1原発に近く,危険極まりない,と考えていていいだろう。
加害者・東京電力や事故責任者・国は,まず真っ先に被害を受け続ける福島県の漁業者救済のため,万全の賠償・補償と,他地域での漁業再開のため,漁業者・漁業経営の移転のサポートに全力を挙げるべきである。過疎化が進む日本の漁村では,一定程度の他地域の漁業者受入れは,歓迎される地域もあるのではないか。
5.茨城県・千葉県・東京都(水産物の放射性セシウム汚染(茨城・千葉・東京)(水産経済新聞 2013.6.10他))
茨城県沿岸・沖合もまた,福島県ほどではないが,放射性セシウム汚染の広がりが幅広い魚種で見られる。特に,茨城県北部は福島第1原発に近く,事故直後には放射能が南へ流れた,まさにその汚染海域に他ならず,また,漁業種類も底引網漁業が盛んであることから,放射能汚染の危険性は何度強調しても強調し過ぎることはない。漁業は当分の間,休漁とされるべきである。
なお,茨城県の漁業団体は,漁獲物の放射性セシウムの自主規制として,厚生労働省の基準の半分の50ベクレル/kgを用いているが,これでもなお,安心できる水準とは言えない。しかも,損害賠償上の懸念もある(東京電力が支払わない)。解決策は,漁業を中止し,被害を受ける漁業者に万全の賠償・補償と移転・移住を促進することである。
特に注目の魚種として,次の2つを挙げておきたい。
(1)6月10日付水産経済新聞 北茨城市沖で獲れたアンコウ 1.98ベクレル/kg(珍味のアンキモはあきらめた方がいいでしょう)
(2)同水産経済新聞 東京都江戸川区の江戸川河口で獲れたウナギ 22.6ベクレル/kg(これは少し前にお知らせいたしました。江戸川河口のウナギの汚染が判明しても,東京都も千葉県も水産庁も,全く無責任な対応をとり続けている。要するに,そんなところでウナギをとっている人間が自己責任で対処せよ,という態度である。何のための行政なのか)
東京湾及びその沿岸での,釣りや潮干狩りは,当分の間はやめておいた方がいい。特に子ども連れは危険だ。放射線被曝することになりかねない。山や森林に降った放射性セシウムをはじめ,いろいろな放射性物質が,川から海へ流れ込んでいる。東京湾も同様だ。
6.魚の放射能汚染記事(河北新報:2013.6.6他)
(1)「スーパーマーケットで汚染された魚介類が慢性的に流通:マダラとサメからセシウム」(『週刊金曜日 2013.4.26』)
「2012年初めからの調査結果を見ると,イトーヨーカドーの魚介類から最も多くの放射性物質が検出されている」「イトーヨーカドーの担当者は「特に新たな対応をとることはない」とコメント」などと書かれている。
(2)「セシウム,北太平洋深海に到達,原発から2,000キロ,事故1か月」(2013年6月6日付河北新報)
海洋研究開発機構は,福島第1原発事故で放出された放射性セシウムが,事故の1か月後には日本から約二千キロ離れた北太平洋の水深約4,800メートルまで到達していたと発表した。
放射性セシウムのほとんどは,海水に溶けていて,深海に沈んだのはごく一部
調査チームは,プランクトンの死骸を調べていた 等々が書かれている。
*山陰中央新報 - 太平洋深海にセシウム 原発から2千キロ
http://www.sanin-chuo.co.jp/newspack/modules/news/article.php?storyid=1214435015
最後に,水産物や海洋の放射能汚染を調査・検査するための費用は,全て加害者・東京電力が負担すべきであり,また,インチキが暴露されて久しい「原発のコスト」なるものにもカウントされておくべきである。そうすれば,高市早苗のような馬鹿なことを言う政治家も少なくなるだろう。
*自民党の高市早苗政調会長「原発事故による死亡者はいない。莫大な廃炉の費用を無視すれば、稼働中のコストは安い」 日々雑感
http://hibi-zakkan.net/archives/28531261.html
草々
<追>
また,下記サイトURLは,『海と魚の汚染』の関連での重要情報です。合わせてご覧ください。
(本日付の夕刊各紙にも記事が出ております)
*福島第1、タービン建屋脇の地下水からストロンチウム90が1リットル当たり約1000ベクレル、トリチウムが同約50万ベクレル・・・ということは 日々雑感
http://hibi-zakkan.net/archives/28581218.html
草々
« 昨今の放射性物質の降下量について (福島県と東京都:役所が公表しているものから) | トップページ | 21世紀は「環境の世紀」であり,従ってまた,環境と持続可能性を巡っての支配権力に包摂された「似非科学」と「市民科学」との対決の時代である »
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