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2013年4月 4日 (木)

拙速極まる住民無視の「原子力災害対策指針」に抗議する

拙速極まる住民無視の「原子力災害対策指針」に抗議する

 

「原子力資料情報室」会員

ちょぼちょぼ市民による政策提言の会(運営委員)

田中一郎(ichirouchan@withe.ne.jp

 

 去る2013130日の原子力規制委員会で、避難基準(事故直後の数時間は毎時500μSv,その後の1週間程度が毎時20μSv)を含む「原子力災害対策指針(パブコメ案)」(以下「防災指針(案)」)が了承され、212日までパブリック・コメントに付された。この「防災指針(案)」は,下記に見るように,その内容のみならず,策定の手続き・過程にも多くの問題があり,まさに住民の命と安全を無視・軽視した看過しがたいものとなっている。ついては,今般の「防災指針(案)」に対して強く抗議するとともに,その白紙撤回を要求し,改めて原発・核燃料施設過酷事故の際に非常に危険な状態下に置かれる地域住民を最重視した「防災指針」が,抜本見直しの上で策定されることを強く望むものである。

 

1.「防災指針(案)」は原発・核燃料施設再稼働のためではなく,地域住民の命と安全を守るために策定されるべきである。

 福島第1原発事故を引き起こした我が国の原発・核燃料施設については,その安全性を抜本的に見直すとともに,経済性をも含めた必要性や,使用済み核燃料や放射能汚染という将来世代への大きなツケ残さないという意味での倫理性などを十分に勘案・再考した上で,今後の原発・核燃料施設のあり方が打ち出されるべきである。

 しかしながら,今回の原子力規制委員会による「防災指針(案)」は,アプリオリに原発・核燃料施設の早期再稼働を前提に策定されており,国民としてとても容認できるものではない。福島第1原発事故により悲惨な状況が生み出され,今もなお4号機の使用済み核燃料プールを含む同原発の危険な状態が続いている中にあっては,まず「防災指針(案)」は,全国各地の使用済み核燃料を含む原子力施設の現状のまま(停止状態)での安全確保が優先されるべきである。また,安全性を確保しないままに再稼働された大飯原発34号機は直ちに停止されるべきことは申し上げるまでもない。

「防災指針(案)」は,まず上記を前提にしたものが第一弾として,住民本位の形で策定され,現状のままでは危険な使用済み核燃料の安全対策(青森県の再処理工場を含む)がなされたのちに,第二弾として,十分な住民の安全確保を前提に検討されるべきものと考える。ただその際,そもそもこうした大型の商業用原発・核燃料施設が過酷事故を引き起こした場合に,日本のような狭い国土ではたして多数の住民避難が安全に実現できるのかどうか,「防災指針」に基づき策定される「防災計画」が,はたして実際に有効に機能するのかどうかも徹底して検証・確認されなければならない。

 そしてもし,その結果が住民の命と健康を守りきれないということであれば,そもそもこの日本において原発・核燃料施設の稼働は許されないことを付記しておく。

 

2.「防災指針(案)」の策定プロセスの不適正に抗議する

 今回の「防災指針」は,まず,その策定プロセスに次のような瑕疵・欠陥・問題点がある。早急に策定手続きを正常化した上で,今回の(案)を白紙撤回し,上記1.で申し上げた形で再策定されたい。

 

(1)今回の「防災計画(案)」は,2012926日に原子力規制委員会で検討が開始され,わずか1カ月で「指針」の枠組みを決め,更にそれからわずか3カ月で「防災指針(案)」が策定されている。あまりに拙速と言わざるを得ない。

 

(2)更に,今回の「防災計画(案)」については,原発・核燃料施設が立地している地元住民はおろか,地元自治体との協議や意見聴取さえ十分に行われていない。とりわけ許しがたいのは,原発事故で大変な状態に置かれ,政府の不適切な事故対応のために無用の被曝を余儀なくされた福島県をはじめ原発周辺地域の住民の方々の意見や経験の聴取さえ行われていないことである。誰のための,何のための「防災指針(案)」なのかを問わざるを得ない。

 

(3)「防災指針(案)」策定が,原子力規制委員会が任命した限られた有識者によってのみ検討され決定されている。原子力推進や原発・核燃料施設のあり方に厳しい見方をしてきた方々をはじめ,多くの有識者の考え方を聞き,より良きものにして行くべきものが,原子力推進を肯定的に考える一握りの人達の手で拙速に作られている。

 

(4)パブリック・コメントの期間をもっと長くとることに加え,パブリック・コメントに先立ち,全国各地の原発・核燃料施設立地その他において説明会・意見交換会・公聴会などが実施されるべきである。ただ,文章だけをHPに掲載して事足れりとする姿勢は,原子力規制委員会・規制庁として,説明責任を欠如させている。

 

3.「防災指針(案)」では最も重視すべき住民の命と健康が軽視・無視されるなど,問題だらけの内容となっており,白紙撤回を求める。

 

(1)「防災指針(案)」における緊急事態時の対応があまりにスローであること。「初期対応段階における避難等の予防的防護措置を確実かつ迅速に開始するための判断基準」として定められるという「緊急時活動レベル(EAL)」では,過酷事故原因が発生した段階から,ただちに原発周辺のかなり広い範囲で避難が開始されるべきである。

 

(2)一方,「環境への放射性物質の放出後、主に確率的影響の発生を低減するための防護措置を実施する際の判断基準」とされる「運用上の介入レベル(OIL)」については,住民の避難基準を「事故直後の数時間は空間線量で毎時500μSv(内部被曝・外部被爆合計で50mSv/週),その後の1週間程度が空間線量で毎時20μSv(内部被曝・外部被爆合計で20mSv/年)」とする案が原子力規制庁より提出されている。しかし,この線量基準はあまりに高すぎて,およそ住民の命と安全を守るものとは言い難い(500μSv/時は年率では4.38Svであり,致死量の被曝線量である)。これについて,IAEAと比較すれば1/2の線量水準で厳しくなっている,などとする解説は,そもそも原子力推進機関であるIAEAが提言するとんでもない高線量基準と比較しての「ためにする」議論にすぎず無意味である。

 

(3)上記基準は,原発周辺における放射能モニタリング実測値により判断する基準とされ,SPEEDIのような汚染拡散予想に基づくものではない。しかし,実際の原発・核燃料施設立地地域における環境放射能のモニタリング体制は脆弱であり,過酷事故発生時には機能しない可能性が高い。実測値を使う体制ができていない(また,今般の「防災指針(案)」では,SPEEDIの利用方針が不明確である)。

 

(4)立地自治体で「防災計画」が策定される範囲を決める根拠の一つとなった過酷事故時の放射能拡散シミュレーションが細工され,放射能拡散の範囲が小さく見せられている。具体的には,①地形を考慮していない(すべて平地と仮定),②風の扱いが単純で非現実的(一方向で変わらない,最大風速が使われるべきなのに平均風速が使われている他),③内部被曝は考慮外,④原発から放出される放射能の量を福島第1原発事故並みの(推定)量とする(この次の過酷事故はそれ以上の大事故となる可能性もある),⑤「97%値方式」という,台風や異常気象の時などの最も放射能が拡散される過酷な気象条件の上位3%分を除外して,残り97%の範囲内で考える,というおかしなやり方をしている,点などが指摘できる。この過酷事故時のシミュレーション結果は「防災指針(案)」策定関係資料から除外せよ。

 

(5)「緊急時防護措置を準備する区域(UPZ)」が「原子力施設から概ね30kmを目安とする」とされたが,これは福島第1原発事故時の経験を踏まえればあまりにも狭すぎる範囲指定である。年間20mSvを超える被曝を余儀なくされる飯館村で原発より4050kmのエリアにあり,更に福島市内のホット・スポットなどでは60kmにも及ぶ。福島第1原発事故の経験を踏まえ,住民の命と健康を重視して,十分に広い範囲が指定されるべきである。

 

(6)過酷事故時には最も最優先で保護・避難させられるべき妊婦や乳幼児,子どもや若者などへの配慮に欠けている。原子力規制庁は「他の避難者に先駆けて対応」などとしているが,具体性に欠け,この問題を重要視する姿勢が感じられない。早急にこうした世代への特別対策を打ち出せ。

 

(7)安定ヨウ素剤を事前配布する範囲が,わずかに原発・核燃料施設の周辺5kmにとどまった(PAZ:予防的防護措置準備区域)。福島第1原発やチェルノブイリ原発の事故の経験からみて,「緊急時防護措置準備区域」(UPZ:30km圏内)を超えて,半径5080kmぐらいの範囲で「PPA」と呼ばれる「プルーム通過時の被曝を避ける防護措置区域」を設け,その地域住民には前もって安定ヨウ素剤を配布し,もしもの時にはそれを服用させて甲状腺被曝を回避させることが必要である。

 

(8)「防災指針」に基づく「防災計画」があっても,実際には過酷事故時には地域住民は逃げられない可能性が高い地域が多い。①過酷事故時の大量避難時には道路が大渋滞する,②その道路も地震の大きな揺れを受け,波打ったり破損したりして車が通れるかどうかはわからない,③離島には十分な運搬船はなく,半島や川に挟まれた地域(例:浜岡原発,大井川と天竜川)では「橋」が落ちる,④トンネルの天井が落ちる,⑤道路のそばのがけが崩れる,⑥道路が水につかる等々の可能性がある。道路一つとっても,安全で迅速な避難は怪しい限りである。

 更に,ガソリンがない,バスや車がない,雪で動けない,老人や身障者・重症患者がいて移動は容易ではない・介護看護できない,食べ物・飲み物が足りない,逃げる先がない,情報が来ない等々。つまり,今進められているような「防災指針」「防災計画」は,まさに「絵にかいた餅」となりかねない危うさがあり,その実現性・実効性について十分な検証や確認が必要である。

(そもそもこうした事態の発生が予測される理由の一つに,現実の原発・核燃料施設が別に定められている「立地審査指針」に適合していないことが挙げられる。全ての原発・核燃料施設の「立地審査指針」にてらしての見直しも行われるべきである)

 

(9)立地自治体によっては,国が避難の基準を50mSv/週だとして検討しているにもかかわらず,IAEAと同様の100mSv/週で「防災計画」を立ててしまったところもあり,また,多くの自治体で,「防災計画」策定の人的体制が極めて不十分なことから,その策定そのものを外部のコンサルタントに丸投げするような動きもみられている。「防災指針」に基づいて策定される「防災計画」が,単なる書きものに終わらぬよう,実効性・確実性のあるものとするための施策を充実する必要がある。そして,もしそれが困難な場合には原発・核燃料施設の稼働そのものを断念すべきである。

 

10)最後に,過酷事故時の緊急被ばく医療体制,オフサイトセンターのあり方,あるいは自治体等の防災業務従事者の被曝回避対策等にも不十分な点が多くみられる。

以 上(2013212日)

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