放射性ストロンチウムをなぜ調べないのか (放射性セシウムの数百倍の危険性を警戒しよう)
放射性ストロンチウムをなぜ調べないのか
(放射性セシウムの数百倍の危険性を警戒しよう)
「原子力資料情報室」会員
ちょぼちょぼ市民による政策提言の会(運営委員)
田中一郎
福島第1原発事故がもたらした放射能汚染は広範囲に広がり,深刻で危険な環境ができてしまいました。ホット・スポットを中心に,広く東日本に住む人々は,これからは様々な放射性物質(物質の原子核の違いに注目して「放射性核種」という言葉も使います:以下「放射性核種」を時折使用)がもたらす危険性に警戒をしなければいけませんし,また,食べもの・飲み物については,東日本だけでなく,全国の消費者・国民が汚染物を口にすることがないよう,早急に万全の検査体制が確立されなければなりません。
しかし,昨年の3.11福島第1原発事故以降,政府や原子力ムラの人間達が,これからも原発・原子力を従来通りに推進していきたいためか,この危険な放射能汚染や放射線による被曝の影響を,出来る限り小さく見せようと画策している様子がうかがえます。
たとえば,①「シーベルト」という内部被曝の実態を表さない被曝評価単位を用いて放射線被曝をわざと小さい数値にして見せたり,②経験科学的な実証で裏付けられていない「100ミリシーベルト/年以下なら心配いらない」などの「虚偽」の大宣伝を行ったり,③「放射線副読本」(文部科学省)のような片寄った考え方に基づく教科書をつくって全国の学校に押し付けたりと,首をかしげたくなるような行為が目立ちます。まさに,これまでの「原子力安全神話」に代わる「放射線(能)安全神話」の確立に邁進しているかのようです。
中でも問題なのは,危険な放射能汚染を放射性セシウムに限定していることです。たとえば,人々が住んでいる居住地域の環境放射能の測定は放射性セシウムだけしか行わない,放射性ヨウ素131は半減期が8日で短いから,もう消えてしまったので,あとは放射性セシウムだけを見ていればいい,飲食物は水産物も含めて放射性セシウムだけを検査していれば大丈夫,(十分に調べもしないで)放射性ストロンチウムは放射性セシウムの1/10以下だ,農地・牧草地の土壌汚染は放射性セシウムだけを見る,環境も食べ物も放射性セシウム以外はほとんど無視できる,厚生労働省は飲食物の残留放射性物質の規制を放射性セシウムのみに限定し,放射性ストロンチウムやプルトニウムやウランなどの危険な放射性物質についての規制を設けない等々,といった具合です。
しかし,福島第1原発事故で環境に放出された放射性核種は,放射性セシウムや放射性ヨウ素131だけではありません。放射性ヨウ素なら,半減期が約1,550万年の放射性ヨウ素129というのも放出されていますし,何よりも今回問題にする放射性ストロンチウムなどのベータ核種(ベータ線を出す放射性物質という意味:以下同じ)や,原爆の材料であるプルトニウムやウランなどのアルファ核種が無視・軽視されているのは大問題なのです。何故なら,それらはガンマ核種の放射性セシウムや放射性ヨウ素131などに比べて,人間の体内に入った場合には,格段に危険であるからです。
ガンマ核種に比較して,アルファ核種やベータ核種の環境放出量が少なかったとしても,それらが呼吸や飲食によって人間を含む生物の体内に入った場合には,特定の臓器や部位に集中・濃縮して蓄積し,核種によってはかなりの長期間にわたり,局所的・集中的・継続的に内部被曝をもたらすことになります。つまり,環境に出た量が放射性セシウムと比較して少ないということは,内部被曝を考えた場合には,何の慰めにもならないということです。そもそも福島第1原発事故においては,その放射性セシウム自体が,天文学的な量で環境に放出されており,それと比較して量が少ないなどといっても,それはそれで膨大な量の危険な放射能であることに変わりはありません。政府や原子力ムラの言う「放射性セシウム以外はたいした量ではない」などというのは,非常に軽率で危険な「ためにする判断」だと思われます。
更に,放射性セシウム以外の放射性物質について,飲食品への残留規制値を設けない,などという国は,日本以外にはないのではないでしょうか。欧米諸国のほとんどの国は,もちろん放射性セシウム以外の危険な放射性物質に着目して規制値を設けていますし,放射性ストロンチウムについては,チェルノブイリ原発事故後の旧ソ連諸国で,長い間,住民を苦しめた放射性物質の一つであることは周知の事実となっていて,人々は警戒度を高めています。
私がこのレポートで問題にしたいのは,上記のようなことであるにもかかわらず,政府や多くの自治体や産業界が,放射性セシウム以外の危険な放射性核種について,その調査(環境)や検査(飲食物)の体制をきちんととろうとしない,放射能の危険性を把握する最も基本的な行為である様々な放射性核種の測定体制を,いつまでたっても確立しようとしないことなのです。これはゆゆしき事態だと言えるでしょう。
そして,放射能の汚染状況をロクすっぽ調べも検査もせずに,環境の放射能は懸念するには及ばない,農林水産業を「食べて応援・買って支援」しよう,福島の農林水産業を再建するぞ,消費者は「風評被害」をもたらすようなことはするな,などと,マスコミを駆り立てて大合唱しています。軽率極まりないと思います。福島第1原発事故で深刻な被害を受けられた方々には,農林水産業の生産者も含めて,万全の賠償・補償・支援措置がなされ,その生活と経営の再建がなされなければなりません。しかし,現実には,その賠償・補償・支援措置がきわめて不十分なままに,高い濃度の汚染地域での農林水産業の再開が叫ばれているのです。こんなことは許されていいはずはないのです。
以下,ベータ核種の中でも放出量が多く,半減期も長く,危険度が放射性セシウムなどに比べて格段に高い放射性ストロンチウム90に着目して,簡単にその問題点を論じたいと思います(感覚的な表現で恐縮ですが,放射性ストロンチウムの危険性は,放射性セシウムと比較して,数百倍と言われています)。
放射性ストロンチウム90は,その化学的性質がカルシウムに似ており,体内に入れば骨や歯に濃縮して蓄積し,ガンや白血病の原因になります。半減期も長く,約29年です。水に溶けやすく,放射性セシウムのように,粘土質の土と化学反応して,土壌に長くとどまるということもありません(拡散しやすい)。そして,いったん体内に入ると容易なことでは体外に出てまいりません。一生の間,その取り込んだ放射性ストロンチウム90によって,深刻な内部被曝の被害を受け続けることになります。
更に,昨今耳にした話では,カルシウムが骨や歯だけでなく,人間や生物の体の重要な要素(たとえばホルモン)を形づくる際の重要元素の1つになっているため,そのカルシウムが放射性ストロンチウムに入れ替わった場合には,厄介なことになりかねない,というのです。まことに恐ろしい話です。
私は,放射性ストロンチウムの危険性から鑑みて,もっと検査・調査を徹底して行い,危険がないならないで,あるならあるで,その結果情報を広く国民に開示するべきだと思います。福島第1原発事故後にあって,放射性ストロンチウム等の最も警戒しなければならない放射性核種について,その検査・調査をまともにしようとしない,関連情報を行政が適時適切に示さない,あいもかわらず「安心して下さい」説教の繰り返し,というのは,あまりに国民を愚弄した態度だろうと思います。
(注)放射性ストロンチウムが遺伝子に影響
欧州放射線リスク委員会(ECRR)の科学事務局長であるクリス・バズビー氏の近著『封印された「放射能」の恐怖』(講談社)によれば,スウェーデンの科学者がネズミを使った実験で次のようなことを発見したと書かれています。放射性ストロンチウムがカルシウムの代替役を担いDNAに影響を与えるというものです
「ストロンチウム90を注射されたオスのネズミと交尾したメスの子宮内で,たくさんの胎児たちが死んだことがわかりました。一方,セシウム137を注射されたオスと交尾したメスの子宮内で死んだ胎児の数は,注射されていない参照集団と変わりがありませんでした。この結果は,ストロンチウム90がDNAと結合し,遺伝子影響を与えることを証明しており,1963年の「ネイチャー」という科学雑誌で発表されました。」
(この後のロシア人科学者のネズミの実験では)「ネズミを解剖した結果,子宮内での胎児の死は,遺伝的心臓欠陥で引き起こされたことがわかりました。つまり,ストロンチウム90は,胎児の心臓の発達にも影響を与えたのです。また,生き残った子供の間では,白血病の増加がみられました。これは,ストロンチウム90が母体にも子供にも影響を与えた結果と言えます」
飲食物の放射性ストロンチウム汚染に関する検査は直ちに行われなければいけませんし,環境の汚染状況についても,もっと測定点を大幅に増やし,また,屠殺後の家畜の骨・歯や,定点採取する魚介類の骨・貝殻・甲殻なども測定対象にして,継続的・計画的に(かつ「利益相反」を排除して)計測されるべきです。
仮に汚染されていなければ,それはたいへん幸いなことです。しかし,調査・検査をしてみなければ,汚染されているかどうかはわかりません(更に,福島第1原発からは放射能が今でも海を含む周辺環境へ出続けていることを忘れてはいけない)。しかも,調査・検査は当分の間は続けていかなければならないのです。何故なら,放射能の汚染は「動く」からです。
別添に下記のレポートを添付いたしますので,ご覧になってみてください。いずれも私の知人・友人等にEメールでお送りしたものを,今回,一部加筆修正したものです。インチキくさい放射線被曝の単位であります「シーベルト」に騙されてはいけないように,調査・検査もろくにしないで「安全」「安心」「大丈夫」などという軽率言論に惑わされないよう気をつけましょう。今の政府や原子力ムラは「嘘ツキ」の大名人だからです。
<結論:放射性ストロンチウム90を測れ!>
1. 政府は放射性ストロンチウムの測定ポイントを抜本的に増やし,放射性ストロンチウムによる環境汚染の状況をもっと詳細に調査せよ
2. 政府は,屠殺した家畜の骨や歯,福島県で野生化している家畜の骨や歯や内臓,東日本の太平洋側沿岸や河川・湖沼で計画的・継続的に魚介類・エビ・カニ等を採取して,その骨・貝殻・甲殻などに含まれる放射性ストロンチウムを詳細に検査せよ
3. 飲食物の放射性ストロンチウム検査体制を確立せよ。放射性ストロンチウムの検査手法は,既に新たな簡便手法が開発され,公認の手法として認可されているので,それを活用して,より短時間で簡便な方法で検査できるよう政府が率先してその導入を推進せよ
4. 子どもたちの乳歯,大人の抜歯などを計画的に収集・保存し,それらの放射性ストロンチウム検査ができるよう体制を創れ。学校での子どもたちの歯の検査に(抜けた歯の)「放射性ストロンチウム」検査をルーチンとして組み込め
5. 政府は,福島第1原発事故により環境に放出された全ての放射性核種について,その物理的(半減期,娘核種等)・化学的(物質としての有害毒性等)・生物学的(他内での挙動等)特性・特徴や,その放出された(推定)量を明らかにし,国民に説明せよ。自治体はそれを地域住民に周知徹底せよ。
6. 厚生労働省は,放射性銀やテルルなどのガンマ核種,放射性ストロンチウムやヨウ素129(半減期1,550万年)などのベータ核種や,プルトニウムやウランなどのアルファ核種など,放射性セシウム以外の危険な放射性物質について,飲食物に対して規制値を設け,きちんと汚染管理を行うこと
7. 上記1.~5.が確実に十分に実施されるよう,国及び全国の自治体に十分な予算を確保すること
<添付コンテンツ一覧>
1.放射性ストロンチウムとはどういう物質か(2012年11月29日)
2.食べもの・飲み物の放射性ストロンチウムをきちんと検査せよ(2012年11月29日)
3.放射性ストロンチウムの検査は既に簡便化手法が開発されている,子どもの乳歯は捨てないでストロンチウム検査に出しましょう(2012年11月29日)
4.お子様の抜けた乳歯を保存しよう
以 上
<参考1>
α線:大きな運動エネルギーをもつヘリウム原子核
β線:電子線
γ線:電磁波
X線:電磁波
<参考2>
「放射能」とは,原子核が崩壊して放射線を出す能力のこと,または放射性物質のことです。放射能の量的な大きさは「ベクレル」であらわします。「シーベルト」とは,その放射能によって人間が受けた「被曝」の単位です。
放射性ストロンチウムとはどういう物質か
危険で恐ろしい物質「放射性ストロンチウム」とはどういう物質か,以下,信頼のおける情報源であるNPO法人「原子力資料情報室」にある解説を引用しながら,簡単にコメントいたします。「原子力資料情報室」は,故高木仁三郎氏(世界的に著名な核化学者)らが創設した反原発・脱原発のNPO法人で,多くの科学者や市民が結集しています。皆さまも,是非,その会員になられるといいと思います。他では入手できない貴重な情報やイベント案内などが入手できます。
ところで,下記に紹介する放射性ストロンチウムの解説は,同NPO法人の理事で名古屋大学名誉教授の古川路明氏(放射化学)がお書きになられたものです。決して信頼が今一つ置けないネット情報などではありません。
以下,下記のサイトの記述に沿ってコメントしたします。
*原子力資料情報室「放射能ミニ知識:ストロンチウム-90(90Sr)
http://www.cnic.jp/modules/radioactivity/index.php/8.html
(以下「放射能ミニ知識」と略記)
1.崩壊方式
(「放射能ミニ知識」)「(ストロンチウム90は:田中)ベータ線を放出してイットリウム-90(90Y、2.67日)となり、イットリウム-90もベータ崩壊してジルコニウム-90(90Zr)となる。イットリウム-90は、核分裂直後はほとんど存在しないが、時間の経過とともに量が増す。1ヶ月後には放射平衡が成立して、ストロンチウム-90とイットリウム-90の放射能強度は等しくなる。」
(田中)ここで重要なことは,放射性ストロンチウムは放射線(ベータ線=高速度の電子線)を出しながら,半減期の短い別の放射性物質であるイットリウム-90になり,それが更に崩壊して別の物質=ジルコニウム-90 になるという点である。つまり,放射性ストロンチウム-90は,イットリウム-90という,更にもう一つの別の「放射性娘」を生みながら崩壊するということだ。
一般に,他の様々な放射性核種も,こうした娘核種が存在するものが多いので,崩壊が進めば大丈夫,と簡単には思い込まない方がいい。言うまでもないが,親核種と娘核種の両方の放射能をしっかりと把握しなければならない(物質によっては孫核種,ひ孫核種,それ以上まであるものもあるようだ)。
(ジルコニウム-90が放射性物質かどうかについては記述がないが,書いていないということは,どうも放射性物質ではない「安定元素」のようである)
2.化学的、生物学的性質
(「放射能ミニ知識」)「ストロンチウムはカルシウムと似た性質をもつ。化合物は水に溶けやすいものが多い。体内摂取されると、一部はすみやかに排泄されるが、かなりの部分は骨の無機質部分に取り込まれ、長く残留する。」
(田中)ここで重要なことは次の3点である。①カルシウムと似ている,②ストロンチウムの化合物は水に溶けやすいものが多い,③かなりの部分は骨の無機質部分に取り込まれ長く残留。
カルシウムに似ているのだから,牛乳・乳製品や家畜・魚介類の骨や歯などは要注意ということである。②水に溶けやすいので,土壌に長くとどまらず,地中深くに沈み込んで地下水と混じりあい,やがて湧水となって河川や湖沼などに出てくることが多い。放射性ストロンチウムは,我々人間や家畜などの生き物にとって「命の源」である「水」=「飲料水」を汚染してしまう可能性がある恐ろしい物質なのだ。
そして,それを飲むとどうなるか,③骨に集中してきて濃縮・蓄積し,容易なことでは体の外に出て行かない。出て行かないということは,骨にたまった放射性ストロンチウムが,周囲に強烈な放射線(ベータ線)を出し続け,それが近い将来の白血病や骨肉腫などのガン,あるいは他の様々な健康障害につながっていく。
また,昨今耳にした話では,カルシウムが骨や歯だけでなく,人間や生物の体の重要な要素(たとえばホルモン)を形づくる際の重要元素の1つになっているため,そのカルシウムが放射性ストロンチウムに入れ替わった場合には,厄介なことになりかねないそうだ。まことに恐ろしい話である・
ストロンチウムで汚染された地域では,およそ生き物は安心して棲息・居住することはできない。仮に,幸いにして放射性ストロンチウムが放射性セシウムの1/10くらいの量で広く薄く拡散して汚染していたとしても,それらは生物の体内に入るや否や,骨や歯などに集まってきて濃縮し,そこで長期間にわたり滞留して,危険極まりない放射線を出し続けるのである。放射性ストロンチウムの危険性が,放射性セシウムの数百倍と言われるゆえんはここにある。
3.生体に対する影響
(1)(「放射能ミニ知識」)「イットリウム-90は高エネルギーのベータ線(228万電子ボルト)を放出する。」
(田中)猛烈なエネルギーである(ベータ線なので,猛烈な勢いで「電子」という電気を帯びた粒子(野球のボール)が飛んでくるとイメージされたい)。人間や生物の体をつくる分子の結合エネルギーは高々数千電子ボルトぐらいが関の山なので,こんな猛烈な勢いで飛んでくる電気粒子にぶちあったら,ひとたまりもなく大打撲を受け,壊れたり,DNA=遺伝子がおかしくなったりしてしまうだろう。放射能や放射線の破壊力・健康への害悪の根源の1つは,この巨大なエネルギーにある(それだけではない:たとえば化学作用)。
(2)(「放射能ミニ知識」)「このベータ線は水中で10㎜まで届き、ストロンチウム-90はベータ線を放出する放射能としては健康影響が大きい。10,000ベクレルのストロンチウム-90を経口摂取した時の実効線量は0.28ミリシーベルトになり、10,000ベクレルのストロンチウム-89を経口摂取した時は0.026ミリシーベルトになる。二つの場合で線量が約10倍違うが、その原因はベータ線エネルギーと半減期の差による。」
(田中)「経口摂取」とは「食べる,飲む」ということ。ストロンチウム90(半減期29.1年)を10,000ベクレル食べると0.28mSV(実効線量),ストロンチウム89(半減期50.52日)なら0.026mSV(同上)ということなので,これがほんとうならストロンチウム90はストロンチウム89の10倍以上危ない,ということを意味している。
私は「シーベルト」という被曝単位や「実効線量」という概念は全く信用していないが,この「90が89の10倍」という「10倍」の部分だけは記憶しておきたいと思う。おかしなものでも定義が同じなら,その相対的な大きさの比較は,ある程度参考になるとみていいだろう。
しかし,ぱっと見ると小さく見えている「実効線量=シーベルト」の値は,原子力ムラがでっち上げたインチキ評価の可能性がある。「実効線量=シーベルト」の絶対値(0.28とか0.026など)は信用しない方がいい。言い換えれば,シーベルトの値が小さいからと言って,安全だ,安心だ,だいじょうぶだ,などとは思わない方がいいということである。むしろ逆に「実効線量=シーベルト」の値は,小さくなるように作ってある,と考えた方がいい(拙文「(増補版)シーベルトへの疑問」参照)
(3)(「放射能ミニ知識」)「外部被曝が大きくなる恐れがある。皮膚表面の1cm2に100万ベクレルが付着した時には、その近くで1日に100ミリシーベルト以上の被曝を受けると推定される。」
(田中)皮膚表面1cm2に100万ベクレルが付着した時は100mSV,これと上記の内部被曝1万ベクレル=0.28mSv(ストロンチウム90),0.026mSV(ストロンチウム89)(いずれも実効線量)を比べてみてほしい。内部被曝の1万ベクレルを,皮膚被曝の100万ベクレル単位に修正するために,100をかけても,0.28mSV×100=28mSV,0.026mSV×100=2.6mSVである。100mSV以上にはならない。なんか変である。
これはおそらく,上記(2)が「実効線量」(あるいは内部被曝)であるのに対して,(3)は「等価線量」(あるいは外部被曝)だからではないかと思われる。「等価線量」の方は,特定の直接被曝した臓器や部位の受けたダメージ(エネルギー吸収量で代替)を直接カウントするが,「実効線量」の方は,それを体全体に散らせて「平均化」してしまう。上記で言えば,1cm2=だいたい1gの人体(ここでは皮膚)が受けた放射線を,「実効線量」は「体全体の60kgで受け止めた」として被曝量を計算するのである。そんなことをしたら,体重60kg=60,000gの人は,わずか1gの体の「ある部分」に受けた被曝を1/60,000に(体全体で受け止めた場合の1gあたりのダメージ)薄めてしまうことになる。
この「実効線量」の考え方を,西尾正道氏((独)国立病院機構北海道がんセンター長)の表現をお借りして,もののたとえで言うと,目薬をわずか数gの瞳に垂らす点眼を,体全体で受け止めました,などと言う人がいるんですか,ということだ。漫才や冗談ならまだしも,こんなことを本気で言って,テコでも修正しない頑固者がわんさといる世界,それが原子力ムラの御用学者の世界で,彼らは真顔で「(体全体に散らして平均化した)実効線量が低ければ大丈夫」と言っている。おそらく彼らは,目薬をさす時に「体全体で受け止める」べく,しっかりと足腰を鍛えて待ち構えているのだろう。まるで奇人・変人のやることである。
(ちなみに古川路明名古屋大学名誉教授は原子力ムラの御用学者などではない。ここでの表現は「彼らに」あわせて,比較考量しやすいように,わざとこのように書かれていると考えていただきたい)
(4)環境被曝の経過
(「放射能ミニ知識」)「主な体内摂取の経路は牧草を経て牛乳に入る過程で、土壌中から野菜や穀物などに入ったものが体内に摂取されることもある。また、大気中に放出された時には葉菜の表面への沈着が問題になる。」
(田中)放射性ストロンチウムが人間の体に入り込んでくる経路は,圧倒的に食べ物・飲み物である。野菜や穀物に,水に溶けた放射性ストロンチウムが取り込まれ,それを食べた人間が消化器系臓器からこの放射性ストロンチウムを吸収して骨や歯にためる,あるいは,畜産品や乳製品,魚介類などの動物性食品経由で入ってくるというパターンだ。
だからこそ,飲食物の放射性ストロンチウムをしっかりと計測せよ,規制値もちゃんと定めよ,と申し上げている。およそ,この危険な放射性ストロンチウムについて,飲食の規制値を定めていないのは,世界広しといえども日本ぐらいなものである。それはまるで,計測し規制するのを恐れているかのごとくである。
(5)核兵器実験の影響
(「放射能ミニ知識」)「大気圏内核兵器実験では、すべての放射能が大気中に放出され、地球上の広い地域に降下するので、全人類に放射線影響がおよぶといってもよい。アメリカと旧ソ連による大規模な大気圏内核兵器実験の影響で1960年代前半に大気中濃度が上昇し、食品の汚染がいちじるしかった。当時の日本人は1日に約1ベクレルのストロンチウム-90を取り込んでいたと推定されている。」
(田中)今頃,こんなことを詳細に知ってももう遅い。何故,当時の政府は,放射性ストロンチウムの計測をきちんとしなかったのだろうか(特に飲食品)。環境や土壌に薄く広く広がって汚染している放射性ストロンチウムを計測するだけでなく,それらが家畜や魚介類,海藻を含む生物群にどれくらいとりこまれ,どれくらい濃縮・蓄積していたかを調べていなければいけなかったはずである。そんなことは「猿でもわかるTPP」ならぬ「猿でもわかるストロンチウム」ではないか。
(6)核兵器実験の影響(続き)
(「放射能ミニ知識」)「その後は、地下核実験がおこなわれている。この時に、大部分の放射能が地下に残るが、後に地下水の作用で外に漏れることも考えられ、地下核実験はどこでもできるものではない。また、クリプトンやキセノンのように気体である放射能は外に漏れる恐れがある。核爆発の瞬間にはクリプトン-89(3.2分)、クリプトン-90(32秒)が崩壊を繰り返してストロンチウム-89、ストロンチウム-90になるので、放射性ストロンチウムは他の放射能より放出されやすいと考えられる。」
(田中)ええ!!,不活性ガスなので何の心配もいらない,などと御用学者達が説明してきたクリプトンが,実は崩壊が進むと,放射性ストロンチウムに「変身」するのですか? どええええええ・・・・・・・・。
(7)原発事故による放出
(「放射能ミニ知識」)「1986年4月26日に起こった旧ソ連(現、ウクライナ)のチェルノブイリ原発事故では、・・・・・・放出量が(放射性セシウムより:田中)少ないとはいえ現在でもその存在は認められ、事故地点の近くでは河川水などのストロンチウム-90による汚染が知られている。」
(田中)チェルノブイリ原発事故では,今でも河川水の汚染が問題になっているというのに,何故,日本は放射性ストロンチウムに対する警戒をちゃんとしないのだろうか。「利益相反」の環境汚染測定組織=文部科学省が行った,いかにもいい加減で信用し難い放射性ストロンチウム汚染調査を,ちょこちょことやって,それで「ストロンチウム汚染は極めて微量」などと「一人猿芝居」をしている。第三者監視の下で,放射性ストロンチウムの環境汚染状況調査を徹底的に行う必要がある。急がないと手遅れになる。
(8)再処理工場からの放出
(「放射能ミニ知識」)「再処理では、ストロンチウム-90のみが問題となる。ストロンチウムは揮発性化合物をつくりにくく、排気中には含まれない。再処理の工程を考えると排水中の放出量もゼロに近くできるはずである。実際はそうなっていない。」
「長期的には、長寿命のアメリシウム-241(241Am、433年)の存在が問題になるが、処分開始から1,000年ほどの間はストロンチウム-90とセシウム-137に注意をはらわねばならない」
(田中)全く冗談じゃない。こんな状態で,まだ青森県六ケ所村の再処理工場の稼働を続けると言うのか。「処分開始から1,000年ほどの間」なんて,いったい誰が責任を持つのか。未来世代に対する犯罪行為ではないか。
(9)放射能の測定
(「放射能ミニ知識」)「水試料では、ストロンチウムを分離し、1週間以上経過後に生まれてくるイットリウム-90を分離し、ベータ線を測定するのがふつうの方法である。生物試料では、有機物を分解して溶液にした後に、同様の操作をおこなう。放射線測定には液体シンシレーション計数装置またはバックグラウンドの低いガイガー計数装置を用いる。体内にある量を知るには、排泄物中の放射能を測るバイオアッセイを用いる。」
(田中)放射性ストロンチウムは,他の放射性核種などとの団子状態になった危険なパーティクル状の形態でサンプル採取されるが,その放射性ストロンチウムのベータ線を測定するのには,他の放射性核種の出すベータ線と区別がつかないので,一旦,化学処理して,放射性ストロンチウムだけを純粋にとりだす必要があることは薄々知っていた。
しかし,娘核種のイットリウム-90までも分離してしまうことは意外だ。しかも,イットリウム-90の出すベータ線のエネルギーは,放射性ストロンチウム-90の出すベータ線のエネルギーの約5倍も大きく,生態に及ぼす影響もそれだけ深刻だ。これでは放射性ストロンチウムの一族郎党全体の放射線が量的につかめず,かえって過小評価になるのではないか。
以上,「放射性ストロンチウムとはどういう物質か」を見てきたが,現下日本では,チェルノブイリ原発事故で旧ソ連諸国を襲いつつある晩発性の放射線被曝による健康障害や,放射性ストロンチウムを食べもの経由で摂取してしまう危険性が,十分には顧みられていない。目先のことだけを考えて軽率な行為を繰り返していると,やがて,とんでもないしっぺ返しを受けることになることを最後に申し上げておきたい。
以 上
食べもの・飲み物の
放射性ストロンチウムをきちんと検査せよ
放射性ストロンチウムの汚染が非常に気になります。ストロンチウムの化学的性質がカルシウムに似ているのですから,カルシウムを多めに含んでいると思われる食物群,すなわち牛乳・乳製品,魚貝類や海藻類などの水産物,畜肉や畜産品,家畜の骨を使ったもの(例:豚骨スープ,鶏がらスープ,カルビ焼肉やテールスープ,スペアリブ類,ゼラチン等々)については,当分の間は定期的で精力的な放射性ストロンチウム検査が行われなければなりません。しかし,下記の日本保健物理学会のHPで説明されているように,福島第1原発事故後においては,放射性ストロンチウムの食品や飲料汚染の実態調査や検査が,屁理屈を理由にしてほとんど行われていないのです。
また,日本では驚くべきことに,この危険極まりない放射性物質である放射性ストロンチウムについて,飲食品の残留規制値がないのです。放射性テルルなどのガンマ核種とともに,放射性セシウムの1/10程度で見ておけばいいとして,「放射性セシウムの規制値に包含されている」と説明されています。規制値がないのですから,検査もされません。その結果,放射性ストロンチウムの飲食汚染の状況が全く分からず,危険な状態に陥っています。
(政府は,放射性ストロンチウムの検査の時の化学処理が大変であること・時間がかかることを,規制値なし・検査なしの理由に挙げていますが,これも嘘八百です。昨今では,放射性ストロンチウム検査の手法は新しいものが開発され,ずいぶんと簡便化され時間短縮がなされています。そしてその手法は文部科学省も公式に認めています。使える検査手法や技術があるのに使おうとしていないのが実態です)
*日本保健物理学会HP「牛乳のストロンチウム測定について - 専門家が答える
暮らしの放射線Q&A」
私は,放射性ストロンチウムの危険性から鑑みて,もっと検査・調査を徹底して行い,危険がないならないで,あるならあるで,その結果情報を広く国民に開示すべきだと思います。福島第1原発事故後にあって,放射性ストロンチウム等の最も警戒しなければならない放射性核種について,その検査・調査をまともにしようとしない,関連情報を行政が適時適切に示さない,あいもかわらず「安心して下さい」説教の垂れ流し状態,というのは,あまりに国民を愚弄した態度だろうと思います。
飲食物の放射性ストロンチウム汚染に関する検査は直ちに行われなければいけません。仮に汚染されていなければ,それはたいへん幸いなことです。しかし,検査してみなければ,しかも検査を当分の間は続けなければ,汚染されているかどうかはわかりません(福島第1原発からは放射能が今でも海を含む周辺環境へ出続けていることを忘れてはいけないのです)。
下記に,行政がなすべき検査・調査の具体的取り組み事項を列記しておきます。
(1) 飲食品に残留する危険な放射性ストロンチウムについて厳しい規制値を定め,検査体制を確立すること,検査対象を大幅に増やし,検査条件や検査手法などとともにその結果を政府のHPに発表すること,検査における「利益相反」を徹底して排除し,透明な体制の下で検査を行うことで,検査結果への不当なバイアスを排除すること
(2) 牛乳(生乳)について,牧場ごとに,放射性ストロンチウムの検査を定期的に行うこと。また,市販されている国産乳製品についても,アットランダムに抽出して,継続的に放射性ストロンチウムの検査を行うこと
(3) 屠畜場で東日本産の家畜の骨や歯を回収し,放射性ストロンチウムの検査を定期的・継続的に行うこと
(4) 福島県内で野生化している家畜やペット等の動物について,無為に屠殺処分して死骸を捨てるのではなく,骨や歯について,放射性ストロンチウムの検査を必ず行うこと(また,各臓器も貴重な汚染検証素材なので,すべて放射能汚染状況を調べること)
(5) 福島第1原発周辺の地下水並びに海水について,放射性ストロンチウムの検査を定期的・継続的に行うこと
(6) 北は青森,南は神奈川くらいまでの太平洋側沿岸や河川・湖沼で採取される水産物・水産生物で,ストロンチウムを蓄積している可能性のあるもの(例:魚の骨,貝殻,エビやカニの甲殻,藻類など)を採取し,放射性ストロンチウムの検査を定期的・継続的に行うこと
(7) 東日本,特に福島県を含むホット・スポットに住む子どもたちの乳歯をあつめ,放射性ストロンチウムの検査を定期的・継続的に行うこと。この乳歯のストロンチウム検査を学校の健康管理のルーチンに入れること。(千葉県松戸市の医療法人社団きょうどうの理事長・藤野健正先生にご尽力で,子どもの歯の測定の取組が始まっています)
<参 考>
下記は,「食政策センター・ビジョン21」安田節子氏の講演会レジメからの抜粋である。ここから一つ言えることは,海藻を含む様々な水産物について,放射性ストロンチウムの検査を実施するのが,海洋汚染モニタリング・水産物安全モニタリングとしては不可欠である,ということです(加えて放射性セシウム以外の危険な放射性物質についても検査が必要である:たとえば放射性銀,テルル,トリチウム,放射性ヨウ素129等)。
しかし,政府や自治体は,そうした水産物の安全確保のための取組には消極的な姿勢を続けています。「(放射性ストロンチウムが)出たら困る」と考えているとしか思えません。しかし,出たらもっと困るのは,それを食べる我々消費者・国民の方なのです。
(放射性ストロンチウムの生物濃縮係数)
魚の身 0.4
魚の骨 25
イカタコ 0.3
二枚貝の身 0.4
貝殻 130
ひじき、こんぶ、わかめ、もずく 17
要注意! イカから放射性銀検出、米国クロマグロからセシウム検出
(「食政策センター・ビジョン21」安田節子氏のレジメより)
*「食政策センター・ビジョン21」HP
http://www.yasudasetsuko.com/vision21/index.html
*安田節子ドットコム
以 上
放射性ストロンチウムの検出検査方法
放射性ストロンチウムの検出検査に関して,次のような情報を入手しています。同位体研究所のHP(下記URL)の説明によりますと,米国のスリーエム社が開発した固相抽出ディスク(エムポア・ディスク)を使えば,ストロンチウム検査にこれまで3週間以上の時間と手間がかかっていたものが,1週間で可能となるとされています。そしてこの方法は,米エネルギー省や日本の文部科学省が,既にストロンチウム測定法として認めているということですから,これを普及させれば,ストロンチウム測定期間の簡素化と短縮につながることになります。
これは非常に重要な情報であるように思います。政府が繰り返し繰り返し言い訳していた「ストロンチウムは検査に手間暇・時間がかかるから,頻繁には情報提供できない」という,どうも嘘臭かった根拠が消えてなくなることになります。政府や自治体などは,こうした新たに開発された検査手法を使い,放射性ストロンチウムを含むベータ核種やアルファ核種の放射能汚染検査(環境及び飲食品)をもっと大規模に行っていかねばなりません。
*同位体研究所 放射性ストロンチウムの抽出の新技術・3M社製固相抽出ディスク
http://www.radio-isotope.jp/Analysis/analyse_Sr90.html
*同位体研究所
http://www.radio-isotope.jp/
(以下,上記の同位体研究所HPの説明を抜粋)
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<放射性ストロンチウムの抽出の新技術・3M社製固相抽出ディスク>
放射性ストロンチウムの測定には、上記のように検体より煩雑な手順で放射性ストロンチウムを分離する事が必要です。
従来はイオン交換法等によりセシウムを抽出し、不純物を除去した上で測定を行います。この処理工程は10段階以上で3週間以上を要します。
これに対して固相抽出法という新たな手法が開発されています。この技術は、米国スリーエム社が開発したエムポア・ディスクという特殊なフィルターを使うもので、溶液中のストロンチウムをディスクに直接吸着させる事で、迅速に放射性ストロンチウムの回収が可能となります。すでに文部科学省、米国エネルギー省等で放射性ストロンチウム測定法として認められており、1週間程度で測定ができる画期的なものです。
水、米、牛肉、飼料、土壌に含まれる放射性ストロンチウム(Sr90/89)を精度良く測定が可能となります。同位体研究所は、このディスクを用いて放射性ストロンチウムの測定試験を行っています。
固相ディスクは、それぞれ個別のパッケージに保存されており、このディスクを抽出用の器具にセットし、吸引しながら検体から酸によりストロンチウムを抽出した上、週出液を通過させると、ディスクに放射性ストロンチウムが吸着されます。その後ディスクを乾燥させ、β線測定装置で測定すれば放射性ストロンチウムが精度良く測定できます。放射性ストロンチウムは、水に溶けやすく植物などにも吸収されやすい為、迅速な検査が必要となっています。固相ディスクによる測定は、放射性ストロンチウムの測定工程を大幅に簡素化させるもので、幅広く放射性ストロンチウム測定の提供を可能とします。
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(引用は以上)
放射性ストロンチウムの危険性については,かねてよりお伝えしておりますが,特に子どもの放射性ストロンチウムによる内部被曝が懸念されます。政府や日本の医療界がまともな対応・対策をとらない中で,我々一般市民・国民は自己防衛を余儀なくされていますが,昨今では下記のような,子どもの乳歯を検査する試みが始まっています。ご参考までに。
以 上(2013年1月25日)
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