原子力規制委員会・規制庁による(原発)「新安全基準骨子(案)」に抗議する(こんなものでは原発の安全は確保できない)
原子力規制委員会・規制庁による
(原発)「新安全基準骨子(案)」に抗議する
(こんなものでは原発の安全は確保できない)
「原子力資料情報室」会員
ちょぼちょぼ市民による政策提言の会(運営委員)
田中一郎(ichirouchan@withe.ne.jp)
去る2013年1月30日に原子力規制委員会は,(発電用軽水型原子炉施設に係る)設計基準、シビアアクシデント(過酷事故)対策、地震や津波対策を3本柱とする「新安全基準骨子(案)」(以下,「新安全基準(案)」)を決定し,パブリック・コメントに付した。「新安全基準(案)」は一見すると,「ベント・フィルター装着」「防潮堤のかさ上げ」「第2中央制御室の設置」「活断層上での原子炉建設禁止の明確化」「機能喪失対策や緊急冷却用屋外装置の用意」など,従来よりも厳しい基準が用意されたかに見える。しかし,その内実は,基準自体が必ずしも原発の安全性確保を徹底するものではなく,従来発想にとらわれて,原子炉事故を甘く見ている様子がうかがえる他,あちこちで抜け穴だらけの不十分なものとなっており,およそ,かようなものでは原発の安全性は担保されるべくもないものと判断される。
以下,この「新安全基準(案)」の問題点のうち代表的なものをいくつか列記し,まずはその白紙撤回を求める。そして,二度と原発のシビアアクシデントを引き起こさないための原子炉設計の抜本見直しを含む徹底した安全基準策定に向け,根本的なところからの再検討を要求する。
1.「新安全基準(案)」策定のプロセスの不適正に抗議する
「新安全基準(案)」の策定プロセスには下記のような問題があり看過できない。今般策定された「新安全基準(案)」はいったん撤回し,公正でバランスのとれた委員人選に基づく検討委員会を再度設置し,原発の安全性確保のための検討を,もっと根本的なところからやり直しすることが必要である。
(1)「新安全基準(案)」の検討があまりに短期間に拙速・性急に行われており,にわか作りの場当たり的・小手先対処の印象を受けるものが多い。もっと時間をかけて,広く国民の意見を聞くべきである。こうした原子力規制委員会・規制庁の動きは,原発・核燃料施設再稼働を最優先し,あらかじめ定めたスケジュールに従って,形ばかりの「新安全基準」を強引に策定せんとする本末転倒の行為であると言える。
(2)電力業界や原子力業界などから金品・便宜等の提供を受けたり,同業界に籍を置いたりしていた「利益相反」の立場にある者が検討委員会の委員となり,規制される側の電力業界等に有利な結論へと誘導してきた経緯がある。こうしたことは許されないことである。当該委員を更迭せよ。
(3)原子力関係者だけで構成された検討会で「新安全基準(案)」を検討するのではなく,原子力推進・原発に厳しい見方をしてきた人達を含む独立した有識者を検討委員に加え,その考え方や見方を広く取り入れ,より実効性の高い厳しい内容の安全基準を策定すべきである。
(4)福島第1原発事故の原因究明が先である。そのためには,国会事故調で事故原因の調査・報告を行ったキーマンから,究明された事項や未解明の点などをしっかりと引き継ぎ,十分なヒヤリングや現場実態調査などを行うべきである。しかし,「新安全基準(案)」の検討委員会は,規制される側の事業者からのヒヤリングを行うのみで,福島第1原発事故の原因究明や国会事故調からのヒヤリングには消極的である。(例えば,明確な実証的根拠なく福島第1原発事故で地震の揺れは事故とは無関係と決めつけることは許されない)
(5)更に,今般明らかになった東京電力による国会事故調による福島第1原発調査への妨害行為には,福島第1原発の地震の揺れによる原発施設の破損(いわゆるLOCA)を隠蔽しようとした疑いがある。特に,1号機の非常用復水器(IC)の破損については,その証拠と思われるいくつかの事実が指摘されており,まずはその究明が急がれなくてはならない(この1号機のICは耐震性に4倍以上の余裕があるとされてきたにもかかわらず破損した疑いがある)。また,2号機や3号機についても,非常用炉心冷却装置(ECCS)や冷却用施設・配管類について,地震の揺れの影響の有無が確認されるべきである。更には,福島第1原発だけでなく,東通原発や核燃料サイクル施設,女川,福島第2,東海など,今回の東日本大震災によって被災した全ての原発・核燃料施設の徹底した実態調査が「新安全基準」策定の前に強く望まれるところである。
(6)パブリック・コメントの期間をもっと長くとることに加え,パブリック・コメントに先立ち,全国各地において説明会・意見交換会・公聴会などが実施されるべきである。ただ,文章だけをHPに掲載して事足れりとする姿勢は,原子力規制委員会・規制庁として,説明責任を欠如させている。
2.「新安全基準(案)」は抜け穴だらけの不十分なものであり全面的に見直しが必要である。
原子力規制委員会によって公表されたものを新「安全基準」とするには多くの瑕疵や欠陥があり,また欠落事項も多い。下記に列記したものはその代表的な事項にすぎず,「新安全基準(案)」は書ききれないほどの安全確保上の問題点を含んでいる。撤回の上,抜本的な見直しが必要である。
(1)福島第1原発事故からの教訓とも言うべきことも含め,①非常用炉心冷却装置(ECCS)や復水器,その他配管類を含む原子炉冷却用装置の耐震性やシビアアクシデント時の機能について,再度,その安全確保のための堅確性を見直す必要があること,②福島第1原発事故を引き起こしたマークⅠ型沸騰水型原子炉は欠陥原子炉として指定し,その使用を取りやめるべき(原子炉の大きさがあまりに小さい等),また,その他の型の沸騰水型原子炉については,制御棒を原子炉の下から重力に逆らい水圧を用いて入れることの危険性の再評価・対策も必要,③水素爆発防止と放射能封じ込めの二律背反の解決方法,④外部電源の複数化と耐震性・対津波対策の抜本的強化,⑤各種制御装置・モニター機器類の堅確性や耐久性と,緊急時対策支援システム(ERSS)の故障防止や原発敷地内外の放射能モニタリング装置の見直しによる事故時の故障防止等の事項について,もっと徹底した分析と安全上の改善を行うべきである。
(2)福島第1原発事故を引き起こした沸騰水型とは異なる加圧水型の原子炉施設については,更に加えて,①蒸気発生器の耐震性,②格納容器内での水素爆発防止対策とその有効性の検証(窒素注入の検討等),③放射能除去フィルター付ドライベント装置の即時設置義務化,④地震時における制御棒挿入の堅確性,⑤スリーマイル島原発事故教訓の再確認,などが必要かと思われる。格納容器が大きいからという理由だけで,上記②や③を省略・あるいは先送りした状態での原発稼働は危険極まりない。
(3)原発の老朽化対応を強化すべきである。原発寿命の40年の例外を認めないことの他に,圧力容器の脆性遷移温度を安全サイドに立って厳しく規制するとともに,配管類や蒸気発生器・復水器等の老朽化によるひび割れその他の劣化についても,その点検方法も含め厳格な基準が求められている。
(4)ベント・フィルター装置は,新聞情報が伝えるところによれば,単に原子炉や格納容器内の放射能汚染気体を水に通すだけのものであり,放射能除去が十分ではないようだ。まず,ベント・フィルターの容量や性能について厳しい規制を設ける他,何重もの厳重な追加のフィルター等を併設し,環境へ放出される放射能を極限値まで引き下げることが必要である。
また,そもそも論として,ベント実施を前提とした原子炉設計は,安全確保の観点より許されないものと考える。放射能が万が一にも格納容器より大量に環境に出るなどということは許されないことであり,ベント・フィルターがあるから,これからはベントをすることが当然であるかのごとき考え方は本末転倒であることを付記する。
(5)火災対策について,可燃性ケーブルの使用状況を確認し,使用の疑いがあればただちに原発を止めて不燃性ケーブルに交換させること。可燃性ケーブルの表面に不燃塗料を塗っただけのものを「不燃性ケーブル」とみなす等の,いわゆる「みなし規定」は廃止すること。
(6)使用済み核燃料の安全対策に万全を期する必要がある。原子炉に隣接して地上10mを超えるような場所に使用済み核燃料プールを設置した施設の使用は禁止し,かつ,使用済み核燃料は,早期にいわゆる「乾式貯蔵」に移行して,津波の被害が予想される地域から内陸へ移動させる必要がある。
(7)シビアアクシデント対策については,原発施設の外側から可搬施設等により追加対策として外付けするのではなく,原子炉等の基本設計における前提条件として,本来の設計基準の一つとして設けられ,恒久的な施設・対策として用意されるべきである。可搬の外付け施設については,信頼性に疑義が伴ったり,シビアアクシデント時における接続に時間と困難が伴い,原発の安全性向上には必ずしもつながらない(いざという時に役に立たない可能性あり)。そして,そもそも,原子炉施設がシビアアクシデント状態に陥らないための多重防護の仕組みを抜本的に見直す必要がある。
(8)シビアアクシデント対策については,福島第1原発事故を上回る規模と深刻さのものを前提に考えられるべきである。また,事故発生を確率論的に認識するのではなく,事故がもたらす深刻度から絶対的に判断して「新安全基準」は策定されるべきである。つまり,いかなることがあっても,福島第1原発事故と同程度,またはそれを超える事故は起こらない状態を「新安全基準(案)」が創造する必要がある。
(9)シビアアクシデント対策については,たとえば,①津波対策としての原発施設内の「水密扉」(水を施設内に入れないための扉)が人的操作に依存して設計され,いわゆる自動化が義務化されていない(地震後に津波が来るまでの間に人間が複数の扉を閉めて回る),②マークⅡ型沸騰水型原子炉については,炉心溶融時に原子炉直下にある圧力抑制用の水プールに核燃料デブリが落下して水蒸気爆発を起こす危険性があるが,その対策がない,などの甘さが専門家から指摘されている。その他の格納容器破壊事象も含め,もっと掘り下げたより慎重な検討が必要不可欠である。
(10)新聞情報によれば,シビアアクシデント対策を中心に,安全確保のための必要不可欠の対策(新設備の設置や装置改造など)を,経過期間を設けたり,新設備等の設置を猶予して先送りすることなどを認める動きが原子力規制委員会にあると伝えられている。原発の安全性を考えた場合,許されないことである。
(11)原発敷地内外での活断層であるか否かの判断基準については,すべて40万年以上前まで遡って,その動きから厳格に判断すべきである。限られた場合にのみ40万年まで遡るという基準は,当初原子力規制委員会が説明していたことから後退している。既に2010年に政府の地震調査研究推進本部がまとめた報告でも,活断層は「40万年程度を目安にする」とされており,一般の活断層よりも厳しく評価されなければならない原発敷地において,原則12万年前・例外40万年前とすることは許されない。
また,活断層の危険性については,①Sクラスと呼ばれる「重要な安全機能を有する施設」の直下だけでなく,そもそも原発施設内での活断層の存在を認めない,②複数の活断層の連続性や敷地内の短い断層の集合などについても,より安全側に立った評価を行うこと等の点を加味し,より厳しい「安全基準」とすべきである。
更に,これまで多くの「利益相反」委員らによって不適切な活断層評価・地震リスク評価が行われてきた結果,全国各地の原発・核燃料施設敷地で,今頃になって活断層が「発見される」などという事態となっている。改めて全国全ての原発・核燃料施設について,その敷地調査・地震リスク評価をやり直すとともに,地震大国日本にふさわしい厳格な敷地評価が,厳正な委員メンバーで構成される委員会より,適切に実施されるべきである。
(12)原発ごとに想定される最大地震のマグニチュードや揺れの大きさの設定が甘いものが多い。また,原発施設の耐震性については,単に揺れに対する強度のみならず,原発直下の敷地の地割れやズレ,隆起・陥没なども考慮の上,抜本的に見直されるべきである。
(13)原発ごとに想定されるという最大津波の判断基準を示すこと,その際には,津波がいわゆる「共振」を起こして巨大化する可能性も十分に勘案されることが必要である。また,津波対策については,単に想定される津波高さにまで防潮堤を建設すればそれですむというわけではない。津波は,単に水の波が押し寄せるだけでなく,巨大な岩石や土砂やその他の固形物をも伴って,強大な破壊力をもって原発施設を襲う。従って,津波の脅威から逃れる基本は,原発を津波が押し寄せてこない標高地にまで移転させるとともに,大津波時における復水器冷却機能の万全の代替策が必要である。
また,津波の影響を受けることのない「緊急対策施設」の設置も必要である。
(14)これまで多くの事業者により,定期点検時を含め原発の安全性に関する点検や検査,報告等において,ルール違反の虚偽報告やゴマカシ・隠蔽・歪曲・手抜き等が行われてきた。こうした不正行為を根絶しなければ,原発・核燃料施設の安全性の確保などはおぼつかないことは言うまでもない。ついては「安全基準」に,そうしたコンプライアンス事項を盛り込み,違反した事業者に対しては,免許取り消しを含め厳格な対処策を策定しておく必要がある。
(15)福島第1原発事故により,原発推進を巡る情勢が厳しくなったことを受け,原子力産業は原発・核燃料施設の輸出に乗り出している。自国において大事故を引き起こした当事者が,厚顔にも海外に対して原発の安全強化を標榜しながら原発・核燃料施設の輸出を行うことなど,断じて許されないことである。また仮に,輸出した原発が海外で事故を起こした場合には,日本政府がその政治的・経済的・社会的責任を問われ,大きな賠償や補償の負担を余儀なくされる可能性も高い。日本国民にとっては無用の将来リスクである。ついては原発輸出の事実上の禁止=厳重な1件ごとの輸出許可制度を盛り込むべきである。
最後に,福島第1原発事故を引き起こした我が国の原発・核燃料施設については,その安全性基準を抜本的に見直すとともに,その基準に合致しない原発はただちに停止・廃炉とされるべきであり,また,そうした「新安全対策」をしてまで原発に固執する必要性や合理性があるのかどうかも,併せて検討されるべきである。また,大量の使用済み核燃料や放射能汚染という将来世代への大きなツケを残さないという意味での倫理性なども十分に勘案・再考された上で,今後の原発・核燃料施設のあり方が打ち出されるべきである。
以 上(2013年2月20日)
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