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2013年6月21日 (金)

どうなる,電気事業法改正 その問題点はどこにあるのか(院内集会報告)

前略,田中一郎です。

 

 昨日夜,衆議院第2議員会館にて「どうなる,電気事業法改正」と題した院内集会が,eシフトや日本消費者連盟などの主催で開催されました。別添PDFファイル2つはその際の資料です。

 

 <別添PDFファイル:データ量の関係で添付できませんでした>

(1)どうなる,電気事業法改正(2013620日第2回院内集会 :eシフト他)

(2)電力システム改革の推進について(20136月:経済産業省)

 

 ご承知の通り,電力業界の政治的圧力に負け,電気事業改革に消極的な自民党は,それでも福島第1原発事故後の電力業界のあまりの体たらくへの国民の憤りには勝てず,しぶしぶながら今国会に電気事業法の改正案を提出しております。その内容は別添PDFファイルに解説されておりますが,①本来,先に手当てしなければならない発送電分離を2018年以降に先送りし,情勢の変化を待って(国民の忘却を待って)なし崩し的にやめてしまうことをねらう,②それでも発送電分離に追い込まれた場合には,その形態を法的分離にとどめることで,電力会社本社の経営支配・影響力を温存する(本来は完全切り離しの所有分離でなければならない),③具体的な内容はほとんど全て参議院選挙後に先送りし,自民党安定政権成立後に,電力業界の意向をフルに反映させる形で格好だけの改革を行う,などの方針で望んできております。

 

 元々経済産業省は,どちらかと言えば電力業界や電力事業を,欧米の改革を参考にしつつ市場原理主義的に再編・改革する考え方が主流でした。しかし,故橋本龍太郎元総理に代表されるような,業界癒着型の自民党政治家達が大挙して電力業界の意向を反映する形で政治的に動き,電気事業法改革や核燃料サイクル見直しをつぶしてきた経緯があります。今回の電気事業法改正を巡る動きは,その第2ラウンドと見ておいていいでしょう。

 

 ところで,この電気事業法改正案や電気事業改革については,改革を進める経済産業省(自民党政治家の方はどちらかと言えば,その邪魔をする方)の(自民党や電力業界との政治的妥協によって打ち出された)改革案について,いくつかの根本的な欠陥があります。しかし,今回院内集会を主催した市民団体にせよ,講演をした講師にせよ,その根本問題に気が付いていないか,あるいは見て見ぬふりをしているか,あるいは政治的に実現可能性が低いからあきらめているか,いずれかは分かりませんが,この根本的な欠陥が電力システム改革の重要なポイントとして指摘されていないのは残念であるように思います。

 

 以下,院内集会の仔細は別添PDFファイルの資料をご覧いただくことにして,私は上記で申し上げた「根本的な問題点」を下記に列記しておきます。今後の議論の展開は,下記の根本問題が克服されていく形でなされることを期待いたしますが,現状のままでは「おいてけぼり」となる可能性が高いと言えます。我々,持続可能性のある社会と新しいエネルギー活用時代を展望する市民としては,この「おいてけぼり」を蹴飛ばして(坂本冬実「夜桜お七」),電気事業改革の議論をその本流へと戻すことを考えなくてはなりません。

 

1.電力システム改革の目的は何なのか

 電力システム改革や電気事業法の改正の目的がはっきりしていない。経済産業省のペーパーには,①安定供給,②電気料金の最大限抑制,③需要家の選択肢や事業者の事業機会の拡大,の3つが挙げられている。依然として「(電力の)安定供給」という「抵抗勢力」=電力会社の「錦の御旗」を真っ先に掲げていることや,電気料金の値下げとはせずに「最大限抑制」などとしていること,あるいは「需要家の選択肢」だけでなく「事業者の事業機会の拡大」なども付記しているところに,電力業界や産業界との政治的妥協や,現在の霞が関官僚達の頭脳が市場原理主義にイカれていることなどを感じさせるけれど,それはさておき,電力システム改革の目的は本当にこれでいいのか。

 

 私のイメージする電力システム改革は,電力などのエネルギーを大量消費する経済や社会を改革し,持続可能で消費者・国民の安全・安心で豊かな生活を保障する電力供給体制を創ること,従って,たとえは,①地域独占や総括原価主義の歪みきった電力システムを抜本的に切り替え,電力供給の適切な競争条件を整備することで,発電のコストは原子力が最も低コストだというでっちあげられた原子力安価神話を崩壊させるとか,②遠隔な過疎地域に巨大な発電所を建設し,それを複雑な配電網でユーザーに何の規制もなく青天井で限りなく使っていい状態で電力を供給するという,大量生産・大量(エネルギー)消費の構造を時間をかけて抜本的に改めるとか,③そのための方法が,自然再生可能エネルギー革命の推進であり,エネルギーの地産地消=分散型オンサイト電源の普及であり,また,電力需要構造の抜本的な転換,などではないかと思われるのだが,こうした新しい時代へ向けてのシグナルのようなものは,今回の電力システム改革の中にはほとんどビルトインされていないと言っていいように見える。

 

 電力システム改革の目的を,再度,浮き彫りにして,改革から期待される経済社会像をある程度明らかにしておく必要があるのではないか。原発などを改革後においても「ワンノブゼム」の電源などと位置づけしているようでは,何のための改革なのかがボケてきてしまうだろう。原発・核燃料施設に関わるこれまでの嘘八百を,消費者・国民の前に赤裸々に示して見せることも,この電力システム改革の大きな目的の一つであることも銘記しておくべきだろう。

 

2.電気事業改革を巡る2つの勢力の対立と「第三の道」

 私が上記で,改革の目的にこだわったもう一つの理由は,電力システム改革が市場原理主義によって,あらぬ方向に流されてしまう可能性が高いと危惧しているからである。2000年ころにアメリカ・カリフォルニア州で起きた大停電や,犯罪会社だったエネルギー総合企業・エンロンの経営破たんなど,電力システム改革にからんでいた市場原理主義勢力が,電力という現代社会に基礎的・不可欠なインフラに寄生して,甘い汁を吸い続けてシステム全体をおかしくしてしまった「前科」があることを決して忘れてはならない。

 

 また,電力業界ではないが,英国の国鉄民営化が市場原理主義的に展開されたために,鉄道事故の多発や鉄道労働者の疲弊,あるいは特権的経営者の出現と放漫経営・無責任経営の蔓延などが,少し前に出版された『Broken Rails』に詳しく書かれている(下記サイト参照)。間違っても,電力システム改革や電気事業法改革が,市場原理主義者達の「おもちゃ」にされてしまっては元も子もないし,更には,その無邪気な市場原理主義者達の背後に,したたかに日本の電気事業・電力エネルギー事業から甘い汁を吸おうと手ぐすねをひいている多国籍ファンドマネーがあることも警戒しておいた方がいいだろう。

 

 しかし,日本の場合には,歪みきった電力業界の伝統として,圧倒的な既存9電力会社の独占的支配力があって,改革を進めるためには,これに対抗するための「なんでもかんでも連合軍」を結成しなければ,ことが前に進められないという悲劇的情勢がある。しかし,だからといって,市場原理主義勢力にひさしを貸出し,結果的に母屋まで取られてしまったということになりかねないのが電力システム改革なのである。

 

 電力システム改革においては,市場原理主義勢力に万全の警戒をすること。これをスタート時点で,しかと認識しておかないと,ゆくゆく危なくなる。市場原理主義勢力の特徴は概ね下記のようなものである。

 

 <電力システム改革における市場原理主義勢力の特徴のいくつか>

・事業当事者にゆだねることを原則とし,公的ファクターの規制や介入を嫌う

・一に競争,二に競争,三四がなくて,五に競争

・外国資本をつれてきたがる(その手先の可能性あり)

・組織を機能で区切って細切れにしてしまう傾向がある

・経済成長至上主義で,電力をより安価に大量に供給することが最大価値だと考える

・消費者のことよりも(デマンドサイド)よりも,電力供給業界を優先しがち(サプライサイド優先)

・その割には中長期的な電力供給構造への関心が薄い(市場原理主義資本の草刈り場とされる危険性あり)

・原発については否定的だが,核燃料サイクルについては軍事面の問題があって,あまり言及しない

・自然再生可能エネルギーなどは信用していない(高コスト,おもちゃ扱い等)

・零細ユーザーや社会的弱者のことなど念頭にない

・時の支配権力側に立つことを優先する(ご都合主義)

・電力の供給も需要も血の通う生身の人間の営みであるという認識が欠如している

 

*クリスチャン・ウルマー『折れたレール イギリス国鉄民営化の失敗』

 http://homepage1.nifty.com/m-kasa/book/wolmar.htm

 

3.現在の電気事業・電力業界が抱える最大矛盾

 電力システム改革は,下記の3点を抜本改革しない限り,その改革目的は達成されることはあり得ない。本来であれば,経済産業省の説明ペーパーに「電力供給の適切な競争条件の整備」という文言がなければいけないはずですが,それは電力業界や,馬鹿もの政治家との妥協により,オミットされているのです。

 

(1)既存9電力会社の独占的支配力を解体すること

(2)原子力への様々な政策的肩入れ(国策民営)をやめること,また,原子力の嘘八百をきちんと否定すること

(3)自然再生可能エネルギーへの嫌悪をやめること(GDP至上主義・大量生産大量消費信仰)

 

(たとえば,院内集会当日の会場質問でも出ていたが,別添PDFファイルの経済産業省資料に,日本全国の電力供給系統網の図があり,そこに北海道電力と東北電力との連携電線が,わずか60万KWにすぎないことが書かれている。しかし,経済産業省はこれを今後,わずか30万KW分をプラスするだけで,目標90万KWの系統運用拡大にとどめる方針である。これでは自然再生可能エネルギーの宝庫である北海道の地の利は生かすことができない。関西電力と西日本の系統網並みの数百万KWまで拡大すべきである)

 

4.市場原理主義の電気事業改革はダメだ

 上記で申し上げたので繰り返さないが,電力システム改革を市場原理主義によって「横取り」されてはならない。地域独占の歪みきった現状システムでもなく,市場原理主義的な電力システム・電力業界再編でもなく,いわば電力システム改革の「第三の道」を,改革の目的を明確にさせた上で,改革後の経済社会のありようを念頭に置いた上で,市民の力で強力に推進していく必要がある。

 

5.電力システム改革がサプライサイドに偏っている

 その1つとして,現状での電力システム改革の議論が,供給サイド(サプライサイド)に偏っている傾向が見られる。電力システム改革は,電力需要構造の抜本的改革も並行して行われる必要がある。現在の日本の遅れた産業構造や消費構造をそのままの前提の上で,電力システム改革を構想することはよろしくない。脱原発はもちろんのことだが,二酸化炭素の大量排出や,エネルギーの大量生産・大量消費からの脱却など,デマンドサイドの改革についても並行して議論され,着手されていかなければ,新しい電力システム改革後の姿も歪んだものとなってしまうだろう。

草々

 

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