(大飯原発3・4号機運転差止仮処分裁判)原子力ムラ・関西電力追従の不当判決糾弾 3人の裁判官を許すな
前略,田中一郎です。(2013.4.27)
(大飯原発3・4号機運転差止仮処分裁判)原子力ムラ・関西電力追従の不当判決糾弾:3人の裁判官を許すな
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前略,田中一郎です。(2013.4.27)
(大飯原発3・4号機運転差止仮処分裁判)原子力ムラ・関西電力追従の不当判決糾弾:3人の裁判官を許すな
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前略,田中一郎です。 「ふくしま集団疎開裁判」仙台高裁判決に関するコメントをいくつかお送りいたします。 簡単に申し上げれば,恒常的な放射線被曝の危険性は認めるが,それによって健康被害を受けるであろう福島県の子どもたちの避難する権利は認めない,という支離滅裂の判決です。福島の子ども達,福島の汚染地域の住民を放射線被曝に曝して健康被害を招いておいて,災害復旧・復活もあったものではありません。放射線被曝を甘く見れば,近い将来取り返しのつかないことになりかねません。一刻も早い対応が必要です。 1.判決文全文
http://www16.atwiki.jp/pipopipo555jp/pages/3272.html 2.ふくしま集団疎開裁判 2013年4月24日仙台高裁決定についての声明(ふくしま集団疎開裁判弁護団)
http://fukusima-sokai.blogspot.jp/2013/04/2013424.html 3.「ふくしま集団疎開裁判」HP
(1)ふくしま集団疎開裁判 速報【仙台高裁の判決(決定)の紹介】私たち本当に負けたの?(その1):柳原敏夫弁護士
http://fukusima-sokai.blogspot.jp/2013/04/blog-post_3028.html (2)ふくしま集団疎開裁判 速報【仙台高裁の判決(決定)の紹介(2)】盲腸のようにくっついているこの一文はなに?
http://fukusima-sokai.blogspot.jp/2013/04/blog-post_9733.html (3)ふくしま集団疎開裁判 速報【判決直後アクション】私の感想(北海道の医師の松崎道幸さん)
http://fukusima-sokai.blogspot.jp/2013/04/blog-post_8572.html (4)ふくしま集団疎開裁判 速報【判決直後アクション】私の感想(京都大学原子炉実験所の小出裕章さん)
http://fukusima-sokai.blogspot.jp/2013/04/blog-post_1444.html 4.ふくしま集団疎開裁判 速報:今、疎開裁判は世界の関心事。世界主要メディアは、いっせいに疎開裁判の判決を報じました
http://fukusima-sokai.blogspot.jp/2013/04/blog-post_26.html
(ニューヨークタイムズ,ワシントンポスト,ABCニュース(米国三大テレビ局の1つ),FOXニュース) 5.VTR
(1)柳原さんの判決検討と質疑応答(62分)
・ふくしま集団疎開裁判:仙台高裁棄却決定記者会見
https://www.youtube.com/watch?v=wyNMX85tEic (2)井戸さんの電話による判決評価(8分)
・ふくしま集団疎開裁判:仙台高裁棄却決定「行政の責任に触れない肩すかし判決」
https://www.youtube.com/watch?v=3fzPDXxtPpQ 6.海外
(1)Japanese High Court
Rejects Childrens' Claims on the Right to Evacuation - YouTube
http://www.youtube.com/watch?v=l3ALOywblm0 (2)Japanese High Court
Rejects Childrens' Claims on the Right to Evacuation - World Network For Saving
Children From Radiation (参考)15年戦争資料 @wiki - ふくしま集団疎開裁判・仙台高裁2013-04-24決定
http://www16.atwiki.jp/pipopipo555jp/pages/3271.html
(「ふくしま集団疎開裁判」の総合サイトです) (参考)「ふくしま集団疎開裁判」HP
http://fukusima-sokai.blogspot.jp/ 早々
前略,田中一郎です。
先週,水産庁が発表した「各都道府県等における水産物放射性物質調査結果」において,千葉県沖で獲れたカツオから,ある程度の無視できない数値の放射性セシウム汚染が検出されていたことが明らかになりました。
最後尾に付記したサイトをご覧になるとわかりますが,このカツオは水産経済新聞記事によれば,
・太平洋沖(N33°30、E140°30)=千葉県沖南約180km
・4月13日採取,4月17日公表
・検査主体は,全国近海カツオマグロ漁業協会(近かつ協)
・分析機関は「(財)日本冷凍食品検査協会」
・検査結果の放射性セシウム合計は3.3ベクレル(セシウム134が1.05,セシウム137が2.22)
となっています。ゆゆしき事態と言えるでしょう。
サンプルの抽出の仕方や,検査の仕方,あるいは検査に係る利益相反行為の排除などに問題がなかったのかどうか,気になるところですが,ともあれ近海物の春カツオにこうした放射性セシウム汚染が確認されたことはゆゆしき事態です。
これまでも日本近海で獲れるカツオについては,1ベクレル未満の放射性セシウムが検出されることがありました。しかし,今回のように数ベクレル単位で汚染が確認されたのは,おそらく事実上,3.11福島第1原発事故以降では初めてではないかと思います。千葉県沖で,かつ180kmもの沖合で獲れたものであることに注目する必要があります。そして,その原因は,おそらく食物連鎖ではないかと推測されます。
確かにベクレル数の絶対値は,まだ小さいものですが,しかし,これは
①氷山の一角の可能性があり,中には汚染度合いがもっとひどいカツオがいる可能性がある,
②当事者能力が欠如した東京電力と政府及び原子力「寄生」委員会・「寄生」庁の,ずさんでいい加減な事故後処理・管理のおかげで,放射性物質の海への流出は依然として止まらず,東日本一帯の海洋汚染を日に日にひどく深刻なものにしている中,今後も,こうした広域回遊魚と言えども,食物連鎖を通じて,その汚染が拡大・拡散していく可能性があること,
③危険な放射性核種のうち,放射性セシウムだけが検査されているにとどまり,放射性ストロンチウムをはじめ,その他の放射性核種については,規制値もなければ検査もなされていない危険極まりない状態であること,
④食品検査をめぐる「公正」性が依然として担保されず「利益相反」が広範囲に見られること(データ改ざんや隠ぺいの可能性あり)
などの理由から,看過するわけにはまいりません。
我々は,あきらめることなく,政府に対して食品の残留放射能検査=とりわけ水産物に対する検査の充実を訴えていく必要があります,更に,水産物については,北は北海道太平洋側から南は神奈川県沖合くらいまでの漁業・水産業をいったん停止し,関係者に対して万全の賠償・補償を行ったうえで,水産物の徹底した残留放射能検査,及び海洋生態系と海洋汚染(海底汚染を含む)の徹底的な調査を行う必要があります。また,少なくとも,福島県とその隣接県の茨城県及び宮城県牡鹿半島より南では,当分の間,漁業は中止されるべきです。そして,こうした検査・調査については,政府や自治体が協力の上,しっかりとした体制をとり(利益相反排除を含む),中長期的に続けていく必要があります。貧弱な調査・検査に立脚して,安全・安心を説教することが政府や自治体の仕事ではないのです。
カツオは,南方から回遊してくる春カツオと,肥え太って油ののった状態で北方から南方へ産卵に帰る秋ガツオの2つがありますが,今年はこの調子ですと,秋カツオが非常に心配です。
(また,カツオについては,南方太平洋やインド洋において,中国・台湾や東南アジア・南アジアその他諸国による資源状態を無視したカツオの乱獲が続いており(主として巻き網漁業),このままいくと近未来において,カツオが「幻の魚」となる危険性が指摘されています。事実,数年前より,日本の伝統漁業でもあるカツオ一本釣りの漁獲状況のよろしくない事態が続いており,日本の漁業関係者の懸念を増大させています。
更に,近年におけるカツオ・マグロ類の乱獲は年々ひどくなり,国際的な漁業管理機関が十分に機能しないまま,乱暴な漁獲が続けられています。カツオと同じ運命にあるのが,キハダマグロ,メバチマグロ,ビンナガマグロであり,既に乱獲されて絶滅危惧種に浮上しているのがクロマグロとミナミマグロです。人間の愚かな行為が,大切な食料資源を枯渇させる危機が続いています)
それから,水産庁の「各都道府県等における水産物放射性物質調査結果」を見ますと,これまであまり汚染が検出されなかったスケトウダラからも数ベクレル程度の放射能検出が散見されるようになってきました。スケトウダラは北方系の魚で,放射能汚染がひどいマダラなどとは少し生態が違います。一方で,辛子明太子などの原料のタラコが獲れ,他方では,その身をすりつぶして「すり身」=カマボコ等の原料にするのがこのスケトウダラです。これに放射性セシウムがでているのもまた,深刻な事態と言っていいでしょう。
タラコのお茶づけ・おにぎり,それにカマボコ・ちくわなどの練りものは,もう多食してはいけない食品になってしまっているようです。
こうした検査結果を見るたびに,私は原子力を推進してきた東京電力・政府自民党・原子力ムラに対する怒りがこみ上げてきます。そして,この期に及んでも,飲食品の放射能汚染があたかも心配がいらないかのごとく嘘八百を垂れ流すマスごみ,及び御用学者・へっぴり腰学者に対しても同様です。
*水産庁「各都道府県等における水産物放射性物質調査結果(平成25年度)」(4月18日まで)
http://www.jfa.maff.go.jp/j/housyanou/pdf/130418_result_jp.pdf
*水産庁「水産物の放射性物質調査の結果について~4月18日更新~」
http://www.jfa.maff.go.jp/j/housyanou/kekka.html
*東京新聞特報(TOKYO Web):数少ない批判的報道「こちら特報部」 2013.4.21
政府新指針 放射能検査縮小へ 「食の安心」なぜ奪う特報(TOKYO Web)
http://www.tokyo-np.co.jp/article/tokuho/list/CK2013042102000150.html
早々
前略,田中一郎です。
先般,岩波書店の月刊誌『科学』(2013.1)に「尿検査を活用して内部被曝を知る」という論文が掲載されました。検出限界値が大きく,体が小さい子どもの場合には内部被曝を十分には測定できず,またγ核種以外のα核種(例:プルトニウムやウランなど)やβ核種(例:放射性ストロンチウムやトリチウムなど)なども調べることのできないWBCよりは,より確かに詳細に,かつ簡単に検査ができる尿検査は,以前より注目すべき検査方法と思っておりました。この小論文を読んでも尿検査の重要性認識はゆるぎません。
しかし,この論文が導き出している尿検査の結果評価を巡る議論については,大きな疑問を持たざるをえませんでした。これはひょっとすると,尿検査の重要性を指摘しながらも,その結果は極度に過小評価・矮小化することにより,被害者や子どもたちの内部被曝を覆い隠してしまうことになるのではないか,そういう危惧を強く抱かざるを得ないものでした。
以下,この論文のどこが理解に苦しむのか,変なのかを簡単に列記したいと思います。詳しくは原文を図書館等で入手の上,ご覧いただければと思います。なお,この小論文の著者2人のうちの1人は中川尚子氏で「茨城大学理学部物理学領域」とあり,教授・教員なのか学生なのか大学院生なのかは不明です。もう一人の著者は木村かやの氏で,「あおば皮膚科クリニック」とあるだけで,医師なのか従業員なのかは不明です。
<ご紹介申し上げる岩波月刊誌『科学(2013.1)』掲載の論文:図書館等でご覧下さい>
・尿検査を活用して内部被曝を知る(中川尚子・木村かやの 『科学 2013.1』)
<首をかしげる記述を,私のコメント付きで列記します>
(1)P42左「標準体重かつ標準的な尿量の5歳児ならば,1日のセシウム摂取量(Bq/day)と体重1kgあたりの体内セシウム濃度(Bq/kg)は,検査結果に記載された尿中セシウム濃度(Bq/L)のそれぞれ1倍とl.6倍である」
(田中)⇒「尿中セシウム濃度(Bq/L)のそれぞれ1倍とl.6倍である」は小さすぎるのではないか。
(2)P42左「東京電力福島第一原子力発電所の事故から1年8カ月が経過し,食品に含まれる放射性セシウムの量について継続的な検査が行われている。おかげで,食品の汚染状況について大まかな見通しを得ることができるようになってきた」
(田中)⇒ 検査が行われている食品の数は,流通する食品数に比較すると限りなくゼロに近く,食品の汚染状況は3.11福島第1原発事故以降,一貫して分からないままである。意図せずして汚染品を食べてしまうリスクは依然として高く,また,汚染物として処分されるべきものも食品流通に乗せられている可能性も払拭できない。ひとえに厚生労働省・農林水産省など,政府の食品検査体制の「手抜き」によるところ大である。
(3)P42右~P43左「高精度すぎてほんのわずかな放射性セシウムでも検出してしまうことだ。尿検査で放射性セシウムの数値(つまり不検出以外の結果)が検出されたことを悲観し,放射性物質ゼロの食事を徹底しようとして,高いストレスにさらされている方がいる」(中略)
「親が子どもたちを守りたいという気持ちは尊いものなので,高いストレスを受けて対処すべき危険な結果なのか,慎重に検討してみたい。たとえば,尿検査結果の投稿サイトでは,1 Bq/L未満という検出限界に近い
報告例が大半を占めている。1Bq/Lの測定結果を得た5歳児が1日に食べているセシウムの量は1.0Bq,体内セシウム濃度は体重1kgあたり1.6Bq,体内セシウム濃度は29Bqと概算される。体内の放射性セシウム量についての限度値である体重1kgあたり20Bq(後述)と比較すれば,十分に安心できる検査結果に見える」
(田中)⇒ 上記(1)と同様で,1Bq/Lの測定結果の場合,食べているセシウムが1Bqや,体重1kgあたり1.6Bqの体内蓄積,体内セシウム濃度が29Bq,などの数字は小さすぎるのではないか。
(4)P43左「(これは「尿検査結果を150倍すると,ほぼ体内の放射性セシウム量に相当するのではないか」という間違った見積もりが同サイトに書かれていることも影響しているかもしれない)」
(田中)⇒ 一般的に,尿検査結果の100~150倍くらいの放射性セシウムが体内に存在すると言われている。何故,それが「間違っているのか」の説明はない。
(5)P43右「しばらくして体内の蓄積量が増えてくると,摂取する量と排出される量が釣り合うようになる。この釣り合うときの値を乎衡値と呼ぼう。平衡値になっている場合には体内のセシウム量が変化しないのだから,食べた分だけ外に出るということだ。つまり,平衡であるならば,1日のセシウム摂取量=1日のセシウム排出量 となる」
「原発事故から1年8カ月も経過した現在では,多くの家庭の食材選択はほぼ落ち着いていることだろう。このような場合は,毎日ほほ同じ量のセシウムを摂取し,体内のセシウム濃度も平衡値になっているとして,大きな間違いはないだろう」
(田中)⇒ どうも,この論文のそもそもの誤り,というか,強引な結論の根源は,上記に書かれている余りに楽観的な仮定・前提にあると言わざるを得ない。加工品や外食を含む流通する飲食品が放射性物質に汚染されているかいないかは,現在の検査数では何とも言えないし,これからも何とも言えない。
特に福島第1原発からは今も放射性物質が海に,大気中に,地下水にと放出されており,これらの環境放出放射能が,どのようにこれから挙動して行くかは,流通する飲食品や環境汚染状況が全くと言っていいほど調査・検査されておらず,分からないままであると言っていいだろう。生物が媒介する生体濃縮や食物連鎖もあり,動物由来の食品=とりわけ魚介類については,放射性セシウム以外の危険極まる放射性核種も懸念されている。そのような情勢下で,何故にかような強引でかつ「安全の側」に引っ張るような「評価」をするのだろうか。少なくとも科学的・実証的な根拠は乏しいと言ってよい。
更に,内部被曝には呼吸被曝があり,土壌汚染の結果,かなり高い空間線量・高い土壌汚染の中で居住を半ば強制されている住民,特に子どもたちの被曝については,呼吸被曝が外部被曝と併せて非常に心配である。食べ物摂取からだけで内部被曝の「平衡状態」を説くのも,ある種のインチキではないのか。
この論文の著者は,かような強引かつ被曝もみ消しにつながりかねない強引な仮定を前提として,尿検査の結果に過剰な心配をするなと説くのではなく,汚染と被曝に関してワーストシナリオを念頭に置いて,そのワーストシナリオが現実化しないための検査手法として尿検査を説明する必要がある。そして,そうした予想がもっと科学的根拠を得ることのできるよう,飲食品検査体制や環境・土壌の放射能汚染調査体制の抜本拡充を世に訴えるべきではないのか。
(6)P43右「体内のセシウムは尿や便とともに体外ヘ排出される。実測によれば,尿からの排出は全体の約80%で,便や汗から残りの20%が排出される(年齢によらない)」
「(上記(5)は)1日のセシウム摂取量=尿による1日のセシウム排出量/0.8 とすることができる。つまり,尿に含まれるセシウム量がわかれば,1日のセシウム摂取量もわかるわけだ」
(田中)⇒ 「0.8」(80%)の根拠はICRPらしいが信用できない。ケースバイケースで違う可能性あり。また,上記でも申し上げたように,セシウム摂取量と排出量が「平衡」するなどという仮定は,現状においては,その実証的根拠に乏しく,受入れることはできない。この論文の全ての誤り・強引な結論の根源である。食べること・呼吸することで体内に入ってくる放射能の量が,尿などによって排出される量と比べて少しでも大きければ,その人の体には,毎日毎日放射能が少しずつ蓄積していくだろう。平衡値などありはしない。しかも,入ってくる放射能は放射性セシウムだけとは限らないのだ。
(7)P44~45「検査結果に示された尿中セシウム濃度は高いのか低いのか,どのようにして見極めればよいだろうか」
「まずは,年間1mSvと言われる被爆限度値と比較してみよう。(4)式によって見積もった量の放射性セシウムを,1年間毎日摂取し続けたとしよう。放射性セシウムを経口摂取した場合の内部被曝量は,摂取したベクレル量にICRPの定めた実効線量係数を乗ずれば得られる」
「たとえば5歳の子どもの検査結果として,セシウム134が2.1Bq/L,セシウム137が3.0Bq/Lを得た場合は,内部被曝量は(2.1+3.0)×0.0040を計算すれば求められる。結果は約0.02mSvとなり,年間1mSvよりも十分に非常に低い数字である」
(田中)⇒ 複雑そうなことをいろいろ書いているが,何のことはない,体内のベクレル数を尿検査で推測し(これが過小評価だと申し上げている),そのベクレル数をICRPの根拠定かでない「実効線量換算係数」(ベクレル・シーベルト換算係数)を掛けて,実効被曝線量のシーベルトにしているだけのことである。その値が小さいからといっても「それがどうした」の世界である。ベクレル・シーベルト換算係数に実証科学的な根拠は乏しく,また,放射線被曝の評価単位「シーベルト」も原子力ムラがでっち上げたインチキの可能性が高い。言い換えれば「シーベルト」の値は小さく出るように「創作」されているのである。こんな説明を聞いても,何の安心にもつながらない。徹底して体内のベクレル量で考えるべきである。
(8)P45~46「日本では体内セシウム濃度についての限度値は設定されていないが,子どもの体内セシウム濃度の限度値として20Bq/kgをあげている例がある。26年前にチェルノブイリ事故の被害を受けたベラルーシのBELRAD研究所では,現地での経験から割り出した値として「子ども20Bq/kg,大人50Bq/kg」を安全判断の基準にしている。福島県でのWBC測定に関わる上昌広教授(東京大学医科学研究所)も20Bq/kgを要注意の目安としてあげている」
(田中)⇒ 放射性セシウムの場合,子ども20ベクレル/kg,大人50ベクレル/kgという危険判断数値はよく聞く数値である。上昌広教授(東京大学医科学研究所)までがそのように言うのであれば,見直さなければいけないかもしれないが,一応の目安として見ておくとしても,この20,50と比較する尿検査結果から推定される体内ベクレル数が,上記(5)(6)で申し上げた「入る量・出る量の平衡状態」を前提にした推測である限りは,過小評価となる危険性が常にある。実際には,もっと体内に放射性セシウムが残存しているのに,それを見逃してしまう結果となるということだ。
(田中)⇒ 加えて,この議論には,3つの疑問を呈しておく。一つは,尿検査結果はあくまで検査時点での体内残存の放射性セシウムを推定するものであって,その人の被曝履歴を明らかにするものではない。被曝履歴は,過去にさかのぼって被曝の状況を把握しないと,容易には確定できないが,福島第1原発事故による内部被曝の場合には,初期被曝が非常に大きい可能性が高いのである。20,50の限度値が,こうした初期被曝を含む過去2年間のワーストシナリオに基づく内部被曝評価に耐えられるものかどうか,また,それが人体や健康への悪影響顕在化のメルクマールとして使っていいのかどうか,とりわけ20,50未満なら「安全・安心」などと言えるのかどうかは,少なくとも科学的には明らかではない。(放射線被曝の健康被害の危険性は累積の被曝線量に比例して増大します:つまり過去の被曝は消すことのできない傷となって残ります。だからできるだけ被曝は避けるべきなのです)
(ついでに申し上げておけば,こうした尿検査を含む内部被曝検査結果と,そこから一定の健康影響評価を行おうとする試みは,チェルノブイリ原発事故後も含めて,原子力ムラ・原子力国際マフィアによって,徹底して妨害を受け続け,または抑圧・弾圧されてきた。その結果,原子力利用開始から数十年を経過した今日においても,その明確な結論は得られていない。放射線被曝とその被害は「もみ消すもの」,でなければ「あらゆる屁理屈をつけてでも,過小評価するもの」として取り扱われ,対処されてきたのである。私は,放射線被曝の定量的な人体影響が疑いもなく明らかになるまでは,原発などの核エネルギーの利用は中止すべきであると考えている)
(田中)⇒ 2つ目の疑問は,放射性セシウムの人体内における挙動の問題である。放射性セシウムは,よく天然の放射性物質であるカリウム40とよく似ていると説明される。カリウム40は,特定の臓器に偏って蓄積することなく,人体全体にまんべんなく均等に散らばって分布し,かつ,体内に入ってもすぐに出て行く性質を持っている。このカリウム40と放射性セシウム(134,137)が似ているというわけである。
確かに周期律表から推定される化学的性質は似ているのだろう。しかし,それは「似ている」のであって「同じ」ではない。放射性セシウムが人体内でどのように挙動するかは,はっきり申し上げて分かっていない。甲状腺その他の特定臓器にある程度集中してくる=特に子どもの場合にはその傾向が強い,とも言われているし,カリウムのように体内に入ってもすぐに出て行くということはなく,また,放射性物質としてのカリウムの存在形態と比較すると,放射性セシウムの場合は,大きさが大きく,他の危険な放射性物質などとともに,化合物として,「団子」状態で,存在していることも考えられる。化学的性質のみならず,物理的な形状からくる挙動の違いもありうる話である。
結論を急げば,放射性セシウムの体内存在量が同じでも,もしそれが体全体にまんべんなく散らばるのではなく,特定の臓器や部位に一定の偏りをもって蓄積するのであれば,内部被曝としてみた場合には,その危険性評価は違ってくる。体内にある放射性セシウムの量が同じでも,その体内挙動が特定箇所への濃縮・蓄積を伴うのなら被曝被害は当然大きくなるだろう。
(田中)⇒ 3つめは,いわゆる「生物学的半減期」のことである。簡単に申し上げると,この「生物学的半減期」は本当に経験科学的な実証性があるのか,ということである。体内ベクレル数が大きい時はともかく,低線量の体内放射性セシウムが,ほんとうに物理学的半減期のように,きちんと一定日数ののちに体外に必ず排出されると断言できるのか,ひょっとすると低線量域の場合には個体差が大きく,「生物学的半減期」などという概念は大雑把にしか成立しないかもしれない。そうすると,被曝評価で最も重要な「累積被曝量」は大きく違ってくることになる。
(9)P46右上「体内セシウム濃度を20Bq/kg未満に保ちたいならば,日々の食事の平均的なセシウム濃度を10 Bq/kg未満にしておく必要がある。大雑把に言うと,1日に摂取する総セシウム量が10Bq未満ならばどの年齢層でも大丈夫だ。尿中セシウム濃度で言えば,検査結果が5Bq/L未満ならば問題ない(1~7歳ならば8Bq/L程度まで大丈夫である)。最近の食品検査の結果や,報告されている尿検査結果を見る限り,この量のセシウムを摂取している人は非常にまれだと言えよう。
(田中)⇒ そして,いよいよ,いい加減で怪しげな仮定・前提の上に展開してきた議論の結論として,上記のように「○○未満ならば問題ない」「○○程度まで大丈夫である」と断言している。ここにきて,この論文は,はっきりと被曝過小評価による乱暴な結論の断定を行っている,と言っていいと思う。少なくとも,どうだかわからないような前提の上で計算してきた結果なのだから,断定はできないはずではないか。著者の立場になり代わって申し上げれば,「余り問題視する必要はないのかもしれない」「○○程度までは極度に懸念するには及ばない」くらいの表現が許容される「限度」だろう。
私からは,はっきりと断言しておきたいが,上記のようなことは言えない,「問題なく」はなく,「大丈夫」でもないのだ。それともう一つ,著者は「日々の食事の平均的なセシウム濃度を10 Bq/kg未満にしておく必要がある」と書いている。ならば,2012年4月より適用されている厚生労働省の定めた飲食に係る残留放射性セシウムの規制値(一般食品で100ベクレル/kg)についてはどう考えているのか,明らかにしていただかないといけないのではないか。何故,肝心なことを避けて通るのか? 私は厚生労働省の規制値を前提にした場合,1日10ベクレル/kg未満の摂取に留まるとはとても思えない。
(10)P47左「この病院のWBCの検出限界は250Bq/bodyなので,標準的10歳児では7Bq/kg以下の体内セシウム濃度は不検出となる。表4と表5を比較すると,尿検査のほうがWBCよりも低い体内セシウム濃度を計測できていることがわかる」
(田中)⇒ この論文で数少ない正しい記述である。WBCよりも尿検査の方が内部被曝を見る検査としては優れている。これはもはや放射線被曝管理の常識だが,この常識が日本では実践の場では通らない。いつまでたっても尿検査が学校での子どもの健康診断に導入されないし,一般市民への無料検査もなされないし,その重要性についても住民・国民に説明がなされず,愚かなマスコミを動員してWBCの値が小さいから,もう安心してして下さい,を繰り返している(その先頭を行くのが早野龍五(東京大学大学院教授),上昌広東京大学医科学研究所教授,坪倉正治(東京大学医科学研究所)らである)。
そもそも住民の放射線被曝管理と健康診断のためには,尿検査だけでも不十分であって,本来は,①尿検査,に加えて,②心電図検査(セシウム心筋症検査他),③血液検査,④染色体異常検査,⑤甲状腺エコー検査,⑥髪の毛や脱歯や検便などのバイオアッセイ,⑦白内障検査,⑧膀胱炎検査,などが総合的に「ワンストップ」で無料で,全国どこに避難していても実施されなければならない。しかも,注目する放射性物質は放射性セシウムだけでなく,福島第1原発から放出されたすべての放射性核種に着目してである。
しかし,坪倉医師の南相馬での体験談を聞くまでもなく,たとえば「福島県民健康管理調査検討委員会」で検討状況を垣間見ればわかる通り,国も県も,被曝させられた住民の命と健康を守るための施策など,一切やるつもりはないようである。許し難い態度である。この論文の著者は,こうした国や県の態度こそを,この論文の中で問題にすべきであったのではないか。
(11)P47右上「食品経由の放射性セシウムの摂取は,放出量としては同レベルの惨事であったチェルノブイリ事故では長期的に懸念を与え続けているが,今回の事故では(現在のところは)うまく対策できているというべきだ。事故直後からの生産者(をはじめとする多くの方々)の多大な努力,日本の流通の良さを生かす取り組みなど,多くの要因が功を奏しているのだろう」
(田中)⇒「事故直後からの生産者(をはじめとする多くの方々)の多大な努力」は否定すべくもないが,その努力が愚かな国や県庁などの自治体の間違った行政のおかげで活かされていないのが現状である。従ってまた,「今回の事故では,うまく対策できているというべきだ」などという発言に対しては,「ご冗談でしょう」と申し上げざるを得ない。
多くの原発事故被害者は,今,賠償・補償の切捨てに遭遇して苦悩させられている。「原子力事故による子ども・被災者支援法」による被害者再建支援の具体的中身も貧弱なまま,そもそも基本方針策定が棚上げされ,支援策が進展していない。こうしたことが解決されないまま,今度は被害者及びその子孫に,深刻な健康被害が襲うことのないよう,この論文の著者を含む我々は,放射線被曝を軽視したり矮小化したりする軽率な言動や断言を慎むべきである。
そして,この愚かで許し難い国や自治体行政,とりわけ捻じ曲げられた放射線被曝管理と被曝回避対策について,声を大にしてその改善を求め,また,原子力ムラをのさばらせて放射線被曝被害をもみ消し・切り捨てんとするその暴挙に対して,いっせいに抗議の声を挙げて行かなければならない。それが福島第1原発事故の被害者と同時代に生きる人間としての倫理であり道徳であり使命であるのだと,私は強く思っている。
(この論文にはまだ多くの問題がありますが,長くなりますので,この辺で終わります)
<最後に>
1.尿検査結果の評価を矮小化するな
2.放射線被曝を甘く見るな
3.我田引水型の仮定や前提の上で乱暴な結論を断言するな
4.国際放射線防護委員会(ICRP)の勧告などを無批判に使うな
5.頭狂(東京)大学を筆頭とする日本の原子力ムラ・アカデミズムへの媚びへつらいをやめよ
6.この論文の著者の善意を信じたいが,善意ならば許されるというものではない
7.国は被曝健康管理のための総合的な(無料)ワンストップ検査体制を早く確立せよ
草々
前略,田中一郎です。
<別添PDFファイル:図書館等でご覧下さい>
・ルポ 問題だらけの東京オリンピック招致(永尾俊彦『世界 2013.5』)
石原慎太郎知事の時代から,時代錯誤で,税金の無駄遣いの塊で,環境破壊で,薄汚れた「利権・土建の祭典」=東京オリンピック誘致の話が,どういうわけか消えもせずに生き残り,「本物の”にせもの”」と言われる自称(だけの)改革派・猪瀬直樹が知事になって以降は,再びこの「リケンピック」「ドケンピック」で騒ぎが大きくなってきた。まさに愚かさの象徴と言ってもいい,この「リ・ドケンピック」の東京招致活動だが,具体的にどのように問題なのか,別添PDFファイルの永尾俊彦氏のルポは,それにずばりと答えてくれている。
また,このルポの中には,海の汚染のみならず,招致された場合にはオリンピックの各種競技が催される会場が多く点在する東京湾岸の臨海地区の放射能汚染についても既に調べた人達がいて,決して安心して競技できるような場所ではないことが報告されていたようだ。
若干の内容をこの永尾俊彦氏の「ルポ」報告から引用してみよう。
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(1)P207・上段
「だが、説明会が開かれていないので、大半の住民は計画すら知らない。事業を進めるNPO法人「東京オリンピック・パラリンピック招致委員会」(委員長・猪瀬直樹東京都知事、以下招致委)は、環境アセスメントはやったが、「環境への大きな影響はない」と言うだけで、「アセスの内容は招致レースが終わるまで明らかにできない」と開示していない。」
(田中 ⇒ 都合の悪いことは,皆,隠してしまえ,は,昨今の国や自治体の行政の一般的なやり方だ。多くの有権者・国民・住民が,政治や行政に無関心になり,観客民主主義やお任せ民主主義になり下がれば,政治や行政を私物化する連中は,都合の悪い情報を隠しやすくなるという「政治と社会の一般法則」に沿った動きである)
(2)P206~207
(田中 ⇒ 東京都は「環境を優先する2020年東京大会」というスローガンをかかげ、「臨海部を中心に緑地と緑の回廊で東京の中心と結ばれ、そこに息づく多様な生物に特別に配慮する」などといいながら,実際にやろうとしていることは,下記の通り,まさに自然破壊とムダの塊だ)
「オリンピックのたった四日間のカヌー競技のために、森の池や七四種の野鳥が利用する陸域の約三分の一が破壊される。その工事費は二四億円。マンションの三階ほどの高さ七~九メートルから下る400メートルのコース2本と大量の水を流すコンクリート製の池などが造られる。そして毎秒13立方メートルもの大量の淡水をポンプで流して人工の激流を作る。」
「他にも、有明テニスの森では、開園から30年以上経過し、豊かに育った森が観客席を造るために伐採される。辰巳の森海浜公園にはすでに国際水泳場があるのに、樹木や伐採してプールを造る。夢の島公園でも緑をつぶし‘東京スポーツ文化館を壊してバドミントンやバスケットボールなどのアリーナを造る。」
(3)P208
(田中 ⇒ 国立競技場(神宮外苑)の建て替え問題でも,情報非公開と都営霞ヶ丘アパートなどへの乱暴な立ち退き強要,また,脱原発の集会場となってきた明治公園もつぶされるという話になっているようだ)
「2019年開催予定のラグビーワールドカップに向けて54,000人収容の国立競技場を八万人規模に拡大。その関連敷地に霞ケ丘アパートが含まれるので、住民は立ち退いてもらうという。五輪ではなく、ラグビーワールドカップのためというのは、五輪は落選する可能性があるかららしい。事業費は3,200億円だが、財源は決まっていない。」
「国立競技場の建て替えについては、文部科学省に「国立競技場将来構想有識者会議」が設置され、具体化された。どういういきさつでこの計画が決まったのか、大山とも子都議{共産党)が議事録の公開を求めたが、都は同会議が非公開を前提にしていることを理由に公聞を拒否した。ここでも情報は隠され、都民は不在のまま計画が進められている。」
(4)P210
「江戸川・荒川河口でセシウムは平均300ベクレル/kg、局所的には4,000ベクレル/kg以上の高濃度になることが予測された。この結果は、山崎教授らの実際の観測結果とおおむね一致する(ただし、山崎教授の測定の最高濃度は2,100ベクレル/kg)。そして、山敷准教授の計算では、三年の間,放射性物質は増加し続ける。」
「ヨット競技では、『沈』(沈没)がよく起き、マストが海底の泥を巻き上げ、セールにも泥がつくことがよくあります。その底泥中のセシウム濃度が高ければ、全く安全とは言えないでしょう」
「山崎教授の調査では、ヨットが予定されている荒川河口の若洲海浜公園沖では552ベクレル/kgだった。」
(5)P210
「都は福島原発事故後の2011年6月に都内100カ所で測定したが、その時もオリンピック開催予定地に近いモニタリングポストは有明二丁目だけだった。その値は地上1メートルで0.09マイクロシーベルト/時。地上5センチで0.1マイクロシーベルト/時だった。これらの数値はIOCに提出した立候補ファイルには記載されていない。」
「前述の「臨海都民連」は、昨年7月にオリンピック会場予定地の放射線量を測定した。地上1メートルで最高だったのが水泳、シンクロなどが行われる辰巳の森海浜公園の0.146マイクロシーベルト/時だった。」
「これらの数字をどう評価すべきか。前出の山敷准教授は、「東京の場合、もともとの空間線量は0.04~0.07マイクロシーベルト/時だったと考えられ、増加分はセシウムなどの人工放射性核種による汚染と言えるのではないでしょうか」と語る。」
(6)P212
「このような東京のリスクをIOCはどう見ているのか。折しもIOC評価委員が視察に来日しており、3月7日に記者会見が開かれた。クレイグ・リーディ評価委員長(英国)に質問した。
- 福島第一原発の事故は終わっておらず、放射性物質は大気中に排出され続けています。また、オリンピックが予定されている湾岸部は地震による液状化や津波の危険もあります。これらのリスクをどのように評価しますか。
委員長は、他の質問にはユーモアも交えて鏡舌に答えていたのに、「招致委員会にお願いして報告書を出してもらいました」としか答えなかった。
が、招致委は報告書を提出したということすら公表していなかった。後日、招致委に報告書の開示を求めたが、IOCからの要請で招致委員会との質疑応答は非開示にして欲しいとのことなので報告書は開示できない」と拒否された。またしても秘密だ。質問をした際、記者席の前に座っていた猪瀬知事や猪谷千春・元IOC副会長ら数人が不愉快そうな顔をして私の方を振り向いた。」
(7)P214
「そもそも、石原前知事の「思いつき」(本誌2008年6月号拙稿参照)から、都民や国民の声を聞かず、トップダウンで招致活動を始めてしまったことに無理があった。石原前知事自身、「『なんでこんなのやっちゃったんだろう』と周囲にもらしたことがあるという」(朝日2011年7月17日)。だが、猪瀬知事も前回の五輪招致失敗の責任を認めず、メンツだけで突っ走っているように見える。」
「都はすでにオリンピックのために4,000億円の基金を積んでいる。都が整備する競技会場などの工事費は、立候補ファイルから抜粋すると一三施設に合計1,538億円だ。
「五輪のために都が整備するインフラは、合計2,252億円。その他に国土交通省、首都高速道路と都が整備する道路なども合わせると合計6,392億円にのぼる。」
「招致にかかる経費は招致委分(民間資金)が38億円、都の負担が37億円だ。この招致経費75億円は、招致に敗れれば「捨て金」になる。先のIOC委員の視察では、歓迎行事などにたった六日間に6億円が投じられた。」
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どうもこの第二次東京オリンピックは,招致活動の段階から,利権・土建のみならず,ムダとウソと隠蔽のご都合主義の祭典でもあるようです。これだけのお金があれば,たとえば今,足りなくて大問題となっている保育所の建設などは,早期に解決されるのではないかと思われます。皆さま,是非,ご一読を。
<追1>
ご承知の通り,この「東京リ・ドケンピック」招致の話は,下記の築地市場移転問題とセットで展開されています。東京が世界に誇る「水産国・日本の最大の魚市場」であり,戦前からの魚市場の風情や文化を残し,海外からも多くの人々に慕われ評価され,毎年多数の来場客を迎えてきた築地市場ですが,それが無残にも,不動産利権・土建の手あかにまみれた連中に物色され,「東京リ・ドケンピック」招致に係る施設整備や都市再開発の一環で,追い出されるようにして移転を強要されているのです。
そして,その移転先たるや(江東区豊洲地区の埋め立て地),元東京ガスの工場跡地で,ベンゼンや青酸カリをはじめ,多種多様の猛毒物が大量に敷地地面の中に埋もれているという,およそ食べものを扱うには全くふさわしくない土地=しかも,埋め立て地なので,ちょっとした地震でも液状化現象を起こし,その地中の猛毒物が噴出してくる,そんな土地なのです。
関東大震災(1923年)から早90年が経過し,いつ直下型の大地震が首都東京を襲ってもおかしくないと言われているのに,こんな埋め立て地へ,東京都民の台所とも言うべき築地市場を移転する,その神経が尋常ではありません。このままこの愚かな築地市場の移転を認めれば,東京都民は,伝統と誇りと味覚の魚文化・築地市場を,その「築地ブランド」とともに失うだけでなく,近い将来襲ってくる大地震によって,魚市場を猛毒まみれにして,魚を食卓から失うことになるでしょう。「東京リ・ドケンピック」招致に浮かれている場合ではないのです。
*朝日新聞デジタル:築地市場移転、東京都が1年延期 土壌汚染対策長引く - 社会
http://www.asahi.com/national/update/1231/TKY201212310360.html
*築地市場移転問題-豊洲整備費用が増大-3926億円→4500億円-東京
http://www.jcp.or.jp/akahata/aik12/2013-01-27/2013012714_01_1.html
<追2>
*永尾俊彦氏には次のような著書もあります。講師にお招きしてお話をお聞きしたい方の一人です。
・『貧困都政 - 日本一豊かな自治体の現実』価格 \1,890(税込)岩波書店(2011/02発売)
http://www.kinokuniya.co.jp/f/dsg-01-9784000245074
・『(岩波ブックレット)公共事業は変われるか - 千葉県三番瀬円卓・再生会議を追って』価格 \504(税込)岩波書店(2007/07発売)
http://www.kinokuniya.co.jp/f/dsg-01-9784000094054
・『諫早の叫び - よみがえれ干潟ともやいの心』価格 \2,310(税込)岩波書店(2005/06発売)
http://www.kinokuniya.co.jp/f/dsg-01-9784000221498
<追3>
*また,オリンピックについては下記のような図書も発刊されています。東京オリンピックを考えるには,まず,直近の日本での開催(冬季)オリンピックであった長野オリンピックがいかなるものであったのかをよく見る必要があるでしょう。
・『長野オリンピック騒動記』相川俊英著 価格 \1,680(税込)草思社(1998/01発売)
http://www.kinokuniya.co.jp/f/dsg-01-9784794208002
内容説明
1998年2月、「県民の総意」による長野冬季オリンピックが開催される。2週間にわたり、世界の選手たちが美しい白銀の上でさまざまな競技を繰り広げる―はずではあるが、その内幕は決して美しいものでなかった。仕掛けられた招致運動、破綻の見えてきた財務内容、変更に次ぐ変更の施設計画。「オリンピック」はあらゆることに優先し、市民から子供たちまで総動員される翼賛体制のなかで、少数の反対意見は封殺されていく。どう考えても、何かおかしいのではないか。13年もかかったという長野五輪の開催に至る道筋を、そもそもの発端から解き明かし、大イベントに振り回される地方自治体と地域住民の笑えない実態をつぶさに描き出す。
目次
はじめに 四番目のタブー;第1章 五輪騒動のはじまり;第2章 招致大キャンペーン;第3章 引きずり降ろされた男;第4章 “お召し列車”が行く;第5章 反対派はひとにぎり;第6章 不思議なNAOC;第7章 盛り上がれない市民たち;第8章 子供たちの長野五輪;第9章 ホワイトスノー作戦;第10章 迷走する財政計画;第11章 数十年分の公共投資;第12章 それでも繰り返される五輪騒動
草々
前略,田中一郎です。
皆さま既にご存じの通り,2011年3月11日の東日本大震災と福島第1原発事故から丸2年が経過したことを契機として,NHKは,今般,2013年3月10日(日)夜9時からのNHKスペシャル「3.11 あの日から2年メルトダウン 原子炉"冷却"の死角」で,福島第1原発事故原因の究明を目的とする検証番組を放送した。非常に興味深いテーマであるので私もこの番組を慎重に拝見したが,その感想は「猛烈な違和感」である。以下,簡単に私の「違和感」ないしはコメントを書いておき,今後の議論に資したいと思う。
*NHKスペシャル|3.11 あの日から2年メルトダウン原子炉冷却の死角
http://www.nhk.or.jp/special/detail/2013/0310/index.html
*NHKスペシャル「3.11 あの日から2年 メルトダウン 原子炉冷却の死角」動画ざまあみやがれい!
http://blog.livedoor.jp/amenohimoharenohimo/archives/65846760.html
(ここから録画を見ることができます。見逃した方は早めにご覧ください。また,今週木曜日から金曜日にかけての午前零時頃より再放送がありますので,TV録画のセットをお忘れなく)
*その他のネット上の録画
http://www.dailymotion.com/video/xy4cg1_y-yy-yyyyyyy-yyyyyy-yyy-yy-yyy_news
http://youtubewara.blog10.fc2.com/blog-entry-6671.html
結論から申し上げれば,この番組は,ほんとうに福島第1原発事故の真相に迫り,再発防止のための事故原因究明を志向しているのかどうか疑わしいこと,言い換えれば,地震の揺れ(震度6程度)と津波という2つの重大事故原因があったにもかかわらず,その一方の地震の揺れによる原発施設への影響を,最初から全く念頭に置かずに無視していることや,3号機の爆発をはじめ,2号機や4号機にいったい何が起きていたのかという根本的な事実認識の是非についての分析視角も鈍いため,全体的に「福島第1原発事故原因の歪曲化」に寄り添うような番組の仕上がりになっているということである。
たとえば,地震の揺れによる原発事故への影響を厳しく見ている人達の意見(国会事故調報告がその代表)や,3号機爆発を水素爆発ではなく核爆発ではないかと疑う人達,あるいは2号機・4号機の爆発についても疑問を呈している人達から提出されている福島第1原発事故への疑問や仮説について,この番組は信じがたいことに全くと言っていいほど取り上げようとはせず,従ってまた,それに対して真摯に答えようとはしていないのである。
それはあたかも,触れてはいけない「アンタッチャブル問題」であるかのごとく,不自然に回避されている。しかし,触れてはならないタブーを持ちつつ,事故(あるいは人為的作為が大きいので「事件」と言っていいかもしれない)の原因究明や再発防止対策などが可能なのだろうか。私は,こうしたNHKの歪んだ報道姿勢が,やがて福島第1原発事故原因をうやむやにしたり,捻じ曲げたりしながら,次の原発・核燃料施設過酷事故へとつながっていくような気がしてならない。
<この番組に見る福島第1原発事故の原因究明上の問題点>
1.この番組では,東日本大震災に見舞われた福島第1原発は,津波に襲われるまでは順調に対応していたと説明されていた。これは明らかな嘘八百ではないか。1号機や3号機に各所で水蒸気が吹き出る音が聞こえていたとか,早い段階から福島第1原発の内外・周辺で高い放射能値が測定されていることなど,説明がつかない。
2.1号機について
(1)いわゆる非常用復水器問題(IC:イソコン:Isolation Condenser)
番組では,福島第1原発の首脳陣(主として免震重要棟にいた)がICはずっと稼働していたと思っていた,それが1号機の早期の炉心メルトダウンと水素爆発を招いてしまった,と結論付けている。しかし,それは下記のような理由からおかしい。
a.ICをめぐる3つの報告
下記の3つのどれが本物かは,当時の現場担当者の証言(とその真偽のチェック)で相当程度まで確認できるはずではないか。また,少なくとも原子炉の事故原因を「第三者的」に検証した唯一の人間とも言うべき田中三彦氏に,NHKは徹底した取材をするべきであるにもかかわらず,それを避けて通っている。明らかにおかしい。
(同じくNHK教育のETV特集で放送された政府事故調のレビュー番組(3/10)で,実は政府事故調の報告書の大半は,事務局と言われた財務・法務・検察などからやってきた霞が関の官僚達が執筆していたこと,また,事故調査自体もこれらの官僚達が自分達の判断で実施し,それを政府事故調委員に報告していたこと,事故調査を委員の独自の発想で突っ込んでやろうとすると,事務局から猛烈な拒否=妨害が入り,それを事故調委員長の畑村洋太郎東京大学名誉教授が了解していたこと,などが明らかとなった:この番組についても別途コメントしたい)
*今回のNHK
ICを使って緊急に原子炉を冷やすと炉が痛むから,手動で稼働したり止めたりしていた(これが全くバカバカしい東京電力の説明であることは,国会事故調の田中三彦氏が何度も批判している:緊急時の対応で,かようなことはありえない,もし仮にNHKの言う通りだとするなら,その時手動操作でICを担当していた人間は,IC機能稼働下で原子炉の圧力や水位の状態をどう確認していたのか)
*政府事故調
スクラム(原子炉緊急停止・制御棒緊急挿入)と同時にICは自動的に止まる仕組みになっていたが,それを免震重要棟にいた福島第1原発の幹部達は知らなかったので,ずっとICは動いているものと思っていた。
*国会事故調
ICは事故直後に圧力容器内の圧力異変低下を感じた現場担当者によって手動で停止された(IC系の配管や機器類のどこかで,地震の揺れによる穴や亀裂が生じ,そこから冷却水が漏れ始めている可能性を懸念した)。
b.3月11日午後4時過ぎ,1号機近辺で放射能の値が急上昇した。通常ではありえないような高い値だから,当然,何故だ,おかしい,と思うはずである。この段階では炉心のメルトダウンはありえないので,地震の揺れによる原発設備の破損,特にIC等の非常用冷却装置(ECCS)を含む配管類の破損が真っ先に思い浮かぶはずである(思い浮かばないのなら,その人間は原子炉の担当者として無知=失格ではないか)。
c.「豚の鼻」(ICの冷却用水プールの蒸発水蒸気を建屋外に出す穴)から水蒸気がモヤモヤと出ていたので,ICは動いているものと勘違いした。・・・・・ICが動いている時の「豚の鼻」からは,水蒸気はドバーと出てくるのであって,モヤモヤと出るのはICが停止してしばらくしてからの段階であるという。しかし,そのことは誰も知らなかった,と番組は説明している。ウソ臭い。
d.3月11日午後5時少し前,圧力容器内の冷却水の推移が,原子炉停止後わずか2時間で2m近くも低下していた。冷却水が失われていることは明らかで,この段階で炉心が危ない状態になっていること,冷却水喪失の速度が速すぎることなどは瞬時に分かったはずである。ICが正常に動いていたら,かようなことにはならないのは,ド素人の私でも理解できる。それを福島第1原発にいたプロの人間達が誰ひとり気がつかないなどということはありえない。
e.1号機について,早い段階(午後4~5時頃)で「このままいけば原子炉はどうなるのか」というシミュレーションがなされていて,その結果は,あと1時間もすれば冷却水喪失で炉心はメルトダウンになる,というものだった。しかし,それはその後無視された,と番組は説明している。阿呆か,と申し上げておこう。そんなことは絶対にあり得ないことで,メルトダウンするであろうことは,福島第1原発にいた多くの人間が早い段階で認識していたし(だからシミュレーションで確認した),ICが動いていない(おそらく地震の揺れによる破損箇所からの冷却水漏れ防止のために手動で止めた)のも当然知っていた。
(2)では何故,ICは動いていたと思っていたと福島第1原発幹部ら東京電力関係者は言い張るのか
この嘘八百の目的・ねらいは何か
a.ICその他の原発機器類の地震の揺れによる破損の隠蔽 ⇒ 原発が震度6程度の地震の揺れで壊れたとなると,全国の原発施設を全部抜本的に見直ししなければならなくなる,再稼働どころの話ではなくなる=原子力ムラ挙げて,福島第1原発は地震の揺れにはビクともしなかったことにしなければ絶対に困る
b.炉心メルトダウンを国民や地域住民に対してずっと隠していたことの合理化=ICが動いていたので炉心が溶け出すとは思いもしませんでした,という馬鹿みたいな言い訳
(3)関係者がウソをついているであろうことの状況証拠
a.国会事故調の田中三彦氏の福島第1原発現場調査・実査への東京電力による組織的妨害行為
b.原子力「寄生」委員会の田中俊一が,1号機のIC調査は当分はできない,と調査を拒否
c.東京電力内部の原因調査検証委員会での原子力部門幹部発言「我々は原子炉の基本的技術力が不足していた」=全く人を馬鹿にした無責任発言,だったら,さっさと原発運転免許を経済産業省へ返上しろ!!!
3.2号機について
(1)2号機は1号機とは違い,ICではなくRCICという非常用冷却装置が付いている。ICが稼働するには電源はいらないが,RCICの場合には電源が必要だという。しかし,福島第1原発事故の際には,全電源喪失で止まっているだろうと思われていたRCICが,実は不安定ながらも動いていたという。
しかし,これについて番組は,これ以上の追及をしなかった。しかし2号機の事故を追及するには,このRCICの去就と,その背景事情が極めて重要である。それを何故,すっ飛ばすのか。
(2)TVの画面に映し出された1~4号機の事故の経緯表では,2号機は「水素爆発していない」(水素爆発の記載がない)ことにされている。しかし世の中では,4号機使用済み核燃料プールでの水素爆発直後に(3/15早朝6時過ぎ),2号機でも原子炉下部のSC(圧力抑制室:サプレッション・チェンバー)付近で水素爆発があったことになっている。いったいどっちが本当なのか。この最も重要な点についても,NHKは問題として取り上げないどころか,言及もしていない。
(3)そして番組にあった通り,もし2号機が水素爆発していないとすれば,何故,2号機からの放出放射性物質が,福島第1原発より放出された全放射性物質の8~9割も占めるほどに大量なのか。2号機からの放出放射性物質が福島第1原発からの放出放射性物質の大半を占めているということは,政府のIAEA向け報告書に書いてある。このもう一つの重大な2号機のナゾについても,NHKは取上げも言及もしていない。
(ちなみに私は,2号機のこの放出放射性物質の量は実はウソで,本当は3号機の核爆発によって放出されたのではないか,2号機は3号機の深刻な核爆発のカモフラージュに使われているのではないか,と疑っている)
4.3号機
(1)番組では,外からの外部注水が行われ,相当量の冷却水が炉心に注入されたはずなのに,それが原子炉冷却には有効に機能せず,メルトダウンを招いてしまった理由として,外部注水された水の意外なところからの漏れが指摘されていた。それは復水器に通ずる直径3cmほどの小さな配管で,原子炉内圧力(約3気圧)に比べて低い圧力(1気圧)だったがために,外部注水された水が高圧の炉心には行かずに,低圧のこの配管に大量に押し寄せてきて漏水し,結局,冷却用の水が炉心には十分には供給されなかった,というものだった。
いわゆるあやしげな専門家なる人達を動員して,この漏水プロセスを検証させた結果,炉心に行った水は全体の45%,漏水したのは55%,炉心冷却水として有効に機能するには漏水は25%以下に抑えられていなければならなかった,などと計算結果が出ているという。これを受け,したり顔の原子力ムラ学者と思わしき人間がTV画面で「実に残念だ,漏水がなければ冷却できていた」のような主旨の発言をしている。
(2)私は,上記の計算結果まで含めて,すべてを原子力ムラの「猿芝居」とみている。この番組の中では最も怪しげな部分である。もともと外部から注水をした配管は,1990年代に過酷事故対策として,適当な工事で事後的に装着された「消火系」配管である。従って,原子炉への注水管として有効に機能することなどは想定されていない。いわば「事故対策は自主的にこんなにしっかりやってます」を見せつけるためのアリバイ配管だった可能性が高いのだ。
炉心の圧力に対抗して,その炉心へ外部から注水をしていくには,相当大がかりな装置が必要で,仮に「中途漏水」がなければ,飾り物に近かった「消火系」の配管から,外部注水が成功裏に実施できたはずだなどとは,どう考えても非現実的であるように思う。外部注水が可能になったのは,メルトダウンで原子炉に大穴があき,炉心の圧力が大気圧と同程度になってからの話であって,炉心が圧力容器によって閉じ込められていた間は,炉心の高圧のため容易には外部注水はできなかったと考える方が妥当である。45%,55%,25%といった計算結果は,物事をもっともらしく見せるための似非学者達の「装飾品」と見た方がいい。
(3)そもそもわずか直径3cmの配管から,注水した水の半分以上が漏れていて,かつそれに全く気がつかない,などということはありえない話である。3cmの配管を通る水の量は,本流パイプに比べれば十分に小さい。炉心の外部注水冷却失敗の原因は,こうした「中途漏水」に問題があるのではなく,やはり「消防系」を使って外部注水するというところに無理があると見た方がいい。つまり,今後も,仮に「中途漏水」問題を解決したとしても,このいい加減な「消火系」配管を使っての外部注水を行う限り,同じことが起きるということだ。
(4)この番組で展開された怪しげな3号機を巡る「猿芝居」の目的は,3号機は外部注水で本来は救えた,炉心溶融は避けられた,ということを強調するためではないかと思われる。そしてそれは,3号機の下記のような「事故の核心部分」を嘘八百で覆い隠す有効かつ詐欺的な「事故後対策」ではないのか。簡単に言えば,間に合わせの「消火用」配管で,過酷事故対応や炉心メルトダウン回避などできないということだ。また,プルサーマル燃料の入った使用済み核燃料プールが如何に危険なものかも覆い隠されている。
(5)隠される3号機の真実
a.使用済み核燃料プールの核爆発の可能性
b.プルサーマル炉だったことによる危険性の高まり
c.事故直後(3/11午後2時過ぎ)から原発建屋内外での高い放射線量
d.非常用冷却装置RCICの配管破断の間接的証拠・証言(「シューシューという音」他)
5.4号機
4号機がどのように爆発したのか,全く持って不明のままである。2号機の爆発とともに,4号機についても,その水素爆発を捉えた映像はない。使用済み核燃料プールが問題で危険だったというのは本当なのか,あるいは3号機のベント管と4号機のベント管とが排出口でつながっていて,そこから3号機のベントされた水素ガスが4号機に逆流したと東京電力は説明するのだが,それは事実なのか。
6.全般にわたっておかしなこと
事故原因究明と再発防止対策のためには,次のようなことが徹底的に解明される必要があるが,NHKはいつまでたってもこれらに着手しようとはしない。おかしい。
(1)繰り返しになるが,地震の揺れ(震度6程度)により原発が受けたダメージの分析が全くの手つかずである。原発の危険性について厳しく見ている多くの人達から,この点が指摘されているにもかかわらず,NHKはこの問題について一切取り上げようとしない。避けて通っているというよりも,もはや原発・核燃料施設の安全性を検証・検討する場合のタブーと化してしまっている。言い換えれば,科学的でなければならない事故検証に,歪んだ原子力政治が入り込んでいる。かような態度では,適正な福島第1原発事故の検証や事故原因究明,再発防止対策などができるはずもない。
(上記と表裏一体なのが,NHKによる国会事故調報告書の無視・軽視と,国会事故調委員への取材回避である。しかし,国会,政府,民間,東京電力と,4つある事故調報告の中で,最も独立性が高くて,専門性にも満ちていて,かつ委員たちが自力で調査し報告書を書いたのは,国会事故調のみである。政府事故調は,上記でも申し上げた通り,その報告書のほとんどが,事務局と言われた霞が関官僚達によって書かれており,その信ぴょう性は格段に落ちる。
(2)事故対応にあたった人々は,何故,全電源喪失を受けて,電源確保に全力を挙げなかったのか。もし,挙げていたのなら,何故,早急な電源回復ができなかったのか。SBO(ステーション・ブラックアウト)とその回復対策の混迷について,一部始終が詳細に報道されなければならない。(当事者達が如何に愚かで馬鹿だったか:PART1)
(3)もう一つ,事故対応にあたった人々は,何故,水素爆発回避に全力を挙げなかったのか。今から30年近くも前に米国・スリーマイル島原発事故があり(原子炉は加圧水型で福島第1原発のような沸騰水型とは違う:加圧水型は格納容器が大きいので水素爆発までの時間的余裕が沸騰水型に比べて長い),その時にも水素爆発の危険性が事故対応当事者の間で焦眉の問題となり,かろうじて水素爆発は回避され,大惨事とはなったものの,巨大惨事には至らなかった。そのスリーマイル島の「教訓」は今回どう活かされていたのか。(当事者達が如何に愚かで馬鹿だったか:PART2)
(4)使用済み核燃料プールの事情は,各号機ごとにどうなのか。特に,3号機及び4号機のそれぞれについて,詳細な説明をしていただきたい。この辺についてもNHKの関心度は低い。3号機の使用済み核燃料プールでの核爆発の可能性については,全く無視の状態。
(5)従って,1号機の(水素)爆発の「白く横へ広がる(水蒸気の)煙」と,3号機の爆発の「黒く上に上昇する煙」の違いは何なのか,何故なのか。また,3号機の場合には,爆発後,黒煙が上昇し,その後破片(デブリ)が降ってきているが,あれはいったい何なのか。3号機核爆発説を,肯定するもよし,否定するもよし,徹底した分析と検証が必要だが,これも避けて通っている。(私は3号機は水素爆発では説明がつかないと思っている)
(6)3号機及び4号機周辺の猛烈な放射能の値は何故なのか,など,NHKの番組は,これまでも,原発施設,敷地,敷地周辺で観測されていた事故当時の放射能の値について,ほとんど注目していない。まことにおかしな話であり,これは上記(1)の地震の揺れによる原発施設破損の可能性無視と表裏一体の関係にある。
草々
このほど原子力「寄生」委員会は,原発の安全について,その「規制基準(案)」を一部修正し,改めてパブリックコメントに付しました。しかし,この新規制基準では,福島第1原発事故の教訓を棚上げにしたまま,①大飯原発を「特別扱い」にして新規制基準の対象から外し,次回の定期点検(2013年9月)まで稼働を容認する,②シビアアクシデント対策として手間暇・時間とコストがかかる対策については「バックアップ施設」だの「一層の信頼性向上対策」だのと屁理屈をつけて,5年間の執行猶予を与えて事実上の規制外しを行う,③また,40年の寿命とされていた老朽化原発に更に20年稼働の「抜け道」も設け,④40万年にまでさかのぼるとしていた活断層調査も「それは例外」の扱いにする,など,原子力「寄生」委員会は,まるで竜頭蛇尾を絵にかいたような「後出しジャンケン」で原発への新規制を骨抜きにしています。
原発の安全が確保されていないのに再稼働を急ぐ,それはまさに自殺行為にも等しい許されない行為ですが,原子力「寄生」委員会は,自民党・安倍政権の政治的圧力を受けつつ,その自殺・自滅への道を歩もうとしているのです。
*原子力規制委員会設置法の一部の施行に伴う関係規則の整備等に関する規則(案)等に対する意見募集ついて|意見公募(パブリックコメント)|原子力規制委員会
http://www.nsr.go.jp/public_comment/bosyu130410_03.html
(これがいわゆる「新規制基準」に関するパブコメらしい。私はこういうパブコメの仕方について非常に腹が立つ。今回の「新規制基準」が「法令化」されることは新聞報道で伝えられているが,だからといって,その「法令」そのものを,そのまま何の説明も解説もしないでパブコメに付すとは何事か。このサイトに掲載されている文書類を見て,新規制基準について十分に理解して意見を述べられる人が,一般の有権者・国民の中に何人ほどいるのだろうか。しかも,その法令記載シートの枚数たるや膨大な量であり,プリントアウトさえままならない。
常識的には,ポンチ絵などを入れて,新規制基準について有権者・国民向けに解説用レポートを作り,その中に参照条文も明記して,分かりやすい資料が提供されるべきである。今回サイトに掲載されたような法令条文そのものは,参考資料として,そばに添付しておくべきものである。このパブコメのやり方は「言いたいことがあるなら勝手に見て勝手に言ってろ」式の,有権者・国民への説明責任を放棄した,許されない「手抜き」パブリックコメントである。原子力「寄生」委員会や原子力ムラの有権者・国民に対する「寄らしむべし,知らしむべからず」の姿勢が露骨に現れている)
*原子力災害対策指針(改定原案)に対する意見募集について|意見公募(パブリックコメント)|原子力規制委員会
http://www.nsr.go.jp/public_comment/bosyu130410_1.html
*意見公募(パブリックコメント)|原子力規制委員会
http://www.nsr.go.jp/public_comment/index.html
ところで,原発の安全を確保するための規制基準の話になると,どうしても原子炉工学的で専門的な各論になりやすいのですが,今後,原発の危険性や規制を考える上で基礎となる「総論的」な考え方を,今の段階できちんと確認しておくことは非常に有意義なことではないかと思われます。
このほど,その課題にピッタリの素晴らしいレポートが,岩波月刊誌『世界』の今月号(2013年5月号)に掲載されました(下記)。著者の後藤政志氏は,皆さまもよくご存じの方で,元東芝原子炉格納容器設計技術者・工学博士で,3.11福島第1原発事故以降,積極的な発言や提言をなさっておられます。このたびのこのレポートは,一字一句見逃せない貴重な内容で満ちていますが,私は,中でもとりわけ下記の3点に着目しました。以下,簡単にその点についてコメントします。
皆さまにおかれましては,何卒,岩波月刊誌『世界』をお求めの上,後藤氏のレポートをお読みになることをお勧めいたします。
<別添PDFファイル:図書館等でご覧下さい>
・新安全基準は原発を「安全」にするか(後藤政志氏 『世界』(2013.5))
1.着目点(1):確率論的リスク評価
(後藤氏レポートより)
「他方で、スリーマイル島事故以降、確率論的安全評価の手法は受け継がれ、一九九一年にNUREG-1150という現在の代表的な五つの軽水炉のシピアアクシデントの確率論的評価が提出された。確率論的安全評価というのは日本における造語で、もとは確率論的リスク評価である。この言い方の中に、原発の危険性を少しでも倭小化しようとする姿勢が見える。
確率論的リスク評価の問題点は様々指摘されているが、私なりにまとめると、①少なくとも確率の絶対値はあてにならないこと。意味があるのは、たとえば、ある安全装置を取り付けた時に、それによりどの程度改善されるかを比較するために、安全装置を取り付けた前後で事故確率を比較することである。②個々の機器の故障確率データの信頼性が不明確、③事故シナリオがすべて組み込まれているとは言えない、④人のミスやトラブル実績や事故隠しなどは反映されていない、⑤地震や津波など自然現象は正確に評価できない、⑥複合的な事故の影響や外部からの攻撃などが考慮されていない、⑦潜在的な設計ミスが考慮されていない、⑧すべて無謬性を前提にしている、などである」
(田中コメント)
いずれも全くその通りのご指摘である。私は上記の中でも特に「複合的な事故の影響(の無視)」と「無謬性を前提」に注目する。前者の「複合的な事故」とは,原発機器類のうちの一つだけが壊れる,いわゆる「単一故障」ではなく,たくさんの機器類が同時に多発的にトラブルを起こしたり,壊れたり,原因不明の停止をしたりすることを言う。いわば「空間的」な同時多発事故である。私はそれに「時系列的」な事故多発である「トラブル連鎖」を追記しておきたい。
仮に,スタート時点では「単一故障」であっても,その故障がこれまで未経験の「新しい原発状況」をつくり出し,その結果,それに対する未経験の対応・対策が新しい故障を引き起こして「新新原発状況」をつくり,それに対して,また未経験の対応・対策をやることで新たなトラブルが更に発生して,より複雑で,より高度で,よりやっかいな状況が時系列連鎖的に生まれていく,そういう事故状態である。
確率論的リスク論は,同時多発性のみならず,こうした事故やトラブルの連鎖的発生=事故連関を視野に入れず,あたかもトラブルや事故が「独立事象」として(「事象」は東京電力や原子力ムラが大好きな言葉),「独立変数」として,他の事故やトラブルとは関係なく発生するものとして,確率計算がなされ,その結果,ほぼ永久に現実化することのないほどの極めて低い「確率値」が計算で算出されてくるのである。
しかし実際は,Aトラブルが起きればBトラブルは極めて起きやすくなり,Bトラブルが起きれば高い確率でCトラブルとなり,AとBとCがセットになると,容易には手が出せなくなって,D,E,F,Gなどが一気に噴き出てくる等々,実際の事故やトラブルは容易にシビアアクシデントへと発展してしまうのである。確率論的リスク論とは,こうした現実の複雑性や危険性,怖さを,ほとんどカウントできないまま,まるで幼稚なサイコロゲームの確率論のごとく,小さな小さな数値をはじき出しては「原発安全の誇大宣伝」にいそしむという,バカバカしい「似非科学論」なのだ。
確率に騙されてはいけない,これはもう,何十年も前に原発の危険性を議論する中で確認されてきたことだが,未だ日本の原発規制では使われている,まるでポンコツの嘘八百理屈なのだ。後藤政志氏は,原発の危険性は,確率論ではなく,その絶対的な危険性=つまり,どんなに確率が低かろうが何だろうが,それがひとたび大事故を起こせばいかなる事態に陥るかを念頭に置いた「決定論的」未然防止対策が必要であると主張されている(このメールの2.や3.もその主旨)。
2.着眼点(2):最大規模の地震や津波は特定できない=「大魔神」はどこまで怒るかわからない
(後藤氏レポートより)
「問題は、第一に、地震や津波などの自然現象を考えた時に、現在の日本の状況からみて、最大規模の地震や津波をどこまで特定できるか分からないことである。原子力における安全の考え方の基本は、多層防護・多重防護であり、設計上の基準としては「単一故障基準」がベースになっている。多重紡護は、安全装置をいくつも備えることで安全を確保しようとするが、多層防護は、いくつもの階層において各層レベルで安全策を講じるものである。単一故障基準とは、安全系の当該システムを構成する機器のいずれか一つが機能しないとととして安全機能を確認する考え方であり、当該構成機器を、それぞれ独立に故障するものと考えて評価をする。しかしながら、福島事故で明らかになったことは、地震や津波で同時に複数の機器が多重故障を起とすことがあることであり、単一故障基準だけでは事故は防げないということである。したがって、重要な機器は単一故障に加えて、電源喪失を同時に考慮するよう新安全基準は求めている。だが、電源以外の多重故障は考虚していない。また、基本的には、確率論で評価せずに、決定論的に評価することになっているが、実際には、随所に発生確率が小さい場合は無視してよいとする従来型の考え方が生きている」
(田中コメント)
「地震や津波などの自然現象を考えた時に、現在の日本の状況からみて、最大規模の地震や津波をどこまで特定できるか分からないことである」は非常に重要な指摘である。新聞報道されているように,新規制基準では,各原発ごとに最大の地震や最大の津波を想定し,それに対して耐えられるような規制基準が設けられるとされている。分かったような話だが,実際は,分かったようでいてよく分からない。何故なら,どうやってその原発ごとの最大地震や最大津波を決めるのかということが明らかでないからだ。たとえば下記をご覧いただきたい。
*(VTR)過去の大津波 1958年07-08 アラスカAlaska - YouTube
http://www.youtube.com/watch?v=cj2IyBzJu0k
*見通しのいい古塔 世界一大きい津波の高さ・524m!
http://oldtower.blog.shinobi.jp/Entry/585/
世界で過去最大の津波は,アラスカで起きた525mという高さの大津波である。アラスカもまた太平洋の沿岸にあり,日本と同じように火山地帯であり,また,プレートの端っこに存在している地殻変動の激しい土地である。日本の置かれた土地の事情と類似している。ならば,日本の原発もこの525mの大津波を前提に,これに安全係数の2倍を掛けた1,000mの津波に対して備える対策をすることを新規制基準とすればいいのか。いったい何を持って「最大地震」「最大津波」とするのか。そして,そうした「最大地震」「最大津波」を超えるものは,今後絶対に起こらないと,どうして言えるのか。
翻って,日本の海岸沿いに並べられた原発・核燃料施設は,いずれも津波対策としては,標高ゼロメートル~数メートル,せいぜいが10m程度までの津波にしか対応できないものばかりである。525mや1,000mの津波対応義務化の規制が入った段階で,すべての原発は即廃炉である。
私は,この大地震・大津波という原発・核燃料施設にとっての自然の脅威を,かつて子どもの頃に見た大映映画「大魔神怒る」によく例える。悪党どもが悪業の限りを尽くして良民を苦しめ(つまり原子力ムラの住民達が好き勝手をやって原発の大事故をひき起こし,被害者に償いもせずに苦しめている現代の日本のようなもの),やがて,それに憤った「魔神のお山」の大魔神が,穏やかで涼しげなその顔面を,真っ赤に憤る魔神の面構えに転換して,この悪党どもを踏みつぶしにやって来る,あの「大魔神怒る」の映画である。
大魔神に襲われた悪党達は,最初は弓や槍や刀や鉄砲や,あるいは大砲や大仕掛けの罠まで持ち出して大魔神を追い払おうとする。しかし,怒り狂う大魔神の前では,そんなものは屁の突っ張りにもならず,一つ残らず振り払われ,蹴飛ばされ,そして踏みつぶされていくのである。ちょうどその,大魔神の役割を,大地震や大津波が演じ,原子力ムラの住民という悪党どもの悪業の砦=原発・核燃料施設が,大地震や大津波によって踏みつぶされる。弓や槍や鉄砲は,津波防波堤やベント装置のようなもの,悪党集団やそれが乗る騎馬戦車は,電源車や消防車のようなもの,そして原子炉が悪党どもの大将=大本営だ。大砲や大仕掛けの罠は,米軍「お友達作戦」での特殊部隊,あるいは自衛隊の特殊部隊か?
いずれにせよ,悪党どもの悪業=つまり原発・核燃料施設は,大魔神=大地震・大津波に踏みつぶされる。大自然に人間は勝つことはできない。だったら原発などはさっさとやめることだ。
*大魔神怒る
http://quasimoto.exblog.jp/12639792/
3.原発とは失敗が許されない技術である
(後藤氏レポートより)
「事故原因の究明を徹底的にやっていけば、技術的な弱点がカバーされ、指嶺性のあるものになるとの考え方もあるが、幻想である。非常に多岐にわたるジピアアクシデントを、その都度経験していては、事故から学び対策を強化する以前に、日本は人が住めない状態になってしまう。原発とは、失敗が許されない技術であることを再確認する必要がある」
(田中コメント)
「大魔神」の写真付きで「原発とは失敗が許されない技術である」と書いたポスターを,六本木の原子力「寄生」委員会・「寄生」庁の事務所の壁という壁に張り付けておきたいものである。
ご承知の通り,平成のネズミ騒動(フクイチねずみ停電事件)が終わったと思いきや,今度は「東電お粗末劇場」の第二幕「針金触れたで・停電事件」,そして第三幕「漏れるだろうなと思ってたが,やっぱり漏れたかフクイチ汚染池事件」が展開中。日本のみならず世界中が呆れる中で,世界に誇る日本の原子力技術の「すんばらしき」実態が赤裸々に明らかとなった。全国紙主要5紙の中では東京新聞と毎日新聞が熱心に報道しているので,その報道に沿って,以下,簡単に経緯をまとめ,あわせて関連情報を添記しておく。
今回のこのドタバタについて,何かコメントとして付け加えることがあるとしたら,次のようなことだろう。東京電力や原発ゼネコンらのやっていることのお粗末さについては,一々書くまでもないことだ。
*(必見)貯水槽から濃縮塩水(Srたっぷり!)が漏れ漏れの件。‐おしどりマコ・ケンの「脱ってみる?」‐マガジン9
http://www.magazine9.jp/oshidori/130406/index.php
(マコちゃんの「もぐら」質問はGOOD。シートに穴をあけたのは「もぐら」かもしれない。ネズミの次はモグラ,まさに「もぐら叩き」だ)
*東京新聞福島第一 汚染水計画破綻 貯水池構造上の欠陥社会(TOKYO Web)
http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/news/CK2013041002000126.html
*東京電力株式会社福島第一原子力発電所周辺の海域モニタリングの結果(4月5日に発生した淡水化装置(逆浸透膜式)から濃縮水貯槽への移送配管における漏えいに伴う調査)について<第232報>(試料採取日:平成25年4月7日)
http://radioactivity.nsr.go.jp/ja/contents/8000/7344/view.html
*東京電力株式会社福島第一原子力発電所近傍の海域モニタリング(海水)の結果について(試料採取日:平成25年4月7日)
http://radioactivity.nsr.go.jp/ja/contents/8000/7343/view.html
(1)東京電力はおろか,原発を作っているメーカーやゼネコンなど,いわゆる日本の原子力産業に,原発・核燃料施設を運営していくだけの当事者能力はもはやない。今回の事件は福島第1原発だけの問題ではない。彼らに原子力利用をやめさせなければ,我々が心中させられるだけである。しかし,昨今の世論調査などを見ると,この期に及んでもなお,少なからぬ人間が「原発再稼働を容認」するかのごとき態度をとっているという。あらためて,そういう人達に(とりわけ自民党の政治家達と,その補完物たる民主党の諸君に)お聞きしたい。こんな連中に原発やらせといて,ほんとにいいの?
(2)穴を掘って遮水シートをかぶせ,わずかばかりの保護コンクリートを打って,そこに水を入れる。こんなものは,やがて破れて水が漏れだすなどということは,小学生でもわかることだ。ちょっと大きな地震が来て,地割れでも起こせば,あっという間に貯水はなくなってしまうだろう。つまり,この汚染水漏れは「確信犯」だということである。もう汚染水を入れるタンクなど作ってられるか,東京電力も原子力ムラも,皆,そう思っていて,それを文字通り実践しただけの話。報道によれば,先月3月20日頃には池の水位が低下して漏水はほぼ明らかだったが,東京電力はそれを無視していたそうだ(減れば汚染水を足して漏れていないことにする???)。ちょっとくらい何だ,どうってことない,とでも思っていたのだろう。
(3)できるだけ時間かせぎをやり,この確信犯的な環境汚染犯罪を覆い隠すために彼らがやっていることは,たとえば,①事態を確認しておりますを繰り返す,塩素濃度を持ち出して煙に巻く(正確には「塩に巻く」),②水は漏れたのではなくて,溢れたんです,と言い訳,更には,貯水池自体が漏れたのではなく,隣から汚水が来た,などと言い訳,③東京電力は施工したゼネコン(前田建設?)が悪いと言い,ゼネコンは東京電力の設計が悪いと言って,責任のぬすくり合いを続ける,④漏れた量は大したものではないとウソをつく,⑤汚染水の汚染も大したことはなかったとウソをつく,⑥海への放出は考えていないと,心にもないことを言い,今回のように海に近い原発敷地に垂れ流して,結果的に海へ放出していく,
要するに,東京電力及び原子力ムラ・原子力産業は「総合詐欺師」だということである。
*福一、汚染水地下貯蔵槽漏れ問題 東電『施工時の問題だね、前田建設のせいだわ』、前田建設『通常はやらない設計。設計のせいだね』 擦り付け合いへ 日々雑感
http://hibi-zakkan.net/archives/25479345.html
*【福島第一汚染水漏れ問題】2号貯水槽から水を移送している1号貯水槽からも水漏れ-報道ステーション 日々雑感
http://hibi-zakkan.net/archives/25497440.html
*福島第一、汚染水移送先1号貯水槽の土壌からも放射性物資 漏れた汚染水は土壌まで漏出の可能性大 日々雑感
http://hibi-zakkan.net/archives/25513760.html
(4)原子力「寄生」委員会・「寄生」庁が機能していないことが早くも明らかとなった。今回の馬鹿みたいな3つのトラブル(ネズミ,針金,お漏らし)を未然に防げなかっただけでなく,事故発覚後も出鱈目を続け,今回の「”漏れて下さい”シート穴」は(東京電力を含む関係原子力ムラ総出で漏れてほしいと願っているのが本音),今後も引続き使ってもよろしい,などと言い出した。本音は「漏れてほしい」ということだから,当然の結論ということか。だったら原子力「寄生」委員会・「寄生」庁の事務所は,この穴のソバ=つまり福島第1原発敷地内に置いたらどうか。
(5)関係当事者の放射能汚染や被曝に関する観念がマヒしている様子がうかがえる。このいい加減な「貯水池」なるものに入れられたのは,ただの水ではない。溶融した炉心核燃料を冷却するために使われた水で,猛烈な放射能を含み,唯一放射性セシウムだけが除去されたが,他の放射性物質は全くそのままの,とんでもない汚染水である。そんなものを,ただの遮水シートを敷いただけの池に大量に入れるということ自体が信じがたい汚染・被曝の無視・軽視である。
普通の感覚なら,少なくともコンクリートで固めた頑丈な貯水槽を造り,万が一にでもひび割れなどが生じても大丈夫なように手を打ち,また,人がそこに落っこちないよう,厳重に立ち入り禁止などの措置をとるだろう。東京電力やゼネコンをはじめ,関係当事者には汚染水が猛烈な放射能汚染物だという認識が欠如している。
(6)貯水池を造る専門家にインタビューで聞いていたTV報道によれば,遮水シートは三重にしてあるので,通常のように,きちんと施工されておれば,そう簡単に水は漏れるものではない(産業廃棄物処理場の経験か?)。それが漏れているということは,施工が杜撰だということを意味している,とのこと。原発施設だから,さもありなん。故平井憲夫氏が言うように,原発の施工現場とは,きわめていい加減で杜撰で出鱈目である。それが今回は漏水となり,近い将来は過酷事故となって,西日本か青森・北海道辺りを吹き飛ばすことになる。
(7)今回の東京電力,原発ゼネコン,原子力「寄生」委員会・「寄生」庁が登場する「お粗末劇場」は,実は,福島第1原発事故後の対策において,彼ら原子力ムラが,放射能汚染や被曝への対策をまともに実施する気がなく,いわゆる世論対策として「瀬戸際政策」(例:汚染水がぎりぎり,どうしようもなくなるまで,まともな対策をせずに放置し,それを既成事実にして,ショック・ドクトリンで,汚染と被曝を強要するやり方)をとっていることが明らかとなった。原子力「寄生」委員会の正体,ここに見たり,である。大飯原発の特別扱いでの稼働容認,シビアアクシデント対策の多くを5年間猶予,そして今回の「猛烈な放射能汚染水でも漏れてもいいよ,安上がりの池を使いなよ」瀬戸際政策判断と,仏の顔も3度までの3度があっという間に過ぎてしまった。瀬戸際政策は北朝鮮の専売特許かと思いきや,原子力ムラの汚染・被曝対策もそうだった。
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<東京新聞記事を参考に”なぞる”事件の経緯:田中一郎コメント付き>
(4月6日朝刊)燃料プールの冷却がまた停止(福島第1・3号機)
作業員が持っていた針金が電気を送る配電盤に触れて停電,冷却装置を止めて工事をしておけば事故はなかった
東京電力本社の広報はこの事故を知らなかった。東京新聞記者からの電話に「えっ,そうなんですか!?」
(4月6日朝刊)また汚染水漏れか,福島第1,地下貯水池周辺
(4月6日夕刊)漏出汚染水120トン,福島第1,移送に5日以上 「収束」後,最悪
地下貯水池は,地下に深さ数メートルの穴を掘り,三重のシートを施工する方式。福島第1原発には大小7つあり。うち3つの貯水池には既に27,000トンの処理水が入っている。処理水は放射性セシウムの大半が除去されているだけ。東京電力は隣接する未使用の貯水池へ水を移す作業を開始。
(4月6日夕刊)原発貯水池水漏れ,増え続ける汚染水,対策切り札もダメ
東京電力説明「既にシートの一層目,二層目の遮水効果はないと判断」=最初からそう思っていたでしょう?
溶融炉心冷却の汚染水は,除染しても半分しか再利用できず,タンクにためるしかない。既に敷地内には1千近いタンクが置かれ,27万トンを超える処理水がたまっている。約2年で27万トン・1千タンクなので,20年なら270万トン・1万タンク,30年なら405万トン・1万5千タンクだ。タンク屋さんが大喜びか? 最終的な負担は我々一般消費者・国民だ。
(4月7日朝刊)汚染水漏出,さらに最大47トン,福島第1,遮水シート破損か
既に漏れた汚染水120トンに加え,更に47トンが漏出(まったく怪しげな数字,信用できない,実際はもっと漏れた?)
この貯水池に貯蔵を始めたのが2月,満水になったのは3月。シートは何枚もつなぎ合わせて1枚にしており,東電はつなぎ目から漏れたり,シートが破れたりした可能性が高いと見ている(最初から継ぎはぎだらけの不良品,まるで青森県六ケ所村の再処理工場の使用済み核燃料プールのようだ)。
東京電力は3日,シートの外側の地下水から放射性物質を検出していたが,漏れの可能性を公表せず。あわよくば,隠し続けようとしていた。
(4月7日朝刊)切り札の貯水池もぜい弱,汚染水瀬戸際
増える汚染水は毎日400トン。漏出があった貯水池は14,000トンの容量があり,およそ1か月分の汚水をためられる。汚染水の行き先は,まだ5万トンばかり余裕があるというが,そのうちの3万トンが貯水池だ。既に貯水池に入っている分も移さなければならないことを考えれば,汚染水の行き場がもうない状態。一方,地上タンクの方も,用地の目途がついているのは2年先までの話。また,既設の大半のタンクも,鋼材をボルトでつなぎ合わせる構造で,止水材の寿命は5年,まもなく,その改修ラッシュを迎えそうな状態。その場しのぎの間に合わせ対応を積み重ねてきた落第会社・東京電力が,いよいよ福島第1原発の事故後対応に行き詰まりを見せてきた。
(4月7日朝刊)隣接貯水池の濃度上昇,福島第1,漏出汚染水流入か
東電は,今回汚染水が漏出した2号貯水池の隣にある3号貯水池の放射性物質濃度が約2倍になったと発表した。3号貯水池には,汚染水が11,000トン貯蔵されている。2号から3号へ漏れ出ている可能性あり。
(4月8日朝刊)福島第1,水位低下と放射性物質検出,東電,予兆問題視せず,別貯水池も汚染水漏出
先月3月20日頃には池の水位が少しずつ下がり始め,漏水はほぼ明らかだったが東電はこれを無視。漏れていない口実に「塩素濃度」を使って記者達を煙に巻いた。また,これまで東電は,処理水の貯蔵に余裕含みを強調してきたが,今回,やっとその危機的状況を確認したという。漏れている池から汚染水を移す先の池も漏れる可能性があり,算段通りに推移するかどうかはわからない。
(4月8日朝刊)汚染水漏れも「事象」,東電「つい口癖で」,事故発生時も連発・体質変わらず
単なる出来事を意味する「事象」。東京電力の広報担当者は記者会見で,福島第1原発の地下貯水池の水漏れ事故を,繰り返し「事象」と呼んだ。水素爆発だって,彼らに言わせれば「何らかの爆発的事象」であり「爆破弁」なのだから,汚染水漏れも「事象」なのだろう。かつて大日本帝国陸軍が,負け戦で「撤退」するのを「転進」と表現したのと同じ精神構造だ。大日本原子力帝国・東京電力は,事故のことを「異常な過渡変化」とも言う。虚飾造語創作の名人たちである。
(4月8日朝刊)放射能濃度にも疑問符
東電は,今回漏れ出た汚染水の濃度を,3重シートの間から採取された水の放射能濃度を使って約7,100億ベクレルとはじき出した。しかし,漏れ出た可能性が高い貯水池の汚染水そのものの濃度は,それの100倍以上濃いものだ。明らかな漏出汚染水の過小評価だ。仮に150倍とすると,7,100×150=1,065,000億ベクレル=107兆ベクレル,ということになる。
(4月9日朝刊)福島第1,水漏れ貯水池継続,規制委使用容認,代替策なし
原子力「寄生」委員会の更田豊志委員は,今後も水漏れしている貯水池の使用を認める方針を明らかにした。また,他方で東電は,9月末までに建設する予定だった12.6万トン分のタンクを前倒しして完成させる方針も示した。
(4月9日夕刊)福島第1,移送先貯水池も水漏れか
水漏れしていた地下貯水池の処理水を移送していた先の別の貯水池でも水漏れが発覚。予想されたこと,当たり前。
(4月10日朝刊)福島第1,汚染水計画,破綻,貯水池,構造上の欠陥,1日400トン増量,タンクも限界
貯水池で3件目の水漏れが起きた(1号貯水池)。今度は遮水壁シートの外まで汚染水が出ていたようで,つまり放射性ストロンチウムなどの大量の放射性物質を含んだ汚染水が周辺土壌に浸み出して行ったということだ。貯水池に構造的な欠陥があることは明らかで,東電の汚染水貯蔵計画は(予定通り)破綻した。東電は池の汚染水を数少ない地上の空きタンクに移す検討をし始めたが,しのげるのはわずかな期間でしかない。
(4月10日朝刊)破綻した移染水処理,規制委,危機感薄く,移送先なし・漏れ少ない,構造的な欠陥が疑われる地下貯水池容認のまま,海に流出の恐れ,
原子力「寄生」委員会が指示したのは,データを更に詳しく調べることだけ。今後も漏れる貯水池を使い続けていいと明言,その理由は,他に汚染水をためる場所がない,漏れている量が少ない。⇒ 福島第2原発へ運びこめ
!
(毎日新聞によれば,漏れたのは1~3号貯水池,今後,1,2号池は使わず,そこにある9千m3を地上の既存タンクに移すが,3号は移送先が確保できず当面使用を継続。3号は池の上部から漏れているが,1号は下の方から漏れている,4号は漏れは確認されていないが既に満杯,3号と5,6,7号の各池は,水位を8割にして使用する)
(LAST 田中一言コメント)
近いうちに,直下型地震が来て,猛烈な放射能汚染水が(彼らの計画通りに)一挙に敷地へ漏れ出し(流れ出し),それが海へと流出するだろう。要するに,中長期的放射能垂れ流し計画が予定通りに進んでいるということだ。この国には,もう原子力を統制・規制する組織も存在せず,原子力ムラが好き勝手なことをやり,放射能汚染や被曝など「なんのその」の大日本原子力帝国精神論がまかり通るようになってきた。まさに末期症状である。これこそを「放射脳」というのだ。
*福島第一原発連続事故発表は誤魔化しの連続!! 別の地下貯水槽でも汚染水漏れ!! 政府、東電はお粗末工事の総合商社!!
http://onndannka.cocolog-nifty.com/blog/2013/04/post-fbcc.html
草々
前略,田中一郎です。
下記5つの新聞・雑誌記事は,2013年4月2日付東京新聞「こちら特報部」の記事「間伐材でバイオマス発電構想,福島で森林除染本格化,「一石四鳥」か,林業再生,雇用創出など狙う,汚染灰拡散か,作業員ら被ばくの恐れ,情報公開し議論必要」(下記URL参照)に関連した昨今の森林の放射能汚染に関する報道を集めたものである。以下,簡単にコメントする。
<関連記事:図書館等でご覧下さい>
・福島県で森林バイオマス発電(2013年4月2日付東京新聞)
・森林と木材の放射能汚染(2013年3月30日付日本農業新聞,2月13日,3月5日,3月9日の各日刊木材新聞)
・森林火災は放射能をまき散らす(2013年3月23日付河北新報他)
・渡良瀬ヨシ焼き(2013年3月18日付東京新聞)
・バイオマス発電の補助金と買取価格(『ウェッジ
2012.12』)
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1.2013年4月2日付東京新聞「福島県で森林バイオマス発電」
http://www.asyura2.com/13/genpatu31/msg/130.html
福島県は間伐材を木質バイオマス発電に利用する構想を練っている。森林除染のほか、発電、林業再生(森林整備)、雇用創出の「一石四鳥」を狙うのだという。だが、住民たちには、汚染木材の焼却が放射性物質の拡散につながるという懸念も強い。福島県のバイオマス発電所は,既に会津若松市と白河市で稼働中で,更に国の復興交付金で塙町にも新設を計画中である。さらに国の除染直轄事業とは別に、県も今月から除染間伐に力を入れるため、汚染のひどい相双地区(相馬郡、相馬市、南相馬市、双葉郡)に3カ所、県北・県中地区に1カ所を新設することを構想している。
東京大学先端科学技術研究センターの児玉龍彦教授(分子生物学)は「福島県の構想は良くできており、大事な提案だ」と高く評価している,とある。果たしてそうなのか,私は下記の理由から,児玉龍彦氏の見方は余りに楽観的で,放射線被曝を度外視した軽率な判断ではないかと思っている。
(1)バイオマスを森林から伐り出す林業労働の被曝はどうなるのか。福島県をはじめ,関東から東北にかけての森林は放射能に猛烈に汚染している。そんなところで林業労働をしていたら,猛烈に被曝を積み重ねることになり,極めて危険である。現下では,国有林野でさえ,林業労働者の被曝からの保護が不十分で,被曝量計測の線量計携帯ですらロクすっぽ守られていない。ましてや,非常に遅れた前近代的な労務管理で著名な林業の世界で,施業労働者の被曝回避がきちんとできるとはとても思えない。そもそも,そのための法令整備も労働安全管理体制もできていない。
(2)森林を除染目的で伐採(皆伐)し続けることは,山林を丸裸にしてしまうことを意味し,森林環境の破壊につながる。集中豪雨の時などは,土砂崩れや地滑りにつながり,自然災害を増大させ,従ってまた,放射能汚染を拡大してしまう恐れが高まる。逆に,森林を皆伐しないのであれば,森林の除染は極めて困難だ。(事実上不可能)
(3)林地残材や,用材に向かない間伐材をチップ化してバイオマス発電し,放射能はバグフィルターで99.99%とることができる,などとよく言われるが,①放射能回収とはいっても特定の放射性核種だけで,少なからぬ核種は回収できない,②放射能の大きさが小さいと,フィルターの目を通り抜けてしまう,③いくら回収率(%)が高くても,100%回収ではないのだから,分母が大きいと(つまり焼却される木質バイオマスの絶対量が多ければ),焼却で環境に排出される放射能の量は変わらないか,あるいは増える。④バグフィルターの性能がよくない場合もある。
汚染バイオマスを燃やしてもフィルターで全部除去できる,などとは思わない方がいい。つまり放射能汚染の木質バイオマスを燃やせば,放射能汚染ゴミ以上に放射能を周囲一帯の環境にばら撒く結果となる。
(4)放射能汚染を濃縮した猛烈な汚染物である焼却灰が発生する。その焼却灰を適切に管理する「処分場」が存在しない。当面はその目途もたっていない(目途が立っていない最大の理由は,加害者・東京電力や事故責任者・国が被害者に対してきちんとした賠償・補償・再建支援を行わないからだ)。
(5)百歩譲って,上記(1)~(4)までの放射能汚染,及び放射線被曝管理が,最新鋭のバイオマス産業機器の新規導入により,克服可能だとしても,それでも,そうした最新鋭式の産業機器類が,福島県及びその周辺の森林汚染地帯でくまなく利用される(逆に言えば,この東日本の広大な汚染森林地帯では,旧式の機器類は一切使用されることはないということ),ということはありえない話である。それは,最先端医療が全国の病院でくまなく展開されることはありえないことによく似ている。つまり,汚染拡散防止・被曝防止の最新鋭林業機器類があるとして,それをモデル地区に部分的に入れて,実証的に事業を展開し,成功したら少しずつ拡大するというのなら分からないでもないが,少なくとも今,国や福島県が進めようとしている森林除染(皆伐)とバイオマス発電のセット事業は,そのような慎重さを欠いている。
(6)そもそも木質バイオマスは発電ではなく熱利用すべきもの。エネルギー資源のカスケード利用を考慮すれば,森林より産出される木材は,まず木材として利用した後に(枝葉や切株など,木材として利用できないものはそのままストレートに),熱源として利用するのが最もエネルギー効率がよい。木質資源を燃やして一旦電気に転換し,その電気を再び熱源としているような現代社会のエネルギー消費のありようは抜本的に転換されるべきである。
(7)林野庁が各種設備等や間伐等森林施業などを補助し,更に,経済産業省が決めた特別の高価格で電気を(電力会社が)買い入れる木質バイオマス発電には,別添PDFファイルの『ウェッジ』記事ような補助金にまつわる不透明=不公正な実態がある。この「補助金の汚れ」は起源が古く,かつ,いつまでたっても解消される様子がない。本来,補助金は否定されるべきものではなく,適正化されるべきものであるのだが,この20年間,いやというほど論じられ,いやというほどもてあそばれ,いやというほど歪められた運営が続いている。
<ウェッジ記事から若干の問題点を抽出して列記してみると>
a.補助金なしで木質バイオマスを買い入れて発電した場合でも,十分に経営ができるような水準に電気の買入れ価格が決められているのに,更に3重の補助金が事業者に供与されている(やり過ぎだ=官庁のアリバイ行政の可能性大)。
b.木質バイオマス発電の電気の買取価格は,原料となる木質バイオマスの性質によって3つにランク分けされているが,それが適切に運営される保障がない(当事者らによって誤魔化されて書類上のつじつま合わせで,高価格の電気買取価格が適用される可能性がある)。つまり,適正化の保障のない下での三重価格は機能しない。
c.高い電気代に加え3重の補助金を享受しているにもかかわらず,そのバイオマス発電事業者が買い入れる木質バイオマスの価格は低いままである可能性がある(バイオマス発電申請や補助金申請の計画書に反して買いたたいている?)。木質バイオマス発電=木質バイオマス利用のメリットが山元に還元されない=森林の荒廃が続く。
(なお,ウェッジには書かれていないが,バイオマス事業を展開できる事業主体が地域に少なく,特定の事業者に様々な補助や支援が集中しがちであること,また,補助や支援を受けられるか否かが必ずしもフェアではないこと,補助を受けていることに伴う情報が公開されないこと(個人情報保護が口実にされる),行政オンブズマンなど有効かつ日常的に機能する第三者的な監視システム・検査監査制度が存在せず,不正の温床が闇の中で温存されている,行政が自分達の「やってまっせ」のアリバイ行為の手段として補助金を使っている,補助金なしで木質資源を使う他の用途をクラウディングアウトしてしまう可能性(例:木材チップを使うパーティクルボードが原料確保難に陥る),などが補助金行政の問題点として挙げられる)
2.森林と木材の放射能汚染(2013年3月30日付日本農業新聞他)
日本農業新聞記事を1つ,日刊木材新聞記事を3つ,紹介する。
森林の除染が困難で,国はこれにまともに対応しようとはせず,住宅及びその周辺の除染さえままならない状態が続き,そうした中で,シイタケ栽培や林業経営を行う生産者には理不尽な重荷がのしかかっていることを日本農業新聞記事が伝えている。その記事はともかく,残り3つの日刊木材新聞記事にある,林野庁を含む関係当事者たちの森林及び木材の放射能汚染に関する認識や言動は軽率極まりない。
諸悪の根源は農林水産省・林野庁である。森林の汚染が深刻な状態であるにも関わらず,森林施業に関する制限を全く行わず(いわゆる「警戒区域」等としての規制のみ),また,森林から産出される非食用の林産物についても,飲食調理用の木炭や薪を除けば,何の放射能規制値も打ち出さず,林産物の汚染検査体制さえ未だ創ろうとはしない。すべて木材関係業者に丸投げしている。当然ながら,残留放射能の検査がなされる木材や林産物はほとんどなく,汚染された森林の調査も,森林に住む生物群の生態調査もほとんど未着手のままだ。それでいて,例えば福島県では2011年度も2010年度より少し少ないくらいの木材生産(丸太:64万m3)が行われ,その材木や林産物が日本全国に流通していくのだから危険極まりない。
(例えば,危険な林産物として,スギの葉っぱを原料に造られる(国産)線香が挙げられる(茨城県が産地)。長時間,汚染された線香の漂う部屋にこもりきりになるのは,呼吸被曝の危険性が大きい)
(一昨年から昨年にかけて,浪江町の採石場から伐り出された放射能汚染の石が建築物や土木工事に使われていて大問題となったが,それと同じようなことが木材で起きる可能性がないとは言えない)
*浪江町の汚染コンクリート福島県内に流通拡大! - 放射能対策@sos子供を守ろう!
http://sos-japan.seesaa.net/article/246470149.html
その「ウソつき太郎」の林野庁,「ハッタリ次郎」の森林総合研究所(林野庁傘下)が,別添PDFファイルの記事にあるように,放射能や被曝情報に疎い林業関係者・木材関係者をそそのかし,福島の森林もそれ以外の汚染地域の森林も安全だ,汚染は全く心配いらない,林産物は懸念するに及ばない,「風評被害」を気にするな,などとするデマ宣伝をあちらこちらで吹聴している。許し難い行為ではないか。
<日刊木材新聞記事より:軽率極まりない姿勢>
(1)「木材業界・製材工場の方と話していると,風評被害を気にする人もいる。ただ,どうもセシウムという言葉だけで危険視していることもある」(林野庁の発言:「福島県産材の安全性を証明」(2013年2月13日付日刊木材新聞より))
(2)「警戒区域等の立ち入り制限がある地区を除くと森林内部の放射性セシウムの濃度は低く,森林を流れる川にはセシウムはほとんど流れていない」(森林総研の発言:「福島県産材の安全性を証明」(2013年2月13日付日刊木材新聞より))
(3)「放射性セシウムを含む木材で囲まれた居室(497ベクレル/kg)を想定した林野庁試算結果を引き合いに,自然放射線による年間被曝量に比べ桁が2つ違う低い値と説明した」(森林総研の発言:「福島県産材の安全性を証明」(2013年2月13日付日刊木材新聞より))
(4)「製材品の表面線量調査の結果,2011年11月~2013年1月で最大値は92CPMで,健康や環境に影響を与える可能性がある表面線量は測定されていないことを指摘した」(福島県農林水産部の発言:「福島県産材の安全性を証明」(2013年2月13日付日刊木材新聞より))
(5)「(福島)県内の大部分の森林は空間線量率が1マイクロシーベルト以下で,現在生産した製品の表面線量をシーベルトに換算すると,直近データで最大約0.0017マイクロシーベルトで,放射線専門家から健康への影響はないと評価されている」(木材合板博物館長の発言:「福島県産材の安全性を証明」(2013年2月13日付日刊木材新聞より))
まだまだいくらでもあるが,キリがないのでこれくらいにしておく。発言する当事者たちは,これで森林や木材の安全が証明できた,世の中を説得できた,と思っているようだ。いやはや,こういう人達が福島県やその周辺の放射能汚染木材や,汚染森林を取扱っているのかと思うと,もう危なくて近寄りたくもない。皆さまにも,放射能汚染地域の森林や木材や林産物には絶対に近寄らないようご注告申し上げたい。薪や木炭のあるところは危険です。焼き鳥屋・焼肉屋要注意。
3.放射能に汚染した森林を燃やすな,枯れ草・葦を燃やすな(2013年3月23日付河北新報他)
放射能に汚染された森林が火災で燃え上がれば,深刻な放射能汚染の拡散になることは「火を見る」よりも明らか。チェルノブイリ原発事故後も,現地旧ソ連諸国では,森林火災に対しては全力で防災対策が組まれていた。他方で,日本では,福島県をはじめ東日本の放射能汚染地帯では,森林の火災に対して余りに無防備であり警戒心が低すぎる。
これもひとえに農林水産省・林野庁が諸悪の根源であり,それに福島県庁をはじめ都県庁が加担をしている。「山を燃やすな!」は,原発事故により放射能を浴びた地域では最も重視されなければならない防災対策の一つである。これについて,国や農林水産省・林野庁から,厳重な注意勧告や,防災・防火体制強化の呼び掛けが出されたことはない。
そして,愚かにも,先日3月18日には,渡良瀬遊水地の葦に人為的に火をつけて燃やしたという記事が東京新聞1面に掲載された。しかも,おりからの強風にあおられて,計画していた以上の区域にまで火が広がり,他人の小屋までもを焼いてしまったのだそうである。当然ながら,煙となって空に飛び出た放射性物質は,強風に乗って,相当遠くまで飛んでいったことだろう。渡良瀬遊水池に留まってくれていた各種の放射性物質を,人間があっちこっちへ向けてばら撒いた,まさに放射能と被曝への無頓着から来る愚行だった。
*東京新聞3年ぶりヨシ焼き 強風で炎広がり、物置焼く 渡良瀬遊水地社会(TOKYO Web)
http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/news/CK2013031802000116.html
(3月10日の砂埃が舞い上がった強風の1日,埼玉県で計測された放射能(放射性セシウム)のベクレル値は最高で4,000ベクレル/kgを超えた。野外にいた多くの関東地方の人々は,かなりの量の放射性セシウムを吸い込むことになってしまった。それと似たような状態が,いやそれ以上の状態が,人為的につくられたことになる)
記事を読んでみると,この葦焼きは,何と,ある自然保護団体が要請し,地元の自治体行政までが参画していたというから驚きである。馬鹿なことをしてはいけないのだ。
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草々
前略,田中一郎です。
別添PDFファイルは,昨今の法令解説雑誌の掲載された「福島復興再生特別措置法」の概要説明です(著者は復興庁の役人)。読んでみますと,この法律は,一方で福島県民・住民の無用の放射線被曝回避のための対策をおろそかにし,他方では,福島県の「復興」を口実にして,通常時にはできそうもないやり方で産業・企業を優遇・優先する大盤振る舞いを法律によって「合理化」しようとしているように見受けられます。被曝回避や健康管理,あるいは生活再建・自営業者の経営再建など,肝心かなめの被災者住民の復旧・復興が二の次にされているように思えてなりません。
ひょっとすると,この法律の枠組みの背後で政・官・業の「復興利権」が渦巻いているのかもしれません。原発事故・原発震災の被害者に対する万全の賠償・補償政策と並行して,どうして住民本位の,住民が主役の,住民の生活・経営再建を主眼とした法律ができてこないのでしょうか。おかしな,おかしな,ほんとにおかしな原発震災復旧・復興政策がなされようとしています。以下,その問題点を具体的に略記してみます。
<別添PDFファイル:添付できませんでしたので図書館等でご覧下さい>
・福島復興再生特別措置法(『時の法令 NO.1914』(2012年9月30日)
<福島復興再生特別措置法 サイト>
*福島復興再生特別措置法の概要(復興庁)
*福島復興再生特別措置法(復興庁)
http://www.reconstruction.go.jp/topics/000783.html
*復興庁 福島復興再生基本方針,及び関連施策[平成24年12月17日]
http://www.reconstruction.go.jp/topics/post_131.html
*日本弁護士連合会│Japan Federation
of Bar Associations:福島復興再生特別措置法成立に関する会長声明
http://www.nichibenren.or.jp/activity/document/statement/year/2012/120330_2.html
<この法律のどこがおかしいか>
1.福島第1原発事故は収束していない
福島第1原発事故が収束していないという認識が不十分です。ご承知の通り,福島第1原発の4号機・使用済み核燃料プールは危機的な状況にありますし,その他の号機の原子炉内の様子は全く不明で,メルトダウンした核燃料がどこにあるのかもわからない状態にあり,事故原発は今でも危険な放射能を出し続けています。また,使用済み核燃料プールは4号機だけでなく,1~6号機まですべて存在していて,そこに危険な核燃料が入れられたままです。
更に,福島第2原発の方はどうなっているのでしょう。報道されませんから,第2原発の状態はほとんど分かりませんが,少なくとも使用済み核燃料プールについては危険なままではないのでしょうか。
今の状態の福島第1原発・福島第2原発を,再び震度6強以上の大地震,あるいは東日本大震災並の大津波が襲えば,たちまち第二次原発震災となることは必至だと見ておいていいでしょう。しかし,インドネシア・スマトラ沖の大地震の例にもあるように,太平洋の西側周辺では地殻の変動期に差し掛かっている様子もあり,大地震は往々にして近接域で再発を繰り返す可能性があるのです。
福島第1原発・福島第2原発を再び襲うかもしれない大地震・大津波に対して,何の対策らしき対策を行わず,住民に対しても堅確な「防災指針」を明らかにすることもなく,東日本大震災と福島第1原発事故はすべて終了したかのごとき認識で書かれている印象を受けるこの法律は,明らかにおかしいし,危機意識が欠如しています。
(たとえば,福島第1原発・福島第2原発周辺地域の「警戒区域」(原則立入禁止)を解除するなどというのは時期尚早も甚だしいし,それを賠償・補償とリンクさせて被害者住民に「警戒区域再編」を「強要」したり,住民の帰還を促進したりしていることは,著しい不適切政策・人権侵害行政です。近い将来,また再び原発が放射能を噴き出すかもしれない,そんな危険な区域に戻って住め・定住せよというわけですから)
2.何故,住民を放射線被曝から守らないのか
住民が受ける危険極まりない放射線被曝に対するこの法律の基本的な姿勢は,「福島県民健康管理調査検討委員会」と同じで,「放射線による健康上の不安の解消」です。この法律が目的の一つとするところの「住民が安心して暮らすことのできる生活環境の実現」というのは,住民の無用の放射線被曝を可能な限り防ぐことによってではなく,放射線はそれほど危険なものではないから安心しろ,という「説教」を,国や自治体や教育機関や御用学者やマスコミや地域の一部有力者や会社経営者らが,手を変え,品を変えて行うことにより実現していきます,ということを意味しています。
いわば,住民の放射線被曝への懸念や不安を,原子力推進の御用言説で包囲し,権力と金の力で押さえつけ,放射線被曝への懸念や不安さえも口外させない,一種の「原子力翼賛社会」を徐々に徐々に創り上げて行こうというものです。放射線被曝は,それ自体が危険なのではなく,放射線被曝を心配し過ぎることが危険である,不安は放射線被曝の危険性からうまれるのではなく,誤った被曝認識に基づく「風評被害」から生まれる,これがこの法律に書かれている一貫した,断固とした「住民への被曝対策の考え方」の基本なのです。
この姿勢から必然的にもたらされるのは,実際に放射線被曝によって健康被害が出てきた場合の被害者の切捨てです。住民がガンや白血病を患っても,それは放射線被曝とは関係がないと突き放され,ガンや白血病以外の健康障害に苦しむことになっても,それは放射線被曝とは関係がないからお門違いだと蔑まれ,そして,それを放射線被曝と結び付けて考えようとする被害者には「非国民」「非県民」のレッテルが張られてバッシングを受ける,そういう状態がつくりあげられようとしているのです。
先般,新たな子ども甲状腺ガンが発見されたときに,早くも行政当局はこの「被害者切捨て」姿勢を鮮明にし,さしたる医学的根拠もないままに「放射線被曝とは関係がない」と言い放ちました。この彼らの姿勢は,今後,どれだけ福島県やその他都県のホット・スポットに悲劇が累積していこうと変わることはないでしょう。何故なら「被害者の切捨て」は,原子力を推進する上では絶対に必要不可欠だからです。
3.「帰還」あれども「避難」なし
繰り返しになりますが,住民の被曝回避対策は,①そもそも被曝しないようにする=被害者住民の避難,疎開,移住,一時保養を積極的に推進する,②住民の放射線被曝の危険性に関する認識を高める(人間の五感で捉えられないが故に一層危険である旨を,その原理的な仕組みから説明し,かつICRPに代表される「原子力御用学説」の危険性・非人間性・犯罪性を明らかにする),③被曝医療体制や健康診断を充実させる,の3つの面から充実されなくてはいけません。もちろん被害者は,これに伴う一切の費用負担は無用の形で,避難や疎開や一時保養にも対応できるよう,日本全国どこにおいてもこうした放射線被曝への対策が受けられるように手配されるべきです。
しかし,こうした「当たり前のこと」が,この法律では,捻じ曲げられ,簡素化され,ケチられて,単なる美辞麗句のお題目に留まってしまっています。
申し上げるまでもありませんが,この法律では「避難解除等区域の復興及び再生のための措置」と称して,被害者住民を,未だ猛烈な放射能汚染状況にある「警戒区域」等への「帰還」「帰宅」「再定住」の大々的促進をうたっております。公共施設を充実させましょう,企業を誘致いたしましょう,税金を軽くしてさしあげましょう,お金を貸してあげましょう(お金をあげましょうとは言わない)等々,あれやこれやの「猫なで声」で,住民に向かって♪♪「帰ってこいよ」♪♪をさえずっています。
しかし,他方では,住民の避難や疎開や一時保養などの便宜を図り,移った先での住居や仕事や生活の安定を確保し,医療や健康診断の利用を適切に提供するという観点からの対策は,ほとんど「リップサービス」の域を出ておりません。それはまるで「帰ってくるのはいいけれど,外に出て行くのはまかりならぬ」と,この法律が住民に言い放っているかのごとくです。「避難する権利」「移住する権利」「放射線被曝を回避する権利」は軽視され(あるいは無視され),「帰還する権利」「汚染地域に住む権利」が声高に強調されています。
「福島県民健康管理調査検討委員会」が進める放射線被曝管理・被曝医療・健康診断などの出鱈目は,ここでは論じないことにいたしましょう。既に,下記のような市民のウォッチドッグ・グループが形成され,活動が始まっております。3月7日の集会をはじめ,今後のこのグループの活動に注目していきましょう。
(参考)「放射線被ばくと健康管理のあり方に関する市民・専門家委員会」
*3/7の緊急院内セミナーでこれを踏まえて政府と対話します。こちらもぜひご参加を!
http://www.foejapan.org/energy/evt/130307.html
*福島県県民健康管理調査の問題点および健康管理のあり方について緊急提言を提出
http://www.foejapan.org/energy/news/130228.html
*(環境省・復興庁・福島県への提言)
http://www.foejapan.org/energy/news/pdf/130228_1.pdf
*(原子力規制委員会への提言)
http://www.foejapan.org/energy/news/pdf/130228_2.pdf
4.「避難解除等区域の復興及び再生のための計画」は福島県や地元自治体ではなく国が作る,なんでやねん
この法律によれば,福島県全体の復興と再生のための「福島復興再生基本方針」は国が作り(復興庁),閣議決定することになっています。住民を主役に置かず,放射線被曝を軽視・無視し,企業・産業中心主義で,国の勝手な方針策定を促進するかのような条文になっているのは大問題だと思いますが,それ以上におかしいのは,「避難解除等区域の復興及び再生のための計画」は,福島県や地元自治体ではなく国が作る,インフラ整備などの復興事業は国が直轄で実施する,とされている点です。
その地域に住む人達が計画を作るのではなく,国が作る,他の地域に比べて復旧・復興が著しく困難だから,国が代わって作って差し上げましょう,というのです。おかしな話です。国が全面的に支援・応援するというのなら分かりますが,地元自治体や住民になり代わって,国が計画まで作り,事業も直轄でやりますというのですから,これは明らかに変です。
そして「避難解除等区域の復興及び再生のための計画」には,産業の復興及び再生に関する事項,道路・港湾・海岸その他の公共用施設の復興に関する事項,生活環境の整備に関する事項,などが定められるべきものとして明記されています。これって臭いと思いませんか。臭い,臭い,復興予算にたかるシロアリ族の悪臭がプンプンしているのです。
他方で,計画に定める事項として,住民の放射線被曝に伴う健康障害の防止や早期の生活再建・経営再建などは明記されておらず,あえて言えば「復興及び再生に関し特に必要な事項」と記載されて,「特に」の形容詞付きで定められています。言い換えれば「特に」でなければ,計画にも入れないぞ,ということです。
また,これら住民対策の最初の部分には「将来的な住民の帰還を目指す区域における避難指示の解除後の(取組や措置)」という修飾語がかぶせられ,あくまでも「帰って来る者」には国がこの計画で便宜を図ってやるが,帰ってこない者・避難で出て行く者については「勝手にしろ」という「袈裟の下の鎧」がちらちらと見えているのです。
つまり,上記で書いたことの基本構図は,この法律の大黒柱の一つである「福島復興再生基本方針」や,それに基づく「避難解除等区域の復興及び再生のための計画」については,まずもって放射線安全神話の被災地福島での確立を最優先・大前提として対応をし,それを放射能汚染地域への住民の帰還と定住で,徐々に徐々に現実化していく,国はそれを法的・経済的に担保するため,方針のみならず「復興再生計画」や「復興再生事業」そのものまでもを直轄で行って,他からいらぬ”ちゃちゃ”が入らぬよう万全を期す(計画や事業の決定権を握り自分達の自在にする),そしてそれに便乗する形で,土建・ハコモノ事業や除染事業などで政・官・財の大利権連合を創設して,「復興」「再生」の名目で,堂々と大々的にやっていく・甘い汁を吸い続ける,というものに他ならないのです。
私はこの法律の解説文を読んでいて,はらわたが煮えくりかえるほどに怒りがこみ上げてきました。
5.企業・産業優先,住民は後回し・付けたし
この法律のもう一つの大黒柱は,第5章から7章に至る福島県独自の産業振興対策にお墨付きを与えているところです。簡単にご紹介しますと,
第5章 原子力災害からの産業の復興及び再生について
福島県は「産業復興再生計画」をつくることになっています。そして,この計画の実効性を高めるべく各種規制の特例措置(規制緩和)や課税の特例を行うとして,7つの規制緩和が列記され,更に政令レベルのものは必要に応じて適宜改定するとされています。
第6章 新たな産業の創出等に寄与する取組の重点的な推進について
福島県は「重点推進計画」をつくることになっています。そして国及び国の関係機関は,これに対して必要な措置を講ずるとあります。「福島県内全域においては風評被害や健康不安が著しく,他の被災地と同様の地域の自主性・創造性を活用した産業の転換や振興のための取組を進めるだけでは,福島の産業の復興及び再生を実現するのは困難な状況にある」などという説明がくっついています。
第7章 福島の復興及び再生に関する施策の推進のために必要な措置
ここにこの法律の第64条から第69条まで,全部で6つの施策が列記されています。
住民の健康や生活をそっちのけにして,産業復興だ,企業振興だ,県と国が一体になって新しい「産業王国福島」をつくるぞ,と宣言しています。この法律を作ってくれと言ったであろう福島県庁の幹部や,それを受けて,狡猾にも私利私欲の利権付きでこの法律を作ったであろう霞が関の役人,あるいはそれらを作れと命じた政治家達,この連中は,タイムマシンにでも乗って,明治時代の殖産興業・富国強兵の時代へ行くか,戦後高度成長期の日本にでも戻ればいいでしょう。アナクロニズムも甚だしいことに加え,住民の命と健康,生活や経営の再建をさておいて,何が産業復興・新産業創造なのでしょうか。
「福島県内全域においては風評被害や健康不安が著しく,他の被災地と同様の地域の自主性・創造性を活用した産業の転換や振興のための取組を進めるだけでは,福島の産業の復興及び再生を実現するのは困難な状況にある」などと,福島県民・国民は,放射線被曝を心配し過ぎて,根も葉もない風評被害に惑わされているから,全知全能の国が出て行ってちゃんとしてやるので心配するな,と「下々におふれ」を垂れています。
健康不安が著しいのは,猛烈な放射能汚染のためですし,福島の産業の復興や再生が容易でないのも,猛烈な放射能汚染をもたらした福島第1原発の事故のためです。困難の元になっている放射能汚染に対してきちんと対処しないでおいて,いくら巨額の利権事業を福島県に注ぎ込んだところで,福島県の復興・再生などはありえないでしょう。むしろ,国の甘言に翻弄された住民が汚染地域で危険な放射線被曝を続け,近い将来の健康障害の悲劇を大量発生させることにつながりかねません。風評被害など,福島県にも,県外にも存在していません。福島県民や日本国民の放射線被曝への不安や懸念は,物事の核心を見抜いた極めて適切な認識であり反応です。
なお,上記第5章から7章の中で,最も重要なのは第7章,しかも,その中の「復興交付金その他財政上の措置の活用」(第67条)の部分です。この2つの福島県が作る「産業計画」が生きるも死ぬも,ひとえにこの国の財政措置が生殺与奪の権を握っています。地方分権だの,地方自治だの,地域主権だのは,どこ吹く風の状態に貶められています。福島県は原発事故により甚大な被害を受けた挙句,その事故原因者である国によって完全に包摂され,支配下に置かれてしまっています。
それはまるで,原子力推進者の国が福島県とその県民に向かって「金をやるから原子力推進にはたてつくな,放射線被曝のことは任せておけ,被曝が危ない・心配だなどと言っとる奴らは「風評被害」の扇動者にでもしてしまえ」と暴言を吐いているようなものではないでしょうか。どうみても,こんな法律はいらないと思います。
6.何故,被害者への賠償・補償の促進と再建支援施策の一層の推進が謳われていないのか
現在の福島県民の多くは,可能ならば,経済的に可能ならば,一時的にでもいいから子どもたちとともに,家族や地域そろって他の土地へ避難し,日々の放射線被曝への懸念や不安から解放されたいと願っています。原子力翼賛の猛威が荒れ狂う中では,表立って口に出しては言えないけれども,放射線被曝が続くのは嫌だと感じています。
その思い・願いをかなえて差し上げることが,福島県の復興や再生にとっては一番重要なことのはずです。しかし,現実はどうでしょう。人々の生活再建にとって最重要の,福島第1原発事故による被害の損害賠償が遅々として進みません。進まないどころか,東京電力は加害者の分際で自分で賠償基準などを作って被害者に押し付けたり,被害者に対して損害賠償の支払いを拒否したりしています。また,支払われるべき損害金を,事務体制のぜい弱などを理由に無用に遅らせたりして,要するにもう,出鱈目の限りを尽くしているのです。東京電力曰く,「福島第1原発事故で環境に放出された放射性物質は,もはや無主物であるから,それによる被害の賠償の責任はない」などとは,よく言えたものだと思います。昔の武士の時代なら,「この無礼者!」で,一刀両断にするところです。いずれにせよ,賠償・補償が進まないと,被害者住民は身動きが取れず,進退きわまって放射能汚染地域に強制的に縛り付けられてしまいます。
にもかかわらず,国は知らん顔をしていますし,福島県庁は「リップサービス」の域を出ないようなことしかしようとはしません。これほどひどい話はないと思います。21世紀の日本が,単純な事故の被害・加害に伴う損害賠償や補償をきちんと処理できない社会であるというのは,もう信じがたいくらいに,この国がどうしようもなくなっているということなのでしょう。
本来なら,この福島復興再生特別措置法こそが,それを「正常化」し,住民への賠償・補償を促進する施策で満ち溢れていなければいけないはずです。また,昨年6月に制定された「原子力事故による子ども・被災者支援法」も,復興庁がその「基本方針」を策定しないがために,予算もつかずに店晒しにされています。
国も福島県も,「災害からの復興」と彼らが言う時には,そこには住民・県民が不在なのでしょう。
7.復興手続きからも見える住民除外の非民主的で私利私欲を優先した法律の正体
この法律の最初の大黒柱である「福島復興再生基本方針」「避難解除等区域の復興及び再生のための計画」については,いずれも国が一方的に策定するだけで,わずかに「方針」に対して福島県知事が方針変更の提案をできるにすぎません。計画や直轄事業などには事実上口出しできません。地元市町村や住民は,これらの「方針」や「計画」からは徹底して排除されています(「方針」はネット検索すると簡単に発見できますが,「計画」の方はネット上にはないようです:これも隠蔽されているのでしょうか?)。
また,福島県の復興全般に関して,国と福島県の関係者から構成される「原子力災害からの復興再生協議会」(この法律制定以前から存在していた) が,法律上の協議会として位置づけられました。しかし,その構成メンバーは,国側が,復興大臣,環境大臣,総務大臣,経済産業大臣等,福島県側が,知事,県議会議長,関係市町村長,関係経済団体の長等,などとされています。
「関係経済団体の長」までが協議会に招かれているにもかかわらず,ここにも住民代表は招かれていません。まるで住民は,福島県の復興・再生の邪魔をする問題人間集団であるかのごとき扱いです。この法律は,いったい誰のための,何のための法律なのでしょうか。
8.最後に
この法律は,福島第1原発事故に見舞われて危険な放射能汚染地域となってしまった福島県の弱みにつけ込み,復旧・復興を大義名分・口実に,原子力ムラ復活や放射線安全神話の確立と,公共事業や公共土建や企業税優遇などを通じた巨大利権王国の創設を狙った,一石数鳥のあまりにむごい悪法です。放射線安全神話の確立や,なし崩しの規制緩和,あるいは大盤振る舞いの巨額公共事業予算などは,原発事故の混乱と住民の弱みにつけ込む,一種の「ショック・ドクトリン」のようなものです。
被害者である住民はそっちのけにされ,命や健康も守られず,被害の賠償・補償もまともに受けられないまま,生活の再建もままならずに汚染地域に半ば強制的に定住させられることになってしまいます。このままでは,福島県は「原子力翼賛社会」の最先頭を走ることになってしまうでしょう。
もし,日本に良識と良心のかけらでも残っているのであれば,この法律は一から見直され,本来あるべき姿である被害者住民の完全救済と再建・再生,そしてこれ以上の被曝防止と健康対策=従って,汚染地域からの避難・移住と被曝医療に重点を置いたものに転換されるべきであると思います。
人々を復興・再生させずに,どうして福島県の復興・再生ができるのか。人の命と健康があってこその産業であり,企業であり,仕事ではないのか。国にも福島県にも,もう本末転倒は,ほどほどにしていただきたい。
草々
前略,原子力資料情報室一般会員の田中一郎です。
<別添PDFファイル:データ量の関係で添付できず>
・放射線の人体への影響(泉雅子:日本物理学会誌 2013年3月号)
別添PDFファイルは,日本物理学会誌に掲載された「放射線の人体への影響」という論文です。この論文には,ところどころ知らないことが書かれていて,興味深い部分もありましたが,全体を通して,この論文はいけません。この論文はICRPをベースとする原子力ムラのでっちあげ放射線被曝論の枠組みの中で,従来の議論を演繹的に,教科書的に展開し,その中に昨今の生物学的知見や原子力ムラ関連文献の記載をちりばめているだけのものにすぎません。
まさに私が,いや私たちが,これまで批判してきたニセモノの,有害な,被曝矮小化の論文だと思います。私は,こうした論文に代表される放射線被曝の考え方を一掃し,放射線被曝理論が文字通りの経験科学的な,放射線被曝の危険性を多面的に総合的にとらえなおすものに「改造」されなければならないと思っています。
(私は,論文類や図書を読む際には,いつも蛍光ペンを持ちながら,ところどころチェックしたりメモを入れたりして読んでいますが,この論文については,一面「×」だらけになってしまいました)
書かれていることに逐一反論していると長くなりますので,ごくごく簡単に,この論文に代表されるICRP型放射線被曝論の問題点を若干だけ列記しておきます。問題点は下記だけではなく,もっとたくさんあると思います。
(1)経験科学的な実証的裏付けがないにもかかわらず,議論が断定的である。これは「科学」ではない。
(2)政治的理由から事実を見ようとせず,原子力推進に不利な方向には目をそらす。その典型例は,確率的影響はガン・白血病だけだ,としている点。
(3)恒常的な低線量内部被曝の総合的なイメージができていないため,その危険性評価があまりに軽率。その典型例は線量率の見方であり,内部被曝の捉え方。
(4)戦後一貫して米軍・米国が情報統制と放射線被曝対応を支配する下で,広島・長崎の被爆者データが政治的に細工され操作され歪められてきたことはもはや「公知の事実」である。それを無批判に使うことは許されず,もちろん放射線影響研究所(RERF)のデータや結論なども,そのままでは使えない。(詳しくは,中川保雄著『(増補)放射線被曝の歴史』参照)
(5)ICRPや放射線影響研究所(RERF),あるいはUNSCEARなどの放射線被曝理論に対しては,多くの批判があるにもかかわらず,それに対して真摯に向き合おうとしない,批判されても馬耳東風である。およそ科学者の態度ではない。今回の論文もそのスタイルを踏襲している。
(6)論者の生物学的・医学的知見が1960年代のDNA発見直後のレベルで停滞したままである。エピジェネティクスやがん理論など,その後の目覚ましい生物学や医学の発展が無視され,旧態依然の遺伝子中心主義的セントラルドグマを素人だましのように振り回している。
(7)科学的方法論の使い方がご都合主義的で我田引水である。その例は,一方で10mSvのリスク評価のためには500万人規模の疫学調査が必要だなどと無理難題を吹っ掛けておきながら,他方では,飲食の残留放射能の安全性や規制値を導くとき
は,ごくわずかな食品検査や疫学データを使って平然と安全論をぶち上げている。
(8)全く根拠のないことを平気で断定する:たとえば,今般の子ども甲状腺ガンについて
早々
放射性ストロンチウムをなぜ調べないのか
(放射性セシウムの数百倍の危険性を警戒しよう)
「原子力資料情報室」会員
ちょぼちょぼ市民による政策提言の会(運営委員)
田中一郎
福島第1原発事故がもたらした放射能汚染は広範囲に広がり,深刻で危険な環境ができてしまいました。ホット・スポットを中心に,広く東日本に住む人々は,これからは様々な放射性物質(物質の原子核の違いに注目して「放射性核種」という言葉も使います:以下「放射性核種」を時折使用)がもたらす危険性に警戒をしなければいけませんし,また,食べもの・飲み物については,東日本だけでなく,全国の消費者・国民が汚染物を口にすることがないよう,早急に万全の検査体制が確立されなければなりません。
しかし,昨年の3.11福島第1原発事故以降,政府や原子力ムラの人間達が,これからも原発・原子力を従来通りに推進していきたいためか,この危険な放射能汚染や放射線による被曝の影響を,出来る限り小さく見せようと画策している様子がうかがえます。
たとえば,①「シーベルト」という内部被曝の実態を表さない被曝評価単位を用いて放射線被曝をわざと小さい数値にして見せたり,②経験科学的な実証で裏付けられていない「100ミリシーベルト/年以下なら心配いらない」などの「虚偽」の大宣伝を行ったり,③「放射線副読本」(文部科学省)のような片寄った考え方に基づく教科書をつくって全国の学校に押し付けたりと,首をかしげたくなるような行為が目立ちます。まさに,これまでの「原子力安全神話」に代わる「放射線(能)安全神話」の確立に邁進しているかのようです。
中でも問題なのは,危険な放射能汚染を放射性セシウムに限定していることです。たとえば,人々が住んでいる居住地域の環境放射能の測定は放射性セシウムだけしか行わない,放射性ヨウ素131は半減期が8日で短いから,もう消えてしまったので,あとは放射性セシウムだけを見ていればいい,飲食物は水産物も含めて放射性セシウムだけを検査していれば大丈夫,(十分に調べもしないで)放射性ストロンチウムは放射性セシウムの1/10以下だ,農地・牧草地の土壌汚染は放射性セシウムだけを見る,環境も食べ物も放射性セシウム以外はほとんど無視できる,厚生労働省は飲食物の残留放射性物質の規制を放射性セシウムのみに限定し,放射性ストロンチウムやプルトニウムやウランなどの危険な放射性物質についての規制を設けない等々,といった具合です。
しかし,福島第1原発事故で環境に放出された放射性核種は,放射性セシウムや放射性ヨウ素131だけではありません。放射性ヨウ素なら,半減期が約1,550万年の放射性ヨウ素129というのも放出されていますし,何よりも今回問題にする放射性ストロンチウムなどのベータ核種(ベータ線を出す放射性物質という意味:以下同じ)や,原爆の材料であるプルトニウムやウランなどのアルファ核種が無視・軽視されているのは大問題なのです。何故なら,それらはガンマ核種の放射性セシウムや放射性ヨウ素131などに比べて,人間の体内に入った場合には,格段に危険であるからです。
ガンマ核種に比較して,アルファ核種やベータ核種の環境放出量が少なかったとしても,それらが呼吸や飲食によって人間を含む生物の体内に入った場合には,特定の臓器や部位に集中・濃縮して蓄積し,核種によってはかなりの長期間にわたり,局所的・集中的・継続的に内部被曝をもたらすことになります。つまり,環境に出た量が放射性セシウムと比較して少ないということは,内部被曝を考えた場合には,何の慰めにもならないということです。そもそも福島第1原発事故においては,その放射性セシウム自体が,天文学的な量で環境に放出されており,それと比較して量が少ないなどといっても,それはそれで膨大な量の危険な放射能であることに変わりはありません。政府や原子力ムラの言う「放射性セシウム以外はたいした量ではない」などというのは,非常に軽率で危険な「ためにする判断」だと思われます。
更に,放射性セシウム以外の放射性物質について,飲食品への残留規制値を設けない,などという国は,日本以外にはないのではないでしょうか。欧米諸国のほとんどの国は,もちろん放射性セシウム以外の危険な放射性物質に着目して規制値を設けていますし,放射性ストロンチウムについては,チェルノブイリ原発事故後の旧ソ連諸国で,長い間,住民を苦しめた放射性物質の一つであることは周知の事実となっていて,人々は警戒度を高めています。
私がこのレポートで問題にしたいのは,上記のようなことであるにもかかわらず,政府や多くの自治体や産業界が,放射性セシウム以外の危険な放射性核種について,その調査(環境)や検査(飲食物)の体制をきちんととろうとしない,放射能の危険性を把握する最も基本的な行為である様々な放射性核種の測定体制を,いつまでたっても確立しようとしないことなのです。これはゆゆしき事態だと言えるでしょう。
そして,放射能の汚染状況をロクすっぽ調べも検査もせずに,環境の放射能は懸念するには及ばない,農林水産業を「食べて応援・買って支援」しよう,福島の農林水産業を再建するぞ,消費者は「風評被害」をもたらすようなことはするな,などと,マスコミを駆り立てて大合唱しています。軽率極まりないと思います。福島第1原発事故で深刻な被害を受けられた方々には,農林水産業の生産者も含めて,万全の賠償・補償・支援措置がなされ,その生活と経営の再建がなされなければなりません。しかし,現実には,その賠償・補償・支援措置がきわめて不十分なままに,高い濃度の汚染地域での農林水産業の再開が叫ばれているのです。こんなことは許されていいはずはないのです。
以下,ベータ核種の中でも放出量が多く,半減期も長く,危険度が放射性セシウムなどに比べて格段に高い放射性ストロンチウム90に着目して,簡単にその問題点を論じたいと思います(感覚的な表現で恐縮ですが,放射性ストロンチウムの危険性は,放射性セシウムと比較して,数百倍と言われています)。
放射性ストロンチウム90は,その化学的性質がカルシウムに似ており,体内に入れば骨や歯に濃縮して蓄積し,ガンや白血病の原因になります。半減期も長く,約29年です。水に溶けやすく,放射性セシウムのように,粘土質の土と化学反応して,土壌に長くとどまるということもありません(拡散しやすい)。そして,いったん体内に入ると容易なことでは体外に出てまいりません。一生の間,その取り込んだ放射性ストロンチウム90によって,深刻な内部被曝の被害を受け続けることになります。
更に,昨今耳にした話では,カルシウムが骨や歯だけでなく,人間や生物の体の重要な要素(たとえばホルモン)を形づくる際の重要元素の1つになっているため,そのカルシウムが放射性ストロンチウムに入れ替わった場合には,厄介なことになりかねない,というのです。まことに恐ろしい話です。
私は,放射性ストロンチウムの危険性から鑑みて,もっと検査・調査を徹底して行い,危険がないならないで,あるならあるで,その結果情報を広く国民に開示するべきだと思います。福島第1原発事故後にあって,放射性ストロンチウム等の最も警戒しなければならない放射性核種について,その検査・調査をまともにしようとしない,関連情報を行政が適時適切に示さない,あいもかわらず「安心して下さい」説教の繰り返し,というのは,あまりに国民を愚弄した態度だろうと思います。
(注)放射性ストロンチウムが遺伝子に影響
欧州放射線リスク委員会(ECRR)の科学事務局長であるクリス・バズビー氏の近著『封印された「放射能」の恐怖』(講談社)によれば,スウェーデンの科学者がネズミを使った実験で次のようなことを発見したと書かれています。放射性ストロンチウムがカルシウムの代替役を担いDNAに影響を与えるというものです
「ストロンチウム90を注射されたオスのネズミと交尾したメスの子宮内で,たくさんの胎児たちが死んだことがわかりました。一方,セシウム137を注射されたオスと交尾したメスの子宮内で死んだ胎児の数は,注射されていない参照集団と変わりがありませんでした。この結果は,ストロンチウム90がDNAと結合し,遺伝子影響を与えることを証明しており,1963年の「ネイチャー」という科学雑誌で発表されました。」
(この後のロシア人科学者のネズミの実験では)「ネズミを解剖した結果,子宮内での胎児の死は,遺伝的心臓欠陥で引き起こされたことがわかりました。つまり,ストロンチウム90は,胎児の心臓の発達にも影響を与えたのです。また,生き残った子供の間では,白血病の増加がみられました。これは,ストロンチウム90が母体にも子供にも影響を与えた結果と言えます」
飲食物の放射性ストロンチウム汚染に関する検査は直ちに行われなければいけませんし,環境の汚染状況についても,もっと測定点を大幅に増やし,また,屠殺後の家畜の骨・歯や,定点採取する魚介類の骨・貝殻・甲殻なども測定対象にして,継続的・計画的に(かつ「利益相反」を排除して)計測されるべきです。
仮に汚染されていなければ,それはたいへん幸いなことです。しかし,調査・検査をしてみなければ,汚染されているかどうかはわかりません(更に,福島第1原発からは放射能が今でも海を含む周辺環境へ出続けていることを忘れてはいけない)。しかも,調査・検査は当分の間は続けていかなければならないのです。何故なら,放射能の汚染は「動く」からです。
別添に下記のレポートを添付いたしますので,ご覧になってみてください。いずれも私の知人・友人等にEメールでお送りしたものを,今回,一部加筆修正したものです。インチキくさい放射線被曝の単位であります「シーベルト」に騙されてはいけないように,調査・検査もろくにしないで「安全」「安心」「大丈夫」などという軽率言論に惑わされないよう気をつけましょう。今の政府や原子力ムラは「嘘ツキ」の大名人だからです。
<結論:放射性ストロンチウム90を測れ!>
1. 政府は放射性ストロンチウムの測定ポイントを抜本的に増やし,放射性ストロンチウムによる環境汚染の状況をもっと詳細に調査せよ
2. 政府は,屠殺した家畜の骨や歯,福島県で野生化している家畜の骨や歯や内臓,東日本の太平洋側沿岸や河川・湖沼で計画的・継続的に魚介類・エビ・カニ等を採取して,その骨・貝殻・甲殻などに含まれる放射性ストロンチウムを詳細に検査せよ
3. 飲食物の放射性ストロンチウム検査体制を確立せよ。放射性ストロンチウムの検査手法は,既に新たな簡便手法が開発され,公認の手法として認可されているので,それを活用して,より短時間で簡便な方法で検査できるよう政府が率先してその導入を推進せよ
4. 子どもたちの乳歯,大人の抜歯などを計画的に収集・保存し,それらの放射性ストロンチウム検査ができるよう体制を創れ。学校での子どもたちの歯の検査に(抜けた歯の)「放射性ストロンチウム」検査をルーチンとして組み込め
5. 政府は,福島第1原発事故により環境に放出された全ての放射性核種について,その物理的(半減期,娘核種等)・化学的(物質としての有害毒性等)・生物学的(他内での挙動等)特性・特徴や,その放出された(推定)量を明らかにし,国民に説明せよ。自治体はそれを地域住民に周知徹底せよ。
6. 厚生労働省は,放射性銀やテルルなどのガンマ核種,放射性ストロンチウムやヨウ素129(半減期1,550万年)などのベータ核種や,プルトニウムやウランなどのアルファ核種など,放射性セシウム以外の危険な放射性物質について,飲食物に対して規制値を設け,きちんと汚染管理を行うこと
7. 上記1.~5.が確実に十分に実施されるよう,国及び全国の自治体に十分な予算を確保すること
<添付コンテンツ一覧>
1.放射性ストロンチウムとはどういう物質か(2012年11月29日)
2.食べもの・飲み物の放射性ストロンチウムをきちんと検査せよ(2012年11月29日)
3.放射性ストロンチウムの検査は既に簡便化手法が開発されている,子どもの乳歯は捨てないでストロンチウム検査に出しましょう(2012年11月29日)
4.お子様の抜けた乳歯を保存しよう
以 上
<参考1>
α線:大きな運動エネルギーをもつヘリウム原子核
β線:電子線
γ線:電磁波
X線:電磁波
<参考2>
「放射能」とは,原子核が崩壊して放射線を出す能力のこと,または放射性物質のことです。放射能の量的な大きさは「ベクレル」であらわします。「シーベルト」とは,その放射能によって人間が受けた「被曝」の単位です。
放射性ストロンチウムとはどういう物質か
危険で恐ろしい物質「放射性ストロンチウム」とはどういう物質か,以下,信頼のおける情報源であるNPO法人「原子力資料情報室」にある解説を引用しながら,簡単にコメントいたします。「原子力資料情報室」は,故高木仁三郎氏(世界的に著名な核化学者)らが創設した反原発・脱原発のNPO法人で,多くの科学者や市民が結集しています。皆さまも,是非,その会員になられるといいと思います。他では入手できない貴重な情報やイベント案内などが入手できます。
ところで,下記に紹介する放射性ストロンチウムの解説は,同NPO法人の理事で名古屋大学名誉教授の古川路明氏(放射化学)がお書きになられたものです。決して信頼が今一つ置けないネット情報などではありません。
以下,下記のサイトの記述に沿ってコメントしたします。
*原子力資料情報室「放射能ミニ知識:ストロンチウム-90(90Sr)
http://www.cnic.jp/modules/radioactivity/index.php/8.html
(以下「放射能ミニ知識」と略記)
1.崩壊方式
(「放射能ミニ知識」)「(ストロンチウム90は:田中)ベータ線を放出してイットリウム-90(90Y、2.67日)となり、イットリウム-90もベータ崩壊してジルコニウム-90(90Zr)となる。イットリウム-90は、核分裂直後はほとんど存在しないが、時間の経過とともに量が増す。1ヶ月後には放射平衡が成立して、ストロンチウム-90とイットリウム-90の放射能強度は等しくなる。」
(田中)ここで重要なことは,放射性ストロンチウムは放射線(ベータ線=高速度の電子線)を出しながら,半減期の短い別の放射性物質であるイットリウム-90になり,それが更に崩壊して別の物質=ジルコニウム-90 になるという点である。つまり,放射性ストロンチウム-90は,イットリウム-90という,更にもう一つの別の「放射性娘」を生みながら崩壊するということだ。
一般に,他の様々な放射性核種も,こうした娘核種が存在するものが多いので,崩壊が進めば大丈夫,と簡単には思い込まない方がいい。言うまでもないが,親核種と娘核種の両方の放射能をしっかりと把握しなければならない(物質によっては孫核種,ひ孫核種,それ以上まであるものもあるようだ)。
(ジルコニウム-90が放射性物質かどうかについては記述がないが,書いていないということは,どうも放射性物質ではない「安定元素」のようである)
2.化学的、生物学的性質
(「放射能ミニ知識」)「ストロンチウムはカルシウムと似た性質をもつ。化合物は水に溶けやすいものが多い。体内摂取されると、一部はすみやかに排泄されるが、かなりの部分は骨の無機質部分に取り込まれ、長く残留する。」
(田中)ここで重要なことは次の3点である。①カルシウムと似ている,②ストロンチウムの化合物は水に溶けやすいものが多い,③かなりの部分は骨の無機質部分に取り込まれ長く残留。
カルシウムに似ているのだから,牛乳・乳製品や家畜・魚介類の骨や歯などは要注意ということである。②水に溶けやすいので,土壌に長くとどまらず,地中深くに沈み込んで地下水と混じりあい,やがて湧水となって河川や湖沼などに出てくることが多い。放射性ストロンチウムは,我々人間や家畜などの生き物にとって「命の源」である「水」=「飲料水」を汚染してしまう可能性がある恐ろしい物質なのだ。
そして,それを飲むとどうなるか,③骨に集中してきて濃縮・蓄積し,容易なことでは体の外に出て行かない。出て行かないということは,骨にたまった放射性ストロンチウムが,周囲に強烈な放射線(ベータ線)を出し続け,それが近い将来の白血病や骨肉腫などのガン,あるいは他の様々な健康障害につながっていく。
また,昨今耳にした話では,カルシウムが骨や歯だけでなく,人間や生物の体の重要な要素(たとえばホルモン)を形づくる際の重要元素の1つになっているため,そのカルシウムが放射性ストロンチウムに入れ替わった場合には,厄介なことになりかねないそうだ。まことに恐ろしい話である・
ストロンチウムで汚染された地域では,およそ生き物は安心して棲息・居住することはできない。仮に,幸いにして放射性ストロンチウムが放射性セシウムの1/10くらいの量で広く薄く拡散して汚染していたとしても,それらは生物の体内に入るや否や,骨や歯などに集まってきて濃縮し,そこで長期間にわたり滞留して,危険極まりない放射線を出し続けるのである。放射性ストロンチウムの危険性が,放射性セシウムの数百倍と言われるゆえんはここにある。
3.生体に対する影響
(1)(「放射能ミニ知識」)「イットリウム-90は高エネルギーのベータ線(228万電子ボルト)を放出する。」
(田中)猛烈なエネルギーである(ベータ線なので,猛烈な勢いで「電子」という電気を帯びた粒子(野球のボール)が飛んでくるとイメージされたい)。人間や生物の体をつくる分子の結合エネルギーは高々数千電子ボルトぐらいが関の山なので,こんな猛烈な勢いで飛んでくる電気粒子にぶちあったら,ひとたまりもなく大打撲を受け,壊れたり,DNA=遺伝子がおかしくなったりしてしまうだろう。放射能や放射線の破壊力・健康への害悪の根源の1つは,この巨大なエネルギーにある(それだけではない:たとえば化学作用)。
(2)(「放射能ミニ知識」)「このベータ線は水中で10㎜まで届き、ストロンチウム-90はベータ線を放出する放射能としては健康影響が大きい。10,000ベクレルのストロンチウム-90を経口摂取した時の実効線量は0.28ミリシーベルトになり、10,000ベクレルのストロンチウム-89を経口摂取した時は0.026ミリシーベルトになる。二つの場合で線量が約10倍違うが、その原因はベータ線エネルギーと半減期の差による。」
(田中)「経口摂取」とは「食べる,飲む」ということ。ストロンチウム90(半減期29.1年)を10,000ベクレル食べると0.28mSV(実効線量),ストロンチウム89(半減期50.52日)なら0.026mSV(同上)ということなので,これがほんとうならストロンチウム90はストロンチウム89の10倍以上危ない,ということを意味している。
私は「シーベルト」という被曝単位や「実効線量」という概念は全く信用していないが,この「90が89の10倍」という「10倍」の部分だけは記憶しておきたいと思う。おかしなものでも定義が同じなら,その相対的な大きさの比較は,ある程度参考になるとみていいだろう。
しかし,ぱっと見ると小さく見えている「実効線量=シーベルト」の値は,原子力ムラがでっち上げたインチキ評価の可能性がある。「実効線量=シーベルト」の絶対値(0.28とか0.026など)は信用しない方がいい。言い換えれば,シーベルトの値が小さいからと言って,安全だ,安心だ,だいじょうぶだ,などとは思わない方がいいということである。むしろ逆に「実効線量=シーベルト」の値は,小さくなるように作ってある,と考えた方がいい(拙文「(増補版)シーベルトへの疑問」参照)
(3)(「放射能ミニ知識」)「外部被曝が大きくなる恐れがある。皮膚表面の1cm2に100万ベクレルが付着した時には、その近くで1日に100ミリシーベルト以上の被曝を受けると推定される。」
(田中)皮膚表面1cm2に100万ベクレルが付着した時は100mSV,これと上記の内部被曝1万ベクレル=0.28mSv(ストロンチウム90),0.026mSV(ストロンチウム89)(いずれも実効線量)を比べてみてほしい。内部被曝の1万ベクレルを,皮膚被曝の100万ベクレル単位に修正するために,100をかけても,0.28mSV×100=28mSV,0.026mSV×100=2.6mSVである。100mSV以上にはならない。なんか変である。
これはおそらく,上記(2)が「実効線量」(あるいは内部被曝)であるのに対して,(3)は「等価線量」(あるいは外部被曝)だからではないかと思われる。「等価線量」の方は,特定の直接被曝した臓器や部位の受けたダメージ(エネルギー吸収量で代替)を直接カウントするが,「実効線量」の方は,それを体全体に散らせて「平均化」してしまう。上記で言えば,1cm2=だいたい1gの人体(ここでは皮膚)が受けた放射線を,「実効線量」は「体全体の60kgで受け止めた」として被曝量を計算するのである。そんなことをしたら,体重60kg=60,000gの人は,わずか1gの体の「ある部分」に受けた被曝を1/60,000に(体全体で受け止めた場合の1gあたりのダメージ)薄めてしまうことになる。
この「実効線量」の考え方を,西尾正道氏((独)国立病院機構北海道がんセンター長)の表現をお借りして,もののたとえで言うと,目薬をわずか数gの瞳に垂らす点眼を,体全体で受け止めました,などと言う人がいるんですか,ということだ。漫才や冗談ならまだしも,こんなことを本気で言って,テコでも修正しない頑固者がわんさといる世界,それが原子力ムラの御用学者の世界で,彼らは真顔で「(体全体に散らして平均化した)実効線量が低ければ大丈夫」と言っている。おそらく彼らは,目薬をさす時に「体全体で受け止める」べく,しっかりと足腰を鍛えて待ち構えているのだろう。まるで奇人・変人のやることである。
(ちなみに古川路明名古屋大学名誉教授は原子力ムラの御用学者などではない。ここでの表現は「彼らに」あわせて,比較考量しやすいように,わざとこのように書かれていると考えていただきたい)
(4)環境被曝の経過
(「放射能ミニ知識」)「主な体内摂取の経路は牧草を経て牛乳に入る過程で、土壌中から野菜や穀物などに入ったものが体内に摂取されることもある。また、大気中に放出された時には葉菜の表面への沈着が問題になる。」
(田中)放射性ストロンチウムが人間の体に入り込んでくる経路は,圧倒的に食べ物・飲み物である。野菜や穀物に,水に溶けた放射性ストロンチウムが取り込まれ,それを食べた人間が消化器系臓器からこの放射性ストロンチウムを吸収して骨や歯にためる,あるいは,畜産品や乳製品,魚介類などの動物性食品経由で入ってくるというパターンだ。
だからこそ,飲食物の放射性ストロンチウムをしっかりと計測せよ,規制値もちゃんと定めよ,と申し上げている。およそ,この危険な放射性ストロンチウムについて,飲食の規制値を定めていないのは,世界広しといえども日本ぐらいなものである。それはまるで,計測し規制するのを恐れているかのごとくである。
(5)核兵器実験の影響
(「放射能ミニ知識」)「大気圏内核兵器実験では、すべての放射能が大気中に放出され、地球上の広い地域に降下するので、全人類に放射線影響がおよぶといってもよい。アメリカと旧ソ連による大規模な大気圏内核兵器実験の影響で1960年代前半に大気中濃度が上昇し、食品の汚染がいちじるしかった。当時の日本人は1日に約1ベクレルのストロンチウム-90を取り込んでいたと推定されている。」
(田中)今頃,こんなことを詳細に知ってももう遅い。何故,当時の政府は,放射性ストロンチウムの計測をきちんとしなかったのだろうか(特に飲食品)。環境や土壌に薄く広く広がって汚染している放射性ストロンチウムを計測するだけでなく,それらが家畜や魚介類,海藻を含む生物群にどれくらいとりこまれ,どれくらい濃縮・蓄積していたかを調べていなければいけなかったはずである。そんなことは「猿でもわかるTPP」ならぬ「猿でもわかるストロンチウム」ではないか。
(6)核兵器実験の影響(続き)
(「放射能ミニ知識」)「その後は、地下核実験がおこなわれている。この時に、大部分の放射能が地下に残るが、後に地下水の作用で外に漏れることも考えられ、地下核実験はどこでもできるものではない。また、クリプトンやキセノンのように気体である放射能は外に漏れる恐れがある。核爆発の瞬間にはクリプトン-89(3.2分)、クリプトン-90(32秒)が崩壊を繰り返してストロンチウム-89、ストロンチウム-90になるので、放射性ストロンチウムは他の放射能より放出されやすいと考えられる。」
(田中)ええ!!,不活性ガスなので何の心配もいらない,などと御用学者達が説明してきたクリプトンが,実は崩壊が進むと,放射性ストロンチウムに「変身」するのですか? どええええええ・・・・・・・・。
(7)原発事故による放出
(「放射能ミニ知識」)「1986年4月26日に起こった旧ソ連(現、ウクライナ)のチェルノブイリ原発事故では、・・・・・・放出量が(放射性セシウムより:田中)少ないとはいえ現在でもその存在は認められ、事故地点の近くでは河川水などのストロンチウム-90による汚染が知られている。」
(田中)チェルノブイリ原発事故では,今でも河川水の汚染が問題になっているというのに,何故,日本は放射性ストロンチウムに対する警戒をちゃんとしないのだろうか。「利益相反」の環境汚染測定組織=文部科学省が行った,いかにもいい加減で信用し難い放射性ストロンチウム汚染調査を,ちょこちょことやって,それで「ストロンチウム汚染は極めて微量」などと「一人猿芝居」をしている。第三者監視の下で,放射性ストロンチウムの環境汚染状況調査を徹底的に行う必要がある。急がないと手遅れになる。
(8)再処理工場からの放出
(「放射能ミニ知識」)「再処理では、ストロンチウム-90のみが問題となる。ストロンチウムは揮発性化合物をつくりにくく、排気中には含まれない。再処理の工程を考えると排水中の放出量もゼロに近くできるはずである。実際はそうなっていない。」
「長期的には、長寿命のアメリシウム-241(241Am、433年)の存在が問題になるが、処分開始から1,000年ほどの間はストロンチウム-90とセシウム-137に注意をはらわねばならない」
(田中)全く冗談じゃない。こんな状態で,まだ青森県六ケ所村の再処理工場の稼働を続けると言うのか。「処分開始から1,000年ほどの間」なんて,いったい誰が責任を持つのか。未来世代に対する犯罪行為ではないか。
(9)放射能の測定
(「放射能ミニ知識」)「水試料では、ストロンチウムを分離し、1週間以上経過後に生まれてくるイットリウム-90を分離し、ベータ線を測定するのがふつうの方法である。生物試料では、有機物を分解して溶液にした後に、同様の操作をおこなう。放射線測定には液体シンシレーション計数装置またはバックグラウンドの低いガイガー計数装置を用いる。体内にある量を知るには、排泄物中の放射能を測るバイオアッセイを用いる。」
(田中)放射性ストロンチウムは,他の放射性核種などとの団子状態になった危険なパーティクル状の形態でサンプル採取されるが,その放射性ストロンチウムのベータ線を測定するのには,他の放射性核種の出すベータ線と区別がつかないので,一旦,化学処理して,放射性ストロンチウムだけを純粋にとりだす必要があることは薄々知っていた。
しかし,娘核種のイットリウム-90までも分離してしまうことは意外だ。しかも,イットリウム-90の出すベータ線のエネルギーは,放射性ストロンチウム-90の出すベータ線のエネルギーの約5倍も大きく,生態に及ぼす影響もそれだけ深刻だ。これでは放射性ストロンチウムの一族郎党全体の放射線が量的につかめず,かえって過小評価になるのではないか。
以上,「放射性ストロンチウムとはどういう物質か」を見てきたが,現下日本では,チェルノブイリ原発事故で旧ソ連諸国を襲いつつある晩発性の放射線被曝による健康障害や,放射性ストロンチウムを食べもの経由で摂取してしまう危険性が,十分には顧みられていない。目先のことだけを考えて軽率な行為を繰り返していると,やがて,とんでもないしっぺ返しを受けることになることを最後に申し上げておきたい。
以 上
食べもの・飲み物の
放射性ストロンチウムをきちんと検査せよ
放射性ストロンチウムの汚染が非常に気になります。ストロンチウムの化学的性質がカルシウムに似ているのですから,カルシウムを多めに含んでいると思われる食物群,すなわち牛乳・乳製品,魚貝類や海藻類などの水産物,畜肉や畜産品,家畜の骨を使ったもの(例:豚骨スープ,鶏がらスープ,カルビ焼肉やテールスープ,スペアリブ類,ゼラチン等々)については,当分の間は定期的で精力的な放射性ストロンチウム検査が行われなければなりません。しかし,下記の日本保健物理学会のHPで説明されているように,福島第1原発事故後においては,放射性ストロンチウムの食品や飲料汚染の実態調査や検査が,屁理屈を理由にしてほとんど行われていないのです。
また,日本では驚くべきことに,この危険極まりない放射性物質である放射性ストロンチウムについて,飲食品の残留規制値がないのです。放射性テルルなどのガンマ核種とともに,放射性セシウムの1/10程度で見ておけばいいとして,「放射性セシウムの規制値に包含されている」と説明されています。規制値がないのですから,検査もされません。その結果,放射性ストロンチウムの飲食汚染の状況が全く分からず,危険な状態に陥っています。
(政府は,放射性ストロンチウムの検査の時の化学処理が大変であること・時間がかかることを,規制値なし・検査なしの理由に挙げていますが,これも嘘八百です。昨今では,放射性ストロンチウム検査の手法は新しいものが開発され,ずいぶんと簡便化され時間短縮がなされています。そしてその手法は文部科学省も公式に認めています。使える検査手法や技術があるのに使おうとしていないのが実態です)
*日本保健物理学会HP「牛乳のストロンチウム測定について - 専門家が答える
暮らしの放射線Q&A」
私は,放射性ストロンチウムの危険性から鑑みて,もっと検査・調査を徹底して行い,危険がないならないで,あるならあるで,その結果情報を広く国民に開示すべきだと思います。福島第1原発事故後にあって,放射性ストロンチウム等の最も警戒しなければならない放射性核種について,その検査・調査をまともにしようとしない,関連情報を行政が適時適切に示さない,あいもかわらず「安心して下さい」説教の垂れ流し状態,というのは,あまりに国民を愚弄した態度だろうと思います。
飲食物の放射性ストロンチウム汚染に関する検査は直ちに行われなければいけません。仮に汚染されていなければ,それはたいへん幸いなことです。しかし,検査してみなければ,しかも検査を当分の間は続けなければ,汚染されているかどうかはわかりません(福島第1原発からは放射能が今でも海を含む周辺環境へ出続けていることを忘れてはいけないのです)。
下記に,行政がなすべき検査・調査の具体的取り組み事項を列記しておきます。
(1) 飲食品に残留する危険な放射性ストロンチウムについて厳しい規制値を定め,検査体制を確立すること,検査対象を大幅に増やし,検査条件や検査手法などとともにその結果を政府のHPに発表すること,検査における「利益相反」を徹底して排除し,透明な体制の下で検査を行うことで,検査結果への不当なバイアスを排除すること
(2) 牛乳(生乳)について,牧場ごとに,放射性ストロンチウムの検査を定期的に行うこと。また,市販されている国産乳製品についても,アットランダムに抽出して,継続的に放射性ストロンチウムの検査を行うこと
(3) 屠畜場で東日本産の家畜の骨や歯を回収し,放射性ストロンチウムの検査を定期的・継続的に行うこと
(4) 福島県内で野生化している家畜やペット等の動物について,無為に屠殺処分して死骸を捨てるのではなく,骨や歯について,放射性ストロンチウムの検査を必ず行うこと(また,各臓器も貴重な汚染検証素材なので,すべて放射能汚染状況を調べること)
(5) 福島第1原発周辺の地下水並びに海水について,放射性ストロンチウムの検査を定期的・継続的に行うこと
(6) 北は青森,南は神奈川くらいまでの太平洋側沿岸や河川・湖沼で採取される水産物・水産生物で,ストロンチウムを蓄積している可能性のあるもの(例:魚の骨,貝殻,エビやカニの甲殻,藻類など)を採取し,放射性ストロンチウムの検査を定期的・継続的に行うこと
(7) 東日本,特に福島県を含むホット・スポットに住む子どもたちの乳歯をあつめ,放射性ストロンチウムの検査を定期的・継続的に行うこと。この乳歯のストロンチウム検査を学校の健康管理のルーチンに入れること。(千葉県松戸市の医療法人社団きょうどうの理事長・藤野健正先生にご尽力で,子どもの歯の測定の取組が始まっています)
<参 考>
下記は,「食政策センター・ビジョン21」安田節子氏の講演会レジメからの抜粋である。ここから一つ言えることは,海藻を含む様々な水産物について,放射性ストロンチウムの検査を実施するのが,海洋汚染モニタリング・水産物安全モニタリングとしては不可欠である,ということです(加えて放射性セシウム以外の危険な放射性物質についても検査が必要である:たとえば放射性銀,テルル,トリチウム,放射性ヨウ素129等)。
しかし,政府や自治体は,そうした水産物の安全確保のための取組には消極的な姿勢を続けています。「(放射性ストロンチウムが)出たら困る」と考えているとしか思えません。しかし,出たらもっと困るのは,それを食べる我々消費者・国民の方なのです。
(放射性ストロンチウムの生物濃縮係数)
魚の身 0.4
魚の骨 25
イカタコ 0.3
二枚貝の身 0.4
貝殻 130
ひじき、こんぶ、わかめ、もずく 17
要注意! イカから放射性銀検出、米国クロマグロからセシウム検出
(「食政策センター・ビジョン21」安田節子氏のレジメより)
*「食政策センター・ビジョン21」HP
http://www.yasudasetsuko.com/vision21/index.html
*安田節子ドットコム
以 上
放射性ストロンチウムの検出検査方法
放射性ストロンチウムの検出検査に関して,次のような情報を入手しています。同位体研究所のHP(下記URL)の説明によりますと,米国のスリーエム社が開発した固相抽出ディスク(エムポア・ディスク)を使えば,ストロンチウム検査にこれまで3週間以上の時間と手間がかかっていたものが,1週間で可能となるとされています。そしてこの方法は,米エネルギー省や日本の文部科学省が,既にストロンチウム測定法として認めているということですから,これを普及させれば,ストロンチウム測定期間の簡素化と短縮につながることになります。
これは非常に重要な情報であるように思います。政府が繰り返し繰り返し言い訳していた「ストロンチウムは検査に手間暇・時間がかかるから,頻繁には情報提供できない」という,どうも嘘臭かった根拠が消えてなくなることになります。政府や自治体などは,こうした新たに開発された検査手法を使い,放射性ストロンチウムを含むベータ核種やアルファ核種の放射能汚染検査(環境及び飲食品)をもっと大規模に行っていかねばなりません。
*同位体研究所 放射性ストロンチウムの抽出の新技術・3M社製固相抽出ディスク
http://www.radio-isotope.jp/Analysis/analyse_Sr90.html
*同位体研究所
http://www.radio-isotope.jp/
(以下,上記の同位体研究所HPの説明を抜粋)
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
<放射性ストロンチウムの抽出の新技術・3M社製固相抽出ディスク>
放射性ストロンチウムの測定には、上記のように検体より煩雑な手順で放射性ストロンチウムを分離する事が必要です。
従来はイオン交換法等によりセシウムを抽出し、不純物を除去した上で測定を行います。この処理工程は10段階以上で3週間以上を要します。
これに対して固相抽出法という新たな手法が開発されています。この技術は、米国スリーエム社が開発したエムポア・ディスクという特殊なフィルターを使うもので、溶液中のストロンチウムをディスクに直接吸着させる事で、迅速に放射性ストロンチウムの回収が可能となります。すでに文部科学省、米国エネルギー省等で放射性ストロンチウム測定法として認められており、1週間程度で測定ができる画期的なものです。
水、米、牛肉、飼料、土壌に含まれる放射性ストロンチウム(Sr90/89)を精度良く測定が可能となります。同位体研究所は、このディスクを用いて放射性ストロンチウムの測定試験を行っています。
固相ディスクは、それぞれ個別のパッケージに保存されており、このディスクを抽出用の器具にセットし、吸引しながら検体から酸によりストロンチウムを抽出した上、週出液を通過させると、ディスクに放射性ストロンチウムが吸着されます。その後ディスクを乾燥させ、β線測定装置で測定すれば放射性ストロンチウムが精度良く測定できます。放射性ストロンチウムは、水に溶けやすく植物などにも吸収されやすい為、迅速な検査が必要となっています。固相ディスクによる測定は、放射性ストロンチウムの測定工程を大幅に簡素化させるもので、幅広く放射性ストロンチウム測定の提供を可能とします。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
(引用は以上)
放射性ストロンチウムの危険性については,かねてよりお伝えしておりますが,特に子どもの放射性ストロンチウムによる内部被曝が懸念されます。政府や日本の医療界がまともな対応・対策をとらない中で,我々一般市民・国民は自己防衛を余儀なくされていますが,昨今では下記のような,子どもの乳歯を検査する試みが始まっています。ご参考までに。
以 上(2013年1月25日)
拙速極まる住民無視の「原子力災害対策指針」に抗議する
「原子力資料情報室」会員
ちょぼちょぼ市民による政策提言の会(運営委員)
田中一郎(ichirouchan@withe.ne.jp)
去る2013年1月30日の原子力規制委員会で、避難基準(事故直後の数時間は毎時500μSv,その後の1週間程度が毎時20μSv)を含む「原子力災害対策指針(パブコメ案)」(以下「防災指針(案)」)が了承され、2月12日までパブリック・コメントに付された。この「防災指針(案)」は,下記に見るように,その内容のみならず,策定の手続き・過程にも多くの問題があり,まさに住民の命と安全を無視・軽視した看過しがたいものとなっている。ついては,今般の「防災指針(案)」に対して強く抗議するとともに,その白紙撤回を要求し,改めて原発・核燃料施設過酷事故の際に非常に危険な状態下に置かれる地域住民を最重視した「防災指針」が,抜本見直しの上で策定されることを強く望むものである。
1.「防災指針(案)」は原発・核燃料施設再稼働のためではなく,地域住民の命と安全を守るために策定されるべきである。
福島第1原発事故を引き起こした我が国の原発・核燃料施設については,その安全性を抜本的に見直すとともに,経済性をも含めた必要性や,使用済み核燃料や放射能汚染という将来世代への大きなツケ残さないという意味での倫理性などを十分に勘案・再考した上で,今後の原発・核燃料施設のあり方が打ち出されるべきである。
しかしながら,今回の原子力規制委員会による「防災指針(案)」は,アプリオリに原発・核燃料施設の早期再稼働を前提に策定されており,国民としてとても容認できるものではない。福島第1原発事故により悲惨な状況が生み出され,今もなお4号機の使用済み核燃料プールを含む同原発の危険な状態が続いている中にあっては,まず「防災指針(案)」は,全国各地の使用済み核燃料を含む原子力施設の現状のまま(停止状態)での安全確保が優先されるべきである。また,安全性を確保しないままに再稼働された大飯原発3・4号機は直ちに停止されるべきことは申し上げるまでもない。
「防災指針(案)」は,まず上記を前提にしたものが第一弾として,住民本位の形で策定され,現状のままでは危険な使用済み核燃料の安全対策(青森県の再処理工場を含む)がなされたのちに,第二弾として,十分な住民の安全確保を前提に検討されるべきものと考える。ただその際,そもそもこうした大型の商業用原発・核燃料施設が過酷事故を引き起こした場合に,日本のような狭い国土ではたして多数の住民避難が安全に実現できるのかどうか,「防災指針」に基づき策定される「防災計画」が,はたして実際に有効に機能するのかどうかも徹底して検証・確認されなければならない。
そしてもし,その結果が住民の命と健康を守りきれないということであれば,そもそもこの日本において原発・核燃料施設の稼働は許されないことを付記しておく。
2.「防災指針(案)」の策定プロセスの不適正に抗議する
今回の「防災指針」は,まず,その策定プロセスに次のような瑕疵・欠陥・問題点がある。早急に策定手続きを正常化した上で,今回の(案)を白紙撤回し,上記1.で申し上げた形で再策定されたい。
(1)今回の「防災計画(案)」は,2012年9月26日に原子力規制委員会で検討が開始され,わずか1カ月で「指針」の枠組みを決め,更にそれからわずか3カ月で「防災指針(案)」が策定されている。あまりに拙速と言わざるを得ない。
(2)更に,今回の「防災計画(案)」については,原発・核燃料施設が立地している地元住民はおろか,地元自治体との協議や意見聴取さえ十分に行われていない。とりわけ許しがたいのは,原発事故で大変な状態に置かれ,政府の不適切な事故対応のために無用の被曝を余儀なくされた福島県をはじめ原発周辺地域の住民の方々の意見や経験の聴取さえ行われていないことである。誰のための,何のための「防災指針(案)」なのかを問わざるを得ない。
(3)「防災指針(案)」策定が,原子力規制委員会が任命した限られた有識者によってのみ検討され決定されている。原子力推進や原発・核燃料施設のあり方に厳しい見方をしてきた方々をはじめ,多くの有識者の考え方を聞き,より良きものにして行くべきものが,原子力推進を肯定的に考える一握りの人達の手で拙速に作られている。
(4)パブリック・コメントの期間をもっと長くとることに加え,パブリック・コメントに先立ち,全国各地の原発・核燃料施設立地その他において説明会・意見交換会・公聴会などが実施されるべきである。ただ,文章だけをHPに掲載して事足れりとする姿勢は,原子力規制委員会・規制庁として,説明責任を欠如させている。
3.「防災指針(案)」では最も重視すべき住民の命と健康が軽視・無視されるなど,問題だらけの内容となっており,白紙撤回を求める。
(1)「防災指針(案)」における緊急事態時の対応があまりにスローであること。「初期対応段階における避難等の予防的防護措置を確実かつ迅速に開始するための判断基準」として定められるという「緊急時活動レベル(EAL)」では,過酷事故原因が発生した段階から,ただちに原発周辺のかなり広い範囲で避難が開始されるべきである。
(2)一方,「環境への放射性物質の放出後、主に確率的影響の発生を低減するための防護措置を実施する際の判断基準」とされる「運用上の介入レベル(OIL)」については,住民の避難基準を「事故直後の数時間は空間線量で毎時500μSv(内部被曝・外部被爆合計で50mSv/週),その後の1週間程度が空間線量で毎時20μSv(内部被曝・外部被爆合計で20mSv/年)」とする案が原子力規制庁より提出されている。しかし,この線量基準はあまりに高すぎて,およそ住民の命と安全を守るものとは言い難い(500μSv/時は年率では4.38Svであり,致死量の被曝線量である)。これについて,IAEAと比較すれば1/2の線量水準で厳しくなっている,などとする解説は,そもそも原子力推進機関であるIAEAが提言するとんでもない高線量基準と比較しての「ためにする」議論にすぎず無意味である。
(3)上記基準は,原発周辺における放射能モニタリング実測値により判断する基準とされ,SPEEDIのような汚染拡散予想に基づくものではない。しかし,実際の原発・核燃料施設立地地域における環境放射能のモニタリング体制は脆弱であり,過酷事故発生時には機能しない可能性が高い。実測値を使う体制ができていない(また,今般の「防災指針(案)」では,SPEEDIの利用方針が不明確である)。
(4)立地自治体で「防災計画」が策定される範囲を決める根拠の一つとなった過酷事故時の放射能拡散シミュレーションが細工され,放射能拡散の範囲が小さく見せられている。具体的には,①地形を考慮していない(すべて平地と仮定),②風の扱いが単純で非現実的(一方向で変わらない,最大風速が使われるべきなのに平均風速が使われている他),③内部被曝は考慮外,④原発から放出される放射能の量を福島第1原発事故並みの(推定)量とする(この次の過酷事故はそれ以上の大事故となる可能性もある),⑤「97%値方式」という,台風や異常気象の時などの最も放射能が拡散される過酷な気象条件の上位3%分を除外して,残り97%の範囲内で考える,というおかしなやり方をしている,点などが指摘できる。この過酷事故時のシミュレーション結果は「防災指針(案)」策定関係資料から除外せよ。
(5)「緊急時防護措置を準備する区域(UPZ)」が「原子力施設から概ね30kmを目安とする」とされたが,これは福島第1原発事故時の経験を踏まえればあまりにも狭すぎる範囲指定である。年間20mSvを超える被曝を余儀なくされる飯館村で原発より40~50kmのエリアにあり,更に福島市内のホット・スポットなどでは60kmにも及ぶ。福島第1原発事故の経験を踏まえ,住民の命と健康を重視して,十分に広い範囲が指定されるべきである。
(6)過酷事故時には最も最優先で保護・避難させられるべき妊婦や乳幼児,子どもや若者などへの配慮に欠けている。原子力規制庁は「他の避難者に先駆けて対応」などとしているが,具体性に欠け,この問題を重要視する姿勢が感じられない。早急にこうした世代への特別対策を打ち出せ。
(7)安定ヨウ素剤を事前配布する範囲が,わずかに原発・核燃料施設の周辺5kmにとどまった(PAZ:予防的防護措置準備区域)。福島第1原発やチェルノブイリ原発の事故の経験からみて,「緊急時防護措置準備区域」(UPZ:30km圏内)を超えて,半径50~80kmぐらいの範囲で「PPA」と呼ばれる「プルーム通過時の被曝を避ける防護措置区域」を設け,その地域住民には前もって安定ヨウ素剤を配布し,もしもの時にはそれを服用させて甲状腺被曝を回避させることが必要である。
(8)「防災指針」に基づく「防災計画」があっても,実際には過酷事故時には地域住民は逃げられない可能性が高い地域が多い。①過酷事故時の大量避難時には道路が大渋滞する,②その道路も地震の大きな揺れを受け,波打ったり破損したりして車が通れるかどうかはわからない,③離島には十分な運搬船はなく,半島や川に挟まれた地域(例:浜岡原発,大井川と天竜川)では「橋」が落ちる,④トンネルの天井が落ちる,⑤道路のそばのがけが崩れる,⑥道路が水につかる等々の可能性がある。道路一つとっても,安全で迅速な避難は怪しい限りである。
更に,ガソリンがない,バスや車がない,雪で動けない,老人や身障者・重症患者がいて移動は容易ではない・介護看護できない,食べ物・飲み物が足りない,逃げる先がない,情報が来ない等々。つまり,今進められているような「防災指針」「防災計画」は,まさに「絵にかいた餅」となりかねない危うさがあり,その実現性・実効性について十分な検証や確認が必要である。
(そもそもこうした事態の発生が予測される理由の一つに,現実の原発・核燃料施設が別に定められている「立地審査指針」に適合していないことが挙げられる。全ての原発・核燃料施設の「立地審査指針」にてらしての見直しも行われるべきである)
(9)立地自治体によっては,国が避難の基準を50mSv/週だとして検討しているにもかかわらず,IAEAと同様の100mSv/週で「防災計画」を立ててしまったところもあり,また,多くの自治体で,「防災計画」策定の人的体制が極めて不十分なことから,その策定そのものを外部のコンサルタントに丸投げするような動きもみられている。「防災指針」に基づいて策定される「防災計画」が,単なる書きものに終わらぬよう,実効性・確実性のあるものとするための施策を充実する必要がある。そして,もしそれが困難な場合には原発・核燃料施設の稼働そのものを断念すべきである。
(10)最後に,過酷事故時の緊急被ばく医療体制,オフサイトセンターのあり方,あるいは自治体等の防災業務従事者の被曝回避対策等にも不十分な点が多くみられる。
以 上(2013年2月12日)
原子力規制委員会・規制庁による
(原発)「新安全基準骨子(案)」に抗議する
(こんなものでは原発の安全は確保できない)
「原子力資料情報室」会員
ちょぼちょぼ市民による政策提言の会(運営委員)
田中一郎(ichirouchan@withe.ne.jp)
去る2013年1月30日に原子力規制委員会は,(発電用軽水型原子炉施設に係る)設計基準、シビアアクシデント(過酷事故)対策、地震や津波対策を3本柱とする「新安全基準骨子(案)」(以下,「新安全基準(案)」)を決定し,パブリック・コメントに付した。「新安全基準(案)」は一見すると,「ベント・フィルター装着」「防潮堤のかさ上げ」「第2中央制御室の設置」「活断層上での原子炉建設禁止の明確化」「機能喪失対策や緊急冷却用屋外装置の用意」など,従来よりも厳しい基準が用意されたかに見える。しかし,その内実は,基準自体が必ずしも原発の安全性確保を徹底するものではなく,従来発想にとらわれて,原子炉事故を甘く見ている様子がうかがえる他,あちこちで抜け穴だらけの不十分なものとなっており,およそ,かようなものでは原発の安全性は担保されるべくもないものと判断される。
以下,この「新安全基準(案)」の問題点のうち代表的なものをいくつか列記し,まずはその白紙撤回を求める。そして,二度と原発のシビアアクシデントを引き起こさないための原子炉設計の抜本見直しを含む徹底した安全基準策定に向け,根本的なところからの再検討を要求する。
1.「新安全基準(案)」策定のプロセスの不適正に抗議する
「新安全基準(案)」の策定プロセスには下記のような問題があり看過できない。今般策定された「新安全基準(案)」はいったん撤回し,公正でバランスのとれた委員人選に基づく検討委員会を再度設置し,原発の安全性確保のための検討を,もっと根本的なところからやり直しすることが必要である。
(1)「新安全基準(案)」の検討があまりに短期間に拙速・性急に行われており,にわか作りの場当たり的・小手先対処の印象を受けるものが多い。もっと時間をかけて,広く国民の意見を聞くべきである。こうした原子力規制委員会・規制庁の動きは,原発・核燃料施設再稼働を最優先し,あらかじめ定めたスケジュールに従って,形ばかりの「新安全基準」を強引に策定せんとする本末転倒の行為であると言える。
(2)電力業界や原子力業界などから金品・便宜等の提供を受けたり,同業界に籍を置いたりしていた「利益相反」の立場にある者が検討委員会の委員となり,規制される側の電力業界等に有利な結論へと誘導してきた経緯がある。こうしたことは許されないことである。当該委員を更迭せよ。
(3)原子力関係者だけで構成された検討会で「新安全基準(案)」を検討するのではなく,原子力推進・原発に厳しい見方をしてきた人達を含む独立した有識者を検討委員に加え,その考え方や見方を広く取り入れ,より実効性の高い厳しい内容の安全基準を策定すべきである。
(4)福島第1原発事故の原因究明が先である。そのためには,国会事故調で事故原因の調査・報告を行ったキーマンから,究明された事項や未解明の点などをしっかりと引き継ぎ,十分なヒヤリングや現場実態調査などを行うべきである。しかし,「新安全基準(案)」の検討委員会は,規制される側の事業者からのヒヤリングを行うのみで,福島第1原発事故の原因究明や国会事故調からのヒヤリングには消極的である。(例えば,明確な実証的根拠なく福島第1原発事故で地震の揺れは事故とは無関係と決めつけることは許されない)
(5)更に,今般明らかになった東京電力による国会事故調による福島第1原発調査への妨害行為には,福島第1原発の地震の揺れによる原発施設の破損(いわゆるLOCA)を隠蔽しようとした疑いがある。特に,1号機の非常用復水器(IC)の破損については,その証拠と思われるいくつかの事実が指摘されており,まずはその究明が急がれなくてはならない(この1号機のICは耐震性に4倍以上の余裕があるとされてきたにもかかわらず破損した疑いがある)。また,2号機や3号機についても,非常用炉心冷却装置(ECCS)や冷却用施設・配管類について,地震の揺れの影響の有無が確認されるべきである。更には,福島第1原発だけでなく,東通原発や核燃料サイクル施設,女川,福島第2,東海など,今回の東日本大震災によって被災した全ての原発・核燃料施設の徹底した実態調査が「新安全基準」策定の前に強く望まれるところである。
(6)パブリック・コメントの期間をもっと長くとることに加え,パブリック・コメントに先立ち,全国各地において説明会・意見交換会・公聴会などが実施されるべきである。ただ,文章だけをHPに掲載して事足れりとする姿勢は,原子力規制委員会・規制庁として,説明責任を欠如させている。
2.「新安全基準(案)」は抜け穴だらけの不十分なものであり全面的に見直しが必要である。
原子力規制委員会によって公表されたものを新「安全基準」とするには多くの瑕疵や欠陥があり,また欠落事項も多い。下記に列記したものはその代表的な事項にすぎず,「新安全基準(案)」は書ききれないほどの安全確保上の問題点を含んでいる。撤回の上,抜本的な見直しが必要である。
(1)福島第1原発事故からの教訓とも言うべきことも含め,①非常用炉心冷却装置(ECCS)や復水器,その他配管類を含む原子炉冷却用装置の耐震性やシビアアクシデント時の機能について,再度,その安全確保のための堅確性を見直す必要があること,②福島第1原発事故を引き起こしたマークⅠ型沸騰水型原子炉は欠陥原子炉として指定し,その使用を取りやめるべき(原子炉の大きさがあまりに小さい等),また,その他の型の沸騰水型原子炉については,制御棒を原子炉の下から重力に逆らい水圧を用いて入れることの危険性の再評価・対策も必要,③水素爆発防止と放射能封じ込めの二律背反の解決方法,④外部電源の複数化と耐震性・対津波対策の抜本的強化,⑤各種制御装置・モニター機器類の堅確性や耐久性と,緊急時対策支援システム(ERSS)の故障防止や原発敷地内外の放射能モニタリング装置の見直しによる事故時の故障防止等の事項について,もっと徹底した分析と安全上の改善を行うべきである。
(2)福島第1原発事故を引き起こした沸騰水型とは異なる加圧水型の原子炉施設については,更に加えて,①蒸気発生器の耐震性,②格納容器内での水素爆発防止対策とその有効性の検証(窒素注入の検討等),③放射能除去フィルター付ドライベント装置の即時設置義務化,④地震時における制御棒挿入の堅確性,⑤スリーマイル島原発事故教訓の再確認,などが必要かと思われる。格納容器が大きいからという理由だけで,上記②や③を省略・あるいは先送りした状態での原発稼働は危険極まりない。
(3)原発の老朽化対応を強化すべきである。原発寿命の40年の例外を認めないことの他に,圧力容器の脆性遷移温度を安全サイドに立って厳しく規制するとともに,配管類や蒸気発生器・復水器等の老朽化によるひび割れその他の劣化についても,その点検方法も含め厳格な基準が求められている。
(4)ベント・フィルター装置は,新聞情報が伝えるところによれば,単に原子炉や格納容器内の放射能汚染気体を水に通すだけのものであり,放射能除去が十分ではないようだ。まず,ベント・フィルターの容量や性能について厳しい規制を設ける他,何重もの厳重な追加のフィルター等を併設し,環境へ放出される放射能を極限値まで引き下げることが必要である。
また,そもそも論として,ベント実施を前提とした原子炉設計は,安全確保の観点より許されないものと考える。放射能が万が一にも格納容器より大量に環境に出るなどということは許されないことであり,ベント・フィルターがあるから,これからはベントをすることが当然であるかのごとき考え方は本末転倒であることを付記する。
(5)火災対策について,可燃性ケーブルの使用状況を確認し,使用の疑いがあればただちに原発を止めて不燃性ケーブルに交換させること。可燃性ケーブルの表面に不燃塗料を塗っただけのものを「不燃性ケーブル」とみなす等の,いわゆる「みなし規定」は廃止すること。
(6)使用済み核燃料の安全対策に万全を期する必要がある。原子炉に隣接して地上10mを超えるような場所に使用済み核燃料プールを設置した施設の使用は禁止し,かつ,使用済み核燃料は,早期にいわゆる「乾式貯蔵」に移行して,津波の被害が予想される地域から内陸へ移動させる必要がある。
(7)シビアアクシデント対策については,原発施設の外側から可搬施設等により追加対策として外付けするのではなく,原子炉等の基本設計における前提条件として,本来の設計基準の一つとして設けられ,恒久的な施設・対策として用意されるべきである。可搬の外付け施設については,信頼性に疑義が伴ったり,シビアアクシデント時における接続に時間と困難が伴い,原発の安全性向上には必ずしもつながらない(いざという時に役に立たない可能性あり)。そして,そもそも,原子炉施設がシビアアクシデント状態に陥らないための多重防護の仕組みを抜本的に見直す必要がある。
(8)シビアアクシデント対策については,福島第1原発事故を上回る規模と深刻さのものを前提に考えられるべきである。また,事故発生を確率論的に認識するのではなく,事故がもたらす深刻度から絶対的に判断して「新安全基準」は策定されるべきである。つまり,いかなることがあっても,福島第1原発事故と同程度,またはそれを超える事故は起こらない状態を「新安全基準(案)」が創造する必要がある。
(9)シビアアクシデント対策については,たとえば,①津波対策としての原発施設内の「水密扉」(水を施設内に入れないための扉)が人的操作に依存して設計され,いわゆる自動化が義務化されていない(地震後に津波が来るまでの間に人間が複数の扉を閉めて回る),②マークⅡ型沸騰水型原子炉については,炉心溶融時に原子炉直下にある圧力抑制用の水プールに核燃料デブリが落下して水蒸気爆発を起こす危険性があるが,その対策がない,などの甘さが専門家から指摘されている。その他の格納容器破壊事象も含め,もっと掘り下げたより慎重な検討が必要不可欠である。
(10)新聞情報によれば,シビアアクシデント対策を中心に,安全確保のための必要不可欠の対策(新設備の設置や装置改造など)を,経過期間を設けたり,新設備等の設置を猶予して先送りすることなどを認める動きが原子力規制委員会にあると伝えられている。原発の安全性を考えた場合,許されないことである。
(11)原発敷地内外での活断層であるか否かの判断基準については,すべて40万年以上前まで遡って,その動きから厳格に判断すべきである。限られた場合にのみ40万年まで遡るという基準は,当初原子力規制委員会が説明していたことから後退している。既に2010年に政府の地震調査研究推進本部がまとめた報告でも,活断層は「40万年程度を目安にする」とされており,一般の活断層よりも厳しく評価されなければならない原発敷地において,原則12万年前・例外40万年前とすることは許されない。
また,活断層の危険性については,①Sクラスと呼ばれる「重要な安全機能を有する施設」の直下だけでなく,そもそも原発施設内での活断層の存在を認めない,②複数の活断層の連続性や敷地内の短い断層の集合などについても,より安全側に立った評価を行うこと等の点を加味し,より厳しい「安全基準」とすべきである。
更に,これまで多くの「利益相反」委員らによって不適切な活断層評価・地震リスク評価が行われてきた結果,全国各地の原発・核燃料施設敷地で,今頃になって活断層が「発見される」などという事態となっている。改めて全国全ての原発・核燃料施設について,その敷地調査・地震リスク評価をやり直すとともに,地震大国日本にふさわしい厳格な敷地評価が,厳正な委員メンバーで構成される委員会より,適切に実施されるべきである。
(12)原発ごとに想定される最大地震のマグニチュードや揺れの大きさの設定が甘いものが多い。また,原発施設の耐震性については,単に揺れに対する強度のみならず,原発直下の敷地の地割れやズレ,隆起・陥没なども考慮の上,抜本的に見直されるべきである。
(13)原発ごとに想定されるという最大津波の判断基準を示すこと,その際には,津波がいわゆる「共振」を起こして巨大化する可能性も十分に勘案されることが必要である。また,津波対策については,単に想定される津波高さにまで防潮堤を建設すればそれですむというわけではない。津波は,単に水の波が押し寄せるだけでなく,巨大な岩石や土砂やその他の固形物をも伴って,強大な破壊力をもって原発施設を襲う。従って,津波の脅威から逃れる基本は,原発を津波が押し寄せてこない標高地にまで移転させるとともに,大津波時における復水器冷却機能の万全の代替策が必要である。
また,津波の影響を受けることのない「緊急対策施設」の設置も必要である。
(14)これまで多くの事業者により,定期点検時を含め原発の安全性に関する点検や検査,報告等において,ルール違反の虚偽報告やゴマカシ・隠蔽・歪曲・手抜き等が行われてきた。こうした不正行為を根絶しなければ,原発・核燃料施設の安全性の確保などはおぼつかないことは言うまでもない。ついては「安全基準」に,そうしたコンプライアンス事項を盛り込み,違反した事業者に対しては,免許取り消しを含め厳格な対処策を策定しておく必要がある。
(15)福島第1原発事故により,原発推進を巡る情勢が厳しくなったことを受け,原子力産業は原発・核燃料施設の輸出に乗り出している。自国において大事故を引き起こした当事者が,厚顔にも海外に対して原発の安全強化を標榜しながら原発・核燃料施設の輸出を行うことなど,断じて許されないことである。また仮に,輸出した原発が海外で事故を起こした場合には,日本政府がその政治的・経済的・社会的責任を問われ,大きな賠償や補償の負担を余儀なくされる可能性も高い。日本国民にとっては無用の将来リスクである。ついては原発輸出の事実上の禁止=厳重な1件ごとの輸出許可制度を盛り込むべきである。
最後に,福島第1原発事故を引き起こした我が国の原発・核燃料施設については,その安全性基準を抜本的に見直すとともに,その基準に合致しない原発はただちに停止・廃炉とされるべきであり,また,そうした「新安全対策」をしてまで原発に固執する必要性や合理性があるのかどうかも,併せて検討されるべきである。また,大量の使用済み核燃料や放射能汚染という将来世代への大きなツケを残さないという意味での倫理性なども十分に勘案・再考された上で,今後の原発・核燃料施設のあり方が打ち出されるべきである。
以 上(2013年2月20日)
(増補版)シーベルトへの疑問
2012年12月10日
「原子力資料情報室」会員
ちょぼちょぼ市民による政策提言の会(運営委員)
田中一郎(ichirouchan@withe.ne.jp)
東日本大震災と福島第1原発事故からおよそ1年4カ月が経過した。環境に放出された放射能は東日本各地を汚染し,危険極まりない様々な種類の放射能が住宅地はもちろん,広く森林や湖沼・河川,農地や水源地,海などに降り注ぎ,我々の日常生活はすっぽりとその放射能汚染に包まれることになってしまった。そうした中で,現在一段と注目され始めたのが飲食や呼吸に伴う恒常的な低線量内部被曝(注1)である。先般は厚生労働省がようやく遅れていた飲食品の残留放射能に係る暫定規制値の見直しを決めたが,その過程でもこの内部被曝の危険性について活発な議論が展開された。
しかし,原子力村の住民たちの恒常的な低線量内部被曝に関する説明や,マスコミによるその無批判な報道においては,しばしば「内部被曝は避けられないけれども,科学的に被曝量を評価した“シーベルト”の値は十分に小さいので,心配するには及ばない。むしろ,自然放射線と比較しても無視できるぐらいに小さな放射線被曝を過剰に心配することは,無用の精神的ストレスを生み,かえってその方が健康には有害である」などとされる。簡単に言えば,たいしたことはないから考えることをやめよということだ。
しかし,本当にそうだろうか。本稿末尾に示す解説図書などを参考に「シーベルト」という概念について少し批判的に考えてみると,内部被曝に関しては「シーベルトの値が小さいから安全だ,心配はない」などとはとても思えないのである。むしろ逆に,人間の放射線被曝の度合いを推し量る評価単位であるこの「シーベルト」という概念が,非科学的,非実証的で,恒常的な低線量内部被曝の危険性を覆い隠しているのではないか,言い換えれば,原子力推進を容易にするために放射線内部被曝による健康被害を過小評価し,人々の判断を歪めているのではないかと思われる。
以下,「シーベルト」に関する問題点・疑問点を整理し,その概念が内部被曝の実態とは相違していることを示すとともに,現在,飲食を含めて対策が急務となっている恒常的な低線量内部被曝問題について,政府をはじめ関係責任者達の再検討を促したいと思う。
<国際放射線防護委員会(ICRP)>
専門家の立場から放射線防護に関する勧告を行う民間の国際学術組織の一つである。前身は1928年設立の「国際X線およびラジウム防護委員会」であり,戦後1950年に,当時の米国原子力委員会主導の下,改組されて新たに「国際放射線防護委員会(ICRP)」として発足した。広島・長崎の原爆被曝者データや世界各国の原発・核施設労働者の被曝データ等をもとに,放射線防護の基準やその考え方などを勧告している。ICRP勧告は国際的に権威あるものとされ、国際原子力機関(IAEA)の安全基準や世界各国の放射線障害防止に関する法令の基礎にされている。しかし,内部被曝を軽視・過小評価したり,がん・白血病以外の健康被害を無視したり,あるいは経済合理性を人間の命や健康よりも優先するなど(ALARA原則:as low as reasonably achievable),その基本姿勢や方針が原子力推進に偏っているとの批判が絶えない。事務局はカナダのオタワにある。(ICRP:International
Commission on Radiological Protection)
<欧州放射線リスク委員会(ECRR)>
専門家の立場から放射線防護に関する勧告を行うもう一つの民間国際学術組織である。欧州議会内政党である欧州緑の党が中心となり1997年に設立された。放射線被曝の危険性,とりわけ内部被曝と外部被曝の根本的な違いを強調し,国際放射線防護委員会(ICRP)勧告を批判しながら,より原子力や放射能に対して厳しい立場で放射線防護の基準やその考え方等を勧告している。2011年に福島第1原発事故を受け,科学議長のクリス・ バズビー英アルスター大学客員教授が来日し,子どもの被曝限度を20ミリシーベルト/年とした日本政府を批判した。本部はベルギーのブリュッセル。 (ECRR:European Committee on Radiation Risk)
<現状における放射線と放射能の単位>
・ベクレル
放射能(放射性物質が放射線を出す現象または性質)の量を表す単位。具体的には,1秒間に1個の原子核崩壊を起こす放射性物質の放射能を1ベクレルといい,記号はベクレル(Bq)で表す(旧単位は「キュリー」(Ci):1キュリー=3.7×10の10乗ベクレル)。物理的な絶対量の単位なので基本的に誤魔化しはない。放射能汚染や放射線被曝を考察し評価する場合には,さしあたりこのベクレルに依拠するのがよい。
(「ベクレル」という名称は,ノーベル物理学賞を受賞したフランスの物理学者アンリ・ベクレルに因むもの)
・グレイ(吸収線量)
放射線の物質に与える影響を推定するために,放射線が物質中を通過する際に当該物質中で失ったエネルギーの量=当該物質が吸収したエネルギーの量を「グレイ」(Gy)で表す。物質1kgが1ジュール(0.239カロリー)のエネルギーを吸収する時の線量を1グレイという(1グレイ=1ジュール/kg)。
(「グレイ」という名称は,ルイス・ハロルド・グレイという物理学者に因むもの)
・等価線量(シーベルト:旧単位は「レム」で,1シーベルト=100レム)
国際放射線防護委員会(ICRP)勧告によれば,放射線の違い(α線,β線,γ線,X線,中性子線,陽子線等)により人体への障害効果が異なっているため,その障害効果を,γ線を「1」とする相対的な指数で表した「放射線荷重係数」を使って修正する。上記の吸収線量(グレイ)にこの「放射線荷重係数」を掛けたものを「等価線量」(シーベルト)という。「放射線荷重係数」の数値は「別表1」の通りで,α線が「20」,β線が「1」,中性子線が「5~20」などとなっている。
(「シーベルト」という名称は、放射線防護研究者のロルフ・マキシミリアン・シーベルトに因むもの)
・実効線量(シーベルト:旧単位は「レム」で,1シーベルト=100レム)
国際放射線防護委員会(ICRP)勧告によれば,放射線への感受性=影響度合いは,人間の各臓器によっても異なるため「組織荷重係数」(注2)を使って修正する。上記の臓器別「等価線量」(シーベルト)にこの「組織荷重係数」を掛けた数値を,全ての臓器・組織について足し合わせたものを(内部被曝に係る)「実効線量」(シーベルト)という。「組織荷重係数」の数値は「別表2」の通りで,各組織ごとの「組織荷重係数」は合計すると「1」となるように決められている。全身への外部被曝の場合,体全体の「実効線量」は「等価線量」と同じ値になる。
一般に人間の被曝量とは,外部被曝も内部被曝もこの「実効線量」のことを言い,単位は「シーベルト」で表示される。内部被曝に係る実効線量と外部被曝に係る実効線量を合計すれば総被曝線量(シーベルト)となる。そもそも「シーベルト」概念や「実効線量」の概念は,外部被曝量と内部被曝量を合計する目的でつくられた様子がうかがえ,その際,内部被曝が過小評価されたと考えられる。
なお,実務的には「ベクレル」を「実効線量」(シーベルト)に換算する「実効線量換算係数(預託実効線量計数)」が,国際放射線防護委員会(ICRP)や欧州放射線リスク委員会(ECRR)によって開発されており(「別表3」),それを使うことで体内に入った放射性物質の量(ベクレル)から,その被曝量(シーベルト)を簡便法で推定している。
また,がん・白血病のいわゆる「確率的健康障害」(注3)については,同じく「DDREF」(線量・線量率効果係数(注4))が国際放射線防護委員会(ICRP)によって開発されており,実効線量を「DDREF」で割ることにより,近い将来発生するがん患者数及びその死者数を推定している。
<問題点>
(1)内部被曝は「吸収エネルギー」では表しきれない
吸収線量「グレイ」の定義でわかるように,「シーベルト」では放射線内部被曝が「1kg当たりの吸収エネルギー」に単純化されている。かつ被曝が体全体で平均化・希薄化されてしまっている。その内容は体全身に一様均一に(一過性で)放射線を浴びる外部被曝の場合に当てはまる定義であり,これでは飲食や呼吸に伴い体内に入り特定部位に留まった放射線源からの恒常的な低線量内部被曝の実態とは,かけ離れたものとなってしまう。
恒常的な低線量内部被曝の実態とは,被曝は「体全体に一様均一に受ける」のではなく,①「局部的」に,②「集中的」に受けるのであり,また「一過性」ではなく③「継続的」であることだ。こうした恒常的な低線量内部被曝の決定的な特徴を,この「シーベルト」の定義は無視してしまっている(内部被曝の特徴が定義に反映されず,過小評価となってしまっている)。
(2)「組織荷重係数」の合計が「1」では内部被曝の実態を表さない
上記で見たように,実効線量(シーベルト)を計算する場合に使う「組織荷重係数」の合計が「1」とされている。これは,外部被爆と内部被曝を統一的に把握・合計するための一種の「換算」技術と推定されるが,それでは局部的・集中的な内部被曝の実態からはかけ離れたものとなり,被曝の影響が全身に薄められて拡散し,結果として過小評価となってしまう。内部被曝の場合に,何故「組織荷重係数」を合計で「1」にする必要があるのだろうか。
西尾正道北海道がんセンター院長は月刊誌『科学』(岩波書店)に次のように書いている。
「粒子線であるα線とβ線を放出する核種が体内にあると,α線とβ線は質量を持ち飛程はごくわずかであるため,ごく近傍の細胞のみに持続的に影響を与えます。このことは,内部被ばくを外部被ばくと同様に,1kgあたりのエネルギー値として評価することが無意味であることを示唆しています。影響の及ぶ範囲が1kgの範囲よりもきわめて小さいからです」(注5)
また,西尾氏の新刊書『放射線健康障害の真実」』(旬報社)では,人間の被曝線量を「吸収エネルギー」で推し量る「シーベルト」という単位について,次のように述べている。(『放射線健康障害の真実」』p.58)
「しかし,もっと重要なことは,内部被曝の健康被害はエネルギーだけでは説明できないことである。(改行)内部被曝の場合は,粒子線は質量をもつため,透過力に乏しく放射性物質の周囲の近傍の細胞にだけ影響を与える。しかし被曝線量の評価は全身化して換算するため,数値上はきわめて少ない線量となる。この線量の全身化換算の問題に加え,それ以上に熱量として放射線の影響を考えていることがはたして妥当なのかという疑問もある」
つまり「シーベルト」という被曝単位は,内部被曝を考えた場合には,その被曝の局所性・集中性にもかかわらず全身に平均化されて「kg」単位で評価されるため,明らかに過小評価となることに加え,その評価単位が「グレイ」と同じく人体による「吸収熱量」=「吸収エネルギー」で推し量られるところにもう一つの疑問があるということである。そして,この「エネルギー」による被曝量の評価について,西尾氏は次のような落合栄一郎氏(カナダ在住:化学者)の考察を引用する。(『放射線健康障害の真実」』p.59)
「100Svという被曝の場合,人間は100%中枢神経死で即死する。しかしエネルギー値から評価すると,100J/kg(γ線の場合)であり,0.024度体温を上昇させるだけである。だがこの体温上昇で人間は死なないが,同じエネルギー量でも放射線では100%死亡する。何かおかしい?」(「J」とはジュールのことで熱量の単位:筆者注)
この落合氏の指摘は,放射線被曝をエネルギーだけで評価するということの誤りの核心を,みごとにズバリと見貫いた卓見である。「シーベルト」は,被曝をエネルギーだけで見るというその定義のありようからして,ものごとの実態を表さない,言い換えれば,放射線内部被曝を単純化し過小評価しているものに他ならない,と言えるだろう。そして更に西尾氏は,この章のまとめ的に次のように書いている。(『放射線健康障害の真実」』p.60)
「Sv値は,放射線の電離作用は分子・原子レベルの問題であるのに,日常生活レベルのジュール(J)で評価したものであり,放射線の影響の根本を考慮せずに定義されているのである。水分子(H2O)のサイズは0.38nmであり,電離する過程をエネルギー付与で説明することは無理である。生体内で生物学的に生じる変化を物理学的な単位では説明できないのである。放射線の生物学的な影響の評価尺度が不適切であることや,線量の全身化換算による低減評価等の問題を考慮すべきなのである」(「nm」=ナノメートル:筆者注)
(3)被曝の至近距離性
この「シーベルト」の定義では,恒常的な低線量内部被曝の特性であるミクロレベルの④「至近距離から」の被曝であることが見落とされている。体内部に入った放射性物質は,周囲の体を構成する細胞組織をミクロレベルの至近距離から大きなエネルギーで破壊し始める。その場合,DNAに限らず,ありとあらゆる組織や細胞が破壊の対象となる。そうした重大事実が「シーベルト」には反映されていない。
ところで,原子力村の御用学者達は,よく「放射線被曝の程度は線源からの距離の2乗に反比例する」などと説明し,原発事故などの際の外部被曝については「大したことはない,線源から離れれば大丈夫だ」と地域住民らに説得する。しかし彼らは,内部被曝の危険性については,このような説明をすることには絶対にない。つまり,この「放射線被曝の程度は線源からの距離の2乗に反比例する」という説明は,原子力村の御用学者達によってご都合主義的に使われており,内部被曝が問題となった時に,その発言者が御用学者かそうでないかを判別するための「リトマス紙」として使うこともできる。
(4)「放射線荷重係数」及び「組織荷重係数」への疑問
内部被曝の場合には「放射線荷重係数」の数値が怪しく見える。特にα線の「20」(γ線の20倍)というのは,その内部被曝性を鑑みた場合に疑問がある。また,α線と同様に内部被曝性のβ線がγ線と同じ「1」であることや,中性子線の「5~20」も疑問だ。この「放射線荷重係数」の数値については,明確な経験科学的な根拠が示される必要がある。(注6)
他方「組織荷重係数」については,(注2)でも述べたように社会的・経済的に評価された数値であり,純粋な経験科学的な実証数値ではない。また,その場合,がん・白血病以外の「確率的健康障害」は考慮外とされている。更には(臓器・組織の)細胞被曝の特性とでも言うべきこと=すなわち同じ臓器・組織であっても,その臓器・組織の中のどの部位・部分か,あるいはいつのタイミングか,によっても数値は大きく違ってくる可能性もあるが,それらも全くの考慮外である。細胞増殖の活発な部位・部分(例えば体性幹細胞)では,その影響は格段に大きいはずだし,細胞周期によっても影響は異なってくるだろう(注7)。
従って,この両方の係数については,その実証的根拠(放射線荷重係数),あるいは根拠明確化(組織荷重係数)が必要不可欠である。
(5)年齢別・性別の放射線への感受性が反映されていない
加えて放射線被曝の場合には,胎児を含め年齢による感受性の違いも大きいが,「シーベルト」には明示的に反映されていない(注8)(注9)(「実効線量換算係数(預託実効線量計数)」には,その代替として「体重差(分子数)」がカウントされているらしい)。更には,性別差による感受性の違いもある(男性よりも女性の方が感受性は高く,そのことは現在の日本の法律である放射線障害防止法にも反映されている)。日本だけでも直ちに「年齢別及び性別感受性係数」を暫定的に定めて,飲食品や環境の被曝限度数値に反映させるべきではないか。
厚生労働省の説明資料である「別表4」をご覧いただきたい。表の限度値(Bq/kg)を一見してわかるように,年齢が小さいほど限度値は大きくていい=つまり食べる量が少ないから,その食べ物の単位当たりの汚染限度は高くていいという,我々が一般に認識している年齢別の被曝効果とは逆の計算結果になっている。子どもほど汚染限度値は高くていい,などという結論はとても受け入れられるものではない。
(6)「実効線量換算係数(預託実効線量計数)」も疑問
「ベクレル」(放射能の量)から「シーベルト」(人間の被曝量)に換算する「実効線量換算係数」も,被曝量を確率的健康障害であるがん・白血病への疾患率へ転換する「DDREF」(線量・線量率効果係数)も,その根拠が国際放射線防護委員会(ICRP)による広島・長崎の原爆被害者データの解析から導かれている。しかし,そのデータは,冷戦下の核戦略の影響下で米国主導で収集整理されたため,様々な問題が指摘されている。また,内部被曝を軽視・無視したり,被曝の人体への影響を過小評価したりしていることは,多くの研究者や有識者が指摘するところである。
(7)化学的作用の有害性が考慮外
① 放射性物質自体の化学的性質が人体や生命体に対して有害作用がある(プルトニウム,ウランなど)。しかし,放射性物質の中には,その化学的特性なり有害性がよく分かっていないものもある。更に放射線被曝と重複した場合には,その化学的毒性が倍加する可能性もある。こうしたことは「シーベルト」には反映されていない。
② 放射線は人間の体の中では,遺伝子=DNAや染色体だけを破壊するのではない。各所の細胞内で様々な分子,原子に衝突し,それを活性化=イオン化する。中でも酸素がイオン化され,いわゆるラジカルと呼ばれる活性酸素が細胞内で生まれると,人間体内で様々な健康障害や臓器障害などを引き起す可能性がある(注10)。それが「シーベルト」では全く考慮されず定義に反映されていない(「ペトカウ効果」(注11)等)。
③ 体内にある放射性物質から放たれた放射線が体を構成する物質やその他の体内物質にあたると,その物質が別の物質に変化し,化学的性質が転換して有害化する可能性がある。里見宏氏のレポート(本稿末尾)によれば,例えば脂肪酸に放射線があたると発がん性のあるシクロブタノンという物質に変わる。こうしたことも「シーベルト」には反映されていない。
④ 昨今では,放射線被曝について,バイスタンダー効果による細胞生理の異常や染色体異常(ゲノム不安定性)(注12)などの各種のエピジェネティック(注13)な現象なども観測されており,そうした効果も「シーベルト」には反映されていない。
⑤ 健康障害については,放射線被曝によるものと化学物質の毒性によるものとが相乗効果を発揮する可能性があると言われている。従って,動物実験等も含めて,これに関する明確なデータが必要である。
(8)放射性物質の体内への入り方(放射能パーティクルの危険性)
太古の昔から自然界に存在する放射性物質(自然放射能)は,たとえばカリウム(K40)のように代謝が早いとか,ラドンのように希ガスであるために化学反応性が低く,体内に仮に入っても,そこで取り込まれて蓄積することはなく,すぐに出ていくものが大半である。(注14)
しかし,原発事故等で環境に放出される人工放射能の場合はそうはいかない。それらはいわゆる「パーティクル」の形で,多種大量の放射性核種が「塊」になって人体や生物の体内に入り込み(それでも人間の日常生活のレベルで考えれば非常に小さい粒ではあるが),それが体内で強い放射線を発する。また,核種によってはかなりの長い期間にわたり特定の臓器や部位で局所的に蓄積かつ滞留し,周辺の細胞を痛めつけることが多い。こうした放射性物質の体内への取り込み方の違い,体内での破壊威力の違いも「シーベルト」では考慮されない。
(9)国際放射線防護委員会(ICRP)による被曝限度数値への疑惑
更に,昨年末のNHK番組「追跡! 真相ファイル」で,広島・長崎の原爆被害者の調査結果から,従来考えられていた以上に低線量被曝の健康被害が大きいことがわかってきたにもかかわらず,1990年頃の国際放射線防護委員会(ICRP)の委員たちが,それを逆に放射線被曝の健康被害を軽い方へ評価する(作為的に1/2にする)形で定義や数値を操作していたことが放映された(その後に予想された被曝規制値強化の動きに対抗するための「バッファ」(余裕)を用意するためだったという)。
国際放射線防護委員会(ICRP)が提唱している被曝線量評価単位の「シーベルト」は,定義そのものも怪しいが,その定義に沿って「実証的」に定めたとされる被曝限度の数値についても怪しい。いずれも政治的操作の産物である可能性が高いと言える。
(10)放射線被曝は人間や生命体の「老化」を早める効果があるとされが,そのメカニズムは完全には分かっていない。もちろん「シーベルト」にその効果の反映はない。
<結 論>
シーベルト概念は,恒常的な低線量内部被曝の局所性,集中性,継続性,総合性,多様性を反映できておらず,また,超至近距離からの被曝であることの危険性や化学的毒性なども考慮されていないように思われる。つまり,もともと広島・長崎の原爆被害者を対象とした外部被曝の評価単位として開発されたものが,そのまま恒常的な低線量内部被曝の評価にも拡張されたために,内部被曝の特徴や危険性のポイントが欠落してしまっているのではないか。
また,放射線被曝のネガティブな影響を極力小さく見せたい原子力推進の政治権力や原子力村の人間達の思惑が重なり,被曝評価が非(経験)科学的に,非実証的に,言い換えれば政治的に操作されることで,実態と合わない「シーベルト」の歪んだ概念が固定化し,かつ「被曝限度数値」などが歪められてきたのではないか。私の「シーベルト」への疑問とは,こういうことである。
本来であれば,恒常的な低線量内部被曝を適正に評価できる(経験)科学的根拠に基づいた被曝評価概念が開発され,それが実証的に慎重に(予防原則的に)運用されるのが望ましいが,現在,ひどい放射能汚染にさらされた地域が広がる中で,そうした新概念の開発と定着をゆっくりと待っているわけにはいかない。従って,現行の「シーベルト」を緊急対応として暫定的に使うにしても,上記で指摘したような恒常的な低線量内部被曝の特徴を踏まえた「修正係数」(注15)をこまめに用意することで,その歪みを是正してみてはどうだろうか。
また,臓器などの内部被曝の場合には,社会的・経済的な評価を経て,かつ体全体で被曝の影響が平均化されてしまっている「実効線量」(従って数値的には小さく表現される)ではなく,「等価線量」を使うべきである。
いずれにせよ,例えば子どもたちの内部被曝への過小評価は,もう看過できない大問題である。「シーベルト」の値が小さいという理由でその危険性を誤魔化さず,真摯に被曝回避のためのあらゆる対策を打ち出してほしいものである。
(注1)低線量内部被曝
一般に,低線量被曝とは100~250ミリシーベルト/年以下の放射線被曝のことを言う場合が多いが,本稿において「恒常的な低線量内部被曝」とは,日々の生活においてマイクロシーベルト/時単位で内部被曝を続け,年間累積で20~50ミリシーベルト以下の被曝線量になる場合を想定する。20ミリシーベルトは,政府による住民避難の基準線量であり,2011年4月には文部科学省が学校に通う子どもたちの被曝線量基準に設定して厳しく批判された数値である。また,50ミリシーベルトは,今年春に政府が「帰還困難区域」を指定する際に使った空間線量基準である。
(注2)「組織荷重係数」について
「組織荷重係数」は,確率的影響(がん・白血病)による放射線「損害」全体に対する個々の臓器・組織の寄与度(全体で「1」)を表している。そして,その(放射線)「損害」評価には,がん・白血病による死亡損害(死者数×寿命損失)に加え,死亡しなかった人の「重篤度加算」と「QOL加算」(Quality of life )という評価量が足し合わされ,全体として,その(放射線)「損害」が社会的・経済的に評価されている。
従って,「実効線量」の「実効」とは、「がんの罹患率」とか「がんの死亡数」とか「細胞あるいはDNAのダメージの指標」というような生物学的影響を表すものではなく、損害保険で取り扱うような「損害」の数量化である。こうすれば、費用と較べるための天秤にかけることができる。「実効線量」やその「集団線量」でがんの死者数を推計してはいけないというのは、低線量被曝での「不確からしさ」という理由もあるが、むしろこうした経済的な「損害」量であるからである。
(田島直樹氏(NPO個人「安禅不必須山水」)「ICRPというコンセプト」: 2012.5.20 第42回市民科学講座「ICRPは黄門さまの印籠か?」を筆者要約)
⇒ NPO法人「市民科学研究室」HP を参照
http://blogs.shiminkagaku.org/shiminkagaku/2012/05/5201icrp.html )
(注3)「確率的健康障害」
放射線に被曝しても必ずしも影響が現れるとは限らず、被曝量が多くなるほど影響が出る確率が高くなる現象のこと。いわゆる「閾値」がなく、被曝量に比例して健康リスクが高くなるとされる。なお,これまでの国際放射線防護委員会(ICRP)勧告では,がん・白血病以外の健康障害(これも「確率的健康障害」)についてはほとんど無視されるか軽視されているが,チェルノブイリ原発事故後の汚染地域では,子どもたちを中心に様々な健康被害が伝えられている。
(注4)「DDREF」(線量・線量率効果係数:dose
and dose-rate effectiveness factor)
低線量の場合,細胞の回復効果(DNA修復能など)により,被曝のダメージが一度に大量被曝した場合と比較して,どの程度低減されるかを示す係数のこと。国際放射線防護委員会(ICRP)では,DDREFを「2」としている(一度に大量被ばくした場合のダメージの1/2)。
(注5)西尾正道北海道がんセンター院長『科学』(Vol.82, No.6, 2012,岩波書店)掲載論文「内部被ばくをどう考えるか」
なお「粒子線」には,α線(ヘリウム原子核),β線(電子)の他に中性子線,陽子線などがある。
(注6)「放射線荷重係数」について
矢ケ崎克馬琉球大学名誉教授は,自著『隠された被曝』(新日本出版社)の中で,「放射線荷重係数」に関して,「これらの量(人体が吸収した放射線エネルギーに「放射線荷重係数」や「組織荷重係数」を掛けて算出した等価線量や実効線量のこと:筆者注)は平均化(ガンマ線的な均一な電離分布)の前提に経験的な危険度を乗じたもので現実の被曝の局所的集中と時間的継続の特殊性を含むものではありません。内部被曝の特殊性が無視されていますので,両者ともにエネルギーだけでカウントし,飛程の短いベータ線と長いガンマ線がともに1にされているのです」・・・(中略)・・・「これらは。生物学的危険度を反映しているとされますが,あくまで外部被爆に適用すべき方法を適用して集中被曝した部分と他の大部分の被曝しない部分を平均化してしまう方法なのです」と述べている(p.41)。
(注7)細胞周期と放射線感受性
「放射線感受性は,細胞周期によって異なることが知られています。細胞分裂は,G0期(休止期)にあった細胞が,G1期(DNA準備期),S期(DNA合成期),G2期(分裂準備期),M期(分裂期)を経て周期を一巡します。細胞の放射線感受性は,一般にG2~M期でもっとも高いことが知られています。時間的に連続して被ばくを受けると,細胞は感受性の高い時期にいつかは当たることになります。そのため同じ低線量でも,一過性の外部被ばくよりも内部被ばくの影響は大きいと考えられます」
(西尾正道北海道がんセンター院長『科学』(Vol.82, No.6, 2012,岩波書店)掲載論文「内部被ばくをどう考えるか」)
(注8)被曝時年齢差による放射線感受性の違い(その1)
例えば,ジョン・W・ゴフマン著『(新装版)人間と放射線:医療用X線から原発まで』(明石書店)の第8章「年齢別のがん線量」のp.240図5「被曝時年齢と最大1ラド当り過剰率」などを参照
(注9)被曝時年齢差による放射線感受性の違い(その2)
小出裕章京都大学原子炉実験所助教著『子どもたちに伝えたい:原発が許されない理由』(東邦出版)(p.100~103)によれば,1万人・シーベルトあたりのがん死者数は,全年齢平均が3,731人に対して,0歳児は15,152人で,平均の約4倍である。また,50歳の約1千人と比較すると15倍強となる。更にこの数値は「がんによる死者」の数であるので,死者ではなく,「がんになる人」を数えた場合には,更に数字が大きくなる。
(注10)放射線被曝に伴う様々な健康障害の可能性(がん・白血病以外)
極度の慢性疲労・倦怠感(いわゆる「ぶらぶら病」),各種臓器不全,消化器系疾患,免疫力低下・ホルモン異常,病弱化・虚弱体質,循環器系疾患・心臓病と突然死,神経系疾患,呼吸器疾患・ぜんそく,糖尿病,白内障,脳障害・知能低下,膀胱炎,生殖異常・遺伝病・奇形児,短寿命化他
(チェルノブイリ原発事故後の汚染地域では,何らかの健康障害のある子どもたちの割合が75%にも上るなど,若年齢を中心に様々な健康障害が広がっている)
(注11)ペトカウ効果
恒常的な低線量内部被曝によって発生する活性酸素(ラディカル)の影響で細胞膜及び細胞が破壊される効果のこと。(発見者であるカナダの医師アブラム・ペトカウの名に因む)
(注12)バイスタンダー効果とゲノム不安定性
・バイスタンダー効果: 被曝した細胞から被曝しなかった隣接または離れた位置にある周辺細胞へ被曝情報が伝えられる現象のことをいう。その損傷シグナルにより、被曝しなかった細胞にも、細胞死、突然変異、染色体異常などの生物学的影響が生じ,がん化しやすくなることがある。「バイスタンダー」とは傍観者という意味。
・ゲノム不安定性: 被曝して傷ついた細胞が修復され,その後長期にわたり何回も細胞分裂をした時点で、子孫細胞に生じる遺伝子の不安定性のこと。初期被曝による損傷を乗り越えた細胞のその何代もの後の子孫細胞にも、悪性形質転換、染色体異常、遺伝子突然変異などがみられることがある。
(なお,国際放射線防護委員会(ICRP)のPublication 99「放射線関連がんリスクの低線量への外挿」に,バイスタンダー効果とゲノム不安定性についての記載がある。更に,国際放射線防護委員会(ICRP)「2007年勧告」では、バイスタンダー効果もゲノム不安定性も「有意なデータがある」と言及されつつ、更なる研究が求められるとされ,未だ放射線防護の評価体系の中には入れられていない。また,日本は現在,国際放射線防護委員会(ICRP)「2007年勧告」の採用を検討中であり,まだ同「1990年勧告」レベルにある)
(注13)エピジェネティクス
DNAを構成している塩基部分の一部にメチル基が生じる(メチル化)など,DNA及びその周辺で発生する後天的な細胞内化学反応作用により,遺伝子の発現が制御されること,及びそれに関する研究分野のこと。「エピジェネティクス」の「エピ(epi)」とは「後」「その上」を意味する接頭語。胎児期や乳幼児期の放射線被曝による遺伝子障害に,このエピジェネティックな作用が加わり,相乗効果で出生以降の健康・疾病発症リスクを高めているのではないかと懸念されている。
なお,バイスタンダー効果は細胞レベルだけでなく,組織や器官レベル,そして生物個体でも現れることがある。
(注14)自然放射能と人工放射能
故市川定夫氏は,自著『新・環境学:現代の科学技術批判 Ⅲ(有害人工化合物/原子力)』(藤原書店)の中で次のように述べている。
「カリウムの代謝は早く,どんな生物もその濃度をほぼ一定に保つ機能をもつため,カリウム40が体内に蓄積することはない。このような生物の機能は,カリウム40が少量ながら常に存在したこの地球上で,生物が,その進化の過程で獲得してきた適応の結果なのである。」・・・(中略)・・・「ラドンが肺内にまでは入るが,ラドンは希ガスであるため,体内に取り込まれることはなく,肺内からすぐ出ていく。」(p.173)
また,カナダ在住の化学者・落合栄一郎氏は近著『原爆と原発:放射能は生命と相容れない』(鹿砦社)で次のように述べる。
「放射性CとKは,体全体に分布している。これは,それが体内に入っている機構からして,そうなる。・・・(中略)・・・体全体に放射性物質がおよそ一様に分布している場合には,細胞1個あたりで見ると(放射性粒子の数は)ほんのわずかである。」
「さて放射性物質を含んだ食物摂取の場合はどうであろうか。これに含まれる放射性物質が摂取後すぐに全身に分散するであろうか。・・・(中略)・・・しかし,直ちに体中に分散することはないであろう。」(p.107)
筆者は,自然放射能が人体や生物体内に入る場合には,分子単位の非常に小さな粒の状態で入り,入った後も特定の臓器や部位に長く留まることなく体外へ排出されることが多いのではないか,一方,人工放射能の場合には,上記でも述べたように,様々な放射性核種のカクテル状態である「パーティクル」の形態で体内に入り,特定部位に長く留まって危険な内部被曝をもたらすのではないか,と仮説的に推測している。両者による被曝の差は大きいと思われるが,「シーベルト」には反映されていない。
*市川定夫「自然放射線と人工放射線は違う!」
http://www.youtube.com/watch?v=gjbwiKNlULc
(注15)考えられる「修正係数の例」
「放射線荷重係数」と「組織荷重係数」の抜本的見直しに加え,少なくとも「局部集中係数」「継続性係数」「至近距離係数」「年齢別感受性係数」「性別感受性係数」「化学毒性係数」「活性酸素係数」「エピジェネ係数」「遺伝係数」「早期老化係数」など
別表1 国際放射線防護委員会(ICRP)による1990年勧告の放射線荷重係数
放射線の種類 |
エネルギー範囲 |
放射線荷重係数 |
光子 |
全エネルギー |
1 |
電子及びμ粒子 |
全エネルギー |
1 |
中性子 |
10キロ電子ボルトより小 |
5 |
10キロ電子ボルト~100キロ電子ボルト |
10 |
|
100キロ電子ボルト~2メガ電子ボルト |
20 |
|
2メガ電子ボルトより大 |
5 |
|
陽子 |
2メガ電子ボルトより大 |
5 |
α粒子,核分裂片及び重原子核 |
― |
20 |
注1:国際放射線防護委員会(ICRP)の2007年勧告では,中性子の係数のエネルギー依存性がより細やかになったこと,陽子の係数が全エネルギー範囲で「2」となったことを除き,その他の係数に変化なし
注2:上記で「電子」とあるのがβ線
(長山淳哉著『放射線規制値のウソ』(緑風出版)p.31より)
別表2 国際放射線防護委員会(ICRP)による2007年勧告の組織荷重係数
臓器・組織 |
組織荷重係数 |
小計 |
乳房,赤色脊髄,結腸,胃,肺 |
0.12 |
0.60 |
生殖腺 |
0.08 |
0.08 |
甲状腺,食道,肝臓,膀胱 |
0.04 |
0.16 |
骨表面,皮膚,脳,唾液腺 |
0.01 |
0.04 |
残りの14臓器・組織 |
― |
0.12 |
|
|
合計 1.00 |
(長山淳哉著『放射線規制値のウソ』(緑風出版)p.32より)
別表3 内部被曝を計算する「実効線量換算係数」のICRPとECRRとの比較
|
年齢 |
ICRP (A) |
ECRR (B) |
(B)/(A) |
ヨウ素131 |
成人 |
0.022 |
0.11 |
5.0 |
児童 |
0.10 |
0.22 |
2.2 |
|
乳幼児 |
0.18 |
0.55 |
3.1 |
|
セシウム137 |
成人 |
0.013 |
0.07 |
5.4 |
児童 |
0.01 |
0.13 |
13.0 |
|
乳幼児 |
0.012 |
0.32 |
26.7 |
注:ECRRとは「欧州放射線リスク委員会」のこと (ECRR 2010)
(医療問題研究会編『低線量・内部被曝の危険性:その医学的根拠』p.88より)
<上記の計算例:ICRP・ヨウ素131・乳幼児の例>
100Bq/リットルの水を毎日0.5リットル(50Bq),1年間365日飲み続けた場合
ICRPの「実効線量換算係数」を使うと
50Bq×365日×0.18(上記表の係数)=3,285マイクロSV=3.285mSV
(一般公衆で50年間、子どもでは摂取した年齢から70歳までの総被曝線量)
別表4 厚生労働省:年齢区分別の摂取量と換算係数を考慮し限度値(Bq/kg)を算出
年齢区分 |
摂取量 |
限度値(Bq/kg) |
1歳未満 |
男女平均 |
460 |
1歳~6歳 |
男 |
310 |
女 |
320 |
|
7歳~12歳 |
男 |
190 |
女 |
210 |
|
13歳~18歳 |
男 |
120 |
女 |
150 |
|
19歳以上 |
男 |
130 |
女 |
160 |
|
妊婦 |
女 |
160 |
最小値 |
120 |
注1:一般食品に割り当てる線量は、介入線量レベル(1mSv/年)から「飲料水」の線量(約0.1 mSv/年)を差し引いた約0.9mSv/年を,年齢区分別の年間摂取量と換算係数で割ることにより限度値を算出(流通する食品の50%の汚染を想定)。
注2:すべての年齢区分における限度値のうち,最も厳しい(小さい)値から全年齢の基準値を決定することで,どの年齢の方にとっても考慮された基準値とする。
<参考文献>
*『放射線規制値のウソ:真実へのアプローチと身を守る法』(長山淳哉:緑風出版)
http://bookweb.kinokuniya.co.jp/htm/4846111164.html
*『隠された被曝』(矢ケ﨑克馬:新日本出版社)
http://bookweb.kinokuniya.co.jp/htm/4406053735.html
*『内部被曝』(矢ケ﨑克馬:岩波ブックレット)
http://bookweb.kinokuniya.co.jp/htm/4002708322.html
*『低線量・内部被曝の危険性:その医学的根拠』(医療問題研究会,伊集院真知子他:耕文社)
http://bookweb.kinokuniya.co.jp/htm/4863770189.html
*『放射線健康障害の真実」』(西尾正道:旬報社)
http://bookweb.kinokuniya.co.jp/guest/cgi-bin/search.cgi
*『原爆と原発:放射能は生命と相容れない』(落合栄一郎:鹿砦社)
http://bookweb.kinokuniya.co.jp/guest/cgi-bin/search.cgi
*『人間と環境への低レベル放射能の脅威』(ラルフ・グロイブ,アーネスト・スターングラス著/肥田舜太郎,竹野内真理訳:あけび書房)
http://www.junkudo.co.jp/detail.jsp?ISBN=9784871541008
*『放射線被ばくによる健康影響とリスク評価:欧州放射線リスク委員会(ECRR)2010年勧告』(欧州放射線リスク委員会(ECRR)編/山内知也訳:明石書店)
http://bookweb.kinokuniya.co.jp/htm/4750334979.html
*「内部被曝を軽視してはいけない:毒性のメカニズムが違う自然放射線と人工放射線」(里見宏『消費者レポート第1503号 2012.2.7』)
<参考となるネット上の情報>
*「市民と科学者の内部被曝問題研究会」(「内部被曝研」HP)
http://www.acsir.org/index.php
*NHK番組「追跡! 真相ファイル:低線量被ばく,揺らぐ国際基準」
(食品の残留放射性セシウム検査)
厚生労働省による重点対象品目の削減は許されない
「原子力資料情報室」会員
ちょぼちょぼ市民による政策提言の会(運営委員)
田中一郎(ichirouchan@withe.ne.jp)
既に,地方紙などで報道されておりますが,厚生労働省はこのほど,直近1年間の検査結果を勘案し,従来の自治体による飲食品の放射能検査の「指針」を見直す旨を発表いたしました(自治体はこの「指針」をベースに「検査計画」を策定することになります)。今回,その内容をチェックしてみましたら,それが実にひどいものであることが分かりましたので,以下,簡単にまとめてお知らせいたします。
<厚生労働省通知文書>
(1)厚生労働省「厚生労働省 農畜水産物等の放射性物質検査について(2013年3月19日)」
http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r9852000002xu6w-att/2r9852000002xu8k.pdf
(上記文書の1ページ目だけを後添しておきます)
(2)原子力災害対策特別措置法第20条第2項の規定に基づく食品の出荷制限の設定について|報道発表資料|厚生労働省
http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r9852000002xs1v.html
(上記(1)と同じ内容のものです)
<ネット上の新聞情報>
全国紙がこの件をきちんと報道しないのはおかしな話で,下記の通り,報じているのは地方紙が中心です(全国紙では朝日新聞が小さなベタ記事を載せた程度)。
(1)河北新報 内外のニュース/食品のセシウム検査縮小へ 厚労省
http://www.kahoku.co.jp/news/2013/03/2013031901002365.htm
(2)信濃毎日新聞[信毎web]|国内外ニュース 食品のセシウム検査縮小へ 厚労省
http://www.shinmai.co.jp/newspack3/?date=20130319&id=2013031901002365
(3)中日新聞食品のセシウム検査縮小へ 厚労省社会(CHUNICHI Web)
http://www.chunichi.co.jp/s/article/2013031901002365.html
1.通知文書が国民向けの説明の体をなしていない
上記URLから文書をダウンロードしてお読みになれば分かりますが,この文書は汚染地域で放射線被曝を心配する子どもたちの親御さんをはじめ,多くの国民の飲食から来る内部被曝への懸念に対して,国としてきちんと応えるようなものでは全くありません。その出鱈目ぶりを,以下に簡単にまとめておきます。(以下「である調」で書きます)
(1)今回,何を検査対象から外したのか,旧指針内容と今回打ち出された指針とが,どこがどう違うのかを説明する文書が添付されていない。一般的にどの省庁でも,規定や指針などを改定する際は,広く国民に理解を求めるべく新旧対照表を添付している。しかし厚生労働省は,この指針改定についての問い合わせに対して「そんなものは用意しない,自治体からそんな話は出ていない」と居直り,「この文書は自治体宛に出したもので,お前たち(つまり私たち)一般国民などに向けて出したものではない」との態度だった。消費者・国民に対して説明責任ゼロの文書である。
(2)過去約1年間の検査結果を鑑みて改定したというが,その過去1年間の検査のあり方や検査結果に対する分析や反省が全くない。週刊誌等で報じられているところによれば,現下の飲食の放射能検査(正確には放射性セシウム検査)は,流通する商品の数に比較すると,ほとんど検査されていないに等しいくらいに検査数が少なく,品目によっては全く検査されていないものも少なくない。また,加工食品や外食については取扱業者に丸投げされ,検査をする・しないを含めて全て業者任せである。第三者のチェックは皆無である。
そもそも現下の飲食品検査は,消費者・国民が内部被曝をしないために行われているのではなく,何とか残留放射能の規制値をくぐりぬけて,生産されたものを商品として売り抜いて行けるようにするために検査がなされており,従ってまた,検査品目が特定の品目に偏っている。具体的には,牛肉と米,及び魚種が極端に偏った水産物(タラ,スズキ,底魚,淡水魚)で,これまで検査してきた食品の大半を占めているという状態である。言い換えれば,ほとんどの食品は検査されていないのだ。
また,検査のやり方についても,サンプリングの方法やロットの取り方,検査対象の採取の仕方(放射能のありそうな部位を取除いて検査,徹底的に洗ってから検査???),規制値をオーバーした場合の当該ロットの取扱(どのように処分しているのか・ヤミで流通に乗せられていないか:数ヶ月前に農林水産省に私がヒヤリングした時には,同省は福島県以外の状況を把握していなかった),検査に不正はないのか,自県産食品商品の販売推進を大々的に展開する自治体が自県の飲食品商品を検査するのは利益相反ではないか,何故,加工食品や外食,あるいは小売り段階にある食品を全く検査しないのか,などなど,問題だらけの食品検査の現状がある。
こうした,あるまじき食品の検査実態・検査管理実態を消費者・国民に知られたくないがために,厚生労働省は検査結果の詳細なレビューを行おうとはしないし,自治体の方も,自県産品販売のためには,こうした裏事情を消費者・国民に知られたくない利害関係があるので,厚生労働省が,一般の国民が見て,よくわからないような文書を出してくれるのは歓迎なのかもしれない。
(3)通知文書に書かれている内容が不必要に複雑である。何故,かように検査のルールを複雑にする必要があるのか。書かれている内容は,無用の手間暇や管理負担をかけるだけの,全く無意味な「ルールの複雑化」であると言える(あえて言えば検査の手抜きの合理化)。
(4)飲食の放射能検査体制の貧弱・脆弱と,生産者・農家をはじめ,食品の生産・流通に携わる人達への無用の検査負担が,福島第1原発事故後2年を経ても一向に解消しない。解消しないどころか,加害者・東京電力や事故責任者・国は,検査費用の賠償・補償さえきちんとしないばかりか,今回の指針改定に見られるように,隙あらば放射能検査の縮小と形式化をもくろんでいると言っていいだろう。そのココロは,放射能汚染や放射線被曝の隠蔽・歪曲と原子力推進の復興・再建である。
2.今回の「指針」改正の内容
厚生労働省の通知文書からは,上記でも申し上げたように,何がどう変わったのかが分からないので,新聞記事から下記の通り簡単に改定内容をまとめておく。重点検査対象の大幅見直しは今回が初めてであるという。
(1)重点検査対象から下記のような品目を除外する。重点品目数は132から98に減る。
① 野菜類 ホウレンソウ,レタス,キャベツ,ダイコン,ジャガイモなど
② 果実類 モモ,リンゴ,ナシなど
③ 魚 類 コウナゴ(イカナゴの稚魚),イワシ,サバ,ブリなど
(2)出荷停止措置の解除に際し,頻繁に移動する野生の鳥獣類や魚介類などの場合は,検査結果はバラツキやすいことから検査の検体数を増やす。
(3)原木キノコ類は,生産工程が適切に管理されていることなどを解除の条件に加え,判断根拠を明確化する。
3.コメント
(1)「指針」を改定する方向,行政が向いている方向が「真逆」である。今,重点検査対象品目を増やしこそすれ,削減していてどうするのか。環境に大量に放出された放射性物質が,今後どのように拡散し,また,食物連鎖や生体濃縮などを通じて,どのように植物を含む生物=人間の食材に広がっていくのかは未知である。今後,可能な限り多くの食材の検査を行い,その未知の部分を実証的に明らかにしていかなければならないはずである。そうしなければ,いつまでたっても「食の安全と安心」は確保できないだろう。日本の行政は,消費者・国民の命と健康を何と心得ているのだろうか。さっさと重点検査対象品目を増やし,検査体制の抜本的充実を図れ,と申し上げたい。
(2)あいもかわらぬ「放射性セシウム」のみの検査である。福島第1原発からは,過去2年間も,そして今も,放射性セシウム以外の様々な放射性物質・放射性核種が環境に放出されている。それを何故,測定・検査しないのか。
(3)水産物への警戒がなさすぎる。上記(2)で,特に海の汚染と水産物の汚染は,複合的な放射能汚染となっている可能性が高く,これからますますその傾向が強まる可能性がある。魚介類について言えば,場合によっては,放射性セシウムよりも放射性ストロンチウムの汚染の方が危険かもしれない。海への放射能の漏出は今も止まらず,止めようともされていない。海の場合には,食物連鎖や生体濃縮もあって,これからじわじわと多種多様の魚介類に放射能汚染が広がっていくことが予想される。例えば,海底の砂や泥には様々な放射性物質が蓄積し始めているが,これが海洋環境や海洋生物にどのように中長期的な影響をもたらすのかは全く分からない。そんな中で,重点検査対象品目を減らすなどということは,愚かであることを超えて「犯罪的」でさえある。
(今回重点検査対象から外されるブリやサバは,食物連鎖で言えば上の方にいる魚で,放射能の汚染は遅れて現れてくることが予想される。わずか2年の,しかも偏った検査を経ただけで,ほとんどまともな検査もしないまま,事実上,検査の対象から外してしまう,などということは常識では考えられないことである)
(4)検査対象品目の悉皆性が担保されていない。基本は食品流通に乗る全品目がロット検査されなければならないが(そして全ロットのベクレル数を表示),その手前のところで大事なことは,厚生労働省が今回行ったような検査対象品目の重点化やその絞り込みではなく,およそ人の口に入るものを,くまなく,全量とまではいかなくても,全品目について,一定のメリハリをつけたインターバルで検査がなされなくてはならないということだ。言い換えれば,検査されない品目はない状態を早く創らなければならない。
しかし,現状では,その品目悉皆性が全く担保されていない。簡単に言えば,多くの飲食品が全く検査されずに我々消費者・国民の口に入ってきているということである。「それでいいのだ」という人は「それでいい」かもしれないが,多くの子ども達や,妊娠している女性・これから妊娠する女性など,放射性物質に感受性の高い世代については「そうはいかない」。手前勝手な「被曝の押付け」は許されない。
たとえば,厚生労働省の通知を見ていて「おや?」と思ったのは,重点対象畜肉にマトン(羊肉)や鶏肉・鶏卵がないことである。農林水産省によれば,羊はその食習性から鑑みて,牛や豚以上に放射性セシウムを取り込みやすく,かつ蓄積しやすいそうである。ならば,何故,マトン肉を悉皆的な検査対象項目としないのか。また,もっぱら輸入配合飼料を与えるブロイラーはともかく,地飼する地鳥などは放射能汚染地域で飼育されている場合には汚染が懸念される。何故,検査対象として重点化しないのか。
(5)生産者段階での検査だけでなく,加工食品,外食,小売り段階にある食品群への「抜き打ち」検査が必要不可欠である。しかし,これについては,国や多くの自治体は全くやる気がない。飲食の放射能検査は,消費者・国民のためではなく,食品産業のために実施されているものだから(言い換えれば,商品を売るために実施されている),その利害に反するものは一切しない,というのが国や多くの自治体行政の基本方針のようだ。
(6)食品の汚染に伴う賠償・補償と,関係業者への経営再建支援が全く進んでいない。支援どころか,検査のための費用すら負担しようとしない加害者・東京電力や事故責任者・国である。被害者は一致団結して「1,000万人訴訟」を起こすべきである。日弁連は組織を挙げて被害者をとりまとめ,一人の泣き寝入りも許さない断固とした賠償・補償の訴訟支援体制をとるべきである。海外にも人権救済を訴えて回るべきだ。
(7)飲食品の周辺に対してあまりに無警戒である。これも大問題である(例:飼料・牧草,稲・麦わら,もみ殻・ふすま,肥料・培土・腐葉土,タバコ,キノコ原木,漬物用米ぬか,アク抜き用木灰,焼肉焼鳥用炭,燻製用薪,漢方薬・医薬品原料,花き,皮革製品,木材製品,魚醤,天然塩,食器など)。飲食に関連しての放射能汚染への無防備は非常に危険である。
(8)野生のキノコや野生生物など,明らかに放射能に汚染されていて危険であるものは既に明らかになっている。その飲食の禁止を徹底すべきである。また,放射能汚染食品に関して,出荷制限と摂取制限が別々に発動されているが,これもおかしい(消費者・国民が被曝するから出荷してはいけないが,生産者は摂取してもいい,というのは明らかに変だ)。出荷制限=摂取制限とすべきである。
以 上(2013年3月25日)
放射線管理区域指定基準を上回る
放射能汚染地域での稲作再開をやめよ
(無視される生産者・農家の放射線被曝)
「原子力資料情報室」会員
ちょぼちょぼ市民による政策提言の会(運営委員)
田中一郎(ichirouchan@withe.ne.jp)
政府・農林水産省は,2013年産米の作付制限をこのほど決定・通知いたしました。その内容は下記の通りですが,主食である米の放射能汚染に対して,いい加減な安全管理を踏襲して抜本的対策を放棄した問題の多い対応となっています。とりわけ生産者・農家の農作業に伴う深刻な放射線被曝を顧みず,猛烈な放射能汚染環境下でも,あたかも稲作農業が可能であるかのごとき「似非対策」「放射線被曝矮小化対策」となっています。他方で,政府・農林水産省・厚生労働省・消費者庁などは,「食の放射能汚染と安全の問題」をないがしろにする姿勢をとり続け,貧弱な検査体制を改めることもなく,早くも飲食品の残留放射能検査の重点対象品目の削減を始めています。(高濃度)汚染地域での農業のなりふり構わぬ作付再開とあわせ,消費者・国民の命と健康を無視・軽視する,許されない「手抜き政策」とも言えるでしょう。早期の適正化が強く求められています。(以下「である調」で書きます)
*農林水産省HP:「25年産米に関する作付制限等の指示について」
http://www.maff.go.jp/j/press/seisan/kokumotu/130319.html
<『アグリ・リサーチ』(2013.3.22)より引用>
*25年産米の作付制限等を指示=原子力災害対策本部福島の七市町村で不作付、「管理計画」で全量把握
政府の原子力災害対策本部長(内閣総理大臣)は一九日、二五年産米に関する作付制限等を福島、宮城両県知事に指示した。(中略)
福島県で二五年産米の作付け制限(不作付け)を指示されたのは、南相馬市の帰還困難区域、居住制限区域及び避難指示解除準備区域と、浪江町、双葉町、大熊町、富岡町、葛尾村の全域及び飯舘村の帰還困難区域。
福島県の二五年産米に関する「管理計画」は、作付再開準備区域(作付再開に向け実証栽培を行う)及び全量生産出荷管理区域(全量生産出荷管理を行うことを前提に作付を再開又は継続する)を対象に、ほ場ごとに台帳を整備して放射性物質の吸収抑制対策、交差汚染防止対策を徹底したうえで生産量の全量を把握して全袋検査を実施するとしている。
宮城県の「管理計画」は、平成二四年産米で一〇〇Bq/㎏を超える放射性セシウムが検出された栗原市旧沢辺村が対象で、生産管理(作付段階・収穫段階)、放射性物質検査、基準値を超過した米の処分等の管理体制を明らかにしている。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・(以上,引用終わり)
つまり,簡単に言えば,作付をしないことにした福島第1原発周辺,及び北西方向の高濃度汚染地域(南相馬市の一部,浪江町、双葉町、大熊町、富岡町、葛尾村の全域及び飯舘村の帰還困難区域)を除き,福島県全域でのコメの作付を再開するということ,そして収穫されたコメは全袋検査を行い,規制値の100ベクレル/kgを下回る汚染であれば,食品流通に乗せて出荷していくということである。
<この対応の問題点>
(1)農地の土壌汚染をきちんと調べていない(農地の汚染マップが今もって存在しない)。
土壌の放射能汚染と空間線量は違うもので,比例関係でもない。また,時間とともに変化し,汚染や高線量は「移動」する。両者は綿密に並行して,継続的に調べられなければならない。およそ環境が放射能で汚染されていることが分かっているのだから,空間線量とともに農地土壌の汚染状況も調べた上で,それがそこに住む人々,そこで生活する人々,農作業や林業労働をする人々の命と健康に影響がないことを確認しないうちは,農業や林業はしてはならないはずである。
特に土壌の汚染は,単に外部被曝だけでなく,土に含まれる様々な放射性物質が,ちりやほこりとともに風に吹かれて舞い上がり,人々の呼吸被曝をもたらしてしまう。また,この放射性物質は放射性セシウムだけとは限らず,ごく微量であっても非常に危険なプルトニウムや,骨などに蓄積しやすい放射性ストロンチウムなども含まれている可能性があるのである。
土壌の汚染を徹底して調べ,かつ,その汚染が時間とともに変化し移動することをトレースし,何よりもその汚染地に住む人や働く人の命と健康を守る仕組みがない中での農業・農作業・稲作の再開などは,断じて許されるものではない。少なくとも放射線管理区域指定基準である年間5.2mSvを超える農地での農業・林業は,絶対に再開してはならないものである。福島第1原発事故から2年も経過しているというのに,農地の土壌汚染を今もって農地1筆ごとに綿密に調査することをしない農林水産省は,いったい農業・農地の放射能汚染を何と考えているのだろうか。
(ちなみにチェルノブイリ原発事故後の旧ソ連地域=ベラルーシ,ウクライナ,ロシアなどでは,農地を含む土壌の放射能汚染状況が綿密・緻密に調査されて「マップ」(地図)化され,その後の住民対策や産業政策に活かされた)
注1:農地の土壌汚染を評価する場合は,土壌1kg当たりのベクレル数ではなく,農地1m2当たりのベクレル数で見る必要がある。農林水産省がコメの作付制限をかける「5,000ベクレル/kg」という閾値農地は,m2当たりに換算すると×50~60(倍)で「250,000~300,000ベクレル/m2」という猛烈な汚染農地であることを忘れてはならない。常識的に考えて,農地の除染や放射性セシウムなどの農作物への移行を防ぐ対策などをして作付が許される限度は,せいぜい500ベクレル/kg=25,000~30,000ベクレル/m2程度までではないだろうか(これでも十分に危ない)。
注2:更に,農林水産省による上記のコメの作付制限規制値の「5,000ベクレル/kg」は,米の(放射能)移行係数(土壌汚染のベクレルがどの程度稲=玄米コメ粒に移行するか)を最大で「0.1」と評価して,旧厚生労働省の飲食品に係る残留放射性セシウム規制値である500ベクレル/kgから逆算して算定した数値である。
つまり,放射性セシウム汚染が5,000ベクレル/kgの範囲内の農地で作付されたコメ(玄米)であれば,移行係数を最大で見て「0.1」とすれば,5,000ベクレル/kg×0.1=500ベクレル/kgで,厚生労働省の規制値(500ベクレル/kg)の範囲内におさまるはずだ,ということで設けられたものである。
しかし,その後,厚生労働省の規制値は500ベクレル/kgから100ベクレル/kgに引き下げられているにもかかわらず,米の作付制限の農地閾値は「5,000ベクレル/kg」のままにされている。本来であれば,食品の規制値の引下げと並行して,農地の作付制限値もまた1/5の「1,000ベクレル/kg」に引き下げられなければならないにもかかわらず,そのままに放置されているのである。農林水産省の「説明」のご都合主義が,生産者・農家の放射線被曝無視・軽視の上で踊っている。許し難いことである。
注3:更に更に,もう一つ申し上げておかなければならないことは,農作物で作付制限がなされているのは稲(コメ)だけで,それ以外の農作物については作付制限が一切設けられていないということである。これは実におかしなことであり,また犯罪的でもある。実は,農作物で規制値を超える汚染を示しているものはコメだけではない。
農作物で最も心配なのは,キノコ・山菜や野生生物の肉だが,それ以外でも,たとえば大豆,たとえば麦,たとえば飼料作物(牧草など),たとえば果実,たとえばタケノコやレンコンなどなど,我々の身近にあって日常的によく食べる農作物にも,規制値を超える汚染は散見されている。作付制限をコメに限定する根拠はどこにもなく,規制値を超える猛烈な汚染が発見されているにもかかわらず,コメ以外の作物では作付制限は一切行わない,などということは,一方で,生産者・農家,他方で,消費者・国民の命と健康をないがしろにする,とんでもない背信的政策であることを強調しておきたい。
(2)コメの全袋検査がかなりルーズに行われている現場があることと,検査結果のベクレル数が表示されないことは大問題である。(下記から抜粋したものを後添)
<ルーズな現場実態:下記はほんの一例>
*福島県いわき市でコメから放射性セシウム102.8ベクレル検出も、『四捨五入して100ベクレルだからセーフ!安全!出荷します』 日々雑感
http://hibi-zakkan.net/archives/19086392.html
*【福島、お米の全袋検査で110ベクレル】 福島県『一袋基準値超えたけど、同じ地域でも超えてないのは回収とかしなくてよし!』 日々雑感
http://hibi-zakkan.net/archives/19307789.html
*福島では、コメが基準値超で出荷規制かかっても、5日以内にほぼ規制解除しちゃうから!しちゃうから!! 日々雑感
http://hibi-zakkan.net/archives/20060695.html
*「今年度米で全袋検査をしたのは、8月に収穫した早場米の一部だけ。農家が業者に直接販売する米は全体の5割以上、それらは検査もされずに流通するものが多い。」吾妻博勝氏 日々雑感
http://hibi-zakkan.net/archives/18729442.html
<100ベクレル/kgの規制値を下回ったからといって「安全」なわけではない>
そもそも,毎日たくさん食べる主食のコメに対して,100ベクレル/kgの規制値が高すぎる。この規制値100ベクレル/kgをいくらか下回っていた汚染米だからと言って,何の安心にも安全にもつながらない。従って,少なくとも消費者・国民に販売されるコメをはじめとする飲食品は,消費者・国民が自分で判断して選択できるよう,すべてベクレル数表示が義務化されなければならない。そのためには,「格上げ混米」など,不正が横行する米流通の現状を鑑みた場合,小売り段階,あるいは外食店舗での検査体制の強化と,第三者による抜き打ち的な小売品・外食提供品のベクレル検査が必要不可欠である。(これが本格的に実施されない限り,流通する飲食品や外食が「安全」である保障はどこにもない)
(3)汚染米の処分,汚染農業廃棄物の処分がきちんとなされているのか
規制値を上回る汚染のコメ(玄米)が,きちんと適正に廃棄処分されているのかどうかが心配である。汚染米であっても,それを非汚染米と混ぜれば,kg当たりでのベクレル濃度は落ち,規制値をくぐりぬけることができる。こうした不正が検査現場で行われていないかどうかである。この汚染米廃棄処分については,誰が責任を持ち,誰がどのようにチェックしているのか。
更に,コメは人間が食べる玄米だけが「子実」として稲に実り,それ以外は何も発生しないのではない。玄米を収穫したあとには,もみ殻が残り,稲わらも残る。こうした農業廃棄物は,人間が食する「子実」(玄米)の何倍もの放射能汚染の状態にある場合が多く,一般的に「危険物」である。これがどのように安全に処分されているのだろうか。量も多いことから,汚染状況が確かめられもせずに,適当に一般ゴミやたい肥として処分されているとすると大変危険なことである。これについても,誰が責任を持ち,誰がどのようにチェックしているのか。
(4)無視される生産者・農家の放射線被曝
上記でも申し上げたが,このいい加減で危険で強引な汚染地域での稲の作付再開は,そもそもその農地で農作業を1年間にわたって行う生産者・農家の放射線被曝を全くと言っていいほど考慮していない,まるで犯罪的な政策対応である。また,生産者・農家の家族も,その農地の近くに移り住む場合が多いので,仮に農作業をしなくても様々な形で放射線被曝を余儀なくされてしまうだろう。要するに,この農作物作付の拙速再開政策は,生産者・農家の放射線被曝=命と健康は,どうでもいい,ということが露骨にビルトインされた犯罪的政策と考えていいのではないか。
(5)飲食品を汚染する危険な放射能は放射性セシウムだけではない
最後に,これまで何度も繰り返し申し上げてきたことであるが,放射性セシウムだけでなく,福島第1原発から放出された全ての放射性核種を明らかにした上で,当分の間,それらを徹底して調査・検査する必要がある(数十種類)。放射性セシウムだけを見ていれば安全で安心だなどとは絶対に言えない。本格的できちんとした調査も検査もしないでいて,放出量が少ない,汚染している量が少ない,心配いらない,などとは言えないのである。
(6)厚生労働省の残留放射能規制値も高すぎる
また,厚生労働省が定める飲食の残留放射性セシウム規制値は,改定後(2012/4)においてもまだまだ高すぎる。この規制値には屁理屈に基づくいろいろな細工がしてあり,毒性化学物質や重金属等の危険物質に対する食品への残留規制などと比較すると,大きく見劣りのする規制値である。特に子どもや妊婦,あるいは若者などの放射線感受性が高い世代への配慮・保護が決定的に不十分である。消費者・国民は,この残留放射能規制値を下回っているかどうかではなく,極力,汚染物を口に入れないよう,日常的に注意を払う必要がある。「彼ら」に騙されてはならない。
<最後に>
少なくとも放射線管理区域指定基準を超える地域においては,いかなる産業も停止されなくてはならない。こんなことは当たり前のことである。福島第1原発事故が起きたから,人間の体が急に放射線被曝に対して耐性度が高くなるはずもない。原子力ムラの住民や国際原子力マフィア達が,原子力推進に支障が出ないように定めた,ご都合主義的な放射線被曝の限度規制値や,「シーベルト」といった被曝評価のインチキ概念を単純に受け入れることは危険である。彼ら原子力ムラの住民達が汚染地域で農業や林業を含む産業の再開を強く望むのは,いわば放射線被曝による「緩慢な死」(Slow Death)を原子力推進のためのコストと考え,放射線被曝による被害を「大した問題ではない」という形で切り捨てていくために必要不可欠の「舞台装置」と考えているからである。また,他方では,汚染地域での農林水産業を含む産業活動は,その産出物を他地域へ出荷することで,放射能の汚染とそれに伴う放射線被曝(特に内部被曝)を拡大・拡散してしまうことにもなる。放射能汚染地域での産業再開は,同時に他地域への放射能汚染の拡大に他ならない。
放射能は徹底して閉じ込め,減衰するまで厳重に管理する他ない。決して,汚染を周辺環境や他地域に拡散・拡大したり,非汚染物と混ぜて薄めて規制値をくぐりぬけるようなことはしてはならない。従ってまた,(高濃度)汚染地域では全ての産業は停止されなくてはならず,汚染源に近いところで仕事をする農林水産業こそは,汚染が消滅するまでは再開させてはならないのである。従ってまた,生産者・農家や食品産業事業者を含む被害を受けたすべての関係者に対して,加害者・東京電力や事故責任者・国による賠償,補償,生活及び経営の再建支援が万全になされなければならないことは申し上げるまでもない。
残念なことに,現在の日本には全国各地にたくさんの耕作放棄地があり(約40万ha),農業の担い手が不足している。従ってまた,多くの自治体は農業の担い手の移住や転入を歓迎している。原発事故で被災された方々のうち,農業や畜産・酪農の継続を望む方々に,放射能に汚染されていないそうした地域への移転・移住を政策的に推進してみてはどうだろうか。政府が荒れた耕作放棄地を農地として使える状態に戻し,移転・移住は極力地域のコミュニティ丸ごとまとまって行うことを前提にし,移転後の農業経営が軌道に乗るまでは,経営安定対策その他の農業経営や生活の維持を補償措置としてしっかりやり,きめ細かな再建支援と万全の賠償・補償をセットで行えば,少なからぬ生産者・農家は新天地での農業再建を受入れるのではないだろうか。
原発事故で生産者・農家から全てのものを奪い,その後も経済的な苦境に陥れたまま救済することもなく,放射能に汚染された農地・土地に縛り付けるがごとき現在の政策は,生産者・農家に対する冒涜であり,今世紀最大の人権侵害事件であり,不道徳・反倫理の政策そのものである。政府は直ちに被害者生産者・農家を完全救済せよ。
以 上(2013年3月25日)