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2013年4月 2日 (火)

放射線管理区域指定基準を上回る放射能汚染地域での稲作再開をやめよ(無視される生産者・農家の放射線被曝)

放射線管理区域指定基準を上回る

放射能汚染地域での稲作再開をやめよ

(無視される生産者・農家の放射線被曝)

「原子力資料情報室」会員

ちょぼちょぼ市民による政策提言の会(運営委員)

田中一郎(ichirouchan@withe.ne.jp

 政府・農林水産省は,2013年産米の作付制限をこのほど決定・通知いたしました。その内容は下記の通りですが,主食である米の放射能汚染に対して,いい加減な安全管理を踏襲して抜本的対策を放棄した問題の多い対応となっています。とりわけ生産者・農家の農作業に伴う深刻な放射線被曝を顧みず,猛烈な放射能汚染環境下でも,あたかも稲作農業が可能であるかのごとき「似非対策」「放射線被曝矮小化対策」となっています。他方で,政府・農林水産省・厚生労働省・消費者庁などは,「食の放射能汚染と安全の問題」をないがしろにする姿勢をとり続け,貧弱な検査体制を改めることもなく,早くも飲食品の残留放射能検査の重点対象品目の削減を始めています。(高濃度)汚染地域での農業のなりふり構わぬ作付再開とあわせ,消費者・国民の命と健康を無視・軽視する,許されない「手抜き政策」とも言えるでしょう。早期の適正化が強く求められています。(以下「である調」で書きます)

*農林水産省HP:「25年産米に関する作付制限等の指示について」
http://www.maff.go.jp/j/press/seisan/kokumotu/130319.html

 <『アグリ・リサーチ』(2013.3.22)より引用>
*25年産米の作付制限等を指示=原子力災害対策本部福島の七市町村で不作付、「管理計画」で全量把握

 政府の原子力災害対策本部長(内閣総理大臣)は一九日、二五年産米に関する作付制限等を福島、宮城両県知事に指示した。(中略) 
 福島県で二五年産米の作付け制限(不作付け)を指示されたのは、南相馬市の帰還困難区域、居住制限区域及び避難指示解除準備区域と、浪江町、双葉町、大熊町、富岡町、葛尾村の全域及び飯舘村の帰還困難区域。
 福島県の二五年産米に関する「管理計画」は、作付再開準備区域(作付再開に向け実証栽培を行う)及び全量生産出荷管理区域(全量生産出荷管理を行うことを前提に作付を再開又は継続する)を対象に、ほ場ごとに台帳を整備して放射性物質の吸収抑制対策、交差汚染防止対策を徹底したうえで生産量の全量を把握して全袋検査を実施するとしている。
 宮城県の「管理計画」は、平成二四年産米で一〇〇Bq/㎏を超える放射性セシウムが検出された栗原市旧沢辺村が対象で、生産管理(作付段階・収穫段階)、放射性物質検査、基準値を超過した米の処分等の管理体制を明らかにしている。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・(以上,引用終わり)


 つまり,簡単に言えば,作付をしないことにした福島第1原発周辺,及び北西方向の高濃度汚染地域(南相馬市の一部,浪江町、双葉町、大熊町、富岡町、葛尾村の全域及び飯舘村の帰還困難区域)を除き,福島県全域でのコメの作付を再開するということ,そして収穫されたコメは全袋検査を行い,規制値の100ベクレル/kgを下回る汚染であれば,食品流通に乗せて出荷していくということである。

 <この対応の問題点>
(1)農地の土壌汚染をきちんと調べていない(農地の汚染マップが今もって存在しない)。

 土壌の放射能汚染と空間線量は違うもので,比例関係でもない。また,時間とともに変化し,汚染や高線量は「移動」する。両者は綿密に並行して,継続的に調べられなければならない。およそ環境が放射能で汚染されていることが分かっているのだから,空間線量とともに農地土壌の汚染状況も調べた上で,それがそこに住む人々,そこで生活する人々,農作業や林業労働をする人々の命と健康に影響がないことを確認しないうちは,農業や林業はしてはならないはずである。
 特に土壌の汚染は,単に外部被曝だけでなく,土に含まれる様々な放射性物質が,ちりやほこりとともに風に吹かれて舞い上がり,人々の呼吸被曝をもたらしてしまう。また,この放射性物質は放射性セシウムだけとは限らず,ごく微量であっても非常に危険なプルトニウムや,骨などに蓄積しやすい放射性ストロンチウムなども含まれている可能性があるのである。

 土壌の汚染を徹底して調べ,かつ,その汚染が時間とともに変化し移動することをトレースし,何よりもその汚染地に住む人や働く人の命と健康を守る仕組みがない中での農業・農作業・稲作の再開などは,断じて許されるものではない。少なくとも放射線管理区域指定基準である年間5.2Svを超える農地での農業・林業は,絶対に再開してはならないものである。福島第1原発事故から2年も経過しているというのに,農地の土壌汚染を今もって農地1筆ごとに綿密に調査することをしない農林水産省は,いったい農業・農地の放射能汚染を何と考えているのだろうか。

(ちなみにチェルノブイリ原発事故後の旧ソ連地域=ベラルーシ,ウクライナ,ロシアなどでは,農地を含む土壌の放射能汚染状況が綿密・緻密に調査されて「マップ」(地図)化され,その後の住民対策や産業政策に活かされた)

注1:農地の土壌汚染を評価する場合は,土壌1kg当たりのベクレル数ではなく,農地1m2当たりのベクレル数で見る必要がある。農林水産省がコメの作付制限をかける「5,000ベクレル/kg」という閾値農地は,m2当たりに換算すると×5060(倍)で「250,000300,000ベクレル/m2」という猛烈な汚染農地であることを忘れてはならない。常識的に考えて,農地の除染や放射性セシウムなどの農作物への移行を防ぐ対策などをして作付が許される限度は,せいぜい500ベクレル/kg25,00030,000ベクレル/m2程度までではないだろうか(これでも十分に危ない)。

注2:更に,農林水産省による上記のコメの作付制限規制値の「5,000ベクレル/kg」は,米の(放射能)移行係数(土壌汚染のベクレルがどの程度稲=玄米コメ粒に移行するか)を最大で「0.1」と評価して,旧厚生労働省の飲食品に係る残留放射性セシウム規制値である500ベクレル/kgから逆算して算定した数値である。

つまり,放射性セシウム汚染が5,000ベクレル/kgの範囲内の農地で作付されたコメ(玄米)であれば,移行係数を最大で見て「0.1」とすれば,5,000ベクレル/kg×0.1500ベクレル/kgで,厚生労働省の規制値(500ベクレル/kg)の範囲内におさまるはずだ,ということで設けられたものである。
 しかし,その後,厚生労働省の規制値は500ベクレル/kgから100ベクレル/kgに引き下げられているにもかかわらず,米の作付制限の農地閾値は「5,000ベクレル/kg」のままにされている。本来であれば,食品の規制値の引下げと並行して,農地の作付制限値もまた1/5の「1,000ベクレル/kg」に引き下げられなければならないにもかかわらず,そのままに放置されているのである。農林水産省の「説明」のご都合主義が,生産者・農家の放射線被曝無視・軽視の上で踊っている。許し難いことである。

注3:更に更に,もう一つ申し上げておかなければならないことは,農作物で作付制限がなされているのは稲(コメ)だけで,それ以外の農作物については作付制限が一切設けられていないということである。これは実におかしなことであり,また犯罪的でもある。実は,農作物で規制値を超える汚染を示しているものはコメだけではない。

農作物で最も心配なのは,キノコ・山菜や野生生物の肉だが,それ以外でも,たとえば大豆,たとえば麦,たとえば飼料作物(牧草など),たとえば果実,たとえばタケノコやレンコンなどなど,我々の身近にあって日常的によく食べる農作物にも,規制値を超える汚染は散見されている。作付制限をコメに限定する根拠はどこにもなく,規制値を超える猛烈な汚染が発見されているにもかかわらず,コメ以外の作物では作付制限は一切行わない,などということは,一方で,生産者・農家,他方で,消費者・国民の命と健康をないがしろにする,とんでもない背信的政策であることを強調しておきたい。
(2)コメの全袋検査がかなりルーズに行われている現場があることと,検査結果のベクレル数が表示されないことは大問題である。(下記から抜粋したものを後添)

 <ルーズな現場実態:下記はほんの一例>
*福島県いわき市でコメから放射性セシウム1028ベクレル検出も、『四捨五入して100ベクレルだからセーフ!安全!出荷します』 日々雑感
http://hibi-zakkan.net/archives/19086392.html

*【福島、お米の全袋検査で110ベクレル】 福島県『一袋基準値超えたけど、同じ地域でも超えてないのは回収とかしなくてよし!』 日々雑感
http://hibi-zakkan.net/archives/19307789.html

*福島では、コメが基準値超で出荷規制かかっても、5日以内にほぼ規制解除しちゃうから!しちゃうから!! 日々雑感
http://hibi-zakkan.net/archives/20060695.html

*「今年度米で全袋検査をしたのは、8月に収穫した早場米の一部だけ。農家が業者に直接販売する米は全体の5割以上、それらは検査もされずに流通するものが多い。」吾妻博勝氏 日々雑感
http://hibi-zakkan.net/archives/18729442.html

 <100ベクレル/kgの規制値を下回ったからといって「安全」なわけではない>
 そもそも,毎日たくさん食べる主食のコメに対して,100ベクレル/kgの規制値が高すぎる。この規制値100ベクレル/kgをいくらか下回っていた汚染米だからと言って,何の安心にも安全にもつながらない。従って,少なくとも消費者・国民に販売されるコメをはじめとする飲食品は,消費者・国民が自分で判断して選択できるよう,すべてベクレル数表示が義務化されなければならない。そのためには,「格上げ混米」など,不正が横行する米流通の現状を鑑みた場合,小売り段階,あるいは外食店舗での検査体制の強化と,第三者による抜き打ち的な小売品・外食提供品のベクレル検査が必要不可欠である。(これが本格的に実施されない限り,流通する飲食品や外食が「安全」である保障はどこにもない)

(3)汚染米の処分,汚染農業廃棄物の処分がきちんとなされているのか
 規制値を上回る汚染のコメ(玄米)が,きちんと適正に廃棄処分されているのかどうかが心配である。汚染米であっても,それを非汚染米と混ぜれば,kg当たりでのベクレル濃度は落ち,規制値をくぐりぬけることができる。こうした不正が検査現場で行われていないかどうかである。この汚染米廃棄処分については,誰が責任を持ち,誰がどのようにチェックしているのか。

 更に,コメは人間が食べる玄米だけが「子実」として稲に実り,それ以外は何も発生しないのではない。玄米を収穫したあとには,もみ殻が残り,稲わらも残る。こうした農業廃棄物は,人間が食する「子実」(玄米)の何倍もの放射能汚染の状態にある場合が多く,一般的に「危険物」である。これがどのように安全に処分されているのだろうか。量も多いことから,汚染状況が確かめられもせずに,適当に一般ゴミやたい肥として処分されているとすると大変危険なことである。これについても,誰が責任を持ち,誰がどのようにチェックしているのか。

(4)無視される生産者・農家の放射線被曝

上記でも申し上げたが,このいい加減で危険で強引な汚染地域での稲の作付再開は,そもそもその農地で農作業を1年間にわたって行う生産者・農家の放射線被曝を全くと言っていいほど考慮していない,まるで犯罪的な政策対応である。また,生産者・農家の家族も,その農地の近くに移り住む場合が多いので,仮に農作業をしなくても様々な形で放射線被曝を余儀なくされてしまうだろう。要するに,この農作物作付の拙速再開政策は,生産者・農家の放射線被曝=命と健康は,どうでもいい,ということが露骨にビルトインされた犯罪的政策と考えていいのではないか。

(5)飲食品を汚染する危険な放射能は放射性セシウムだけではない

最後に,これまで何度も繰り返し申し上げてきたことであるが,放射性セシウムだけでなく,福島第1原発から放出された全ての放射性核種を明らかにした上で,当分の間,それらを徹底して調査・検査する必要がある(数十種類)。放射性セシウムだけを見ていれば安全で安心だなどとは絶対に言えない。本格的できちんとした調査も検査もしないでいて,放出量が少ない,汚染している量が少ない,心配いらない,などとは言えないのである。

(6)厚生労働省の残留放射能規制値も高すぎる

 また,厚生労働省が定める飲食の残留放射性セシウム規制値は,改定後(2012/4)においてもまだまだ高すぎる。この規制値には屁理屈に基づくいろいろな細工がしてあり,毒性化学物質や重金属等の危険物質に対する食品への残留規制などと比較すると,大きく見劣りのする規制値である。特に子どもや妊婦,あるいは若者などの放射線感受性が高い世代への配慮・保護が決定的に不十分である。消費者・国民は,この残留放射能規制値を下回っているかどうかではなく,極力,汚染物を口に入れないよう,日常的に注意を払う必要がある。「彼ら」に騙されてはならない。


 <最後に>
 少なくとも放射線管理区域指定基準を超える地域においては,いかなる産業も停止されなくてはならない。こんなことは当たり前のことである。福島第1原発事故が起きたから,人間の体が急に放射線被曝に対して耐性度が高くなるはずもない。原子力ムラの住民や国際原子力マフィア達が,原子力推進に支障が出ないように定めた,ご都合主義的な放射線被曝の限度規制値や,「シーベルト」といった被曝評価のインチキ概念を単純に受け入れることは危険である。彼ら原子力ムラの住民達が汚染地域で農業や林業を含む産業の再開を強く望むのは,いわば放射線被曝による「緩慢な死」(Slow Death)を原子力推進のためのコストと考え,放射線被曝による被害を「大した問題ではない」という形で切り捨てていくために必要不可欠の「舞台装置」と考えているからである。また,他方では,汚染地域での農林水産業を含む産業活動は,その産出物を他地域へ出荷することで,放射能の汚染とそれに伴う放射線被曝(特に内部被曝)を拡大・拡散してしまうことにもなる。放射能汚染地域での産業再開は,同時に他地域への放射能汚染の拡大に他ならない。

放射能は徹底して閉じ込め,減衰するまで厳重に管理する他ない。決して,汚染を周辺環境や他地域に拡散・拡大したり,非汚染物と混ぜて薄めて規制値をくぐりぬけるようなことはしてはならない。従ってまた,(高濃度)汚染地域では全ての産業は停止されなくてはならず,汚染源に近いところで仕事をする農林水産業こそは,汚染が消滅するまでは再開させてはならないのである。従ってまた,生産者・農家や食品産業事業者を含む被害を受けたすべての関係者に対して,加害者・東京電力や事故責任者・国による賠償,補償,生活及び経営の再建支援が万全になされなければならないことは申し上げるまでもない。

残念なことに,現在の日本には全国各地にたくさんの耕作放棄地があり(約40ha),農業の担い手が不足している。従ってまた,多くの自治体は農業の担い手の移住や転入を歓迎している。原発事故で被災された方々のうち,農業や畜産・酪農の継続を望む方々に,放射能に汚染されていないそうした地域への移転・移住を政策的に推進してみてはどうだろうか。政府が荒れた耕作放棄地を農地として使える状態に戻し,移転・移住は極力地域のコミュニティ丸ごとまとまって行うことを前提にし,移転後の農業経営が軌道に乗るまでは,経営安定対策その他の農業経営や生活の維持を補償措置としてしっかりやり,きめ細かな再建支援と万全の賠償・補償をセットで行えば,少なからぬ生産者・農家は新天地での農業再建を受入れるのではないだろうか。

原発事故で生産者・農家から全てのものを奪い,その後も経済的な苦境に陥れたまま救済することもなく,放射能に汚染された農地・土地に縛り付けるがごとき現在の政策は,生産者・農家に対する冒涜であり,今世紀最大の人権侵害事件であり,不道徳・反倫理の政策そのものである。政府は直ちに被害者生産者・農家を完全救済せよ。

以 上(2013325日)

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